足の爪のトラブルでお悩みではありませんか?「陥入爪(かんにゅうそう)」と「巻き爪」は、どちらも爪の変形によって痛みや不快感を引き起こす疾患ですが、実はその病態や治療法には明確な違いがあります。本記事では、陥入爪と巻き爪の違いを詳しく解説し、それぞれの症状、原因、治療法、予防方法について専門的な視点からご説明します。
陥入爪と巻き爪の基本的な違い
陥入爪と巻き爪は、しばしば混同されがちですが、医学的には異なる病態として区別されています。まずは、それぞれの定義を正確に理解することが重要です。
陥入爪(かんにゅうそう)とは
陥入爪は、爪の側縁が周囲の皮膚組織に食い込んで炎症を引き起こす状態を指します。英語では「ingrown nail」または「ingrown toenail」と呼ばれ、主に足の親指に発症することが多い疾患です。爪の角や側面が皮膚に刺さり込むことで、痛み、発赤、腫脹、時には化膿を伴うことがあります。
陥入爪の最大の特徴は、爪の変形の有無に関わらず、爪と皮膚の位置関係の異常によって症状が現れる点です。つまり、爪自体は正常な形状であっても、爪の切り方が不適切であったり、靴による圧迫があったりすることで、爪が皮膚に食い込んでしまうのです。日本皮膚科学会によると、陥入爪は若年層から中高年まで幅広い年齢層で見られる一般的な爪疾患の一つとされています。
巻き爪とは
一方、巻き爪は爪甲が過度に湾曲した状態を指します。医学用語では「彎曲爪(わんきょくそう)」とも呼ばれ、英語では「pincer nail」または「curved nail」と表現されます。爪が横方向に巻き込むように変形し、爪の両端が下方へと湾曲していく状態です。
巻き爪の場合、爪自体の形状変化が主な病態であり、この変形によって爪の下の皮膚や爪の側面の組織に圧迫や刺激が加わることで痛みが生じます。重度の巻き爪では、爪が管状に巻き込み、爪の下の組織を強く圧迫することもあります。巻き爪は加齢とともに発症頻度が増加する傾向にあり、特に高齢者や女性に多く見られることが報告されています。
両者の決定的な違い
陥入爪と巻き爪の最も重要な違いは、その発症メカニズムにあります。陥入爪は「爪が皮膚に食い込む」という爪と皮膚の位置関係の問題であるのに対し、巻き爪は「爪自体が変形する」という爪の形状の問題です。
ただし、実際の臨床現場では、巻き爪が進行することで陥入爪を併発するケースや、陥入爪の慢性的な炎症が爪の変形を招き巻き爪に至るケースなど、両者が合併することも少なくありません。このため、正確な診断と適切な治療方針の決定には、専門医による評価が重要となります。
症状の違いを詳しく解説
比較表:陥入爪と巻き爪の症状の違い
| 比較項目 | 陥入爪 | 巻き爪 | 
|---|---|---|
| 主な症状 | 爪の側縁部の痛み、発赤、腫脹、化膿 | 爪全体の圧迫感、爪床の痛み、変形 | 
| 痛みの特徴 | 鋭い刺すような痛み、歩行時や圧迫時に増強 | 鈍い圧迫痛、持続的な不快感 | 
| 炎症症状 | 顕著(発赤、腫脹、熱感、膿の形成) | 軽度(巻き込みによる二次的な炎症) | 
| 見た目の変化 | 爪周囲の皮膚の腫れ、肉芽組織の形成 | 爪の明確な湾曲変形、管状変形 | 
| 悪化時の症状 | 感染拡大、蜂窩織炎、リンパ管炎 | 強い圧迫痛、歩行困難、陥入爪の併発 | 
陥入爪の具体的な症状
陥入爪の初期症状としては、爪の側縁部に軽度の痛みや違和感を感じることから始まります。この段階では見た目にはほとんど変化がないこともありますが、爪が皮膚に食い込み始めているサインです。
症状が進行すると、爪が刺さっている部分の皮膚が発赤し、腫れてきます。触れると痛みがあり、靴を履くだけで激痛を感じることもあります。さらに悪化すると、爪の食い込んだ部分に細菌感染が起こり、化膿してきます。膿が出たり、肉芽組織(赤く盛り上がった組織)が形成されたりすることもあります。
重症化した陥入爪では、感染が深部に広がり、蜂窩織炎やリンパ管炎を引き起こす可能性があります。特に糖尿病患者や免疫力が低下している方では、感染症が重症化しやすいため、早期の治療が極めて重要です。
巻き爪の具体的な症状
巻き爪の初期段階では、爪の端が少し内側に巻き込んでくる程度で、痛みを伴わないこともあります。しかし、変形が進行するにつれて、爪の下の皮膚(爪床)や爪の側面が圧迫されるようになり、徐々に痛みを感じるようになります。
中等度の巻き爪では、爪の湾曲が明確になり、爪の両端が内側に巻き込んだ「C字型」や「Ω(オメガ)型」の変形が見られます。この段階になると、歩行時や靴を履いた際に持続的な圧迫痛を感じることが多くなります。痛みの性質は陥入爪のような鋭い痛みではなく、重苦しい鈍痛であることが特徴です。
重度の巻き爪では、爪が管状に巻き込み、爪の両端が爪床に食い込んで陥入爪の状態を併発することがあります。この場合、巻き爪と陥入爪の両方の症状が現れ、強い痛みと炎症を引き起こします。また、長期間にわたる圧迫により、爪床の組織が損傷を受け、爪の成長障害を起こすこともあります。
症状チェックのポイント
- 急性の痛みと炎症がある場合: 陥入爪の可能性が高い
 - 慢性的な圧迫感がある場合: 巻き爪の可能性が高い
 - 両方の症状がある場合: 巻き爪に陥入爪が合併している可能性
 
