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敗血症とは|命を脅かす感染症の重症化について知る

はじめに

風邪や怪我による感染症は、私たちにとって身近な健康問題です。しかし、これらの感染症が適切に治療されない場合や、免疫力が低下している状態では、「敗血症」という命に関わる危険な状態に進行することがあります。

敗血症は、感染症に対する身体の過剰な免疫反応によって、全身の臓器機能が障害される重篤な病態です。かつては「血液の敗北」という意味で使われていましたが、現在では感染症による全身性の炎症反応症候群として理解されています。

日本国内では年間約37万人が敗血症を発症し、そのうち約10万人が命を落としているとされています。これは交通事故による死亡者数の約30倍にあたる数字であり、決して稀な病気ではありません。早期発見と迅速な治療開始が生死を分ける疾患だからこそ、正しい知識を持つことが重要です。

本記事では、敗血症の基礎知識から最新の治療法まで、一般の方にもわかりやすく詳しく解説していきます。

敗血症とは何か

敗血症の定義

敗血症(はいけつしょう、英語:Sepsis)とは、細菌やウイルスなどの微生物による感染症に対して、身体の免疫システムが過剰に反応することで、自分自身の組織や臓器にダメージを与えてしまう状態を指します。

2016年に国際的な専門家グループによって発表された「Sepsis-3」という新しい定義では、敗血症は「感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」と定義されています。

つまり、単なる感染症ではなく、感染症によって引き起こされた全身性の炎症反応が、心臓、肺、腎臓、肝臓などの重要な臓器の機能を低下させてしまう状態なのです。

敗血症と関連する用語

敗血症を理解する上で、いくつかの関連用語を知っておくことが重要です。

全身性炎症反応症候群(SIRS)

感染症に限らず、外傷や熱傷などによっても引き起こされる全身性の炎症反応のことです。以下の4項目のうち2項目以上を満たす場合にSIRSと診断されます。

  • 体温:38℃以上または36℃以下
  • 心拍数:90回/分以上
  • 呼吸数:20回/分以上、またはPaCO2 32mmHg以下
  • 白血球数:12,000/μL以上、4,000/μL以下、または未熟白血球10%以上

敗血症性ショック

敗血症の中でも特に重症な状態で、血圧が著しく低下し、十分な輸液を行っても正常な血圧を維持できない状態です。死亡率は40%以上と非常に高く、緊急の集中治療が必要となります。

多臓器不全(MOF)

敗血症が進行すると、複数の臓器が同時に機能不全に陥る状態です。一般的に2つ以上の臓器系統が障害される場合を指します。

敗血症の重症度分類

現在、敗血症の重症度は主に「qSOFA(quick SOFA)スコア」と「SOFAスコア」という2つの評価システムで判定されます。

qSOFAスコア(簡易版)

救急外来や一般病棟で迅速に評価できる指標で、以下の3項目を評価します。

  1. 呼吸数:22回/分以上
  2. 意識レベル:GCS(グラスゴー・コマ・スケール)13点以下
  3. 収縮期血圧:100mmHg以下

これらのうち2項目以上該当する場合、敗血症の可能性が高く、集中治療が必要となる可能性があります。

SOFAスコア

呼吸、凝固、肝臓、循環、中枢神経、腎臓の6つの臓器系統を評価し、それぞれを0~4点でスコア化します。感染症によってSOFAスコアが2点以上上昇した場合、敗血症と診断されます。

敗血症の原因

感染症の種類

敗血症は様々な感染症から発症する可能性があります。主な原因となる感染症を部位別に見ていきましょう。

肺炎(最も多い原因)

敗血症の原因として最も多いのが肺炎です。特に高齢者や免疫力が低下している方では、肺炎から敗血症に進行するリスクが高まります。肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌などの細菌が主な原因菌となります。

尿路感染症

腎盂腎炎や複雑性尿路感染症も敗血症の重要な原因です。特に高齢者では尿路感染症が原因で敗血症を発症するケースが多く見られます。大腸菌が最も多く、その他クレブシエラ、緑膿菌なども原因となります。

