はじめに
突然の冷や汗、動悸、手の震え――これらは低血糖の典型的な症状です。低血糖は血糖値が正常範囲を下回った状態で、誰にでも起こりうる体調不良ですが、特定の条件や体質を持つ人は低血糖になりやすい傾向があります。
「最近、午前中に集中力が続かない」「昼食前になると強い空腹感に襲われる」「運動後に異常な疲労感を感じる」――このような経験がある方は、低血糖のリスクが高い可能性があります。
本記事では、低血糖になりやすい人の特徴を詳しく解説し、予防法や対処法についても具体的にご紹介します。アイシークリニック大宮院では、内科診療を通じて低血糖をはじめとする代謝性疾患の診察も行っておりますので、気になる症状がある方はお気軽にご相談ください。
低血糖とは?基礎知識を理解しよう
低血糖の定義
低血糖とは、血液中のブドウ糖(血糖)濃度が異常に低下した状態を指します。一般的には血糖値が70mg/dL未満になると低血糖と診断されますが、症状の出方には個人差があり、普段の血糖値が高い人では70mg/dL以上でも低血糖症状が現れることがあります。
血糖は脳を含む全身の細胞のエネルギー源として重要な役割を果たしています。特に脳は血糖をほぼ唯一のエネルギー源としているため、血糖値の低下は即座に脳機能に影響を及ぼします。
血糖値の正常範囲
健康な人の血糖値は以下の範囲に保たれています:
- 空腹時血糖値:70~110mg/dL未満
- 食後2時間血糖値:140mg/dL未満
- 随時血糖値:70~140mg/dL程度
この範囲を維持するために、私たちの体内では精巧な調節機構が働いています。食事により血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌され、血糖値が低下すると逆にグルカゴンやアドレナリンなどのホルモンが分泌されて血糖値を上げようとします。
低血糖が体に及ぼす影響
低血糖状態が続くと、以下のような影響が生じます:
初期段階(血糖値60~70mg/dL)
- エネルギー不足による軽度の症状
- 集中力の低下
- イライラ感
中等度(血糖値50~60mg/dL)
- 交感神経の活性化による警告症状
- 発汗、動悸、手の震え
- 強い空腹感
重症(血糖値50mg/dL以下)
- 脳のエネルギー不足による中枢神経症状
- 意識障害、けいれん
- 昏睡状態に至る可能性
低血糖は適切に対処しないと生命に関わる危険性もあるため、早期発見と適切な対応が重要です。
低血糖の症状を知ろう
低血糖の症状は、血糖値の低下速度や程度によって異なります。症状を大きく分類すると、自律神経症状と中枢神経症状の2つに分けられます。
自律神経症状(警告症状)
血糖値が低下し始めると、体は自律神経系を活性化させて血糖値を上げようとします。この時に現れるのが自律神経症状で、低血糖の「警告サイン」として重要です。
交感神経系の症状
- 冷や汗、発汗
- 動悸、頻脈
- 手指の震え
- 顔面蒼白
- 不安感、緊張感
副交感神経系の症状
- 強い空腹感
- 吐き気
- 腹部不快感
これらの症状は、血糖値がおよそ60~70mg/dLに低下した際に出現することが多く、「何か体調がおかしい」と気づくきっかけになります。
中枢神経症状
血糖値がさらに低下すると、脳のエネルギー不足により中枢神経症状が現れます。この段階になると、自分で対処することが難しくなる場合があります。
初期の中枢神経症状
- 集中力の低下
- 眠気、倦怠感
- めまい、ふらつき
- 頭痛
- 視覚異常(目がかすむ、二重に見える)
- 言語障害(ろれつが回らない)
進行した中枢神経症状
- 異常行動(いつもと違う言動)
- 意識レベルの低下
- けいれん発作
- 昏睡
中枢神経症状が出現している場合は、自分での対処が困難なことが多く、周囲の人による迅速な対応が必要になります。
無自覚性低血糖とは
低血糖を繰り返すと、警告となる自律神経症状が現れにくくなることがあります。これを「無自覚性低血糖」と呼びます。
無自覚性低血糖は特に以下のような方に起こりやすい傾向があります:
- 長期間糖尿病を患っている方
- 頻繁に低血糖を経験している方
- 血糖コントロールが厳格すぎる方
- 自律神経障害を合併している方
