はじめに
お腹が痛いという経験は、誰もが一度は経験したことがあるでしょう。軽い痛みから激しい痛みまで、その程度はさまざまですが、「この痛みは我慢して大丈夫なのか」「すぐに病院へ行くべきなのか」と不安になることも多いものです。
腹痛は、消化器系のトラブルだけでなく、泌尿器系、婦人科系、さらには心臓や血管の病気が原因となることもあります。適切な対処法を知っておくことで、症状の悪化を防ぎ、必要な時には速やかに医療機関を受診することができます。
本記事では、お腹が痛い時の原因、症状の見分け方、自宅でできる対処法、そして医療機関を受診すべきタイミングについて、詳しく解説していきます。
腹痛の基礎知識
腹痛のメカニズム
腹痛は、腹部の臓器や組織に何らかの異常が生じた際に起こる痛みです。腹部には胃、腸、肝臓、胆のう、膵臓、腎臓、膀胱などの重要な臓器が集まっており、これらの臓器のトラブルが痛みとして現れます。
痛みの感じ方には個人差があり、同じ病気でも人によって痛みの強さや感じ方が異なります。また、ストレスや疲労によって痛みが増強されることもあります。
腹痛の種類
腹痛は、大きく分けて以下の3つのタイプに分類されます。
1. 内臓痛
内臓痛は、胃や腸などの消化管が伸展したり、けいれんしたりすることで生じる痛みです。痛みの場所がはっきりせず、お腹全体がぼんやりと痛むのが特徴です。波があり、痛みが強くなったり弱くなったりします。
代表的な例:
- 胃腸炎による腹痛
- 便秘による腹痛
- 腸閉塞の初期症状
2. 体性痛
腹膜や腹壁が刺激されることで生じる痛みです。痛みの場所が比較的はっきりしており、鋭い痛みが特徴です。動くと痛みが増すため、患者さんはじっとしていることが多くなります。
代表的な例:
- 虫垂炎(盲腸)
- 腹膜炎
- 消化管穿孔
3. 関連痛
内臓の病気が原因で、離れた場所に痛みを感じることがあります。これを関連痛といいます。
代表的な例:
- 胆石症で右肩が痛む
- 心筋梗塞で上腹部が痛む
- 腎結石で鼠径部が痛む
腹痛の原因となる主な疾患
1. 消化器系の疾患
急性胃腸炎
ウイルスや細菌による感染で、胃や腸に炎症が起こる病気です。腹痛のほか、吐き気、嘔吐、下痢、発熱などの症状を伴います。ノロウイルスやロタウイルス、食中毒菌などが原因となります。
過敏性腸症候群
ストレスや生活習慣が原因で、腸の動きに異常が生じる病気です。検査をしても明らかな異常が見つからないのが特徴で、腹痛、下痢、便秘などの症状が繰り返し現れます。厚生労働省のe-ヘルスネットによると、日本人の約10〜15%が過敏性腸症候群に悩んでいるとされています。
胃・十二指腸潰瘍
胃酸によって胃や十二指腸の粘膜が傷つけられる病気です。空腹時や夜間に上腹部が痛むのが特徴です。ピロリ菌感染や、消炎鎮痛剤の長期服用が原因となることが多いです。
胃食道逆流症(逆流性食道炎)
胃酸が食道に逆流することで、食道の粘膜に炎症が起こる病気です。胸やけや上腹部の不快感、痛みが主な症状です。食後や横になった時に症状が悪化しやすくなります。
虫垂炎(盲腸)
虫垂に炎症が起こる病気で、最初はお腹の中心部がぼんやりと痛み、次第に右下腹部に激しい痛みが移動するのが典型的な経過です。発熱や吐き気を伴うことが多く、早急な治療が必要です。
腸閉塞(イレウス)
腸の内容物が詰まって通過障害が起こる状態です。腹痛のほか、嘔吐、腹部膨満、排ガスや排便の停止などの症状が現れます。開腹手術の既往がある方に起こりやすい傾向があります。
憩室炎
大腸の壁にできた小さな袋(憩室)に炎症や感染が起こる病気です。特に左下腹部に痛みが生じることが多く、発熱や便通異常を伴います。高齢者に多い疾患です。
胆石症・胆のう炎
胆のうや胆管に結石ができる病気で、右上腹部に激しい痛みが生じます。特に脂っこい食事の後に痛みが出やすいのが特徴です。痛みは右肩や背中に放散することもあります。
