はじめに
「最近、食後に右上腹部が痛む」「油っこいものを食べると気分が悪くなる」そんな症状に心当たりはありませんか?それは、もしかすると胆石(たんせき)が原因かもしれません。
胆石は、胆嚢(たんのう)や胆管にできる石のような固形物で、日本人の約10人に1人が持っているとされる非常に身近な病気です。特に40代以降の女性に多く見られ、近年では食生活の欧米化に伴い、患者数が増加傾向にあります。
本記事では、アイシークリニック大宮院が、胆石の基礎知識から症状、原因、診断方法、治療法、予防法まで、一般の方にもわかりやすく徹底解説します。胆石について正しい知識を身につけ、適切な対応ができるようになりましょう。
目次
- 胆石とは何か
- 胆石の種類
- 胆石の症状
- 胆石ができる原因
- 胆石になりやすい人の特徴
- 胆石の診断方法
- 胆石の治療法
- 胆石の予防法
- 胆石と生活習慣
- よくある質問(Q&A)
1. 胆石とは何か
胆石の定義
胆石(gallstones)とは、胆嚢や胆管内に形成される結晶性の固形物のことです。胆汁の成分が何らかの原因で結晶化し、次第に大きくなって石のように固まったものを指します。
胆石は、大きさや形状が様々で、砂粒のように小さなものから、数センチメートルの大きなものまであります。また、1個だけできる場合もあれば、数十個、時には数百個できることもあります。
胆嚢と胆汁の役割
胆石を理解するためには、まず胆嚢と胆汁の働きを知ることが重要です。
胆嚢は、肝臓の下に位置する洋梨型の小さな袋状の臓器で、容量は約50mlほどです。肝臓で作られた胆汁を一時的に貯蔵し、濃縮する役割を担っています。
胆汁は、肝臓で1日に約600〜800ml生成される黄褐色の消化液です。主な成分は以下の通りです:
- 胆汁酸:脂肪の消化・吸収を助ける
- コレステロール:細胞膜の材料となる脂質
- ビリルビン:赤血球の分解産物
- レシチン(リン脂質):脂質の乳化を助ける
- 水分:約97%
食事をすると、胆嚢が収縮して胆汁が胆管を通って十二指腸に排出され、特に脂肪の消化を助けます。
胆石症の疫学
日本における胆石症の有病率は、年齢とともに増加し、40歳以上では約10〜15%、60歳以上では約20%に達するとされています。特に以下の特徴があります:
- 男女比:女性が男性の約1.5〜2倍多い
- 年齢:40代以降に増加
- 地域差:欧米と比較して日本人はコレステロール結石が多い
- 無症状:胆石保有者の約70〜80%は無症状
2. 胆石の種類
胆石は、その成分によって大きく3つのタイプに分類されます。
コレステロール結石
日本人の胆石の約70〜80%を占める最も一般的なタイプです。
特徴:
- 主成分はコレステロール(70%以上)
- 黄白色〜黄褐色
- 表面が比較的滑らか
- X線検査では映りにくい(透亮結石)
- 胆嚢内にできることが多い
形成メカニズム: 胆汁中のコレステロールが過飽和状態になり、胆汁酸やレシチンとのバランスが崩れることで結晶化します。胆嚢の収縮機能が低下すると、胆汁が停滞し、さらに結石が成長しやすくなります。
色素結石
ビリルビン(胆汁色素)を主成分とする結石で、日本人の約20〜30%を占めます。
ビリルビンカルシウム結石(黒色石):
- 黒色〜暗褐色
- 硬くて脆い
- 胆嚢内にできやすい
- 溶血性貧血、肝硬変などに合併しやすい
ビリルビンカルシウム結石(褐色石):
- 褐色〜茶褐色
- 比較的柔らかい
- 胆管内にできやすい
- 細菌感染が関与することが多い
混合石
コレステロールとビリルビンカルシウムが混在した結石です。日本人では比較的少なく、全体の約10%程度とされています。
3. 胆石の症状
胆石の症状は、胆石の有無、大きさ、位置、個数などによって大きく異なります。
無症状胆石
サイレントストーン(silent stone)とも呼ばれ、胆石保有者の約70〜80%は無症状です。健康診断や他の病気の検査時に偶然発見されることが多く、日常生活に支障はありません。