無自覚性低血糖の場合、警告症状なしに突然意識障害などの重篤な症状が現れる危険性があるため、特に注意が必要です。
低血糖になりやすい人の特徴
低血糖は様々な要因によって引き起こされますが、特定の条件や体質を持つ人は低血糖のリスクが高くなります。ここでは、低血糖になりやすい人の主な特徴を詳しく解説します。
1. 糖尿病治療中の方
低血糖の最も一般的な原因は、糖尿病治療に使用される薬剤です。
インスリン療法を受けている方
インスリン注射は血糖値を下げる強力な作用を持つため、投与量や投与タイミングが適切でないと低血糖を起こしやすくなります。特に以下のような状況では注意が必要です:
- インスリン量が多すぎる場合
- 食事量がいつもより少ない時
- 注射後に予定より運動量が増えた時
- インスリンの種類や投与部位を変更した時
- 腎機能や肝機能が低下している時
経口血糖降下薬を服用している方
糖尿病の飲み薬の中でも、特にスルホニル尿素薬(SU薬)やグリニド薬は低血糖を起こしやすい薬剤です。これらの薬は膵臓からのインスリン分泌を促進するため、食事量が少なかったり運動量が多かったりすると血糖値が下がりすぎることがあります。
一方、ビグアナイド薬やDPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬などは単独使用では低血糖のリスクが低いとされていますが、他の薬と併用する場合は注意が必要です。
血糖コントロールが不安定な方
血糖値の変動が大きい方は、低血糖のリスクも高まります。食事内容や運動量が日によって大きく異なる場合、薬の効果と血糖値の変化がうまく合わず、低血糖を起こしやすくなります。
2. 食事習慣に問題がある方
食事は血糖値を維持する上で極めて重要です。以下のような食習慣を持つ方は低血糖のリスが高まります。
朝食を抜く習慣がある方
朝食を抜くと、夕食から昼食まで12時間以上も食事間隔が空くことになります。この長時間の絶食により、午前中に低血糖症状が現れやすくなります。特に通勤や午前中の仕事で体力を使う方は、エネルギー不足から低血糖を起こしやすくなります。
食事間隔が不規則な方
仕事の都合などで食事時間が毎日バラバラな方は、体内の血糖調節機構が対応しきれず、低血糖を起こしやすくなります。特に忙しくて昼食を抜いたり、夕食が遅くなったりする日が多い方は注意が必要です。
極端な食事制限をしている方
過度なダイエットや糖質制限により、炭水化物の摂取量が極端に少ない方は低血糖のリスクが高まります。特に以下のような方は注意が必要です:
- 1日の総摂取カロリーが基礎代謝量を大きく下回っている
- 炭水化物をほとんど摂取していない
- 食事を液体やサプリメントのみで済ませている
- 断食や絶食を頻繁に行っている
栄養バランスが偏っている方
炭水化物だけでなく、たんぱく質や脂質も血糖値の維持に重要な役割を果たします。特定の栄養素が不足すると、血糖値の変動が大きくなり、低血糖を起こしやすくなります。
3. 運動習慣に関する特徴
運動は血糖値を低下させる効果があるため、運動のタイミングや強度によっては低血糖のリスクが高まります。
激しい運動を行う方
長時間の激しい運動や筋力トレーニングは、多くの血糖を消費します。特に以下のような状況では低血糖のリスクが高まります:
- 空腹時に運動する
- いつもより運動時間が長い
- 運動強度が高い
- 運動後の補食を忘れる
不規則な運動習慣の方
週末にまとめて激しい運動をする、日によって運動量が大きく異なるなど、運動習慣が不規則な方は、体が血糖値の変動に対応しきれず、低血糖を起こしやすくなります。
運動後の補給が不十分な方
運動後は筋肉が血糖を積極的に取り込むため、血糖値が低下しやすい状態が続きます。特に運動後数時間から翌朝にかけて低血糖が起こることがあるため、適切な補食が重要です。
4. アルコール摂取の習慣がある方
アルコールは低血糖を引き起こしやすい要因の一つです。
アルコールが低血糖を起こすメカニズム
肝臓はアルコールの分解を優先するため、その間は糖新生(体内で新たにブドウ糖を作り出すこと)が抑制されます。特に空腹時や食事量が少ない時に飲酒すると、肝臓からの糖の供給が減少し、低血糖を起こしやすくなります。
