顔の肌トラブルに悩んでいる方の中には、それがニキビなのか、それとも顔ダニが原因なのか分からず困っている方も多いのではないでしょうか。一見似たような症状に見えても、原因が異なれば適切なケア方法も変わってきます。本記事では、顔ダニとニキビの違いや見分け方について、医学的な観点から詳しく解説します。
目次
- 顔ダニ(ニキビダニ)とは
 - ニキビ(尋常性ざ瘡)とは
 - 顔ダニとニキビの主な違い
 - 顔ダニとニキビの見分け方
 - それぞれの治療法
 - 予防とスキンケアのポイント
 - よくある質問
 - まとめ
 
1. 顔ダニ(ニキビダニ)とは
顔ダニは、正式には「ニキビダニ」や「デモデックス(Demodex)」と呼ばれる微小な寄生虫です。実は、ほとんどすべての成人の顔の皮膚に存在している常在生物で、通常は無害な存在です。
顔ダニの基本的な特徴
顔ダニは肉眼では見えないほど小さく、体長は約0.1~0.4mm程度です。主に2種類が存在します:
- デモデックス・フォリキュロラム(Demodex folliculorum):毛包(毛穴)に生息し、比較的長い形状をしています
 - デモデックス・ブレビス(Demodex brevis):皮脂腺に生息し、やや短く丸い形状をしています
 
これらの顔ダニは、皮脂や角質、毛包内の細胞などを栄養源として生活しています。通常の状態では、顔ダニは皮膚のエコシステムの一部として共生関係にあり、特に問題を起こすことはありません。
顔ダニが増殖する原因
しかし、何らかの理由で顔ダニが異常増殖すると、皮膚に炎症を引き起こすことがあります。顔ダニが増殖する主な原因には以下のようなものがあります:
- 免疫力の低下:ストレス、睡眠不足、疾患などにより免疫システムが弱まると、顔ダニの増殖を抑制できなくなります
 - 不適切なスキンケア:洗顔が不十分で皮脂や汚れが残ると、顔ダニの栄養源が増えて増殖しやすくなります
 - ホルモンバランスの乱れ:皮脂分泌が増加すると、顔ダニの生息環境が良くなります
 - 長期的なステロイド使用:ステロイド外用薬の長期使用により、皮膚のバリア機能が低下することがあります
 
顔ダニ症の症状
顔ダニが異常増殖すると「毛包虫性ざ瘡」や「酒さ様皮膚炎」といった症状を引き起こすことがあります。主な症状は以下の通りです:
- 赤みや炎症(特に鼻や頬に多い)
 - 小さな丘疹や膿疱
 - 皮膚のかゆみやほてり感
 - 毛穴の目立ち
 - 皮膚の乾燥やざらつき
 
日本皮膚科学会によると、酒さや酒さ様皮膚炎は、顔ダニの異常増殖が関与している可能性が指摘されています。
2. ニキビ(尋常性ざ瘡)とは
ニキビは、医学的には「尋常性ざ瘡(じんじょうせいざそう)」と呼ばれる皮膚疾患です。思春期に多く見られますが、大人になってからも発症する「大人ニキビ」に悩む方も増えています。
ニキビができるメカニズム
ニキビは、以下の4つの要因が複合的に作用して発症します:
- 皮脂分泌の増加:ホルモンの影響などで皮脂腺からの皮脂分泌が過剰になります
 - 毛穴の角化異常:毛穴の出口が角質で詰まり、皮脂が排出されにくくなります
 - アクネ菌の増殖:毛穴に詰まった皮脂を栄養源として、アクネ菌(プロピオニバクテリウム・アクネス)が増殖します
 - 炎症反応:アクネ菌が産生する物質により炎症が引き起こされます
 
ニキビの種類と進行段階
ニキビは進行段階によって、いくつかの種類に分類されます:
- 白ニキビ(閉鎖面皰):毛穴が完全に塞がれ、皮脂が皮膚の下に溜まって白く見える初期段階のニキビです
 - 黒ニキビ(開放面皰):毛穴が開いており、詰まった皮脂が酸化して黒く見えます
 - 赤ニキビ(炎症性丘疹):アクネ菌の増殖により炎症が起こり、赤く腫れた状態です
 - 黄ニキビ(膿疱):炎症がさらに進行し、膿が溜まって黄色く見える状態です
 - 紫ニキビ(嚢腫・硬結):炎症が真皮の深部まで達し、硬いしこりができた重症のニキビです
 
