はじめに
お子さんが急に発熱や咳で苦しそうにしている姿を見るのは、親御さんにとって何よりも辛いものです。特に乳幼児に多く見られる「RSウイルス感染症」は、症状が風邪に似ているため見過ごされがちですが、実は重症化すると入院が必要になることもある病気です。
本記事では、RSウイルス感染症について、その基本的な知識から最新の予防法まで、わかりやすく解説していきます。お子さんの健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
RSウイルス感染症とは
RSウイルスの正体
RSウイルス感染症は、正式には「Respiratory Syncytial Virus infection(呼吸器合胞体ウイルス感染症)」と呼ばれる呼吸器の感染症です。RSウイルスは世界中に広く分布しており、日本でも毎年多くの感染者が報告されています。
このウイルスの特徴は、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の子どもが少なくとも1度は感染するという、非常に一般的な感染症であることです。また、一度感染しても終生免疫は得られないため、生涯にわたって何度も感染と発症を繰り返します。
どれくらいの人が感染するのか
日本国内では、毎年約12万~14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、約4分の1にあたる約3万人が入院を必要とすると推定されています。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%がRSウイルスによるものとされており、小児の呼吸器感染症の主要な原因となっています。
世界的に見ても、RSウイルスに関連した気道感染症は年間3,300万件、入院が360万件、死亡が10万件発生していると推定されており、決して軽視できない感染症といえます。
RSウイルス感染症の症状
潜伏期間と初期症状
RSウイルスに感染すると、通常2~8日間(典型的には4~6日間)の潜伏期間を経て症状が現れます。初期症状としては以下のようなものが見られます。
- 発熱
- 鼻水
- 鼻づまり
- 咳
これらの症状は一見すると普通の風邪と変わりません。実際、初感染した乳幼児の約70%は、鼻水などの上気道炎症状のみで数日のうちに軽快します。
重症化した場合の症状
しかし、約30%では症状が悪化し、以下のような下気道症状が出現することがあります。
主な下気道症状
- 激しい咳
- 喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)
- 呼吸困難
- 呼吸が速くなる(多呼吸)
- 胸がへこむ呼吸(陥没呼吸)
重症化すると、細気管支炎や肺炎へと進展していきます。特に注意が必要なのは、生後1か月未満の新生児です。新生児の場合、典型的な症状を呈さないこともあり、以下のような症状が現れることがあります。
新生児における注意すべき症状
- 無呼吸発作(呼吸が一時的に止まる)
- 哺乳不良
- 活気不良
- チアノーゼ(皮膚や唇が紫色になる)
無呼吸発作は突然死につながる危険性もある重篤な症状ですので、細心の注意が必要です。
重篤な合併症
RSウイルス感染症では、以下のような重篤な合併症が起こることもあります。
- 無呼吸発作
- 急性脳症
- 重症肺炎
これらの合併症は、迅速な対応が必要となる緊急性の高い状態です。
年齢別の症状の違い
RSウイルス感染症の症状は、年齢や感染回数によって大きく異なります。
乳幼児(特に初感染時) 初回感染時はより重症化しやすく、特に生後6か月未満で感染した場合には、細気管支炎や肺炎など重症化するリスクが高くなります。月齢別の入院発生数を見ると、生後1~2か月時点でピークとなるため、生後早期からの予防対策が重要です。
幼児期の再感染 再感染での発症は多く見られますが、その多くは軽い風邪様症状で済みます。
成人 通常は感冒様症状(普通の風邪と同じような症状)のみです。しかし、RSウイルスに感染した小児を看護する保護者や医療スタッフでは、一度に大量のウイルスに曝露して感染することによって、症状が重くなる場合があります。
高齢者 慢性呼吸器疾患等の基礎疾患を有する高齢者では、急性の重症肺炎を起こす原因となることが知られています。特に長期療養施設内での集団発生が問題となる場合があります。
RSウイルスの感染経路
主な感染経路
RSウイルスは、主に以下の2つの経路で感染が広がります。
1. 飛沫感染 RSウイルスに感染している人が咳やくしゃみ、あるいは会話をした際に、口から飛び散るしぶき(飛沫)を浴びて吸い込むことにより感染します。
2. 接触感染
- RSウイルスに感染している人との直接の濃厚接触
