はじめに
「背中が痛い」という症状は、多くの方が日常生活で経験する身近な不調の一つです。デスクワークによる筋肉の疲労から、内臓疾患のサインまで、その原因は実に多岐にわたります。
背中の痛みは、単なる筋肉痛と軽視されがちですが、時には重大な病気のサインとなることもあります。適切な対処をするためには、痛みの特徴や伴う症状を正しく理解し、必要に応じて医療機関を受診することが大切です。
本記事では、背中の痛みについて、その原因となる病気、症状の見分け方、受診のタイミング、そして日常生活でできる予防法まで、包括的に解説していきます。
背中の構造と機能
背中の痛みを理解するために、まず背中の構造について知っておきましょう。
背骨(脊椎)の構造
背骨は、頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙椎(5個が癒合)、尾椎(3〜5個が癒合)で構成されています。背中の痛みに関係するのは、主に胸椎と腰椎の部分です。
各椎骨の間には椎間板というクッションがあり、脊椎を保護しています。また、脊柱管という管の中には脊髄が通っており、全身に神経を送り出しています。
背中を支える筋肉
背中には、姿勢を保持したり、体を動かしたりするための様々な筋肉があります。主な筋肉には以下があります:
- 脊柱起立筋群:背骨に沿って縦に走る筋肉で、姿勢の維持に重要
- 僧帽筋:首から肩、背中の上部を覆う大きな筋肉
- 広背筋:背中の下部から脇の下にかけて広がる筋肉
- 菱形筋:肩甲骨と背骨をつなぐ筋肉
これらの筋肉は互いに協調して働き、日常生活の様々な動作を可能にしています。
背中と関連する臓器
背中は体の背面にあり、胸部や腹部の臓器とも近接しています。そのため、内臓の病気が背中の痛みとして感じられることがあります。背中の痛みに関連する主な臓器には、心臓、肺、腎臓、膵臓、胆嚢などがあります。
背中が痛む主な原因
背中の痛みの原因は、大きく分けて以下のカテゴリーに分類できます。
1. 筋肉・骨格系の問題
筋肉痛・筋膜性疼痛
最も一般的な背中の痛みの原因です。長時間の不良姿勢、運動不足、急な運動、重い物を持ち上げるなどによって、背中の筋肉に負担がかかり、痛みが生じます。
主な症状:
- 動作時や特定の姿勢で痛みが増す
- 圧痛点(押すと痛む場所)がある
- 筋肉のこわばりや緊張感
- 数日から数週間で改善することが多い
椎間板ヘルニア
椎間板の中にある髄核が外に飛び出し、神経を圧迫する状態です。腰椎ヘルニアが有名ですが、胸椎でも起こることがあります。
主な症状:
- 背中の局所的な痛み
- 神経が圧迫されると、手足のしびれや痛み
- 咳やくしゃみで痛みが増す
- 前かがみの姿勢で痛みが増すことが多い
厚生労働省の統計によると、腰痛を主訴として医療機関を受診する人は年間約2,800万人にのぼるとされており、その中には椎間板ヘルニアの患者も多く含まれています。
脊柱管狭窄症
加齢により脊柱管が狭くなり、神経が圧迫される状態です。主に腰部で起こりますが、胸部でも発生することがあります。
主な症状:
- 長時間立っていたり歩いたりすると痛みやしびれが出る
- 前かがみになると楽になる
- 間欠性跛行(しばらく歩くと足が痛くなり、休むと治る)
- 50歳以上に多い
骨粗鬆症による圧迫骨折
骨がもろくなることで、わずかな衝撃でも背骨が潰れてしまう状態です。特に閉経後の女性に多く見られます。
主な症状:
- 急激な背中の痛み
- 身長が縮む
- 背中が丸くなる(円背)
- 寝返りや起き上がる時に痛みが強い
日本整形外科学会によると、日本における骨粗鬆症患者は約1,300万人と推定されており、その予防と早期発見が重要とされています。
脊椎炎・脊椎感染症
細菌やウイルスが脊椎に感染し、炎症を起こす状態です。比較的まれですが、重篤化する可能性があります。
主な症状:
- 持続的で激しい背中の痛み
- 発熱
- 全身倦怠感
- 安静にしていても痛みが改善しない
強直性脊椎炎
自己免疫疾患の一つで、脊椎や仙腸関節に慢性的な炎症が起こります。若い男性に多く見られます。
主な症状:
- 朝のこわばりが強い
- 運動すると楽になる
