2025年の冬、インフルエンザの流行が例年より1か月以上も早く始まり、多くの方が体調を崩されています。今シーズンの流行の中心となっているのが「サブクレードK」と呼ばれるインフルエンザA型(H3N2)の新しい変異株です。「今年のインフルエンザは何かいつもと違う」「ワクチンを打ったのに感染した」といった声を耳にする方も多いのではないでしょうか。
この記事では、サブクレードKとはどのようなウイルスなのか、従来のインフルエンザとの違い、ワクチンの効果、治療法、そして私たちができる予防対策について、最新の知見をもとにわかりやすく解説します。正しい知識を身につけ、この冬を健康に乗り越えましょう。
目次
- インフルエンザウイルスの基礎知識
- サブクレードKとは何か
- 2025年冬の流行状況
- サブクレードKの特徴
- サブクレードKによる症状
- インフルエンザワクチンの効果
- 診断と検査について
- インフルエンザの治療薬
- 日常でできる予防対策
- 重症化リスクが高い方への注意点
- 受診の目安と注意すべき症状
- まとめ
- 参考文献
1. インフルエンザウイルスの基礎知識
インフルエンザとは
インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする気道感染症です。一般的な風邪(普通感冒)とは異なり、「重くなりやすい疾患」として区別して考えるべき感染症とされています。
インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科に属する1本鎖RNAウイルスで、大きくA型、B型、C型の3種類に分類されます。このうち、ヒトの間で主に流行するのはA型とB型です。
インフルエンザウイルスの分類体系
インフルエンザウイルスは、以下のような階層構造で分類されています。
型(A型・B型)→ 亜型(H1N1・H3N2など)→ クレード(系統群)→ サブクレード(細分類)
A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面に存在する2種類のタンパク質、ヘマグルチニン(H)とノイラミニダーゼ(N)の組み合わせによって「亜型」に分類されます。現在、ヒトの間で流行しているA型インフルエンザの主な亜型は、H1N1型とH3N2型です。
H3N2型は、1968年に「香港かぜ」として世界的に大流行して以来、毎年のように流行を繰り返してきました。そのため、H3N2型は「A香港型」とも呼ばれています。
抗原ドリフトによる変異
インフルエンザウイルスは、増殖する過程で少しずつ遺伝子を変化させていきます。これは「抗原ドリフト」と呼ばれる現象で、ウイルスがヒトの免疫システムから逃れるために自然に起こる変異のメカニズムです。
抗原ドリフトによってウイルスの「顔」であるヘマグルチニンの形状が変化すると、過去の感染やワクチン接種で獲得した抗体がウイルスを認識しにくくなることがあります。これが、同じH3N2型であっても毎年のように感染が繰り返される理由の一つです。
2. サブクレードKとは何か
サブクレードの定義
サブクレードとは、クレード(系統群)のさらに下の階層に位置する細分類のことです。遺伝子変異が積み重なることで、同じクレードの中でも異なる特徴を持つグループが生まれ、それぞれがサブクレードとして分類されます。
H3N2型インフルエンザウイルスには、J.2、J.2.4、K(J.2.4.1)などのサブクレードが存在します。これらは季節性インフルエンザウイルスの変異が積み重なることで生まれた、いわば「親戚」のような関係にあります。
サブクレードKの正体
サブクレードKは、インフルエンザA型H3N2亜型から派生した新しい変異株で、正式名称は「J.2.4.1系統」と呼ばれています。2025年の夏頃から南半球のオーストラリアで出現が確認され、その後、イギリスをはじめとするヨーロッパ諸国、そして日本を含む北半球全体へと広がっていきました。
厚生労働省の発表によると、サブクレードKは2025年夏以降、国内外において確認されており、国内で9月以降11月5日までに採取された検体のうち、解析できたH3ウイルス23株のうち22株(約96%)がサブクレードKであったことが報告されています。
サブクレードKの名前の由来