ただし、無症状であっても、年間約1〜3%の方に症状が出現するとされており、定期的な経過観察が推奨されます。
胆石発作(胆道疝痛)
胆石が胆嚢の出口や胆管に詰まることで起こる激しい痛みです。
典型的な症状:
- 右上腹部の激しい痛み:みぞおちから右上腹部にかけての持続的な痛み
- 背中や右肩への放散痛:右の肩甲骨周辺に痛みが広がる
- 持続時間:数十分から数時間続く(15分以上が典型的)
- 発症タイミング:食後、特に脂肪分の多い食事の後30分〜2時間
- 夜間や早朝の発作:睡眠中に起こることもある
随伴症状:
- 吐き気・嘔吐
- 冷や汗
- 顔面蒼白
- 食欲不振
- 腹部膨満感
胆嚢炎
胆石が胆嚢の出口に詰まり、胆汁がうっ滞して炎症を起こした状態です。
急性胆嚢炎の症状:
- 右上腹部の持続的な痛み(6時間以上)
- 発熱(38℃以上)
- 悪寒・戦慄
- 吐き気・嘔吐
- 右上腹部を押すと強い痛み(Murphy徴候)
- 白血球数の増加
急性胆嚢炎は重症化すると、胆嚢壊疽や穿孔を起こす可能性があり、緊急治療が必要となります。
胆管炎
胆石が胆管に詰まり、胆管内に細菌感染を起こした状態です。
症状(Charcot三徴):
- 発熱・悪寒
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
- 右上腹部痛
重症化すると、意識障害やショック状態に陥ることもあり(Reynolds五徴)、命に関わる危険な状態です。早急な治療が必要です。
その他の症状
- 消化不良:脂っこいものを食べた後の胃もたれ
- 腹部膨満感:お腹が張る感じ
- げっぷ:頻繁に出る
- 胸やけ:酸っぱいものが上がってくる感じ
- 便の色の変化:白っぽい便(胆汁が腸に流れない場合)
- 尿の色の変化:濃い茶褐色(黄疸がある場合)
4. 胆石ができる原因
胆石の形成には、複数の要因が複雑に関与しています。
コレステロール結石の原因
1. コレステロールの過飽和
胆汁中のコレステロール濃度が上昇し、胆汁酸やレシチンとのバランスが崩れると、コレステロールが溶けきれずに結晶化します。
コレステロール濃度が上昇する要因:
- 高脂肪・高カロリーの食事
- 肥満
- 急激な体重減少
- 遺伝的要因
- 女性ホルモン(エストロゲン)の影響
2. 胆嚢の運動機能低下
胆嚢の収縮力が低下すると、胆汁が停滞し、結晶が成長しやすくなります。
運動機能が低下する要因:
- 妊娠
- 長期の絶食
- 不規則な食生活
- 全身麻酔や手術後
- 糖尿病
3. 胆汁酸の分泌低下
肝臓での胆汁酸の合成が減少すると、コレステロールを溶かす力が弱まります。
色素結石の原因
1. ビリルビンの過剰産生
赤血球の破壊が亢進すると、ビリルビンが増加します。
関連する病気:
- 溶血性貧血
- 人工心臓弁
- 鎌状赤血球症
2. 細菌感染
大腸菌などの細菌が産生する酵素により、ビリルビンが不溶性の形に変化し、カルシウムと結合して結石を形成します。
リスク要因:
- 胆道感染の既往
- 胆道の解剖学的異常
- 胆道手術の既往
3. 肝硬変
肝機能の低下により、ビリルビンの代謝異常が起こります。
5. 胆石になりやすい人の特徴
胆石症には、「5F」と呼ばれる典型的なリスク因子があります。
5Fとは
- Female(女性):女性ホルモンがコレステロールの分泌を増やす
- Forty(40歳以上):加齢により胆嚢機能が低下
- Fatty(肥満):コレステロール代謝異常のリスク増加
- Fair(白人・色白):遺伝的要因(日本人では該当率が低い)
- Fecund/Fertile(多産婦):妊娠により胆嚢機能が低下
その他のリスク因子
生活習慣
- 食生活:
- 高脂肪・高カロリー食
- 不規則な食事時間
- 朝食抜き
- 急激なダイエット
- 運動不足:
- 座りがちな生活
- 長時間のデスクワーク
- 生活リズム:
- 夜型生活
- 睡眠不足
- ストレス過多
疾患
- 糖尿病
- 脂質異常症(高コレステロール血症)
- メタボリックシンドローム
