はじめに
夏場になると、保育園や幼稚園で「手足口病が流行しています」「ヘルパンギーナに注意してください」といったお知らせを目にすることが増えます。どちらも子どもに多い夏風邪の代表格として知られていますが、この2つの病気の違いをご存じでしょうか。
手足口病とヘルパンギーナは、どちらもウイルス感染症で、発熱や口内の痛みといった似た症状を示すため、混同されることも少なくありません。しかし、症状の現れ方や経過には明確な違いがあり、それぞれに適した対処法を知っておくことが大切です。
本記事では、アイシークリニック大宮院の医療知識に基づき、手足口病とヘルパンギーナの違いについて、症状の見分け方、原因となるウイルス、治療法、予防策まで詳しく解説します。お子さんの健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。
手足口病とは
手足口病の基本情報
手足口病は、主に乳幼児や小児に発症するウイルス性感染症です。その名前の通り、手のひら、足の裏、口の中に特徴的な発疹や水疱が現れることから、この名称がつけられました。日本では毎年夏季を中心に流行し、特に5歳以下の子どもが全患者の90%以上を占めています。
国立感染症研究所の感染症発生動向調査によると、手足口病は例年7月下旬にピークを迎え、患者数は数十万人規模に達することもある身近な感染症です。
原因となるウイルス
手足口病の原因となるウイルスは、主に以下の3種類です。
- コクサッキーウイルスA16型 最も一般的な原因ウイルスで、比較的軽症で済むことが多いタイプです。
- コクサッキーウイルスA6型 近年増加傾向にあり、発疹が広範囲に及ぶことや、爪が剥がれる爪甲脱落症を引き起こすことがあります。
- エンテロウイルス71型 まれに中枢神経系の合併症を引き起こす可能性があり、注意が必要なタイプです。
これらのウイルスは、エンテロウイルス属に分類され、主に腸管で増殖します。一度感染すると、そのウイルス型に対する免疫は獲得されますが、複数の型が存在するため、何度も手足口病にかかる可能性があります。
手足口病の主な症状
手足口病の典型的な症状の経過は以下の通りです。
初期症状(感染から3〜5日後)
- 軽度の発熱(37〜38℃程度)
- 食欲不振
- 喉の痛み
- 全身倦怠感
特徴的な症状(発症後1〜2日)
- 口の中の水疱性発疹(舌、歯茎、頬の内側など)
- 手のひらの発疹(2〜3mmの楕円形の赤い発疹や水疱)
- 足の裏の発疹(手のひらと同様の形状)
- 手足の指の間や側面にも発疹が現れることも
- お尻や膝にも発疹が出現することがある
口内炎による症状
- 飲食時の痛み
- よだれが増える
- 食事や水分摂取が困難になる
多くの場合、発熱は1〜3日程度で解熱し、発疹も1週間から10日ほどで自然に消退します。ただし、コクサッキーウイルスA6型による感染では、発症から1〜2カ月後に爪が剥がれる爪甲脱落症が起こることがありますが、これは一時的なもので、新しい爪が生えてきます。
手足口病の合併症
大部分の症例は軽症で済みますが、まれに以下のような合併症を起こすことがあります。
- 無菌性髄膜炎: 発熱、頭痛、嘔吐などの症状
- 脳炎: 意識障害、けいれん、麻痺などの重篤な神経症状
- 心筋炎: 胸痛、呼吸困難などの循環器症状
- 急性弛緩性麻痺: 手足の麻痺
これらの合併症は特にエンテロウイルス71型の感染時に起こりやすいとされています。高熱が続く、頭痛や嘔吐が激しい、意識がもうろうとする、呼吸が苦しそうなどの症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
ヘルパンギーナとは
ヘルパンギーナの基本情報
ヘルパンギーナは、「夏かぜ」の代表的な疾患の一つで、急性咽頭炎の一種です。その名称はギリシャ語で「ヘルペス(水疱)」と「アンギーナ(咽頭痛)」に由来し、喉に水疱ができて痛みを伴うことを意味しています。
手足口病と同様に夏季に流行し、主に5歳以下の乳幼児が罹患します。厚生労働省の統計によると、毎年6月から8月にかけて患者数が増加し、7月に流行のピークを迎える傾向があります。
原因となるウイルス
