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プール熱(咽頭結膜熱)とは?症状・原因・治療法を医師が詳しく解説

はじめに

夏になると、お子さまを中心に流行する「プール熱」。正式には「咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)」と呼ばれる感染症で、高熱やのどの痛み、目の充血などの症状が特徴です。「プール熱」という名前から、プールでしか感染しないと思われがちですが、実は日常生活のさまざまな場面で感染する可能性があります。

この記事では、アイシークリニック大宮院の医師が、プール熱の症状や原因、治療法、予防方法について、一般の方にもわかりやすく詳しく解説いたします。お子さまだけでなく、大人も感染する可能性のある病気ですので、ぜひ最後までお読みください。

プール熱(咽頭結膜熱)とは

プール熱の基本情報

プール熱(咽頭結膜熱)は、アデノウイルスというウイルスに感染することで発症する急性のウイルス性感染症です。主に小児を中心に流行しますが、大人にも感染することがあります。

「プール熱」という俗称で呼ばれるようになった理由は、かつて1950年代頃に、プールやサマーキャンプなどで子どもたちの間で集団感染が発生したことに由来しています。プール利用時の接触やタオルの貸し借りなどを介して感染が広がったため、このような名前がつけられました。

しかし、厚生労働省の情報によると、近年ではプールの塩素管理が徹底され、タオルの共用も減ったことから、プール利用における集団感染の報告は見られなくなっています。現在では、プール以外の日常生活での飛沫感染や接触感染による発症が主流となっています。

学校保健安全法における位置づけ

プール熱は学校保健安全法上の学校感染症の第二種に分類されており、インフルエンザなどと同様に、感染力が強く流行を起こしやすい疾患として扱われています。そのため、主要症状がなくなった後、2日を経過するまで登校・登園が禁止となります。

プール熱の原因となるアデノウイルス

アデノウイルスとは

プール熱の原因となるアデノウイルスは、正20面体構造をとる2本鎖DNAウイルスで、エンベロープ(外殻)を持たないのが特徴です。エンベロープを持たないため、アルコール消毒に対する耐性があり、環境中で数日から数週間生存できるという特徴があります。

アデノウイルスは現在、A種からG種までの7つのグループに分類され、67以上の型が報告されています。51型までは血清型として、52型以降は全塩基配列の決定による遺伝子型として報告されています。

プール熱を引き起こすアデノウイルスの型

プール熱の流行を引き起こすのは主に3型ですが、2型4型7型11型14型など、他の型による場合もあります。特に7型は重症の肺炎を引き起こすことがあり、注意が必要です。

ただし、これらの血清型のアデノウイルスに感染したからといって、必ずしもプール熱の症状を来すとも限りません。アデノウイルスは、感染部位や個人の状態によって、さまざまな臨床症状を引き起こします。

アデノウイルスが引き起こすさまざまな病気

アデノウイルスは、プール熱(咽頭結膜熱)以外にも、以下のようなさまざまな病気を引き起こします。

  • 呼吸器疾患:咽頭炎、扁桃炎、気管支炎、肺炎など
  • 眼疾患:流行性角結膜炎(はやり目)
  • 消化器疾患:感染性胃腸炎(主に40型、41型)
  • 泌尿器疾患:出血性膀胱炎(主に11型、21型)
  • その他:肝炎、膵炎、脳炎など

アデノウイルスは小児の急性気道感染症の約10%を占める重要な病原体であり、日常的にしばしば遭遇するウイルス感染症の一つです。

プール熱の感染経路

主な感染経路

プール熱の主な感染経路は、飛沫感染接触感染の2つです。

飛沫感染

感染者の咳やくしゃみによって飛び散った飛沫(しぶき)を吸い込むことで感染します。くしゃみ1回で約40,000個、咳1回で約3,000個の飛沫が飛び散るといわれており、飛沫の飛散距離は約1~2メートルに及びます。

