「暑くもないのに頭から汗が滴り落ちる」「人前で顔の汗が止まらなくなる」「髪がすぐにびっしょりになってしまう」——こうした症状にお悩みの方は少なくありません。頭部や顔面からの過剰な発汗は、見た目の問題だけでなく、仕事や対人関係にも大きな影響を及ぼし、精神的なストレスの原因にもなり得ます。
頭や顔の汗がひどい場合、単なる「汗っかき」体質ではなく、「頭部多汗症」や「顔面多汗症」という医学的な疾患である可能性があります。多汗症は適切な治療によって症状の改善が期待できる疾患であり、一人で悩まずに医療機関へ相談することが大切です。
本記事では、頭と顔の汗がすごい方に向けて、頭部・顔面多汗症の原因やメカニズム、セルフチェック方法、具体的な治療法、日常生活での対策まで、詳しく解説いたします。
目次
- 頭部・顔面多汗症とは
- 汗が出るメカニズム
- 頭部・顔面多汗症の原因
- 多汗症のセルフチェック
- 多汗症の重症度分類
- 頭部・顔面多汗症の治療法
- 日常生活でのケア・対策
- 病院は何科を受診すべきか
- 更年期との関係について
- まとめ
1. 頭部・顔面多汗症とは
多汗症とは、体温調節に必要な範囲を超えて異常に多くの汗をかく疾患です。単なる「汗っかき」との違いは、日常生活に支障をきたすほどの発汗があるかどうかという点にあります。
多汗症は発汗する部位によって分類され、主に以下のような種類があります。
- 手掌多汗症(手のひらの多汗症)
- 腋窩多汗症(わきの下の多汗症)
- 足蹠多汗症(足の裏の多汗症)
- 頭部多汗症(頭皮の多汗症)
- 顔面多汗症(顔の多汗症)
頭部多汗症は頭皮から異常に汗が出る状態を指し、顔面多汗症は特に額や鼻の周辺から大量の汗が出る状態を指します。この2つは同時に発症することが多く、これを「頭部顔面多汗症」と呼びます。
頭部・顔面多汗症の特徴
頭部顔面多汗症は、他の部位の多汗症と比較していくつかの特徴があります。
まず、男性に多く見られる傾向があり、症状は2年から10年以上の長期間にわたって持続することがあります。また、ストレスや緊張だけでなく、熱い食べものや飲みものを摂取した際にも症状が悪化することがあります。一度汗が出始めると止まりにくい傾向があり、数分間でおさまる場合もあれば、数時間から一日中続く場合もあります。
さらに、頭部・顔面多汗症の方の中には、「赤面症」を合併する方も少なくありません。赤面症とは、温度差や緊張によって顔が赤くなる症状であり、多汗症と同様の神経反応によるものと考えられています。
多汗症の有病率
厚生労働省の研究班による疫学調査によると、日本人における原発性局所多汗症の有病率は約10%と報告されています。つまり、日本人の10人に1人程度が多汗症の症状を持っていることになります。
より具体的には、2020年の調査(対象者60,969人)では原発性局所多汗症の有病率は10%であり、そのうち頭部の多汗症は4.7%、顔面の多汗症は3.6%という結果が出ています。
注目すべきは、これだけ多くの方が多汗症の症状を抱えているにもかかわらず、医療機関を受診する割合は非常に低いということです。原発性腋窩多汗症患者の受診経験率はわずか4.4%にとどまっており、多くの方が「体質だから仕方がない」と諦めて、適切な治療を受けていない現状があります。
2. 汗が出るメカニズム
頭部・顔面多汗症を理解するためには、まず汗が出る仕組みについて知っておくことが重要です。
汗腺の種類
私たちの体には、汗を分泌する「汗腺」という器官が存在します。汗腺には主に以下の2種類があります。
第一に、エクリン汗腺があります。エクリン汗腺は全身に広く分布しており、口唇や亀頭など一部を除くほぼ全身の皮膚に存在します。分布密度は1平方センチメートルあたり130〜600個程度で、総数は約300万個と考えられています。特に手のひら、足の裏、わきの下に多く存在します。エクリン汗腺からの汗は主に水と塩分からなり、体温調節のための汗を分泌します。多汗症に関わるのは主にこのエクリン汗腺です。
第二に、アポクリン汗腺があります。アポクリン汗腺はわきの下、乳輪、外陰部など体の限られた部位にのみ存在します。アポクリン汗腺からの汗は脂肪やタンパク質を含み、皮膚の常在菌によって分解されることで体臭の原因となります。いわゆる「わきが」はこのアポクリン汗腺からの分泌物が関係しています。
発汗の種類
私たちが汗をかく原因には、大きく分けて3つの種類があります。