- 感染者が触れたことによりウイルスがついた手指や物品(ドアノブ、手すり、スイッチ、机、椅子、おもちゃ、コップなど)を触ったり、なめたりすることで感染
RSウイルスは環境表面(テーブルや手すりなど)で数時間生存できるため、触れた手指で目・鼻・口を触ることによっても伝播します。
なお、麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)のような空気感染はしないと考えられています。
感染しやすい場所
以下のような場所では、特に感染リスクが高くなります。
- 保育園・幼稚園
- 小児科の待合室
- 家庭内(特に兄姉がいる場合)
- 高齢者施設
特に、兄姉のいる赤ちゃんは、上のお子さんが保育園や幼稚園でもらってきたRSウイルスに感染してしまう場合が多いため、風邪気味のご兄姉がいる場合は、赤ちゃんから距離を置くことが大切です。
RSウイルス感染症の流行時期
従来の流行パターン
かつては、RSウイルス感染症は秋から冬にかけて流行するとされていました。特に11月から1月頃にピークを迎えるのが典型的なパターンでした。
近年の流行パターンの変化
しかし、新型コロナウイルス感染症の流行以降、RSウイルスの流行パターンに大きな変化が見られています。
2021年(令和3年)以降は、夏に流行のピークがみられるようになりました。これは、新型コロナウイルス感染症対策として行われた感染予防行動(マスク着用、手洗い、外出自粛など)の影響で、2020年にはRSウイルスの流行が著しく抑制されたことが関係していると考えられています。
その結果、RSウイルスに対する免疫を持たない子どもが増加し、感染対策が緩和された時期に大規模な流行が起こるという現象が見られました。
地域による違い
RSウイルスの流行状況は地域によっても異なります。都市部では人口密度が高いため感染が広がりやすい傾向があります。定点当たり報告数が多い地域としては、宮城県、沖縄県、徳島県、新潟県、福島県、宮崎県、山口県、鹿児島県、岩手県、和歌山県、福井県、石川県などが挙げられています。
重症化しやすい人
特に注意が必要な乳幼児
以下のような乳幼児は、RSウイルス感染症で重症化するリスクが高いとされています。
- 月齢が低い乳児:特に生後6か月未満、中でも生後3か月未満
- 早産児:在胎期間が短いほどリスクが高い
- 低出生体重児:出生時の体重が軽かった子ども
- 慢性肺疾患を有する児:気管支肺異形成症など
- 先天性心疾患を有する児:血行動態に異常がある場合
- 免疫不全状態の児
- ダウン症候群の児
- 神経筋疾患を有する児
これらのハイリスク児では、細気管支炎や肺炎などの下気道感染症に至るリスクが特に高く、入院や集中治療が必要になることがあります。
高齢者のリスク
高齢者、特に以下のような基礎疾患を有する方も重症化のリスクがあります。
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 喘息
- うっ血性心不全
- その他の慢性呼吸器疾患・心疾患
高齢者では肺炎を併発したり、入院が必要になったり、最悪の場合は死亡するリスクもあるため、注意が必要です。
RSウイルス感染症の診断
診断方法
RSウイルス感染症が疑われる場合、インフルエンザウイルスの検査と同じように、鼻水または鼻の穴に綿棒のようなものを入れ、鼻粘膜のぬぐい液を採取して迅速検査を行います。検査結果は約15分程度で判明します。
検査の保険適用
ただし、この検査には保険適用に制限があります。以下の場合のみ保険診療として検査が可能です。
- 入院中の患者
- 外来では1歳未満の乳児
- RSウイルス感染症の重症化を抑える薬剤(パリビズマブやニルセビマブ)の使用を検討する患者
1歳以上のお子さんは重症化のリスクが比較的低く、また後述するように特別な治療法もないことから、保険診療内での検査は対象外となっています。1歳以上で検査を希望される場合は、自費診療での対応となります。
診断のポイント
医師は、以下のような情報を総合的に判断して診断します。
- 症状(発熱、咳、鼻水、呼吸困難など)
- 身体診察(聴診での喘鳴の確認など)
- 年齢
- 流行状況
- 重症化リスク因子の有無
必ずしもすべての患者に検査が必要というわけではなく、臨床症状や重症度、リスク因子などを考慮して、検査の必要性を判断します。
RSウイルス感染症の治療
基本的な治療方針
RSウイルス感染症に対する特効薬や確立された抗ウイルス治療法は現在のところありません。そのため、治療は基本的に対症療法(症状を和らげる治療)が中心となります。
軽症例の治療
軽症の場合は、以下のような対症療法を行います。
薬物療法
- 解熱薬(発熱時)
- 去痰薬(痰を出しやすくする薬)
- 気管支拡張薬(必要に応じて)
理学療法
- 吸入療法(気道を加湿し、痰を出しやすくする)
