はじめに
耳の周りに小さな穴があり、そこから膿が出てきて困っている——。このような症状でお悩みの方は、「耳瘻孔(じろうこう)」という先天性の疾患かもしれません。特に「膿が溜まっているけれど、自分で出したほうがいいのか」「病院に行くべきなのか」と迷われている方も多いのではないでしょうか。
耳瘻孔は一見すると小さな穴に過ぎませんが、適切な対処を怠ると重症化したり、繰り返し炎症を起こしたりする可能性があります。本記事では、アイシークリニック大宮院の医師が、耳瘻孔の膿への正しい対処法、自己処置のリスク、そして根本的な治療方法について詳しく解説いたします。
耳瘻孔とは?基礎知識を理解する
耳瘻孔の定義と発生メカニズム
耳瘻孔(じろうこう)は、正式には「先天性耳瘻孔(せんてんせいじろうこう)」と呼ばれる、生まれつきの小さな穴です。医学的には「先天性耳前瘻孔」「耳前瘻孔」などとも表現されます。
この穴は、胎児期に耳が形成される過程で、皮膚の一部が完全に癒合しなかったことによって生じます。具体的には、妊娠初期(胎生6週頃)に耳介を形成する6つの隆起(耳介丘)が融合する際、その境界部分が完全に閉じないことで瘻孔が残ります。
耳瘻孔の特徴:
- 耳の前方(耳珠の前や耳輪脚の周辺)に多く見られる
- 片側だけのこともあれば、両側にできることもある
- 表面的な小さな穴に見えるが、実際には内部で複雑に枝分かれした管(瘻管)がある
- 瘻管の長さや走行は個人差が大きい
耳瘻孔の発生頻度と遺伝性
耳瘻孔は比較的よく見られる先天性の異常で、人口の約1~10%に認められるとされています。ただし、発生頻度には人種差があり、アジア系の人々でやや高い傾向があります。
遺伝的要因も関与しており、常染色体優性遺伝のパターンを示すことが知られています。つまり、親に耳瘻孔がある場合、子供にも発生する可能性が高くなります。家族内で複数人に見られることも珍しくありません。
耳瘻孔と他の耳の異常との違い
耳瘻孔と混同されやすい症状として、以下のようなものがあります:
耳瘻孔と異なる疾患
- 副耳(ふくじ):耳の前方にできる小さな突起物。穴ではなく突出している
- 耳介奇形:耳の形状そのものの異常
- 耳垢栓塞(じこうせんそく):外耳道に耳垢が詰まった状態
- 外耳道炎:外耳道の感染症
これらは耳瘻孔とは原因も治療法も異なりますので、正確な診断が重要です。
耳瘻孔から膿が出る理由と症状
なぜ耳瘻孔から膿が出るのか
多くの耳瘻孔は無症状で一生を過ごすことができます。しかし、以下のような理由で炎症を起こし、膿が出るようになることがあります。
感染・炎症の主な原因
- 細菌感染
- 瘻孔の開口部から細菌が侵入する
- 黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などの皮膚常在菌が原因となることが多い
- 瘻管内に分泌物が蓄積し、細菌の温床になる
- 分泌物の蓄積
- 瘻管内部の上皮細胞から分泌物(皮脂や角質など)が産生される
- 開口部が狭いため、分泌物が外に排出されにくい
- 蓄積した分泌物が感染源となる
- 物理的刺激
- 耳瘻孔を触る、押す、潰すなどの行為
- ピアスの装着による刺激
- 整髪料やシャンプーの刺激
- 体調不良や免疫力の低下
- 風邪や疲労、ストレスなどで免疫力が下がる
- もともと無症状だった耳瘻孔が突然感染を起こすことがある
感染時の症状
耳瘻孔が感染すると、以下のような症状が現れます:
初期症状
- 耳瘻孔周辺の軽い違和感や痒み
- 開口部からの透明または白っぽい分泌物
- 軽度の発赤
進行した症状
- 痛み:耳瘻孔周辺から耳全体に広がる痛み
- 腫れ:耳介前部から頬にかけての腫脹
- 発赤:感染部位の明らかな赤み
- 膿の排出:黄色や緑色の膿が出る
- 悪臭:特徴的な臭いを伴うことが多い
- 発熱:重症化すると全身症状として発熱することも
慢性化した場合
- 繰り返す腫れと膿の排出
- 瘻孔周辺の皮膚の硬化
- 瘢痕組織の形成
- 瘻管の複雑化
症状の重症度分類
耳瘻孔感染症の重症度は、以下のように分類できます:
軽度
- 軽い違和感程度
- 少量の分泌物
- 日常生活への影響は少ない
中等度
- 明らかな痛みと腫れ
- 膿の排出
- 日常生活に支障がある
重度
- 強い痛みと広範囲の腫脹
- 大量の膿
- 発熱などの全身症状
- 膿瘍(のうよう)形成
【重要】耳瘻孔の膿は自分で出したほうがいい?
