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粉瘤が出来やすい人の特徴とは?原因・見分け方・治療法・予防のポイントを医師が徹底解説

皮膚の下にポコッとしたしこりができて、「これは何だろう?」と不安に感じた経験はありませんか。そのしこりは、もしかすると粉瘤(ふんりゅう)かもしれません。粉瘤は皮膚科医が最も診察する機会の多い良性腫瘍のひとつで、日本人にも非常に多くみられる皮膚疾患です。

粉瘤は放置していても自然に治ることはなく、時間の経過とともに少しずつ大きくなっていく特徴があります。また、細菌感染を起こすと炎症を引き起こし、赤く腫れて痛みを伴うこともあります。「粉瘤が繰り返しできる」「家族にも粉瘤ができやすい人がいる」という方も少なくありません。

本記事では、粉瘤が出来やすい人の特徴を中心に、粉瘤の基礎知識から原因、ニキビや脂肪腫との見分け方、治療方法、そして日常生活での予防のポイントまで、詳しく解説していきます。粉瘤でお悩みの方、繰り返す粉瘤に困っている方は、ぜひ最後までお読みください。


目次

  1. 粉瘤とは何か
  2. 粉瘤ができる仕組みと原因
  3. 粉瘤が出来やすい人の特徴
  4. 粉瘤ができやすい部位
  5. 粉瘤を放置するとどうなるか
  6. 粉瘤とニキビ・脂肪腫・おできとの見分け方
  7. 粉瘤の種類
  8. 粉瘤の治療方法
  9. 粉瘤手術の流れと術後の過ごし方
  10. 粉瘤の予防法と日常生活での注意点
  11. 粉瘤に関するよくある質問
  12. まとめ

1. 粉瘤とは何か

粉瘤(ふんりゅう)は、医学的には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」または「アテローム」とも呼ばれる良性の皮膚腫瘍です。皮膚の内側に袋状の構造物(嚢腫)ができ、本来は皮膚の表面から剥がれ落ちるはずの垢(角質)や皮脂が、その袋の中に溜まってしまうことで形成されます。

溜まった角質や皮脂は袋の外へ排出されないため、時間の経過とともに少しずつ大きくなっていくのが特徴です。一般的には数ミリから数センチ程度の大きさですが、放置すると10センチ以上に巨大化するケースもまれにあります。

粉瘤は俗に「脂肪のかたまり」と呼ばれることがありますが、これは誤解です。脂肪腫は脂肪細胞が増殖してできた良性腫瘍であるのに対し、粉瘤は角質や皮脂が溜まってできたもので、まったく異なる疾患です。

粉瘤の外見上の特徴として、以下の点が挙げられます。

やや盛り上がった半球状のしこりとして触れることが多く、しばしば中央部分に黒い点のような開口部(へそ)がみられます。この開口部を強く圧迫すると、臭くてドロドロしたペースト状の内容物が出てくることがあります。この内容物は角質や皮脂などの老廃物で、独特の不快な臭いを発することが粉瘤の特徴のひとつです。

粉瘤は良性腫瘍ですので、基本的には命に関わるものではありません。しかし、放置していると大きくなったり、炎症を起こして痛みや腫れを伴ったりすることがあるため、適切な時期に治療を受けることが推奨されています。


2. 粉瘤ができる仕組みと原因

粉瘤ができる正確な原因やメカニズムは、現在の医学でも完全には解明されていません。しかし、いくつかの要因が関与していると考えられています。

毛穴の変化

粉瘤のほとんどは、毛穴の上方部分(毛漏斗部)が何らかの原因で皮膚の内側に陥入して袋状の構造物を形成することで発生すると考えられています。つまり、袋の壁は表面の皮膚(表皮)と同じ構造をしているのです。この袋の中に角質や皮脂が溜まり続けることで、粉瘤が形成されます。

外傷やケガの影響

皮膚への外傷や打撲、摩擦などの物理的な刺激がきっかけとなって粉瘤ができることがあります。傷が治る過程で皮膚の再生が異常をきたし、毛包が皮膚の内側に取り込まれてしまうことで袋状の構造が形成されるケースです。

手のひらや足の裏など、本来は毛穴がない部位にも粉瘤ができることがありますが、これらは外傷性表皮嚢腫と呼ばれ、小さな傷がきっかけとなって生じます。

ウイルス感染

足の裏や手のひらにできる粉瘤の発生には、ヒトパピローマウイルス(HPV)というイボウイルスが関与していることがわかっています。ウイルス性のイボが粉瘤のきっかけになるケースもあります。

