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尋常性乾癬とは?原因・症状から最新治療法まで皮膚科医が詳しく解説

「肌に赤い発疹ができて、白いフケのようなものがボロボロと剥がれ落ちる」「ひじやひざに銀白色のかさぶたのようなものができている」——このような症状でお悩みの方は、もしかすると「尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)」という皮膚疾患かもしれません。

尋常性乾癬は、日本国内で約43万人から56万人の患者さんがいると推定される、決して珍しくない慢性皮膚疾患です。「乾癬」という名前の響きから「感染する病気」と誤解されることがありますが、これは感染症ではなく、他人にうつることは絶対にありません。

かつては「治りにくい皮膚病」というイメージが強かった乾癬ですが、近年の医学の進歩により、症状をしっかりとコントロールし、日常生活に支障のない状態を維持できるようになってきました。本記事では、尋常性乾癬の原因、症状、診断方法から最新の治療法まで、一般の方にもわかりやすく詳しく解説いたします。


目次

  1. 尋常性乾癬とは
  2. 乾癬の5つの分類
  3. 尋常性乾癬の症状
  4. 尋常性乾癬の原因とメカニズム
  5. 悪化させる要因について
  6. 診断方法と鑑別疾患
  7. 尋常性乾癬の治療法
  8. 日常生活での注意点
  9. 合併症について
  10. 患者さんへのメッセージ
  11. 参考文献

1. 尋常性乾癬とは

尋常性乾癬は、慢性の炎症性皮膚疾患の一つです。「尋常性」とは「普通の」という意味であり、乾癬の中で最も一般的なタイプを指します。乾癬全体の約80〜90%がこの尋常性乾癬であり、一般的に「乾癬」といえば尋常性乾癬を指すことがほとんどです。

日本における乾癬の有病率は人口の約0.2〜0.4%程度で、およそ300人に1人がかかる疾患とされています。欧米では人口の2〜3%と日本よりも多く、人種や地域によって発症率に差があることがわかっています。

日本国内では男性に多い傾向があり、男女比はおよそ2:1と報告されています。好発年齢は男性で30〜40代、女性では20代にピークがあります。ただし、高齢になってから発症するケースもあり、どの年齢でも発症する可能性があります。

重要なポイントとして、乾癬は「感染」ではなく「乾癬」という名称です。細菌やウイルスによる感染症ではないため、家族や周囲の人にうつることはありません。温泉やプールに入っても、同じタオルを使っても、他人に感染することは絶対にありません。この点は、患者さんご自身はもちろん、周囲の方々にも正しく理解していただきたい大切な事実です。


2. 乾癬の5つの分類

乾癬は、症状の現れ方によって以下の5つのタイプに分類されます。

(1)尋常性乾癬

乾癬の約80〜90%を占める最も一般的なタイプです。皮膚が赤く盛り上がり、その上に銀白色のフケのような鱗屑が付着するのが特徴です。頭皮、ひじ、ひざ、腰、お尻など、刺激を受けやすい部位に好発します。

(2)乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

皮膚症状に加えて、手足の関節や首、背骨、アキレス腱などに痛み、腫れ、こわばりが生じるタイプです。乾癬患者さんの約10〜15%に合併するといわれています。関節リウマチに似た症状を呈しますが、異なる病気です。関節の変形は不可逆性(元に戻らない)のため、早期発見と早期治療が非常に重要です。

(3)滴状乾癬

全身に水滴のような小さな発疹が多数現れるタイプです。乾癬全体の約4%を占め、主に小児や若い人に発症しやすいとされています。風邪や扁桃腺炎などの感染症がきっかけで発症することが多く、通常は短期間で改善しますが、まれに尋常性乾癬に移行することがあります。

(4)乾癬性紅皮症

尋常性乾癬が全身に広がり、体表面積の90%以上が赤くなった状態です。発熱、悪寒、倦怠感などの全身症状を伴うことがあります。適切な治療を行わなかった場合や、不適切な治療を続けた場合に発症することがあり、入院治療が必要になることもあります。乾癬患者さん全体の約1%と稀なタイプです。

(5)膿疱性乾癬

皮膚に無菌性の膿疱(膿がたまった小さな水疱)が多数できるタイプです。発熱や全身倦怠感を伴い、重症の場合は入院治療が必要となります。汎発型(全身に広がるタイプ)は厚生労働省の指定難病に認定されており、医療費助成の対象となっています。令和2年度末時点で、全国で約2,000人の患者さんが特定疾患医療受給の対象となっています。