- 肝硬変
- クローン病
- 回腸切除後
薬剤
- 経口避妊薬
- ホルモン補充療法
- フィブラート系脂質異常症治療薬
- オクトレオチド(ソマトスタチンアナログ)
遺伝的要因
家族歴がある場合、胆石症のリスクが約2倍になるとされています。特に親や兄弟姉妹に胆石症の方がいる場合は注意が必要です。
6. 胆石の診断方法
胆石の診断には、問診、身体診察、画像検査、血液検査などが用いられます。
問診・身体診察
問診のポイント
- 症状の有無と詳細(痛みの部位、性質、持続時間)
- 発症のタイミング(食事との関連)
- 既往歴(胆道系疾患、肝疾患など)
- 家族歴
- 生活習慣(食事、運動、飲酒など)
- 服用中の薬剤
身体診察
- 視診:黄疸の有無
- 触診:右上腹部の圧痛、Murphy徴候の確認
- 打診:肝臓の大きさの評価
- 聴診:腸蠕動音の確認
画像検査
腹部超音波検査(エコー検査)
胆石診断の第一選択検査です。非侵襲的で、放射線被曝がなく、外来で簡単に実施できます。
検査でわかること:
- 胆石の有無(感度95%以上)
- 胆石の大きさ、個数、位置
- 胆嚢壁の肥厚(炎症の有無)
- 胆嚢の大きさ
- 胆管の拡張
特徴的な所見:
- 胆嚢内の高エコー像
- 音響陰影(acoustic shadow)
- 体位変換での移動
制限:
- 肥満や腸管ガスで見えにくい場合がある
- 小さな胆石は見逃される可能性がある
CT検査(コンピュータ断層撮影)
目的:
- 胆石の確認(石灰化した結石は明瞭)
- 胆嚢炎の評価
- 周囲臓器への影響の確認
- 合併症(膿瘍、穿孔など)の診断
特徴:
- コレステロール結石は映りにくい
- 造影剤を使用することで、より詳細な情報が得られる
MRI検査・MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)
特徴:
- 放射線被曝なし
- 胆管・膵管を立体的に描出
- 造影剤不要
適応:
- 胆管結石の診断
- 胆管の詳細な評価
- 超音波やCTで判断が困難な場合
内視鏡検査(EUS、ERCP)
EUS(超音波内視鏡検査):
- 内視鏡の先端に超音波プローブを装着
- 胃や十二指腸から胆嚢・胆管を観察
- 小さな胆石の検出に優れる
ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影):
- 内視鏡を十二指腸まで挿入し、造影剤で胆管を描出
- 胆管結石の診断と治療が同時に可能
- 合併症のリスクがあるため、治療目的で実施されることが多い
血液検査
一般的な検査項目
- 白血球数(WBC):炎症の指標
- CRP(C反応性蛋白):炎症マーカー
- 肝機能検査:
- AST、ALT:肝細胞障害の指標
- ALP、γ-GTP:胆汁うっ滞の指標
- 総ビリルビン:黄疸の評価
- アミラーゼ:膵炎の合併を評価
無症状胆石の場合
通常、血液検査は正常範囲内です。
胆嚢炎・胆管炎の場合
- 白血球数の増加
- CRPの上昇
- 肝機能異常
- ビリルビン値の上昇(黄疸がある場合)
7. 胆石の治療法
胆石の治療は、症状の有無、胆石の種類や大きさ、合併症の有無などを総合的に判断して選択されます。
無症状胆石の対応
基本方針:経過観察
無症状の胆石(サイレントストーン)については、原則として積極的な治療は行わず、定期的な経過観察が推奨されます。これは、以下の理由によります:
- 症状が出現するのは年間1〜3%程度
- 予防的手術のメリットが手術リスクを上回らない
- 生涯無症状のまま経過する可能性が高い
経過観察の間隔:
- 最初の1年間:6ヶ月ごと
- その後:年1回の超音波検査
手術を検討すべき無症状胆石:
- 胆嚢壁の石灰化(磁器様胆嚢)
- 3cm以上の大きな胆石
- 胆嚢ポリープの合併
- 胆嚢腺筋腫症の合併
- 将来的に手術が困難になる可能性がある場合
症状のある胆石の治療
症状がある場合や合併症を伴う場合は、積極的な治療が必要です。
1. 手術療法
腹腔鏡下胆嚢摘出術