「K」という名称の由来には諸説ありますが、「系統を示す記号」「Knot(結節)」「Key subtype(鍵となる亜型)」などの解釈があるとされています。いずれにしても、既存の分類体系の中で新たに分岐したグループを示す記号として用いられています。
3. 2025年冬の流行状況
例年より1か月以上早い流行開始
通常、日本のインフルエンザの流行は12月下旬から1月にかけて本格化し、1月から3月にかけてピークを迎えます。しかし、今シーズン(2024-2025年)は、例年より1か月以上も早く流行が始まっています。
東京都では、2025年11月の時点ですでに警報基準(定点当たり30人以上)を超える患者数が報告されており、全国的にも急激な患者数の増加が見られています。厚生労働省の発表では、2025年第46週(11月10日から16日)のインフルエンザ定点当たり報告数は全国平均37.73人となり、前週から1.7倍もの急激な増加を示しました。
世界的な流行傾向
この早期流行は日本だけの現象ではありません。イギリスでは2003/04シーズン以来、最も早い時期からインフルエンザの流行が始まったと報告されています。英国の大手紙ガーディアンは、今シーズンのインフルエンザ流行が「10年に1度の規模」になる可能性があると報道しています。
イギリスの公衆衛生庁(UKHSA)の報告によると、11月の時点で18歳以下の検体の95%、18歳から64歳の成人の84%、65歳以上の高齢者の65%がサブクレードKによる感染であったとされています。
日本国内の流行株の構成
国立感染症研究所の分析によると、2025年11月時点で日本で流行しているインフルエンザウイルスのタイプはH3型が約8割を占めています。そして、このH3型の中のほとんどがサブクレードKであると考えられています。
入国時感染症ゲノムサーベイランス事業においても、9月以降11月17日までに採取された検体について、212検体がH3ウイルス陽性で、うち154検体(約73%)がサブクレードKであったことが報告されています。
4. サブクレードKの特徴
感染拡大スピードの速さ
サブクレードKの最大の特徴は、感染が拡大するスピードが従来のウイルスと比較して早いことです。厚生労働省も「これまでのウイルスと比較し、感染が拡大するスピードが早い」と発表しています。
感染の広がりやすさを示す指標が通常のシーズンより高いと推定されており、1人の患者から次に何人に感染が広がるかという平均値が上昇することで、同じ期間でも患者数の増え方が急カーブとなります。これにより、流行のピーク時には救急や入院ベッドが一時的に逼迫しやすくなることが懸念されています。
免疫逃避能力の獲得
サブクレードKが注目される理由の一つに、「グライカン・シールド(糖鎖の盾)」と呼ばれる仕組みがあります。
インフルエンザウイルスの表面には「ヘマグルチニン(HA)」というタンパク質があり、サブクレードKはこの部分に複数の変異(アミノ酸の置き換わり)を起こしています。特に、144番目のアミノ酸が変化したこと(S144N変異)により、ウイルスの表面に新たな「糖の鎖」が付着するようになりました。
この糖鎖がウイルス表面を覆うことで、私たちの体が過去の感染やワクチンで獲得した抗体がウイルスを認識しにくくなり、免疫による攻撃を回避しやすくなっていると考えられています。
若年層での感染拡大
サブクレードKのもう一つの特徴として、特に子どもや若者の間で感染が広がりやすいことが挙げられます。イギリスのデータでは、18歳未満と若年成人(18歳から24歳)の間で感染が特に拡大していることが確認されています。
英国では、子どもや若い世代を中心に先に流行が起こり、その後時間差で高齢者に広がっていくパターンが懸念されています。
症状や重症度は従来と大きく変わらない
重要なのは、サブクレードKだからといって症状が極端に重くなるわけではないということです。厚生労働省は「症状や重症度は従来の季節性インフルエンザと大きく変わらないものと想定されている」と発表しています。
ただし、もともとH3N2型は、小児、高齢者、基礎疾患を持つ方において重症化しやすい傾向があるため、これらのハイリスクグループに属する方は引き続き注意が必要です。
5. サブクレードKによる症状
典型的なインフルエンザの症状
インフルエンザの潜伏期間(ウイルスに感染してから症状が出るまでの期間)は1日から3日程度で、多くの場合は約2日前後とされています。
典型的な症状としては、以下のものが挙げられます。