3. 尋常性乾癬の症状

尋常性乾癬の主な症状は、皮膚に現れる特徴的な発疹です。以下に詳しく解説します。

皮膚症状の特徴

尋常性乾癬の皮膚症状は、以下の3つの要素から構成されています。

紅斑(こうはん)は、皮膚が赤く盛り上がった状態です。血管の拡張や充血により、境界が比較的はっきりとした赤い発疹として現れます。

浸潤・肥厚(しんじゅん・ひこう)は、皮膚が厚く盛り上がった状態です。炎症により皮膚の細胞が異常に増殖することで起こります。

鱗屑(りんせつ)は、銀白色のフケのようなカサカサした付着物です。正常な皮膚では約28日かけてターンオーバー(新陳代謝)が行われますが、乾癬の皮膚では4〜5日と非常に短いサイクルで表皮細胞が作られるため、過剰に作られた角質が積み重なって鱗屑となり、やがてボロボロと剥がれ落ちます(落屑)。

好発部位

尋常性乾癬が発症しやすい部位は以下の通りです。これらは日常的に刺激を受けやすい部位という共通点があります。

頭皮・髪の生え際、ひじの外側、ひざ(ひざがしら)、腰回り、お尻(臀部)、太もも、すねなどが好発部位として知られています。

ただし、これらの部位以外にも発疹が生じることがあり、全身のどの部位にも症状が現れる可能性があります。

かゆみについて

尋常性乾癬では、約50%の患者さんにかゆみがみられます。かゆみの程度は人によってさまざまで、ほとんど感じない方から強いかゆみを訴える方まで個人差があります。

入浴、飲酒、辛い食べ物など、体が温まるとかゆみが出やすくなる傾向があります。かゆみがあっても患部を掻いたりこすったりすると症状が悪化するため、注意が必要です。

爪の症状

乾癬患者さんの40〜80%に爪の症状がみられるとの報告があります。主な症状としては、爪の表面にポツポツとした凹凸(点状陥凹)ができる、爪が先端から浮き上がる(爪甲剥離症)、爪が厚くなる、爪が白く濁るなどがあります。

これらの症状は爪水虫(爪白癬)と似ていることがあるため、皮膚科での正確な診断が重要です。


4. 尋常性乾癬の原因とメカニズム

発症のメカニズム

尋常性乾癬の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、最近の研究により、免疫システムの異常が深く関与していることがわかってきました。

正常な皮膚では、表皮細胞が生まれてから剥がれ落ちるまでのターンオーバーが約28日周期で行われています。ところが、乾癬の皮膚ではこのサイクルが著しく短縮され、正常の10倍以上の速度で表皮細胞が増殖します。

この異常な増殖の背景には、免疫細胞(T細胞やマクロファージなど)の異常な活性化があります。これらの細胞が産生するサイトカインと呼ばれる炎症物質(TNF-α、IL-17、IL-23など)が過剰に分泌されることで、表皮細胞の増殖が促進され、炎症が持続します。

近年の研究では、樹状細胞から産生されるIL-23がヘルパーT細胞の一種であるTh17細胞を活性化し、Th17細胞が産生するIL-17が乾癬の発症と維持に重要な役割を果たしていることがわかっています。この免疫学的メカニズムの解明により、これらのサイトカインをターゲットとした生物学的製剤が開発され、乾癬治療は大きく進歩しました。

遺伝的要因

乾癬には遺伝的な素因(なりやすい体質)があることがわかっています。特定の遺伝子やヒト白血球抗原(HLA-Cw6、HLA-B13、HLA-B17など)との関連が報告されています。

ただし、乾癬になりやすい体質が遺伝するとしても、病気そのものが直接遺伝するわけではありません。日本人では、親が乾癬の場合に子どもが乾癬を発症する割合は4〜5%程度と報告されており、必ず遺伝するわけではありません。

環境因子

遺伝的に乾癬になりやすい体質を持っていても、それだけで発症するわけではありません。さまざまな環境因子(外的・内的要因)が加わることで発症すると考えられています。

外的要因としては、外傷(ケガ、手術、やけどなど)、感染症(風邪、扁桃腺炎など)、ストレス、特定の薬剤(β遮断薬、リチウム、インターフェロンなど)があります。

内的要因としては、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、肥満(メタボリックシンドローム)などが挙げられます。


