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低血圧の症状とは?めまいや立ちくらみの原因と対処法を医師が解説

はじめに

朝起きるのがつらい、立ち上がるとフラフラする、なんとなく体がだるい――このような症状に悩まされていませんか?それは「低血圧」が原因かもしれません。

低血圧は高血圧に比べて軽視されがちですが、日常生活に大きな支障をきたすこともある重要な健康問題です。特に女性や若年者に多く見られ、生活の質を著しく低下させることがあります。

本記事では、低血圧とは何か、どのような症状があるのか、そしてどのように対処すればよいのかについて、アイシークリニック大宮院の医師が詳しく解説します。低血圧の正しい知識を身につけ、適切な対処法を知ることで、より快適な日常生活を取り戻しましょう。

低血圧とは何か

血圧の基本知識

血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力のことを指します。血圧は「収縮期血圧(最高血圧)」と「拡張期血圧(最低血圧)」の2つの数値で表されます。

  • 収縮期血圧(最高血圧):心臓が収縮して血液を送り出すときの血圧
  • 拡張期血圧(最低血圧):心臓が拡張して血液を受け入れるときの血圧

一般的に、血圧は「収縮期血圧/拡張期血圧」という形で表記され、例えば「120/80mmHg」のように示されます。

低血圧の定義

低血圧の明確な定義は国際的に統一されていませんが、日本では一般的に以下の基準が用いられています。

  • 収縮期血圧が100mmHg未満
  • 拡張期血圧が60mmHg未満

ただし、これらの数値はあくまで目安であり、症状の有無が重要です。血圧が低くても症状がなければ治療の必要はなく、逆に血圧がそれほど低くなくても症状があれば対処が必要となります。

低血圧と高血圧の違い

高血圧は心筋梗塞や脳卒中などの重大な疾患のリスクを高めることが明らかになっており、積極的な治療が推奨されています。一方、低血圧は生命を直接脅かすことは少ないものの、日常生活の質を大きく低下させる可能性があります。

低血圧の種類

低血圧は、その原因や発症のメカニズムによっていくつかのタイプに分類されます。

1. 本態性低血圧(体質性低血圧)

本態性低血圧は、特に明らかな原因疾患がなく、体質的に血圧が低い状態を指します。低血圧の中で最も多いタイプで、特に若い女性に多く見られます。

特徴

  • 遺伝的要因が関与していることが多い
  • 痩せ型の体型の人に多い傾向
  • 症状がない場合も多いが、疲労感やだるさを訴える人もいる

2. 起立性低血圧

起立性低血圧は、横になっている状態や座っている状態から急に立ち上がったときに、血圧が急激に低下する状態です。重力の影響で血液が下半身に溜まり、脳への血流が一時的に減少することで症状が現れます。

診断基準

  • 立位になって3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下
  • または拡張期血圧が10mmHg以上低下

特徴

  • 高齢者に多く見られる
  • 糖尿病や神経疾患を持つ人に起こりやすい
  • 一部の降圧薬や向精神薬の副作用として現れることもある

3. 食後低血圧

食後低血圧は、食事の後に血圧が大きく低下する状態です。食事をすると消化器官に血液が集中し、その結果、脳や他の臓器への血流が減少することで起こります。

特徴

  • 高齢者に多く見られる
  • 食後30分から2時間以内に症状が現れることが多い
  • 糖質の多い食事の後に起こりやすい

4. 神経調節性失神(血管迷走神経性失神)

長時間立ち続けることや、強いストレス、痛み、恐怖などの刺激により、自律神経のバランスが崩れて血圧が急激に低下し、失神に至る状態です。

特徴

  • 若年者に多く見られる
  • 失神の前に冷や汗、吐き気、顔面蒼白などの前駆症状がある
  • 横になると速やかに回復する

5. 二次性低血圧(症候性低血圧)

何らかの病気や薬剤の影響により血圧が低下している状態を指します。原因となる疾患や薬剤を特定し、適切に治療することが重要です。

主な原因

  • 心臓疾患(心筋梗塞、不整脈、心不全など)
  • 内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副腎不全など)
  • 脱水症
  • 出血
  • 薬剤の副作用(降圧薬、利尿薬、抗うつ薬など)

