はじめに
「疲れが取れない」「だるさが抜けない」「すぐに疲労回復したい」――現代社会において、多くの方がこのような悩みを抱えています。仕事や家事、育児など日々の生活の中で蓄積される疲労は、パフォーマンスの低下だけでなく、心身の健康にも大きな影響を及ぼします。
本記事では、疲労回復に即効性のある方法について、医学的根拠に基づきながら、今日からすぐに実践できる具体的な対策をご紹介します。疲労のメカニズムから、効果的な回復方法、そして医療機関を受診すべきタイミングまで、総合的に解説していきます。
疲労とは何か?そのメカニズムを理解する
疲労の定義
疲労とは、過度の肉体的・精神的活動、あるいは疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態を指します。日本疲労学会では、疲労を「運動や労働などの身体活動、あるいは精神活動によって引き起こされる作業効率の低下と休息の必要性を示す生体の警告反応」と定義しています。
疲労は本来、身体からの重要なサインです。「休息が必要である」という身体のメッセージであり、無視し続けると深刻な健康問題につながる可能性があります。
疲労が発生するメカニズム
疲労の発生には複数のメカニズムが関与していますが、近年の研究により以下のような過程が明らかになっています。
1. エネルギー代謝の変化
身体活動を行うと、筋肉や脳はエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を消費します。このエネルギー産生の過程で、疲労物質と呼ばれる代謝産物が蓄積します。かつては乳酸が疲労物質の代表とされていましたが、現在では活性酸素やアンモニア、リン酸などが注目されています。
2. 自律神経の疲弊
長時間の活動により、自律神経系の調整機能が低下します。特に交感神経が優位な状態が続くと、身体は常に緊張状態となり、回復のための副交感神経への切り替えがうまくいかなくなります。
3. 酸化ストレス
細胞のエネルギー産生過程で発生する活性酸素は、過剰になると細胞を傷つけ、疲労感を引き起こします。抗酸化システムとのバランスが崩れると、酸化ストレスが増大し、疲労が蓄積しやすくなります。
4. 神経伝達物質の変化
脳内の神経伝達物質、特にセロトニンやドーパミンのバランスが崩れることで、精神的な疲労感が生じます。これは意欲の低下や集中力の欠如として現れます。
5. 炎症反応
身体的・精神的ストレスにより、体内で軽度の炎症反応が起こります。サイトカインと呼ばれる炎症性物質が増加し、これが倦怠感や疲労感を引き起こすことが知られています。
疲労の種類
疲労は大きく分けて以下の3つのタイプに分類されます。
1. 身体的疲労(肉体疲労)
筋肉や身体を使った活動によって生じる疲労です。運動、肉体労働、長時間の立ち仕事などが原因となります。筋肉の張りや痛み、重だるさなどの症状が特徴です。
2. 精神的疲労(心理的疲労)
ストレス、緊張、不安などの心理的要因によって生じる疲労です。人間関係の悩み、プレッシャー、心配事などが原因となります。意欲低下、イライラ、気分の落ち込みなどの症状が現れます。
3. 神経的疲労(脳疲労)
長時間のデスクワーク、パソコン作業、細かい作業などによって生じる疲労です。目の疲れ、頭痛、集中力の低下、判断力の鈍化などが特徴です。
実際には、これらの疲労は互いに関連し合っており、複合的に生じることが多いのが現実です。
即効性のある疲労回復方法:今すぐ実践できる対策
ここからは、疲労回復に即効性が期待できる具体的な方法をご紹介します。疲労のタイプや状況に応じて、適切な方法を選択してください。
1. 栄養補給による即効的回復
疲労時には、エネルギー不足や栄養素の欠乏が起きていることがあります。適切な栄養補給により、比較的短時間で疲労感を軽減できる場合があります。
糖質補給
脳と筋肉のエネルギー源となるブドウ糖の補給は、疲労回復の基本です。
おすすめの食品:
- バナナ:すぐにエネルギーに変わる糖質と、神経伝達に必要なビタミンB群を含む