5. 悪化させる要因について

尋常性乾癬は、さまざまな要因によって症状が悪化したり、良くなったりを繰り返す特徴があります。悪化要因を知り、できるだけ避けることが症状のコントロールに重要です。

物理的刺激(ケブネル現象)

乾癬には「ケブネル現象」と呼ばれる特徴があります。これは、症状のない皮膚を掻いたり、傷つけたり、こすったりすると、その部位に新たな乾癬の発疹が生じる現象です。

ケブネル現象は、掻き傷、切り傷、やけど、虫刺され、靴擦れ、ひげ剃りなどの小さな傷でも起こります。また、衣服やメガネ、腕時計、ベルトなどによる慢性的な刺激でも生じることがあります。

このため、患部を掻いたりこすったりしないこと、肌に直接触れる衣服は綿素材でゆったりとしたものを選ぶことが大切です。

ストレス

ストレスは乾癬の重大な悪化要因の一つです。仕事や対人関係の悩み、家庭内のトラブルなど、さまざまなストレスが発症・悪化の引き金となります。

また、乾癬そのものに対する悩みや不安がストレスとなり、症状を悪化させるという悪循環に陥ることもあります。ストレスをためすぎないよう、趣味や運動で気分転換を図ることが効果的です。

感染症

風邪、扁桃腺炎、咽頭炎などの感染症は、乾癬を悪化させることがあります。特に溶連菌感染は滴状乾癬の発症・悪化と関連していることが知られています。感染症の予防(手洗い、うがいなど)を心がけることが大切です。

季節・気候

乾癬は季節によって症状が変動することがあります。一般的に、乾燥しやすい冬に悪化し、紫外線を浴びやすい夏に改善する傾向があります。これは紫外線に免疫の過剰な働きを抑える作用があるためと考えられています。

生活習慣

肥満や不規則な生活、睡眠不足は乾癬を悪化させる要因となります。また、喫煙は乾癬のリスクを高め、治療薬の効果を減弱させる可能性があることが報告されています。

過度の飲酒も症状を悪化させることがあります。アルコールは体温を上昇させてかゆみを増すほか、深酒によって無意識に患部を掻きむしってしまうこともあります。


6. 診断方法と鑑別疾患

診断の流れ

尋常性乾癬の診断は、主に皮膚の見た目(視診)と分布のパターンによって行われます。特徴的な銀白色の鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑と、好発部位への分布から、皮膚科医であれば比較的容易に診断できることがほとんどです。

診断を確実にするために、以下のような検査が行われることがあります。

皮膚生検は、局所麻酔をして皮膚の一部を採取し、顕微鏡で組織を観察する検査です。乾癬に特徴的な組織像(表皮の肥厚、不全角化、Munro微小膿瘍など)を確認します。

真菌検査は、体部白癬(水虫の菌が体に感染した状態)との鑑別のために、皮膚の一部を採取して顕微鏡で真菌の有無を確認する検査です。

血液検査は、全身状態の確認や合併症のスクリーニング、治療薬選択のために行われることがあります。

鑑別が必要な疾患

尋常性乾癬と似た症状を呈する疾患がいくつかあり、鑑別(区別すること)が必要です。

脂漏性皮膚炎は、頭皮や顔の皮脂分泌が多い部位に生じる湿疹で、初期の乾癬と見分けがつきにくいことがあります。

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が繰り返し現れる疾患で、軽症の乾癬と区別がつきにくい場合があります。

貨幣状湿疹は、コインのような円形の湿疹で、乾癬の局面と似て見えることがあります。

体部白癬は、水虫の原因菌(白癬菌)が体に感染して起こる皮膚病で、真菌検査で鑑別できます。

ジベルばら色粃糠疹は、淡い紅色の発疹が体幹に広がる疾患で、数週間から数か月で自然に治癒します。

扁平苔癬は、紫紅色で光沢のある多角形の丘疹が特徴の皮膚病です。

皮膚リンパ腫(菌状息肉症など)は、皮膚に発生する悪性リンパ腫で、まれに乾癬と似た症状を呈することがあります。


7. 尋常性乾癬の治療法

尋常性乾癬の治療法は、大きく分けて外用療法(塗り薬)、光線療法、内服療法(飲み薬)、生物学的製剤(注射薬)の4種類があります。患者さんの症状の程度、皮疹の範囲、生活の質(QOL)への影響、ライフスタイルなどを総合的に考慮して、最適な治療法を選択します。