自己処置の危険性
「耳瘻孔の膿は出したほうがいいのか」という質問に対する医学的な答えは、**「自己判断で膿を出そうとするのは危険です。必ず医療機関を受診してください」**というものです。
多くの方が、ニキビを潰すような感覚で耳瘻孔を圧迫して膿を出そうとしますが、これは非常に危険な行為です。以下に、自己処置がなぜ危険なのか、その理由を詳しく説明します。
自己処置が危険な理由
- 感染の悪化・拡大
- 不潔な手や器具で触ることで、新たな細菌を侵入させる
- 表面的な膿を出しても、深部の感染は残る
- 無理に圧迫することで、細菌を深部組織に押し込んでしまう
- 周囲組織への感染拡大のリスク
- 瘻管の損傷
- 強く圧迫することで瘻管が破れる可能性
- 瘻管が破れると、感染が周囲組織に広がる
- 瘢痕組織が形成され、瘻管がより複雑化する
- 将来的な手術を困難にする
- 膿瘍形成のリスク
- 不適切な処置により、膿が袋状に溜まる膿瘍を形成
- 膿瘍は自然には治りにくく、切開排膿が必要になる
- より広範囲の組織損傷を引き起こす
- 痛みの増強
- 炎症組織を刺激することで、痛みがさらに強くなる
- 神経を刺激し、長期的な痛みにつながることも
- 瘢痕や色素沈着
- 不適切な処置により、目立つ瘢痕が残る可能性
- 炎症後色素沈着が生じることも
- 美容的な問題が生じる
- 根本的解決にならない
- 表面的に膿を出しても、瘻管そのものは残る
- すぐに再度感染を繰り返す
- 問題の先送りにしかならない
やってはいけない自己処置
以下のような行為は絶対に避けてください:
× 指で押し潰す 最も多い誤った処置です。細菌感染を悪化させ、瘻管を損傷する可能性が高い行為です。
× 針やピンセットで穴を広げる 感染リスクが極めて高く、重大な合併症を引き起こす可能性があります。
× 市販の薬を自己判断で使用 抗菌薬の軟膏などを使用しても、瘻管内部の感染には届きません。適切な経口抗菌薬が必要な場合もあります。
× 熱いタオルで温める 炎症を悪化させる可能性があります。冷やすのが基本です。
× 消毒液を直接注入する 瘻管内に消毒液を注入しようとする方もいますが、組織を損傷し、かえって炎症を悪化させます。
医療機関で行う適切な処置
医療機関では、以下のような適切な処置が行われます:
急性期の処置
- 専門的な診察と評価
- 感染の程度を正確に評価
- 膿瘍形成の有無を確認
- 全身状態のチェック
- 適切な排膿処置
- 必要に応じて、清潔な環境下で排膿
- 適切な器具と技術による安全な処置
- 痛みに配慮した処置
- 抗菌薬の処方
- 感染の程度に応じた適切な抗菌薬
- 経口薬または注射薬
- 適切な期間の投薬
- 消炎鎮痛薬の処方
- 痛みや炎症を抑える薬剤
- 解熱作用も
- 局所の処置
- 適切な外用薬の使用
- ガーゼなどによる保護
耳瘻孔感染の応急処置と受診のタイミング
自宅でできる対症療法
医療機関を受診するまでの間、以下のような対症療法は可能です:
推奨される応急処置
- 患部を清潔に保つ
- 優しく洗浄する(こすらない)
- 清潔なタオルで軽く押さえて水分を取る
- 触る前には必ず手を洗う
- 冷やす
- 清潔な濡れタオルや保冷剤(タオルで包んで)で冷やす
- 痛みと腫れを軽減できる
- 15~20分程度、数回繰り返す
- 刺激を避ける
- 髪の毛が触れないようにする
- ピアスは外す
- 整髪料やヘアスプレーの使用を控える
- 触らない・圧迫しない
- 気になっても触らない
- 無意識に触ってしまうことがあるので注意
- 十分な休息
- 免疫力を高めるために十分な睡眠をとる
- ストレスを避ける
避けるべきこと
- 自己判断での排膿
- 強い消毒液の使用
- 熱い湯船に長時間浸かる
- アルコールの過剰摂取
緊急受診が必要なケース
以下のような症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください:
すぐに受診すべき症状
- 強い痛み
- 鎮痛薬を飲んでも改善しない痛み
- 夜も眠れないほどの痛み
- 急速な腫れの拡大
- 数時間で目に見えて腫れが大きくなる