突然の高熱(38℃以上)が最も多く、約85%の患者に見られます。続いて、鼻水・鼻づまり(約80%)、咳(約77%)、のどの痛み(約61%)、頭痛(約57%)、そして全身の倦怠感やだるさなどがあります。
普通の風邪との大きな違いは、症状が急激に強く出ることと、全身に症状が現れることです。また、筋肉痛や関節痛といった全身症状が強いのも特徴です。
サブクレードKで報告されている症状の傾向
今シーズンのサブクレードKによる感染では、従来のインフルエンザとやや異なる症状パターンも報告されています。
消化器症状(吐き気、下痢、腹痛)を伴うケースが増えており、特に小児で顕著に現れやすいとされています。また、「上気道症状が先行し、発熱が遅れて出るパターン」も報告されています。
興味深い点として、関節痛の発現率が約10%と従来より低い傾向があるという報告もあります。「関節痛がないからインフルエンザではない」とは限らないため、注意が必要です。
症状の経過
合併症がなければ、通常は発症後3日から4日で症状のピークを越え、7日から10日ほどで回復します。ただし、体力が完全に戻るには時間がかかるため、回復期も無理は禁物です。
発症初期は安静にし、こまめに水分を補給することが重要です。高熱や全身の倦怠感が強い場合は無理に動かず、十分な休養を取ることが回復を早めます。
感染力がある期間
インフルエンザは、発症の1日から2日前から周囲の人に感染させる可能性があります。成人の場合、一般的に症状が出る前日から発症後5日から7日間は感染性があると考えられています。
特に小児は大人よりも症状が出る前からウイルスを排出する期間が長い傾向があり、ある研究では、症状が出る前からウイルス排出が確認された割合は、幼児(0歳から5歳)で69%だったのに対し、大人(18歳以上)では45%でした。
6. インフルエンザワクチンの効果
今シーズンのワクチンとサブクレードKの関係
今シーズンのインフルエンザワクチンには、インフルエンザウイルスA/H3N2株が含まれています。しかし、サブクレードKは、ワクチン株選定後に主要株として台頭したため、現在接種されているワクチン株と流行しているサブクレードKとの間に「ズレ(ミスマッチ)」が生じている可能性が指摘されています。
世界保健機関(WHO)の報告や、イギリスで行われた実験室での研究では、現在のワクチンで作られる抗体が、サブクレードKに対して反応が鈍い(反応性が低下している)ことが確認されています。
ワクチンは無意味ではない
ただし、「ワクチンが無意味」というのは大きな間違いです。流行株とワクチン株に抗原性の違いがあったとしても、一定程度の有効性が保たれることが報告されています。
イギリスで実際の患者データを分析した最新の研究(2025年11月発表)では、ワクチンの有効率(発熱などで病院を受診・入院することを防ぐ効果)について、希望の持てる結果が出ています。
2歳から17歳の子どもでは約72%から75%、18歳から64歳の成人では約30%から40%のワクチン有効率が報告されています。特に子どもに対しての効果が高いことがわかります。
重症化予防効果の重要性
ワクチンは感染そのものを完全に防ぐ力は限定的になる可能性がありますが、肺炎や入院、死亡といった重篤な状態への進行を防ぐ効果は依然として期待できます。
つまり、「かかる人は多いかもしれないが、打っておけば重症化リスクをかなり下げられる」という構図になります。特に重症化リスクの高い方(高齢者、妊婦、心臓病・慢性肺疾患・糖尿病などの基礎疾患をお持ちの方、小児)は、サブクレードKの流行に関わらず、ワクチン接種が強く推奨されます。
ワクチン接種のタイミング
厚生労働省は、流行期前の12月中旬までにワクチンを接種することを推奨しています。ワクチンを接種してから体内で十分な免疫(抗体)が作られるまでには約2週間を要するため、流行が本格化する前に接種を済ませておくことが重要です。
今シーズンは例年より早く流行が始まっているため、まだ接種を済ませていない方は早めに接種することをお勧めします。
7. 診断と検査について
迅速抗原検査
現在、医療機関で最も広く行われているインフルエンザの検査は「迅速抗原検出キット」を使う検査です。鼻やのどの粘液を綿棒でぬぐった液を用いて検査すると、感染があるかどうかや感染しているウイルスの型(A型かB型か)が短時間でわかります。結果は10分から15分程度で確認できるキットがほとんどです。