接触感染

感染者の唾液、鼻水、目やに、便などにウイルスが含まれており、これらに直接触れた手で目や鼻、口を触ることで感染します。また、ウイルスが付着したドアノブ、手すり、タオル、食器、おもちゃなどを介しても感染します。

プールでの感染

かつて「プール熱」と呼ばれるようになった由来となったプールでの感染ですが、これはプールの水を介して目の結膜からウイルスが侵入することで起こります。ただし、現在では塩素消毒が適切に行われているプールであれば、水を介した感染のリスクは非常に低くなっています。

むしろ、プールサイドでのタオルの共用や、プール後の更衣室での接触などが感染の原因となることが多いとされています。

ウイルスの排出期間

プール熱の厄介な点は、症状が治まった後もウイルスの排出が続くことです。

  • 喉から:症状消失後、約1~2週間程度
  • 便から:症状消失後、約1か月程度

このため、出席停止期間が終了した後でも、他人に感染させる可能性があることに注意が必要です。

プール熱の主な症状

3大主要症状

プール熱の診断に重要な3つの主要症状は以下の通りです。

1. 発熱

38~40度の高熱が特徴で、通常4~5日間持続します。特徴的なのは、1日の間に39~40度の高熱と37~38度前後の微熱の間を上がったり下がったりすることです。この熱の変動は、他の風邪症状とは異なるプール熱の特徴の一つです。

2. 咽頭炎(のどの痛み)

のどが赤く腫れ、強い痛みを伴います。扁桃腺が腫れて、白色の膿のような滲出物(白苔)が付着することもあります。この所見は、溶連菌感染症と似ているため、鑑別が必要になることがあります。

痛みが強く、食事や水分摂取が困難になることもあるため、脱水症状に注意が必要です。

3. 結膜炎(目の充血・目やに)

両目または片目が真っ赤に充血し、目やにが多く出ます。目の症状は、一般的にまず片方の目に現れ、その後もう一方の目にも同様の症状が現れることが多いです。

下眼瞼結膜(下まぶたの裏側)の炎症が強く、上眼瞼結膜の炎症はそれほど強くない傾向があります。羞明(まぶしさ)、流涙(涙が多く出る)、眼痛などの症状を伴うこともあります。

その他の症状

3大主要症状以外にも、以下のような症状が現れることがあります。

  • 頭痛
  • 全身倦怠感(だるさ)
  • 食欲不振
  • 腹痛、下痢、吐き気
  • 首のリンパ節の腫れ(特に後頸部)
  • 鼻づまり、鼻水

咳はそれほど目立たないことが多く、これもプール熱の特徴の一つです。

症状の経過

プール熱の症状は、通常3~7日間程度持続し、多くの場合は1~2週間で自然に治癒します。ただし、個人差があり、症状が長引くこともあります。

発熱から始まり、その後のどの痛みや目の充血などの症状が現れることが一般的です。目の症状は発熱と同時に現れることもありますが、発熱から2日程度遅れて出現することも多くあります。

潜伏期間

プール熱の潜伏期間は5~7日間とされています。潜伏期間とは、ウイルスに感染してから症状が現れるまでの期間のことです。

重要なのは、この潜伏期間中でも周囲への感染リスクがあるということです。本人に症状が出ていない段階でも、他の人にウイルスをうつす可能性があるため、保育園や幼稚園、小学校などでは学級閉鎖を余儀なくされることがあります。

家族内でプール熱の患者が出た場合、他の家族も感染している可能性を考慮し、5~7日間は健康状態を注意深く観察することが推奨されます。

プール熱の診断方法

臨床診断

プール熱の診断は、主に症状と流行状況から判断する臨床診断が基本となります。以下の基準を満たす場合に診断されます。

  1. 発熱(38度以上)
  2. 咽頭炎(のどの痛み、発赤、扁桃腺の腫れなど)
  3. 結膜炎(目の充血、目やになど)

