はじめに
お子さんの肌に小さなぶつぶつができて、「これは何だろう?」と心配になったことはありませんか。プールや保育園、幼稚園に通うお子さんをお持ちの保護者の方なら、「水いぼ」という言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれません。
水いぼは正式には「伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)」と呼ばれ、主に小児に多く見られるウイルス性の皮膚疾患です。痛みや強いかゆみを伴わないことが多いものの、他人への感染や見た目の問題から、多くの保護者の方が適切な対処法について悩まれています。
本記事では、アイシークリニック大宮院の皮膚科医の視点から、水いぼの基礎知識、症状、診断方法、さまざまな治療オプション、そして日常生活での注意点まで、包括的に解説いたします。正しい知識を持つことで、お子さんの症状に適切に対応し、不安を軽減することができます。
水いぼとは?基本的な理解
水いぼの医学的定義
水いぼ(伝染性軟属腫)は、ポックスウイルス科に属する伝染性軟属腫ウイルス(Molluscum contagiosum virus:MCV)によって引き起こされる皮膚の感染症です。このウイルスは人間のみに感染し、動物には感染しません。
「水いぼ」という名称は、皮疹の中心部にくぼみがあり、圧迫すると白い粥状の内容物が出てくる様子が、まるで水を含んだいぼのように見えることに由来しています。しかし、実際には水分が入っているわけではなく、ウイルスに感染した細胞の塊が詰まっているのです。
疫学的特徴
水いぼは世界中で見られる一般的な皮膚疾患で、特に小児に多く発症します。日本における正確な罹患率の統計は限られていますが、保育園や幼稚園、小学校低学年の児童の約2〜10%に見られるという報告があります。
好発年齢は1歳から10歳頃で、特に2歳から7歳の幼児期から学童期前半に多く見られます。これは、この年齢層の子どもたちが集団生活を始め、プールなどで皮膚の接触機会が増えることが関係していると考えられています。
成人での発症は比較的まれですが、免疫機能が低下している方やアトピー性皮膚炎をお持ちの方では、年齢に関わらず感染するリスクが高くなります。
水いぼの原因:伝染性軟属腫ウイルスについて
ウイルスの特性
伝染性軟属腫ウイルス(MCV)は、DNAウイルスの一種で、ポックスウイルス科に分類されます。このウイルスには、MCV-1、MCV-2、MCV-3、MCV-4の4つの型が存在しますが、小児に最も多く見られるのはMCV-1型です。MCV-2型は主に成人の性器周囲に感染することが多いとされています。
ポックスウイルス科に属するウイルスとしては、天然痘ウイルスが有名ですが、MCVは天然痘とは異なり、局所的な皮膚感染にとどまり、全身症状を引き起こすことはほとんどありません。
感染メカニズム
MCVは表皮の基底層にある角化細胞(ケラチノサイト)に感染し、これらの細胞を増殖させることで、特徴的な丘疹(きゅうしん:小さな盛り上がり)を形成します。ウイルスに感染した細胞は肥大化し、細胞質内にMCV粒子を含む大きな封入体(軟属小体)を形成します。
この軟属小体が、水いぼの中心部に見られる白い粥状の内容物の正体です。この内容物には大量のウイルス粒子が含まれており、これが他の部位や他人への感染源となります。
感染経路
水いぼの主な感染経路は以下の通りです:
1. 直接接触感染 最も一般的な感染経路は、感染している人の皮膚や水いぼに直接触れることです。子どもたち同士の遊びやスキンシップ、格闘技などのスポーツを通じて感染が広がります。
2. 間接接触感染 タオル、衣類、寝具、おもちゃなどの共有物を介した感染も起こります。特に、水いぼから出た内容物が付着した物品を複数人で使用すると、感染リスクが高まります。