- 耳から頬、首にかけて腫れが広がる
- 発熱
- 38度以上の発熱
- 悪寒を伴う発熱
- 大量の膿
- 自然に大量の膿が流れ出る
- 膿に血が混じる
- 全身症状
- 強い倦怠感
- 食欲不振
- 頭痛やめまい
- リンパ節の腫れ
- 首のリンパ節が腫れて痛む
- 顎の下が腫れる
休日・夜間でも受診を検討すべきケース 上記のような症状が急速に進行している場合は、休日夜間診療や救急外来の受診も検討してください。
受診時に医師に伝えるべき情報
医療機関を受診する際は、以下の情報を整理して伝えると、より適切な診断と治療につながります:
伝えるべき情報
- いつから症状があるか
- 過去に同様の症状があったか(再発の有無)
- 以前に治療を受けたことがあるか
- アレルギーの有無
- 現在服用している薬
- 自己処置をしたか(正直に伝えることが重要)
- 痛みの程度(10段階評価など)
- 日常生活への影響
医療機関での治療方法
保存的治療(手術以外の治療)
耳瘻孔感染症の初期治療は、手術を行わない保存的治療から始まります。
1. 抗菌薬治療
感染症の主な治療は抗菌薬の投与です。
- 経口抗菌薬:軽度から中等度の感染に使用
- セフェム系抗菌薬
- ペニシリン系抗菌薬
- マクロライド系抗菌薬など
- 通常7~14日間の服用
- 注射薬(点滴):重度の感染や経口摂取が困難な場合
- より強力な抗菌作用
- 入院治療が必要な場合も
2. 消炎鎮痛薬
痛みと炎症を抑えるために使用されます。
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
- アセトアミノフェン
- 必要に応じて鎮痛補助薬
3. 切開排膿
膿瘍が形成されている場合、切開して膿を排出する処置が必要です。
- 局所麻酔下で行う小手術
- 膿を完全に排出することで症状が劇的に改善
- ドレーン(排液管)を留置することも
- 抗菌薬治療と併用
4. 局所処置
- 抗菌薬含有軟膏の塗布
- 創部の洗浄とガーゼ交換
- 定期的な経過観察
保存的治療の限界
保存的治療で炎症は一時的に改善しますが、瘻管そのものは残ったままです。そのため、以下のような問題があります:
- 50~70%の確率で再発する
- 繰り返す感染により瘻管が複雑化する
- 周囲組織の瘢痕化が進む
- 将来的に手術が必要になった際、より困難になる
根治的治療(手術)
耳瘻孔を完全に治すためには、瘻管を完全に摘出する手術が必要です。
手術適応(手術が推奨されるケース)
- 繰り返す感染
- 年に2回以上感染を繰り返す
- 保存的治療だけでは再発を防げない
- 慢性炎症
- 炎症が完全に治まらない
- 常に分泌物がある
- 膿瘍を繰り返す
- 膿瘍形成を繰り返す場合
- 美容的な問題
- 瘻孔の存在自体が気になる
- 分泌物による不快感
- 患者の希望
- 将来的な再発リスクを避けたい
- 根本的な治療を希望
手術の実際
瘻管摘出術の概要
- 術前準備
- 炎症が完全に治まってから手術を行う(重要)
- 感染が活動期の場合、まず保存的治療で炎症を抑える
- 手術は炎症消退後、通常2~3ヶ月以上空けて実施
- 麻酔方法
- 局所麻酔:多くの場合、局所麻酔で可能
- 全身麻酔:瘻管が複雑な場合や患者の希望による
- 手術手技
- 瘻孔開口部周囲を切開
- 色素(メチレンブルーなど)を注入して瘻管を可視化
- 瘻管を周囲組織から丁寧に剥離
- 瘻管を途中で切らないよう、盲端まで完全に摘出
- 止血を確認
- 創部を縫合
- 手術時間
- 通常30分~1時間程度
- 瘻管が複雑な場合はより長時間
- 入院の必要性
- 日帰り手術が可能な場合が多い
- 全身麻酔の場合や瘻管が複雑な場合は1~2日の入院
術後の経過
- 直後(当日~数日)
- 軽度の痛み(鎮痛薬で対応可能)
- 軽度の腫れ
- 創部の保護が必要
- 1週間後
- 抜糸(縫合方法による)
- 日常生活にほぼ支障なし
- 2~4週間後
- 創部がほぼ治癒
- 軽い運動も可能
- 数ヶ月後
- 瘢痕が徐々に目立たなくなる
- 完全に治癒
手術の成功率と再発率
- 適切に行われた手術の成功率:90~95%以上
- 再発率:5~10%程度
