はじめに
デリケートゾーンの腫れや違和感は、多くの女性が一度は経験する症状です。しかし、その場所がプライベートな部分であるため、誰にも相談できずに一人で悩んでしまう方も少なくありません。
「小陰部が腫れているけれど、これは自然に治るのだろうか」「病院に行くべきなのか、様子を見てもよいのか」「どれくらいで治るのだろう」といった不安を抱えている方に向けて、この記事では小陰部の腫れの原因と治癒期間、適切な対処法について詳しく解説していきます。
小陰部とは、女性器の外側にある小陰唇や周囲の組織を指します。この部分が腫れる原因はさまざまで、それぞれ治るまでの期間も異なります。正しい知識を持つことで、適切な判断と対処ができるようになります。
小陰部の腫れの主な原因
小陰部が腫れる原因は多岐にわたります。ここでは代表的な原因を詳しく見ていきましょう。
1. バルトリン腺嚢胞・バルトリン腺炎
バルトリン腺は膣の入口の左右にある分泌腺で、性的興奮時に潤滑液を分泌する役割を持っています。この腺の出口が詰まると、分泌液が溜まって嚢胞(のうほう)を形成します。さらに細菌感染を起こすと、バルトリン腺炎となり、痛みを伴う腫れが生じます。
症状の特徴:
- 膣の入口の片側(または両側)が腫れる
- 触ると柔らかいしこりを感じる
- 感染すると強い痛みと発熱を伴うことがある
- 歩行時や座るときに違和感や痛みがある
治癒期間:
- 嚢胞のみの場合:数日〜数週間で自然に消失することもあるが、再発しやすい
- 感染を伴う場合:適切な治療(抗生物質投与)で1〜2週間程度
- 膿瘍形成した場合:切開排膿などの処置が必要で、完全治癒まで2〜4週間
2. 外陰炎・膣炎
外陰部や膣に炎症が起こると、腫れや赤み、かゆみが生じます。原因は細菌感染、カンジダなどの真菌感染、トリコモナスなどの原虫感染などさまざまです。
症状の特徴:
- 外陰部全体の腫れぼったさ
- かゆみ、ヒリヒリ感
- おりものの変化(量の増加、色やにおいの変化)
- 排尿時の痛み
治癒期間:
- カンジダ膣炎:適切な治療(抗真菌薬)で3〜7日程度
- 細菌性膣症:抗生物質で5〜7日程度
- トリコモナス膣炎:抗原虫薬で7〜10日程度
- 非特異的外陰炎:原因除去と適切なケアで3〜7日程度
3. 接触皮膚炎(かぶれ)
生理用品、下着、洗剤、石鹸、ボディソープなどに含まれる成分に対するアレルギー反応や刺激によって起こります。
症状の特徴:
- 外陰部の広範囲な赤みと腫れ
- 強いかゆみ
- 小さな水疱やびらんができることもある
- 原因物質との接触後、数時間〜48時間で症状が出る
治癒期間:
- 原因物質を避ければ3〜7日程度で改善
- ステロイド外用薬を使用すると2〜5日程度で症状が軽減
- 重症の場合は1〜2週間かかることもある
4. 毛嚢炎・せつ(おでき)
陰毛の毛根に細菌(主に黄色ブドウ球菌)が感染して炎症を起こす状態です。脱毛処理後や蒸れやすい環境で発症しやすくなります。
症状の特徴:
- 限局的な赤い腫れ
- 中央に膿を持つことがある
- 触ると痛みがある
- 毛穴を中心に腫れる
治癒期間:
- 軽度の毛嚢炎:3〜7日程度で自然治癒することもある
- せつ(おでき):適切な治療で1〜2週間
- 膿瘍化した場合:切開排膿後、完全治癒まで2〜3週間
5. ヘルペス(性器ヘルペス)
単純ヘルペスウイルス(主に2型)の感染によって起こります。初感染の場合は症状が強く出ることが多いです。
症状の特徴:
- 外陰部に小さな水疱が多数できる
- 水疱が破れて潰瘍になる
- 強い痛み、腫れ
- 発熱、リンパ節の腫れを伴うことがある
- 排尿時の激痛
治癒期間:
- 初感染:抗ウイルス薬による治療で2〜3週間
- 再発:治療により1〜2週間
- 治療なしでも3〜4週間で自然治癒するが、痛みが強い
6. 外陰部の打撲・外傷
自転車やバイクのサドルへの衝突、転倒、性行為時の摩擦などによる外傷で腫れが生じることがあります。
症状の特徴:
- 受傷直後から腫れが出現
- 痛み、内出血(青あざ)
- 血腫(血の塊)ができることもある
治癒期間:
- 軽度の打撲:3〜7日程度
- 血腫形成した場合:1〜2週間、大きな血腫は数週間〜1か月
- 裂傷を伴う場合:適切な処置後、2〜3週間
7. その他の原因
前庭乳頭腫症: 小陰唇内側や膣前庭部に多数の小さな突起ができる良性の変化で、腫れたように見えることがあります。治療の必要はなく、症状がなければ経過観察となります。
リンパ浮腫: 手術やリンパ節郭清後などにリンパ液の流れが滞り、外陰部が腫れることがあります。治療には専門的なアプローチが必要です。
腫瘍性病変: まれですが、外陰部の良性腫瘍や悪性腫瘍によって腫れが生じることもあります。持続する腫れや硬いしこりを触れる場合は早めの受診が必要です。
症状別の見分け方
