はじめに
美肌を目指す方にとって、スキンケア成分の選択は重要な課題です。特に、ニキビやシミ、肌の老化などの悩みを抱える方々の間で注目を集めているのが「アゼライン酸」と「レチノール」です。どちらも皮膚科領域で長年使用されてきた実績のある成分ですが、その特性や効果には大きな違いがあります。
「どちらを選べばいいの?」「併用しても大丈夫?」といった疑問をお持ちの方も多いでしょう。本記事では、アイシークリニック大宮院が、アゼライン酸とレチノールの違いについて、作用機序から効果、副作用、使用方法まで、一般の方にもわかりやすく詳しく解説します。
アゼライン酸とは
アゼライン酸の基本情報
アゼライン酸(Azelaic acid)は、小麦やライ麦、大麦などの穀物に天然に含まれるジカルボン酸です。人間の皮膚に常在するマラセチア酵母によっても自然に生成される成分であり、体内でも微量に存在しています。
医療用途としては1970年代から研究が進められ、現在では世界中で皮膚疾患の治療に使用されています。日本では2016年に「スキンピールバー AHAマイルド」などの化粧品として販売が開始され、徐々に認知度が高まってきました。
アゼライン酸の作用機序
アゼライン酸には、以下のような複数の作用機序があります。
1. 抗菌作用 アゼライン酸は、ニキビの原因菌であるアクネ菌(Cutibacterium acnes)の増殖を抑制します。抗生物質とは異なる作用機序を持つため、耐性菌の発生リスクが低いという特徴があります。
2. 角質溶解作用 毛穴の詰まりを改善し、角質の正常なターンオーバーを促進します。これにより、ニキビの形成を予防する効果が期待できます。
3. 抗炎症作用 炎症性サイトカインの産生を抑制し、赤みや腫れを軽減します。炎症性ニキビや酒さによる赤ら顔の改善に効果があります。
4. メラニン生成抑制作用 チロシナーゼという酵素の活性を阻害することで、メラニン色素の生成を抑制します。特に、異常に活性化したメラノサイトに選択的に作用するため、ニキビ跡の色素沈着や肝斑の改善に効果的です。
5. 抗酸化作用 活性酸素を除去し、皮膚の酸化ストレスを軽減します。
アゼライン酸の効果
アゼライン酸は、以下のような皮膚トラブルに効果があることが報告されています。
ニキビ(尋常性痤瘡) 複数の臨床試験において、アゼライン酸20%製剤が軽度から中等度のニキビに対して有効であることが示されています。炎症性ニキビと非炎症性ニキビの両方に効果があり、ニキビの数を減少させるだけでなく、ニキビ跡の色素沈着も改善します。
酒さ(ロゼアケア) 酒さによる顔の赤みや丘疹に対して、アゼライン酸15%製剤が有効であることが確認されています。抗炎症作用により、顔の紅斑を軽減し、酒さの症状を改善します。
肝斑・色素沈着 メラニン生成抑制作用により、肝斑やニキビ跡の色素沈着、炎症後色素沈着(PIH)の改善に効果があります。ハイドロキノンと比較して、刺激が少なく、長期使用が可能です。
肌のトーン改善 継続使用により、肌の明るさが増し、トーンが均一になる効果が期待できます。
アゼライン酸の副作用
アゼライン酸は比較的安全性の高い成分ですが、以下のような副作用が報告されています。
一般的な副作用(軽度)
- 使用部位の刺激感(ピリピリ感、灼熱感)
 - 皮膚の乾燥
 - かゆみ
 - 紅斑(赤み)
 - 落屑(皮むけ)
 
これらの副作用は、使用開始初期に多く見られ、継続使用により軽減することが一般的です。通常、使用を中止する必要はありませんが、症状が強い場合は使用頻度を減らすか、医師に相談することをお勧めします。
まれな副作用
- 接触性皮膚炎
 - 色素脱失(極めてまれ)
 