3. 自家接種(オートイノキュレーション) 既に水いぼができている部位を掻いたり触ったりすることで、同一人物の他の部位に感染が広がることを自家接種と呼びます。これは水いぼが体の複数箇所に広がる主要な原因の一つです。
4. プールでの感染 水いぼはプールの水を介して直接感染するわけではありません。しかし、プールサイドで使用するビート板や浮き輪などの共有物、またプール後のタオルの共有などを通じて感染が広がることがあります。
感染しやすい要因
以下のような要因があると、水いぼに感染しやすくなります:
- アトピー性皮膚炎:皮膚のバリア機能が低下しているため、ウイルスが侵入しやすくなります
- 乾燥肌:健康な皮膚バリアが弱まり、感染リスクが上がります
- 免疫機能の低下:何らかの理由で免疫力が低下していると、感染しやすく、また治りにくくなります
- 集団生活:保育園、幼稚園、学校などでの密接な接触機会の増加
水いぼの症状と特徴
典型的な見た目
水いぼの最も特徴的な症状は、皮膚に現れる小さな丘疹です。以下のような外観的特徴があります:
大きさ:直径1〜5mm程度の半球状の盛り上がりで、時には1cm程度まで大きくなることもあります。
色:正常な肌色から真珠のような光沢のある白色、淡紅色までさまざまです。透き通ったような質感を持つことが特徴です。
形状:丘疹の中心部に特徴的なくぼみ(臍窩:さいか)が見られます。このくぼみは「へそいぼ」とも呼ばれ、水いぼの診断において重要な所見となります。
表面:表面は滑らかで、光沢があります。炎症を起こしていない限り、周囲の皮膚と比べて目立った赤みはありません。
内容物:丘疹を圧迫すると、中心のくぼみから白い粥状の柔らかい物質(軟属小体)が排出されます。この内容物には大量のウイルスが含まれているため、取り扱いには注意が必要です。
数と分布
水いぼの個数には個人差があり、数個から数十個、時には100個以上できることもあります。最初は1〜2個程度でも、自家接種により徐々に増えていくことが一般的です。
分布については、以下のような傾向があります:
好発部位(よく見られる場所):
- 体幹(胸、お腹、背中)
- 四肢(腕、脚)
- 腋窩(わきの下)
- 側腹部
- 大腿部
小児での分布: 体幹部や四肢に多く見られ、特に擦れやすい部位や皮膚が薄い部位に好発します。顔面にできることもあります。
成人での分布: 成人では性器周囲や大腿内側など、性的接触によって感染する部位に見られることがあります。
自覚症状
水いぼは一般的に以下のような特徴があります:
痛み:通常、痛みはありません。ただし、二次感染を起こした場合や、摘除などの治療後には痛みを伴うことがあります。
かゆみ:多くの場合、かゆみは軽度かほとんどありません。しかし、アトピー性皮膚炎を合併している場合や、水いぼ周囲に湿疹性の変化が起きた場合には、かゆみが強くなることがあります。
炎症反応:水いぼが自然治癒する過程で、周囲に赤みや腫れを伴う炎症反応(水いぼ反応)が見られることがあります。これは免疫系がウイルスを攻撃している証拠で、治癒の前兆とも言えます。
経過と自然治癒
水いぼは自然治癒する疾患ですが、その期間には個人差があります:
治癒までの期間:一般的に6ヶ月から2年程度で自然に消失しますが、3〜4年かかることもあります。
治癒のサイン:水いぼとその周囲が赤く腫れ、かゆみを伴うことがあります。これは「水いぼ反応」と呼ばれ、免疫系がウイルスに対して反応している証拠です。この反応が起きると、通常1〜2週間以内に水いぼは消失します。
新しい水いぼの出現:自家接種により、古い水いぼが治癒する間にも新しい水いぼが出現することがあるため、全体としての治癒期間が長くなることがあります。
水いぼの診断方法
視診による診断
水いぼの診断は、ほとんどの場合、皮膚科専門医による視診(見た目での診断)で可能です。以下のような特徴的な所見があれば、水いぼと診断できます:
- 中心臍窩:丘疹の中央にくぼみが見られる
- 真珠様光沢:表面に特徴的な光沢がある
- 半球状の形態:ドーム状に盛り上がっている