ヘルパンギーナの原因ウイルスも、手足口病と同じエンテロウイルス属です。
主な原因ウイルスは以下の通りです。
- コクサッキーウイルスA群(特にA2、A4、A5、A6、A10型) 最も頻度が高い原因ウイルスで、全体の約70%を占めます。
- コクサッキーウイルスB群 A群よりは少ないものの、ヘルパンギーナを引き起こすことがあります。
- エコーウイルス まれにヘルパンギーナの原因となります。
これらのウイルスも複数の型が存在するため、一度ヘルパンギーナにかかっても、別の型のウイルスに感染すれば再度発症する可能性があります。
ヘルパンギーナの主な症状
ヘルパンギーナの症状は、手足口病よりも急激に現れるのが特徴です。
初期症状(感染から2〜4日後)
- 突然の高熱(38〜40℃)
- 喉の強い痛み
- 全身倦怠感
- 頭痛
- 食欲不振
特徴的な症状(発症後数時間〜1日)
- 口腔内の奥(軟口蓋、口蓋垂、咽頭後壁)に小さな水疱(1〜2mm)
- 水疱が破れて潰瘍化し、灰白色の膜で覆われる
- 水疱は通常2〜10個程度
- 手足には発疹が出ないことが手足口病との大きな違い
喉の痛みによる症状
- 唾を飲み込むのも痛い
- 飲食が困難
- 特に酸味のある食べ物や熱い飲み物でしみる
- 乳児では哺乳困難
- よだれが増える
多くの場合、発熱は2〜4日程度で解熱し、口腔内の病変も1週間程度で治癒します。手足口病と比較すると、発熱が高く、喉の痛みがより強いのが特徴です。
ヘルパンギーナの合併症
ヘルパンギーナも大部分は軽症で自然治癒しますが、まれに以下のような合併症を起こすことがあります。
- 脱水症: 高熱と喉の痛みにより水分摂取が困難になることで起こる
- 熱性けいれん: 高熱に伴って起こることがある
- 無菌性髄膜炎: まれだが、発熱、頭痛、嘔吐を伴う
- 心筋炎: 非常にまれだが、重篤な合併症
特に脱水症には注意が必要です。尿の量が少ない、唇や舌が乾燥している、皮膚の張りがないなどの脱水症状が見られた場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
手足口病とヘルパンギーナの違い
症状による見分け方
手足口病とヘルパンギーナは、どちらも夏に流行するエンテロウイルス感染症ですが、症状には明確な違いがあります。
比較表:手足口病とヘルパンギーナの主な違い
| 項目 | 手足口病 | ヘルパンギーナ |
|---|---|---|
| 発熱 | 軽度(37〜38℃)<br>約3分の1は発熱なし | 高熱(38〜40℃)<br>ほぼ全例で発熱 |
| 発熱期間 | 1〜3日程度 | 2〜4日程度 |
| 発疹の部位 | 手のひら、足の裏、口の中<br>お尻、膝にも出現 | 口の中のみ<br>手足には出ない |
| 口腔内病変の位置 | 舌、歯茎、頬の内側など<br>口の中全体 | 軟口蓋、口蓋垂、咽頭後壁<br>喉の奥に限定 |
| 口腔内病変の数 | 比較的多い | 2〜10個程度と少ない |
| 喉の痛み | 中等度 | 非常に強い |
| 発症の仕方 | 比較的緩やか | 急激 |
| 全身症状 | 比較的軽度 | 倦怠感が強い |
| 流行時期 | 7月下旬がピーク | 6〜7月がピーク |
| 好発年齢 | 5歳以下(特に2歳以下) | 5歳以下(特に1〜4歳) |
原因ウイルスの違い
両疾患とも原因はエンテロウイルス属のウイルスですが、主要な原因ウイルスに違いがあります。
手足口病の主な原因ウイルス
- コクサッキーウイルスA16型
- コクサッキーウイルスA6型
- エンテロウイルス71型
ヘルパンギーナの主な原因ウイルス
- コクサッキーウイルスA群(A2、A4、A5、A6、A10型など)
- コクサッキーウイルスB群
- エコーウイルス
興味深いことに、コクサッキーウイルスA6型は両方の疾患の原因となることがあります。このため、同じウイルスでも感染部位や症状の現れ方によって、手足口病とヘルパンギーナのどちらとも診断される可能性があります。
診断のポイント
医師は以下のポイントを総合的に判断して診断します。
手足口病の診断ポイント
- 手のひらや足の裏に特徴的な発疹がある