検査のタイミング
検査の精度を最大化するためには、症状が発現した後に受けることが重要です。発熱から12時間から24時間経過しないと検査結果が正確に出ない場合があります。
これは、検査キットがウイルスを検出するには、鼻やのどに一定以上のウイルス量が必要だからです。発症直後は体内でウイルスが増え始めている段階であっても、検査部位に出てくるウイルス量はまだ少ないことがほとんどです。
理想的なタイミングは、ウイルス排出量がピークに達する発症後72時間(3日)以内で、かつ抗ウイルス薬の効果(発症48時間以内の開始が推奨)も考慮すると、発症後12時間から48時間程度が最適とされています。
サブクレードKかどうかは通常の検査ではわからない
通常の医療機関で行う迅速抗原検査やPCR検査では、「A型インフルエンザ(H3N2)」として検出されますが、それがサブクレードKかどうかまでは区別できません。サブクレードKかどうかの詳しい区別は、国や自治体の衛生研究所・大学などでの遺伝子解析(ゲノム解析)によって行われます。
ただし、現在の流行状況を考えると、A型インフルエンザと診断された場合、その多くがサブクレードKである可能性が高いと考えてよいでしょう。
新しい検査方法
最近では、鼻に綿棒を入れずに検査できる新しいインフルエンザ検査として「nodoca(ノドカ)」という機器も一部の医療機関で導入されています。これは、のどの画像をAIで解析してインフルエンザを診断するもので、特にお子さんなど、従来の鼻咽頭ぬぐい液採取が苦手な方に適しています。
8. インフルエンザの治療薬
抗インフルエンザ薬の概要
インフルエンザの主な治療法は、抗インフルエンザウイルス薬の使用です。抗インフルエンザウイルス薬は、発症から48時間以内に使用すると、ウイルスの増殖を抑えて発熱などの症状が消えるのを早めたり、体外に排出されるウイルスの量を減らすなどの効果があります。
厚生労働省は、サブクレードKに対しても「通常の抗インフルエンザウイルス薬が有効であると想定されている」と発表しています。現時点の監視結果では、サブクレードKを含むA型H3N2に対し、主要な抗インフルエンザ薬への感受性は概ね保たれており、広い範囲で耐性が問題になっているという報告は現在のところありません。
主な抗インフルエンザ薬
日本で使用されている主な抗インフルエンザ薬は5種類あります。
タミフル(オセルタミビル)は、最も広く処方されている抗インフルエンザ薬で、カプセルまたはドライシロップの内服薬です。1日2回、5日間服用します。新生児から使用可能で、長年の使用実績があり、効果や安全性について多くのデータが蓄積されています。ジェネリック医薬品も発売されており、コスト面でも比較的安価です。
リレンザ(ザナミビル)は、パウダー状の吸入薬で、1日2回、5日間吸入して使用します。5歳以上で吸入がうまくできる方に適しています。B型インフルエンザに対してはタミフルよりも効果が高いという報告もあります。ただし、吸入薬のため気管支喘息など呼吸器に問題のある方は発作を誘発することがあり注意が必要です。また、乳糖が含まれているため、重度の牛乳アレルギーがある方は使用を避けるべきとされています。
イナビル(ラニナミビル)は、長時間作用型の吸入薬で、1回の吸入だけで治療が完了します。10歳未満は1容器(20mg)、10歳以上は2容器(40mg)を使用します。1回だけのチャンスですので、確実に吸入しなければ効果が十分に得られないことがあります。日本で開発された薬剤です。
ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)は、2018年に発売された新しいタイプの薬で、1回の内服だけで治療が完了する錠剤です。従来のノイラミニダーゼ阻害薬とは異なる作用機序(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害)を持ち、ウイルスの増殖そのものを抑えます。体内からウイルスを排出するスピードが速いとされていますが、耐性ウイルスの出現が問題となっており、小児患者の約23%、成人の約10%で耐性ウイルスが検出されています。このため、日本小児科学会は使用に慎重な姿勢を示しています。
ラピアクタ(ペラミビル)は、点滴で投与する薬剤で、1回の点滴で治療が完了します。薬を飲むことが難しい方や、脱水などで点滴が必要な方、重症の入院患者さんに主に使用されます。