ニキビの好発部位
ニキビができやすい部位は、皮脂腺が多く分布している場所です。顔では額、鼻、頬、あごなどのTゾーンやUゾーンに多く見られます。また、背中や胸なども皮脂腺が多いため、ニキビができやすい部位です。
厚生労働省の調査によると、日本人の約90%が一度はニキビを経験しており、特に思春期には高い発症率が報告されています。
3. 顔ダニとニキビの主な違い
顔ダニとニキビは、どちらも顔に赤みや丘疹を引き起こすため混同されやすいですが、原因や症状の特徴には明確な違いがあります。以下に主な違いをまとめます。
原因の違い
顔ダニ症: ニキビダニ(Demodex)という寄生虫の異常増殖が原因です。通常は無害な常在生物ですが、免疫力の低下や不適切なスキンケアなどにより増殖しすぎると炎症を引き起こします。
ニキビ: 皮脂の過剰分泌、毛穴の詰まり、アクネ菌の増殖、炎症という4つの要因が複合的に作用して発症します。アクネ菌も常在菌ですが、毛穴が詰まった環境で増殖することで問題を引き起こします。
症状の特徴の違い
顔ダニ症の特徴:
- 比較的均一な大きさの小さな丘疹が多数現れる
 - 顔全体、特に鼻や頬を中心に広範囲に広がる
 - 赤みやほてり感が強い
 - かゆみを伴うことが多い
 - 明確な膿を持つことは少ない
 - 毛穴の開きが目立つことがある
 
ニキビの特徴:
- 大きさや種類がさまざま(白ニキビ、黒ニキビ、赤ニキビなど)
 - 散在性に、または集中して現れる
 - TゾーンやUゾーンなど特定の部位に多い
 - 炎症が進むと膿疱や嚢腫を形成する
 - 痛みを伴うことがある
 - 面皰(コメド)が特徴的
 
発症年齢と好発時期の違い
顔ダニ症: 年齢に関係なく発症する可能性があります。特に免疫力が低下している時期や、不適切なスキンケアを続けている場合に発症しやすくなります。
ニキビ: 思春期に最も多く見られますが、成人してからも発症することがあります(大人ニキビ)。ホルモンバランスの変化が大きい時期に発症しやすい傾向があります。
治療への反応の違い
顔ダニ症: 一般的なニキビ治療薬では効果が出にくいことがあります。抗ダニ作用のある治療が必要になることがあります。
ニキビ: 抗菌薬や角質溶解薬、レチノイドなどのニキビ治療薬に反応します。適切な治療により改善が期待できます。
4. 顔ダニとニキビの見分け方
顔ダニによる症状なのか、ニキビなのかを正確に判断するには、専門医による診断が最も確実ですが、自分である程度判断するためのポイントをご紹介します。
症状の分布パターンで見分ける
顔ダニ症の場合:
- 顔の広範囲に均一に小さな丘疹が分布
 - 特に鼻、頬、額を中心に左右対称に現れることが多い
 - 境界がぼんやりとした赤みが広がる
 
ニキビの場合:
- Tゾーン(額、鼻)やUゾーン(頬、あご)など特定の部位に集中
 - 大きさや種類がまちまち(白ニキビ、赤ニキビなどが混在)
 - 個々の病変がはっきりと独立している
 
皮膚の状態で見分ける
顔ダニ症の場合:
- 皮膚全体にほてり感がある
 - かゆみを伴うことが多い
 - 皮膚がざらざらした感触になることがある
 - 毛穴が全体的に目立つ
 
ニキビの場合:
- 炎症部分に痛みがあることが多い
 - 面皰(白い芯や黒ずみ)が見られる
 - 進行すると膿が溜まる
 - 触ると硬いしこりを感じることがある
 
症状の経過で見分ける
顔ダニ症の場合:
- 通常のニキビ治療で改善しない
 - ステロイド外用薬を使用していた場合、中止後に悪化する
 - 季節の変わり目や免疫力が低下した時期に悪化しやすい
 