膵炎
膵臓に炎症が起こる病気で、上腹部に激しい痛みが生じます。背中に抜けるような痛みが特徴的で、前かがみになると痛みが和らぐことがあります。飲酒や胆石が原因となることが多いです。
2. 婦人科系の疾患(女性の場合)
月経困難症
生理に伴って起こる下腹部痛です。子宮の収縮によって引き起こされ、腰痛や頭痛を伴うこともあります。日常生活に支障をきたすほど痛みが強い場合は、治療が必要です。
卵巣嚢腫茎捻転
卵巣にできた腫瘍がねじれて血流が途絶える状態です。突然の激しい下腹部痛が特徴で、吐き気や冷や汗を伴います。緊急手術が必要となる場合があります。
子宮外妊娠
受精卵が子宮以外の場所に着床してしまう状態です。妊娠反応が陽性で、下腹部痛や不正出血がある場合は、子宮外妊娠の可能性を考える必要があります。
骨盤内炎症性疾患
子宮、卵管、卵巣などに細菌感染が起こる病気です。下腹部痛、発熱、おりものの増加などの症状が現れます。
3. 泌尿器系の疾患
尿路結石
腎臓や尿管に結石ができる病気です。突然の激しい側腹部痛や背部痛が特徴で、「痛みの王様」と呼ばれるほど強い痛みを生じることがあります。血尿を伴うこともあります。
膀胱炎
膀胱に細菌感染が起こる病気で、特に女性に多くみられます。下腹部の痛みや不快感、頻尿、排尿時痛、残尿感などの症状が現れます。
腎盂腎炎
腎臓に細菌感染が起こる病気です。側腹部や背部の痛み、高熱、悪寒、吐き気などの症状が現れます。適切な治療を受けないと重症化することがあります。
4. その他の疾患
便秘
便が長期間排出されないことで、下腹部の痛みや不快感、腹部膨満感が生じます。日本人の約3人に1人が便秘に悩んでいるとされ、特に女性や高齢者に多くみられます。
食物アレルギー
特定の食品を摂取することで、腹痛、下痢、嘔吐などの症状が現れます。蕁麻疹や呼吸困難などの全身症状を伴うこともあります。
虚血性腸炎
腸への血流が一時的に低下することで起こる病気です。突然の腹痛と下痢、血便が特徴です。高齢者や動脈硬化のある方に多くみられます。
大動脈解離・腹部大動脈瘤破裂
大動脈に異常が生じる重篤な疾患です。突然の激しい腹痛や背部痛が起こり、ショック状態に陥ることがあります。命に関わる緊急事態であり、直ちに救急車を呼ぶ必要があります。
心筋梗塞
心臓の病気ですが、上腹部の痛みとして現れることがあります。特に糖尿病のある方や高齢者では、典型的な胸痛がなく、腹痛として感じられることがあるため注意が必要です。
部位別の腹痛と考えられる疾患
お腹の痛む場所によって、ある程度原因を推測することができます。
上腹部(みぞおち周辺)の痛み
考えられる主な疾患:
- 胃炎、胃・十二指腸潰瘍
- 逆流性食道炎
- 膵炎
- 心筋梗塞
- 胆石症、胆のう炎
上腹部の痛みは消化器系の疾患が多いですが、心筋梗塞のような循環器系の重大な疾患が隠れていることもあります。
右上腹部の痛み
考えられる主な疾患:
- 胆石症、胆のう炎
- 肝炎、肝膿瘍
- 十二指腸潰瘍
- 右腎盂腎炎
脂っこい食事の後に痛みが出現する場合は、胆石症や胆のう炎の可能性が高くなります。
左上腹部の痛み
考えられる主な疾患:
- 胃炎、胃潰瘍
- 膵炎
- 脾臓の疾患
- 左腎盂腎炎
膵炎による痛みは特に激しく、背中に抜けるような痛みが特徴です。
右下腹部の痛み
考えられる主な疾患:
- 虫垂炎(盲腸)
- 大腸憩室炎
- 尿管結石
- 卵巣嚢腫(女性)
- 子宮外妊娠(女性)
右下腹部の痛みで最も注意が必要なのは虫垂炎です。特に発熱を伴う場合は、早急な受診が必要です。
左下腹部の痛み
考えられる主な疾患:
- 大腸憩室炎
- 便秘
- 尿管結石
- 卵巣嚢腫(女性)
- 過敏性腸症候群
高齢者の左下腹部痛では、憩室炎の可能性を考慮する必要があります。
下腹部全体の痛み
考えられる主な疾患:
- 膀胱炎
- 月経困難症(女性)
- 骨盤内炎症性疾患(女性)