アゼライン酸の使用方法
濃度と製剤
- 化粧品:5~10%程度の濃度
 - 医療用:15~20%の濃度
 
一般的には、朝夕の洗顔後、化粧水で肌を整えた後に、適量を顔全体または気になる部分に薄く塗布します。
使用上の注意点
- 目や口の周り、粘膜への使用は避ける
 - 使用初期は刺激を感じることがあるため、週2~3回から始め、徐々に頻度を増やす
 - 日中使用する場合は、必ず日焼け止めを併用する
 - 妊娠中・授乳中でも使用可能とされているが、医師に相談することが望ましい
 
レチノールとは
レチノールの基本情報
レチノール(Retinol)は、ビタミンAの一種であり、レチノイド(retinoid)と総称される化合物群に属します。レチノイドには、処方箋が必要な医薬品であるトレチノイン(レチノイン酸)から、化粧品に配合されるレチノールまで、様々な種類があります。
レチノールは1930年代から皮膚科学の研究対象となり、1970年代にはニキビ治療薬としてトレチノインが承認されました。1980年代には、しわや光老化の改善効果が発見され、アンチエイジング成分としても広く使用されるようになりました。
レチノールの作用機序
レチノールは皮膚に吸収された後、レチナール、レチノイン酸へと変換され、核内受容体であるレチノイン酸受容体(RAR)とレチノイドX受容体(RXR)に結合して作用を発揮します。
1. 細胞のターンオーバー促進 レチノールは、表皮細胞の増殖と分化を促進し、角質層の形成を正常化します。これにより、肌のターンオーバーが活性化され、古い角質が除去されやすくなります。
2. コラーゲン産生促進 真皮層の線維芽細胞を刺激し、I型コラーゲンとIII型コラーゲンの産生を増加させます。また、コラーゲンを分解する酵素(マトリックスメタロプロテイナーゼ)の活性を抑制することで、コラーゲンの減少を防ぎます。
3. エラスチン増加 皮膚の弾力性を保つエラスチン繊維の産生も促進します。
4. メラニン生成抑制 チロシナーゼ活性を抑制し、メラニン色素の生成を減少させます。また、メラニンを含む角質細胞の排出を促進することで、シミや色素沈着を改善します。
5. 皮脂分泌調整 皮脂腺の活動を調整し、過剰な皮脂分泌を抑制します。
6. 抗酸化作用 活性酸素による酸化ストレスを軽減します。
レチノールの効果
レチノールは、以下のような皮膚トラブルや老化サインに効果があることが多数の研究で実証されています。
しわ・小じわの改善 複数の臨床試験において、レチノール使用により細かいしわや深いしわが減少することが示されています。特に、目元や口元の表情じわ、光老化によるしわの改善に効果的です。
肌のハリと弾力の改善 コラーゲンとエラスチンの増加により、肌のハリと弾力が回復し、たるみの改善が期待できます。
毛穴の目立ち改善 皮脂分泌の調整とターンオーバーの正常化により、毛穴の開きや黒ずみが改善されます。
ニキビの改善 角質の正常化により毛穴の詰まりが解消され、ニキビの予防と改善に効果があります。炎症性ニキビにも効果的です。
シミ・色素沈着の改善 メラニン生成抑制とターンオーバー促進により、日光性色素斑(老人性色素斑)、肝斑、ニキビ跡の色素沈着などが改善されます。
肌質の改善 全体的な肌の質感が向上し、なめらかで明るい肌になります。
光老化の改善 紫外線による肌ダメージを修復し、光老化の進行を遅らせます。
レチノールの副作用
レチノールは効果が高い反面、副作用も起こりやすい成分です。特に使用開始初期には、以下のような症状が現れることがあります。
レチノイド反応(レチノール反応) レチノール使用開始後、一時的に以下のような症状が現れることがあります。これは「レチノイド反応」または「レチノイド皮膚炎」と呼ばれ、通常2~4週間程度で軽減します。
- 皮膚の乾燥
 - 赤み
 - 皮むけ(落屑)
 - 刺激感(ヒリヒリ感、灼熱感)
 - かゆみ
 - 一時的なニキビの増加(初期悪化)
 