最初に、温熱性発汗があります。これは暑い環境や運動時に体温が上昇した際に、体温を下げるためにかく汗です。この汗が蒸発する際に皮膚表面から気化熱を奪い、体温が下がる仕組みになっています。温熱性発汗は主に手のひらや足の裏を除く全身から発汗し、まず額と頭皮から始まり、次いで体の他の部分、最後に手のひらや足の裏へと広がります。
次に、精神性発汗があります。これは緊張、不安、恐怖などの精神的ストレスによってかく汗です。温熱性発汗とは対照的に、主に手のひら、足の裏、わきの下から発汗し、次いで体の他の部分へと広がります。人前に出て緊張したとき、失敗してはいけないというプレッシャーを感じたときなどに交感神経が優位になって発汗を促します。
最後に、味覚性発汗があります。これは辛いものや熱いものを食べた際にかく汗です。主に顔面、特に額や鼻の周りに発汗が見られます。
多汗症における発汗メカニズム
多汗症では、エクリン汗腺からの発汗が過剰に亢進した状態になっています。エクリン汗腺からの発汗は、交感神経系によって制御されています。
通常、交感神経から「アセチルコリン」という神経伝達物質が分泌されると、汗腺の細胞にあるムスカリン受容体に結合し、発汗が促されます。多汗症の方では、この交感神経の活動が過剰に亢進していると考えられています。
頭部顔面多汗症の場合、通常の温熱性発汗と精神性発汗の両方が過度に亢進した状態と考えられています。つまり、緊張を自覚していなくても顔面や頭部から大量に発汗し、また温度差が大きい場合でも汗が出やすくなっているのです。
3. 頭部・顔面多汗症の原因
頭部・顔面多汗症の原因は、大きく「原発性」と「続発性」の2つに分類されます。
原発性頭部顔面多汗症
原発性とは、明らかな原因となる疾患がなく発症する多汗症を指します。原発性局所多汗症の原因は完全には解明されていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。
遺伝的要因としては、局所多汗症の患者さんの一部に家族内発症が見られることから、遺伝的な背景があると推測されています。研究では、多汗症に関連する遺伝子座が染色体上の2q31.1や14q11/2-q13に存在する可能性が示唆されています。
交感神経系の異常については、多汗症患者では交感神経節が大きく、神経節細胞が多いことが報告されています。また、交感神経節においてアセチルコリンやニコチン性アセチルコリン受容体サブユニットが高発現しているという報告もあります。
精神的要因も重要です。緊張やストレス、不安などの精神的要因によって交感神経が刺激され、発汗が促進されます。精神性発汗が過度に亢進することで、頭部・顔面多汗症が発症・悪化することがあります。
生活習慣の乱れも関係しています。不規則な生活による自律神経の乱れ、睡眠不足、ホルモンバランスの乱れなども、通常とは異なる発汗を誘発する可能性があります。
続発性頭部顔面多汗症
続発性とは、何らかの基礎疾患や原因があって発症する多汗症を指します。頭部・顔面に発汗が見られる場合、以下のような疾患が隠れている可能性があります。
内分泌・代謝疾患としては、甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)、糖尿病、低血糖、褐色細胞腫、更年期障害などが挙げられます。
神経学的疾患としては、パーキンソン病、脳梗塞、末梢神経障害などがあります。
感染症では、結核などの慢性感染症でも発汗が増加することがあります。
悪性腫瘍も発汗増加の原因となることがあります。
薬剤の副作用として、向精神薬、睡眠導入薬、非ステロイド抗炎症薬、長期ステロイド薬などの服用が原因となる場合があります。
その他として、肥満や循環器疾患、呼吸不全なども関係することがあります。
このように、頭部・顔面の多汗が重大な疾患の徴候である可能性も否定できません。特に急に発汗量が増えた場合や、発熱、動悸、体重減少などの他の症状を伴う場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
4. 多汗症のセルフチェック
「自分は多汗症なのだろうか」と気になる方のために、セルフチェックの方法をご紹介します。
原発性局所多汗症の診断基準
日本皮膚科学会の「原発性局所多汗症診療ガイドライン」では、以下の診断基準が示されています。
まず、局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6ヶ月以上認められることが前提条件となります。
そのうえで、以下の6つの症状のうち2項目以上があてはまる場合に、多汗症と診断されます。