腹腔内感染症

虫垂炎(盲腸)、胆嚢炎、憩室炎、腹膜炎などの腹腔内の感染症も敗血症の原因となります。腹腔内には多様な細菌が存在するため、しばしば複数の菌による混合感染となります。

皮膚・軟部組織感染症

蜂窩織炎、壊死性筋膜炎、褥瘡(床ずれ)の感染などが原因となることがあります。特に糖尿病患者では、足の潰瘍から敗血症に至るケースが見られます。

カテーテル関連血流感染症

中心静脈カテーテルや末梢静脈カテーテルなどの医療器具を介した感染も重要な原因です。黄色ブドウ球菌やカンジダなどが主な原因菌となります。

原因微生物

敗血症を引き起こす微生物は多岐にわたります。

細菌

  • グラム陽性菌:黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌など
  • グラム陰性菌:大腸菌、クレブシエラ、緑膿菌、アシネトバクターなど
  • 嫌気性菌:バクテロイデス、クロストリジウムなど

真菌

カンジダやアスペルギルスなどの真菌も、特に免疫力が著しく低下した患者では敗血症の原因となります。

ウイルス

インフルエンザウイルス、COVID-19(新型コロナウイルス)、サイトメガロウイルスなども、重症化すると敗血症様の状態を引き起こすことがあります。

リスク要因

以下のような条件に該当する方は、敗血症を発症しやすいとされています。

年齢

  • 65歳以上の高齢者
  • 1歳未満の乳児

加齢に伴う免疫機能の低下や、乳児の未熟な免疫システムが原因となります。

基礎疾患

  • 糖尿病
  • 慢性腎臓病
  • 肝硬変
  • 悪性腫瘍(がん)
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 心不全
  • HIV感染症

これらの疾患は免疫機能を低下させるため、感染症が重症化しやすくなります。

免疫抑制状態

  • ステロイド薬や免疫抑制薬の長期使用
  • 抗がん剤治療中
  • 臓器移植後
  • 脾臓摘出後

医療行為に関連する要因

  • 長期入院
  • 集中治療室での治療
  • 人工呼吸器の使用
  • 中心静脈カテーテルの留置
  • 尿道カテーテルの長期留置
  • 手術直後

生活習慣

  • 過度の飲酒
  • 喫煙
  • 栄養不良

敗血症の病態メカニズム

炎症反応の暴走

通常、私たちの身体は細菌やウイルスなどの病原体が侵入すると、免疫システムが活性化して炎症反応を起こします。この炎症反応は、病原体を排除し、損傷した組織を修復するための正常な防御機構です。

しかし、敗血症では、この炎症反応が制御不能となり、過剰に活性化してしまいます。具体的には以下のような現象が起こります。

サイトカインストーム

免疫細胞から大量のサイトカイン(炎症性物質)が放出され、全身に広がります。特にTNF-α、IL-1、IL-6などの炎症性サイトカインが過剰に産生されることで、正常な組織にまでダメージを与えてしまいます。

血管透過性の亢進

過剰な炎症反応により血管の壁が緩み、血液中の水分が血管外に漏れ出します。これにより血圧が低下し、臓器への血流が減少します。

微小循環障害

全身の細い血管(毛細血管)で血流が滞り、組織への酸素供給が不足します。また、血液が固まりやすくなり(播種性血管内凝固:DIC)、さらに血流障害が悪化します。

臓器障害の進行

血流障害と炎症性物質により、以下のような臓器障害が進行します。

循環器系

心臓の収縮力が低下し、血管が拡張することで血圧が著しく低下します(敗血症性ショック)。十分な輸液を行っても血圧を維持できなくなり、昇圧薬の投与が必要となります。

呼吸器系

肺の炎症により、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症することがあります。肺胞が障害され、酸素を血液中に取り込むことが困難になります。人工呼吸器による管理が必要となる場合があります。