どの薬を選ぶべきか
患者さんの年齢、症状、基礎疾患、服薬の可否などを考慮して、医師が最適な薬を選択します。一般的には、長年の使用実績があり安全性データが豊富なタミフルをベースに使用し、状況に応じて他の薬剤を選択するというアプローチが取られることが多いです。
重要なのは、発症から48時間以内、できるだけ早期に治療を開始することです。高熱や全身倦怠感が強い場合は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
対症療法
抗インフルエンザ薬とともに、高熱が出た場合には解熱鎮痛薬、咳が出る場合には鎮咳薬など、出ている症状に応じた薬を使うこともあります。
ただし、15歳未満のお子さんには、アスピリンやアスピリンを含む解熱剤は使用しないでください。これらの薬は、インフルエンザの際に使用するとライ症候群という重篤な脳症を引き起こす可能性があることが知られています。アセトアミノフェンを主成分とする解熱剤が比較的安全とされています。
9. 日常でできる予防対策
基本的な感染対策
厚生労働省は、サブクレードKに対しても「基本的な感染対策は同様であり、こまめな手洗いやマスクの着用を含む咳エチケットが重要である」と発表しています。
手洗いは、石けんを使って20秒以上かけて丁寧に行いましょう。特に、外出先から帰宅したとき、食事の前、トイレの後などは必ず手を洗うことを習慣づけてください。手洗いができない場合は、アルコール消毒液を活用するのも効果的です。
咳エチケットとして、咳やくしゃみをする際はティッシュやハンカチ、または袖で口と鼻を覆いましょう。マスクの着用も飛沫対策として有効です。人混みや屋内ではマスクをうまく活用することをお勧めします。
環境対策
インフルエンザウイルスは、温度が低く湿度も低い環境で生存しやすいとされています。そのため、室内の加湿と適切な温度管理が重要です。加湿器などを使って適切な湿度(50%から60%程度)を保つことで、ウイルスの生存を抑制する効果が期待できます。
また、こまめな換気も重要です。窓を開けて空気を入れ替えることで、室内のウイルス濃度を下げることができます。
生活習慣の見直し
免疫力を維持するためには、十分な睡眠と休養、バランスのよい食事が大切です。睡眠不足や過労は免疫力を下げるため、規則正しい生活を心がけましょう。
また、適度な運動や、ビタミン・ミネラルを含むバランスの取れた食事も、体の抵抗力を高めるのに役立ちます。
ワクチン接種
繰り返しになりますが、インフルエンザワクチンの接種は最も効果的な予防策の一つです。サブクレードKとのミスマッチがあったとしても、重症化予防効果は期待できます。まだ接種を済ませていない方は、早めに接種することをお勧めします。
予防投与
同居する家族などがインフルエンザにかかった場合、予防のために抗インフルエンザ薬を服用することも可能です。タミフル、リレンザ、イナビルについては、「インフルエンザにかかった人と同居する家族で、インフルエンザにかかると重症化しやすい人」に限って、予防投与が認められています。
ただし、この場合は治療費が全額自己負担(自費診療)となります。受験生や重症化リスクの高い方がいるご家庭では、医師に相談してみるとよいでしょう。
10. 重症化リスクが高い方への注意点
ハイリスクグループとは
以下のような方は、インフルエンザにかかると重症化しやすいとされるハイリスクグループに該当します。
65歳以上の高齢者は、加齢に伴う免疫機能の低下により、肺炎などの合併症を起こしやすくなります。インフルエンザによる超過死亡(インフルエンザ流行時に増加する死亡者数)の多くは高齢者が占めています。
5歳未満の小児、特に2歳未満の乳幼児は、免疫システムが未熟なため重症化しやすく、急性脳症を起こすリスクもあります。毎年50人から200人のインフルエンザ脳症患者が報告されており、その約10%から30%が死亡しています。
妊婦は、妊娠中の免疫変化により感染しやすく、重症化するリスクも高まります。
慢性呼吸器疾患(喘息、COPD など)、慢性心疾患、糖尿病、慢性腎臓病、慢性肝疾患などの基礎疾患をお持ちの方は、インフルエンザに感染すると基礎疾患が悪化したり、合併症を起こしやすくなります。
免疫抑制状態にある方(悪性腫瘍の治療中、臓器移植後、HIV感染者など)も重症化リスクが高くなります。