- 大きさと分布:1〜5mm程度の複数の丘疹が体幹部や四肢に散在
経験豊富な皮膚科医であれば、これらの特徴から即座に診断を確定することができます。
ダーモスコピー検査
ダーモスコピー(皮膚拡大鏡)を使用すると、水いぼの診断精度がさらに向上します。ダーモスコピーでは以下のような所見が観察されます:
- 白色から黄色の中心構造:軟属小体に相当する部分
- 周辺の血管構造:放射状または多形性の血管パターン
- 「ポップコーン様」あるいは「ポリープ様」構造
これらの所見により、水いぼと他の皮膚疾患を鑑別することができます。
病理組織学的検査
診断が難しい症例や、悪性腫瘍との鑑別が必要な場合には、皮膚生検を行い、顕微鏡で組織を観察することがあります。水いぼの病理組織学的特徴は以下の通りです:
- 表皮の肥厚:角化細胞の増殖により表皮が厚くなっている
- 軟属小体:細胞質内に好酸性の大きな封入体が見られる
- 中心陥凹:組織学的にも中央のくぼみが確認できる
鑑別診断が必要な疾患
水いぼと似た外観を持つ他の皮膚疾患があるため、以下のような疾患との鑑別が必要です:
1. 尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい:いぼ) ヒトパピローマウイルス(HPV)による感染症で、表面がざらざらしており、中心臍窩は見られません。
2. 稗粒腫(はいりゅうしゅ:ひりゅうしゅ) 角質が詰まってできた小さな白い粒で、主に顔面に見られます。水いぼよりも硬く、中心臍窩はありません。
3. 汗管腫(かんかんしゅ) まぶた周辺に多く見られる良性腫瘍で、肌色から淡褐色の扁平な丘疹です。
4. 基底細胞癌 まれに水いぼと似た外観を呈することがありますが、中高年に多く、真珠様の光沢と辺縁の血管拡張が特徴です。
5. 伝染性膿痂疹(とびひ) 細菌感染による皮膚疾患で、水疱やびらんを伴い、強い感染力があります。
水いぼの治療法:選択肢とその特徴
水いぼの治療については、医学界でも意見が分かれており、「治療すべきか、自然治癒を待つべきか」という議論が続いています。日本皮膚科学会では、患者さんの状況や希望に応じて、適切な治療法を選択することを推奨しています。
ここでは、現在行われている主な治療法について、それぞれのメリットとデメリットを含めて詳しく解説します。
経過観察(自然治癒を待つ)
方法の概要 特別な治療を行わず、免疫系がウイルスを排除して自然に治るのを待つ方法です。
メリット:
- 痛みや処置による心理的負担がない
- 費用がかからない
- 瘢痕(傷跡)が残らない
デメリット:
- 治癒まで時間がかかる(6ヶ月〜数年)
- その間に自家接種で数が増える可能性がある
- 他人への感染リスクが続く
- プールや集団生活に制限がかかる場合がある
適している場合:
- 数が少ない(10個以下程度)
- 本人や家族が治療を希望しない
- 痛みを伴う処置を避けたい
- 集団生活での制限が問題にならない
摘除法(ピンセットによる除去)
方法の概要 専用のピンセットで水いぼを一つずつつまみ取る方法です。日本では最も一般的に行われている治療法の一つです。
処置の流れ:
- 必要に応じて局所麻酔テープ(ペンレステープなど)を貼付
- 30分〜1時間後、効果が出たら摘除開始
- 特殊なピンセットで水いぼをつまみ取る
- 出血があれば圧迫止血
- 消毒して終了
メリット:
- 即効性がある(その場で水いぼが除去される)
- 確実性が高い
- 保険適用される
- 他の治療法に比べて比較的短期間で完治する
デメリット:
- 処置時に痛みを伴う
- 子どもにとって恐怖心や不安が大きい
- 出血や一時的な炎症が起こる
- 処置後のケアが必要
- まれに色素沈着や小さな瘢痕が残ることがある
注意点:
- 数が多い場合は複数回に分けて処置することがある
- 処置後は入浴や激しい運動を控える
- 出血部位は清潔に保つ
液体窒素療法(冷凍凝固療法)