- おにぎり:消化吸収が早く、エネルギー補給に最適
- はちみつ:単糖類が豊富で、即座にエネルギーに変換される
- あめやチョコレート:血糖値を素早く上昇させ、脳の活動をサポート
ポイント: 空腹時の疲労には特に効果的ですが、過剰摂取は血糖値の乱高下を招くため、適量を心がけましょう。
ビタミンB群の補給
ビタミンB群は、糖質・脂質・タンパク質の代謝に不可欠な栄養素で、エネルギー産生を助けます。特にビタミンB1(チアミン)、B2(リボフラビン)、B6(ピリドキシン)、B12(コバラミン)は疲労回復に重要です。
おすすめの食品:
- 豚肉:ビタミンB1が豊富で、糖質代謝を促進
- レバー:各種ビタミンB群をバランスよく含む
- 納豆:ビタミンB群とタンパク質が豊富
- 卵:完全栄養食品として多様な栄養素を含む
- 玄米:白米よりもビタミンB1を多く含む
クエン酸の摂取
クエン酸は、クエン酸回路(エネルギー産生の中心的な代謝経路)を活性化させ、疲労物質の代謝を促進します。
おすすめの食品:
- レモン、グレープフルーツなどの柑橘類
- 梅干し
- 黒酢
- トマト
アミノ酸の補給
特定のアミノ酸は、疲労回復に直接的な効果があることが研究で示されています。
BCAA(分岐鎖アミノ酸): バリン、ロイシン、イソロイシンの3つのアミノ酸で、筋肉のエネルギー源となり、運動時の疲労を軽減します。
おすすめの食品:
- 鶏肉、牛肉などの肉類
- マグロ、カツオなどの魚類
- 牛乳、チーズ
- 大豆製品
グルタミン: 免疫機能の維持や腸管の健康に重要で、ストレス時に消費が増加します。
水分補給
脱水状態は疲労感を増強させます。体重の2%の水分が失われるだけで、パフォーマンスが低下することが知られています。
効果的な水分補給:
- こまめに少量ずつ飲む(一度に大量に飲まない)
- 運動後や発汗時は、電解質を含むスポーツドリンクも有効
- カフェイン飲料は利尿作用があるため、水分補給としては適さない場合がある
2. 休息と睡眠による回復
疲労回復の最も基本的で効果的な方法は、適切な休息と睡眠です。
パワーナップ(短時間仮眠)
15〜20分程度の短時間仮眠は、認知機能の回復や疲労感の軽減に即効性があることが多くの研究で示されています。
効果的なパワーナップの方法:
- 時間は15〜20分以内に設定(30分以上は深い睡眠に入り、起床後の眠気を招く)
- 午後2〜3時頃が最も効果的
- 完全に横にならず、椅子に座った状態や机に伏せる程度が理想
- 暗く静かな環境を作る
- 目覚まし時計をセットする
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」でも、午後の早い時刻に30分以内の短い昼寝をすることが、作業能率の改善に効果的であることが示されています。
横になって休む
たとえ眠れなくても、横になって目を閉じるだけで身体への負担が軽減され、疲労回復効果があります。
ポイント:
- 10〜15分間でも効果あり
- 足を心臓より高い位置に上げると、血液循環が促進され、むくみや疲労の軽減に効果的
- 深呼吸をしながら休むと、さらにリラックス効果が高まる
3. 入浴・温熱療法
温熱刺激は、血液循環の改善、筋肉の緊張緩和、自律神経の調整など、多面的な疲労回復効果があります。
全身浴
効果的な入浴方法:
- 温度:38〜40℃のぬるめのお湯
- 時間:10〜15分程度
- タイミング:就寝の1〜2時間前が理想
- 入浴剤:炭酸ガス系や血行促進効果のあるものが効果的
ぬるめのお湯にゆっくりつかることで、副交感神経が優位になり、リラックス効果が得られます。また、静水圧により血液循環が促進され、老廃物の排出が促されます。
部分浴(手浴・足浴)
時間がない時や全身浴が難しい場合は、部分浴でも効果があります。
手浴:
- 40〜42℃のお湯に手首まで10〜15分つける
- デスクワークで疲れた手指の疲労回復に効果的
- 自律神経の調整にも効果がある
足浴:
- 40〜42℃のお湯に足首まで15〜20分つける