- 最初に症状が出るのが25歳以下である
- 左右対称性に発汗がみられる
- 睡眠中は発汗が止まっている
- 1週間に1回以上多汗のエピソードがある
- 家族歴がある(家族に多汗症の方がいる)
- それらによって日常生活に支障をきたしている
頭部多汗症のチェック項目
頭部多汗症が疑われる場合、以下の項目に該当するかどうかを確認してみてください。
- 暑くないのに頭皮から汗が出る
- 緊張すると頭から汗がしたたり落ちる
- 髪がすぐに濡れてしまう
- 頭の汗が原因で頭皮のニオイが気になる
- 帽子やヘルメットをかぶると大量に汗をかく
- 頭の汗が気になって人前に出るのが億劫になる
顔面多汗症のチェック項目
顔面多汗症が疑われる場合は、以下の項目を確認してみてください。
- 暑くないのに顔から汗が出る
- 額や鼻の周りから汗がしたたり落ちる
- 人前に出ると顔から汗が止まらなくなる
- 化粧が汗で崩れやすい
- 顔の汗が気になって外出を控えるようになった
- 一度汗が出始めるとなかなか止まらない
これらの項目に複数該当する場合は、多汗症の可能性があります。症状が気になる方は、一度医療機関で相談されることをお勧めします。
5. 多汗症の重症度分類
多汗症の重症度は、自覚症状によって以下の4段階に分類されます。この分類は「HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)」と呼ばれ、治療方針を決定する際の参考になります。
レベル1は、発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない状態です。
レベル2は、発汗は我慢できるが、時々日常生活に支障がある状態です。
レベル3は、発汗はほとんど我慢できず、頻繁に日常生活に支障がある状態です。
レベル4は、発汗は我慢できず、常に日常生活に支障がある状態です。
一般的に、レベル3〜4に該当する場合は「重度」の多汗症と判断され、より積極的な治療が検討されます。特に、保険適用のボツリヌス注射などは重度の多汗症が適応となります。
6. 頭部・顔面多汗症の治療法
頭部・顔面多汗症には様々な治療法があります。症状の程度や患者さんのご希望に応じて、適切な治療法を選択します。
外用薬(塗り薬)による治療
塩化アルミニウム製剤は、多汗症治療において最も基本的な外用薬です。日本皮膚科学会の診療ガイドラインでも、頭部・顔面多汗症に対して第一選択の治療法として推奨されています。
塩化アルミニウムの作用メカニズムは、汗腺の出口(汗管)を塞ぐことで汗の分泌を抑制するというものです。以前は「アルミニウム粒子が汗腺にふたをする」と考えられていましたが、現在ではアルミニウムイオンが汗腺の細胞膜レベルで作用するという考えが一般的です。
使用方法としては、一般的に就寝前に患部に塗布し、翌朝洗い流します。効果を実感するまでに数日から数週間かかることがありますが、継続することで制汗効果が期待できます。
注意点として、塩化アルミニウムは保険適用外のため自費診療となります。また、副作用としてかぶれ(刺激性皮膚炎)が生じることがあります。特に顔面は皮膚が敏感なため、刺激を感じた場合は使用を中止し、医師に相談してください。
内服薬による治療
内服薬は、頭部・顔面多汗症のように外用薬の適用が難しい部位に対して有効な選択肢です。
プロバンサイン(プロパンテリン臭化物)は、多汗症治療に保険適用のある唯一の内服薬です。抗コリン薬の一種であり、アセチルコリンの働きを抑制することで発汗を抑えます。
プロバンサインの特徴として、服用後約1時間で効果が現れ、約5時間持続します。全身のどの部位の多汗症にも効果が期待でき、内服薬であるため頭部・顔面多汗症にも使用しやすいというメリットがあります。
一方で、副作用として口渇(口が乾く)、便秘、尿閉、目のかすみ、動悸などが生じることがあります。また、緑内障や前立腺肥大のある方は使用に注意が必要です。
グランダキシン(自律神経調整薬)も、多汗症の治療に用いられることがあります。自律神経のバランスを整えることで、発汗の抑制が期待できます。
漢方薬としては、患者さんの「証」(体質や症状の状態)に合わせて、以下のような漢方薬が処方されることがあります。防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)は、色白で筋肉が柔らかく、肥満気味で疲れやすい方に適しています。桂枝湯(けいしとう)は、体力が低下している方の自然発汗に用います。白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)は、体に熱がこもりやすい方に適しています。