- 体位ドレナージ(痰を出しやすくする体位を取る)
ホームケア
- 十分な水分補給
- 栄養補給
- 安静
- 環境調整(適度な湿度、温度管理)
重症例の治療
呼吸困難が強いなど重症化した場合は、入院が必要となり、以下のような治療が行われます。
- 酸素投与:血中の酸素濃度が低下している場合
- 輸液療法:脱水の改善
- 呼吸管理:必要に応じて人工呼吸器を使用
- 栄養管理:経管栄養など
入院患者の約1割は人工呼吸器の使用が必要になるという報告もあり、重症化すると集中治療が必要になる場合があります。
治療のゴール
治療の目標は、症状を和らげながら患者自身の免疫力でウイルスを排除できるよう体力の回復を助けることです。多くの場合、適切な対症療法により数日から1週間程度で回復していきます。
RSウイルス感染症の予防
基本的な感染予防対策
RSウイルスの感染予防には、以下の基本的な対策が有効です。
接触感染対策
- 手洗い:流水と石鹸による丁寧な手洗い
- 手指消毒:アルコール製剤による手指衛生
- 環境消毒:子どもたちが日常的に触れるおもちゃ、手すり、ドアノブなどをこまめにアルコールや塩素系の消毒剤で消毒
飛沫感染対策
- マスクの着用:鼻汁、咳などの呼吸器症状がある場合、マスクが着用できる年齢の子どもや大人はマスクを使用
- 咳エチケット:咳やくしゃみをする際は、ティッシュや肘で口を覆う
日常生活での注意点
- 乳幼児との接触を避ける:再感染では感冒様症状または気管支炎症状のみの場合が多く、RSウイルス感染症と気づかれていない年長児や成人が存在しています。症状がある場合は、可能な限り乳幼児との接触を避けることが大切です
- 流行期の外出を控える:特にハイリスク児の場合
- 保育園・幼稚園での感染対策の徹底
医療的な予防手段
近年、RSウイルス感染症に対する新しい予防手段が承認され、選択肢が広がっています。
1. 妊婦へのワクチン接種(母子免疫ワクチン)
製品名:アブリスボ筋注用
妊婦に接種することで、母体のRSウイルスに対する中和抗体価を高め、胎盤を通じて母体から胎児へ中和抗体が移行することにより、生まれた後の赤ちゃんをRSウイルスから守ります。
特徴
- 接種時期:妊娠24~36週(特に28~36週に接種するとより高い効果が期待される)
- 接種回数:1回、筋肉内注射
- 効果:入院を要する重症なRSウイルス感染症を生後90日の時点で約80%、生後180日の時点で約70%防ぐ効果
- 安全性:妊婦の接種部位の痛みや腫れが出ることはあるが、赤ちゃんや妊婦への重篤な安全性の懸念は報告されていない
2. 乳幼児への抗体製剤投与
(1)ニルセビマブ(ベイフォータス)
RSウイルスに対する長時間作用型のモノクローナル抗体製剤です。
特徴
- 対象:生後初回のRSV流行期を迎える新生児・乳幼児、およびハイリスク児
- 投与回数:1シーズンに1回のみ
- 効果期間:約5~6か月
- 有効性:RSウイルス感染症による入院に対する予防効果は約90%
- 承認時期:2024年3月
保険適用
- ハイリスク児には保険適用
- 基礎疾患のない正期産児への投与は現在検討中(保険適用外の場合は自費診療となり、高額)
(2)パリビズマブ(シナジス)
従来から使用されている抗RSウイルスモノクローナル抗体製剤です。
特徴
- 対象:ハイリスク児(早産児、慢性肺疾患、先天性心疾患などを有する児)
- 投与回数:RSV流行期に月1回、流行期間中(約5~8か月間)継続投与
- 投与量:1回15mg/kg、筋肉注射
- 保険適用:あり(適応基準を満たす場合)
パリビズマブの主な適応
- 在胎期間28週以下の早産児で、12か月齢以下
- 在胎期間29~35週の早産児で、6か月齢以下
- 過去6か月以内に気管支肺異形成症の治療を受けた24か月齢以下
- 血行動態に異常のある先天性心疾患の24か月齢以下
- 免疫不全を伴う24か月齢以下
- ダウン症候群の24か月齢以下
- その他、日本小児科学会のガイドラインに定める条件
3. 高齢者へのワクチン接種
製品名:アレックスビー筋注用
60歳以上の高齢者を対象とした組換えRSウイルスワクチンです。
特徴
- 対象:60歳以上の成人(製品によっては50~59歳のハイリスク者も対象)
- 接種回数:1回、筋肉内注射
- 承認時期:2023年9月
予防手段の選択
どの予防手段を選択するかは、以下の要因によって決まります。
- 児の年齢・月齢
- 基礎疾患の有無
- 早産の有無と在胎週数
- 流行状況
- 家族構成(兄姉の有無など)
- 経済的な面
予防手段の選択については、必ず医療機関で相談し、お子さんの状態に最も適した方法を選ぶようにしましょう。
家庭でのケアと注意点
自宅療養中の注意点
RSウイルス感染症と診断され、自宅で療養する場合は、以下の点に注意してケアを行います。
