はじめに
ほくろの除去を考えたとき、多くの方が「皮膚科と美容外科、どちらに行けばいいのだろう」という疑問を抱きます。どちらも「ほくろを取る」という同じ目的を持ちながら、実はアプローチや得意分野、費用面などで大きな違いがあります。
この記事では、皮膚科と美容外科それぞれの特徴、メリット・デメリット、どのような場合にどちらを選ぶべきか、そして治療方法や費用の違いまで詳しく解説していきます。ご自身の状況や優先順位に合わせて最適な選択ができるよう、具体的な情報をお届けします。
皮膚科と美容外科の基本的な違い
皮膚科とは
皮膚科は、皮膚に関するあらゆる疾患を診断・治療する診療科です。医療機関としての皮膚科は、皮膚の健康を守り、疾患を治療することを第一の目的としています。
皮膚科では、ほくろ以外にもアトピー性皮膚炎、湿疹、水虫、イボ、やけど、帯状疱疹など、幅広い皮膚疾患を扱います。ほくろの除去に関しては、特に医学的に除去が必要と判断される場合、つまり悪性の可能性がある場合や、日常生活に支障をきたす場合などに対応します。
皮膚科の医師は、皮膚の構造や疾患について専門的な知識を持ち、病理学的な診断能力に優れています。ほくろが良性か悪性かを見極める力が高く、必要に応じて組織検査(病理検査)を行うことで、確実な診断が可能です。
美容外科とは
美容外科は、外見を美しく整えることを目的とした診療科です。形成外科の一分野として発展してきた美容外科は、機能的な問題だけでなく、審美的な改善を重視します。
美容外科でのほくろ除去は、主に見た目の改善を目的として行われます。顔の目立つ位置にあるほくろ、大きさや形が気になるほくろ、メイクの邪魔になるほくろなど、美容上の理由での除去に対応します。
美容外科の医師は、傷跡をできるだけ目立たなくする技術、より美しい仕上がりを実現する技術に長けています。切除後の縫合技術、レーザー照射の技術など、審美的な結果を追求する専門的なスキルを持っています。
診療の目的の違い
最も大きな違いは、診療の目的にあります。皮膚科は「疾患の治療」を、美容外科は「審美的改善」を主な目的としています。
この目的の違いが、保険適用の可否、治療方法の選択、費用、そして仕上がりへのアプローチに大きく影響してきます。ただし、近年では両者の境界が曖昧になってきており、皮膚科でも美容面を重視したクリニックや、美容外科でも医学的な安全性を最優先するクリニックが増えています。
皮膚科でほくろを除去するメリット・デメリット
皮膚科のメリット
1. 保険適用の可能性が高い
皮膚科でのほくろ除去の最大のメリットは、条件を満たせば保険適用となる可能性があることです。以下のような場合、健康保険が適用されることがあります。
- ほくろが悪性の疑いがある場合
- 衣服や眼鏡などで擦れて炎症を起こしている場合
- 視野を妨げている場合
- 日常生活に支障をきたしている場合
- 医師が医学的に除去が必要と判断した場合
保険適用となれば、自己負担額は3割負担で数千円から1万円程度となることが多く、経済的負担が大幅に軽減されます。
2. 病理検査が標準的に行われる
皮膚科では、除去したほくろの組織を病理検査に出すことが一般的です。これにより、万が一悪性の細胞が含まれていた場合でも早期発見が可能となり、必要な追加治療を適切に受けることができます。
特に、メラノーマ(悪性黒色腫)のような皮膚がんは早期発見が極めて重要です。皮膚科では、見た目だけでなく医学的なリスクを総合的に評価してもらえる安心感があります。
3. 皮膚疾患全般の専門知識がある
皮膚科医は皮膚の構造や疾患について包括的な知識を持っています。ほくろ以外にも気になる皮膚の症状がある場合、同時に相談できるのは大きなメリットです。
また、アトピー性皮膚炎やケロイド体質など、他の皮膚の状態がほくろ除去後の経過に影響する可能性がある場合も、適切に対応してもらえます。
4. 術後のフォローアップが充実