特に注意が必要な飲酒パターン
- 空腹時の飲酒
- 大量の飲酒
- 夕食時の飲酒後、そのまま就寝(夜間低血糖のリスク)
- おつまみを食べずに飲酒
- 糖尿病治療薬と併用している場合
アルコール性低血糖は飲酒後6~12時間後に起こることもあり、就寝中の低血糖で翌朝目覚めが悪くなることもあります。
5. 高齢者
加齢に伴い、低血糖のリスクは高まります。
高齢者が低血糖になりやすい理由
- 腎機能の低下により薬の排泄が遅れ、体内に蓄積しやすい
- 肝機能の低下により糖新生能力が低下する
- 食事量が減少しやすい
- 低血糖症状を自覚しにくい
- 複数の薬を服用していることが多く、薬の相互作用のリスクがある
- 認知機能の低下により、薬の服用や食事管理が適切にできない場合がある
高齢者の低血糖の特徴
高齢者では典型的な自律神経症状が現れにくく、いきなり意識障害や転倒などの重篤な症状として現れることがあります。また、低血糖が認知症の症状と間違われることもあるため、注意が必要です。
6. 特定の疾患を持つ方
いくつかの疾患は低血糖のリスクを高めます。
腎機能障害のある方
腎臓は血糖降下薬やインスリンの排泄に重要な役割を果たしています。腎機能が低下すると、これらの薬が体内に蓄積しやすくなり、低血糖のリスクが高まります。また、腎臓での糖新生も低下するため、低血糖からの回復が遅れることがあります。
肝疾患のある方
肝臓はグリコーゲンの貯蔵と糖新生により、血糖値を維持する中心的な役割を担っています。肝硬変などの肝疾患により肝機能が低下すると、これらの機能が障害され、低血糖を起こしやすくなります。
副腎機能不全のある方
副腎から分泌されるコルチゾールやアドレナリンは、血糖値を上げる作用を持つホルモンです。副腎機能不全によりこれらのホルモンの分泌が低下すると、低血糖に対する防御機構が働きにくくなります。
下垂体機能低下症のある方
下垂体は成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモンなど、血糖値の維持に関わる複数のホルモンの分泌をコントロールしています。下垂体機能の低下により、低血糖のリスクが高まることがあります。
胃腸手術を受けた方
胃切除術やバイパス手術を受けた方は、食後に急激な血糖値の上昇が起こり、その後反応性に低血糖(反応性低血糖)を起こすことがあります。これは「ダンピング症候群」の一症状として知られています。
インスリノーマ(インスリン産生腫瘍)のある方
インスリノーマは膵臓にできるインスリンを過剰に産生する腫瘍で、空腹時や運動時に低血糖を繰り返すのが特徴です。稀な疾患ですが、原因不明の低血糖を繰り返す場合は検査が必要です。
7. 妊娠中・授乳中の方
妊娠中や授乳中は、低血糖のリスクが変化します。
妊娠中の低血糖リスク
妊娠中は胎児へのブドウ糖供給が優先されるため、母体の血糖値が低下しやすくなります。特に妊娠糖尿病でインスリン療法を行っている場合は、インスリン感受性が変化するため、低血糖に注意が必要です。
授乳中の低血糖リスク
授乳により多くのエネルギーが消費されるため、授乳中の方は低血糖を起こしやすくなります。特に夜間の授乳時には注意が必要です。
8. 特定の薬剤を使用している方
糖尿病治療薬以外にも、低血糖を引き起こす可能性のある薬剤があります。
低血糖を起こす可能性のある主な薬剤
- キノロン系抗菌薬(一部)
- βブロッカー(交感神経遮断薬)
- サリチル酸系薬剤(高用量のアスピリンなど)
- ワルファリン(抗凝固薬)
- フィブラート系脂質異常症治療薬
- ACE阻害薬(一部の降圧薬)
これらの薬と糖尿病治療薬を併用している場合は、特に低血糖のリスクが高まります。
9. 自律神経障害がある方
糖尿病の合併症として自律神経障害が進行すると、低血糖の警告症状である自律神経症状が現れにくくなります。このため、低血糖に気づかず重症化するリスクが高まります。
10. ストレスが多い生活を送っている方
慢性的なストレスは、自律神経やホルモンバランスに影響を与え、血糖値の調節機構を乱すことがあります。また、ストレスにより食事が不規則になったり、睡眠不足になったりすることも、低血糖のリスクを高める要因となります。