これら3つの主要症状のうち、少なくとも2つ以上が認められる場合に、プール熱(咽頭結膜熱)と診断されます。

迅速診断検査

より確実な診断のために、アデノウイルス迅速診断キットを用いた検査が行われることがあります。

検査方法

  1. 綿棒で喉の奥や鼻の奥をこすり、検体を採取します
  2. 採取した検体を検査キットに入れます
  3. 約15~30分で結果が判明します

検査の注意点

迅速検査は簡便で結果が早くわかる利点がありますが、以下の点に注意が必要です。

  • 発症早期は陽性にならないことがある:発熱直後など、ウイルス量が少ない時期に検査を行うと、感染していても陰性になることがあります
  • 症状がそろっていない時期の判断:目の充血が出る前に検査を行った場合、プール熱なのか単なる咽頭炎なのか判断が難しいことがあります

血液検査

一般的な外来診療では行われることは少ないですが、必要に応じて血液検査が行われることもあります。

  • 白血球数:増加傾向
  • CRP(炎症マーカー):上昇
  • 急性期と回復期のペア血清で抗体価の4倍以上の上昇

血液検査は、重症例や合併症が疑われる場合、他の疾患との鑑別が必要な場合などに実施されます。

他の疾患との鑑別

プール熱と似た症状を示す疾患として、以下のようなものがあります。

  • 溶連菌感染症:扁桃腺に白苔が付着する点は似ているが、目の症状はない
  • 新型コロナウイルス感染症:発熱、咽頭痛は似ているが、目の充血はプール熱ほど顕著ではない
  • ヘルパンギーナ:高熱とのどの痛みは似ているが、軟口蓋から口蓋弓にかけて特徴的な水疱ができる
  • インフルエンザ:高熱は似ているが、より急激な発症で、関節痛・筋肉痛が強い
  • EBウイルス感染症:発熱・咽頭痛・リンパ節腫脹など似た症状があるが、年齢層や経過が異なる
  • 川崎病:発熱・結膜充血・口唇発赤など類似点があるが、手足の症状や全身の発疹が特徴的

これらの疾患を正確に鑑別するために、必要に応じて迅速検査やその他の検査が行われます。

プール熱の治療方法

基本的な治療方針

プール熱に対する特効薬や抗ウイルス薬は現在のところ存在しません。そのため、治療の基本は対症療法となります。対症療法とは、症状を和らげることを目的とした治療のことで、患者さんの自己免疫力が回復するのを助け、症状による苦痛を軽減することが主な目的です。

具体的な治療内容

1. 解熱鎮痛剤

高熱による不快感や、のどの痛みを和らげるために、解熱鎮痛剤が処方されます。

  • アセトアミノフェン:子どもにも安全に使用できる解熱鎮痛剤
  • イブプロフェン:炎症を抑える効果も期待できる

解熱剤は、38.5度以上の高熱で本人が苦しそうな時に使用することが推奨されます。むやみに解熱剤を使いすぎると、かえって回復が遅れることもあるため、適切なタイミングでの使用が重要です。

2. 点眼薬

目の充血や痒み、痛みが強い場合には、以下のような点眼薬が処方されることがあります。

  • 抗炎症成分入りの点眼薬
  • 抗生物質入りの点眼薬(細菌感染の二次感染予防)
  • 抗ヒスタミン薬入りの点眼薬(かゆみの軽減)

目の症状が強い場合や、角膜に影響が出ている場合には、眼科での専門的な治療が必要になることもあります。

3. うがい薬・トローチ

のどの痛みを和らげ、口腔内を清潔に保つために、うがい薬やトローチが処方されることがあります。

4. 抗生物質について

プール熱はウイルス感染症であるため、抗生物質(抗菌薬)は基本的に効果がありません。ただし、以下のような場合には抗生物質が処方されることがあります。

  • 細菌の二次感染が疑われる場合
  • 中耳炎や副鼻腔炎などの合併症を起こしている場合
  • 扁桃炎が重症化している場合

自宅でのケア

医療機関での治療と並行して、自宅でも適切なケアを行うことが重要です。

水分補給

高熱が続くと脱水症状のリスクが高まります。また、のどの痛みで飲食が困難になることもあるため、こまめな水分補給が必要です。

推奨される飲み物

  • 経口補水液(OS-1など):電解質を効率よく補給できる
  • 麦茶、ほうじ茶:カフェインが少なく、子どもにも適している
  • スポーツドリンク:ただし糖分が多いため、水で薄めるのも一案
  • アイスキャンディー:のどの痛みを和らげながら水分補給できる