皮膚科では、術後の経過観察や傷跡のケアについても丁寧にフォローしてもらえることが多いです。万が一、術後に感染や炎症などのトラブルが起きた場合も、皮膚疾患の専門家として適切な治療を受けられます。
皮膚科のデメリット
1. 美容面での仕上がりが二の次になる可能性
皮膚科の主目的は「疾患の治療」であるため、美容面での仕上がりが美容外科ほど追求されない場合があります。確実にほくろを除去することを優先し、傷跡の目立ちにくさは副次的な考慮事項となることがあります。
特に保険診療では、最小限の医療行為で確実な治療を行うことが求められるため、審美的な細かい配慮は自由診療に比べて限定的になる傾向があります。
2. 治療方法の選択肢が限られる場合がある
皮膚科では、医学的に確実な方法として切除縫合を第一選択とすることが多く、レーザー治療など他の選択肢が提示されないことがあります。保険診療の枠組みの中では、使用できる機器や方法にも制限があります。
3. 美容目的のみでは保険適用されない
純粋に見た目を改善したいという理由だけでは、保険適用にならず自費診療となります。この場合、美容外科での料金と大きな差がないこともあり、美容外科のほうが審美的な仕上がりを期待できる分、費用対効果が高い場合もあります。
4. 予約が取りにくい場合がある
一般的な皮膚科では、様々な皮膚疾患の患者さんが来院するため、混雑していることが多く、希望の日時に予約が取りにくい場合があります。また、ほくろ除去は緊急性が低いと判断され、他の疾患の治療が優先されることもあります。
美容外科でほくろを除去するメリット・デメリット
美容外科のメリット
1. 仕上がりの美しさを追求できる
美容外科の最大のメリットは、傷跡を最小限にし、美しい仕上がりを追求してもらえることです。顔の目立つ位置にあるほくろを除去する場合、この点は非常に重要です。
美容外科では、切除の際の切開線の方向、縫合の細かさ、レーザーの照射方法など、あらゆる面で審美的な結果を最優先に考えて治療が行われます。術後の傷跡をできるだけ目立たなくするための技術と経験が豊富です。
2. 治療方法の選択肢が豊富
美容外科では、様々な治療機器や方法が用意されており、ほくろの状態や患者さんの希望に応じて最適な方法を選択できます。
- 炭酸ガスレーザー
- Qスイッチレーザー
- 切除縫合
- くり抜き法
- 電気メス
など、複数の選択肢の中から、ほくろの深さ、大きさ、場所、患者さんの肌質などを総合的に判断して、最も美しい仕上がりが期待できる方法を提案してもらえます。
3. カウンセリングが丁寧
美容外科では、施術前のカウンセリングに十分な時間を取り、患者さんの希望や不安を詳しく聞いてくれることが多いです。仕上がりのイメージ、リスク、術後のケア方法など、納得いくまで相談できる環境が整っています。
4. 複数のほくろを同時に除去しやすい
顔や体に複数のほくろがあり、まとめて除去したい場合、美容外科ではそのような希望に柔軟に対応してもらえます。審美的な観点から、どのほくろを優先的に除去すべきかアドバイスももらえます。
5. プライバシーへの配慮
美容外科では、待合室が個室になっていたり、他の患者さんと顔を合わせないような配慮がされていたりと、プライバシー保護の体制が整っていることが多いです。美容医療を受けることを他人に知られたくない方にとっては、この点も重要なメリットです。
美容外科のデメリット
1. 基本的に自費診療となる
美容外科でのほくろ除去は、基本的に自由診療(自費診療)となり、保険適用されません。費用は全額自己負担となるため、皮膚科での保険診療と比べると高額になります。
一般的な相場としては、1個あたり1万円から3万円程度、大きさや治療方法によってはそれ以上かかることもあります。複数のほくろを除去する場合、費用は相応に増加します。
2. 病理検査が省略される場合がある
美容外科では、特にレーザー治療の場合、組織を採取できないため病理検査が行えません。また、切除した場合でも、病理検査を標準的には行わないクリニックもあります。