低血圧の症状

低血圧による症状は多岐にわたり、個人差も大きいですが、以下のような症状が代表的です。

主な症状

1. めまい・立ちくらみ

低血圧の最も代表的な症状です。特に起立性低血圧の場合、急に立ち上がったときに「クラッ」とするめまいや、目の前が暗くなる感覚を経験します。

特徴

  • 立ち上がった直後に症状が現れる
  • 数秒から数分で改善することが多い
  • 重症の場合は失神に至ることもある

2. 全身倦怠感・だるさ

「なんとなく体がだるい」「疲れやすい」といった症状は、低血圧の人によく見られます。脳や筋肉への血流が不十分なため、このような症状が現れると考えられています。

特徴

  • 午前中に特に症状が強い傾向
  • 活動する意欲が湧かない
  • 休んでも疲れが取れない感覚

3. 朝の起床困難

低血圧の人は、朝起きるのが非常につらいと感じることが多いです。これは、睡眠中に血圧がさらに低下し、朝になってもすぐに正常な血圧に戻らないためと考えられています。

特徴

  • 目覚ましが鳴っても起きられない
  • 起きてもしばらくぼーっとしている
  • 起床後も頭痛や吐き気を伴うことがある

4. 頭痛

低血圧による頭痛は、脳への血流不足が原因で起こります。特に朝起きたときや、長時間立っているときに症状が現れやすくなります。

特徴

  • 鈍い痛みが持続する
  • 頭重感を伴うことが多い
  • 横になると改善する傾向

5. 動悸・息切れ

血圧が低いと、体は十分な血液を送るために心拍数を増やそうとします。その結果、動悸や息切れを感じることがあります。

特徴

  • 少しの運動でも動悸を感じる
  • 階段を上るだけで息切れする
  • 安静時でも心臓がドキドキする感覚

6. 集中力の低下

脳への血流が不十分になることで、思考力や集中力が低下します。仕事や勉強の効率が落ち、ミスが増えることもあります。

特徴

  • 物事に集中できない
  • 記憶力の低下を感じる
  • 判断力が鈍る

7. 冷え性

血液循環が悪くなることで、手足の末端まで十分な血液が届かず、冷えを感じやすくなります。

特徴

  • 手足が常に冷たい
  • 冬だけでなく夏でも冷えを感じる
  • 冷えによる痛みやしびれを伴うこともある

8. 食欲不振・消化不良

消化器官への血流が不十分になることで、食欲不振や消化不良を起こすことがあります。

特徴

  • 食事をしても食欲が湧かない
  • 少量の食事でも満腹感を感じる
  • 胃もたれや吐き気を伴うことがある

9. 肩こり・首のこり

筋肉への血流が不十分になることで、肩や首のこりを感じやすくなります。

特徴

  • 慢性的な肩こりに悩まされる
  • マッサージをしても改善しにくい
  • 頭痛を伴うことが多い

10. 不安感・抑うつ気分

低血圧により脳の機能が低下すると、精神的な症状も現れることがあります。

特徴

  • 理由もなく不安を感じる
  • 気分が落ち込みやすい
  • やる気が出ない

重症な症状

以下のような症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。

  • 失神(意識消失):完全に意識を失う状態
  • 視野障害:視野が狭くなる、目の前が真っ暗になる
  • 胸痛:心臓疾患の可能性
  • 呼吸困難:重度の循環不全の可能性
  • 持続する激しいめまい:脳血管障害の可能性

低血圧の原因

低血圧の原因は多岐にわたります。適切な対処法を見つけるためには、自分の低血圧がどのような原因で起こっているのかを理解することが重要です。

1. 体質的要因

遺伝的要因 親や兄弟姉妹に低血圧の人がいる場合、自分も低血圧になりやすい傾向があります。遺伝的に血管の緊張度が低かったり、心臓のポンプ機能が弱かったりすることが関係していると考えられています。

体型 痩せ型の人、特に筋肉量が少ない人は低血圧になりやすい傾向があります。筋肉は血液を心臓に戻すポンプの役割を果たすため、筋肉量が少ないと血液循環が悪くなります。

2. 自律神経の問題

自律神経は、血圧を調整する重要な役割を担っています。自律神経のバランスが崩れると、適切に血圧を調整できなくなり、低血圧を引き起こします。

自律神経失調症 ストレスや不規則な生活習慣により自律神経のバランスが崩れると、血圧の調整機能が低下します。

加齢による自律神経機能の低下 年齢とともに自律神経の機能が低下し、特に起立性低血圧が起こりやすくなります。

3. 疾患による影響

心臓疾患

  • 心筋梗塞:心臓のポンプ機能が低下し、十分な血液を送り出せなくなる
  • 不整脈:心臓のリズムが乱れ、効率的に血液を送れなくなる
  • 心不全:心臓の機能が慢性的に低下している状態
  • 弁膜症:心臓の弁の機能が低下し、血液の流れが悪くなる