小陰部の腫れといっても、原因によって症状の現れ方が異なります。以下の表で主な特徴を比較してみましょう。
原因 | 腫れの範囲 | 痛み | かゆみ | その他の症状 |
---|---|---|---|---|
バルトリン腺炎 | 片側に限局 | 強い | なし〜軽度 | 歩行困難、発熱 |
カンジダ膣炎 | 外陰部全体 | 軽度 | 強い | 白いおりもの |
細菌性膣症 | 外陰部全体 | 軽度 | 軽度 | 魚臭いおりもの |
接触皮膚炎 | 広範囲 | ヒリヒリ感 | 強い | 赤み、水疱 |
毛嚢炎 | 限局的 | 中等度 | なし〜軽度 | 膿、赤み |
ヘルペス | 多発性 | 非常に強い | なし | 水疱、潰瘍、発熱 |
外傷 | 受傷部位 | 中等度〜強い | なし | 青あざ、血腫 |
受診の目安とタイミング
小陰部の腫れは、以下のような場合には早めに医療機関を受診することをおすすめします。
すぐに受診すべきケース
- 強い痛みで日常生活に支障がある
- 発熱(38度以上)を伴う
- 急速に腫れが大きくなっている
- 激しい痛みで排尿ができない
- 大量の出血がある
- 呼吸困難や全身症状を伴う(アナフィラキシーの可能性)
数日以内に受診すべきケース
- セルフケアを試みても3日以上改善しない
- 水疱や潰瘍ができている
- 異常なおりものや強い悪臭がある
- しこりを触れる
- 再発を繰り返している
- 妊娠中である
様子を見てもよいケース
- 軽度の腫れで日常生活に支障がない
- 原因が明確(新しい下着を着用した、生理用品を変えたなど)
- 痛みやかゆみが軽度
- 全身状態は良好
ただし、様子を見る場合でも3〜5日経過しても改善しない場合や、症状が悪化する場合は受診してください。
医療機関での診断と治療
診断の流れ
- **問診:**医師が症状の経過、生理周期、性交渉の有無、使用している製品などについて質問します
- **視診:**外陰部の状態を目で確認します
- **触診:**腫れの硬さ、痛みの程度、可動性などを確認します
- 検査:
- おりもの検査(培養検査、顕微鏡検査)
- 血液検査(炎症反応、感染症の有無)
- 超音波検査(嚢胞や腫瘤の確認)
- 必要に応じて生検(組織検査)
治療法
薬物療法:
- 抗生物質(細菌感染の場合)
- 抗真菌薬(カンジダなどの真菌感染)
- 抗ウイルス薬(ヘルペスの場合)
- ステロイド外用薬(炎症やアレルギー反応)
- 鎮痛薬(痛みのコントロール)
外科的処置:
- バルトリン腺膿瘍の切開排膿
- バルトリン腺嚢胞の造袋術
- 血腫の除去
- 腫瘍の摘出
物理療法:
- 温座浴(ぬるま湯での洗浄)
- 冷却療法(急性期の腫れに対して)
自宅でできるケア方法
医療機関を受診するまでの間、または軽度の症状に対して自宅でできるケアをご紹介します。
基本的なケア
1. 清潔を保つ:
- 1日1〜2回、ぬるま湯で優しく洗う
- 刺激の強い石鹸は避け、低刺激性のものを使用
- 洗いすぎは逆効果なので、過度な洗浄は避ける
- 前から後ろに向かって洗う(感染予防のため)
2. 乾燥を保つ:
- 清潔なタオルで優しく押さえるように水分を拭き取る
- こすらない
- 通気性の良い綿製品の下着を着用
- きつい衣類は避ける
3. 刺激を避ける:
- 原因と思われる製品の使用を中止する
- 香料入りの製品、化学繊維の下着を避ける
- 脱毛処理は症状が治まるまで控える
- 性交渉は控える
症状別の対処法
かゆみが強い場合:
- 冷たい濡れタオルで冷やす
- 掻かないようにする(悪化の原因)
- 通気性を良くする
- 市販のデリケートゾーン用保湿剤の使用を検討
痛みがある場合:
- 温座浴(1日2〜3回、10〜15分程度)
- 市販の鎮痛薬の服用
- 安静にする
- 圧迫を避ける(ゆったりした服装)
腫れが強い場合:
- 横になって安静にする
- 患部を心臓より高い位置に保つ
- 冷却は最初の24〜48時間のみ有効
やってはいけないこと
- 自己判断で針を刺したり、膿を出そうとする
- 他人の薬を使用する
- アルコールや刺激性の強い消毒薬を使う
- 膣洗浄器(ビデ)の使用
- 民間療法や根拠のない方法を試す
予防のためにできること
小陰部の腫れを予防するために、日常生活で気をつけたいポイントをご紹介します。
日常生活での注意点
下着選び:
- 綿素材の通気性の良いものを選ぶ
- サイズの合ったものを着用する
- 毎日清潔なものに替える
- ナイロンやポリエステルの下着は避ける
生理用品:
- こまめに交換する(2〜3時間ごと)
- 肌に合わない製品は使用を避ける
- 布ナプキンの使用も検討する
- タンポンは長時間の使用を避ける
入浴・洗浄:
- 熱すぎるお湯は避ける(38〜40度程度)