7-1. 外用療法(塗り薬)

外用療法は、軽症から中等症の乾癬治療の基本であり、第一選択の治療法です。

ステロイド外用薬は、炎症を抑える効果があり、特に紅斑(赤い発疹)の治療に効果的です。作用の強さによって5段階に分類されており、部位や症状に応じて適切な強さの薬剤が選択されます。効果が比較的早く現れますが、長期間の使用により皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用が生じることがあるため、医師の指示に従って使用することが大切です。

ビタミンD3外用薬は、表皮細胞の異常な増殖を抑え、正常な分化を促す働きがあります。鱗屑(フケのような白いもの)や皮膚の盛り上がりの改善に効果的です。効果が現れるまでにやや時間がかかりますが、ステロイド外用薬のような皮膚萎縮の副作用が少ないのが特徴です。

配合外用薬は、ステロイドとビタミンD3の両方の成分を含む薬剤です。1剤で両方の効果が得られるため、塗る手間が減り、治療の継続がしやすくなります。

7-2. 光線療法(紫外線療法)

紫外線には免疫の過剰な働きを抑える作用があります。光線療法は、この効果を利用して患部に紫外線を照射し、症状の改善を促す治療法です。

ナローバンドUVB療法は、中波長紫外線(UVB)の中でも特に治療効果が高い狭い波長帯(311nm付近)のみを照射する方法です。現在、光線療法の中で最も広く行われている治療法です。週に2〜3回程度の通院が必要ですが、全身に照射できるため広範囲の皮疹に対応できます。

ターゲット型光線療法(エキシマレーザー、エキシマライト)は、限られた部位に高出力の紫外線を集中的に照射する方法です。局所の皮疹に対して効果的で、照射時間が短いのが特徴です。

PUVA療法は、光に対する感受性を高める薬剤(ソラレン)を服用または塗布した後にUVA(長波長紫外線)を照射する方法です。効果が高い一方で、長期使用による発がんリスクの懸念があるため、他の光線療法で効果不十分な場合に検討されます。

光線療法は、塗り薬だけでは効果不十分な場合や、皮疹の範囲が広い場合に有効な選択肢となります。

7-3. 内服療法(飲み薬)

外用療法や光線療法で十分な効果が得られない場合には、内服療法(全身療法)が検討されます。

シクロスポリンは、免疫抑制作用を持つ薬剤で、乾癬に対して高い効果があります。腎機能への影響や血圧上昇などの副作用に注意が必要で、定期的な血液検査や血圧測定が必要です。長期使用(2〜3年以上)は腎障害のリスクがあるため、他の治療法への切り替えが推奨されます。

メトトレキサートは、免疫抑制作用と抗炎症作用を持つ薬剤です。世界的に広く使用されていますが、日本では2022年に乾癬への適応が承認されました。肝機能障害、骨髄抑制、間質性肺炎などの副作用に注意が必要で、定期的な血液検査が必要です。

エトレチナート(ビタミンA誘導体)は、表皮細胞の異常な増殖を抑える働きがあります。膿疱性乾癬や乾癬性紅皮症にも効果があります。皮膚や粘膜の乾燥、脱毛、肝機能障害などの副作用があり、催奇形性(胎児への悪影響)があるため、女性は服用終了後2年間、男性は6か月間の避妊が必要です。

アプレミラスト(商品名:オテズラ)は、PDE4阻害薬と呼ばれる比較的新しいタイプの内服薬です。炎症に関わる細胞内のシグナル伝達を抑制することで効果を発揮します。感染症リスクの増加が少ないのが特徴ですが、下痢や悪心などの消化器症状が副作用として見られることがあります。

デュークラバシチニブ(商品名:ソーティクツ)は、2022年に承認されたTYK2阻害薬という新しいタイプの内服薬です。IL-23、IL-12、I型インターフェロンなどの炎症性サイトカインのシグナル伝達を抑制します。従来の内服薬と比較して高い有効性が報告されており、生物学的製剤に近い効果が期待できます。日本皮膚科学会が定めた承認施設で処方されます。

7-4. 生物学的製剤(注射薬)