ニキビ痕

ニキビの炎症が悪化した後に、その部分から粉瘤が発生することがあります。毛穴の炎症が皮膚の構造に影響を与え、袋状の組織が形成されることがあるためです。

遺伝的な要因

粉瘤には遺伝的な要因も関係していると考えられています。家族や親族に粉瘤ができやすい人がいる場合、自分自身も粉瘤が繰り返しできる可能性が高くなります。特に、複数の粉瘤が同時にできる「多発性粉瘤症」のようなタイプでは、遺伝的な体質が強く関与しているとされています。

また、ガードナー症候群という遺伝性疾患では、胃や腸にポリープが多発すると同時に、粉瘤も多発することが知られています。

なお、「身体を不潔にしていると粉瘤ができやすい」と誤解されることがありますが、粉瘤の発生と清潔度には直接的な関係はありません。清潔にしていても粉瘤はできますし、逆に衛生状態が悪くても粉瘤ができない人もいます。


3. 粉瘤が出来やすい人の特徴

粉瘤は誰にでもできる可能性がありますが、特に出来やすい人にはいくつかの共通した特徴があります。以下に、粉瘤が出来やすい人の特徴を詳しく解説します。

皮脂の分泌が多い人

皮脂の分泌が多い人は、皮脂によって毛穴が詰まりやすく、その結果として粉瘤が発生するリスクが高まります。脂性肌(オイリースキン)の方や、皮脂腺が活発な体質の方は要注意です。皮脂の過剰分泌により、毛穴が詰まりやすい状態が続くと、毛穴の奥で袋状の構造が形成されやすくなります。

ニキビや吹き出物ができやすい人

ニキビができやすい肌質の人も粉瘤ができやすいといわれています。ニキビと粉瘤は異なる疾患ですが、過剰な皮脂分泌や毛包の閉塞といった皮膚環境には共通点があります。そのため、慢性的にニキビができやすい人は、粉瘤のリスクも高いと考えられています。

ホルモンバランスが乱れやすい人

ホルモンバランスの乱れは皮脂分泌に大きな影響を与えます。思春期以降のホルモン変動や、ストレス、生活習慣の乱れによってホルモンバランスが崩れると、皮脂の分泌が過剰になったり、肌のターンオーバーが乱れたりします。これらは毛穴の詰まりを引き起こし、粉瘤の発生リスクを高める要因となります。

汗をかきやすい体質の人

汗をかきやすい体質の方も粉瘤ができやすい傾向があります。汗と皮脂が混ざって毛穴を詰まらせやすくなるためです。また、汗による皮膚の蒸れは細菌の繁殖を促進し、炎症を引き起こしやすい環境を作ります。

男性

粉瘤は統計的に女性よりも男性に多く見られる傾向があります。特に中年の男性に多くみられ、女性の約2倍の頻度で発生するとされています。これは男性のほうが皮脂の分泌量が多いことや、毛穴が大きいという生理的な特徴が影響していると考えられています。

家族に粉瘤ができやすい人がいる人

遺伝的な要因も粉瘤の発生に関係しています。家族や親族に粉瘤ができやすい人がいる場合、自分自身も粉瘤が繰り返しできる可能性が高くなります。皮膚の構造的な要因や、皮脂腺の性質などが遺伝している可能性があります。

生活習慣が乱れている人

生活習慣の乱れも粉瘤のリスクを高める要因のひとつです。具体的には、以下のような生活習慣が関係しています。

睡眠不足は肌の修復機能を低下させ、毛穴が詰まりやすくなります。夜型生活が続く人は要注意です。

ストレスの蓄積により自律神経やホルモンバランスが乱れ、皮脂の分泌が増えたり、皮膚のターンオーバーが乱れたりすることがあります。

揚げ物やお菓子、油っこい食事や糖質中心の食生活も、皮脂の過剰分泌や炎症の原因になります。また、ビタミン不足は皮膚の健康維持に悪影響を及ぼします。

皮膚への刺激が多い人

日焼けや洋服の擦れ、締めつけなど、物理的な刺激が繰り返し加わると、皮膚に小さな傷や炎症が起き、それがきっかけで粉瘤ができることもあります。肌に慢性的なダメージや負担がかかる環境にいることは、知らず知らずのうちに粉瘤の原因を作っている可能性があります。