光感受性の増加 レチノール使用中は、皮膚が紫外線に対して敏感になります。日焼けしやすくなるため、日中の紫外線対策が不可欠です。
妊娠中・授乳中の使用制限 高濃度のレチノイドは、妊娠中の使用が禁忌とされています。化粧品レベルのレチノールについては議論がありますが、念のため使用を避けるか、医師に相談することが推奨されています。
レチノールの使用方法
濃度と製剤 化粧品に配合されるレチノールの濃度は、通常0.01~1.0%程度です。初心者は低濃度(0.1%以下)から始めることが推奨されます。
使用方法
- 夜のスキンケアの最後に使用することが一般的
 - 洗顔後、化粧水、美容液で肌を整えた後、レチノール製品を顔全体に薄く塗布
 - 目や口の周りは避けるか、慎重に使用
 - 使用後は必ず保湿剤でケア
 
使用上の注意点
- 初めて使用する場合は、週2~3回から始め、徐々に頻度を増やす
 - レチノイド反応が強い場合は、使用頻度を減らすか一時中止し、肌が落ち着いてから再開
 - 日中は必ず日焼け止め(SPF30以上)を使用
 - 他の刺激性成分(AHA、BHA、ビタミンCなど)との同時使用は避けるか、慎重に行う
 - 妊娠中・授乊中、妊娠を計画している場合は使用を避ける
 - ピーリングやレーザー治療の前後は使用を控える
 
アゼライン酸とレチノールの違い
作用機序の違い
アゼライン酸 主に表皮レベルで作用し、抗菌、抗炎症、メラニン生成抑制などの多面的な効果を発揮します。細胞の核内受容体を介さずに作用するため、作用は比較的穏やかです。
レチノール 核内受容体を介して遺伝子発現を調節し、表皮から真皮まで広範囲に作用します。細胞のターンオーバーやコラーゲン産生に直接的に関与するため、作用は強力ですが、それに伴う副作用も起こりやすくなります。
主な効果の違い
| 効果 | アゼライン酸 | レチノール | 
|---|---|---|
| ニキビ改善 | ◎ 炎症性・非炎症性両方に効果 | ◎ 特に毛穴の詰まりに効果 | 
| ニキビ跡の色素沈着 | ◎ 特に効果的 | ○ 効果あり | 
| 酒さ・赤ら顔 | ◎ 医療用途として確立 | △ 悪化する可能性も | 
| しわ・たるみ | △ 効果限定的 | ◎ 主要な効果 | 
| コラーゲン産生 | △ 限定的 | ◎ 強力に促進 | 
| 肝斑 | ◎ 有効 | ○ 効果あり(刺激注意) | 
| 毛穴の開き | ○ 効果あり | ◎ 効果的 | 
| 肌質改善 | ○ マイルド | ◎ 顕著 | 
副作用の違い
刺激性
- アゼライン酸:比較的マイルドな刺激。使用初期にピリピリ感があるが、通常は耐容性が高い
 - レチノール:より強い刺激性。レチノイド反応として乾燥、赤み、皮むけが起こりやすい
 
光感受性
- アゼライン酸:光感受性を増加させない。日中使用も可能
 - レチノール:光感受性を増加させる。夜間使用が推奨され、日中は日焼け止めが必須
 
妊娠中・授乳中の使用
- アゼライン酸:FDA妊娠カテゴリーB。比較的安全とされるが、医師への相談が望ましい
 - レチノール:妊娠中の使用は推奨されない。妊娠を計画している場合も避けるべき
 
色素脱失のリスク
- アゼライン酸:極めてまれに色素脱失が報告されている
 - レチノール:適切な使用では色素脱失のリスクは低い
 
使用感の違い
アゼライン酸
- テクスチャー:クリーム状やジェル状が多い
 - 使用感:塗布時にピリピリ感を感じることがあるが、その後は比較的快適
 - 吸収:比較的速やかに吸収される
 - べたつき:製品により異なるが、一般的に軽め
 