肥満(BMI 40以上)の方も、重症化リスクが高いことが報告されています。
ハイリスクグループへの推奨事項
上記に該当する方は、以下の点に特に注意してください。
インフルエンザワクチンを毎年接種しましょう。サブクレードKとのミスマッチがあったとしても、重症化予防効果は期待できます。
インフルエンザ症状が出た場合は、早めに医療機関を受診し、抗インフルエンザ薬による治療を開始しましょう。発症から48時間以上経過していても、ハイリスクグループの方には抗ウイルス薬の効果が期待できるとされています。
家族にインフルエンザ感染者が出た場合は、予防投与について医師に相談することも検討してください。
11. 受診の目安と注意すべき症状
受診の目安
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
38℃以上の発熱が続く場合、強い頭痛や筋肉痛・関節痛がある場合、倦怠感が強く日常生活に支障がある場合、咳や鼻水などの呼吸器症状がある場合は、インフルエンザの可能性を考えて受診することをお勧めします。
特に、家族内でインフルエンザ患者が発生している場合は、発熱してから12時間を待たずに受診しても検査で陽性になることがあります。
すぐに救急受診すべき危険なサイン
インフルエンザは重症化すると肺炎や脳症などの命に関わる合併症を引き起こすことがあります。以下の症状が見られた場合は、夜間や休日でもためらわず、ただちに救急外来を受診するか、救急車を要請してください。
呼吸の異常として、呼吸が速い、息苦しさがある、顔色が悪い(青白い、土気色)などの症状がある場合は危険なサインです。
意識の異常として、呼びかけに答えない、ぼーっとしている、意味不明な言動がある場合も注意が必要です。
けいれんを起こした場合、またはけいれん後に意識がはっきりしない場合は、ただちに救急受診してください。
水分がとれずぐったりしている場合や、嘔吐が続いている場合も、脱水や重症化の兆候として注意が必要です。
子どもの異常行動について
インフルエンザにかかった子どもが「幻覚を見る」「うわごとを言う」「興奮する」などの異常行動を起こすことがあります。これは抗インフルエンザ薬の服用の有無にかかわらず起こりうる現象で、薬との因果関係は明確ではないとされています。
未成年者がインフルエンザと診断されたら、少なくとも2日間は1人にせず、大人が見守ってください。窓や玄関の施錠を確認し、転落事故などを防ぐ対策をとることも重要です。

12. まとめ
今シーズンのインフルエンザ流行は、「サブクレードK」という免疫をすり抜けやすい変異株と、例年より1か月以上早い流行開始という二つの要因によって、異例の広がりを見せています。
しかし、過度に恐れる必要はありません。大切なのは、以下の点を認識し、適切な対策を講じることです。
サブクレードKは、感染拡大のスピードは速いものの、症状や重症度は従来の季節性インフルエンザと大きく変わりません。
ワクチンは感染そのものを防ぐ効果は限定的になる可能性がありますが、重症化を防ぐ効果は依然として期待できます。特に子どもやハイリスクグループの方は積極的にワクチン接種を受けましょう。
従来の抗インフルエンザ薬は有効です。発症したら早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることで重症化を防ぐことができます。
基本的な感染対策(手洗い、咳エチケット、マスク着用、換気、十分な休養)を継続することが大切です。
正しい知識と早めの行動で、この冬を健康に乗り越えましょう。発熱やのどの痛み、関節痛などの症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
参考文献
- 厚生労働省「インフルエンザについて」
- 厚生労働省「令和6年度 今シーズンのインフルエンザ総合対策」
- 国立健康危機管理研究機構「インフルエンザ」
- 国立健康危機管理研究機構「インフルエンザ(詳細版)」
- 東京都感染症情報センター「インフルエンザの流行状況(東京都 2025-2026年シーズン)」
- 日本感染症学会「インフルエンザに関するガイドライン・提言」
- 内閣官房 新型インフルエンザ等対策推進会議資料(令和7年12月1日)
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務