スキンケアが不十分または間違っている人

洗顔やボディケアを怠ると、毛穴に皮脂や古い角質が溜まりやすくなり、それが毛穴の奥に閉じ込められて粉瘤のもとになります。

一方で、洗いすぎやゴシゴシと強くこするようなケアも逆効果です。肌表面のバリア機能が壊れると、乾燥や炎症を引き起こし、皮膚を守ろうと皮脂が過剰に分泌されるようになります。この皮脂の過剰分泌が毛穴詰まりを誘発し、結果として粉瘤が形成されることがあります。

また、クレンジング剤やボディソープのすすぎ残し、長時間のメイク放置、入浴後の保湿をしない習慣なども、毛穴環境を悪化させ、粉瘤のリスクを高める原因になります。

粉瘤を繰り返す体質の人

粉瘤を手術で摘出しても、体のどこかに繰り返し粉瘤ができてしまう場合は、その人自身の体質によるものが大きいです。袋状の構造物を摘出しても新たな粉瘤ができてしまう方は、体質的に粉瘤ができやすいと考えられます。


4. 粉瘤ができやすい部位

粉瘤は皮膚がある場所であれば、理論上は全身どこにでも発生する可能性があります。しかし、実際には以下のような特定の部位にできやすい傾向があります。

顔は皮脂腺が多く、毛穴も密集しているため、粉瘤ができやすい部位のひとつです。頬、こめかみ、額などに発生することがあります。顔にできた粉瘤は目立ちやすく、見た目の問題から早めの治療を希望される方が多いです。

首も皮脂腺が発達しており、衣服との摩擦を受けやすい部位であるため、粉瘤ができやすい場所です。

耳の周り・耳たぶ

耳の後ろや耳たぶは粉瘤が非常にできやすい部位として知られています。耳たぶにできた粉瘤はピアスホールがきっかけで発生することもあります。

背中

背中は自分では見えにくい場所のため、粉瘤ができていても気づきにくいことがあります。皮脂腺が多く、衣服との摩擦も受けやすいため、粉瘤ができやすい部位です。

胸部

胸部も皮脂腺が発達しており、粉瘤が発生しやすい場所のひとつです。

おしり

おしりは座っているときに圧迫を受けやすく、通気性も悪いため、粉瘤ができやすい部位です。また、おしりにできた粉瘤は炎症を起こしやすい傾向があります。

頭皮

頭皮も皮脂腺が非常に多い部位であり、粉瘤ができやすい場所です。髪の毛に隠れて発見が遅れることもあります。

脇の下

脇の下は汗をかきやすく、通気性も悪いため、粉瘤ができやすい部位のひとつです。

股関節・鼠径部

股関節や鼠径部も下着による摩擦を受けやすく、蒸れやすい環境にあるため、粉瘤が発生することがあります。

これらの部位に共通する特徴として、皮脂腺が多く存在すること、衣服などによる摩擦を受けやすいこと、通気性が悪いことなどが挙げられます。

なお、手のひらや足の裏には毛穴がないため、通常は粉瘤ができにくい場所ですが、外傷がきっかけとなって外傷性表皮嚢腫が発生することはあります。


5. 粉瘤を放置するとどうなるか

粉瘤は良性腫瘍であり、放置しても自然に治ることはありません。むしろ、放置することでさまざまなリスクが生じます。

徐々に大きくなる

粉瘤は袋の中に角質や皮脂が蓄積していくため、時間の経過とともに少しずつ大きくなっていきます。最初は数ミリ程度の小さなしこりでも、放置していると数センチ、場合によっては10センチ以上に巨大化することもあります。大きくなればなるほど、手術で切除する際の傷跡も大きくなってしまいます。

悪臭を放つようになる

粉瘤の中に溜まっている角質や皮脂などの老廃物は、時間が経つと強い悪臭を放つようになります。この臭いは「納豆のような臭い」「腐った肉や魚のような臭い」「履き続けた靴下のような臭い」などと表現されることがあります。粉瘤が大きくなったり、開口部から内容物が漏れ出したりすると、周囲にまで臭いが広がることがあります。

炎症を起こす(炎症性粉瘤)