悪性の可能性が少しでもあるほくろの場合、病理検査を省略することはリスクとなります。気になるほくろがある場合は、事前に病理検査について確認し、必要に応じて検査を依頼することが重要です。
3. 医療機関の質にばらつきがある
美容外科は自由診療であるため、クリニックによって技術力、使用機器、料金体系などに大きな差があります。中には、十分な経験や技術を持たない医師が施術を行っているケースもあり、クリニック選びは慎重に行う必要があります。
4. 過度な営業を受ける可能性
一部の美容外科では、カウンセリング時に他の施術も勧められたり、高額なプランを提案されたりすることがあります。必要のない施術まで受けることのないよう、自分の希望をしっかり持ち、不要なものは断る姿勢が大切です。
どちらを選ぶべき?状況別の選び方
皮膚科を選ぶべきケース
1. ほくろに変化や異常がある場合
以下のような症状がある場合は、まず皮膚科を受診すべきです。
- 最近急に大きくなった
- 形が不整形で境界が不明瞭
- 色が均一でなく、濃淡がある
- 表面がじくじくしたり出血したりする
- かゆみや痛みがある
- 直径が6mm以上ある
これらは悪性黒色腫(メラノーマ)などの皮膚がんの可能性を示唆する症状です。皮膚科で専門的な診断を受け、必要に応じて病理検査を行うことが重要です。
2. 医学的な理由で除去が必要な場合
- 眼鏡のフレームが当たって痛い
- 衣服で擦れて炎症を繰り返している
- 髭剃りやヘアアレンジの際に引っかかる
- 視界を遮っている
このような日常生活に支障をきたす場合は、保険適用となる可能性が高いため、皮膚科での受診がお勧めです。
3. 費用を抑えたい場合
保険適用の条件を満たす場合、皮膚科での治療は費用を大幅に抑えられます。経済的な負担を最小限にしたい方には、まず皮膚科で保険適用の可能性を相談するのが良いでしょう。
4. 他の皮膚の悩みも相談したい場合
ほくろ以外にも、シミ、イボ、肌荒れなど、他の皮膚の悩みがある場合、皮膚科で総合的に診てもらうのが効率的です。
美容外科を選ぶべきケース
1. 仕上がりの美しさを最優先したい場合
顔の目立つ位置にあるほくろで、術後の傷跡を極力目立たなくしたい場合は、美容外科が適しています。特に以下のような場合です。
- 顔の中心部(鼻、頬、額など)にあるほくろ
- 盛り上がったほくろで、平らに仕上げたい
- できるだけ傷跡を残したくない
- 周囲の肌との調和を重視したい
2. 純粋に美容目的で除去したい場合
医学的な問題はないが、見た目の理由で除去したい場合は、美容外科での自由診療となります。この場合、保険診療の皮膚科では対応できないため、最初から美容外科を選択する方が効率的です。
3. 複数のほくろを一度に除去したい場合
顔や体に複数のほくろがあり、まとめて除去したい場合、美容外科では柔軟に対応してもらえます。審美的なバランスを考慮しながら、どのほくろを除去するか相談できます。
4. レーザー治療を希望する場合
小さく平らなほくろをレーザーで除去したい場合、レーザー機器が充実している美容外科の方が選択肢が多く、経験も豊富です。ただし、レーザー治療は保険適用外となります。
5. カウンセリングを重視したい場合
治療方法、リスク、術後のケアなどについて、時間をかけて丁寧に説明を受けたい方は、美容外科のカウンセリング体制が適しています。
両方に相談してから決める選択肢も
どちらにすべきか迷う場合は、まず皮膚科で医学的な評価を受け、その上で美容外科のカウンセリングも受けるという選択肢もあります。
皮膚科で「このほくろは良性で、医学的には除去の必要はありません」と言われた場合、安心して美容外科での審美的な治療を選択できます。逆に、皮膚科で「念のため組織検査をしましょう」と言われた場合は、まず皮膚科で治療を受けるべきです。
複数の医療機関で意見を聞くことで、より納得のいく選択ができるでしょう。ただし、セカンドオピニオンを求める際は、各医療機関にその旨を伝えることがマナーです。
ほくろ除去の主な治療方法