腎臓

血流低下により腎臓の機能が障害され、急性腎障害を発症します。尿量が減少し、老廃物が体内に蓄積します。重症例では透析治療が必要となります。

肝臓

肝細胞が障害され、肝機能が低下します。黄疸が出現したり、血液凝固因子の産生が低下したりします。

中枢神経系

脳への血流低下や炎症性物質の影響により、意識レベルが低下します。せん妄(意識の混乱)や昏睡状態に至ることもあります。

消化器系

腸管の血流低下により、腸管粘膜のバリア機能が破綻します。これにより腸内細菌が血液中に侵入しやすくなり、感染症がさらに悪化する悪循環が生じます。

敗血症の症状

初期症状

敗血症の初期段階では、以下のような症状が見られます。

発熱または低体温

38℃以上の高熱、または逆に36℃以下の低体温が見られます。高齢者では発熱が目立たない場合もあり、注意が必要です。

頻脈

心拍数が90回/分以上に増加します。安静にしていても動悸を感じることがあります。

頻呼吸

呼吸回数が増加し、息苦しさを感じます。呼吸数が22回/分以上になると、重症化のサインとなります。

悪寒・戦慄

激しい寒気やふるえを伴うことがあります。何枚も毛布をかけても温まらないような寒気が特徴的です。

全身倦怠感

強い疲労感や脱力感があり、起き上がることも困難になります。

進行した症状

敗血症が進行すると、以下のような重篤な症状が現れます。

意識障害

ぼんやりとして反応が鈍くなる、日時や場所がわからなくなる、会話がかみ合わない、呼びかけに反応しないなどの症状が見られます。

血圧低下

収縮期血圧が100mmHg以下に低下します。さらに進行すると、輸液を行っても血圧を維持できない敗血症性ショックに至ります。

尿量減少

腎臓の機能低下により、尿の量が著しく減少します(0.5mL/kg/時以下)。

皮膚の変化

  • 皮膚が冷たく湿っぽくなる
  • 皮膚が青白くなる、またはまだらになる
  • 紫斑(皮下出血)が出現する

呼吸困難

息切れが激しくなり、横になっていられなくなります。酸素飽和度が低下します。

臓器障害の症状

  • 黄疸(肝障害)
  • 腹痛や下痢(消化管障害)
  • 出血傾向(凝固障害)

高齢者の特徴的な症状

高齢者では典型的な症状が見られないことがあり、注意が必要です。

  • 発熱が目立たない、または低体温
  • 食欲不振や活動性の低下
  • 転倒しやすくなる
  • 急な認知機能の低下
  • せん妄(意識の混乱)

これらの非特異的な症状も、敗血症の初期サインである可能性があります。

敗血症の診断

診断の流れ

敗血症が疑われる場合、速やかに以下のような診断プロセスが進められます。

問診と身体診察

医師は患者の症状、既往歴、最近の感染症の有無などを詳しく聞き取ります。また、バイタルサイン(体温、脈拍、血圧、呼吸数、酸素飽和度)を測定し、全身状態を評価します。

感染巣の特定

敗血症の原因となっている感染症の場所を特定することが重要です。肺炎、尿路感染症、腹腔内感染症など、どこに感染の焦点があるかを診察や画像検査で調べます。

検査項目

血液検査

敗血症の診断と重症度評価のために、以下の血液検査が行われます。

  • 白血球数:増加または著しい減少
  • CRP(C反応性蛋白):炎症の指標として上昇
  • プロカルシトニン:細菌感染で特異的に上昇する指標
  • 血小板数:減少(DICの指標)
  • 凝固機能検査:PT、APTT、フィブリノゲン、Dダイマーなど
  • 肝機能:AST、ALT、ビリルビンの上昇
  • 腎機能:クレアチニン、BUNの上昇
  • 電解質:ナトリウム、カリウム、カルシウムなど
  • 血糖値:高血糖または低血糖
  • 乳酸値:組織の酸素不足の指標として上昇
  • 動脈血液ガス分析:酸塩基平衡、酸素化の評価

血液培養検査

血液中に細菌やカンジダが存在するかを調べる最も重要な検査です。通常、異なる部位から2セット以上採取します。結果が判明するまでに2~5日かかりますが、原因菌の特定と適切な抗菌薬の選択に不可欠です。