- 徐々に脊椎の可動域が制限される
- 40歳以前に発症することが多い
側弯症
脊椎が左右に曲がってしまう状態です。思春期に発症することが多く、進行すると背中の痛みや呼吸困難を引き起こすことがあります。
2. 内臓疾患による関連痛
内臓の病気が背中の痛みとして感じられることがあります。これを「関連痛」と呼びます。
心疾患(狭心症・心筋梗塞)
心臓の病気が背中の痛みとして現れることがあります。特に心筋梗塞は生命に関わる緊急事態です。
主な症状:
- 胸の圧迫感や締め付けられるような痛み
- 左肩や背中、顎への放散痛
- 冷や汗、吐き気
- 息切れ、動悸
- 症状は15分以上持続し、安静にしても改善しない
これらの症状がある場合は、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。日本循環器学会では、心筋梗塞の症状について広く啓発活動を行っています。
大動脈解離
大動脈の壁が裂ける非常に危険な状態です。突然の激しい背中の痛みが特徴です。
主な症状:
- 突然の引き裂かれるような激しい胸背部痛
- 痛みが背中から腰へ移動する
- 血圧の異常(左右差がある)
- 意識障害やショック状態
命に関わる緊急事態のため、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。
肺疾患(肺炎・胸膜炎・気胸)
肺の病気も背中の痛みを引き起こすことがあります。
主な症状:
- 深呼吸や咳で痛みが増す
- 発熱、咳、痰
- 息切れ、呼吸困難
- 片側の背中の痛み(気胸の場合)
腎臓・尿路系疾患(腎盂腎炎・腎結石・尿管結石)
腎臓や尿路の問題が背中や腰の痛みとして現れることがあります。
主な症状:
- 腰の片側(または両側)の痛み
- 発熱、悪寒(腎盂腎炎の場合)
- 激しい疝痛発作(結石の場合)
- 血尿
- 排尿時痛、頻尿
腎結石や尿管結石による痛みは非常に激しく、「七転八倒の痛み」と表現されることもあります。
膵炎
膵臓に炎症が起こる状態で、上腹部から背中にかけての痛みが特徴です。
主な症状:
- 上腹部から背中にかけての持続的な激しい痛み
- 前かがみになると少し楽になる
- 吐き気、嘔吐
- 発熱
- アルコール摂取や脂肪の多い食事の後に発症することが多い
急性膵炎は重症化すると命に関わることもあるため、早急な治療が必要です。
胆嚢炎・胆石症
胆嚢や胆管に炎症や結石ができると、右上腹部から背中にかけての痛みが生じます。
主な症状:
- 右上腹部から右肩甲骨下部への痛み
- 脂肪の多い食事の後に痛みが出やすい
- 発熱、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
- 吐き気、嘔吐
消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)
胃や十二指腸の粘膜に潰瘍ができると、背中の痛みとして感じられることがあります。
主な症状:
- みぞおちから背中にかけての痛み
- 空腹時に痛みが出る(十二指腸潰瘍)
- 食後に痛みが出る(胃潰瘍)
- 吐き気、胸やけ
- 黒色便(出血がある場合)
3. その他の原因
帯状疱疹
水痘・帯状疱疹ウイルスが神経に沿って再活性化し、痛みと発疹が出る病気です。
主な症状:
- 体の片側に沿った痛み
- 数日後に赤い発疹と水疱が出現
- ピリピリ、チクチクとした痛み
- 発疹が出る前から痛みが始まることが多い
50歳以上の方に多く、早期治療が重要です。日本皮膚科学会では、帯状疱疹の早期発見と治療の重要性について情報提供しています。
ストレス・心因性の痛み
精神的なストレスが身体症状として現れることがあり、背中の痛みもその一つです。
主な症状:
- 検査をしても異常が見つからない
- ストレスの強い時期に痛みが増す
- 不安、うつ症状を伴うことがある
- 痛みの場所や性質が変化する
線維筋痛症
全身の広範囲に慢性的な痛みが生じる病気です。原因はまだ完全には解明されていません。
主な症状:
- 全身の広範囲にわたる痛み
- 疲労感、睡眠障害
- 朝のこわばり