ニキビの場合:
- 適切なニキビ治療で改善する
 - 生理前や睡眠不足時に悪化することが多い
 - 個々の病変が数日から数週間で変化する
 
セルフチェックリスト
以下のチェックリストで、顔ダニ症の可能性を確認してみましょう:
- □ 顔全体に小さな丘疹が多数ある
 - □ 顔の赤みやほてり感が続いている
 - □ かゆみを伴う
 - □ 通常のニキビ治療で改善しない
 - □ 毛穴が全体的に目立つ
 - □ 長期間ステロイドを使用していた
 - □ 症状が左右対称に現れている
 
**4つ以上該当する場合は、顔ダニ症の可能性があります。**ただし、これはあくまで目安であり、正確な診断には専門医の診察が必要です。
5. それぞれの治療法
顔ダニ症とニキビでは、原因が異なるため治療法も異なります。適切な治療を受けるためには、まず正確な診断を受けることが重要です。
顔ダニ症の治療
顔ダニ症の治療には、以下のような方法があります:
外用薬による治療
- メトロニダゾール外用薬:抗菌作用と抗炎症作用を持つ薬剤で、顔ダニの増殖を抑制します
 - イベルメクチン外用薬:抗寄生虫作用があり、顔ダニに直接作用します
 - アゼライン酸:抗炎症作用と角質溶解作用を持ち、症状の改善に役立ちます
 
スキンケアの見直し
- 適切な洗顔で皮脂や汚れをしっかり落とす
 - 低刺激性のスキンケア製品を使用する
 - 過度な保湿や油分の多い化粧品を避ける
 
生活習慣の改善
- 十分な睡眠をとる
 - バランスの取れた食事を心がける
 - ストレスを軽減する
 - 免疫力を高める
 
ニキビの治療
日本皮膚科学会の「尋常性ざ瘡治療ガイドライン」に基づいた標準的な治療法には以下があります:
外用薬による治療
- アダパレン(ディフェリンゲル):レチノイド製剤で、毛穴の詰まりを改善します
 - 過酸化ベンゾイル(ベピオゲル):抗菌作用と角質溶解作用を持ちます
 - 抗菌薬外用薬:クリンダマイシンやナジフロキサシンなどがあります
 
内服薬による治療
- 抗菌薬内服:炎症性ニキビに対して処方されます(テトラサイクリン系、マクロライド系など)
 - ホルモン療法:女性の場合、低用量ピルなどが効果的な場合があります
 
保険適用外の治療
- ケミカルピーリング:化学薬品で古い角質を除去し、毛穴の詰まりを改善します
 - レーザー治療:炎症の抑制やニキビ跡の改善に効果があります
 - 光治療(フォトフェイシャルなど):アクネ菌の抑制や炎症の軽減に役立ちます
 
アイシークリニック大宮院での治療
アイシークリニック大宮院では、皮膚科専門医が患者様一人ひとりの症状に応じた最適な治療プランをご提案します。顔ダニ症とニキビの鑑別診断から、保険適用の標準治療、さらには自費診療による最新の美容皮膚科治療まで幅広く対応しています。症状でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
6. 予防とスキンケアのポイント
顔ダニ症もニキビも、日常的な予防とスキンケアが重要です。以下のポイントを実践することで、症状の予防や悪化防止につながります。
正しい洗顔方法
- 1日2回の洗顔:朝と夜の2回、ぬるま湯で優しく洗顔します。洗いすぎは逆効果です
 - 泡で洗う:洗顔料をしっかり泡立て、泡で優しく包み込むように洗います
 - こすらない:ゴシゴシこすると皮膚を傷つけ、炎症を悪化させます
 - しっかりすすぐ:洗顔料が残らないよう、ぬるま湯で丁寧にすすぎます
 - 清潔なタオルで拭く:タオルで押さえるように水分を吸い取ります。こすらないことが大切です
 
適切な保湿
- 洗顔後はすぐに保湿を行い、皮膚のバリア機能を守ります
 - 油分の多すぎる製品は避け、ノンコメドジェニック製品を選ぶことをお勧めします
 - 季節や肌の状態に応じて保湿剤を調整します
 
メイクと化粧品の選び方
- ノンコメドジェニック(毛穴を詰まらせにくい)製品を選ぶ
 - メイクは夜必ず落とす
 - 化粧用のブラシやスポンジは定期的に洗浄する
 - 古い化粧品は使用を避ける
 