現在の標準治療であり、胆石症手術の約95%を占めます。
手術方法:
- 全身麻酔下で実施
- 腹部に3〜4箇所の小さな穴(5〜10mm)を開ける
- 腹腔鏡(カメラ)と手術器具を挿入
- 胆嚢を肝臓から剥離し、胆嚢管と胆嚢動脈を処理
- 胆嚢を摘出
メリット:
- 傷が小さい(美容的に優れる)
- 術後の痛みが少ない
- 入院期間が短い(3〜5日程度)
- 早期の社会復帰が可能(1〜2週間)
- 術後の癒着が少ない
デメリット:
- 全身麻酔が必要
- 炎症が強い場合は開腹手術に移行することがある
- 胆管損傷などの合併症のリスク(約0.3〜0.5%)
開腹胆嚢摘出術
腹腔鏡手術が困難な場合に選択されます。
適応:
- 高度な炎症や癒着がある場合
- 腹腔鏡手術からの移行
- 悪性腫瘍が疑われる場合
特徴:
- 右上腹部を10〜15cm切開
- 直視下で安全に手術が可能
- 入院期間が長い(7〜14日程度)
- 術後の痛みが強い
単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術
へその部分に1箇所だけ穴を開けて行う手術です。
メリット:
- 傷がほぼ目立たない
- 整容性に優れる
デメリット:
- 技術的に難易度が高い
- 実施できる施設が限られる
- 炎症が強い場合は困難
2. 内科的治療
経口胆石溶解療法
ウルソデオキシコール酸(ウルソ®)を服用し、コレステロール結石を溶解する治療法です。
適応条件:
- コレステロール結石
- 結石の直径が15mm以下
- 胆嚢の機能が保たれている
- 石灰化がない
- 結石が浮遊している(浮遊石)
治療方法:
- 1日600〜900mgを分割服用
- 治療期間:6ヶ月〜2年
- 定期的な超音波検査で効果判定
効果:
- 完全溶解率:10〜30%
- 部分溶解:20〜30%
- 再発率:30〜50%(5年以内)
メリット:
- 非侵襲的
- 外来通院で可能
- 副作用が少ない
デメリット:
- 効果が限定的
- 治療期間が長い
- 再発率が高い
- 適応が限られる
3. 内視鏡的治療
ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)関連手技
主に胆管結石の治療に用いられます。
EST(内視鏡的乳頭括約筋切開術):
- 十二指腸乳頭部を切開
- 胆管結石を取り出す
EPBD(内視鏡的乳頭バルーン拡張術):
- 乳頭部をバルーンで拡張
- 結石を除去
EPLBD(内視鏡的大口径乳頭バルーン拡張術):
- 大きな結石に対応
- 砕石を併用することもある
適応:
- 胆管結石
- 胆管炎を伴う場合
- 総胆管結石
合併症:
- 膵炎(約5%)
- 出血(約2%)
- 穿孔(約0.5%)
4. 経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)
急性胆嚢炎で全身状態が悪く、緊急手術が困難な場合に実施される応急処置です。
方法:
- 超音波やCTガイド下で、皮膚から肝臓を通して胆嚢にチューブを挿入
- 感染した胆汁を体外に排出
目的:
- 炎症の沈静化
- 全身状態の改善
- 待機的手術への橋渡し
治療法の選択
治療法の選択は、以下の要素を総合的に判断して決定されます:
- 症状の有無と程度
- 胆石の種類、大きさ、個数、位置
- 患者さんの年齢、全身状態
- 合併症の有無
- 患者さんの希望
医師とよく相談し、自分に最適な治療法を選択することが大切です。
8. 胆石の予防法
胆石は生活習慣と密接に関係しているため、日常生活の改善により予防が可能です。
食生活の改善
1. バランスの良い食事
推奨される食事:
- 野菜・果物を十分に摂取
- 食物繊維を多く含む食品(全粒穀物、豆類、海藻)
- 良質なタンパク質(魚、大豆製品、鶏肉)
- 適度な脂質(オリーブオイル、ナッツ類、青魚)
避けるべき食事:
- 高脂肪・高カロリー食
- 揚げ物、脂身の多い肉
- 加工食品、ファストフード
- 過度の糖質摂取