- 触られるだけで痛い(異痛症)
危険なサインと緊急受診が必要な症状
背中の痛みの中には、すぐに医療機関を受診すべき危険なサインがあります。以下のような症状がある場合は、迷わず救急車を呼ぶか、すぐに医療機関を受診してください。
すぐに救急車を呼ぶべき症状
- 突然の激しい痛み:突然、引き裂かれるような激痛が走る(大動脈解離の可能性)
- 胸痛を伴う:胸の圧迫感や締め付け感、左肩や顎への放散痛(心筋梗塞の可能性)
- 呼吸困難:息が苦しい、呼吸ができない
- 意識障害:意識がもうろうとする、反応が鈍い
- 手足の麻痺やしびれ:急に手足が動かせなくなる、感覚がなくなる
- 排尿・排便障害:尿が出ない、便が出ない、失禁する(馬尾症候群の可能性)
できるだけ早く受診すべき症状
以下の症状がある場合は、当日または翌日には医療機関を受診してください:
- 発熱を伴う背中の痛み:感染症の可能性
- 安静にしていても痛みが改善しない:内臓疾患の可能性
- 夜間に痛みで目が覚める:悪性腫瘍の可能性
- 体重減少を伴う:悪性腫瘍や慢性疾患の可能性
- 血尿や排尿異常:腎臓や尿路の病気の可能性
- 痛みが徐々に悪化している:進行性の病気の可能性
- 外傷後の痛み:骨折や臓器損傷の可能性
数日様子を見てもよい症状
以下のような場合は、数日間セルフケアを行い、改善しない場合に受診を検討してください:
- 運動や作業の後に生じた軽度の筋肉痛
- 特定の姿勢や動作で痛むが、安静にすると楽になる
- 市販の鎮痛薬で痛みが和らぐ
- 数日で痛みが軽減している
ただし、症状が悪化したり、新たな症状が出現したりした場合は、すぐに受診してください。
診断方法
背中の痛みの原因を特定するために、医療機関では以下のような検査が行われます。
問診と身体診察
医師は、まず詳しく症状について質問します:
- いつから痛みが始まったか
- どのような痛みか(鈍い、鋭い、刺すようなど)
- どこが痛むか
- どのような時に痛みが増すか、楽になるか
- 他の症状はあるか
- 過去の病歴や家族歴
- 生活習慣(仕事、運動、喫煙、飲酒など)
その後、身体診察として以下を行います:
- 視診:姿勢、背骨の形状の観察
- 触診:痛みの部位、筋肉の緊張、圧痛点の確認
- 神経学的検査:感覚、筋力、反射の確認
- 関節可動域の確認
画像検査
必要に応じて、以下の画像検査が行われます:
X線検査(レントゲン)
骨の状態を確認するための基本的な検査です。骨折、骨の変形、椎間板の狭小化などが分かります。
CT検査(コンピュータ断層撮影)
X線を使って体の断面画像を撮影します。骨の詳細な構造や、内臓の異常を確認できます。
MRI検査(磁気共鳴画像)
磁気と電波を使って体の内部を画像化します。椎間板、神経、筋肉、内臓などの軟部組織の詳細な観察が可能です。椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の診断に特に有用です。
超音波検査(エコー)
音波を使って体内を観察します。腎臓や胆嚢などの臓器の状態を確認できます。
血液検査
感染症、炎症反応、内臓の機能、腫瘍マーカーなどを調べます。
その他の検査
- 心電図・心エコー:心疾患が疑われる場合
- 骨密度検査:骨粗鬆症が疑われる場合
- 尿検査:腎臓や尿路の病気が疑われる場合
- 神経伝導検査・筋電図:神経や筋肉の異常が疑われる場合
治療方法
背中の痛みの治療は、原因によって大きく異なります。
筋肉・骨格系の問題に対する治療
保存的治療
多くの筋骨格系の痛みは、以下の保存的治療で改善します:
1. 安静と活動の調整
- 痛みが強い時期は無理をせず、適度に休息を取る
- ただし、長期間の完全安静は逆効果になることもあるため、可能な範囲で日常活動を続ける
2. 薬物療法
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):痛みと炎症を抑える
- 筋弛緩薬:筋肉の緊張をほぐす
- 神経障害性疼痛治療薬:神経の痛みに効果的
- 外用薬:湿布や塗り薬
3. 物理療法
- 温熱療法:血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる
- 冷却療法:急性期の炎症を抑える
- 電気治療:痛みを和らげる
- 牽引療法:脊椎にかかる負担を軽減する
4. 運動療法
- ストレッチング:筋肉の柔軟性を高める
- 筋力強化:体幹の筋肉を強化し、脊椎を支える
- 有酸素運動:全身の血流を改善する
5. 理学療法・リハビリテーション 理学療法士の指導のもと、適切な運動やストレッチを行います。
6. 装具療法 コルセットなどで脊椎を支えます。
侵襲的治療
保存的治療で改善しない場合、以下の治療を検討します:
1. 注射療法
- 神経ブロック注射:痛みを伝える神経に局所麻酔薬を注射
- トリガーポイント注射:筋肉の圧痛点に注射
- 硬膜外注射:脊椎の硬膜外腔にステロイドなどを注射
2. 手術療法 以下のような場合に検討されます:
- 保存的治療で改善しない重度の痛み
- 神経症状(麻痺、しびれ)が進行している
- 排尿・排便障害がある
- 日常生活に著しい支障がある
主な手術には以下があります:
- 椎間板ヘルニア摘出術
- 脊柱管拡大術
- 脊椎固定術
内臓疾患に対する治療
内臓が原因の背中の痛みは、原因となる疾患の治療を行います:
- 心疾患:薬物療法、カテーテル治療、バイパス手術など
- 大動脈解離:緊急手術
- 肺炎:抗生物質治療
- 腎盂腎炎:抗生物質治療
- 尿路結石:保存的治療、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、内視鏡手術など
- 膵炎:絶食、輸液、薬物療法
- 胆石症:薬物療法、内視鏡治療、手術(腹腔鏡下胆嚢摘出術)など
- 消化性潰瘍:胃酸分泌抑制薬、除菌治療(ピロリ菌陽性の場合)
その他の原因に対する治療
- 帯状疱疹:抗ウイルス薬、鎮痛薬(早期治療が重要)
- 心因性疼痛:認知行動療法、抗うつ薬、抗不安薬
- 線維筋痛症:薬物療法、運動療法、認知行動療法
日常生活でできる予防とセルフケア
背中の痛みを予防し、痛みがある場合のセルフケア方法をご紹介します。
正しい姿勢を意識する
座る時の姿勢
- 椅子に深く腰掛け、背もたれに背中をつける
- 足裏全体が床につくようにする(必要に応じて足置きを使用)
- 膝と股関節が90度になる高さに調整
- パソコン画面は目線の高さに
- 長時間同じ姿勢を続けない(1時間に1回は立ち上がって体を動かす)
立つ時の姿勢
- 両足に均等に体重をかける
- 膝を軽く曲げる
- お腹に軽く力を入れ、骨盤を立てる
- 肩の力を抜き、あごを引く
寝る時の姿勢
- 仰向けの場合:膝の下に枕やクッションを入れると腰が楽
- 横向きの場合:膝の間に枕を挟むと良い
- 寝返りが打ちやすい硬さのマットレスを選ぶ
- 枕の高さは、横向きで寝た時に頭と首、背骨が一直線になる高さが理想
適度な運動を行う
ストレッチング
筋肉の柔軟性を保つことは、背中の痛み予防に重要です。
猫のポーズ(キャット&カウ)
- 四つん這いになる
- 息を吐きながら背中を丸める(猫のポーズ)
- 息を吸いながら背中を反らす(牛のポーズ)
- ゆっくり5〜10回繰り返す
チャイルドポーズ
- 正座の姿勢から、上体を前に倒し、両手を前に伸ばす
- 額を床につけ、深呼吸しながら30秒〜1分キープ
- 背中と腰の筋肉が伸びるのを感じる
背中のひねりストレッチ
- 仰向けに寝て、両膝を立てる
- 両膝を揃えたまま、ゆっくり左右に倒す
- 肩は床につけたまま、顔は膝と反対方向を向く
- 左右各30秒キープ
筋力トレーニング
体幹の筋肉を強化することで、背骨を支える力が高まります。
プランク
- うつ伏せになり、肘とつま先で体を支える
- 体を一直線に保つ
- 20〜30秒キープ(慣れてきたら時間を延ばす)
- 2〜3セット行う
ブリッジ
- 仰向けに寝て、両膝を立てる
- お尻を持ち上げ、肩から膝まで一直線にする
- 10秒キープして下ろす
- 10回繰り返す
バードドッグ
- 四つん這いになる
- 右手と左足を同時にまっすぐ伸ばす
- 5秒キープして元に戻す
- 反対側も同様に行う
- 左右各10回
有酸素運動