レチノール
- テクスチャー:クリーム、ジェル、セラム、オイルなど多様
 - 使用感:乾燥感を感じることがある。使用初期は刺激を感じやすい
 - 吸収:ゆっくりと吸収される製品が多い
 - べたつき:製品により異なるが、リッチなテクスチャーのものも多い
 
効果が現れるまでの期間
アゼライン酸
- ニキビ改善:4~8週間で効果が現れ始める
 - 色素沈着の改善:8~12週間程度で改善が見られる
 - 最大効果:3~6ヶ月の継続使用が推奨される
 
レチノール
- 肌質の改善:4~6週間で効果を実感し始める
 - しわの改善:3~6ヶ月で改善が見られる
 - コラーゲン増加:6~12ヶ月の継続使用で最大効果
 - 最大効果:6~12ヶ月の継続使用が推奨される
 
価格帯の違い
アゼライン酸
- 化粧品グレード(5~10%):3,000~8,000円程度
 - 医療用グレード(15~20%):処方箋が必要(保険適用外)
 
レチノール
- 低濃度製品(0.1%以下):2,000~5,000円程度
 - 中濃度製品(0.1~0.5%):5,000~15,000円程度
 - 高濃度製品(0.5~1.0%):10,000~30,000円程度
 - 処方箋レチノイド:医療機関での処方が必要
 
どちらを選ぶべきか
肌悩み別の選択ガイド
ニキビとニキビ跡が主な悩み → アゼライン酸がおすすめ 理由:抗菌作用と抗炎症作用により、ニキビそのものと色素沈着の両方に効果的。刺激が少なく、敏感肌でも使いやすい。
しわ・たるみ・エイジングケアが主な悩み → レチノールがおすすめ 理由:コラーゲン産生促進と真皮への作用により、しわやたるみに対する効果が高い。アンチエイジングにはレチノールが第一選択。
酒さ・赤ら顔がある → アゼライン酸がおすすめ 理由:酒さの治療に医療用途として使用されている。レチノールは赤みを悪化させる可能性がある。
肝斑がある → アゼライン酸がおすすめ(第一選択) 理由:メラニン生成抑制作用があり、刺激が少ないため、肝斑を悪化させるリスクが低い。レチノールも効果はあるが、刺激により悪化する可能性がある。
毛穴の開き・黒ずみが気になる → レチノールがおすすめ(初心者はアゼライン酸から) 理由:レチノールは毛穴の改善に特に効果的だが、初心者や敏感肌の方はアゼライン酸から始めるのも良い選択。
全体的な肌質改善・トーン改善 → どちらも効果的(肌質により選択) 理由:両成分とも肌質改善効果がある。敏感肌や刺激に弱い方はアゼライン酸、より積極的な改善を望む方はレチノール。
肌質別の選択ガイド
敏感肌 → アゼライン酸がおすすめ 理由:レチノールよりも刺激が少なく、耐容性が高い。
乾燥肌 → アゼライン酸がおすすめ(または低濃度レチノールから) 理由:レチノールは乾燥を引き起こしやすい。使用する場合は十分な保湿とともに低濃度から始める。
脂性肌 → どちらも適している 理由:両成分とも皮脂分泌の調整に効果がある。ニキビがある場合はアゼライン酸、毛穴とエイジングケアならレチノール。
混合肌 → どちらも使用可能(悩みに応じて選択) 理由:肌の状態を見ながら、部分使いも検討できる。
年齢別の推奨
20代前半~中盤
- ニキビ悩みが多い:アゼライン酸
 - 予防的エイジングケア:低濃度レチノール(0.1%以下)
 