避けるべき飲み物

  • 炭酸飲料:のどへの刺激が強い
  • 柑橘系のジュース:酸味がのどにしみる
  • 熱い飲み物:のどへの刺激となる

食事の工夫

のどの痛みで食事が取りにくい場合は、以下のような食事を心がけましょう。

おすすめの食事

  • おかゆ、雑炊
  • うどん(柔らかく煮たもの)
  • プリン、ヨーグルト、ゼリー
  • 豆腐
  • 茶碗蒸し
  • バナナ、りんご(すりおろしたもの)

避けるべき食事

  • 辛いもの、酸っぱいもの
  • 硬いもの、ザラザラしたもの
  • 熱すぎるもの、冷たすぎるもの

安静と休養

体力の回復のためには、十分な睡眠と休養が不可欠です。

  • 部屋を暗く、静かな環境に保つ
  • 適度な室温(20~22度)と湿度(50~60%)を保つ
  • 無理に起きて活動せず、横になって休む
  • 疲れやストレスを取り除く

目のケア

目の充血や目やにがある場合は、以下のケアを行いましょう。

  • 清潔なガーゼやティッシュで優しく拭き取る
  • 左右の目で別のガーゼを使用する(交差感染予防)
  • 目をこすらない
  • 処方された点眼薬を指示通りに使用する

合併症に注意

プール熱は通常、自然に治癒しますが、以下のような合併症を起こすことがあります。

  • 中耳炎:耳の痛みや聞こえにくさがある場合
  • 副鼻腔炎:鼻づまりや顔面痛が続く場合
  • 肺炎:呼吸が苦しい、咳が激しい場合(特に7型感染時)
  • 角膜炎:目の痛みが強い、視力低下がある場合

これらの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。

出席・出勤停止期間

学校保健安全法による規定

プール熱(咽頭結膜熱)は、学校保健安全法施行規則において第二種感染症に指定されており、以下のように出席停止期間が定められています。

「主要症状が消退した後、2日を経過するまで」

これは、発熱、咽頭痛、結膜炎といった主要な症状がなくなってから、さらに2日間は登校・登園してはいけないということを意味します。

具体的な出席停止期間の計算例

例えば、以下のような経過をたどった場合を考えてみましょう。

  • 月曜日:発熱(発症)
  • 火曜日~金曜日:発熱、のどの痛み、目の充血が続く
  • 土曜日:解熱し、のどの痛みと目の充血も軽快(主要症状消退)
  • 日曜日:症状なし(消退後1日目)
  • 月曜日:症状なし(消退後2日目)
  • 火曜日:登校・登園可能

このように、主要症状が完全になくなってから丸2日間(48時間以上)を空ける必要があります。

大人の出勤停止について

大人の場合、法的な出勤停止の義務はありませんが、以下の理由から、学校保健安全法と同様の基準を参考にすることが推奨されます。

  1. 感染力が非常に強い:軽症であっても、他人への感染リスクは変わらない
  2. 職場での集団感染のリスク:特にオフィスや接客業では感染が広がりやすい
  3. 本人の体力回復のため:無理な出勤は回復を遅らせる

多くの企業では、診断書の提出や産業医の判断により、出勤停止期間を設けています。職場の就業規則を確認し、適切に対応することが重要です。

医師の診断書

登校・登園や出勤を再開する際、多くの学校や保育施設、企業では「登校許可証」や「治癒証明書」の提出を求められます。これらの書類は、医療機関で医師の診察を受けた上で発行してもらう必要があります。