ほくろ除去には、いくつかの治療方法があります。それぞれの特徴を理解し、自分のほくろの状態や希望に合った方法を選ぶことが大切です。
切除縫合法
ほくろとその周囲の皮膚を紡錘形(楕円形)に切除し、縫合する方法です。皮膚科でも美容外科でも一般的に行われる方法で、特に以下のような場合に適しています。
- 大きなほくろ(直径5mm以上)
- 深く根を張っているほくろ
- 盛り上がったほくろ
- 悪性の疑いがあるほくろ
切除縫合法のメリットは、ほくろを根こそぎ除去できるため再発の可能性が低いこと、採取した組織で病理検査ができること、そして一度の治療で完了することです。
デメリットは、傷跡が線状に残ること、抜糸までの期間(通常1週間程度)が必要なこと、そして術後数日は患部を濡らせないなどの制限があることです。ただし、適切な縫合技術により、傷跡は時間とともに目立たなくなっていきます。
保険適用の可能性があり、適応条件を満たせば3割負担で5千円から1万円程度で治療できることが多いです。自費診療の場合は、1万円から3万円程度が相場です。
くり抜き法(パンチ法)
円筒形の特殊なメスでほくろをくり抜く方法です。比較的小さなほくろ(直径6mm以下)に適しています。
くり抜いた後は縫合せずに自然治癒を待つか、小さく縫合する方法があります。顔よりも体幹部のほくろに用いられることが多い方法です。
メリットは、切除縫合法よりも処置が簡単で時間がかからないこと、丸い傷跡が比較的目立ちにくいことです。デメリットは、治癒までに時間がかかること(2〜3週間)、やや陥没した傷跡になる可能性があること、顔の目立つ位置にはあまり用いられないことです。
炭酸ガス(CO2)レーザー
炭酸ガスレーザーは水分に反応するレーザーで、ほくろの組織を蒸散させて除去する方法です。美容外科で多く用いられる方法で、以下のような場合に適しています。
- 小さく平らなほくろ
- 盛り上がっているが比較的浅いほくろ
- 複数の小さなほくろを一度に除去したい場合
メリットは、出血がほとんどなく、縫合の必要がないこと、治療時間が短いこと(1個あたり数分)、複数のほくろを一度に治療できることです。
デメリットは、深いほくろには不向きで、複数回の治療が必要になる場合があること、組織が残らないため病理検査ができないこと、やや陥没した傷跡になる可能性があること、保険適用されないことです。
費用は1個あたり5千円から2万円程度が相場です。
電気メス(電気凝固法)
高周波の電気メスでほくろの組織を焼灼する方法です。レーザーと似た原理で、小さく盛り上がったほくろに用いられます。
メリットは、処置が簡単で出血が少ないこと、比較的安価なこと(保険適用の場合もある)です。デメリットは、やけどのような傷跡になる可能性があること、病理検査ができないこと、再発の可能性があることです。
Qスイッチレーザー
メラニン色素に反応する特殊なレーザーで、シミ治療にも用いられます。非常に平らで薄い色素性のほくろに適しています。
メリットは、皮膚へのダメージが少ないこと、ダウンタイムが短いことです。デメリットは、盛り上がったほくろや深いほくろには効果がないこと、複数回の治療が必要なこと、費用が高めなこと(保険適用なし)です。
液体窒素凍結療法
液体窒素でほくろを凍結させて除去する方法です。イボの治療に広く用いられる方法ですが、ほくろに対しては効果が限定的で、現在ではあまり用いられなくなっています。
痛みを伴うこと、色素沈着のリスクがあること、複数回の治療が必要なことから、他の方法が優先されることが多いです。
保険適用について知っておくべきこと
ほくろ除去における保険適用の有無は、多くの方が気にする重要なポイントです。ここでは、保険適用の基準や実際の手続きについて詳しく解説します。
保険適用となる条件
健康保険が適用されるのは、医学的に治療が必要と判断される場合です。具体的には以下のようなケースです。
- 悪性の疑いがある場合 形状、色、大きさ、変化の仕方などから、悪性黒色腫(メラノーマ)などの皮膚がんが疑われる場合は、保険適用となります。