粉瘤に細菌が感染すると、炎症を起こして赤く腫れ上がり、強い痛みを伴うようになります。この状態を「炎症性粉瘤」と呼びます。炎症性粉瘤では膿が溜まり、粉瘤の大きさが急激に増すことがあります。

炎症が進行すると、袋状の組織がもろくなって破れてしまい、周辺の皮膚組織が壊死することもあります。また、粉瘤が破裂すると、中から非常に臭いドロドロの膿性内容物が排出されることがあります。

炎症を起こしているときに無理に膿を出そうとすると、袋が破れて周囲の組織に感染が広がり、膿皮症という状態に進行して慢性的な問題を引き起こす危険もあります。

ごくまれに悪性化することがある

粉瘤は基本的に良性腫瘍ですが、非常にまれなケースとして悪性化(がん化)の報告があります。悪性化した粉瘤から発生した癌の多くは有棘細胞癌で、稀に基底細胞癌が発生することもあります。

悪性化が報告されているのは、主に長期間放置されたサイズの大きな粉瘤や、炎症を繰り返した粉瘤です。特に中高年の男性で、頭部、顔面、おしりにできた大きな粉瘤では注意が必要とされています。「急に大きくなる」「表面の皮膚に傷ができる(潰瘍化)」などの特徴がある場合は、早めの受診が推奨されます。


6. 粉瘤とニキビ・脂肪腫・おできとの見分け方

粉瘤は他の皮膚疾患と見た目が似ていることがあり、自己判断で見分けるのは難しいことがあります。ここでは、粉瘤と間違えやすい疾患との違いを解説します。

粉瘤とニキビの違い

ニキビは毛穴に皮脂が詰まり、アクネ菌が増殖することで炎症が起こり、赤く腫れる皮膚疾患です。粉瘤と炎症を起こしたニキビは見た目が似ていることがありますが、以下の点で異なります。

大きさについては、ニキビはどんなに炎症が悪化しても数ミリ程度ですが、粉瘤は数センチ以上、放置すると10センチを超えることもあります。

発生の経緯については、ニキビは急にできることがありますが、粉瘤は袋の中に老廃物が徐々に溜まってできるため、突然発生することはありません。元からしこりのようなものがあったはずです。

臭いについては、粉瘤は内容物が強い悪臭を放つことがありますが、ニキビには独特の悪臭はありません。

開口部については、粉瘤には中央部に黒い点状の開口部(へそ)が見られることがありますが、黒ニキビにも酸化した皮脂による黒い点があるため、この点だけでは見分けにくいこともあります。

治療については、ニキビは市販の外用薬でも改善することがありますが、粉瘤は薬で治ることはなく、手術による摘出が必要です。

年齢については、ニキビは主に10代から30代の若い世代に多くみられますが、粉瘤は年齢に関係なく発生します。

粉瘤と脂肪腫の違い

脂肪腫は脂肪細胞が増殖してできる良性腫瘍で、粉瘤と同じく皮膚の下にできるしこりです。見た目が似ていますが、以下の点で異なります。

触った感触については、脂肪腫は脂肪でできているため柔らかくゴムのような弾力があります。一方、粉瘤は弾力があり硬いしこりとして感じられます。

皮膚との関係については、脂肪腫は周囲の組織と被膜で分かれているため、指で押すと皮膚とは関係なく動きます。粉瘤は皮膚の一部が袋状になったものなので、皮膚と一緒に動きます。