症状が治まったと思っても、自己判断で登校・登園・出勤せず、必ず医師の診断を受けることが大切です。

家族がプール熱にかかった場合の対応

プール熱は感染力が非常に強いため、家族内での感染拡大を防ぐための対策が重要です。

家庭内での感染予防対策

1. 隔離と接触の制限

可能であれば、患者さん専用の部屋を設け、他の家族との接触を最小限にします。特に、以下の方との接触には注意が必要です。

  • 乳幼児
  • 高齢者
  • 妊婦
  • 持病のある方

2. 手洗いの徹底

感染予防の基本中の基本です。家族全員が以下のタイミングで手洗いを徹底しましょう。

  • 外から帰宅したとき
  • 食事の前
  • トイレの後
  • 患者さんの世話をした後
  • 目や鼻、口を触る前

正しい手洗い方法

  1. 流水で手を濡らす
  2. 石けんをつけて、手のひら、手の甲、指の間、爪の間、手首までしっかり洗う
  3. 30秒以上かけて洗う
  4. 流水でよく洗い流す
  5. 清潔なタオルやペーパータオルで拭く

3. タオルの共用を避ける

感染拡大の主要な原因の一つがタオルの共用です。

  • 患者さん専用のタオルを用意する
  • 洗面所、浴室、トイレのタオルをこまめに交換する
  • できればペーパータオルを使用する

4. 食器・コップの共用を避ける

患者さん専用の食器やコップを用意し、使用後は熱湯消毒または次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。

5. 入浴の順番

浴槽のお湯を介して感染する可能性があるため、患者さんの入浴は最後にします。また、シャワーだけにすることも検討しましょう。

入浴後は浴室の換気を十分に行い、可能であればタオルで水滴を拭き取ります。

6. 衣類・寝具の管理

  • 患者さんの衣類や寝具は他の家族のものと分けて洗濯する
  • 洗濯前に次亜塩素酸ナトリウムで消毒するのも効果的
  • 60度以上のお湯で洗濯する
  • 寝具は天日干しするか乾燥機にかける

7. 環境の消毒

アデノウイルスはアルコール消毒には耐性があるため、次亜塩素酸ナトリウム(市販の塩素系漂白剤)を使用した消毒が効果的です。

消毒液の作り方(濃度0.02~0.05%)