1. 水分補給
- 発熱や鼻水で脱水になりやすいため、こまめな水分補給を心がける
- 母乳やミルク、経口補水液などを少量ずつ頻回に与える
- 哺乳力が低下している場合は、スプーンやスポイトなどを使用
2. 栄養管理
- 食欲が低下している場合は、無理に食べさせず、水分補給を優先
- 消化の良いものを少量ずつ与える
3. 環境調整
- 室温:20~25度程度
- 湿度:50~60%程度を保つ(加湿器の使用など)
- 定期的な換気
4. 体位の工夫
- 鼻づまりや呼吸困難がある場合は、上体を少し起こした姿勢で寝かせる
- 横向きの姿勢も呼吸を楽にすることがある
5. 鼻水・鼻づまりのケア
- 鼻吸い器で鼻水を吸引
- 生理食塩水での鼻洗浄
6. 観察のポイント 以下のような状態変化に注意して観察します。
- 呼吸の様子(回数、深さ、苦しそうか)
- 哺乳量・食事量
- 水分摂取量と尿量
- 顔色
- 活気の有無
- 体温
こんな症状があったらすぐに受診
以下のような症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
緊急性が高い症状
- 呼吸困難(息を吸うたびに胸がへこむ、肩で息をする)
- 呼吸が非常に速い
- 唇や顔色が悪い(チアノーゼ)
- ぐったりして反応が鈍い
- けいれん
- 無呼吸(呼吸が止まる)
早めの受診が望ましい症状
- 38度以上の発熱が3日以上続く
- 咳がひどくなり、眠れない
- 喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)が強い
- 哺乳量・食事量が普段の半分以下
- おしっこの回数が明らかに減った
- 機嫌が悪く、ずっとぐずっている
家族内感染の予防
家族内にRSウイルス感染症の患者がいる場合、以下の点に注意して感染拡大を防ぎます。
1. 隔離
- 可能であれば、患者を別室で療養させる
- 特に、乳幼児や高齢者など重症化リスクの高い家族との接触を最小限にする
2. マスクの着用
- 看病する人はマスクを着用
- 患者本人も、可能な年齢であればマスクを着用
3. 手洗いと消毒の徹底
- 患者のケア後は必ず手洗い
- ドアノブ、スイッチ、おもちゃなど、患者が触れた場所を定期的に消毒
4. タオルや食器の共用を避ける
- 患者専用のタオルを用意
- 食器は別々に洗う、またはよく洗浄する
5. 換気
- 定期的に部屋の換気を行う
保育園・幼稚園への登園
RSウイルス感染症は、学校保健安全法では「学校において予防すべき感染症」に分類されていませんが、多くの保育園・幼稚園では独自の基準を設けています。
一般的な登園の目安としては、以下のような条件が挙げられます。
- 発熱がなくなってから24時間以上経過している
- 全身状態が良好である
- 咳が軽減し、日常生活に支障がない程度になっている
- 食事が摂れている
ただし、各施設によって基準が異なるため、必ず所属する保育園・幼稚園の方針を確認してください。また、登園許可が必要な場合は、医師の診断書や登園許可証が求められることもあります。
RSウイルス感染症と喘息の関係
長期的な影響
近年の研究により、乳幼児期のRSウイルス感染症が、その後の喘息発症と関連している可能性が指摘されています。
スウェーデンでの長期追跡調査では、RSウイルス感染症により入院した経験がある小児は、そうでない小児と比較して、3歳、7歳、13歳における喘息の発症率が一貫して高かったことが報告されています。
因果関係について
ただし、この関連性については以下のような考え方があります。
- RSウイルス感染症が気道に炎症を起こし、その後の喘息発症につながる
- もともと喘息になりやすい体質の子どもが、RSウイルス感染症でも重症化しやすい
現時点では、どちらが正しいのか、あるいは両方の要因が関与しているのかは完全には解明されていません。今後のさらなる研究が待たれるところです。
実際の対応
いずれにしても、乳幼児期のRSウイルス感染症を予防することは、その後の呼吸器系の健康にとっても重要であると考えられます。特にハイリスク児では、利用可能な予防手段を積極的に検討することが推奨されます。

よくある質問(Q&A)
はい、何度もかかります。RSウイルスに対しては終生免疫が得られないため、生涯にわたって感染と発症を繰り返します。ただし、再感染の場合は初回感染時よりも症状が軽いことが多く、多くは軽い風邪程度で済みます。
はい、大人も感染します。成人の場合、通常は感冒様症状(普通の風邪と同じような症状)のみです。ただし、小児を看護する保護者や医療スタッフは、大量のウイルスに曝露することで症状が重くなる場合があります。また、慢性呼吸器疾患を有する高齢者では重症肺炎を起こすことがあります。
Q3:RSウイルス感染症の検査は必ず必要ですか?