- 全身の血行促進効果がある
- 冷え性の改善にも効果的
- 就寝前に行うと睡眠の質が向上する
温冷交代浴
温かいお湯と冷たい水を交互に浴びる方法で、血管の収縮と拡張を繰り返すことで血行を促進します。
方法:
- 40℃前後の温水に2〜3分入る
- 20℃前後の冷水に30秒〜1分入る
- これを3〜5回繰り返す
- 最後は温水で終わる
注意: 心臓に負担がかかるため、高血圧や心臓疾患のある方は避けてください。
4. ストレッチと軽い運動
疲労時には「休む」というイメージが強いですが、軽い運動は「アクティブレスト(積極的休養)」として、疲労回復に効果的です。
ストレッチング
筋肉の緊張をほぐし、血行を促進するストレッチは、即効性のある疲労回復方法です。
効果的なストレッチ:
首・肩のストレッチ:
- 首をゆっくり前後左右に倒す(各方向10秒キープ)
- 肩を大きく回す(前回し・後ろ回し各10回)
- 肩甲骨を寄せて胸を開く(10秒キープ)
腰のストレッチ:
- 椅子に座り、上体をゆっくりひねる(左右各10秒)
- 立った状態で、上体を前後左右にゆっくり倒す
脚のストレッチ:
- ふくらはぎを伸ばす(アキレス腱伸ばし)
- 太ももの前後を伸ばす
ポイント:
- 反動をつけず、ゆっくりと伸ばす
- 痛みを感じない範囲で行う
- 呼吸を止めず、ゆっくり深呼吸しながら行う
- 各ストレッチを20〜30秒キープする
軽い有酸素運動
軽いウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、血液循環を促進し、疲労物質の代謝を促します。
おすすめの運動:
- 軽いウォーキング:10〜20分程度
- ラジオ体操
- ヨガ
- 軽いサイクリング
ポイント:
- 息が上がらない程度の強度で行う
- 「心地よい」と感じる範囲で行う
- 疲労が強い時は無理をしない
5. マッサージ・指圧
筋肉の緊張をほぐし、血行を促進するマッサージは、特に身体的疲労に即効性があります。
セルフマッサージ
専門家によるマッサージが理想ですが、自分でできる簡単なマッサージでも効果があります。
首・肩のマッサージ:
- 首の付け根を指で円を描くように押す
- 肩の筋肉を反対側の手でつかんでもむ
- 鎖骨の下を指で押す
頭皮マッサージ:
- 指の腹で頭皮全体を揉みほぐす
- こめかみを円を描くように押す
- 首の後ろの髪の生え際を親指で押す
手のマッサージ:
- 手のひらの中心(労宮というツボ)を押す
- 手の甲の親指と人差し指の間(合谷というツボ)を押す
- 各指を付け根から先端まで揉む
足のマッサージ:
- 足の裏全体を親指で押す
- 足首を回す
- ふくらはぎを下から上に向かってさする
ツボ押し
疲労回復に効果的とされる代表的なツボをご紹介します。
百会(ひゃくえ):
- 位置:頭のてっぺん、両耳を結んだ線の中央
- 効果:頭痛、眼精疲労、ストレス緩和
風池(ふうち):
- 位置:首の後ろ、髪の生え際の外側のくぼみ
- 効果:首こり、肩こり、頭痛
足三里(あしさんり):
- 位置:膝の外側、膝のお皿の下から指4本分下
- 効果:全身の疲労回復、胃腸の調子を整える
三陰交(さんいんこう):
- 位置:内くるぶしから指4本分上
- 効果:疲労回復、冷え症、むくみ
ポイント:
- 各ツボを3〜5秒押して離すを5〜10回繰り返す
- 痛気持ちいい程度の強さで押す
- 呼吸を止めず、吐きながら押す
6. 呼吸法とリラクゼーション
深い呼吸は自律神経を整え、ストレスを軽減し、疲労回復を促進します。
腹式呼吸
方法:
- 楽な姿勢で座るか横になる
- 鼻からゆっくり息を吸い、お腹を膨らませる(4秒)
- 口からゆっくり息を吐き、お腹をへこませる(8秒)
- これを5〜10回繰り返す
効果:
- 副交感神経を優位にし、リラックス効果を得られる
- 血行促進
- 酸素供給の増加
4-7-8呼吸法
アメリカの医師アンドルー・ワイル博士が提唱した呼吸法で、短時間で深いリラックス状態に入れるとされています。
方法:
- 息を完全に吐き切る