低血糖の予防法
低血糖は適切な対策により予防することが可能です。ここでは、日常生活で実践できる具体的な予防法をご紹介します。
1. 規則正しい食事習慣を心がける
1日3食を規則的に摂る
朝食、昼食、夕食を毎日ほぼ同じ時間に摂ることで、体内の血糖調節機構が安定します。特に朝食は夜間の絶食から回復する重要な食事ですので、必ず摂るようにしましょう。
適切な食事量を維持する
極端な食事制限は避け、自分の活動量に見合った適切なカロリーを摂取することが大切です。管理栄養士による栄養指導を受けることも有効です。
バランスの良い食事内容を心がける
炭水化物だけでなく、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂取することで、血糖値の急激な変動を防ぐことができます。
食物繊維を積極的に摂る
野菜や海藻、きのこ類などに含まれる食物繊維は、糖の吸収を緩やかにし、血糖値の急激な上昇と下降を防ぐ効果があります。
2. 補食を上手に活用する
食事と食事の間が長時間空く場合や、運動前後には適切な補食を摂ることが低血糖予防に有効です。
補食のタイミング
- 昼食と夕食の間が6時間以上空く場合
- 夕食が遅くなる場合の夕方
- 運動前(30分~1時間前)
- 運動後
- 就寝前(夜間低血糖予防)
適切な補食の内容
- おにぎり1個(100kcal程度)
- クッキー2~3枚
- 果物(バナナ1本、りんご半分など)
- 牛乳やヨーグルト
- チーズとクラッカー
過剰なカロリー摂取にならないよう、100~200kcal程度を目安にしましょう。
3. 運動時の注意点
運動前の血糖チェック
糖尿病で血糖自己測定を行っている方は、運動前に血糖値を確認しましょう。血糖値が100mg/dL以下の場合は、補食をしてから運動を開始することが推奨されます。
運動中の補給
1時間以上の運動を行う場合は、運動中にも適宜糖分を補給することが大切です。スポーツドリンクやゼリー飲料などを利用しましょう。
運動後の注意
運動後は筋肉が血糖を取り込みやすい状態が続くため、運動後数時間から翌朝にかけても低血糖のリスクがあります。運動後の補食と、翌朝の体調確認を忘れずに行いましょう。
4. アルコール摂取時の注意
空腹時の飲酒を避ける
飲酒する際は必ず食事やおつまみを一緒に摂り、空腹時の飲酒は避けましょう。
適量を守る
厚生労働省が推奨する適度な飲酒量は、純アルコールで1日約20g程度です。これは以下の量に相当します:
- ビール:中瓶1本(500ml)
- 日本酒:1合(180ml)
- ワイン:グラス2杯(200ml)
- ウイスキー:ダブル1杯(60ml)
就寝前の飲酒後は注意
夜間低血糖を防ぐため、就寝前に軽い補食を摂ることを検討しましょう。
5. 薬の適切な管理
処方通りの服用を守る
糖尿病治療薬は、医師の指示通りの用量とタイミングで服用することが重要です。自己判断での増減は絶対に避けましょう。
食事量や運動量の変化を医師に報告
いつもより食事量が少なくなる、運動量が増えるなどの生活の変化があった場合は、医師に相談し、必要に応じて薬の調整を検討しましょう。
他の薬との相互作用に注意
新しい薬を処方される際は、必ず糖尿病の治療を受けていることを医師や薬剤師に伝え、相互作用について確認しましょう。
6. 血糖自己測定の活用
糖尿病で治療中の方は、血糖自己測定を活用して自分の血糖パターンを把握することが重要です。
測定のタイミング
- 空腹時(朝食前)
- 食後2時間
- 運動前後
- 低血糖症状を感じた時
- 就寝前
定期的な測定により、低血糖を起こしやすい時間帯や状況を把握することができます。
7. 低血糖への備え
ブドウ糖の携帯
低血糖が起こった時にすぐに対処できるよう、ブドウ糖(または砂糖、ジュースなど)を常に携帯しましょう。
周囲への情報共有
家族や職場の同僚に、自分が低血糖を起こす可能性があることを伝え、対処法を共有しておくことが大切です。
医療情報カードの携帯
糖尿病であること、使用している薬、緊急連絡先などを記載した医療情報カードを携帯しておくと、緊急時に適切な対応を受けやすくなります。
8. 生活リズムの整備