- 口の中に水疱や潰瘍がある
- 夏季の流行期である
- 周囲に同様の症状の患者がいる
- 発熱は軽度または無熱
ヘルパンギーナの診断ポイント
- 突然の高熱で発症
- 喉の奥(軟口蓋や咽頭)に水疱や潰瘍がある
- 手足には発疹がない
- 夏季の流行期である
- 喉の痛みが非常に強い
実際の臨床現場では、視診による口腔内や手足の観察が最も重要です。特に「手足に発疹があるかどうか」が、両者を見分ける決め手となります。
重症度の違い
一般的に、両疾患とも軽症で済むことがほとんどですが、重症化のリスクには若干の違いがあります。
手足口病の重症化リスク
- エンテロウイルス71型による感染時
- 中枢神経系の合併症(無菌性髄膜炎、脳炎など)のリスク
- アジア地域で重症例の報告が多い
ヘルパンギーナの重症化リスク
- 高熱による熱性けいれん
- 喉の痛みと高熱による脱水症
- 合併症自体は手足口病より少ない傾向
どちらの疾患も、適切な対症療法と水分補給を行えば、通常1週間程度で回復します。
感染経路と潜伏期間
共通する感染経路
手足口病とヘルパンギーナは、どちらも以下の経路で感染が広がります。
1. 飛沫感染
- 咳やくしゃみによる飛沫を介して感染
- 感染者との距離が近いほどリスクが高い
- 保育園や幼稚園など集団生活の場で広がりやすい
2. 接触感染
- ウイルスが付着した手で口や鼻を触ることで感染
- おもちゃやドアノブなどを介した間接接触
- タオルの共用による感染
3. 糞口感染
- 便の中にウイルスが排出される
- おむつ交換時の手洗い不十分による感染
- 回復後も2〜4週間は便からウイルスが検出される
特に注意すべき点は、症状が消失した後も便からウイルスが長期間排出されることです。このため、回復後も手洗いなどの衛生管理を続けることが重要です。
潜伏期間
手足口病の潜伏期間 感染から発症までの期間は3〜5日程度です。
ヘルパンギーナの潜伏期間 感染から発症までの期間は2〜4日程度で、手足口病よりやや短い傾向があります。
感染力のある期間
両疾患とも、以下の期間に感染力があります。
- 発症前: 潜伏期間の後半から感染力がある
- 急性期: 発症後数日間が最も感染力が強い
- 回復期: 症状消失後も便から2〜4週間ウイルスが排出される
このため、症状が治まったからといってすぐに登園・登校させると、集団感染の原因となる可能性があります。
診断と検査
診察の流れ
手足口病やヘルパンギーナが疑われる場合、医療機関では以下のような診察が行われます。
1. 問診
- 発熱の有無と程度、発症時期
- 喉の痛みや食事摂取の状況
- 周囲での流行状況
- 既往歴やワクチン接種歴
2. 視診
- 口腔内の観察(水疱や潰瘍の位置、数、大きさ)
- 手のひら、足の裏、お尻などの皮膚の観察
- 全身状態の評価
3. 身体診察
- 体温測定
- リンパ節の触診
- 脱水の有無の確認
- 神経学的所見の確認(重症例の疑いがある場合)
確定診断のための検査
通常、手足口病やヘルパンギーナの診断は、症状と視診によって臨床的に行われます。特別な検査は必要ないことがほとんどです。
ただし、以下のような場合には検査が行われることがあります。
ウイルス検査が必要な場合
- 重症化の兆候がある
- 集団発生の原因を特定する必要がある
- 研究や疫学調査のため
検査方法
- ウイルス分離検査
- 咽頭ぬぐい液や便からウイルスを分離
- 結果が出るまで数日〜1週間程度かかる
- PCR検査
- ウイルスの遺伝子を検出
- より迅速で特異的な診断が可能
- 血清抗体検査
- ペア血清で抗体価の上昇を確認
- 後方視的な診断に用いられる
しかし、これらの検査結果を待っている間にも症状は改善していくため、実際の臨床現場では検査をせずに診断・治療を行うのが一般的です。
鑑別診断
手足口病やヘルパンギーナと似た症状を示す他の疾患との区別も重要です。
鑑別が必要な疾患
- 水痘(水ぼうそう)
- 全身に水疱性発疹
- 発疹は体幹から始まる
- かゆみを伴う
- ヘルペス性歯肉口内炎
- 歯茎が赤く腫れる
- 口臭が強い
- より重症で発熱も高い
- 咽頭結膜熱(プール熱)
- 結膜炎を伴う