- 過度のアルコール
2. 規則正しい食事時間
- 1日3食を規則正しく摂る
- 朝食を抜かない(胆汁の停滞を防ぐ)
- 夜遅い食事を避ける
- ゆっくりよく噛んで食べる
3. 適切なカロリー摂取
- 総カロリーの管理
- 急激なダイエットは避ける(月2kg以内の減量が目安)
- 極端な低カロリー食は胆石のリスクを高める
4. 水分摂取
- 1日1.5〜2リットルの水分摂取
- カフェインやアルコールの過剰摂取は避ける
適度な運動
運動の効果
- 胆嚢の運動機能改善
- 体重管理
- 脂質代謝の改善
- ストレス解消
推奨される運動
- 有酸素運動:ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング
- 頻度:週3〜5回、1回30分以上
- 強度:軽く息が上がる程度(中等度)
日常生活での工夫
- エレベーターより階段を使う
- 一駅分歩く
- こまめに体を動かす
適正体重の維持
BMI(体格指数)の目安
BMI = 体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)
- 標準:18.5〜24.9
- 肥満:25以上
体重管理のポイント
- 肥満の場合は段階的な減量
- 急激な体重減少は避ける
- リバウンドを繰り返さない
- 長期的な視点で体重管理
ストレス管理
ストレスが胆石に与える影響
- 自律神経の乱れ→胆嚢機能の低下
- 暴飲暴食→肥満、脂質異常
- 運動不足→代謝の低下
ストレス解消法
- 十分な睡眠(7〜8時間)
- 趣味やリラックスタイムの確保
- 適度な運動
- 深呼吸、瞑想、ヨガなど
- 親しい人とのコミュニケーション
定期的な健康診断
健康診断の重要性
- 無症状の胆石の早期発見
- 肥満、糖尿病、脂質異常症などのリスク因子の管理
- 肝機能のチェック
推奨される検査
- 腹部超音波検査(年1回)
- 血液検査(肝機能、脂質、血糖値)
- 体重、BMI、腹囲の測定
特にリスク因子(40歳以上、女性、肥満、家族歴など)がある方は、定期的な検査を心がけましょう。
9. 胆石と生活習慣
胆石と食生活
胆石を予防する食品
食物繊維が豊富な食品:
- 野菜(ブロッコリー、キャベツ、ほうれん草)
- 果物(りんご、バナナ、柑橘類)
- 全粒穀物(玄米、全粒粉パン、オートミール)
- 豆類(大豆、レンズ豆、ひよこ豆)
- 海藻類(わかめ、昆布、ひじき)
食物繊維は、コレステロールの吸収を抑え、胆汁酸の排泄を促進します。
良質な脂質:
- オメガ3脂肪酸(青魚:サバ、イワシ、サンマ)
- オリーブオイル
- ナッツ類(アーモンド、くるみ)
- アボカド
適度な良質な脂質は、胆嚢の収縮を促し、胆汁の停滞を防ぎます。
ビタミンCが豊富な食品:
- 柑橘類
- いちご
- キウイフルーツ
- ブロッコリー
- パプリカ
ビタミンCは、コレステロールから胆汁酸への変換を促進します。
胆石のリスクを高める食品
- 高脂肪食:揚げ物、脂身の多い肉、生クリーム
- 高糖質食:清涼飲料水、お菓子、精製された炭水化物
- 加工食品:ファストフード、スナック菓子
- 過度のアルコール:特に毎日の大量飲酒
胆石とコーヒー
興味深いことに、複数の疫学研究により、適度なコーヒー摂取が胆石のリスクを低減する可能性が示されています。
メカニズム:
- カフェインが胆嚢の収縮を促進
- 胆汁の流れを改善
- 抗酸化作用
推奨量:
- 1日2〜3杯程度
- 過剰摂取は避ける
- ブラックまたは低脂肪ミルクで
ただし、すでに胆石症や胆嚢炎がある場合は、症状を悪化させる可能性があるため、医師に相談してください。
胆石とアルコール
適度な飲酒(1日1杯程度)は胆石のリスクをわずかに低減する可能性が報告されていますが、過度の飲酒は肝機能障害を引き起こし、結果として胆石のリスクを高めます。
推奨:
- 適量を守る(日本酒1合、ビール中瓶1本程度)
- 週2日の休肝日を設ける
- 空腹時の飲酒を避ける
胆石と妊娠