- 鼻から4秒かけて息を吸う
- 7秒間息を止める
- 8秒かけて口から息を吐く
- これを3〜4回繰り返す
漸進的筋弛緩法
筋肉を意識的に緊張させてから緩めることで、深いリラックス状態を得る方法です。
方法:
- 手をぎゅっと握り、5秒間緊張させる
- 一気に力を抜き、10秒間リラックスする
- 腕、肩、顔、首、背中、脚など、各部位で繰り返す
7. 環境の調整
疲労回復には、周囲の環境も重要な要素です。
照明の調整
- 昼間は明るい照明で活動的に過ごす
- 夕方以降は照明を暗めにして、副交感神経を優位にする
- パソコンやスマートフォンのブルーライトを軽減する(夜間モード使用)
- 休憩時は自然光を浴びる
温度・湿度の管理
- 室温:夏は25〜28℃、冬は18〜22℃が理想
- 湿度:40〜60%を保つ
- 適度な換気で新鮮な空気を取り入れる
音環境
- 作業中は集中できる静かな環境を作る
- リラックス時は、ヒーリング音楽や自然音(川のせせらぎ、波の音など)を聴く
- 騒音がある場合は、耳栓やノイズキャンセリングイヤホンを使用
8. アロマセラピー
香りは脳の辺縁系に直接作用し、即座にリラックス効果や気分の変化をもたらします。
疲労回復に効果的な精油:
ラベンダー:
- リラックス効果が高い
- 睡眠の質を改善
- 不安やストレスを軽減
ペパーミント:
- 頭をすっきりさせる
- 集中力を高める
- 頭痛の緩和
レモン・グレープフルーツ:
- 気分をリフレッシュ
- 集中力を高める
- 抗菌作用
ローズマリー:
- 精神的疲労の回復
- 集中力と記憶力の向上
- 血行促進
使用方法:
- アロマディフューザーで室内に拡散
- ハンカチやティッシュに1〜2滴垂らして吸入
- お風呂に数滴入れる(入浴剤として)
- マッサージオイルに混ぜて使用
注意: 妊娠中の方、乳幼児、ペットがいる環境では使用を避けるべき精油もあるため、事前に確認してください。
9. カフェインの適切な摂取
カフェインには覚醒作用があり、短期的な疲労感の軽減に効果があります。
効果的な摂取方法:
- コーヒーや緑茶を1杯飲む
- 摂取後15〜30分で効果が現れ始める
- 午後3時以降の摂取は睡眠に影響するため避ける
- 1日のカフェイン摂取量は400mg以下(コーヒー約3〜4杯)に抑える
注意: カフェインは一時的な覚醒効果はありますが、疲労そのものを回復させるわけではありません。過度の依存は避け、適切な休息と併用することが重要です。
10. 笑いとポジティブな思考
笑うことは、ストレスホルモンを減少させ、エンドルフィン(幸福ホルモン)の分泌を促進し、免疫機能を高めることが研究で示されています。
実践方法:
- 好きなお笑い番組や動画を見る
- 友人と楽しい会話をする
- 面白い本やマンガを読む
- 笑顔を作るだけでも効果がある(作り笑いでも脳は反応する)
疲労の予防:日常生活でできる対策
即効性のある対策も重要ですが、そもそも疲労を溜めない生活習慣を身につけることが、長期的な健康維持には不可欠です。
1. 質の高い睡眠の確保
疲労回復の基本は、やはり十分な睡眠です。成人の場合、7〜9時間の睡眠が推奨されています。
良質な睡眠のためのポイント:
就寝前のルーティン:
- 就寝1時間前からスマートフォンやパソコンの使用を控える
- ぬるめの入浴で体温を上げ、その後の体温低下で眠気を誘う
- リラックスできる音楽を聴く
- 軽いストレッチをする
睡眠環境の整備:
- 寝室を暗く、静かに保つ
- 室温を快適に保つ(夏:25〜28℃、冬:16〜19℃)
- 寝具を清潔に保ち、体に合ったものを選ぶ
- 遮光カーテンやアイマスク、耳栓の使用を検討
生活リズムの調整:
- 毎日同じ時間に起床・就寝する
- 朝日を浴びて体内時計をリセット
- 昼寝は15〜20分以内、午後3時までに済ませる
2. バランスの取れた食事
栄養バランスの良い食事は、疲労を予防し、回復力を高めます。
基本的な食事のポイント:
三大栄養素のバランス:
- 炭水化物:エネルギー源(主食)