20代後半~30代
- エイジングケア開始:レチノール(0.1~0.3%)
 - ニキビと初期老化:アゼライン酸またはレチノール
 
40代以降
- 本格的なエイジングケア:レチノール(0.3~1.0%)
 - 敏感肌や刺激に弱い方:アゼライン酸
 - 併用も検討可能
 
妊娠・授乳中の選択
妊娠中・授乳中 → アゼライン酸が安全(ただし医師に相談) レチノールは妊娠中の使用が推奨されないため、アゼライン酸が代替選択肢となります。ただし、使用前に必ず担当医に相談してください。
アゼライン酸とレチノールの併用について
併用は可能か
結論から言えば、アゼライン酸とレチノールの併用は可能です。むしろ、両成分は作用機序が異なるため、相補的に作用し、より高い効果が期待できる場合があります。
併用のメリット
1. 相乗効果
- ニキビとニキビ跡の両方に対して、より効果的なアプローチが可能
 - メラニン生成抑制の強化により、色素沈着の改善が促進
 - アンチエイジング効果とニキビケアの同時実現
 
2. 副作用の軽減
- アゼライン酸の抗炎症作用が、レチノールによる刺激を軽減する可能性
 - 単独で高濃度を使用するよりも、両成分を適度な濃度で併用する方が肌への負担が少ない場合がある
 
3. 包括的なスキンケア
- 複数の肌悩みに同時にアプローチできる
 - エイジングケアとニキビケアを両立
 
併用時の注意点
1. 段階的な導入 いきなり両成分を同時に使い始めるのは避けましょう。まず一方の成分に肌を慣らしてから、もう一方を追加することが重要です。
推奨される導入手順:
- アゼライン酸を2~4週間使用し、肌を慣らす
 - 肌が安定したら、レチノールを週1~2回から導入
 - 徐々にレチノールの使用頻度を増やす
 - 肌の反応を見ながら調整
 
2. 使用タイミングの工夫 両成分を同時に使用すると刺激が強すぎる場合があるため、以下のような方法があります。
方法1:朝夜で使い分け
- 朝:アゼライン酸(光感受性がないため日中使用可能)
 - 夜:レチノール
 
方法2:日を分ける
- 月・水・金:レチノール
 - 火・木・土:アゼライン酸
 - 日:休息日(どちらも使用しない)
 
方法3:同時使用(慣れてから)
- 化粧水→アゼライン酸→保湿剤→レチノール
 - または、化粧水→レチノール→保湿剤→アゼライン酸
 
3. 十分な保湿 両成分とも乾燥を引き起こす可能性があるため、保湿ケアが非常に重要です。セラミドやヒアルロン酸を含む保湿剤を併用しましょう。
4. 紫外線対策の徹底 レチノール使用中は光感受性が増すため、日中は必ずSPF30以上の日焼け止めを使用してください。
5. 刺激症状への対処 以下のような症状が現れた場合は、使用を一時中止し、皮膚科医に相談してください。
- 強い赤み
 - 持続する刺激感
 - 広範囲の皮むけ
 - 腫れや水疱
 - 悪化したニキビ
 
併用を避けるべきケース
- レチノール初心者で、まだレチノイド反応に慣れていない方
 - 非常に敏感な肌質の方
 - 皮膚バリア機能が低下している方
 - 妊娠中・授乳中の方(レチノール自体が不可)
 - 他の刺激性成分を多く使用している方
 
医師の指導のもとで行うことの重要性
特に医療グレードのアゼライン酸(15~20%)や高濃度レチノール(0.5%以上)を併用する場合は、必ず皮膚科医の指導のもとで行うことをお勧めします。
実際の使用例とケーススタディ
ケース1:30代女性、ニキビとニキビ跡の色素沈着
悩み 顎周りの繰り返すニキビと、ニキビ跡の茶色い色素沈着に悩んでいる。
選択 アゼライン酸10%の製品を選択。
使用方法 夜のみ、洗顔後に化粧水で整えてから顔全体に塗布。日中は必ず日焼け止めを使用。
経過
- 4週間後:新しいニキビの発生が減少
 - 8週間後:既存のニキビが改善し、色素沈着がやや薄くなってきた
 - 12週間後:色素沈着が明らかに改善し、肌のトーンが均一に
 