大きさの変化については、脂肪腫は長年サイズが変わらないことも多いですが、粉瘤は時間とともに徐々に大きくなっていきます。

炎症については、脂肪腫は炎症を起こすことはほとんどありませんが、粉瘤は細菌感染により炎症を起こすことがあります。

好発部位については、脂肪腫は背中、肩、首、腕、おしり、太ももなどに多くみられ、40代から60代の男性に多い傾向があります。

粉瘤とおでき(せつ・よう)の違い

おできは医学的には「せつ」や「よう」と呼ばれ、黄色ブドウ球菌などの細菌感染によって毛穴や皮脂腺に炎症が起こる疾患です。

発症の経緯については、おできは初期から炎症を起こして痛みを伴いますが、粉瘤は初期段階では炎症を起こしていることは少なく、痛みもありません。

原因については、おできは細菌感染が原因ですが、粉瘤は袋状の構造に老廃物が溜まることが原因です。

しこりの性質については、おできは初期から腫れに厚みがありますが、粉瘤のしこりは突然できるものではなく、以前から存在していたはずです。

粉瘤とイボの違い

イボはウイルス感染や加齢、紫外線が原因でできる皮膚の隆起です。

外見については、イボは表面がザラザラ、ブツブツしていることが多いですが、粉瘤の表面は滑らかです。

発生パターンについては、イボは集まって複数できることがありますが、粉瘤は通常1つか2つ程度で、複数が集まってできることはほとんどありません。

感染については、ウイルス性のイボは接触により他の部位や他人に感染する可能性がありますが、粉瘤は他人にうつることはありません。


7. 粉瘤の種類

医学的に粉瘤(アテローム)にはいくつかの種類があります。臨床でよく見られるのは主に以下のタイプです。

表皮嚢腫

最も一般的なタイプの粉瘤で、粉瘤の大部分を占めます。毛穴の上方部分(毛漏斗部)が陥入して袋状構造物ができ、その中に角質や皮脂が溜まります。袋の壁は表面の皮膚(表皮)と同じ構造をしています。

身体のどこにでも発生する可能性がありますが、顔、首、背中、耳の後ろなどにできやすい傾向があります。

外毛根鞘性嚢腫

頭部に発生することが多いタイプの粉瘤です。表皮嚢腫よりも硬く触れることが特徴です。毛包の峡部という、毛包のやや深い部位の細胞から発生します。表皮嚢腫と比べて皮膚のより深いところにできることが多く、炎症を起こしやすい傾向があります。

多発性毛包嚢腫(脂腺嚢腫)

腕や首、脇の下などに20個から30個ほど多発することもあるタイプです。内容物はマヨネーズのような黄色いドロッとした物質で、表皮嚢腫のような臭いはありません。毛包に付属する脂腺から発生するため、脂腺嚢腫とも呼ばれます。家族内で遺伝することがあります。

外傷性表皮嚢腫

手のひらや足の裏など、本来は毛穴がない部位にできる粉瘤です。小さな外傷や手術の傷がきっかけとなり、皮膚の一部が内側に陥入してできます。足の裏にできたものはタコやウオノメと間違われることもあります。このタイプの発生にはヒトパピローマウイルス(HPV)が関与していることがわかっています。


8. 粉瘤の治療方法

粉瘤は放置していても自然に治ることはなく、根本的に治療するには手術で袋ごと摘出する必要があります。内容物だけを取り除いても、袋が残っていれば再び角質や皮脂が溜まって再発してしまうためです。

粉瘤の手術は、健康保険が適用される保険診療で受けることができます。粉瘤の状態や部位、大きさに応じて、主に以下の手術方法が選択されます。

くり抜き法(へそ抜き法)

現在、粉瘤治療で広く行われている方法です。特殊な円筒状のメス(トレパン)を使用して、粉瘤の中央に直径4ミリから5ミリ程度の小さな穴を開け、その穴から袋の内容物を押し出した後、しぼんだ袋を丁寧に取り除きます。

くり抜き法のメリットは、傷跡が小さく目立ちにくいこと、手術時間が比較的短いこと、状態によっては縫合せずに済むため抜糸が不要な場合があること、炎症を起こしている粉瘤にも対応できる場合があることです。

デメリットとしては、袋を完全に取り切れない場合には再発のリスクがあること、皮膚が厚い部位や炎症で癒着が強い場合には適応できないことがあることなどが挙げられます。

切開法(従来法)

粉瘤の上の皮膚を紡錘形(木の葉のような形)に切開し、粉瘤を袋ごとそのまま摘出して縫合する方法です。くり抜き法が普及する前から行われている標準的な手術方法です。

切開法のメリットは、粉瘤を袋ごと確実に摘出できるため再発のリスクが低いこと、くり抜き法では対応できない粉瘤にも対応できること、大きな粉瘤や癒着が強い粉瘤にも適していることです。

デメリットとしては、傷跡がくり抜き法より大きくなること、術後に抜糸のための通院が必要なこと、炎症を起こしている粉瘤では一度炎症を落ち着かせてから手術を行う2段階の治療が必要になる場合があることなどが挙げられます。