- アデノウイルスが原因
- 溶連菌感染症
- イチゴ舌
- 発疹は全身
- 抗生物質が有効
- 伝染性単核球症
- 扁桃炎が著明
- リンパ節腫脹
- 肝脾腫
これらの疾患は治療法や対応が異なるため、正確な診断が重要です。
治療法
基本的な治療方針
手足口病とヘルパンギーナは、どちらもウイルス性疾患であり、特効薬は存在しません。したがって、治療の基本は対症療法となります。
多くの場合、1週間程度で自然に治癒するため、症状を和らげながら体力の回復を待つことが治療の中心となります。
対症療法の詳細
1. 解熱鎮痛薬の使用
高熱や痛みに対しては、以下の解熱鎮痛薬が使用されます。
- アセトアミノフェン(カロナールなど)
- 乳幼児にも安全に使用できる
- 体重に応じた適切な用量を守る
- 38.5℃以上の発熱や、痛みで食事が取れない場合に使用
- イブプロフェン(ブルフェンなど)
- 生後6カ月以降の乳児から使用可能
- 抗炎症作用もある
- 脱水がある場合は使用を避ける
注意事項
- アスピリンは小児には使用しない(ライ症候群のリスク)
- 市販薬を使用する場合は薬剤師に相談
- 解熱剤の使いすぎに注意
2. 口腔内の痛みへの対処
口の中の痛みが強い場合は、以下の対策が有効です。
- 口腔用局所麻酔薬
- 医師の処方によるうがい薬やゼリー
- 食事の前に使用すると食べやすくなる
- 食事の工夫
- 刺激の少ない食べ物を選ぶ
- 冷たくて柔らかいもの(ゼリー、プリン、アイスクリームなど)
- 酸味の強い食品は避ける
- 熱い食べ物や硬い食べ物は避ける
- ストローを使うと飲みやすい
3. 水分補給
脱水予防のために、こまめな水分補給が最も重要です。
- 推奨される飲み物
- 麦茶や水
- 経口補水液(OS-1など)
- 薄めたリンゴジュース
- スポーツドリンク(糖分が多いため、薄めて使用)
- 避けるべき飲み物
- 柑橘系ジュース(しみて痛い)
- 炭酸飲料(刺激が強い)
- 熱い飲み物
脱水のサイン 以下の症状が見られたら、すぐに医療機関を受診してください。
- おしっこの量が著しく少ない(6時間以上出ない)
- 涙が出ない
- 口や舌が乾燥している
- 皮膚の張りがない(つまんでもすぐに戻らない)
- ぐったりしている
- 意識がもうろうとしている
4. 皮膚の発疹への対処
手足口病の発疹は通常、治療の必要はありませんが、以下の点に注意しましょう。
- 発疹をかきむしらないようにする
- 爪を短く切っておく
- かゆみが強い場合は保冷剤で冷やす
- 必要に応じて抗ヒスタミン薬を使用
入院治療が必要な場合
以下のような症状が見られる場合は、入院治療が必要となることがあります。
- 高熱が5日以上続く
- 激しい頭痛や嘔吐が続く
- 意識がもうろうとする
- けいれんを起こす
- 呼吸が苦しそう
- 水分が全く取れず、脱水が進行している
- ぐったりして元気がない
これらの症状は、合併症の可能性を示唆するため、速やかに医療機関を受診することが重要です。
家庭でのケアのポイント
1. 安静と休養
- 十分な睡眠をとる
- 無理に遊ばせない
- 静かな環境で過ごす
2. 室温と湿度の管理
- 室温は快適に保つ(25〜28℃程度)
- 加湿器で湿度を50〜60%に保つ
- 定期的に換気する
3. 衣類の調整
- 発熱時は薄着にする
- 汗をかいたらこまめに着替える
- 通気性の良い素材を選ぶ
4. 経過観察
- 体温を定期的に測定(1日3〜4回)
- 水分摂取量と尿量を記録
- 症状の変化に注意
5. 家族への感染予防
- 手洗いを徹底する
- タオルの共用を避ける
- おむつ交換後は特に注意深く手洗い
- 兄弟姉妹との接触を最小限にする
予防法と日常生活での注意点
基本的な予防対策
残念ながら、手足口病やヘルパンギーナに対する有効なワクチンは現在のところ存在しません。したがって、予防の基本は日常的な衛生管理となります。
1. 手洗いの徹底
最も効果的な予防法は、こまめな手洗いです。
手洗いのタイミング
- 帰宅後すぐ
- 食事の前
- トイレの後
- おむつ交換の後
- 鼻をかんだ後
- 調理の前
正しい手洗いの方法
- 流水で手を濡らす