生物学的製剤は、バイオテクノロジーを応用して作られた薬剤で、乾癬の炎症に関わる特定のサイトカインの働きをピンポイントでブロックします。従来の治療法では十分な効果が得られなかった中等症から重症の乾癬に対して、非常に高い効果を発揮します。

2024年現在、日本では11種類以上の生物学的製剤が乾癬治療に使用可能となっています。これらは作用機序によって以下のように分類されます。

TNF-α阻害薬には、インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(ヒュミラ)、セルトリズマブ・ペゴル(シムジア)があります。関節症状にも効果が高いのが特徴です。

IL-17阻害薬には、セクキヌマブ(コセンティクス)、イキセキズマブ(トルツ)、ブロダルマブ(ルミセフ)があります。皮膚症状に対して高い効果があり、比較的早期に効果が現れます。

IL-23阻害薬には、グセルクマブ(トレムフィア)、リサンキズマブ(スキリージ)があります。投与間隔が長い(維持期は12週間隔など)のが特徴で、通院の負担を軽減できます。

IL-12/23阻害薬には、ウステキヌマブ(ステラーラ)があり、IL-12とIL-23の両方を阻害します。

生物学的製剤は非常に効果が高い反面、免疫機能を抑制するため、感染症(結核、肺炎など)のリスクに注意が必要です。治療開始前には結核のスクリーニング検査、肝炎ウイルス検査などが行われます。

また、生物学的製剤による治療は日本皮膚科学会が定めた「生物学的製剤使用承認施設」でのみ開始することができます(2024年10月より、一部のIL-17阻害薬、IL-23阻害薬は届出施設でも使用可能となりました)。

生物学的製剤は高額な治療ですが、高額療養費制度を利用することで自己負担を軽減できます。治療を検討される場合は、主治医にご相談ください。

治療の選択について

尋常性乾癬の治療は、まず外用療法から始めることが一般的です。外用療法で効果不十分な場合は光線療法を追加し、それでも改善が乏しい場合は内服療法や生物学的製剤が検討されます。

ただし、これはあくまで一般的な流れであり、患者さんの症状の重症度、QOLへの影響、合併症の有無、ライフスタイル、治療への希望などを総合的に判断して、最適な治療法が選択されます。

近年の治療目標は、単に症状を少し改善することではなく、皮疹がほとんどない状態(PASI 90/100達成)と、病気が生活に影響しない状態(DLQI 0/1)を達成・維持することです。現在では多くの治療選択肢があるため、主治医とよく相談しながら、ご自身に合った治療法を見つけていくことが大切です。


8. 日常生活での注意点

尋常性乾癬は慢性の疾患であり、長く付き合っていく病気です。医療機関での治療に加えて、日常生活での工夫も症状のコントロールに重要です。

食事について

厳密な食事制限は必要ありませんが、以下のような点に気をつけることで、症状の改善に役立つ可能性があります。

肥満と乾癬には密接な関連があることがわかっています。研究では、減量により乾癬の症状が改善することが報告されています。高カロリー、高脂肪の食事は控え、バランスの良い食事を心がけましょう。

肉類や脂肪分の摂りすぎは乾癬を悪化させることがあるといわれています。肉類より魚類(特にDHAやEPAを多く含む青魚)を積極的に摂るようにし、揚げ物や油を多く使った料理は控えめにしましょう。

香辛料などの刺激物や熱いスープは、かゆみを誘発したり強めたりすることがあります。かゆみの出やすい方は避けた方がよいでしょう。

野菜を多く摂り、栄養バランスの取れた食事を心がけることが大切です。ただし、食事だけで乾癬が治るわけではありませんので、適切な治療と併せて食生活を改善していくことが重要です。

お酒・タバコについて

飲酒はかゆみを増すきっかけになります。また、深酒は無意識に患部を掻きむしってしまう原因にもなります。お酒は控えめにし、乾癬の内服薬を使用している場合は主治医の指示に従って節酒・断酒をしてください。

タバコは乾癬のリスクを高め、治療薬の効果を低下させる可能性があります。また、喫煙により風邪や扁桃腺炎にかかりやすくなり、これらの感染症が乾癬を悪化させることがあります。禁煙をおすすめします。