- 機能的な障害がある場合 まぶたのほくろで視野が妨げられている、唇のほくろで食事に支障がある、など日常生活の機能に影響している場合は保険適用の対象となります。
- 外的刺激により炎症を繰り返す場合 衣服の襟やベルトで擦れて出血や炎症を繰り返す、髭剃りの際に毎回傷つける、などの場合は保険適用となる可能性があります。
- 今後悪性化のリスクがあると判断される場合 頻繁に刺激を受ける部位にあり、今後悪性化のリスクがあると医師が判断した場合も、保険適用となることがあります。
重要なのは、これらの判断は必ず医師が行うということです。患者さん自身が「日常生活に支障がある」と訴えても、医師が医学的にその必要性を認めなければ保険適用とはなりません。
保険適用とならない場合
以下のような場合は、自由診療(自費診療)となります。
- 純粋に美容目的(見た目の改善のみ)での除去
- 本人が「気になる」というだけで医学的な必要性がない場合
- レーザー治療など、保険適用外の治療方法を希望する場合
- 複数のほくろを一度に除去する場合(医学的に必要なもの以外)
美容目的での除去は、たとえ皮膚科であっても自費診療となります。この場合、美容外科と料金面で大きな差がないこともあります。
保険診療と自費診療の併用はできない
日本の医療制度では、同一の疾患に対して保険診療と自費診療を混在させることは原則として認められていません(混合診療の禁止)。
例えば、一つのほくろは保険適用で、もう一つは美容目的で自費、ということは同日には基本的にできません。医学的に必要なほくろを保険で除去し、別の日に美容目的のほくろを自費で除去するという形になります。
実際の費用
保険適用の場合(3割負担)、治療方法や大きさによって異なりますが、おおむね以下のような費用となります。
- 小さなほくろ(直径2cm未満)の切除縫合:5千円〜8千円程度
- 中程度のほくろ(直径2〜4cm)の切除縫合:8千円〜1万2千円程度
- 病理組織検査:3千円〜5千円程度
これに初診料や再診料、薬剤費などが加わります。
自費診療の場合、クリニックによって料金設定が大きく異なりますが、一般的な相場は以下の通りです。
- 切除縫合法:1万円〜5万円程度(大きさによる)
- 炭酸ガスレーザー:5千円〜2万円程度(1個あたり)
- 複数個の場合の割引がある場合もある
保険適用の可否を確認する方法
自分のほくろが保険適用になるかどうかは、実際に医療機関を受診して医師の診断を受けるまで確定しません。電話での問い合わせでは、具体的な判断はできないことがほとんどです。
まず皮膚科を受診し、「このほくろは保険適用で除去できますか」と率直に尋ねることをお勧めします。医師は医学的な観点から適応を判断し、説明してくれます。
もし保険適用にならないと言われた場合、その皮膚科で自費診療として除去できるか、あるいは美容外科への紹介や相談を行うこともできます。
クリニック選びのポイント
ほくろ除去の成功は、適切なクリニック選びから始まります。皮膚科でも美容外科でも、信頼できるクリニックを選ぶことが重要です。
皮膚科を選ぶ際のポイント
1. 皮膚科専門医の資格を確認
日本皮膚科学会認定の皮膚科専門医の資格を持つ医師が在籍しているかを確認しましょう。専門医は、一定の研修を積み、試験に合格した医師に与えられる資格で、専門的な知識と技術の証明となります。
クリニックのウェブサイトや日本皮膚科学会のウェブサイトで確認できます。
2. ほくろ除去の実績を確認
ほくろ除去を日常的に行っているクリニックかどうかを確認しましょう。ウェブサイトに症例写真や治療実績が掲載されていることが一つの目安になります。
3. 病理検査の体制
除去したほくろの病理検査を適切に行っているか、検査結果の説明をしっかりしてくれるかも重要なポイントです。
4. 通いやすさ
術後の経過観察や抜糸のために複数回通院する必要があるため、自宅や職場から通いやすい場所にあるかも考慮しましょう。
5. 診療時間と予約の取りやすさ