原因の違いとメカニズム
陥入爪の主な原因
陥入爪の発症には、複数の要因が関与していることが知られています。最も一般的な原因の一つが、不適切な爪切りです。爪の角を深く切り込み過ぎる「深爪」や、爪の側縁を斜めに切る「バイアスカット」は、爪の端が皮膚に食い込みやすくなる主要な原因となります。
特に、爪の両端を丸く切り落とす「丸切り」は、一見きれいに見えますが、爪が伸びる過程で側縁が皮膚に刺さり込みやすくなるため、陥入爪のリスクを大きく高めます。正しい爪の切り方は、爪の先端を直線的に切る「スクエアカット」で、爪の両端は皮膚のラインと同じか、やや長めに残すことが推奨されています。
その他の陥入爪の原因としては以下が挙げられます:
- 靴による圧迫: つま先が狭い靴やサイズの合わない靴を長時間履くことで、爪と皮膚の間に異常な圧力がかかり、陥入爪を引き起こします。特にハイヒールやスポーツシューズは要注意です。
 - 外傷: 足の指をぶつけたり、他人に踏まれたりするなどの外傷により、爪や爪周囲の組織が損傷し、陥入爪が発症することがあります。
 - スポーツ活動: サッカーやバスケットボール、ランニングなど、足の指に繰り返し圧力がかかるスポーツは、陥入爪のリスク因子となります。
 - 爪の異常な成長: 爪の成長方向が生まれつき斜めであったり、感染症や爪白癬(爪水虫)などにより爪が肥厚したりすると、陥入爪を起こしやすくなります。
 - 遺伝的要因: 爪の形状や足の骨格構造が遺伝的に陥入爪を起こしやすい場合があります。
 