ボツリヌス注射による治療
ボツリヌス注射は、ボツリヌス菌が産生する毒素(A型ボツリヌス毒素)を患部に注射する治療法です。交感神経から発汗の指令を出すアセチルコリンの放出を抑制することで、発汗を抑えます。
ボツリヌス注射の効果として、治療後2〜3日で効果が現れ始め、約1週間で発汗量が明らかに減少します。効果の持続期間は4〜9ヶ月程度で、効果が薄れてきたら再度治療を行います。
注意点として、重度の原発性腋窩多汗症に対しては保険適用となっていますが、頭部・顔面多汗症に対しては現時点では保険適用外です。また、効果の持続期間には個人差があり、完治を目指す治療法ではないため、症状が再び現れたときには改めて治療が必要になります。
イオントフォレーシス
イオントフォレーシスは、水を入れた容器に手や足を浸し、微弱な電流を流す治療法です。電気分解によって生じたイオンが汗腺を閉塞させ、発汗を抑制します。
手掌・足蹠多汗症には第一選択の治療法として推奨されていますが、頭部・顔面には適用が難しいという制限があります。
手術療法
重症の多汗症で、他の治療法では十分な効果が得られない場合に検討されることがあります。
交感神経遮断術(ETS)は、発汗をコントロールしている交感神経を手術で遮断する方法です。効果は非常に高いものの、代償性発汗(他の部位の発汗が増加する現象)が高い確率で生じることが知られています。例えば、顔や手の汗が減っても、背中やお腹、下半身の汗が増えることがあります。そのため、手術を受けるかどうかは慎重に検討する必要があります。
7. 日常生活でのケア・対策
医療機関での治療に加えて、日常生活での工夫も症状の軽減に役立ちます。
生活習慣の改善
自律神経のバランスを整えることが重要です。規則正しい睡眠を心がけ、十分な休息を取りましょう。適度な運動も自律神経のバランスを整える効果があります。過度なカフェインやアルコール、辛い食べ物は発汗を促進することがあるため、控えめにすることをお勧めします。
ストレス管理
精神的なストレスは多汗症の症状を悪化させる要因となります。ストレスを感じたときは、深呼吸やリラクゼーション法を試してみてください。特に腹式呼吸は自律神経のバランスを整える効果があり、汗が出始めたときに実践すると症状の軽減に役立つことがあります。
頭皮・顔面のケア
頭部多汗症の方は、汗をかいたらこまめに髪を洗うことを心がけましょう。洗髪が不十分だと頭皮の雑菌が増え、ニオイの原因になることもあります。シャンプーは頭皮に優しいものを選び、すすぎ残しがないようにしっかり洗い流してください。
顔面多汗症の方は、吸水性の良いタオルやハンカチを携帯し、汗をこまめに拭き取るようにしましょう。化粧崩れが気になる方は、ウォータープルーフタイプの化粧品を使用したり、化粧直しの時間を確保したりするなどの工夫が役立ちます。
服装の工夫
通気性の良い素材の衣類を選ぶことで、体温の上昇を抑え、発汗を軽減できることがあります。また、重ね着をして温度調節しやすい服装を心がけると、急な体温変化による発汗を防ぎやすくなります。
8. 病院は何科を受診すべきか
頭と顔の汗がひどい場合、主に以下の診療科で相談することができます。
皮膚科は多汗症の治療において最も一般的な受診先です。塩化アルミニウム外用薬の処方、内服薬の処方、ボツリヌス注射などの治療を受けることができます。日本皮膚科学会が多汗症の診療ガイドラインを策定しており、エビデンスに基づいた治療を受けることが期待できます。
美容皮膚科や美容外科でも多汗症の治療を行っているところがあります。特にボツリヌス注射など自費診療のメニューを充実させていることが多く、美容的な観点からのアドバイスも受けられます。
多汗症専門外来を設けている医療機関もあります。より専門的な検査や治療を受けたい方、他院での治療で効果が不十分だった方などは、専門外来の受診を検討してもよいでしょう。
また、続発性多汗症が疑われる場合(急に発汗量が増えた、他の症状を伴うなど)は、内科や内分泌科での精密検査が必要になることがあります。
9. 更年期との関係について
40代後半から50代の女性で頭や顔の汗がひどくなった場合、更年期障害による「ホットフラッシュ」の可能性も考慮する必要があります。
ホットフラッシュとは
ホットフラッシュは、更年期障害の代表的な症状の一つで、突然のほてり、のぼせ、発汗などが起こる状態を指します。女性の約6割が経験するといわれ、そのうち日常生活に支障をきたすほど重症になるのは1割程度と考えられています。