仕事や学校の都合に合わせて通院できる診療時間か、予約が取りやすいかも確認しましょう。
美容外科を選ぶ際のポイント
1. 医師の資格と経歴を確認
形成外科専門医や皮膚科専門医の資格を持つ医師が施術を行っているかを確認しましょう。美容外科は自由診療のため、クリニックによって医師の経験や技術力に大きな差があります。
医師の経歴、専門分野、これまでの実績などを確認し、信頼できる医師を選ぶことが重要です。
2. カウンセリングの質
初回カウンセリングで、以下の点がしっかり説明されるかを確認しましょう。
- 治療方法の選択肢と、それぞれのメリット・デメリット
- 予想される仕上がりと傷跡について
- リスクや合併症について
- 術後のケア方法
- 費用の詳細(追加費用の有無)
質問に対して丁寧に答えてくれるか、無理な勧誘がないかも重要なポイントです。
3. 症例写真の確認
実際の症例写真を見せてもらい、仕上がりのイメージを確認しましょう。自分が除去したいほくろと似たケースの写真があれば、より参考になります。
ただし、症例写真は最も良い結果のものが選ばれている場合が多いため、必ずしも同じ結果になるとは限らないことを理解しておきましょう。
4. 料金体系の明確さ
料金が明確に提示されているか、追加費用が発生する可能性はないかを確認しましょう。以下の点を明確にしておくことが重要です。
- 施術料金
- 初診料・再診料
- 麻酔代
- 薬代
- 術後の診察代
- 万が一の追加治療費
5. アフターケアの体制
術後のトラブルに対応してもらえる体制が整っているかを確認しましょう。緊急時の連絡先、休診日でも対応してもらえるか、などを事前に確認しておくと安心です。
6. クリニックの雰囲気と清潔さ
実際にクリニックを訪れた際の雰囲気、スタッフの対応、施設の清潔さなども判断材料になります。安心して治療を受けられる環境かどうかを自分の目で確認しましょう。
口コミや評判の見方
インターネット上の口コミサイトは参考になりますが、以下の点に注意が必要です。
- 極端に良い評価ばかり、または悪い評価ばかりのクリニックは要注意
- 具体的な治療内容や結果が書かれている口コミの方が信頼性が高い
- 口コミは個人の主観であり、全ての人に当てはまるとは限らない
- 最新の口コミを優先的に参考にする(医師が変わっている可能性があるため)
最終的には、実際にカウンセリングを受けて、自分で判断することが最も重要です。

よくある質問
ほくろ除去の際は、通常局所麻酔を使用するため、施術中の痛みはほとんどありません。麻酔の注射をする際にチクッとした痛みがありますが、これも細い針を使用することで最小限に抑えられます。
術後は、切除縫合の場合は数日間、軽い痛みや違和感がある場合がありますが、処方される痛み止めでコントロールできる程度です。レーザー治療の場合は、術後の痛みはほとんどありません。
治療方法や個人の体質によって異なりますが、一般的な経過は以下の通りです。
切除縫合の場合:
抜糸後1〜2週間は赤みがある
1〜3ヶ月で赤みが徐々に薄くなる
6ヶ月〜1年で傷跡が白く細い線になる
1年以上かけて、さらに目立たなくなる
レーザー治療の場合:
1〜2週間でかさぶたが取れる
1〜3ヶ月で赤みが引く
3〜6ヶ月で皮膚の色が周囲と馴染む
傷跡の治癒は、年齢、肌質、体質、術後のケアなどによって個人差があります。若い方の方が治癒は早い傾向にあります。
Q3. ほくろは再発しますか?
治療方法によって再発率は異なります。
切除縫合で根こそぎ除去した場合は、再発の可能性は非常に低いです(数%以下)。ただし、完全に除去したように見えても、深部にわずかにメラノサイト(色素細胞)が残っていた場合、数年後に再発することがまれにあります。
レーザー治療や電気メスの場合は、ほくろの深さによっては完全に除去しきれず、10〜30%程度の確率で再発する可能性があります。再発した場合は、再度治療を行うことができます。
Q4. 除去後にしてはいけないことはありますか?