- デリケートゾーン専用の低刺激性洗浄料を使う
- 洗いすぎない(1日1〜2回まで)
- 泡をしっかり洗い流す
脱毛処理:
- 清潔なカミソリを使用する
- 処理後は保湿する
- 頻繁な処理は避ける
- 処理後の肌が落ち着くまで24時間は運動などを控える
生活習慣の改善
免疫力の維持:
- バランスの取れた食事
- 十分な睡眠(7〜8時間)
- 適度な運動
- ストレス管理
- 規則正しい生活リズム
感染予防:
- 性交渉時のコンドーム使用
- パートナーとの相互理解と配慮
- 公共の温泉やプールでの感染対策
- タオルなどの共用を避ける
健康管理:
- 定期的な婦人科健診(年1回)
- 糖尿病などの基礎疾患の管理
- 抗生物質の適正使用(自己判断での中断をしない)
再発予防と長期的な対策
一度症状が治まっても、再発する可能性がある疾患もあります。特にバルトリン腺嚢胞、カンジダ膣炎、ヘルペスなどは再発しやすいことが知られています。
バルトリン腺嚢胞の再発予防
- 定期的な温座浴を習慣化する
- 締め付けの強い服装を避ける
- 再発を繰り返す場合は手術(造袋術)を検討する
- ストレスや疲労を溜めない
カンジダ膣炎の再発予防
- 抗生物質使用後は特に注意する
- 通気性を良くする
- 糖質の過剰摂取を控える
- プロバイオティクス(乳酸菌製品)の摂取を検討
- 免疫力を低下させない
ヘルペスの再発予防
- 再発の誘因(疲労、ストレス、生理前など)を把握する
- 規則正しい生活を心がける
- 前兆症状(チクチク感など)があれば早めに受診
- 年に6回以上再発する場合は抑制療法を検討

よくある質問と回答
A: 原因によって大きく異なります。接触皮膚炎など軽度のものは3〜7日、バルトリン腺炎などの感染症は適切な治療で1〜2週間、外傷による血腫は数週間〜1か月程度かかることもあります。症状が改善しない場合は必ず受診してください。
A: 軽度のかぶれやかゆみには市販のデリケートゾーン用薬が有効な場合もありますが、感染症や嚢胞などは医療機関での治療が必要です。自己判断で薬を使い続けると症状が悪化したり、慢性化したりする可能性があります。
A: 完全に症状が治まり、医師の許可が出るまでは控えることをおすすめします。無理をすると症状の悪化や再発、パートナーへの感染のリスクがあります。一般的には治療終了後1〜2週間程度が目安です。
A: 妊娠中でも安全に使用できる薬や治療法があります。むしろ、妊娠中は免疫力が低下しているため感染症にかかりやすく、早めの治療が重要です。必ず妊娠していることを医師に伝えてください。
A: 性感染症(ヘルペス、トリコモナスなど)の場合は、パートナーも同時に検査・治療を受けることが重要です。片方だけ治療しても再感染する「ピンポン感染」を防ぐため、カップルでの治療が推奨されます。
まとめ:適切な判断と対処が重要
小陰部の腫れは、原因によって治癒期間が大きく異なります。
- 軽度のかぶれや刺激による腫れ: 3〜7日程度
- 感染症による腫れ: 1〜3週間程度
- バルトリン腺の問題: 数日〜4週間程度
- 外傷による腫れ: 1週間〜1か月程度
重要なのは、自己判断で放置せず、必要に応じて適切なタイミングで医療機関を受診することです。特に以下のような場合は早めの受診が推奨されます。
- 強い痛みや発熱を伴う
- 急速に悪化している
- セルフケアで3日以上改善しない
- 水疱や潰瘍がある
- 再発を繰り返す
デリケートゾーンのトラブルは誰にでも起こりうるものです。恥ずかしがらずに、専門家である婦人科医に相談することで、適切な診断と治療を受けることができます。
日常生活での予防ケアも大切ですが、症状が出た場合は無理をせず、早めに医療機関を受診しましょう。アイシークリニック大宮院では、女性のデリケートな悩みにも丁寧に対応しております。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしています。
- 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編」 http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf
- 厚生労働省「性感染症に関する特定感染症予防指針」 https://www.mhlw.go.jp/
- 日本性感染症学会「性感染症 診断・治療ガイドライン」 http://jssti.umin.jp/
- 日本皮膚科学会「接触皮膚炎診療ガイドライン」 https://www.dermatol.or.jp/
- 国立感染症研究所「性器ヘルペスとは」 https://www.niid.go.jp/
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務