ポイント アゼライン酸は、ニキビとニキビ跡の両方に効果があるため、この方には最適な選択でした。
ケース2:40代女性、しわとたるみが気になる
悩み 目元や口元のしわ、肌のたるみが気になり始めた。毛穴の開きも悩み。
選択 レチノール0.3%の製品を選択。
使用方法 最初の2週間は週3回、夜のみ使用。その後、徐々に頻度を増やし、毎晩使用に。十分な保湿と日中の日焼け止めを徹底。
経過
- 2週間後:軽度の乾燥と皮むけが出現(レチノイド反応)
 - 4週間後:レチノイド反応が落ち着き、肌のなめらかさが向上
 - 3ヶ月後:細かいしわが目立たなくなり、肌のハリが改善
 - 6ヶ月後:毛穴が引き締まり、全体的な肌質が向上
 
ポイント エイジングケアにはレチノールが効果的。段階的な導入により、副作用を最小限に抑えながら効果を得ることができました。
ケース3:35代女性、ニキビとエイジングケアの両方が必要
悩み フェイスラインのニキビと、目元の小じわが気になる。両方をケアしたい。
選択 アゼライン酸10%とレチノール0.2%の併用。
使用方法
- まず2週間、アゼライン酸のみを夜使用
 - 肌が慣れたら、レチノールを週2回追加
 - 1ヶ月後、レチノールを週3回に増量
 - 2ヶ月後、朝にアゼライン酸、夜にレチノールの使い分けに移行
 
経過
- 1ヶ月後:ニキビの発生が減少し、肌のキメが整い始める
 - 3ヶ月後:ニキビがほぼ出なくなり、小じわが目立たなくなってきた
 - 6ヶ月後:ニキビ跡の色素沈着も改善し、肌全体が若々しく
 
ポイント 併用により、ニキビケアとエイジングケアの両立が可能に。段階的な導入と使い分けにより、副作用を最小限に抑えることができました。
日本における入手方法と注意点
アゼライン酸製品の入手方法
化粧品グレード(5~10%) 日本国内では、一部の化粧品メーカーやスキンケアブランドから購入可能です。また、海外製品を個人輸入することもできます。
医療グレード(15~20%) 日本では未承認医薬品扱いとなるため、医療機関で医師の処方により入手する必要があります。保険適用外となります。
レチノール製品の入手方法
化粧品グレード ドラッグストアや化粧品専門店、オンラインショップなどで広く入手可能です。濃度は製品により異なります。
医療グレード(トレチノイン等) 日本では医師の処方箋が必要です。一部の美容皮膚科や皮膚科クリニックで処方されています。
個人輸入時の注意点
海外から個人輸入する場合、以下の点に注意してください。
- 品質の保証がない:偽造品や劣化品のリスク
 - 成分濃度が不明確:記載と実際の濃度が異なる可能性
 - 副作用への対応が困難:問題が生じた場合、自己責任
 - 法的規制:医薬品成分を含む場合、数量制限や輸入規制あり
 