十分な睡眠を確保する
睡眠不足はホルモンバランスを乱し、血糖コントロールを悪化させます。1日7~8時間の睡眠を心がけましょう。
ストレス管理
過度なストレスは自律神経やホルモンバランスに影響を与えます。適度な休息、趣味の時間、リラックスする時間を大切にしましょう。
低血糖が起きた時の対処法
低血糖が起きた時は、迅速かつ適切な対処が重要です。ここでは具体的な対処法をご紹介します。
1. 意識がはっきりしている場合
ステップ1:すぐに糖分を摂取する
低血糖症状を感じたら、すぐに以下のいずれかを摂取します:
- ブドウ糖(10~20g)※最も効果的
- 砂糖(10~20g、スティックシュガーなら3~4本)
- 糖分を含むジュース(150~200ml)
- 清涼飲料水(150~200ml)
- 飴玉(3~4個)
注意点
- チョコレートやアイスクリームは脂肪分が多く、糖分の吸収が遅いため、低血糖時の対処には不向きです
- αグルコシダーゼ阻害薬(ベイスン、グルコバイなど)を服用している方は、必ずブドウ糖を摂取してください(砂糖やジュースでは効果が不十分です)
ステップ2:15分間様子を見る
糖分を摂取してから15分ほど安静にし、症状の改善を待ちます。
ステップ3:改善しない場合は再度摂取
15分経っても症状が改善しない場合は、再度同量の糖分を摂取します。
ステップ4:食事またはスナックを摂る
症状が改善したら、次の食事まで時間がある場合は、軽食を摂って低血糖の再発を防ぎます。
2. 意識がもうろうとしている場合
本人が自分で糖分を摂取できない状態の時は、周囲の人の助けが必要です。
周囲の人ができること
- まず安全な場所に移動させる(転倒や転落の危険がない場所)
- 意識レベルを確認する
- すぐに医療機関に連絡する(救急車を呼ぶ)
- グルカゴン注射キットがあれば使用する(家族が使用方法を習得している場合)
絶対にしてはいけないこと
- 意識がもうろうとしている人に無理やり飲食させる(誤嚥のリスク)
- 口に糖分を詰め込む
3. 低血糖を繰り返す場合
低血糖を頻繁に繰り返す場合は、治療方針の見直しが必要です。
記録を付ける
- 低血糖が起きた時間
- 食事内容と食事時間
- 運動の内容と時間
- その日の体調
- 使用した薬の種類と量
これらの記録を医師に提示することで、原因の特定と適切な対策を立てることができます。
医師への相談事項
- 薬の種類や用量の調整
- 食事内容や食事時間の見直し
- 運動時の対応方法
- 低血糖を起こしやすい時間帯の特定と対策
4. 夜間低血糖への対応
就寝中に低血糖が起こることもあります。以下のような症状があったら、夜間低血糖の可能性があります:
- 悪夢を見る
- 寝汗をかく
- 朝の頭痛
- 起床時の疲労感
- 起床時の血糖値が異常に高い(反跳性高血糖)
夜間低血糖の予防策
- 就寝前の血糖測定
- 就寝前の軽い補食(血糖値が低めの場合)
- 夕食後の飲酒を控える
- インスリン量の調整(医師と相談)
医療機関を受診すべき症状
以下のような場合は、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
緊急性が高い症状
- 意識がもうろうとしている、意識を失った
- けいれんを起こした
- 糖分を摂取しても症状が改善しない
- 繰り返し嘔吐する
- 呼吸が苦しい
これらの症状がある場合は、救急車を呼ぶことも検討してください。
早めの受診が望ましい症状
- 低血糖を週に数回以上繰り返す
- 低血糖の警告症状を感じなくなった
- 糖尿病の治療を受けていないのに低血糖症状がある
- 低血糖後の回復に時間がかかる
- 夜間低血糖を繰り返している
アイシークリニック大宮院では、内科診療として糖尿病をはじめとする代謝性疾患の診療を行っております。低血糖でお困りの方、血糖コントロールについてご相談されたい方は、お気軽にご来院ください。
低血糖と関連する疾患
低血糖は糖尿病以外にも、様々な疾患と関連があります。
反応性低血糖
食後2~5時間後に起こる低血糖で、食事による血糖値の急上昇に反応して過剰なインスリンが分泌されることが原因です。
原因となる疾患
- 胃切除後症候群
- ダンピング症候群