ホットフラッシュの症状は、2〜4分間持続する熱感と発汗を伴い、ほてりや発汗は顔面から始まり頭部、胸部へと広がります。顔面のほてりや発汗のみの場合もあります。
ホットフラッシュと多汗症の違い
ホットフラッシュと原発性頭部顔面多汗症は、どちらも頭や顔の発汗という症状を呈しますが、いくつかの違いがあります。
ホットフラッシュは閉経前後の女性に多く見られ、女性ホルモン(エストロゲン)の減少が主な原因です。突然の発作的な症状が特徴で、ほてりや動悸を伴うことが多いです。症状は更年期を過ぎると軽減していくことが多いです。
一方、原発性頭部顔面多汗症は性別や年齢を問わず発症し、特に若年層から発症することが多いです。ほてりや動悸を伴わず、発汗のみの症状であることが多いです。
ホットフラッシュの対処法
ホットフラッシュの症状がある場合は、婦人科または更年期外来を受診されることをお勧めします。治療法としては、ホルモン補充療法(HRT)が効果的です。減少した女性ホルモンを飲み薬や貼り薬、ジェル剤などで補うことで、症状の軽減が期待できます。
また、漢方薬(桂枝茯苓丸、加味逍遙散など)も更年期症状の改善に用いられることがあります。
なお、ホットフラッシュと似た症状を呈する疾患として、甲状腺機能亢進症や高血圧などがあります。40代以降で突然発汗が増えた場合は、これらの疾患の可能性も考慮し、医療機関で検査を受けることが大切です。

10. まとめ
頭と顔の汗がすごい場合、「頭部多汗症」や「顔面多汗症」という医学的な疾患である可能性があります。多汗症は決して珍しい疾患ではなく、日本人の約10人に1人が何らかの多汗症の症状を持っているとされています。
頭部・顔面多汗症は、精神的なストレスや見た目の問題から、患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を与える疾患です。「体質だから仕方がない」と諦めている方も多いかもしれませんが、適切な治療によって症状の改善が期待できます。
治療法としては、塩化アルミニウム外用薬、プロバンサインなどの内服薬、漢方薬、ボツリヌス注射など、様々な選択肢があります。症状の程度やライフスタイルに合わせて、医師と相談しながら最適な治療法を選択することが重要です。
頭と顔の汗でお悩みの方は、一人で悩まず、まずは医療機関にご相談ください。当院では、患者様一人ひとりの症状やお悩みに寄り添いながら、最適な治療をご提案いたします。
参考文献
- 日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」日本皮膚科学会雑誌, 133(2): 157-188, 2023 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/133/2/133_157/_article/-char/ja/
- 日本皮膚科学会「汗の病気―多汗症と無汗症―」皮膚科Q&A https://www.dermatol.or.jp/qa/qa32/q02.html
- 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「特発性局所多汗症の疫学調査、脳血流シンチの解析による病態解析及び治療指針の確立」平成21年度 総括・分担研究報告書 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/17112
- 天野達郎「ヒトにおける発汗調節の末梢メカニズム」日本生気象学会雑誌, 59(1): 3-13, 2022 https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikisho/59/1/59_3/_pdf
- 厚生労働省研究班監修「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ ホットフラッシュ」 https://w-health.jp/climacterium_trouble/hot_flash/
- マンダム株式会社・大阪大学「汗とにおい総研 汗の基礎知識」 https://www.mandom.co.jp/sweat-smell/knowledge/knowledge-sweat-basics.html
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務