ウォーキング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動は、全身の血流を改善し、筋肉の状態を良好に保ちます。週に3〜5回、1回30分程度を目安に行いましょう。
重い物の持ち上げ方に注意
- 膝を曲げてしゃがみ、物に近づく
- 物を体に引き寄せる
- 足の力を使って立ち上がる(腰の力だけで持ち上げない)
- 体をひねりながら持ち上げない
- 重すぎる物は一人で運ばず、誰かに手伝ってもらう
体重管理
適正体重を維持することは、背骨にかかる負担を減らします。バランスの良い食事と適度な運動で、健康的な体重を保ちましょう。
ストレス管理
精神的なストレスは筋肉の緊張を招き、背中の痛みの原因となります。
- 十分な睡眠を取る(7〜8時間)
- リラクゼーション法を実践する(深呼吸、瞑想、ヨガなど)
- 趣味や楽しみの時間を持つ
- 必要に応じて専門家(カウンセラーなど)に相談する
禁煙
喫煙は血流を悪化させ、椎間板の栄養状態を低下させます。また、骨密度の低下にもつながります。禁煙は背中の健康のためにも重要です。
骨粗鬆症の予防
特に女性は、閉経後に骨粗鬆症のリスクが高まります。
- カルシウムとビタミンDを十分に摂取する
- 適度な運動(特に荷重運動)を行う
- 定期的に骨密度検査を受ける(特に50歳以上)
- 必要に応じて薬物療法を受ける
厚生労働省の健康情報サイトでは、骨粗鬆症予防を含む様々な健康情報が提供されています。
温熱療法と冷却療法
温める(温熱療法):慢性的な痛みに効果的
- 入浴(ぬるめのお湯にゆっくり浸かる)
- 温湿布、カイロ
- 温めたタオル
冷やす(冷却療法):急性期の痛みや炎症に効果的
- 冷湿布
- アイスパック(タオルで包んで使用)
- 15〜20分程度、1日数回
寝具の選び方
- マットレス:適度な硬さで、体圧を分散できるもの
- 枕:首と頭をしっかり支え、高すぎず低すぎないもの
- 定期的に寝具を見直す(マットレスは8〜10年、枕は1〜2年が目安)
職場環境の改善
- デスクと椅子の高さを調整する
- パソコンモニターの位置を適切にする
- 定期的に休憩を取り、ストレッチを行う
- 人間工学に基づいた器具(椅子、マウス、キーボードなど)を使用する

よくある質問(Q&A)
A. 以下のような場合は医療機関の受診をお勧めします:
激しい痛みや、突然の痛み
発熱、体重減少、夜間痛などを伴う
手足のしびれや麻痺がある
排尿・排便に異常がある
2週間以上痛みが続いている
市販薬や安静で改善しない
特に、胸痛、息切れ、意識障害を伴う場合は、すぐに救急車を呼んでください。
A. 痛みの原因によって適切な診療科が異なります:
整形外科:筋肉や骨、関節の問題が疑われる場合
内科:内臓疾患が疑われる場合、または原因がはっきりしない場合
循環器内科:胸痛を伴う場合
泌尿器科:背中から腰の片側の痛みで、排尿異常を伴う場合
皮膚科:帯状疱疹が疑われる場合(痛みと発疹)
迷った場合は、まず内科や総合診療科を受診し、必要に応じて専門科に紹介してもらうのも良い方法です。
Q3. 背中の痛みに効く市販薬はありますか?
A. 筋肉痛や軽度の痛みには、以下のような市販薬が効果的です:
- 内服薬:ロキソプロフェン、イブプロフェンなどのNSAIDs
- 外用薬:湿布、塗り薬(インドメタシン、ジクロフェナクなど)
ただし、これらは一時的な対症療法です。長期間使用しても改善しない場合や、胃腸障害などの副作用が出た場合は、医療機関を受診してください。
また、内臓疾患が原因の痛みには効果がありません。症状に不安がある場合は、自己判断せず医師に相談しましょう。
Q4. 背中の痛みで仕事を休むべきでしょうか?
A. 以下のような場合は、無理せず休養を取ることをお勧めします:
- 激しい痛みで日常動作が困難
- 発熱や強い倦怠感を伴う
- 医師から安静が必要と指示された
一方、軽度の痛みであれば、完全に安静にするよりも、可能な範囲で普段の活動を続けた方が回復が早いこともあります。
痛みの程度と仕事の内容によって判断し、必要に応じて医師に相談してください。
Q5. 背中の痛みは冷やすべき?温めるべき?