妊娠中は、以下の理由により胆石ができやすくなります:
- 女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の増加
- 胆嚢の運動機能低下
- 胆汁中のコレステロール濃度上昇
- 体重増加
妊娠中の注意点:
- 体重管理(急激な増加を避ける)
- バランスの良い食事
- 適度な運動(医師の許可の下で)
- 定期的な健診
妊娠中に胆石発作が起きた場合は、保存的治療(痛み止め、抗生剤など)が優先され、出産後に手術を検討することが一般的です。
胆石術後の生活
胆嚢摘出術後は、胆嚢がなくても胆汁は肝臓から直接十二指腸に流れるため、通常の生活が可能です。
術後の食事:
術後1〜2週間:
- 低脂肪食から開始
- 少量ずつ、頻回に食べる
- 消化の良いものを選ぶ
術後1ヶ月以降:
- 通常の食事に戻せる
- ただし、高脂肪食は避ける
- バランスの良い食事を心がける
注意点:
- 約10〜15%の方に術後下痢が見られる(一時的)
- 脂肪分の多い食事で下痢しやすい場合がある
- 消化吸収に問題はない

10. よくある質問(Q&A)
A. 基本的には自然に消えることはありません。胆石は一度形成されると、自然に溶けて消失することはほとんどありません。ただし、非常に小さな胆石(砂粒状のもの)が、胆管を通って十二指腸に排出されることはまれにあります。
症状がない場合は経過観察が基本ですが、定期的な検査で大きさや個数の変化を確認することが大切です。
A. いいえ、必ずしも手術が必要というわけではありません。
無症状の胆石:経過観察が基本
症状のある胆石:手術が推奨される
合併症のある胆石:手術が必要
胆石の約70〜80%は無症状で、生涯症状が出ないこともあります。症状の有無、胆石の状態、患者さんの状況を総合的に判断して治療方針が決定されます。
Q3. 胆石の手術は痛いですか?入院期間はどれくらいですか?
A. 現在の主流である腹腔鏡下胆嚢摘出術は、傷が小さく術後の痛みも比較的少ない手術です。
痛みについて:
- 手術当日〜翌日:中等度の痛み(鎮痛剤で管理可能)
- 術後2〜3日:徐々に軽減
- 1週間後:ほとんど痛みはなくなる
入院期間:
- 腹腔鏡手術:3〜5日程度
- 開腹手術:7〜14日程度
社会復帰:
- デスクワーク:1〜2週間
- 重労働:4〜6週間
Q4. 胆嚢を取ると日常生活に支障はありますか?
A. 胆嚢摘出後も、ほとんどの方は通常の生活を送ることができます。
胆嚢は胆汁を一時的に貯蔵・濃縮する臓器ですが、摘出後は肝臓から胆汁が直接十二指腸に流れ込むため、消化機能に大きな影響はありません。
術後の変化:
- 約10〜15%の方に一時的な下痢(数週間〜数ヶ月で改善)
- 脂肪分の多い食事後に下痢しやすい場合がある
- 徐々に体が適応し、ほとんどの方は問題なく生活できる
注意点:
- 高脂肪食は避ける
- バランスの良い食事を心がける
- 食事は少量ずつ、頻回に摂る(術後数週間)
Q5. 胆石は遺伝しますか?
A. 胆石症には遺伝的要因が関与しています。
家族歴がある場合、胆石症のリスクが約2倍になるとされています。これは、コレステロール代謝や胆汁酸の分泌に関わる遺伝子の影響と考えられています。
ただし、遺伝だけでなく、家族で共有される生活習慣(食事内容、運動習慣など)も大きく影響します。家族に胆石症の方がいる場合は、生活習慣に注意し、定期的な健診を受けることをおすすめします。
Q6. 胆石とがんの関係はありますか?
A. 胆石自体ががんになるわけではありませんが、長期間の慢性炎症により、わずかながら胆嚢がんのリスクが上昇する可能性があります。
リスク要因:
- 3cm以上の大きな胆石
- 胆嚢壁の石灰化(磁器様胆嚢)
- 長期間(20年以上)の胆石保有
- 高齢者
ただし、胆嚢がんの発生率は胆石保有者の約0.01〜0.3%程度と非常に低く、過度に心配する必要はありません。定期的な検査で経過を観察することが大切です。
Q7. 胆石の再発はありますか?