- 石鹸を泡立てる
- 手のひら、手の甲、指の間、爪の間、手首まで丁寧に洗う
- 流水でしっかりすすぐ
- 清潔なタオルで拭く
- 手洗いは30秒以上かけて行う
2. うがいの習慣
外出から帰った後や人混みに行った後は、うがいをする習慣をつけましょう。
- 最初に口の中をゆすぐ
- 次に喉の奥でガラガラとうがいをする
- 水は2〜3回替える
3. マスクの着用
流行期には、以下の場面でマスクを着用することが推奨されます。
- 人混みや公共交通機関を利用する時
- 家族が感染している場合
- 咳やくしゃみの症状がある時
4. タオルや食器の共用を避ける
家族内での感染を防ぐために、以下のものは個別に使用しましょう。
- タオル(手拭き、バスタオル)
- コップや食器
- 歯ブラシ
- 箸やスプーン
5. おもちゃや環境の消毒
保育園や家庭で共用するものは定期的に消毒しましょう。
効果的な消毒方法
- 次亜塩素酸ナトリウム液(ハイターなど)で消毒
- アルコールはエンテロウイルスに効果が低い
- おもちゃは洗剤で洗った後、塩素系消毒液に浸す
- ドアノブや手すりなども定期的に拭き取る
保育園・幼稚園での対応
日本小児科学会の「保育所における感染症対策ガイドライン」では、以下のような対応が推奨されています。
登園の目安
手足口病の場合
- 発熱や口腔内の水疱・潰瘍の影響がなく、普段の食事がとれること
- 全身状態が良好であること
ヘルパンギーナの場合
- 発熱や喉頭・口腔の水疱・潰瘍の影響がなく、普段の食事がとれること
- 全身状態が良好であること
重要な注意点
- 医師の診断を受ける
- 医師の許可があるまで登園を控える
- 症状が治まっても便からウイルスが排出されるため、手洗いを徹底
- 流行時は園の方針に従う
保育園での感染予防対策
- 職員の手洗い・消毒の徹底
- おもちゃやドアノブの定期的な消毒
- おむつ交換スペースの衛生管理
- 換気の実施
- 流行情報の保護者への共有
家族内感染を防ぐために
家族の中で一人が感染した場合、他の家族への感染を防ぐために以下の対策を行いましょう。
1. 隔離の工夫
- 可能であれば別の部屋で過ごす
- 兄弟姉妹との接触を最小限にする
- 食事の時間をずらす
2. 看病する人の感染予防
- 看病の前後に必ず手洗いをする
- おむつ交換時は使い捨て手袋を使用
- マスクを着用する
- 看病する人は1人に固定する
3. 排泄物の処理
- おむつは密閉して捨てる
- トイレは使用後に消毒する
- 便が付着した衣類は他の洗濯物と分けて洗う
4. 共用部分の消毒
- ドアノブ、電気のスイッチ、リモコンなどを消毒
- 1日1〜2回、次亜塩素酸ナトリウム液で拭く
流行期の外出について
流行期には、不要不急の外出を控えることも予防につながります。
避けるべき場所
- 保育園や幼稚園で流行している時期のイベント
- 人混みの多い場所(ショッピングモール、遊園地など)
- プールや水遊び施設(ウイルスが水を介して広がりやすい)
外出時の注意
- こまめに手洗いをする
- 公共の場で顔を触らない
- 帰宅後すぐに手洗い・うがいをする

よくある質問(Q&A)
A. はい、大人もかかることがあります。ただし、ほとんどの大人は子どもの頃に感染して免疫を獲得しているため、発症することは比較的まれです。
大人が感染した場合、子どもより症状が重くなる傾向があります。特に手足口病では、手足の発疹が痛みを伴い、歩行困難になることもあります。また、口内炎の痛みが強く、食事が困難になるケースも少なくありません。
妊婦が感染した場合でも、胎児への影響はほとんどないとされていますが、心配な場合は産婦人科医に相談しましょう。
A. いいえ、何度もかかる可能性があります。
手足口病とヘルパンギーナの原因ウイルスには複数の型があり、一つの型に対する免疫を獲得しても、別の型のウイルスに感染すれば再び発症します。
例えば、コクサッキーウイルスA16型による手足口病に一度かかっても、コクサッキーウイルスA6型やエンテロウイルス71型に感染すれば、再び手足口病を発症する可能性があります。
Q3. 兄弟がいる場合、一緒にお風呂に入っても大丈夫ですか?