- タンパク質:体の構成成分(肉、魚、大豆製品、卵、乳製品)
- 脂質:エネルギー源、ホルモンの材料(適量の良質な油)
ビタミン・ミネラルの摂取:
- 緑黄色野菜を毎日摂る
- 旬の食材を取り入れる
- 海藻類、きのこ類を活用
食事のタイミング:
- 朝食を抜かない(脳と体のエネルギー補給)
- 夕食は就寝3時間前までに済ませる
- 欠食や偏食を避ける
避けるべき食習慣:
- 過度の糖質摂取(血糖値の乱高下を招く)
- 過度のアルコール摂取(睡眠の質を低下させる)
- カフェインの過剰摂取
- 加工食品や添加物の多い食品の常食
3. 適度な運動習慣
定期的な運動は、体力を向上させ、ストレス耐性を高め、睡眠の質を改善します。
推奨される運動:
有酸素運動:
- ウォーキング、ジョギング:週3〜5回、30分以上
- 水泳、サイクリング:週2〜3回
- ダンス、エアロビクス
筋力トレーニング:
- 週2〜3回
- 大きな筋肉群(脚、背中、胸)を中心に
- 自重トレーニング(腕立て伏せ、スクワットなど)から始める
柔軟性の運動:
- ストレッチ、ヨガ:毎日10〜15分
- 関節の可動域を広げる
- リラックス効果もある
運動のポイント:
- 無理のない範囲で継続する
- 楽しめる運動を選ぶ
- 通勤時に一駅歩くなど、日常生活に運動を取り入れる
- 運動前後のストレッチを忘れずに
4. ストレスマネジメント
慢性的なストレスは疲労の大きな原因です。日常的にストレスを解消する習慣を持つことが重要です。
ストレス解消法:
趣味やリラックスタイムの確保:
- 好きな音楽を聴く
- 読書をする
- ガーデニング、手芸などの趣味を楽しむ
- 自然の中で過ごす(森林浴、海辺の散歩)
社会的つながりの維持:
- 家族や友人との時間を大切にする
- コミュニティ活動に参加する
- 悩みを話せる相手を持つ
マインドフルネスや瞑想:
- 1日5〜10分、呼吸に意識を向ける
- 「今この瞬間」に集中する練習
- ストレスや不安の軽減効果がある
時間管理:
- スケジュールに余裕を持たせる
- 優先順位をつけて効率的に作業する
- 完璧主義を避け、「適度」を目指す
5. 水分補給の習慣
慢性的な脱水状態は、疲労感を引き起こします。
水分補給のポイント:
- 1日1.5〜2リットルの水分を目標に
- 起床時、食事時、入浴前後にコップ1杯の水を飲む
- 喉が渇く前に飲む
- カフェイン飲料やアルコールは水分補給としてカウントしない
6. 姿勢の改善
悪い姿勢は、筋肉への負担を増やし、疲労の原因となります。
良い姿勢のポイント:
座位:
- 椅子に深く腰掛ける
- 背筋を伸ばし、顎を引く
- 足の裏全体を床につける
- パソコン画面は目の高さより少し下に
立位:
- 左右の足に均等に体重をかける
- 膝を軽く曲げ、力を抜く
- 頭が天井から引っ張られているイメージ
長時間同じ姿勢を避ける:
- 30分〜1時間に一度は立ち上がる、歩く
- デスクワーク中も定期的にストレッチ
7. デジタルデトックス
スマートフォンやパソコンの長時間使用は、眼精疲労、脳疲労、睡眠障害を引き起こします。
デジタルデトックスの方法:
- 就寝1時間前からデジタル機器を使わない
- 休日は半日スマートフォンから離れる時間を作る
- 食事中はスマートフォンを見ない
- ブルーライトカット機能やフィルムを活用
- 20-20-20ルール:20分ごとに、20フィート(約6m)先を、20秒間見る
医療機関を受診すべき疲労のサイン
疲労の多くは、適切な休息や生活習慣の改善で回復しますが、中には病気が原因で起こる疲労もあります。以下のような症状がある場合は、医療機関での診察を検討してください。
受診を検討すべき症状
1. 長期間続く疲労
- 6ヶ月以上続く強い疲労感
- 十分な休息をとっても改善しない疲労
2. 日常生活に支障をきたす疲労
- 仕事や家事ができなくなる
- 起き上がれないほどの倦怠感
- 外出が困難になる
3. 疲労以外の症状を伴う場合
- 発熱(37.5℃以上が続く)