方法の概要 マイナス196度の液体窒素を水いぼに押し当てて凍結させ、組織を壊死させる治療法です。
処置の流れ:
- 液体窒素を染み込ませた綿棒を用意
- 各水いぼに5〜10秒程度押し当てる
- 凍結と融解を数回繰り返すこともある
- 1〜2週間ごとに複数回治療を行う
メリット:
- 摘除法に比べて痛みが少ない
- 外来で簡単に実施できる
- 保険適用される
- 尋常性疣贅(いぼ)にも効果的
デメリット:
- 複数回の通院が必要
- 一度に多数の水いぼを治療できない
- 処置後に水疱ができることがある
- 色素沈着や色素脱失が残る可能性がある
- 小児では恐怖心を抱くことがある
適している場合:
- 数が比較的少ない
- 摘除法が困難な部位にある
- 定期的な通院が可能
硝酸銀塗布法
方法の概要 硝酸銀溶液を水いぼに塗布し、化学的に組織を壊死させる方法です。日本では伝統的に用いられてきた治療法の一つです。
処置の流れ:
- 硝酸銀ペーストまたは溶液を水いぼに塗布
- 周囲の正常皮膚に付着しないよう注意
- 1〜2週間ごとに繰り返し塗布
メリット:
- 痛みが比較的少ない
- 外来で簡単に実施できる
- 複数の水いぼに同時に塗布可能
デメリット:
- 複数回の処置が必要
- 塗布部位が黒く変色する(一時的)
- 効果が出るまで時間がかかる
- 周囲の正常皮膚に付着すると炎症を起こす
注意点:
- 硝酸銀による黒い変色は数週間で消えますが、衣服などに付着すると取れにくいため注意が必要です
ヨクイニン(漢方薬)内服
方法の概要 ハトムギの種子から抽出した生薬「ヨクイニン」を内服する方法です。免疫機能を高め、ウイルスの排除を促進すると考えられています。
服用方法:
- 通常、1日2〜3回に分けて服用
- 効果が現れるまで数ヶ月かかることがある
- 他の治療法と併用することも可能
メリット:
- 痛みや恐怖心がない
- 自宅で継続できる
- 副作用が比較的少ない
- 保険適用される
- 免疫力の向上が期待できる
デメリット:
- 効果の発現まで時間がかかる
- 効果に個人差がある
- 科学的な有効性のエビデンスが限定的
- 毎日の服用が必要
適している場合:
- 痛みを伴う処置を避けたい
- 数が多く摘除が困難
- 長期的な治療を受け入れられる
- 他の治療法と併用したい
イミキモド外用療法
方法の概要 イミキモドクリーム(商品名:ベセルナクリーム)は、免疫反応を活性化させる外用薬です。水いぼに対しては保険適用外ですが、海外では使用されることがあります。
使用方法:
- 就寝前に水いぼに塗布
- 翌朝、石鹸で洗い流す
- 週に3回程度、数週間から数ヶ月継続
メリット:
- 自宅でケアできる
- 痛みがない
- 複数の水いぼに同時に使用可能
デメリット:
- 日本では保険適用外(自費診療)
- 局所的な炎症(発赤、かゆみ)が起こることが多い
- 効果に個人差がある
- 比較的高価
その他の治療法
レーザー治療 炭酸ガスレーザーなどで水いぼを蒸散させる方法です。痛みを軽減するため麻酔が必要で、主に自費診療となります。
カンタリジン塗布 水疱を形成させる薬剤ですが、日本では未承認のため使用されていません。
レチノイド外用 角化を調整する外用薬ですが、水いぼへの効果は限定的です。
治療法の選択:何を基準に決めるか
治療法を選択する際には、以下のような要素を総合的に考慮します:
- 水いぼの数と分布:少数であれば摘除、多数であれば経過観察やヨクイニンなど
- 子どもの年齢と理解度:痛みを伴う処置への耐性
- 生活環境:プールや集団生活での制約
- 家族の希望:治療に対する考え方
- 通院の利便性:定期的な通院が可能か
- 費用:保険適用の有無
アイシークリニック大宮院では、これらの要素を丁寧にお伺いし、患者さん一人ひとりに最適な治療法をご提案しています。
日常生活での注意点と予防法
家庭でできるケア
1. 患部を触らない、掻かない 水いぼを触ったり掻いたりすると、自家接種により他の部位に広がってしまいます。特に入浴後は皮膚が柔らかくなり、ウイルスが広がりやすいので注意が必要です。