A. 症状がある間は、できるだけ別々に入浴することをおすすめします。
お風呂の水を介した感染はまれですが、お風呂場での接触や、タオルの共用によって感染が広がる可能性があります。
もし一緒に入浴する場合は、以下の点に注意してください。
- 感染した子どもを最後に入浴させる
- タオルは別々に使う
- おもちゃの共用を避ける
- 入浴後は浴槽や床を消毒する
症状が治まってからも、便からウイルスが排出されるため、2週間程度は注意が必要です。
Q4. 保育園から「手足口病が流行しています」と連絡が来ました。予防接種はありますか?
A. 残念ながら、現在のところ手足口病やヘルパンギーナに対する予防接種(ワクチン)は存在しません。
中国では一部のエンテロウイルス71型に対するワクチンが開発されていますが、日本ではまだ承認されていません。また、複数の型のウイルスが存在するため、一つの型に対するワクチンだけでは完全な予防は困難です。
そのため、予防の基本は手洗いやうがいなどの日常的な衛生管理となります。
Q5. 爪が剥がれてきましたが、病院に行くべきですか?
A. 手足口病の回復期に爪が剥がれる「爪甲脱落症」は、特にコクサッキーウイルスA6型の感染後に起こることがあります。
これは一時的な症状で、通常は自然に新しい爪が生えてきます。痛みがなく、感染の兆候(赤み、腫れ、膿など)がなければ、経過観察で問題ありません。
ただし、以下の場合は医療機関を受診しましょう。
- 爪の周囲が赤く腫れている
- 痛みが強い
- 膿が出ている
- 出血が止まらない
Q6. プールに入っても大丈夫ですか?
A. 症状がある間は、プールの利用を控えてください。
発熱や発疹が治まり、全身状態が良好になってからプールに入ることができます。ただし、便からは症状が治まった後も2〜4週間ウイルスが排出されるため、以下の点に注意が必要です。
- プール後のシャワーを必ず浴びる
- 手洗いを徹底する
- タオルの共用を避ける
- トイレの後は特に念入りに手洗いをする
保育園や幼稚園のプールについては、施設の方針に従ってください。
Q7. 市販の薬で治療できますか?
A. 発熱や痛みに対しては、市販の解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンやイブプロフェン)を使用できます。
ただし、以下の点に注意してください。
- 小児用の薬を選ぶ
- 体重や年齢に応じた適切な用量を守る
- アスピリンは小児には使用しない
- 薬剤師に相談する
また、以下のような場合は自己判断せず、医療機関を受診することをおすすめします。
- 高熱が続く
- 水分が取れない
- ぐったりしている
- 初めての感染症
- 生後6カ月未満の乳児
Q8. 妊娠中に感染した場合、赤ちゃんに影響はありますか?
A. 一般的に、妊婦が手足口病やヘルパンギーナに感染しても、胎児への重大な影響はないとされています。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 出産直前の感染では、新生児に感染する可能性がある
- まれに新生児が重症化することがある
- 妊娠中の高熱は別の問題を引き起こす可能性がある
妊娠中に感染した場合、または感染が疑われる場合は、必ず産婦人科医に相談してください。また、家族に感染者がいる場合は、手洗いなどの予防対策を徹底しましょう。
Q9. 食事が取れません。何か良い方法はありますか?