炎症性粉瘤の治療

粉瘤が炎症を起こして赤く腫れ、膿が溜まっている状態(炎症性粉瘤)の場合は、まず炎症を抑える治療が優先されます。

軽度の炎症であれば、抗生物質の内服や外用で数日から1週間程度で炎症が治まることがあります。その後、しこりが十分小さくなれば手術で摘出できます。

炎症が強く膿が溜まっている場合は、切開排膿という処置を行い、中の膿を出します。切開した部分にガーゼを入れて消毒を繰り返し、膿を排出させます。傷が塞がり、炎症が落ち着いてから改めて手術で袋ごと摘出します。

どちらの手術方法を選択するかは、粉瘤の大きさ、部位、炎症の有無、患者さんの希望などを考慮して医師が判断します。


9. 粉瘤手術の流れと術後の過ごし方

手術の流れ

粉瘤の手術は、ほとんどの場合日帰りで行うことができます。一般的な流れは以下のとおりです。

まず診察を受け、粉瘤の状態を確認します。大きさ、部位、炎症の有無などを診て、手術方法や費用について説明を受けます。

手術当日は、まず粉瘤の周囲にマーキングを行い、局所麻酔を注射します。麻酔の注射は少しチクッとする痛みがありますが、麻酔が効いてからは手術中の痛みはほとんど感じません。

手術は選択された方法(くり抜き法または切開法)で行われ、粉瘤を摘出します。手術時間は粉瘤の大きさや状態によりますが、通常は15分から30分程度です。

摘出後は、状態に応じて縫合するか、開放創として処置するかが判断されます。縫合した場合は1週間から2週間後に抜糸を行います。

摘出した粉瘤は病理検査に出して、良性であることを確認します。

術後の過ごし方

手術後は以下の点に注意して過ごします。

手術当日は、激しい運動や飲酒、入浴は控えてください。シャワーも当日は避けたほうがよいでしょう。傷口をガーゼで保護し、圧迫止血を行います。

翌日以降は、医師の指示に従ってガーゼ交換や軟膏塗布を行います。石鹸で優しく洗い、清潔に保つことが大切です。

抜糸までの約1週間から2週間は、湯船に浸かるのは避け、シャワーのみにしてください。

重い荷物を持つなど、患部に負荷がかかる動作も控えましょう。

軽度の出血や腫れ、違和感は術後に見られる通常の反応ですが、出血が多い場合や強い痛みがある場合は、医療機関に連絡してください。

傷が完全に塞がるまでは2週間から3週間程度かかります。傷跡は時間の経過とともに目立たなくなっていきますが、完全に落ち着くまでには数か月かかることもあります。


10. 粉瘤の予防法と日常生活での注意点

粉瘤の発生原因は完全には解明されていないため、確実な予防法はありません。しかし、以下のような日常生活での心がけにより、粉瘤の発生リスクを低減できる可能性があります。

肌を清潔に保つ

毎日の洗顔や入浴で、皮膚の表面に溜まった汗や汚れ、余分な皮脂をしっかり落とすことで、毛穴の詰まりを防ぎます。ただし、ゴシゴシと強くこすって洗うのは逆効果です。肌のバリア機能を傷つけ、かえって皮脂の過剰分泌を招くことがあります。優しく丁寧に洗うことを心がけましょう。

適切なスキンケアを行う

洗いすぎも洗わなさすぎもよくありません。自分の肌質に合ったスキンケア製品を選び、適切なケアバランスを保つことが大切です。脂性肌の方は油分が多すぎる化粧品は避け、軽い使用感のものを選ぶとよいでしょう。

クレンジング剤やボディソープのすすぎ残しも毛穴詰まりの原因になります。しっかりすすぐようにしてください。入浴後は適度な保湿を行い、肌の乾燥を防ぎましょう。乾燥すると皮脂の過剰分泌につながることがあります。

肌への刺激を減らす

衣服による摩擦や締めつけ、日焼けなど、肌への物理的な刺激は粉瘤の原因になることがあります。通気性のよい衣服を選ぶ、日焼け止めを使用するなど、肌への刺激を減らす工夫をしましょう。

ニキビや皮脂の詰まりを無理に押し出したり潰したりするのも避けてください。細菌が入りやすくなり、粉瘤を作るきっかけになる可能性があります。

生活習慣を整える

十分な睡眠をとることで、肌の修復機能を正常に保ちます。睡眠不足はホルモンバランスの乱れにもつながります。

ストレスを溜め込まないようにすることも大切です。ストレスは自律神経やホルモンバランスを乱し、皮脂分泌の異常を引き起こすことがあります。

バランスのよい食生活を心がけ、油っこい食事や糖質の摂りすぎを避けましょう。肌のターンオーバーを促進するビタミンAやビタミンEを多く含む食品を積極的に摂取するのもおすすめです。