  • 市販の塩素系漂白剤(濃度5~6%)を水で薄める
  • ペットボトルキャップ1杯(約5ml)の漂白剤を、水2リットルで薄める

消毒すべき場所

  • ドアノブ
  • 照明のスイッチ
  • 手すり
  • テーブル
  • トイレ
  • 洗面所
  • おもちゃ

消毒の際は、ゴム手袋を着用し、換気を十分に行いましょう。

8. マスクの着用

患者さんは咳エチケットとして、また家族も感染予防のためにマスクを着用します。ただし、乳幼児のマスク着用は窒息のリスクがあるため注意が必要です。

9. 便の取り扱いに注意

特に乳幼児のおむつ交換後は、念入りに手洗いを行います。ウイルスは便中に約1か月間排出され続けるため、症状が治まった後も注意が必要です。

看病する人の健康管理

看病する家族も体調管理に気をつけましょう。

  • 十分な睡眠をとる
  • バランスの良い食事を心がける
  • ストレスをためない
  • 少しでも体調不良を感じたら早めに休む

プール熱の予防方法

基本的な予防対策

残念ながら、プール熱を予防するワクチンは現在のところありません。そのため、日常生活での感染予防対策が重要になります。

1. 手洗いの徹底

前述の正しい手洗い方法を、以下のタイミングで必ず実施しましょう。

  • 外出から帰宅したとき
  • 食事の前
  • トイレの後
  • 鼻をかんだ後
  • 公共交通機関を利用した後

2. うがいの習慣

帰宅後のうがいも効果的です。水道水でも効果はありますが、うがい薬を使用するとより効果的です。

3. タオルやハンカチの個人使用

家庭内でも、学校や職場でも、タオルやハンカチは個人専用のものを使用し、他人と共用しないようにしましょう。

4. 規則正しい生活

免疫力を高めるために、以下のような生活習慣を心がけましょう。

  • 十分な睡眠(小学生:9~11時間、中高生:8~10時間、大人:7~9時間)
  • バランスの取れた食事
  • 適度な運動
  • ストレスの管理

5. 人混みを避ける

流行期には、できるだけ人混みを避けることも予防につながります。

プール利用時の注意点

プールが感染経路となることは現在では少なくなっていますが、以下の点に注意しましょう。

  • プール前後のシャワーをしっかり浴びる
  • プール後は目を洗い、うがいをする
  • タオルを共用しない
  • プールサイドで目をこすらない
  • 体調不良時はプールを利用しない

学校・保育施設での予防

  • 流行期には教室の換気を十分に行う
  • 共用のおもちゃや教材をこまめに消毒する
  • 手洗い場にペーパータオルを設置する
  • 体調不良の子どもは無理に登園・登校させない

大人のプール熱について

大人も感染するのか

プール熱は主に小児の病気というイメージがありますが、大人も感染します。特に以下のような状況で感染しやすくなります。

  • 家族(特に子ども)がプール熱にかかった場合
  • 保育士、教員など、子どもと接する職業の方
  • 免疫力が低下している場合

東京都感染症情報センターによると、患者の約6割は5歳以下ですが、大人の感染例も報告されています。

大人の症状の特徴

大人がプール熱にかかった場合、子どもと比べて以下のような特徴があります。

症状が軽い傾向

  • 発熱の程度が低い(38度前後)ことがある
  • のどの痛みが主症状のこともある
  • 目の症状が乏しいことがある

見逃されやすい

  • 軽症のため、風邪と思い込んでしまう
  • 症状が軽くても感染力は変わらない
  • 知らないうちに他人にうつしてしまう危険性

重症化するリスクも

  • 免疫力が低下している場合
  • 持病がある場合
  • 高齢者の場合

大人が注意すべきこと

1. 早期受診

軽症であっても、以下のような場合は医療機関を受診しましょう。

  • 家族にプール熱の患者がいる
  • 職場や周囲でプール熱が流行している
  • のどの痛みと発熱が続く
  • 目の充血がある

2. 出勤の判断

前述の通り、症状が軽くても感染力は強いため、以下の基準を参考に出勤を控えることが推奨されます。

  • 解熱後2日以上経過している
  • のどの痛みや目の充血が治まっている
  • 医師から許可が出ている

3. 周囲への配慮

  • マスクの着用
  • こまめな手洗い
  • タオルの共用を避ける
  • 会議やミーティングでの咳エチケット

よくある質問(FAQ)

Q1. プール熱は一度かかったら二度とかからないのですか?

A. いいえ、残念ながら何度もかかる可能性があります。アデノウイルスには67以上の型があり、一度感染した型に対しては免疫ができますが、別の型に感染すると再びプール熱を発症することがあります。ただし、同じ型のアデノウイルスに再感染することは通常ありません。

Q2. プール熱と診断されましたが、目の症状がありません。本当にプール熱なのでしょうか?

A. 厳密には、発熱・咽頭炎・結膜炎の3つの症状がそろった場合に「咽頭結膜熱(プール熱)」と診断されます。しかし、すべての症状が必ずしもそろうわけではなく、目の症状が出る前や、目の症状が軽微な場合もあります。アデノウイルスの迅速検査が陽性で、発熱とのどの痛みがある場合は、アデノウイルス感染症として同様の対応が必要です。

Q3. 兄弟がプール熱にかかりました。保育園に通っている下の子は登園できますか?

A. 下のお子さんに症状がない場合、原則として登園は可能です。ただし、潜伏期間中の可能性もあるため、保育園側と相談の上、慎重に判断することが望ましいでしょう。また、保育園によっては、家族内に感染者がいる場合の登園を制限している場合もあるため、施設の方針を確認してください。

Q4. プール熱の子どもと一緒にお風呂に入っても大丈夫ですか?