巻き爪の主な原因
巻き爪の発症メカニズムは、陥入爪よりも複雑で、多因子性であることが知られています。主な原因として、以下の要因が指摘されています。
加齢による変化: 年齢を重ねるにつれて、爪の水分含量が減少し、爪が硬く脆くなります。また、爪の成長速度が遅くなることで、爪が巻き込みやすくなると考えられています。高齢者に巻き爪が多く見られるのは、このような加齢変化が主な要因です。
外部からの圧力不足: 興味深いことに、巻き爪は爪への圧力が不足することでも発症します。これは、爪は本来巻き込む性質を持っており、歩行時に地面から受ける圧力によって平らな形状が保たれているためです。寝たきりの状態や歩行量の減少により、この圧力が不足すると、爪は本来の巻き込む性質に従って変形していきます。
過度の圧迫: 逆に、つま先が狭い靴や小さすぎる靴による過度の圧迫も、爪の変形を引き起こす原因となります。特に女性がよく履くパンプスやヒールは、足先に大きな圧力がかかるため、巻き爪のリスク因子となります。
その他の巻き爪の原因:
- 爪の構造的特徴: 爪甲が厚い、爪床が狭い、爪の湾曲が強いなどの生まれつきの特徴により、巻き爪になりやすい体質の方がいます。
 - 骨格の問題: 外反母趾や扁平足など、足の骨格構造に異常がある場合、爪にかかる圧力のバランスが崩れ、巻き爪を引き起こすことがあります。
 - 栄養状態: タンパク質やビタミン、ミネラルの不足により、健康な爪が作られず、変形しやすくなることがあります。
 - 疾患による影響: 糖尿病、末梢動脈疾患、爪白癬などの疾患により、爪の栄養状態が悪化し、変形しやすくなります。
 - 妊娠・出産: 妊娠中のホルモンバランスの変化や体重増加、出産後の運動量の減少などが巻き爪の発症に関与することがあります。
 
注意すべきリスク因子
以下に該当する方は、陥入爪や巻き爪を発症しやすい傾向があります:
- 糖尿病をお持ちの方
 - 末梢血管障害のある方
 - 免疫力が低下している方
 - 肥満の方
 - 爪白癬(爪水虫)がある方
 - 長時間の立ち仕事をされている方
 
これらのリスク因子がある場合は、定期的な足のケアと早めの専門医受診が推奨されます。
診断方法の違い
陥入爪の診断
陥入爪の診断は、主に視診と触診によって行われます。爪の側縁が周囲の皮膚に食い込んでいるかどうか、炎症の程度、肉芽組織の有無などを確認します。重症度は、炎症の程度や感染の有無によって分類されます。
陥入爪の重症度分類:
- 軽度(Grade 1): 爪の側縁に軽度の発赤と腫脹がある状態。膿や肉芽組織の形成はない。
 - 中等度(Grade 2): 明確な炎症症状があり、膿の排出が見られる。肉芽組織の形成が始まっている。
 - 重度(Grade 3): 顕著な肉芽組織の形成があり、爪が埋もれている。感染が広範囲に及んでいる可能性がある。
 
診断の際には、感染の広がりや深部組織への影響を評価するため、必要に応じて血液検査やX線検査を行うこともあります。特に糖尿病患者では、骨髄炎などの深部感染の有無を確認することが重要です。
巻き爪の診断
巻き爪の診断では、爪の湾曲度を客観的に評価することが重要です。視診で爪の変形の程度を確認し、触診で爪の硬さや厚さ、爪床の状態を評価します。
巻き爪の湾曲度の評価方法:
- 巻き爪角度の測定: 爪の断面を観察し、爪の両端を結ぶ線と水平線との角度を測定します。正常な爪では180度前後ですが、巻き爪ではこの角度が小さくなります。
 - 巻き爪の形態分類: 爪の形状により、C型、Ω(オメガ)型、管状型などに分類されます。
 
また、巻き爪の原因を特定するため、足の骨格構造の評価や、基礎疾患の有無を確認することも診断の重要な要素です。外反母趾や扁平足などの骨格異常がある場合、その治療も並行して行う必要があります。
治療法の違いと選択肢
陥入爪の治療法
陥入爪の治療は、症状の重症度に応じて保存的治療から外科的治療まで、段階的にアプローチします。
保存的治療(軽度の場合)
- テーピング法: 爪の食い込んでいる皮膚をテープで引き離し、爪と皮膚の間にスペースを作る方法です。自宅でも継続できるため、初期治療として広く用いられています。
 - コットンパッキング: 爪と皮膚の間に小さなコットンを挟み込み、爪が皮膚に食い込むのを防ぐ方法です。定期的な交換が必要ですが、効果的な保存療法の一つです。
 - ガター法: 柔らかいチューブ状の材料を爪の側縁に装着し、爪の鋭利な端が皮膚に直接触れないようにする方法です。
 - 抗菌薬治療: 感染を伴う場合は、外用抗菌薬や内服抗菌薬による治療を行います。
 