内分泌疾患

  • 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンの不足により代謝が低下し、血圧も低下する
  • 副腎不全(アジソン病):副腎皮質ホルモンの不足により血圧が低下する
  • 下垂体機能低下症:様々なホルモンの分泌が低下し、血圧も低下する

神経疾患

  • パーキンソン病:自律神経の機能が障害され、起立性低血圧が起こりやすい
  • 多系統萎縮症:自律神経を含む広範な神経系が障害される
  • 糖尿病性神経障害:糖尿病により自律神経が障害される

その他の疾患

  • 脱水症:体内の水分が不足し、血液量が減少する
  • 出血:大量の出血により血液量が急激に減少する
  • 感染症:敗血症などで血管が拡張し、血圧が低下する
  • 貧血:血液中の赤血球やヘモグロビンが不足し、組織への酸素供給が低下する
  • アレルギー反応:アナフィラキシーショックにより急激に血圧が低下する

4. 薬剤の影響

以下のような薬剤は、副作用として低血圧を引き起こすことがあります。

降圧薬 高血圧の治療に使用される薬剤ですが、過度に血圧を下げてしまうことがあります。

利尿薬 体内の水分を排出する薬剤で、血液量の減少により血圧が低下することがあります。

抗うつ薬・抗精神病薬 一部の向精神薬は、起立性低血圧を引き起こすことが知られています。

血管拡張薬 狭心症などの治療に使用される薬剤で、血管が拡張することで血圧が低下します。

パーキンソン病治療薬 一部の薬剤は、起立性低血圧を引き起こすことがあります。

5. 生活習慣の影響

運動不足 運動不足により筋肉量が減少すると、血液を心臓に戻すポンプ機能が低下し、低血圧になりやすくなります。

睡眠不足 十分な睡眠が取れないと、自律神経のバランスが崩れ、血圧の調整機能が低下します。

過度なダイエット 極端な食事制限により栄養が不足すると、血液を作る材料が不足し、低血圧を引き起こします。

水分摂取不足 十分な水分を摂取しないと、血液量が減少し、血圧が低下します。

塩分摂取不足 塩分(ナトリウム)は体内の水分を保持する働きがあります。塩分摂取が不足すると、血液量が減少し、血圧が低下します。

長時間の入浴 長時間お風呂に入ると、血管が拡張して血圧が低下します。

6. 妊娠

妊娠中は、胎児への血液供給のために血液量が増加しますが、同時に血管が拡張するため、血圧が低下しやすくなります。特に妊娠初期から中期にかけて低血圧になりやすい傾向があります。

7. ストレス

慢性的なストレスは自律神経のバランスを崩し、血圧の調整機能を低下させます。特に精神的ストレスが強い場合、低血圧の症状が悪化することがあります。

低血圧の診断

低血圧の診断は、症状の確認と血圧測定を中心に行われます。また、原因を特定するために様々な検査が実施されることもあります。

血圧測定

診察室血圧測定 医療機関で医師や看護師が測定する血圧です。座位で5分以上安静にした後、上腕で測定するのが標準的な方法です。

家庭血圧測定 自宅で朝晩の決まった時間に血圧を測定します。診察室血圧よりも日常の血圧をより正確に反映するため、低血圧の診断においても重要な情報となります。

測定のポイント

  • 朝は起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前に測定
  • 夜は就寝前に測定
  • 座位で1〜2分安静にした後に測定
  • 2回測定して平均値を記録

起立試験

起立性低血圧の診断に用いられる検査です。仰臥位(仰向けに寝た状態)から立位への体位変換に伴う血圧と心拍数の変化を観察します。

方法

  1. 仰臥位で5分以上安静にし、血圧と心拍数を測定
  2. 立位になり、直後、1分後、3分後に血圧と心拍数を測定
  3. 立位3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下した場合、起立性低血圧と診断

ティルト試験

より詳細に起立性低血圧を評価するための検査です。特殊なベッドに寝て、ベッドを傾けることで体位を変化させ、血圧や心拍数の変動を観察します。神経調節性失神の診断にも用いられます。