A. 浴槽のお湯を介して感染する可能性があるため、患者さんの入浴は家族の中で最後にすることが推奨されます。可能であれば、症状がある間はシャワーのみにすることも検討しましょう。また、タオルは必ず別々のものを使用してください。

Q5. アルコール消毒は効果がないと聞きましたが、本当ですか?

A. アデノウイルスはエンベロープを持たないウイルスであるため、アルコール消毒のみでは十分な効果が得られません。より効果的なのは、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤を水で薄めたもの)や、流水と石けんによる手洗いです。ただし、アルコール消毒が全く無意味というわけではなく、手洗いと併用することでより効果を高めることができます。

Q6. 症状が治まったのに、学校から「まだ登校できない」と言われました。なぜですか?

A. 学校保健安全法により、「主要症状が消退した後、2日を経過するまで」は出席停止となります。これは、症状が治まった後もウイルスの排出が続き、他の児童生徒に感染させる可能性があるためです。症状が完全になくなってから丸2日間(48時間以上)空ける必要があります。

Q7. プール熱にかかっている間、学習塾や習い事は行ってもいいですか?

A. いいえ、学校と同様に控えるべきです。プール熱は感染力が非常に強く、塾や習い事の場でも集団感染を引き起こす可能性があります。医師から許可が出るまでは、学校だけでなく、塾や習い事も休むことが推奨されます。

Q8. プール熱の治りかけに気をつけることはありますか?

A. 症状が軽快しても、以下の点に注意が必要です。

  • 無理をせず、十分な休養をとる
  • 水分補給を続ける
  • 手洗いなどの衛生管理を継続する
  • 便からのウイルス排出が約1か月続くため、トイレ後の手洗いを徹底する
  • 医師の許可が出るまでは登園・登校を控える

Q9. プール熱にかかった後、プールにはいつから入れますか?

A. 医師から完全に治癒したと診断され、登校許可が出てから1週間程度は様子を見ることが望ましいでしょう。体力が完全に回復していない状態でプールに入ると、体調を崩す可能性があります。学校や施設の方針も確認してください。

Q10. プール熱の子どもの看病で仕事を休む場合、診断書は必要ですか?

A. 勤務先の就業規則によって異なります。多くの企業では、子どもの看護のための休暇(子の看護休暇)を認めており、その際に診断書の提出を求められることがあります。詳しくは勤務先の人事部門に確認してください。

まとめ

プール熱(咽頭結膜熱)は、アデノウイルスによる感染症で、主に夏季に流行します。高熱、のどの痛み、目の充血という3つの主要症状が特徴で、小児を中心に発症しますが、大人も感染する可能性があります。

特効薬はなく、対症療法が治療の中心となりますが、多くの場合は1~2週間で自然に治癒します。ただし、感染力が非常に強いため、主要症状が消退した後2日間は登校・登園が禁止されます。

予防の基本は、流水と石けんによる手洗い、タオルの個人使用、規則正しい生活習慣です。家族内で感染者が出た場合は、適切な感染対策を行い、拡大を防ぐことが重要です。

症状が現れた場合は、早めに医療機関を受診し、医師の指示に従って治療と療養を行いましょう。また、周囲への感染拡大を防ぐため、出席・出勤停止期間を守ることも大切です。

参考文献

  1. 厚生労働省「咽頭結膜熱について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/pcf.html
  2. 国立健康危機管理研究機構 感染症情報センター「咽頭結膜熱とは」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/323-pcf-intro.html
  3. 東京都感染症情報センター「咽頭結膜熱について」
    https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/pcf.html
  4. 国立健康危機管理研究機構「IASR アデノウイルス感染症 2008~2017年」
    https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/adeno-pfc-m/adeno-pfc-iasrtpc/7373-449t.html
  5. 日本小児科学会「学校、幼稚園、認定こども園、保育所において予防すべき感染症の解説」
  6. 学校保健安全法施行規則

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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