- 再発の多くは瘻管の取り残しによる
- 経験豊富な医師による手術が重要
手術のリスクと合併症
どんな手術にもリスクは伴います。耳瘻管摘出術の主なリスクは以下の通りです:
- 出血
- 通常は軽度
- まれに再止血が必要なことも
- 感染
- 術後創部感染のリスク
- 抗菌薬の予防投与で最小限に
- 瘢痕
- 手術創の瘢痕は残る
- 個人差はあるが、通常は時間とともに目立たなくなる
- 顔面神経損傷
- 極めてまれだが重大な合併症
- 経験豊富な医師が慎重に手術すればリスクは最小限
- 再発
- 瘻管の取り残しによる再発
- 再手術が必要になることも
- 耳介の変形
- 瘻管が耳介軟骨に近い場合、軽度の変形の可能性
- 通常は問題にならない程度
手術を受けるタイミング
理想的な手術時期
- 炎症が完全に治まっている時期
- 感染が活動している時期の手術は避ける
- 炎症があると瘻管の同定が困難
- 術後合併症のリスクが高い
- 初回感染後
- 初めて感染を起こした後、炎症が治まってからの手術が推奨される
- 再発を繰り返すと瘻管が複雑化し、手術が困難になる
- 日常生活に支障がない時期
- 術後1~2週間は安静が必要
- 仕事や学業のスケジュールを考慮
年齢による考慮
- 小児:全身麻酔のリスクと効果を考慮し、通常は4~5歳以降に手術を検討
- 成人:特に年齢制限はない
- 高齢者:全身状態を考慮して手術適応を判断
耳瘻孔感染の予防と日常生活での注意点
感染予防のための日常ケア
耳瘻孔がある方が感染を予防するために、日常生活で注意すべき点を解説します。
1. 清潔を保つ
- 毎日の洗浄
- 入浴時に優しく洗う
- 強くこすらない
- 石鹸を十分に洗い流す
- 清潔なタオルで優しく拭く
- 手を清潔に
- 耳に触れる前には必ず手を洗う
- 不必要に触らないことが最も重要
2. 刺激を避ける
- 整髪料
- 耳瘻孔周辺に整髪料がつかないよう注意
- スプレーの使用は慎重に
- ヘアスタイル
- 髪が常に耳にかかる髪型は避ける
- 定期的に髪を洗い、清潔に保つ
- ピアス
- 耳瘻孔の近くにピアスを開けない
- ピアスによる刺激を避ける
- すでにピアスがある場合は清潔に保つ
- マスクや眼鏡
- 耳にかける部分が耳瘻孔を刺激しないよう調整
- 定期的に清潔にする
3. 免疫力を維持する
- 十分な睡眠
- 7~8時間の質の良い睡眠を確保
- バランスの取れた食事
- ビタミン、ミネラルを十分に摂取
- 免疫力を高める食品を積極的に摂取
- ストレス管理
- 適度な運動
- リラックスする時間を持つ
- 規則正しい生活
- 生活リズムを整える
4. 早期発見・早期対応
- 異常を感じたらすぐに受診
- 軽い違和感の段階で受診すれば、治療も簡単
- 「様子を見よう」と放置すると悪化することが多い
- 定期的な観察
- 鏡で耳瘻孔の状態を確認する習慣をつける
- 発赤、腫れ、分泌物の変化に注意
感染を繰り返す場合の対応
保存的治療と日常ケアを行っていても、感染を繰り返してしまう場合があります。
繰り返す感染への対応
- 根治手術の検討
- 年に2回以上感染を繰り返す場合は手術を推奨
- 早めの手術が瘻管を複雑化させない
- 専門医への相談
- 形成外科専門医や耳鼻咽喉科専門医への相談
- セカンドオピニオンの活用
- 生活習慣の見直し
- 感染を繰り返す場合、生活習慣に問題がないか見直す
- ストレス、睡眠不足、不規則な生活などの改善
- 他の疾患の可能性
- 繰り返す感染の背景に他の疾患が隠れていないか確認
- 糖尿病などの基礎疾患の有無

耳瘻孔に関するよくある質問(Q&A)
A. いいえ、耳瘻孔は生まれつきの構造であり、自然に閉じることはありません。瘻管は皮膚と同じ上皮で覆われており、一度形成されるとそのまま残ります。ただし、一生無症状で過ごす方も多くいます。
A. いいえ、膿が出なくなったのは炎症が一時的に治まっただけで、瘻管自体は残っています。瘻管がある限り、再び感染を起こす可能性があります。根本的に治すには、手術で瘻管を完全に摘出する必要があります。
Q3. 両耳に耳瘻孔があります。両方手術が必要ですか?