24時間血圧測定(ABPM)

携帯型の血圧計を24時間装着し、日常生活における血圧の変動を詳細に記録します。食後低血圧や夜間低血圧の診断に有用です。

血液検査

低血圧の原因となる疾患を調べるために実施されます。

主な検査項目

  • 血算:貧血の有無を確認
  • 電解質:ナトリウム、カリウムなどのバランスを確認
  • 甲状腺機能検査:甲状腺ホルモンの値を確認
  • 副腎皮質ホルモン:副腎機能を評価
  • 血糖値:糖尿病の有無を確認
  • 腎機能検査:腎臓の機能を評価

心電図検査

不整脈や心筋梗塞などの心臓疾患の有無を確認します。

12誘導心電図 安静時の心臓の電気的活動を記録します。

24時間心電図(ホルター心電図) 携帯型の心電計を24時間装着し、日常生活における心臓の状態を記録します。

心エコー検査(心臓超音波検査)

超音波を用いて心臓の構造や機能を評価します。心筋梗塞や弁膜症、心不全などの診断に有用です。

自律神経機能検査

自律神経の機能を詳細に評価する検査です。

心拍変動解析 心拍数の変動パターンから自律神経の機能を評価します。

発汗試験 発汗機能を評価することで、自律神経の機能を間接的に評価します。

低血圧の治療

低血圧の治療は、原因や症状の程度に応じて選択されます。多くの場合、生活習慣の改善が基本となりますが、症状が強い場合や原因疾患がある場合は、薬物療法が行われることもあります。

生活習慣の改善

1. 適切な水分と塩分の摂取

水分摂取

  • 1日に1.5〜2リットル程度の水分を摂取する
  • こまめに少量ずつ飲むことが効果的
  • 起床時にコップ1杯の水を飲む習慣をつける
  • カフェインを含む飲料は利尿作用があるため、飲みすぎに注意

塩分摂取

  • 1日に10〜12g程度の塩分を摂取する(高血圧の人とは逆のアプローチ)
  • ただし、腎臓病や心臓病がある場合は医師と相談が必要
  • 梅干し、味噌汁、漬物などを適度に摂取する

2. バランスの良い食事

栄養バランス

  • タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂取
  • 特に鉄分、ビタミンB12、葉酸などを意識して摂取し、貧血を予防
  • 3食規則正しく食べる

食事のタイミング

  • 朝食をしっかり食べる(朝の血圧上昇を促す)
  • 食後低血圧の予防:少量ずつ複数回に分けて食べる、食後はすぐに動かず休息する

おすすめの食品

  • 赤身の肉、魚、卵、大豆製品(タンパク質と鉄分)
  • 海藻類、ナッツ類(ミネラル)
  • 緑黄色野菜(ビタミン類)
  • 発酵食品(腸内環境の改善)

3. 適度な運動

有酸素運動

  • ウォーキング、軽いジョギング、水泳などを週3〜5回、30分程度行う
  • 無理のない範囲で継続することが重要

筋力トレーニング

  • 特に下半身の筋肉を鍛えることで、血液を心臓に戻すポンプ機能が向上
  • スクワット、かかと上げなどが効果的
  • 週2〜3回、無理のない範囲で実施

ストレッチ

  • 血流を改善し、筋肉の緊張をほぐす
  • 毎日10〜15分程度行う

運動時の注意点

  • 急激な運動は避け、準備運動を十分に行う
  • 体調が悪いときは無理をしない
  • 水分補給をこまめに行う

4. 十分な睡眠

  • 1日7〜8時間の睡眠を確保する
  • 規則正しい睡眠リズムを作る(毎日同じ時間に就寝・起床)
  • 睡眠環境を整える(適切な温度、暗さ、静けさ)
  • 就寝前のカフェインやアルコールを控える
  • 就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控える

5. ストレス管理

  • 十分な休息を取る
  • 趣味やリラックスできる時間を持つ
  • 深呼吸や瞑想などのリラクゼーション法を実践
  • 適度な運動でストレスを発散
  • 必要に応じてカウンセリングを受ける

6. 起立時の注意

起立性低血圧の予防

  • 急に立ち上がらず、ゆっくりと立ち上がる
  • 立ち上がる前に手足を動かして血液循環を促す
  • 長時間立ち続けることを避ける
  • 立っているときは足踏みをしたり、足を組んだりして血液の停滞を防ぐ