- 腸閉塞
- 便秘
女性の場合、婦人科系の疾患も考慮する必要があります。
お腹全体の痛み
考えられる主な疾患:
- 急性胃腸炎
- 腸閉塞
- 腹膜炎
- 虚血性腸炎
- 過敏性腸症候群
お腹全体が痛む場合、広範囲に炎症が広がっている可能性があり、注意が必要です。
緊急性の高い腹痛:すぐに受診すべき症状
以下のような症状がある場合は、緊急性が高いと考えられます。すぐに医療機関を受診するか、救急車を呼ぶことを検討してください。
救急車を呼ぶべき症状
- 突然の激しい腹痛
- これまで経験したことのないような激痛
- 我慢できないほどの痛み
- 冷や汗や脂汗を伴う痛み
- 意識の変容
- 意識が朦朧としている
- 会話が困難
- 顔色が悪く、ぐったりしている
- ショック症状
- 冷や汗が止まらない
- 顔面蒼白
- 血圧低下
- 脈拍の乱れ
- お腹がボード様に硬くなっている
- 腹部全体が板のように硬い
- 触れると激痛が走る
- 腹膜炎の可能性
- 大量の出血
- 吐血(コーヒー残渣様の嘔吐を含む)
- 大量の血便や黒色便
- 不正出血を伴う腹痛(妊娠可能性のある女性)
できるだけ早く受診すべき症状
- 38度以上の発熱を伴う腹痛
- 持続する嘔吐で水分が取れない
- 24時間以上排便がなく、腹部膨満が強い
- 尿が出ない、または血尿が出る
- 黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)
- 痛みが徐々に強くなっている
- 妊娠の可能性がある女性の下腹部痛
日本救急医学会では、適切な救急受診の判断基準を公開しています。迷った場合は、#7119(救急相談センター)に電話して相談することもできます。
自宅でできる腹痛の対処法
軽度の腹痛で、緊急性が低いと判断される場合は、自宅での対処を試みることができます。ただし、症状が改善しない場合や悪化する場合は、必ず医療機関を受診してください。
1. 安静にする
腹痛がある時は、無理をせず安静にすることが大切です。横になって休むことで、症状が和らぐことがあります。痛みが強い場合は、楽な姿勢を見つけて安静を保ちましょう。
姿勢のポイント:
- 仰向けで膝を立てる姿勢が楽なことが多い
- 横向きで膝を抱える姿勢も試してみる
- 痛みが和らぐ姿勢を探す
2. お腹を温める
消化不良や便秘、生理痛などによる腹痛の場合、お腹を温めることで痛みが和らぐことがあります。ただし、虫垂炎などの炎症性疾患では温めると悪化する可能性があるため注意が必要です。
温める方法:
- 湯たんぽやカイロを当てる(低温やけどに注意)
- 温かいタオルを当てる
- 腹巻を使用する
- 温かい飲み物を少しずつ飲む
注意点:
- 急性の激しい痛みには温めない
- 炎症が疑われる場合は温めない
- 熱すぎるものは避ける
3. 水分補給
下痢や嘔吐を伴う場合、脱水症状を防ぐために水分補給が重要です。ただし、一度に大量に飲むと嘔吐を誘発することがあるため、少しずつこまめに摂取しましょう。
おすすめの飲み物:
- 常温の水や白湯
- 経口補水液(OS-1など)
- 薄めたスポーツドリンク
- 麦茶
- 生姜湯
避けるべき飲み物:
- カフェインを含む飲み物(コーヒー、緑茶など)
- 炭酸飲料
- 冷たすぎる飲み物
- アルコール
- 濃いジュース
4. 消化に良い食事を取る
食欲がある場合でも、消化に良いものを少量ずつ食べるようにしましょう。無理に食べる必要はありません。
おすすめの食べ物:
- おかゆ、雑炊
- うどん(消化の良いもの)
- 白身魚
- 豆腐
- バナナ、リンゴ(すりおろし)
- ヨーグルト
避けるべき食べ物:
- 脂っこいもの
- 辛いもの
- 刺激の強いもの
- 食物繊維が多すぎるもの
- アルコール
- カフェイン
5. 市販薬の使用