A. 治療法によって再発率が異なります。
胆嚢摘出術後:
- 胆嚢自体を摘出するため、胆嚢結石の再発はない
- ただし、胆管結石ができることはまれにある(約1〜2%)
内科的治療(胆石溶解療法)後:
- 再発率:30〜50%(5年以内)
- 生活習慣の改善が重要
内視鏡治療(胆管結石除去)後:
- 胆嚢が残っている場合、新たな結石ができる可能性がある
再発予防には、生活習慣の改善、特にバランスの良い食事、適度な運動、適正体重の維持が重要です。
Q8. 胆石発作が起きたらどうすればいいですか?
A. 胆石発作が起きた場合の対処法:
直ちに医療機関を受診すべき症状:
- 激しい腹痛が1時間以上続く
- 発熱(38℃以上)を伴う
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
- 嘔吐を繰り返す
- 冷や汗、顔面蒼白、意識がもうろうとする
応急処置:
- 食事を中止する
- 安静にする
- 痛む部位を温めない(炎症を悪化させる可能性)
- 水分は少量ずつ摂取可能
- 市販の鎮痛剤は自己判断で服用しない
夜間・休日の場合:
- 救急外来を受診
- 痛みが激しい場合は救急車を呼ぶ
急性胆嚢炎や胆管炎は、重症化すると命に関わることもあります。我慢せず、早めに医療機関を受診してください。
Q9. 胆石の予防にサプリメントは有効ですか?
A. 一部のサプリメントには予防効果が示唆されていますが、基本は生活習慣の改善です。
可能性が示唆されているもの:
- ビタミンC:コレステロールから胆汁酸への変換を促進
- オメガ3脂肪酸:胆石形成の抑制
- 食物繊維サプリメント:コレステロールの排泄促進
注意点:
- サプリメントだけでは予防は不十分
- あくまで補助的な役割
- 過剰摂取は避ける
- 医師や薬剤師に相談してから使用
最も重要なのは、バランスの良い食事、適度な運動、適正体重の維持などの基本的な生活習慣です。
Q10. 胆石症はどの診療科を受診すればいいですか?
A. 消化器内科または消化器外科を受診してください。
診療科の選び方:
初診・検査:
- 消化器内科
- 内科
- かかりつけ医
治療方針の決定:
- 消化器内科:内科的治療、経過観察
- 消化器外科:手術が必要な場合
緊急時:
- 救急外来
- 救急科
症状がある場合や健診で胆石を指摘された場合は、まず消化器内科を受診するのが一般的です。そこで検査を受け、治療方針を相談することになります。
まとめ
胆石は、胆嚢や胆管にできる結晶性の固形物で、日本人の約10人に1人が持っているとされる身近な病気です。多くは無症状ですが、発作を起こすと激しい痛みを伴い、時には胆嚢炎や胆管炎などの合併症を引き起こすこともあります。
胆石の重要ポイント:
- 無症状胆石は経過観察が基本
- 症状がある場合は積極的な治療を検討
- 腹腔鏡下胆嚢摘出術が標準治療
- 生活習慣の改善で予防が可能
- 定期的な健診で早期発見
胆石は、食生活の欧米化、肥満、運動不足などの生活習慣と密接に関係しています。バランスの良い食事、適度な運動、適正体重の維持など、日常生活を見直すことで、胆石の予防や進行の抑制が期待できます。
こんな症状があれば受診を:
- 右上腹部の激しい痛み
- 食後の持続的な腹痛
- 発熱を伴う腹痛
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
- 繰り返す吐き気・嘔吐
健康診断で胆石を指摘された方、リスク因子(40歳以上、女性、肥満、家族歴など)に当てはまる方は、定期的な検査を受けることをおすすめします。
早期発見・早期対応により、重症化を防ぎ、より良い健康状態を維持することができます。胆石について正しい知識を持ち、自分の健康を守りましょう。
参考文献
- 日本消化器病学会「胆石症診療ガイドライン2021」
https://www.jsge.or.jp/ - 日本肝胆膵外科学会
https://www.jshbps.jp/ - 厚生労働省「生活習慣病予防」
https://www.mhlw.go.jp/ - 日本消化器内視鏡学会
https://www.jges.net/ - 国立国際医療研究センター「胆石症について」
https://www.ncgm.go.jp/
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。症状がある方は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務