弾性ストッキングの使用 下半身に血液が溜まるのを防ぐため、弾性ストッキング(圧迫ストッキング)を着用することが効果的です。

7. 入浴時の注意

  • 長時間の入浴を避ける(10〜15分程度)
  • お湯の温度は38〜40度のぬるめに設定
  • 浴槽から出るときはゆっくりと立ち上がる
  • 入浴前後に水分を補給
  • 入浴中に体調が悪くなったらすぐに出る

薬物療法

生活習慣の改善だけでは症状が改善しない場合、薬物療法が検討されます。ただし、低血圧に対する薬物療法は高血圧ほど確立されておらず、慎重に適応を判断する必要があります。

昇圧薬

ドロキシドパ(ドプス)

  • ノルアドレナリンの前駆物質で、血管を収縮させて血圧を上昇させる
  • 起立性低血圧に対して保険適用がある
  • 1日3回服用

ミドドリン

  • 血管を収縮させて血圧を上昇させる
  • 起立性低血圧に効果的
  • 日本では保険適用外のため、個人輸入や自費診療となる

エチレフリン(エホチール)

  • 心臓の収縮力を高め、血管を収縮させる
  • 本態性低血圧に対して使用されることがある

アメジニウム(リズミック)

  • 交感神経の働きを強化し、血圧を上昇させる
  • 起立性低血圧に効果的

その他の薬剤

漢方薬 低血圧の体質改善に漢方薬が用いられることがあります。

  • 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):虚弱体質、疲労倦怠感に対して
  • 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):めまい、立ちくらみに対して
  • 半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう):めまい、頭痛に対して
  • 真武湯(しんぶとう):冷えを伴う低血圧に対して

鉱質コルチコイド(フルドロコルチゾン) 体内の塩分と水分を保持する働きがあり、血液量を増やして血圧を上昇させます。重度の起立性低血圧に対して使用されることがあります。

エリスロポエチン 貧血を伴う低血圧の場合、エリスロポエチンにより赤血球産生を促進することで、血圧の改善が期待できることがあります。

原因疾患の治療

二次性低血圧の場合、原因となっている疾患の治療が最優先されます。

  • 心臓疾患:ペースメーカーの植え込み、弁膜症の手術、心不全の薬物療法など
  • 内分泌疾患:甲状腺ホルモンの補充療法、副腎皮質ホルモンの補充療法など
  • 脱水症:輸液療法
  • 貧血:鉄剤の投与、ビタミンB12や葉酸の補充
  • 薬剤性:原因薬剤の中止または減量(主治医と相談)

いつ医療機関を受診すべきか

以下のような場合は、速やかに医療機関を受診することをおすすめします。

緊急性が高い症状

以下の症状がある場合は、すぐに救急車を呼ぶか、緊急外来を受診してください。

  • 突然の激しい胸痛
  • 呼吸困難
  • 意識障害や失神
  • 激しい頭痛(今まで経験したことのないような痛み)
  • 片側の手足の麻痺やしびれ
  • ろれつが回らない
  • 大量の出血
  • 激しい腹痛

これらの症状は、心筋梗塞、不整脈、脳卒中、大動脈解離、消化管出血などの重大な疾患の可能性があります。

早めの受診が必要な症状

以下の症状がある場合は、数日以内に医療機関を受診してください。

  • 繰り返すめまいや立ちくらみ
  • 頻繁な失神の前兆(冷や汗、吐き気、視野障害など)
  • 日常生活に支障をきたす倦怠感やだるさ
  • 動悸や息切れが続く
  • 原因不明の体重減少
  • 新たに始めた薬の服用後に低血圧症状が出現
  • 持続する頭痛
  • 食欲不振や吐き気が続く

定期的な受診が望ましい状況

  • 低血圧の症状が慢性的にある
  • 既に低血圧の診断を受けており、症状の変化がある
  • 高齢者で起立性低血圧がある
  • 糖尿病やパーキンソン病など、低血圧を起こしやすい疾患がある
  • 降圧薬などの薬剤を服用中

どの診療科を受診すべきか

一般内科・総合内科 初めて低血圧の症状で受診する場合は、まず一般内科や総合内科を受診することをおすすめします。必要に応じて専門科へ紹介してもらえます。

循環器内科 起立性低血圧や心臓疾患が疑われる場合は、循環器内科が適しています。

神経内科 パーキンソン病などの神経疾患が疑われる場合は、神経内科を受診します。

内分泌内科 甲状腺疾患や副腎疾患が疑われる場合は、内分泌内科を受診します。

心療内科・精神科 自律神経失調症やストレスが原因と考えられる場合は、心療内科や精神科が適していることもあります。

低血圧に関するよくある質問

Q1. 低血圧は治療が必要ですか?