その他の培養検査

感染が疑われる部位から検体を採取し、培養検査を行います。

  • 喀痰培養(肺炎の場合)
  • 尿培養(尿路感染症の場合)
  • 創部培養(皮膚感染症の場合)
  • 腹水培養(腹腔内感染症の場合)

画像検査

感染巣の特定と臓器障害の評価のために、以下の画像検査が行われます。

  • 胸部X線検査:肺炎の有無を確認
  • 腹部超音波検査:胆嚢炎や腹腔内膿瘍の評価
  • CT検査:詳細な感染巣の評価、臓器障害の確認
  • 心エコー検査:心機能の評価、心内膜炎の除外

重症度評価

前述のqSOFAスコアやSOFAスコアを用いて、敗血症の重症度を評価します。これにより、集中治療の必要性や予後の予測が可能となります。

敗血症の治療

敗血症の治療は「時間との戦い」です。発症から1時間以内に適切な治療を開始することが、生存率を大きく左右します。

初期蘇生(最初の1時間)

バンドルアプローチ

敗血症の初期治療では、「Hour-1 Bundle」と呼ばれる以下の治療を1時間以内に開始することが推奨されています。

  1. 血液培養採取(抗菌薬投与前)
  2. 乳酸値の測定
  3. 広域抗菌薬の投与
  4. 低血圧または乳酸値4mmol/L以上の場合、30mL/kgの急速輸液
  5. 輸液後も低血圧が持続する場合、昇圧薬の使用

輸液療法

血管内の水分が血管外に漏れ出し、循環血液量が減少しているため、大量の輸液が必要となります。初期には晶質液(生理食塩水や乳酸リンゲル液)を用いた急速輸液が行われます。

ただし、過剰な輸液は肺水腫などの合併症を引き起こすため、心機能や肺の状態をモニタリングしながら慎重に行います。

抗菌薬療法

経験的治療

血液培養の結果が判明する前に、予想される原因菌に対して有効な抗菌薬を投与します。感染部位や患者背景を考慮し、広域スペクトラムの抗菌薬を選択します。

一般的に使用される抗菌薬の組み合わせ:

  • カルバペネム系抗菌薬(メロペネム、イミペネムなど)
  • 広域ペニシリン系+βラクタマーゼ阻害薬(タゾバクタム・ピペラシリンなど)
  • 第3世代または第4世代セフェム系抗菌薬

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が疑われる場合は、バンコマイシンやリネゾリドなどを追加します。

標的治療

血液培養や各種培養検査の結果が判明したら、原因菌に対してより適切な抗菌薬に変更します(de-escalation)。これにより副作用を減らし、耐性菌の出現を防ぐことができます。

循環管理

昇圧薬の使用

十分な輸液を行っても血圧が維持できない場合、昇圧薬を使用します。

  • ノルアドレナリン(ノルエピネフリン):第一選択薬
  • バソプレシン:追加薬として使用
  • ドパミン、アドレナリン:状況に応じて使用

循環モニタリング

中心静脈カテーテルや動脈カテーテルを留置し、血圧や心機能を持続的にモニタリングします。場合によっては心エコーやPiCCOなどの高度なモニタリング機器を使用します。

呼吸管理

酸素療法

低酸素血症に対して、酸素投与を行います。鼻カニューレ、酸素マスク、リザーバーマスクなど、患者の状態に応じて投与方法を選択します。

人工呼吸器管理

重症の呼吸不全では、気管挿管を行い人工呼吸器による管理が必要となります。ARDSを合併している場合は、低一回換気量戦略(肺保護換気)が推奨されます。

補助療法

血糖コントロール

敗血症では血糖値が変動しやすくなります。高血糖は予後を悪化させるため、インスリンを使用して血糖値を110~180mg/dL程度に維持します。

栄養管理

早期に経腸栄養(胃管などから栄養剤を投与)を開始することが推奨されます。消化管の機能を維持し、免疫機能の低下を防ぐ効果があります。

輸血療法

重症貧血がある場合は赤血球輸血を行います。DICによる血小板減少や凝固因子の低下に対しては、血小板輸血や新鮮凍結血漿の投与が検討されます。

腎代替療法(透析)