スキンケアについて

乾癬の皮膚は乾燥しやすいため、保湿ケアが重要です。入浴後は速やかに保湿剤を塗るようにしましょう。乾燥しやすい冬は加湿器の使用も効果的です。

入浴時は以下の点に注意してください。熱いお湯や長時間の入浴はかゆみを増すため、ぬるめのお湯(38〜40℃程度)で短時間の入浴を心がけましょう。体を洗うときはゴシゴシ擦らず、やさしく洗います。石鹸やボディソープは刺激の少ないものを選びましょう。

塗り薬を使用する際は、決して擦り込まず、やさしく塗り伸ばすようにしてください。擦り込むとケブネル現象を引き起こすことがあります。

衣服について

肌に直接触れる衣服は、綿素材でゆったりとしたものを選びましょう。化学繊維やウール製品は刺激になることがあるため、肌に直接触れないようにします。

ベルト、腕時計、メガネなど、皮膚を圧迫したりこすったりするものは、症状を悪化させることがあるので注意が必要です。下着のゴムやシャツの襟・袖口なども刺激になりやすい部位です。

運動について

適度な運動は、肥満の解消やストレス発散に効果的で、乾癬の症状改善にも良い影響があるといわれています。有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど)がおすすめです。

日光を浴びながらの散歩は、紫外線による治療効果も期待できます。ただし、日焼けしすぎないよう注意してください。

ストレス管理について

ストレスは乾癬の重大な悪化要因です。完全にストレスを避けることは難しいですが、以下のような方法でストレスを軽減することが大切です。

十分な睡眠をとり、規則正しい生活を心がけましょう。趣味や好きなことを楽しむ時間を持つことも重要です。適度な運動で気分転換を図りましょう。悩みや不安は一人で抱え込まず、家族や友人、医療者に相談してください。

乾癬患者さんの会(患者会)に参加して、同じ悩みを持つ方々と交流することも、心の支えになります。


9. 合併症について

尋常性乾癬は単なる皮膚の病気ではなく、全身に影響を及ぼす可能性のある炎症性疾患です。以下のような合併症に注意が必要です。

乾癬性関節炎

乾癬患者さんの10〜15%に合併するといわれる関節炎です。手足の関節、首、背骨、アキレス腱、足の裏などに痛み、腫れ、こわばりが生じます。

乾癬性関節炎は進行すると関節が破壊され、変形が生じることがあります。関節の変形は元に戻らないため、早期発見・早期治療が非常に重要です。

以下のような症状がある場合は、主治医に相談してください。手や足の指の関節が痛い・腫れている、朝起きたときに関節がこわばる、腰や背中が痛い(特に安静時や朝方に痛みが強い)、かかとやアキレス腱が痛い、指全体がソーセージのように腫れている、といった症状には注意が必要です。

メタボリックシンドロームとの関連

乾癬患者さんには、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満といったメタボリックシンドロームの構成要素を合併している方が多いことが知られています。

乾癬による慢性的な炎症は全身に影響を及ぼし、動脈硬化を進行させる可能性があります。その結果、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患のリスクが高まるとの報告もあります。

乾癬の治療とともに、生活習慣病の予防・治療も重要です。定期的な健康診断を受け、血糖値、血圧、コレステロール値などをチェックしましょう。

その他の合併症

乾癬患者さんでは、うつ病や不安障害などの精神的な問題を抱える方も多いといわれています。見た目の問題や周囲の誤解によるストレスが関係していると考えられます。

また、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)やぶどう膜炎(目の炎症)との関連も報告されています。目の充血、痛み、視力低下、まぶしさなどの症状がある場合は、早めに眼科を受診してください。


10. 患者さんへのメッセージ

尋常性乾癬は慢性の疾患であり、現時点では完全に治すことが難しい病気です。しかし、近年の治療の進歩により、適切な治療を行えば症状を大きく改善し、日常生活に支障のない状態を維持することが十分に可能になっています。

大切なのは、一人で悩まないことです。乾癬は他人にうつる病気ではありません。周囲の方々に正しく理解していただくことで、不必要な誤解や偏見を減らすことができます。

また、治療を自己判断で中断しないことも重要です。症状が良くなっても、医師の指示なく治療をやめてしまうと再発することがあります。長期的な視点で、主治医と二人三脚で治療を続けていくことが大切です。

分からないことや不安なことがあれば、遠慮なく主治医や医療スタッフに相談してください。同じ悩みを持つ患者さんの会(患者会)に参加することも、情報交換や心の支えになります。

乾癬とうまく付き合いながら、充実した毎日を送っていただければと思います。


11. 参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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