術後の注意事項は治療方法によって異なりますが、一般的には以下の点に注意が必要です。
- 患部を濡らさない(初期の数日間)
- 患部を強くこすらない
- 激しい運動は控える(血流増加により出血や腫れのリスク)
- 飲酒は控える(血流増加のため)
- 日焼けを避ける(色素沈着のリスク)
- 処方された軟膏を指示通り使用する
具体的な注意事項は、医師の指示に従ってください。
Q5. 顔以外のほくろも除去できますか?
はい、体のどこにあるほくろでも除去可能です。ただし、部位によって以下のような特徴があります。
- 背中や肩:傷の治りが遅い傾向があり、ケロイド(傷跡が盛り上がる)になりやすい
- 足の裏:悪性化のリスクがやや高いため、変化があれば早めの受診が推奨される
- 手のひら:治りにくく、傷跡が目立ちやすい
- 陰部や粘膜:専門的な対応が必要
部位によって適した治療方法が異なるため、医師と相談して決めることが大切です。
Q6. 大きなほくろでも一度で除去できますか?
ほくろの大きさや場所によります。直径1cm以下のほくろであれば、通常一度の施術で除去できます。
それより大きなほくろの場合、一度に切除すると傷が大きくなりすぎたり、皮膚を寄せて縫合するのが難しい場合があります。このような場合、以下の選択肢があります。
- 段階的に切除する(数ヶ月の間隔をあけて2回に分ける)
- 皮弁や植皮などの高度な形成外科的手技を用いる
- 縫合せずに自然治癒を待つ
医師と相談し、最適な方法を選択しましょう。
Q7. 子供のほくろも除去できますか?
医学的に必要な場合(悪性の疑い、機能障害など)は、年齢に関係なく除去できます。
ただし、純粋に美容目的の場合、多くの医療機関では以下の理由から18歳未満の施術を推奨していません。
- 成長過程で体が変化し、除去した意味がなくなる可能性
- 全身麻酔のリスク(局所麻酔が難しい年齢の場合)
- 本人の意思決定能力の問題
- 傷跡の予測が難しい
医学的な必要性がある場合を除き、成人してから本人の意思で決定することが望ましいとされています。
Q8. ほくろが多いのですが、一度に何個まで除去できますか?
一度に除去できる個数に明確な制限はありませんが、以下の要因によって決まります。
- 治療時間(局所麻酔の効果時間、患者さんの負担)
- 麻酔薬の使用量の上限
- 術後のケアの負担
- 費用
一般的には、顔であれば3〜5個程度、体全体では10個程度までを一度に除去することが多いです。それ以上の場合は、複数回に分けて行うことをお勧めします。
Q9. がん保険は適用されますか?
ほくろの除去自体は、がん保険の対象にはなりません。ただし、除去後の病理検査で悪性(メラノーマなど)と診断された場合、その後の治療に対してがん保険が適用される可能性があります。
保険の内容は契約によって異なるため、詳細は加入している保険会社に確認することをお勧めします。
Q10. 妊娠中でもほくろ除去はできますか?