急性腎障害により腎機能が著しく低下した場合、持続的腎代替療法(CRRT)や血液透析が必要となります。

ステロイド療法

敗血症性ショックで昇圧薬に反応しない場合、低用量ヒドロコルチゾンの投与が検討されることがあります。

感染源のコントロール

外科的介入

感染源が膿瘍(膿のたまり)や壊死組織などの場合、外科的にドレナージ(排膿)やデブリドマン(壊死組織の除去)が必要となります。

例:

  • 腹腔内膿瘍のドレナージ
  • 壊死性筋膜炎のデブリドマン
  • 感染した留置カテーテルの抜去
  • 胆嚢炎に対する胆嚢摘出術

これらの処置は、可能な限り早期に(理想的には12時間以内に)行うことが推奨されています。

集中治療室での管理

重症敗血症や敗血症性ショックの患者は、集中治療室(ICU)での管理が必要となります。24時間体制で医師や看護師が監視し、状態の変化に迅速に対応します。

ICUでは以下のようなモニタリングと治療が行われます:

  • 持続的な血圧、心拍数、酸素飽和度のモニタリング
  • 尿量の正確な測定
  • 定期的な血液検査による臓器機能の評価
  • 人工呼吸器や血液浄化装置などの生命維持装置の使用
  • 褥瘡予防や栄養管理などの全身管理

敗血症の予後と合併症

死亡率

敗血症の死亡率は重症度によって大きく異なります。

  • 敗血症:10~20%
  • 重症敗血症:20~40%
  • 敗血症性ショック:40~60%

早期発見と適切な治療により、生存率を改善できることが示されています。特に、症状出現から1時間以内の抗菌薬投与が生存率向上の鍵となります。

短期的合併症

多臓器不全

複数の臓器が同時に機能不全に陥る状態で、敗血症の最も重篤な合併症です。障害される臓器の数が多いほど、死亡率が高くなります。

播種性血管内凝固症候群(DIC)

全身の血管内で血液が凝固し、同時に出血傾向も生じる重篤な状態です。紫斑、臓器出血、臓器梗塞などを引き起こします。

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

肺の炎症により呼吸不全が進行する状態で、人工呼吸器による長期管理が必要となることがあります。

急性腎障害

腎機能の急激な低下により、透析が必要となる場合があります。多くの場合、腎機能は回復しますが、一部の患者では慢性腎臓病へ移行することがあります。

長期的後遺症

敗血症から回復した後も、以下のような長期的な健康問題を抱える患者が少なくありません。これらは「Post-Sepsis Syndrome(敗血症後症候群)」と呼ばれています。

身体的後遺症

  • 慢性疲労:極度の疲れやすさが数ヶ月~数年続く
  • 筋力低下:長期臥床や筋肉の異化亢進により筋力が低下する
  • 関節痛や筋肉痛の持続
  • 呼吸機能の低下
  • 慢性腎臓病
  • 心機能の低下

認知機能障害

  • 記憶力の低下
  • 集中力の低下
  • 判断力の低下
  • 認知症のリスク増加

研究によると、敗血症の既往がある高齢者は、そうでない高齢者に比べて認知症の発症リスクが約3倍高いことが報告されています。

精神的後遺症

  • PTSD(心的外傷後ストレス障害):集中治療室での体験がトラウマとなる
  • うつ病:敗血症後にうつ症状が出現する患者が約30%存在する
  • 不安障害

再発リスク

敗血症を経験した患者は、その後も感染症にかかりやすく、再び敗血症を発症するリスクが高くなります。1年以内の再入院率は約40%と報告されています。

リハビリテーション

敗血症後の回復には、適切なリハビリテーションが重要です。

  • 早期離床:可能な限り早く床上から離れ、座位や立位の練習を開始
  • 理学療法:筋力トレーニング、歩行練習など
  • 作業療法:日常生活動作の回復支援
  • 言語聴覚療法:嚥下機能の評価と訓練(必要な場合)
  • 認知リハビリテーション:認知機能の改善を目指した訓練
  • 栄養管理:適切な栄養摂取による筋肉量の回復