生活習慣の改善
睡眠
- 1日7〜8時間の質の良い睡眠を確保する
 - 規則正しい睡眠リズムを保つ
 
食事
- バランスの取れた食事を心がける
 - ビタミンやミネラルを十分に摂取する
 - 糖分や脂質の過剰摂取を避ける
 - 適度な水分補給を行う
 
ストレス管理
- 適度な運動を行う
 - リラックスする時間を持つ
 - 趣味や楽しみの時間を大切にする
 
避けるべき行動
- 触らない、潰さない:ニキビや炎症部位を触ったり潰したりすると、炎症が悪化し跡が残る可能性があります
 - 過度な洗顔:1日に何度も洗顔すると、皮膚のバリア機能が低下します
 - 自己判断での治療:症状が悪化する前に、専門医に相談することが大切です
 - 長期的なステロイド使用:医師の指示なく長期間ステロイドを使用すると、顔ダニの増殖を招くことがあります
 

7. よくある質問
A: はい、顔ダニは成人のほぼ全員の皮膚に存在する常在生物です。通常は無害で、皮膚のエコシステムの一部として共生しています。問題になるのは、何らかの原因で異常に増殖した場合のみです。
A: 顔ダニは通常、出生時または乳児期に母親などの密接な接触者から伝播すると考えられています。成人間での感染は稀ですが、タオルや枕の共有などにより伝播する可能性はゼロではありません。ただし、繰り返しになりますが、顔ダニ自体は誰にでもいる常在生物であり、存在すること自体が問題ではありません。
Q3: ニキビと顔ダニ症は同時に起こることはありますか?
A: はい、ニキビと顔ダニ症が同時に存在することはあります。両方の症状が混在している場合、診断と治療が複雑になるため、専門医による正確な診断が特に重要です。
Q4: 顔ダニ症は完全に治りますか?
A: 顔ダニを完全に除去することは困難ですが、適切な治療により、症状を引き起こすレベルまで減らすことは可能です。治療後も適切なスキンケアと生活習慣を維持することで、再発を防ぐことができます。
Q5: 市販薬でニキビや顔ダニ症は治せますか?
A: 軽度のニキビであれば、市販のニキビ治療薬で改善する可能性があります。しかし、顔ダニ症の場合は、処方薬が必要になることが多いです。症状が改善しない場合や悪化する場合は、自己判断せず必ず専門医を受診してください。
Q6: 予防のために特別なケアは必要ですか?
A: 特別なケアは必要ありません。基本的な清潔維持と適切なスキンケア、健康的な生活習慣が最も重要です。過度なケアはかえって皮膚のバリア機能を低下させる可能性があります。
8. まとめ
顔ダニとニキビは、どちらも顔に赤みや丘疹を引き起こすため混同されやすいですが、原因も治療法も異なる別の皮膚疾患です。適切な治療を受けるためには、まず正確な診断が不可欠です。
見分け方のポイント
- 顔ダニ症は顔全体に小さな丘疹が均一に分布し、かゆみやほてり感を伴うことが多い
 - ニキビは特定の部位に集中し、白ニキビや黒ニキビなど種類が多様で、痛みを伴うことがある
 - 通常のニキビ治療で改善しない場合は、顔ダニ症の可能性を考慮する
 
しかし、これらの判断はあくまで目安であり、専門医による診察なしには確定診断はできません。特に以下のような場合は、早めに専門医を受診することをお勧めします:
- 症状が長期間続いている
 - セルフケアや市販薬で改善しない
 - 症状が悪化している
 - 日常生活に支障が出ている
 
参考文献
- 日本皮膚科学会「尋常性ざ瘡治療ガイドライン 2023」
 - 厚生労働省「皮膚科領域における疾病の実態調査」
 - 日本皮膚科学会「酒さ診療ガイドライン」
※酒さと顔ダニの関連性についての記載があります - 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」
 - 日本臨床皮膚科医会「皮膚疾患の診断と治療」
 
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
 - 2009年 東京逓信病院勤務
 - 2012年 東京警察病院勤務
 - 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
 - 2019年 当院治療責任者就任
 
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
 - 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
 - 2012年 東京逓信病院勤務
 - 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
 - 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務