症状に応じて市販薬を使用することもできますが、原因が明確でない場合や症状が重い場合は、自己判断での服用を避け、医師や薬剤師に相談しましょう。
主な市販薬の種類:
胃薬(制酸剤、胃粘膜保護剤):
- 胃の痛みや胃もたれに
- 食べ過ぎ、飲み過ぎの時に
整腸剤:
- 軽い下痢や便秘に
- お腹の調子を整える
鎮痛剤:
- 生理痛や軽い痛みに
- ただし、原因不明の腹痛には使用を控える
注意点:
- 用法用量を守る
- 他の薬との飲み合わせに注意
- 妊娠中・授乳中は医師に相談
- 症状が改善しない場合は服用を中止し受診
- アレルギーの既往がある場合は成分を確認
6. ストレスを軽減する
過敏性腸症候群など、ストレスが原因の腹痛の場合、リラックスすることが重要です。
リラックス方法:
- 深呼吸をする
- 好きな音楽を聴く
- アロマテラピーを試す
- ぬるめのお風呂に入る(体調が良い時)
- 十分な睡眠を取る
7. 便秘の解消
便秘が原因の腹痛の場合、便秘を解消することで症状が改善します。
便秘解消法:
- 水分を十分に摂る
- 食物繊維を適度に摂る
- 適度な運動をする
- 規則正しい生活習慣を心がける
- 便意を我慢しない
- 必要に応じて便秘薬を使用
やってはいけないこと
- 原因不明の痛みに鎮痛剤を多用する
- 痛みをマスクしてしまい、重大な病気の発見が遅れる可能性
- 激しい痛みの時に食事をする
- 症状を悪化させる可能性
- 下痢の時に無理に止瀉薬を使う
- 体内の毒素や細菌を排出できなくなる可能性
- 自己判断で抗生物質を服用する
- 適切な診断と処方が必要
- 痛みが強いのに我慢し続ける
- 重大な疾患を見逃す可能性
医療機関を受診する際のポイント
医療機関を受診する際は、以下の情報を医師に伝えるとスムーズに診断が進みます。
伝えるべき情報
- 痛みの部位
- どこが痛むか具体的に
- 痛みの範囲や移動
- 痛みの性質
- 鋭い痛み、鈍い痛み、締め付けられる痛み、刺すような痛みなど
- 持続的か、波があるか
- 痛みの強さ
- 10段階評価など
- 日常生活への影響
- 発症時期と経過
- いつから痛み始めたか
- どのように変化しているか
- 随伴症状
- 発熱、嘔吐、下痢、便秘、血便、血尿など
- 誘因
- 食事との関係
- 姿勢や動作との関係
- ストレスなどの心理的要因
- 既往歴
- これまでにかかった病気
- 手術の経験
- 現在治療中の病気
- 服用中の薬
- 処方薬
- 市販薬
- サプリメント
- 女性の場合
- 最終月経日
- 妊娠の可能性
- 生理周期との関係
持参すると良いもの
- 健康保険証
- お薬手帳
- 紹介状(他院からの紹介の場合)
- 検査結果(過去の検査がある場合)
受診する診療科
腹痛の原因によって適切な診療科が異なりますが、原因が分からない場合は以下を参考にしてください。
- 内科・消化器内科: 胃腸の症状が主な場合
- 外科・消化器外科: 激しい痛みや手術が必要そうな場合
- 婦人科: 女性で生理に関連した痛みの場合
- 泌尿器科: 排尿障害を伴う場合
- 救急科: 緊急性が高い場合
迷った場合は、まず内科を受診すると良いでしょう。必要に応じて専門科へ紹介してもらえます。
腹痛の予防方法
日常生活の中で、腹痛を予防するための対策を紹介します。
1. 規則正しい食生活
食事のポイント:
- 1日3食、規則正しく食べる
- よく噛んでゆっくり食べる
- 腹八分目を心がける
- 寝る2〜3時間前までに食事を済ませる
- 暴飲暴食を避ける
- 極端に冷たいもの、熱いものを避ける
栄養バランス:
- 偏った食事を避ける
- 食物繊維を適度に摂る
- 発酵食品で腸内環境を整える
- ビタミン・ミネラルを十分に摂る
2. 水分補給
- こまめに水分を摂る
- 1日1.5〜2リットルを目安に
- 冷たすぎる飲み物は避ける
- カフェインやアルコールの過剰摂取を控える