外科的治療(中等度から重度の場合)
- 爪部分切除術: 食い込んでいる爪の側縁部分のみを切除する方法です。局所麻酔下で行われ、比較的侵襲が少ない手術です。
 - フェノール法: 爪の側縁を切除した後、その部分の爪母(爪を作る組織)をフェノールという薬剤で焼灼し、爪の再発を防ぐ方法です。再発率が低く、有効な治療法として広く行われています。
 - 爪全切除術: 重症例や再発を繰り返す場合に、爪全体を切除することがあります。ただし、爪の再生には数ヶ月かかります。
 - 爪母全切除術: 難治性の陥入爪に対して、爪母を完全に切除し、爪が再生しないようにする根治的な手術です。
 
巻き爪の治療法
巻き爪の治療は、爪の変形を矯正することが主な目的となります。症状の程度や患者さんの希望に応じて、様々な治療法が選択されます。
保存的矯正治療
- ワイヤー法(VHO法、マチワイヤー法など): 爪の両端に細いワイヤーを装着し、ワイヤーの張力を利用して爪を持ち上げる方法です。痛みが少なく、日常生活への影響が小さいため、広く用いられています。治療期間は数ヶ月から1年程度です。
 - プレート法(BSブレース、コンビペッドなど): 爪の表面に特殊なプレートを貼り付け、プレートの復元力を利用して爪を平らにする方法です。見た目が自然で、水に濡れても問題ないのが利点です。
 - クリップ法: 爪の側縁にクリップを装着し、爪を持ち上げる方法です。比較的簡便で、効果も期待できます。
 
外科的治療
- 爪側縁切除術: 巻き込んでいる爪の両側縁を切除し、爪の幅を狭くする手術です。重度の巻き爪や、保存的治療で効果が得られない場合に選択されます。
 - 爪形成術: 爪の形状を外科的に修正する手術です。爪母の形状を調整することで、正常な形の爪が生えるようにします。
 
治療法の選択ポイント
適切な治療法の選択には、以下の要素を総合的に考慮します:
- 症状の重症度と痛みの程度
 - 患者さんの年齢と全身状態
 - 日常生活への影響
 - 治療期間と通院の頻度
 - 治療にかかる費用
 - 再発のリスク
 
専門医と相談しながら、ご自身に最適な治療法を選択することが大切です。
予防方法とセルフケア
陥入爪を予防するために
陥入爪は、日常生活での適切なケアにより、かなりの程度予防することが可能です。最も重要なのは正しい爪の切り方です。
正しい爪の切り方
- 爪の先端を直線的に切る「スクエアカット」を心がける
 - 爪の両端は丸く切り落とさず、角を少し残す
 - 爪の長さは、指先の肉と同じくらいか、やや長めに保つ
 - 深爪は絶対に避ける
 - 爪切りではなく、やすりで整えることを推奨
 - 入浴後など、爪が柔らかくなっている時に切る
 
靴選びのポイント
- つま先に余裕のある靴を選ぶ(1〜1.5cm程度のゆとり)
 - 足の形に合った靴を選ぶ
 - 長時間ハイヒールを履き続けることを避ける
 - スポーツ時は、専用のシューズを使用する
 - 靴下も締め付けの少ないものを選ぶ
 
その他の予防策
- 足を清潔に保ち、感染を予防する
 - 足の指に外傷を受けないよう注意する
 - 爪白癬(爪水虫)がある場合は、早めに治療する
 - 定期的に足の状態をチェックし、異常があれば早めに対処する
 
巻き爪を予防するために
巻き爪の予防には、爪への適切な圧力を維持することが重要です。
歩行習慣の維持
- 毎日適度に歩き、爪に地面からの圧力を与える
 - 長期間の安静や寝たきり状態を避ける
 - 高齢者や術後の方は、可能な範囲で歩行訓練を行う
 