適度な運動は血行を良くし、皮膚の健康維持に役立ちます。

粉瘤を見つけたら触らない

粉瘤らしきしこりを見つけても、無理に触ったり潰そうとしたりしないでください。圧迫や刺激により炎症が悪化したり、細菌感染を起こしたりする恐れがあります。自己処置は危険ですので、医療機関を受診して適切な治療を受けることをおすすめします。

早めの受診

粉瘤は小さいうちに治療したほうが、傷跡も小さく済みます。また、炎症を起こす前に摘出したほうが手術も簡単で、回復も早くなります。気になるしこりを見つけたら、早めに皮膚科や形成外科を受診しましょう。


11. 粉瘤に関するよくある質問

粉瘤は自然に治りますか?

粉瘤は放置していても自然に治ることはありません。時間の経過とともに徐々に大きくなっていきます。また、内容物を押し出して一時的に小さくなったとしても、袋が残っていれば再び大きくなります。根本的に治療するには手術で袋ごと摘出する必要があります。

粉瘤の手術は痛いですか?

手術は局所麻酔をして行いますので、手術中の痛みはほとんどありません。麻酔の注射を打つときにチクッとした痛みはありますが、麻酔が効いてからは痛みを感じにくくなります。術後は麻酔が切れると軽い痛みや違和感を感じることがありますが、痛み止めを処方してもらえますので、強い痛みを訴える方は少数です。

手術後の傷跡は目立ちますか?

手術方法や粉瘤の大きさ、部位によって異なりますが、くり抜き法であれば傷跡は小さく、時間の経過とともに目立たなくなる方がほとんどです。切開法でも、形成外科医が丁寧に縫合すれば傷跡は最小限に抑えられます。ただし、傷跡の治り方には個人差があり、体質によってはケロイドや肥厚性瘢痕ができる場合もあります。

粉瘤の手術に保険は使えますか?

粉瘤の手術は健康保険が適用されます。3割負担の場合、費用は粉瘤の大きさや部位、手術方法によって異なりますが、数千円から1万円台程度が目安です。また、生命保険や医療保険に加入している場合、契約内容によっては手術給付金が受けられることもあります。詳しくは加入している保険会社にご確認ください。

粉瘤を潰してもいいですか?

粉瘤を自分で潰したり、内容物を押し出したりすることは絶対に避けてください。袋が破れて細菌が入り込み、炎症や感染を起こす恐れがあります。炎症を起こすと腫れて痛みが出るだけでなく、治療も複雑になります。粉瘤に気づいたら、自己処置はせずに医療機関を受診してください。

粉瘤は再発しますか?

手術で粉瘤の袋を完全に取り除くことができれば、同じ場所から再発することはほとんどありません。ただし、袋の一部が残っていると再発することがあります。また、体質的に粉瘤ができやすい方は、別の場所に新たな粉瘤ができることがあります。


12. まとめ

粉瘤は皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂が溜まってできる良性の腫瘍です。非常に多くの方にみられる一般的な皮膚疾患ですが、放置していても自然に治ることはなく、時間とともに大きくなったり、炎症を起こしたりする可能性があります。

粉瘤が出来やすい人の特徴として、皮脂の分泌が多い人、ニキビができやすい人、ホルモンバランスが乱れやすい人、男性、家族に粉瘤ができやすい人がいる人、生活習慣が乱れている人などが挙げられます。ただし、粉瘤の発生原因は完全には解明されておらず、清潔にしていても体質的にできやすい人もいます。

粉瘤の治療は手術で袋ごと摘出することが基本です。くり抜き法や切開法などの方法があり、健康保険が適用されます。小さいうちに治療すれば傷跡も小さく済みますので、気になるしこりを見つけたら早めに皮膚科や形成外科を受診することをおすすめします。

日常生活では、肌を清潔に保つこと、適切なスキンケアを行うこと、肌への刺激を減らすこと、生活習慣を整えることなどが、粉瘤の予防につながる可能性があります。ただし、確実な予防法は現時点ではありませんので、粉瘤ができてしまった場合は自己判断で対処せず、専門医に相談することが大切です。

アイシークリニック大宮院では、粉瘤の診断・治療を行っております。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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