A. 口の中が痛い時は、以下のような工夫をすると食べやすくなります。
推奨される食品
- 冷たくて柔らかいもの(ゼリー、プリン、アイスクリーム、ヨーグルト)
- のど越しの良いもの(豆腐、茶碗蒸し、おかゆ)
- 栄養価の高い流動食(スープ、ポタージュ)
- バナナなど柔らかい果物
避けるべき食品
- 酸味の強いもの(柑橘類、トマト、酢の物)
- 塩辛いもの
- 辛いもの
- 硬いもの(せんべい、クッキー、揚げ物)
- 熱い食べ物
工夫のポイント
- 少量ずつ頻回に与える
- ストローを使う
- 食事の前に痛み止めを使う(医師の指示がある場合)
- 無理に食べさせない
食事量が減っても、水分補給ができていれば大きな問題はありません。ただし、全く飲めない場合は脱水の危険があるため、医療機関を受診してください。
Q10. 消毒はどのように行えばよいですか?
A. エンテロウイルスに効果的な消毒方法は、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)の使用です。
消毒液の作り方 市販の塩素系漂白剤(ハイターなど)を使用します。
- 一般的な消毒用: 0.02%(200ppm)
- 水1リットルに対して、漂白剤4ml(キャップ約0.8杯)
- 嘔吐物や便の処理: 0.1%(1000ppm)
- 水1リットルに対して、漂白剤20ml(キャップ約4杯)
消毒の手順
- ゴム手袋を着用する
- 消毒液を浸した布で拭く
- 5〜10分置く
- 水拭きする(金属部分は必須)
- 手洗いをする
消毒する場所
- ドアノブ
- 電気のスイッチ
- リモコン
- トイレの便座やレバー
- おもちゃ
- 手すり
注意事項
- アルコールはエンテロウイルスに効果が低い
- 塩素系漂白剤は金属を腐食させるため、水拭きが必要
- 換気を十分に行う
- 酸性の洗剤と混ぜない(有毒ガスが発生)
- 色落ちすることがあるため、衣類や布製品は注意
合併症と注意すべき症状
早期に受診すべき症状
手足口病やヘルパンギーナは通常軽症で済みますが、以下のような症状が見られた場合は、すぐに医療機関を受診してください。
緊急性の高い症状
- 高熱が続く: 38.5℃以上の発熱が3日以上続く
- 激しい頭痛: 頭を激しく痛がる、頭を触られるのを嫌がる
- 嘔吐が続く: 何度も吐く、水分も受け付けない
- けいれん: 手足がガクガクする、意識がなくなる
- 意識障害: 呼びかけに反応しない、ぼーっとしている
- 呼吸困難: 呼吸が速い、肩で息をする、唇が紫色
- ぐったりしている: 元気がない、反応が鈍い
- 水分が取れない: 6時間以上おしっこが出ない
経過観察が必要な症状
- 発疹が広範囲に広がる
- 水疱が化膿している
- 手足が腫れている
- 歩けない、手が使えない
重症化のリスク因子
以下のような場合は、重症化のリスクが高いため、特に注意深い観察が必要です。
- 年齢: 特に2歳以下の乳幼児
- ウイルスの型: エンテロウイルス71型による感染
- 基礎疾患: 心疾患、呼吸器疾患、免疫不全
- 脱水: 水分摂取が不十分
- 早期の神経症状: 発症初期からの頭痛や嘔吐
主な合併症
1. 無菌性髄膜炎
最も頻度の高い合併症で、髄膜(脳や脊髄を覆う膜)にウイルスが感染します。
症状
- 激しい頭痛
- 嘔吐
- 発熱
- 首が硬くなる(項部硬直)
- 光をまぶしがる
対応 入院して安静を保ち、点滴治療を行います。通常は1〜2週間で回復します。
2. 脳炎
非常にまれですが、脳実質にウイルスが感染する重篤な合併症です。
症状
- 高熱
- 意識障害
- けいれん
- 麻痺
- 異常行動
対応 緊急入院が必要で、集中治療を行います。後遺症が残る場合があります。
3. 心筋炎
心臓の筋肉にウイルスが感染する重篤な合併症で、特にエンテロウイルスB群で起こりやすいとされています。
症状
- 胸痛
- 呼吸困難
- 顔色が悪い
- 脈が速い、不規則
対応 緊急入院が必要で、心臓の機能をサポートする治療を行います。
4. 急性弛緩性麻痺
手足に力が入らなくなる合併症で、エンテロウイルスD68型やエンテロウイルス71型で報告されています。
症状
- 急に手足の力が入らなくなる
- 筋肉の緊張が低下
- 深部腱反射の消失
対応 早期のリハビリテーションが重要です。
5. 爪甲脱落症
コクサッキーウイルスA6型の感染後に起こることがある症状です。
症状
- 発症から1〜2カ月後に爪が剥がれ始める
- 痛みはほとんどない
- 手足の複数の爪に起こることがある
対応 特別な治療は必要なく、自然に新しい爪が生えてきます。
最新の研究と今後の展望
ワクチン開発の現状