2. 保湿ケアを徹底する 乾燥肌やアトピー性皮膚炎があると、皮膚のバリア機能が低下し、水いぼが増えやすくなります。入浴後は必ず保湿剤を塗布し、皮膚を健康な状態に保ちましょう。
3. タオルや衣類の共有を避ける 家族間でのタオル、衣類、寝具の共有は避けましょう。特に、水いぼがある部位に直接触れたタオルは、使い回さないことが重要です。
4. 爪を短く切る 爪が長いと、無意識に水いぼを掻いてしまい、ウイルスが広がりやすくなります。こまめに爪を短く切り、清潔に保ちましょう。
5. 患部を覆う 服で覆える部位であれば、水いぼが露出しないよう衣類で保護することも有効です。ただし、通気性の悪い状態は避け、蒸れないように注意しましょう。
プールや集団生活での対応
プール利用について 水いぼがあっても、文部科学省や日本小児皮膚科学会のガイドラインでは、プールの利用を一律に禁止する必要はないとされています。プールの水を介して感染することはほとんどないためです。
ただし、以下の点に注意が必要です:
- ビート板や浮き輪の共有は避ける
- タオルの共有は絶対にしない
- プール後はシャワーでしっかり洗い流す
- 患部を水着や専用のテープで覆う(施設によっては必須)
施設によっては独自のルールがある場合もあるため、事前に確認することをお勧めします。
保育園・幼稚園での対応 厚生労働省の保育所における感染症対策ガイドラインでは、水いぼがあっても登園を制限する必要はないとされています。
しかし、以下のような配慮は必要です:
- 園に水いぼがあることを伝える
- 患部を衣類で覆えるようにする
- 自家接種を防ぐため爪を短く保つ
- 他の子どもとの密接な接触を避ける配慮
感染予防のポイント
家族内での感染予防
- 兄弟姉妹がいる場合、タオルや衣類を別々にする
- 入浴は感染している子どもを最後にするか、シャワーのみにする
- 患部を触った後は必ず手を洗う
- 寝具はこまめに洗濯し、清潔に保つ
スキンケアによる予防
- 毎日の保湿ケアで皮膚バリアを強化
- アトピー性皮膚炎がある場合は、適切な治療を継続
- 皮膚の乾燥を防ぐため、適度な湿度を保つ
- 刺激の少ない石鹸やボディソープを使用
免疫力の維持
- 規則正しい生活リズム
- バランスの取れた食事
- 十分な睡眠
- 適度な運動
- ストレスの軽減
やってはいけないこと
1. 自己判断で水いぼを潰す 家庭で無理に水いぼを潰すと、細菌感染のリスクがあるだけでなく、周囲に大量のウイルスを撒き散らすことになります。処置は必ず医療機関で行いましょう。
2. 民間療法の過信 インターネット上には様々な民間療法が紹介されていますが、科学的根拠のないものも多く、かえって症状を悪化させる可能性があります。
3. 過度な消毒 アルコール消毒や殺菌石鹸の過度な使用は、皮膚のバリア機能を損ない、かえって感染しやすい状態を作ってしまいます。
4. 水いぼを隠すために絆創膏を貼りっぱなし 通気性が悪くなると、蒸れて二次感染のリスクが高まります。

よくある質問(Q&A)
A: いいえ、必ずしも治療が必要というわけではありません。水いぼは最終的には自然治癒する疾患です。日本皮膚科学会のガイドラインでも、治療するかどうかは患者さんの状況や希望に応じて決定するとされています。
ただし、以下のような場合は治療を検討することをお勧めします:
数が多く、急速に増えている
顔など目立つ部位にある
かゆみや炎症を伴っている
プールや集団生活で制限がかかる
本人や家族が治療を希望する
A: 摘除法(ピンセットでの除去)は処置時に痛みを伴いますが、局所麻酔テープを使用することで痛みを軽減できます。液体窒素療法も一瞬の冷たさと刺激がありますが、多くの子どもが耐えられる程度です。
痛みが心配な場合は、ヨクイニンの内服など痛みのない治療法もありますので、医師と相談して最適な方法を選びましょう。
Q3: 兄弟姉妹に感染しますか?