3. ストレス管理
厚生労働省のメンタルヘルス情報によると、ストレスは消化器症状の大きな要因となります。
ストレス対策:
- 十分な睡眠を取る(7〜8時間)
- 適度な運動を習慣にする
- 趣味やリラックスできる時間を持つ
- 深呼吸や瞑想を取り入れる
- 悩みを一人で抱え込まない
4. 適度な運動
- ウォーキングなどの有酸素運動
- 腸の動きを促進
- ストレス解消にも効果的
- 無理のない範囲で継続
5. 良好な排便習慣
- 毎日決まった時間にトイレに行く習慣をつける
- 便意を我慢しない
- トイレで長時間いきまない
- 排便姿勢を工夫する(足元に台を置くなど)
6. 感染症予防
- 手洗いを徹底する
- 食品の十分な加熱
- 調理器具の清潔保持
- 生ものの取り扱いに注意
7. 定期的な健康診断
- 年1回の健康診断を受ける
- 胃カメラや大腸カメラの定期検査(40歳以上推奨)
- ピロリ菌検査(胃潰瘍・胃がん予防)
- 早期発見・早期治療
8. 薬の適切な使用
- 消炎鎮痛剤の長期使用は医師の指導下で
- 抗生物質の自己判断での使用を避ける
- 用法用量を守る
- 副作用に注意
年代別・状況別の注意点
乳幼児・小児の腹痛
子どもの腹痛は訴えが曖昧なことが多く、注意深い観察が必要です。
注意すべき症状:
- 持続的に泣き続ける
- 顔色が悪い、ぐったりしている
- 嘔吐を繰り返す
- 血便が出る
- お腹が異常に張っている
よくある原因:
- 便秘
- 急性胃腸炎
- 腸重積(乳児)
- 虫垂炎(学童期以降)
- 心因性(学校でのストレスなど)
高齢者の腹痛
高齢者は痛みの感じ方が鈍くなることがあり、重大な疾患でも軽い痛みしか感じないことがあります。
注意点:
- 軽い症状でも油断しない
- 持病との関連を考慮
- 薬の副作用の可能性
- 虚血性腸炎や大腸憩室炎のリスク
- 認知症がある場合は訴えが不明確なことも
女性の腹痛
女性特有の疾患も考慮する必要があります。
月経周期との関連:
- 月経困難症
- 排卵痛
- 月経前症候群(PMS)
妊娠との関連:
- 妊娠初期の正常な痛み
- 子宮外妊娠
- 切迫流産
- 妊娠後期の前駆陣痛
婦人科疾患:
- 子宮内膜症
- 卵巣嚢腫
- 骨盤内炎症性疾患
妊娠中の腹痛
妊娠中の腹痛は、生理的なものと病的なものの見極めが重要です。
注意すべき症状:
- 出血を伴う痛み
- 周期的な強い痛み
- 持続的な激痛
- 発熱を伴う痛み
受診の目安: 迷った場合は、かかりつけの産科医に相談しましょう。
スポーツ中・運動中の腹痛
運動に伴う腹痛は、多くの場合一時的なものです。
原因:
- 横隔膜のけいれん(わき腹の痛み)
- 腸への血流低下
- 胃の内容物の揺れ
対策:
- 運動前の食事のタイミングに注意
- ウォームアップを十分に行う
- 呼吸法を意識
- 水分補給を適切に

よくある質問(Q&A)
A: 一般的に、消化不良や便秘、生理痛などの機能的な痛みには温めることが効果的です。しかし、虫垂炎などの炎症性疾患では温めると悪化する可能性があります。原因が分からない激しい痛みの場合は、温めたり冷やしたりせず、すぐに医療機関を受診してください。
A: 原因が明確な軽い痛み(生理痛など)であれば、市販の鎮痛剤を用法用量を守って使用することは可能です。ただし、原因不明の腹痛に鎮痛剤を使用すると、痛みがマスクされて重大な病気の発見が遅れる可能性があります。また、消炎鎮痛剤は胃を荒らすことがあるため、胃痛がある場合は注意が必要です。
A: 感染性胃腸炎の場合、下痢は体が病原体を排出しようとする防御反応です。無理に止めると、かえって症状が長引くことがあります。脱水予防の水分補給を優先し、下痢止めの使用は慎重に判断してください。高熱や血便を伴う場合は、医療機関を受診しましょう。
Q4: お腹が痛くて病院に行くべきか迷っています。判断基準はありますか?