安全性を考えると、国内の信頼できる製品や、医療機関での処方を選択することをお勧めします。

よくある質問(FAQ)
A1. 両成分を配合した製品も一部存在しますが、それぞれ単独配合の製品の方が一般的です。両成分とも活性成分であり、配合する際には安定性や相互作用を考慮する必要があるためです。
A2. 肌悩みにより異なります。ニキビや色素沈着が主な悩みならアゼライン酸、しわやたるみなどのエイジングサインが主な悩みならレチノールをお勧めします。迷った場合は、まずは刺激の少ないアゼライン酸から始めるのも良い選択です。
Q3. ビタミンCとの併用は可能ですか?
A3. アゼライン酸はビタミンCとの併用が比較的安全とされています。レチノールとビタミンCの併用については意見が分かれますが、朝にビタミンC、夜にレチノールという使い分けが一般的です。同時使用は刺激が強くなる可能性があるため注意が必要です。
Q4. 効果が感じられない場合、どうすればよいですか?
A4. 効果が現れるまでには数週間から数ヶ月かかります。まずは推奨期間(最低3ヶ月)継続使用してみてください。それでも効果が感じられない場合は、濃度の見直しや、他の成分との併用、医療機関での治療を検討してください。
Q5. 敏感肌ですが、どちらも使えますか?
A5. 敏感肌の方でも、適切な濃度と使用方法を守れば、多くの場合使用可能です。ただし、パッチテストを行い、低濃度から始めることが重要です。アゼライン酸の方が一般的に耐容性が高いため、まずはアゼライン酸から試すことをお勧めします。
Q6. レーザー治療やピーリングとの併用は可能ですか?
A6. 治療の前後数日~1週間程度は、両成分の使用を中止することが推奨されます。具体的なタイミングは、施術を行う医師の指示に従ってください。
Q7. 日中も使用できますか?
A7. アゼライン酸は日中使用も可能ですが、レチノールは夜間のみの使用が推奨されます。どちらを使用する場合も、日中は必ず日焼け止めを使用してください。
まとめ
アゼライン酸とレチノールは、それぞれ異なる特性と効果を持つ優れたスキンケア成分です。
アゼライン酸は以下のような方におすすめです:
- ニキビとニキビ跡の色素沈着が気になる方
 - 酒さや赤ら顔がある方
 - 肝斑を改善したい方
 - 敏感肌で刺激に弱い方
 - 妊娠中・授乳中の方
 - 日中も使用したい方
 
レチノールは以下のような方におすすめです:
- しわやたるみが気になる方
 - 本格的なエイジングケアを始めたい方
 - 毛穴の開きを改善したい方
 - 肌のハリや弾力を取り戻したい方
 - より積極的な肌質改善を望む方
 
両成分の併用は、以下のような方に特におすすめです:
- ニキビとエイジングケアの両方が必要な方
 - 複数の肌悩みに包括的にアプローチしたい方
 - 段階的な導入と適切な使用方法を守れる方
 
どちらを選ぶにしても、自分の肌質や悩み、ライフスタイルに合った成分を選び、適切な使用方法を守ることが重要です。また、高濃度の製品や併用を検討する場合は、皮膚科医や美容皮膚科医に相談することをお勧めします。
アイシークリニック大宮院では、患者様一人ひとりの肌状態や悩みに合わせた最適なスキンケアのご提案を行っております。アゼライン酸やレチノールの使用についてのご相談も承っておりますので、お気軽にご来院ください。
美しい肌を手に入れるためには、適切な成分選択と継続的なケアが不可欠です。この記事が、あなたのスキンケア選びの一助となれば幸いです。
参考文献
- 日本皮膚科学会「尋常性痤瘡治療ガイドライン2024」
https://www.dermatol.or.jp/ - 日本美容皮膚科学会「美容皮膚科診療指針」
https://www.aestheticderm.com/ - 厚生労働省「化粧品の安全性確保に関する情報」
https://www.mhlw.go.jp/ - 日本化粧品工業連合会「化粧品成分ガイドブック」
 - Nast A, et al. European evidence-based (S3) guideline for the treatment of acne. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology. 2016.
 - Kligman AM, et al. Topical tretinoin for photoaged skin. Journal of the American Academy of Dermatology. 1986.
 - 宮地良樹、他「皮膚科学第10版」医学書院、2018年
 - 西岡清、他「スタンダード皮膚科学第3版」医学書院、2019年
 - 日本香粧品学会誌「化粧品の有効成分に関する研究」各号
 - 日本レーザー医学会「レーザー治療と化粧品併用のガイドライン」
 
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の代替となるものではありません。肌の状態や悩みについては、必ず医療機関で専門医にご相談ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
 - 2009年 東京逓信病院勤務
 - 2012年 東京警察病院勤務
 - 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
 - 2019年 当院治療責任者就任
 
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
 - 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
 - 2012年 東京逓信病院勤務
 - 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
 - 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務