- 体重の急激な変化(増加・減少)
- 息切れ、動悸
- 強い頭痛やめまい
- 持続する筋肉痛や関節痛
- リンパ節の腫れ
- のどの痛みが続く
- 集中力や記憶力の著しい低下
- 睡眠障害(不眠、過眠)
- 気分の落ち込み、意欲の低下
疲労が症状として現れる主な疾患
疲労は様々な疾患の初期症状として現れることがあります。
1. 貧血
- 鉄分不足などによる貧血は、特に女性に多く見られます
- 疲労感、息切れ、めまい、動悸などの症状
2. 甲状腺機能障害
- 甲状腺ホルモンの過不足により、疲労感が生じます
- 甲状腺機能低下症:疲労感、体重増加、寒がり
- 甲状腺機能亢進症:疲労感、体重減少、動悸、発汗
3. 糖尿病
- 高血糖状態が続くと、疲労感が現れます
- 喉の渇き、頻尿、体重減少なども伴うことがある
4. 睡眠時無呼吸症候群
- 睡眠中に呼吸が止まる病気で、日中の強い眠気や疲労感が特徴
- いびきをかく、日中の眠気、集中力低下
5. うつ病・うつ状態
- 気分の落ち込みに加え、強い疲労感や意欲低下が見られます
- 睡眠障害、食欲の変化、興味や喜びの喪失
6. 慢性疲労症候群
- 原因不明の強い疲労が6ヶ月以上続く状態
- 微熱、リンパ節の腫れ、筋肉痛、思考力の低下などを伴う
7. 感染症
- インフルエンザ、肝炎、結核、HIV感染症などで疲労感が現れます
8. 心疾患
- 心不全、狭心症などで疲労感や息切れが生じます
9. 腎疾患
- 慢性腎臓病では、疲労感が主要な症状の一つです
10. がん
- 様々ながんで、疲労感が初期症状として現れることがあります

まとめ:疲労回復は総合的なアプローチが重要
疲労回復には、即効性のある対処法と、長期的な予防策の両方が重要です。
即効性のある方法:
- 適切な栄養補給(糖質、ビタミンB群、クエン酸、アミノ酸)
- 短時間の仮眠(パワーナップ)
- 入浴や温熱療法
- ストレッチや軽い運動
- マッサージやツボ押し
- 呼吸法やリラクゼーション
- 環境の調整
- アロマセラピー
長期的な予防策:
- 質の高い睡眠の確保
- バランスの取れた食事
- 適度な運動習慣
- ストレスマネジメント
- 適切な水分補給
- 姿勢の改善
- デジタルデトックス
疲労は身体からの重要なサインです。日々の生活の中で疲労と上手に付き合い、適切に対処することが、健康で充実した生活を送るための鍵となります。
ただし、長期間続く疲労や、日常生活に支障をきたすほどの疲労は、何らかの疾患が隠れている可能性もあります。心配な症状がある場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
本記事が、皆様の疲労回復と健康維持の一助となれば幸いです。
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
- 厚生労働省「e-ヘルスネット – 疲労・倦怠感」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-001.html
- 厚生労働省「e-ヘルスネット – 快眠と生活習慣」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-003.html
- 日本疲労学会 http://www.hirougakkai.com/
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
- 文部科学省「体力・運動能力調査」 https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/chousa04/tairyoku/kekka/k_detail/1421920.htm
- 環境省「熱中症予防情報サイト」 https://www.wbgt.env.go.jp/
- 日本睡眠学会 http://jssr.jp/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務