A: 以下のような場合は受診を検討してください:
- 我慢できないほどの激痛
- 発熱を伴う痛み
- 嘔吐を繰り返す
- 血便や血尿が出る
- 痛みが徐々に強くなっている
- 24時間以上症状が続いている
- 妊娠の可能性がある女性の腹痛
迷った場合は、#7119(救急相談センター)に相談するのも良いでしょう。
Q5: ストレスで本当にお腹が痛くなるのですか?
A: はい、ストレスは腹痛の原因となります。腸は「第二の脳」と呼ばれ、脳と密接に関連しています。ストレスや不安によって自律神経のバランスが乱れ、腸の動きに異常が生じることがあります。これが過敏性腸症候群などの原因となります。検査で異常が見つからない腹痛が続く場合は、ストレス管理も重要な治療の一つです。
Q6: 便秘が原因の腹痛はどう対処すればいいですか?
A: 便秘による腹痛には以下の対策が有効です:
- 水分を十分に摂る(1日1.5〜2リットル)
- 食物繊維を適度に摂る
- 適度な運動をする
- 規則正しい排便習慣をつける
- お腹のマッサージ(時計回り)
- 必要に応じて便秘薬を使用
ただし、急激な便秘や腹痛が強い場合は、腸閉塞などの可能性もあるため、医療機関を受診してください。
Q7: 食後に毎回お腹が痛くなります。何が原因でしょうか?
A: 食後の腹痛の原因として考えられるのは:
- 過敏性腸症候群
- 食物アレルギー・不耐症
- 胃炎、胃潰瘍
- 胆石症(特に脂っこい食事後)
- 膵炎
- 乳糖不耐症(乳製品摂取後)
症状が続く場合は、消化器内科を受診して適切な検査を受けることをお勧めします。
まとめ
お腹の痛みは、軽いものから命に関わるものまで、さまざまな原因で起こります。重要なのは、痛みの性質や随伴症状をよく観察し、緊急性を判断することです。
自宅で対処できる腹痛:
- 軽度の消化不良や便秘
- 食べ過ぎ、飲み過ぎ
- 軽度の生理痛
- ストレス性の腹痛
医療機関を受診すべき腹痛:
- 突然の激しい痛み
- 発熱を伴う痛み
- 嘔吐を繰り返す
- 血便や血尿がある
- 妊娠の可能性がある女性の下腹部痛
- 痛みが徐々に強くなっている
- 24時間以上症状が続く
日頃から規則正しい食生活、適度な運動、ストレス管理を心がけることで、多くの腹痛は予防できます。また、定期的な健康診断を受けることで、病気の早期発見・早期治療につながります。
お腹の痛みで不安を感じた時は、我慢せずに医療機関を受診しましょう。
参考文献・情報源
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「過敏性腸症候群」
- 厚生労働省 こころの耳
- 日本救急医学会 公式サイト
- 日本消化器病学会「消化器のひろば」
- 日本医師会「健康の森」
- MSDマニュアル家庭版「腹痛」
※本記事は医療情報の提供を目的としており、特定の診断や治療を推奨するものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務