A. 必ずしも両方の手術が必要とは限りません。片側だけが繰り返し感染する場合は、その側だけ手術することもあります。ただし、両側とも感染を繰り返す場合や、予防的に治療したい場合は、両側の手術を検討します。手術は両側同時に行うこともあれば、時期をずらして行うこともあります。
Q4. 子供が耳瘻孔を持っています。いつ手術を受けさせるべきですか?
A. 小児の場合、全身麻酔が必要になることが多いため、通常は4~5歳以降に手術を検討します。ただし、繰り返し重度の感染を起こす場合は、それより早い時期に手術を行うこともあります。主治医とよく相談して、お子さんの状態に応じて最適な時期を決定しましょう。
Q5. 手術の傷跡は目立ちますか?
A. 手術の傷跡は個人差がありますが、一般的に耳の前方の自然な皮膚のしわに沿って切開するため、時間が経つにつれて目立たなくなることが多いです。形成外科専門医による手術では、美容的配慮も行われます。
Q6. 手術後、再発することはありますか?
A. 適切に行われた手術であれば、再発率は5~10%程度です。再発の多くは瘻管の取り残しによるもので、複雑な瘻管の場合や炎症が残っている状態での手術では、再発リスクが高くなります。経験豊富な医師による手術を受けることが重要です。
Q7. 妊娠中に耳瘻孔が感染しました。治療できますか?
A. 妊娠中でも治療は可能です。妊婦さんにも安全に使用できる抗菌薬を選択して治療します。ただし、手術は原則として妊娠中は避け、出産後に行うことが推奨されます。妊娠を伝えた上で、産婦人科医とも連携しながら治療方針を決定します。
Q8. 耳瘻孔からいつも少量の分泌物が出ますが、これは正常ですか?
A. 軽度の分泌物が出ることは比較的よく見られますが、分泌物の量が増えたり、色が変わったり(黄色や緑色)、臭いが強くなったりする場合は、感染の兆候です。また、慢性的に分泌物が続く場合も、将来的な感染リスクが高いため、手術を検討することが推奨されます。
Q9. 耳瘻孔があるとピアスは開けられませんか?
A. 耳瘻孔から離れた場所であれば、ピアスを開けることは可能です。ただし、耳瘻孔の近くにピアスを開けると、感染リスクが高まるため避けるべきです。ピアスを開ける前に、医師に相談することをお勧めします。
Q10. 耳瘻孔は遺伝しますか?
A. はい、耳瘻孔には遺伝的要因があります。常染色体優性遺伝のパターンを示すことが知られており、親に耳瘻孔がある場合、子供にも発生する可能性が高くなります。ただし、必ず遺伝するわけではありません。
まとめ:耳瘻孔の膿への正しい対処
耳瘻孔は生まれつきの小さな穴ですが、感染を起こすと膿が溜まり、痛みや腫れなどの症状を引き起こします。
本記事の重要ポイント
- 膿を自分で出すのは危険
- 感染の悪化や瘻管の損傷につながる
- 必ず医療機関を受診する
- 医療機関での適切な治療が必要
- 急性期は抗菌薬治療と適切な排膿処置
- 繰り返す感染には根治手術を検討
- 早期受診が重要
- 軽度のうちに治療すれば、簡単に改善
- 放置すると重症化のリスク
- 予防が大切
- 清潔に保つ
- 刺激を避ける
- 免疫力を維持する
- 根治するには手術が必要
- 保存的治療は一時的な改善にとどまる
- 瘻管摘出術で根本的に治療可能
耳瘻孔の膿に悩んでいる方は、自己処置を避け、早めに医療機関を受診することが最も重要です。適切な治療を受けることで、症状は確実に改善します。
参考文献
- 日本形成外科学会「先天性耳瘻孔」
https://jsprs.or.jp/ - 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」
https://www.dermatol.or.jp/ - 厚生労働省「医療情報提供サービス」
https://www.mhlw.go.jp/ - 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「耳の病気」
http://www.jibika.or.jp/ - 東京都医師会「耳瘻孔について」
https://www.tokyo.med.or.jp/
※本記事は医学的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務