A. 症状がない低血圧の場合、必ずしも治療は必要ありません。しかし、めまいや倦怠感などの症状があり、日常生活に支障をきたしている場合は、治療が推奨されます。また、原因となる疾患がある場合は、その治療が必要です。

Q2. 低血圧の人は運動をしてもいいですか?

A. はい、むしろ適度な運動は低血圧の改善に効果的です。ただし、急激な運動や激しすぎる運動は避け、自分のペースで継続できる運動を選びましょう。運動前後の水分補給も忘れずに行ってください。

Q3. 低血圧の人は塩分を多く取っていいですか?

A. 低血圧の改善には適度な塩分摂取が有効ですが、過剰摂取は別の健康問題を引き起こす可能性があります。1日10〜12g程度を目安とし、腎臓病や心臓病がある場合は医師と相談してください。

Q4. コーヒーは低血圧に効果がありますか?

A. カフェインには一時的に血圧を上昇させる効果がありますが、利尿作用もあるため、飲みすぎには注意が必要です。適量(1日2〜3杯程度)であれば、低血圧の症状緩和に役立つことがあります。

Q5. 低血圧は遺伝しますか?

A. 本態性低血圧には遺伝的要因が関与していると考えられています。親や兄弟姉妹に低血圧の人がいる場合、自分も低血圧になりやすい傾向があります。

Q6. 妊娠中の低血圧は胎児に影響しますか?

A. 妊娠中は生理的に血圧が低下しやすくなりますが、通常は問題ありません。ただし、症状が強い場合や急激な血圧低下がある場合は、胎児への血流が減少する可能性があるため、医師に相談してください。

Q7. 低血圧の人は献血をしてもいいですか?

A. 低血圧の人でも献血は可能ですが、献血後にめまいや立ちくらみを起こしやすい傾向があります。献血前に十分な水分を摂取し、献血後はゆっくり休息を取ることが重要です。不安がある場合は、献血前に医師に相談してください。

まとめ

低血圧は、高血圧ほど注目されることは少ないものの、日常生活の質を大きく低下させる可能性のある重要な健康問題です。

低血圧の主なポイント

  1. 定義:一般的に収縮期血圧100mmHg未満、拡張期血圧60mmHg未満
  2. 症状:めまい、立ちくらみ、倦怠感、朝の起床困難、頭痛、動悸など
  3. 種類:本態性低血圧、起立性低血圧、食後低血圧、神経調節性失神、二次性低血圧
  4. 原因:体質、自律神経の問題、疾患、薬剤、生活習慣など多岐にわたる
  5. 治療:生活習慣の改善が基本。必要に応じて薬物療法も検討

生活習慣改善のポイント

  • 適切な水分と塩分の摂取
  • バランスの良い食事
  • 適度な運動と筋力トレーニング
  • 十分な睡眠
  • ストレス管理
  • 起立時の注意
  • 入浴時の配慮

低血圧の症状に悩まされている方は、まず生活習慣の見直しから始めてみましょう。それでも症状が改善しない場合や、日常生活に大きな支障がある場合は、医療機関を受診して適切な診断と治療を受けることが大切です。


参考文献

  1. 日本循環器学会「循環器病ガイドシリーズ」
    https://www.j-circ.or.jp/guideline/
  2. 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」
    https://www.jpnsh.jp/guideline.html
  3. 厚生労働省「e-ヘルスネット:低血圧」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
  4. 日本内科学会「内科学会雑誌」各種論文
    https://www.naika.or.jp/
  5. 日本自律神経学会「自律神経」各種研究
    http://www.navi-ans.com/
  6. 日本心臓財団「心臓病の知識」
    https://www.jhf.or.jp/
  7. 国立循環器病研究センター「循環器病情報サービス」
    http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/

※本記事は医学的情報を提供することを目的としていますが、個々の症状や治療については必ず医師にご相談ください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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