A. 急性期(痛みが出始めて2〜3日)と慢性期で対応が異なります:
急性期(炎症がある場合):
- 冷やす(アイシング)
- 15〜20分程度、1日数回
- 腫れや熱感がある場合に効果的
慢性期(炎症が落ち着いた後):
- 温める
- 入浴、温湿布、カイロなど
- 血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる
ただし、個人差があるため、気持ちよく感じる方を選んでください。内臓疾患が原因の場合は、温めても冷やしても効果はありません。
Q6. ストレッチや運動はいつから始めてよいですか?
A. 痛みの状態によって異なります:
激しい痛みがある時期:
- 無理に動かさず、安静を保つ
- ただし、完全に動かないのも良くないため、痛みの出ない範囲で日常動作は続ける
痛みが軽減してきたら:
- 軽いストレッチから始める
- 痛みが出ない範囲で行う
- 徐々に運動量を増やす
慢性的な痛みの場合は、適度な運動が推奨されます。ただし、医師や理学療法士の指導のもとで行うのが理想的です。
Q7. 背中の痛みは再発しやすいですか?予防法はありますか?
A. 筋骨格系の痛みは再発することがあります。予防には以下が効果的です:
- 正しい姿勢の維持:日常生活で意識する
- 定期的な運動:筋力とバランスを保つ
- 適正体重の維持:背骨への負担を減らす
- ストレス管理:筋肉の緊張を防ぐ
- 十分な休息:疲労を溜めない
一度痛みが改善しても、これらの予防策を継続することが大切です。
Q8. 高齢の親の背中が丸くなってきました。病気でしょうか?
A. 加齢に伴う変化の可能性がありますが、以下の病気が隠れていることもあります:
- 骨粗鬆症による圧迫骨折:痛みを伴うことが多い
- 変形性脊椎症:徐々に進行
- 筋力低下:姿勢を保持する筋力の低下
急に背中が丸くなった場合や、痛みを伴う場合は、医療機関(整形外科)の受診をお勧めします。骨粗鬆症の検査や適切な治療を受けることで、進行を防ぐことができます。
Q9. 妊娠中の背中の痛みは大丈夫ですか?
A. 妊娠中の背中の痛みは比較的よくある症状です:
原因:
- ホルモンの影響で靭帯が緩む
- お腹が大きくなることで姿勢が変化
- 体重増加による負担
対処法:
- 適度な運動(マタニティヨガ、ウォーキングなど)
- 正しい姿勢を意識する
- マタニティベルトの使用
- 十分な休息
ただし、以下の場合はすぐに医師に相談してください:
- 激しい痛み
- 出血や破水を伴う
- お腹の張りが強い
- 赤ちゃんの動きが少ない
Q10. 子供が背中の痛みを訴えます。大丈夫でしょうか?
A. 子供の背中の痛みは、大人とは異なる原因が考えられます:
考えられる原因:
- 運動による筋肉痛
- 姿勢の問題(重いランドセル、長時間のゲームなど)
- 成長痛
- 側弯症
- まれに:感染症、腫瘍
受診の目安:
- 痛みが2週間以上続く
- 発熱や体重減少を伴う
- 夜間痛がある
- 姿勢の異常が見られる(背骨が曲がっているなど)
- 日常生活に支障がある
子供は痛みの表現が苦手なこともあるため、様子をよく観察し、心配な場合は小児科や整形外科を受診してください。
まとめ
背中の痛みは、単純な筋肉痛から重大な内臓疾患まで、様々な原因で起こります。多くの場合は適切なセルフケアと生活習慣の改善で改善しますが、危険なサインを見逃さないことが重要です。
背中の痛みで特に注意すべきポイント:
- 突然の激しい痛み、胸痛、呼吸困難などがあれば、すぐに救急車を
- 発熱、体重減少、夜間痛などを伴う場合は、早めに医療機関を受診
- 予防には、正しい姿勢、適度な運動、ストレス管理が効果的
- 2週間以上続く痛みや、日常生活に支障がある場合は専門医に相談
痛みは体からの大切なサインです。自己判断で我慢せず、必要に応じて医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
参考文献
- 日本整形外科学会「腰痛診療ガイドライン」 https://www.joa.or.jp/
- 日本循環器学会「循環器病ガイドライン」 https://www.j-circ.or.jp/
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A 帯状疱疹」 https://www.dermatol.or.jp/
- 厚生労働省「健康情報サイト」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/index.html
- 日本ペインクリニック学会「痛みの治療」 https://www.jspc.gr.jp/
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務