A: 直接的な皮膚接触や、タオルなどの共有物を介して感染する可能性はあります。しかし、適切な予防措置(タオルを別にする、患部を覆うなど)を取ることで、感染リスクを大幅に減らすことができます。
Q4: プールに入れますか?
A: 現在の医学的見解では、水いぼがあってもプールの利用を一律に禁止する必要はないとされています。ただし、施設によって独自のルールがある場合もあるため、事前に確認することをお勧めします。また、ビート板やタオルの共有は避け、患部を覆うなどの配慮をしましょう。
Q5: 大人にも感染しますか?
A: はい、大人にも感染する可能性はありますが、小児に比べると頻度は低いです。成人での感染は、免疫機能が低下している場合や、性的接触による性器周囲の感染などが主です。
Q6: 治療後、再発することはありますか?
A: 治療で全ての水いぼを除去しても、潜伏期間中の感染があれば新たに水いぼが出現することがあります。また、完全に治癒した後でも、再度ウイルスに感染すれば再発する可能性があります。
Q7: 水いぼが治るまでどのくらいかかりますか?
A: 自然治癒の場合、一般的に6ヶ月から2年程度かかりますが、個人差が大きく、3〜4年かかることもあります。摘除法などの治療を行えば、その時点で水いぼは除去されますが、新たな水いぼが出現しないとは限りません。
Q8: 妊娠中に子どもから感染することはありますか?
A: 妊娠中でも感染する可能性はありますが、水いぼ自体が胎児に影響を与えることはありません。ただし、免疫機能の変化により、やや感染しやすくなる可能性があるため、予防措置は重要です。
Q9: アトピー性皮膚炎があると水いぼになりやすいですか?
A: はい、アトピー性皮膚炎がある方は、皮膚のバリア機能が低下しているため、水いぼに感染しやすく、また一度感染すると広がりやすい傾向があります。適切なアトピー治療と保湿ケアを継続することが重要です。
Q10: 水いぼの跡は残りますか?
A: 自然治癒した場合、通常は跡は残りません。ただし、治療方法によっては、一時的な色素沈着や小さな瘢痕が残ることがあります。特に、摘除法や液体窒素療法後は、数ヶ月間、色素沈着が残ることがありますが、ほとんどの場合は徐々に目立たなくなります。
まとめ
水いぼ(伝染性軟属腫)は、小児に多く見られる一般的な皮膚疾患です。伝染性軟属腫ウイルスによって引き起こされ、特徴的な真珠様の光沢を持つ丘疹が皮膚に出現します。
重要なポイント:
- 自然治癒する疾患:水いぼは最終的には自然に治る疾患であり、必ずしも積極的な治療が必要というわけではありません。
- 治療法の選択:摘除法、液体窒素療法、ヨクイニン内服など、複数の治療オプションがあります。患者さんの状況や希望に応じて最適な方法を選択することが重要です。
- 予防の重要性:タオルの共有を避ける、保湿ケアを徹底する、患部を触らないなど、日常生活での予防措置が感染拡大を防ぎます。
- 集団生活での配慮:プールや保育園の利用は、適切な配慮をすれば可能です。過度な制限は必要ありません。
- 早めの受診:水いぼかどうか判断がつかない場合や、急速に増えている場合は、早めに皮膚科を受診しましょう。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の権威ある情報源を参考にしました:
- 日本皮膚科学会 – 皮膚科診療ガイドライン
- 厚生労働省 – 保育所における感染症対策ガイドライン
- 国立感染症研究所 – 感染症情報
- 日本小児皮膚科学会 – 水いぼ診療の手引き
- 日本臨床皮膚科医会 – 伝染性軟属腫の診療指針
本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門医の診断を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務