敗血症の予防

敗血症を完全に予防することは困難ですが、リスクを減らすために以下のような対策が有効です。

感染症の予防

ワクチン接種

以下のワクチンは、敗血症の原因となる重症感染症を予防するのに有効です。

  • 肺炎球菌ワクチン:65歳以上、慢性疾患のある方に推奨
  • インフルエンザワクチン:毎年の接種が推奨
  • COVID-19ワクチン:重症化予防のために接種が推奨
  • 破傷風トキソイド:外傷時の敗血症予防

手洗いと手指消毒

最も基本的かつ重要な感染予防策です。流水と石鹸で20秒以上手を洗うか、アルコール系手指消毒薬を使用します。

  • 食事の前後
  • トイレの後
  • 外出から帰宅した時
  • 咳やくしゃみの後
  • 傷の手当ての前後

創傷の適切なケア

  • 傷は清潔な水で洗い流す
  • 抗菌薬入りの軟膏を塗布
  • 清潔なガーゼで覆う
  • 赤み、腫れ、痛み、膿が出るなどの感染徴候があれば早めに受診

慢性疾患の管理

糖尿病、慢性腎臓病、肝硬変などの基礎疾患がある方は、病気をしっかりコントロールすることが重要です。定期的に主治医を受診し、処方された薬を適切に服用しましょう。

早期発見・早期受診

以下のような症状がある場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。

すぐに受診すべき症状

  • 38℃以上の高熱と激しい悪寒
  • 息苦しさや呼吸が早い
  • 激しい痛み
  • 尿量の著しい減少
  • 皮膚が冷たく湿っている
  • 意識がもうろうとする
  • 動悸が激しい

特に、高齢者や基礎疾患のある方、免疫抑制薬を使用している方は、症状が軽くても早めに受診することが推奨されます。

医療関連感染の予防

入院中や医療処置を受ける際には、以下の点に注意が必要です。

  • カテーテル(点滴の管や尿道カテーテルなど)は必要最小限の期間のみ使用
  • 医療従事者の手指衛生の徹底
  • 抗菌薬の適正使用(耐性菌の出現を防ぐ)
  • 早期離床と経腸栄養の開始

生活習慣の改善

免疫力を維持・向上させるための生活習慣も重要です。

栄養バランス

  • タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取
  • 特にビタミンCやビタミンDは免疫機能に重要

十分な睡眠

  • 1日7~8時間の質の良い睡眠
  • 睡眠不足は免疫機能を低下させる

適度な運動

  • ウォーキングなどの有酸素運動
  • 筋力トレーニング
  • ただし、過度な運動は逆効果

ストレス管理

  • 慢性的なストレスは免疫機能を低下させる
  • リラクゼーション、趣味、適度な休息

禁煙・節酒

  • 喫煙は肺の防御機能を低下させる
  • 過度の飲酒は免疫機能を抑制する

敗血症に関するよくある質問

Q1. 敗血症は人から人へうつりますか?

A. 敗血症そのものは人から人へうつることはありません。敗血症は感染症に対する身体の反応であって、感染症そのものではないためです。ただし、敗血症の原因となった感染症(インフルエンザや肺炎など)は、病原体の種類によっては他の人にうつる可能性があります。

Q2. 風邪をこじらせると敗血症になりますか?

A. 通常の風邪が敗血症に進行することは稀ですが、免疫力が低下している場合や、二次感染(細菌による肺炎など)が起こった場合には、敗血症に至る可能性があります。特に高齢者や基礎疾患のある方は注意が必要です。症状が悪化する、高熱が続く、呼吸困難が出現するなどの場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

Q3. 敗血症は完治しますか?

A. 早期に発見され適切な治療を受ければ、多くの患者は回復します。ただし、重症例では死亡率が高く、また回復後も長期的な後遺症(慢性疲労、認知機能障害、筋力低下など)が残る場合があります。リハビリテーションや定期的なフォローアップが重要です。

Q4. 敗血症の治療期間はどのくらいですか?