いいえ、必ずしも全員に必要というわけではありません。保険適用での検査は、入院中の患者、1歳未満の乳児、重症化予防薬の使用を検討する患者に限られています。1歳以上の外来患者では、臨床症状から総合的に判断して治療を行うことが一般的です。
Q4:兄弟間での感染を防ぐにはどうすればいいですか?
完全に防ぐことは難しいですが、以下の対策が有効です。
- 風邪症状のある兄姉は、赤ちゃんとの接触を最小限にする
- こまめな手洗いと消毒
- おもちゃの共用を避ける、またはこまめに消毒
- 兄姉がマスクを着用できる年齢であれば着用する
Q5:保育園でRSウイルスが流行していますが、登園させても大丈夫ですか?
お子さんの年齢と重症化リスクを考慮して判断してください。特に1歳未満、中でも生後6か月未満の乳児や、早産児、心肺疾患のある児など重症化リスクが高い場合は、流行期の登園を控えることも検討してください。かかりつけ医に相談することをお勧めします。
Q6:予防のワクチンや薬はいつ受けられますか?
- 妊婦へのワクチン(アブリスボ):妊娠24~36週
- 乳幼児への抗体製剤(ベイフォータス):RSV流行期前または流行初期
- 乳幼児への抗体製剤(シナジス):RSV流行開始前から流行期間中、月1回
- 高齢者へのワクチン(アレックスビー):60歳以上であればいつでも可能
詳しくは医療機関にご相談ください。
Q7:兄姉がRSウイルスに感染しました。新生児への感染を防ぐにはどうすればよいですか?
新生児は特にRSウイルス感染症で重症化しやすいため、厳重な注意が必要です。
- 可能であれば別室で過ごさせる
- 兄姉が新生児に近づかないようにする
- 看病する大人は、兄姉のケア後に必ず手洗いと着替えをしてから新生児に接する
- 新生児の世話をする人と、兄姉の看病をする人を分ける
Q8:RSウイルス感染症にかかったら、どれくらいで治りますか?
軽症の場合、通常は1週間程度で回復します。ただし、咳は2~4週間続くこともあります。重症化した場合は、入院期間も含めて数週間かかることもあります。
まとめ
RSウイルス感染症は、乳幼児に非常に多く見られる呼吸器感染症です。多くは軽症で済みますが、特に生後6か月未満の乳児や早産児、基礎疾患を有する児では重症化するリスクがあります。
重症化を防ぐためには、以下のポイントが重要です。
- 基本的な感染予防対策の徹底:手洗い、消毒、マスク着用などの基本的な対策
- ハイリスク児への予防手段の検討:ワクチンや抗体製剤の利用
- 早期発見と適切な対応:症状の観察と必要に応じた速やかな受診
- 家族全体での感染対策:特に乳幼児がいる家庭では家族全員の協力が必要
近年、妊婦へのワクチンや長時間作用型の抗体製剤など、新しい予防手段が利用可能になりました。お子さんの状態に応じて、かかりつけ医と相談しながら、適切な予防策を選択していくことが大切です。
RSウイルス感染症について正しい知識を持ち、適切な予防と対応を行うことで、お子さんの健康を守ることができます。
参考文献
本記事は、以下の信頼できる情報源に基づいて作成されています。
- 厚生労働省「RSウイルス感染症」
- 厚生労働省「RSウイルス感染症Q&A」
- 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「RSウイルス感染症とは」
- 国立健康危機管理研究機構「注目すべき感染症 RSウイルス感染症」
- 国立成育医療研究センター「RSウイルス感染症」
- 日本小児科学会「RSウイルス母子免疫ワクチンに関する考え方」
- 日本小児科学会「RSウイルス感染症の現状と注意事項について」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務