手足口病に対するワクチン開発は、世界中で進められています。
中国での取り組み 中国では、エンテロウイルス71型に対する不活化ワクチンが開発され、2016年から使用されています。このワクチンは、重症化や合併症のリスクを大幅に減少させることが報告されています。
日本での状況 日本では、まだエンテロウイルス71型ワクチンは承認されていません。しかし、中国での成功を受けて、今後の導入が検討される可能性があります。
課題
- 複数の型のウイルスが存在するため、一つのワクチンだけでは予防が困難
- コストと効果のバランス
- 重症化率が比較的低いため、ワクチンの優先順位が低い
新しい治療法の研究
抗ウイルス薬の開発 現在、エンテロウイルスに効果のある抗ウイルス薬の開発が進められています。特に、エンテロウイルス71型による重症例に対する治療薬として期待されています。
免疫グロブリン療法 重症例に対して、免疫グロブリンの投与が効果的である可能性が研究されています。
遺伝子解析による予後予測 ウイルスの遺伝子型を解析することで、重症化のリスクを早期に予測する技術が開発されつつあります。
疫学的な変化
流行パターンの変化 近年、手足口病とヘルパンギーナの流行パターンに変化が見られています。
- 流行の時期が長期化する傾向
- 冬季にも散発的な流行が見られる
- 大人の患者が増加傾向
ウイルス型の変化
- コクサッキーウイルスA6型による感染が増加
- より重症化しやすいウイルス型の出現
国際的な動向 アジア地域では、エンテロウイルス71型による重症例や死亡例が報告されており、WHO(世界保健機関)も監視を強化しています。
まとめ
手足口病とヘルパンギーナは、どちらも夏季に流行するエンテロウイルス感染症ですが、症状の現れ方には明確な違いがあります。
手足口病の特徴
- 手のひら、足の裏、口の中に発疹
- 発熱は比較的軽度
- お尻や膝にも発疹が出ることがある
- 通常は軽症で1週間程度で治癒
ヘルパンギーナの特徴
- 喉の奥に水疱や潰瘍
- 突然の高熱(38〜40℃)
- 手足には発疹が出ない
- 喉の痛みが非常に強い
- 2〜4日で解熱し、1週間程度で治癒
両疾患に共通する重要なポイント
- 特効薬はなく、対症療法が基本
- 水分補給が最も重要
- 手洗いが最も効果的な予防法
- 症状消失後も便からウイルスが排出される
- 多くは軽症だが、まれに重症化することがある
医療機関を受診すべきタイミング
- 高熱が3日以上続く
- 水分が全く取れない
- ぐったりして元気がない
- 激しい頭痛や嘔吐
- けいれんや意識障害
参考文献
- 国立感染症研究所「手足口病とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.html - 国立感染症研究所「ヘルパンギーナとは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/498-herpangina.html - 厚生労働省「手足口病に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/hfmd.html - 厚生労働省「ヘルパンギーナに関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/herpangina.html - 日本小児科学会「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」
https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=13 - 日本小児感染症学会「エンテロウイルス感染症の診断・治療ガイドライン」
- 東京都感染症情報センター「手足口病の流行状況」
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/hfmd/ - 東京都感染症情報センター「ヘルパンギーナの流行状況」
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/herpangina/ - 日本皮膚科学会「ウイルス性発疹症」
https://www.dermatol.or.jp/ - 国立成育医療研究センター「手足口病・ヘルパンギーナ」
https://www.ncchd.go.jp/
免責事項 本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。お子さんの症状でご心配な場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務