A. 敗血症の重症度や原因によって大きく異なりますが、一般的な入院期間は以下の通りです。

  • 軽症~中等症:7~14日程度
  • 重症(ICU管理が必要):2~4週間以上
  • 敗血症性ショック:数週間~数ヶ月

抗菌薬の投与期間は通常7~14日間ですが、感染源や原因菌によって延長されることがあります。

Q5. 敗血症になったら必ず集中治療室に入りますか?

A. すべての敗血症患者が集中治療室(ICU)に入るわけではありません。軽症~中等症の敗血症であれば、一般病棟での治療が可能です。しかし、以下のような場合はICU管理が必要となります。

  • 敗血症性ショック
  • 人工呼吸器が必要な呼吸不全
  • 持続的な昇圧薬の投与が必要
  • 複数の臓器不全
  • 血液浄化療法(透析)が必要

Q6. 家族が敗血症と診断されました。面会時に注意することはありますか?

A. 敗血症の患者は免疫機能が低下しているため、面会者からの感染を防ぐことが重要です。

  • 面会前に必ず手洗いまたは手指消毒を行う
  • 風邪症状がある場合は面会を控える
  • 医療スタッフの指示に従う(ガウンやマスクの着用が求められる場合があります)
  • 患者を励まし、精神的なサポートを提供することも回復に役立ちます

Q7. 敗血症の再発は防げますか?

A. 敗血症を経験した方は再発リスクが高いため、以下の対策が重要です。

  • 定期的な健康診断
  • ワクチン接種(肺炎球菌、インフルエンザなど)
  • 基礎疾患の適切な管理
  • 感染症の早期発見と早期治療
  • 免疫力を維持する生活習慣(栄養、睡眠、運動)
  • 主治医との定期的なフォローアップ

Q8. 敗血症の治療費はどのくらいかかりますか?

A. 敗血症の治療費は重症度や入院期間によって大きく異なります。ICUでの集中治療が必要な場合、数百万円に及ぶこともあります。ただし、日本では健康保険が適用されるため、自己負担額は医療費の1~3割となります。さらに、高額療養費制度により、1ヶ月の自己負担額には上限が設けられています(所得により異なります)。詳細は各医療機関の医療相談室やソーシャルワーカーにお尋ねください。

まとめ

敗血症は、感染症に対する身体の過剰な免疫反応によって全身の臓器が障害される重篤な疾患です。年間約37万人が発症し、約10万人が命を落としている、決して稀ではない病気です。

敗血症の重要ポイント

  1. 早期発見が命を救う:発症から1時間以内の治療開始が生存率を大きく向上させます
  2. 危険なサイン:高熱、息苦しさ、意識の変化、血圧低下、尿量減少などの症状が見られたら、すぐに医療機関を受診しましょう
  3. ハイリスク者:高齢者、慢性疾患のある方、免疫抑制状態の方は特に注意が必要です
  4. 予防が重要:ワクチン接種、手洗い、創傷の適切なケア、基礎疾患の管理などで感染症を予防することが敗血症の予防につながります
  5. 長期的なケア:回復後も後遺症が残る場合があり、リハビリテーションと定期的なフォローアップが必要です

敗血症は早期発見・早期治療により救命できる疾患です。疑わしい症状がある場合は、ためらわずに医療機関を受診することが何より大切です。


参考文献

  1. 日本集中治療医学会・日本救急医学会「日本版敗血症診療ガイドライン2020(J-SSCG2020)」
    https://www.jsicm.org/publication/jjsicm27_Suppl2.html
  2. 日本集中治療医学会「敗血症情報サイト」
    https://www.jsicm.org/sepsis/index.html
  3. 厚生労働省「感染症対策」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html
  4. 日本救急医学会「敗血症の早期認識と初期対応」
    https://www.jaam.jp/
  5. 日本感染症学会「感染症診療の手引き」
    http://www.kansensho.or.jp/
  6. 国立感染症研究所「感染症情報センター」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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