- 初期の糖尿病
- インスリン抵抗性
空腹時低血糖
食事から長時間経過した時や早朝に起こる低血糖です。
原因となる疾患
- インスリノーマ
- 副腎機能不全
- 下垂体機能低下症
- 肝疾患
- 腎疾患
- 悪性腫瘍(腫瘍随伴症候群)
原因不明の低血糖を繰り返す場合は、これらの疾患が隠れている可能性があるため、精密検査が必要です。

低血糖に関するよくある質問
はい、糖尿病でない方でも低血糖になることがあります。過度な食事制限、激しい運動後、長時間の絶食、アルコール摂取後などで低血糖が起こる可能性があります。また、特定の疾患(インスリノーマ、副腎機能不全など)により低血糖を起こすこともあります。
いいえ、低血糖時の運動は危険です。まず糖分を摂取して血糖値を回復させてから、症状が完全に改善したことを確認してから運動を再開してください。
Q3. 低血糖を繰り返すとどうなりますか?
低血糖を頻繁に繰り返すと、以下のような問題が生じる可能性があります:
- 無自覚性低血糖(警告症状が出にくくなる)
- 認知機能への影響
- 心血管系への負担
- 転倒や事故のリスク増加
- QOL(生活の質)の低下
頻繁に低血糖を繰り返す場合は、必ず医師に相談し、治療方針の見直しを検討しましょう。
Q4. 低血糖の時にインスリンや薬は中止すべきですか?
自己判断での中止は危険です。低血糖を起こしたからといって、次回の薬やインスリンを自己判断で中止すると、かえって高血糖を招き、血糖コントロールが乱れる原因になります。低血糖を繰り返す場合は、必ず医師に相談し、薬の調整について指示を仰いでください。
Q5. 血糖値が70mg/dL以上でも低血糖症状が出ることはありますか?
はい、あります。普段の血糖値が高い方では、血糖値が急激に下がった場合、70mg/dL以上でも低血糖症状が現れることがあります。これを「相対的低血糖」と呼びます。症状がある場合は、血糖値の数値にかかわらず適切に対処することが重要です。
まとめ
低血糖は誰にでも起こりうる体調不良ですが、特定の条件や体質を持つ方はそのリスクが高くなります。本記事でご紹介した低血糖になりやすい人の特徴を以下にまとめます。
低血糖になりやすい人の主な特徴
- 糖尿病治療中の方(特にインスリン療法やSU薬を使用)
- 食事習慣に問題がある方(朝食抜き、不規則な食事、過度な食事制限)
- 激しい運動や不規則な運動習慣がある方
- アルコール摂取の習慣がある方(特に空腹時の飲酒)
- 高齢者
- 腎機能障害、肝疾患、副腎機能不全などの疾患がある方
- 胃腸手術を受けた方
- 妊娠中・授乳中の方
- 特定の薬剤を使用している方
- 自律神経障害がある方
低血糖の予防には、規則正しい食事習慣、適切な補食、運動時の注意、薬の適切な管理が重要です。万が一低血糖が起きた時は、すぐに糖分を摂取し、15分後に症状を確認する対処法を覚えておきましょう。
低血糖を繰り返す場合や、原因不明の低血糖がある場合は、背景に何らかの疾患が隠れている可能性もあります。自己判断せず、必ず医療機関を受診して適切な診断と治療を受けることが大切です。
参考文献
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
https://www.jds.or.jp/ - 厚生労働省「e-ヘルスネット:低血糖」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/ - 日本内分泌学会「内分泌代謝科専門医研修ガイドブック」
http://www.j-endo.jp/ - 国立国際医療研究センター糖尿病情報センター
http://dmic.ncgm.go.jp/ - 日本老年医学会「高齢者糖尿病診療ガイドライン2023」
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/ - 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
https://www.mhlw.go.jp/
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務