緊急性がない場合、妊娠中のほくろ除去は推奨されません。理由は以下の通りです。
- 局所麻酔薬が胎児に影響する可能性(極めて低いが完全には否定できない)
- 妊娠中はホルモンの影響で傷の治りが悪くなる場合がある
- 色素沈着が起こりやすい
- 万が一の合併症のリスク
悪性の疑いがあるなど、医学的に緊急性が高い場合を除き、出産後、授乳期を終えてからの施術をお勧めします。
術後のケアと注意点
ほくろ除去後の適切なケアは、傷跡を最小限にし、合併症を防ぐために非常に重要です。
切除縫合後のケア
手術当日から抜糸まで(約1週間)
- 患部は防水テープで保護されているため、基本的に濡らさないようにします
- 洗顔や洗髪は患部を避けて行います
- 処方された抗生剤を指示通り服用します
- 激しい運動、飲酒は避けます
- 患部に触れたり、引っ張ったりしないようにします
抜糸後
- 抜糸後も傷跡は完全に治っていないため、強くこすったり刺激したりしないようにします
- 医師の指示があれば、テープで傷跡を保護します(3〜6ヶ月程度)
- 日焼け止めを使用し、紫外線から傷跡を守ります
- 処方された軟膏があれば、指示通り使用します
レーザー治療後のケア
治療当日から1〜2週間(かさぶたが取れるまで)
- 患部に軟膏を塗り、専用のテープで保護します
- かさぶたは無理に剥がさず、自然に取れるのを待ちます
- 洗顔は優しく行い、患部を強くこすらないようにします
- メイクは患部を避けて行います(クリニックによっては翌日から可能な場合も)
かさぶたが取れた後
- 新しい皮膚は非常にデリケートなため、日焼け止めでしっかり保護します
- 色素沈着を防ぐため、強い刺激は避けます
- 医師の指示があれば、美白剤や保湿剤を使用します
こんな症状があったらすぐに受診を
以下のような症状がある場合は、感染や合併症の可能性があるため、すぐに医療機関に連絡しましょう。
- 強い痛みが続く、または痛みがひどくなる
- 患部が赤く腫れて熱を持っている
- 膿が出る
- 発熱がある
- 出血が止まらない
- 傷が開いてしまった
傷跡を目立たなくするために
傷跡をできるだけ目立たなくするために、以下の点に注意しましょう。
- 紫外線対策を徹底する 紫外線は色素沈着の最大の原因です。術後6ヶ月〜1年間は、日焼け止め(SPF30以上)をこまめに塗り、帽子や日傘で患部を保護しましょう。
- テーピングを継続する 医師から指示された場合、テーピングを数ヶ月続けることで、傷跡の盛り上がりや広がりを防ぐことができます。
- 保湿を心がける 適度な保湿は皮膚の再生を助けます。低刺激の保湿剤を使用しましょう。
- ビタミンCの摂取 ビタミンCは皮膚の再生を助け、色素沈着を防ぐ効果があります。食事やサプリメントで十分に摂取しましょう。
- 傷跡用のケア製品 ヘパリン類似物質やシリコンジェルなど、傷跡のケアに効果的な製品があります。医師に相談してみましょう。
まとめ
ほくろ除去における皮膚科と美容外科の選択は、あなたの状況と優先順位によって決まります。
皮膚科を選ぶべき方:
- ほくろに変化や異常がある
- 医学的な理由で除去が必要
- 費用を抑えたい(保険適用の条件を満たす場合)
- 病理検査を確実に受けたい
- 他の皮膚の悩みも相談したい
美容外科を選ぶべき方:
- 仕上がりの美しさを最優先したい
- 純粋に美容目的で除去したい
- 複数のほくろをまとめて除去したい
- レーザー治療などの選択肢を重視したい
- 丁寧なカウンセリングを受けたい
どちらの選択肢にもメリット・デメリットがあり、一概にどちらが良いとは言えません。大切なのは、自分のほくろの状態、優先順位、予算などを総合的に考えて、納得のいく選択をすることです。
迷った場合は、まず皮膚科で医学的な評価を受け、その上で美容外科のカウンセリングも受けるという方法もあります。複数の医療機関で意見を聞くことで、より適切な判断ができるでしょう。
いずれの場合も、信頼できる医療機関と医師を選ぶことが、満足のいく結果につながります。この記事が、あなたのほくろ除去における適切な選択の助けになれば幸いです。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしています。
- 日本皮膚科学会 https://www.dermatol.or.jp/ 皮膚科専門医に関する情報、皮膚疾患の専門的な知識
- 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/ 医療制度、保険診療に関する情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/ メラノーマ(悪性黒色腫)に関する医学的情報
- 日本形成外科学会 https://jsprs.or.jp/ 形成外科、美容外科に関する専門的な情報
これらの公的機関・学会の情報を基に、一般の方にも分かりやすく解説することを心がけました。
監修について
本記事は医療情報を含みますが、個別の症状や治療方針については、必ず医療機関を受診し、専門医の診断を受けてください。ほくろの状態は人それぞれ異なり、適切な治療方法も個人によって変わります。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務