適切な靴選び
- つま先を圧迫しすぎない、適度なフィット感のある靴を選ぶ
 - 靴底がしっかりしており、足裏全体で地面を踏みしめられる靴を選ぶ
 - ハイヒールやパンプスの長時間着用を避ける
 
爪のケア
- 爪を極端に短く切りすぎない
 - 保湿クリームやオイルで爪に潤いを与える
 - 爪の健康に必要な栄養素(タンパク質、ビタミン、ミネラル)を摂取する
 
全身の健康管理
- 糖尿病や末梢血管疾患などの基礎疾患を適切に管理する
 - 肥満を避け、適正体重を維持する
 - バランスの取れた食事を心がける
 
いつ医療機関を受診すべきか
陥入爪や巻き爪は、初期段階であれば自宅でのケアで改善することもありますが、以下のような場合は速やかに医療機関を受診することをお勧めします。
すぐに受診すべき症状
- 強い痛みがあり、日常生活に支障がある
 - 爪の周囲が赤く腫れ、熱を持っている
 - 膿が出ている、または悪臭がある
 - 赤い肉芽組織が盛り上がってきた
 - 発熱や悪寒がある(感染が広がっている可能性)
 - 自己処置を行っても症状が改善しない、または悪化する
 - 糖尿病や末梢血管疾患などの基礎疾患がある
 
特に糖尿病をお持ちの方は、足の小さな傷や炎症でも重症化しやすいため、爪のトラブルを発見したら早めに専門医に相談することが重要です。糖尿病性足病変は、適切な治療が遅れると、最悪の場合、下肢の切断に至ることもあるため、十分な注意が必要です。
専門的な治療を受けられる診療科
陥入爪や巻き爪の治療は、主に以下の診療科で受けることができます。
- 皮膚科: 爪は皮膚の付属器官であるため、皮膚科が専門的に対応します。多くの皮膚科では、陥入爪や巻き爪の保存的治療から外科的治療まで行っています。
 - 形成外科: 外科的治療を専門とする形成外科でも、陥入爪や巻き爪の手術を行っています。
 - 整形外科: 足の骨格構造の異常が原因となっている場合は、整形外科での治療が適している場合があります。
 - フットケア外来: 最近では、足のトラブル全般を専門的に扱うフットケア外来を設置している医療機関も増えています。
 
受診する際は、爪の治療に詳しい医師がいるかどうか、どのような治療法を行っているかなどを事前に確認すると良いでしょう。
保険診療と自費診療について
陥入爪や巻き爪の治療には、保険診療が適用される治療と、自費診療となる治療があります。
保険診療
炎症を伴う陥入爪の治療や、外科的手術(爪部分切除術、フェノール法など)は、基本的に健康保険が適用されます。痛みや炎症などの医学的な問題がある場合の治療は、保険診療の対象となることが一般的です。
自費診療
一方、巻き爪の矯正治療(ワイヤー法、プレート法など)の多くは、美容的な側面が強いとされ、自費診療となることが多いです。ただし、医療機関や症状の程度によっては、保険適用となる場合もありますので、事前に確認することをお勧めします。
自費診療の場合、治療法や医療機関によって費用は大きく異なりますが、一般的にワイヤー法で1本あたり5,000円〜15,000円程度、プレート法で10,000円〜30,000円程度が相場です。治療期間中、定期的に調整が必要なため、複数回の通院費用がかかることも考慮に入れる必要があります。

日常生活での注意点とQ&A
よくある質問
A: 陥入爪を放置すると、感染が悪化し、蜂窩織炎やリンパ管炎などの深部感染を引き起こす可能性があります。巻き爪も、変形が進行して痛みが強くなったり、陥入爪を併発したりすることがあります。早期の対処が重要です。
A: 食い込んだ爪を自分で無理に切ろうとすると、かえって症状を悪化させたり、感染を引き起こしたりする危険性があります。特に深部に食い込んでいる場合や、すでに炎症がある場合は、専門医に任せることをお勧めします。
A: 適切な予防ケアを続けることで、再発のリスクを大きく減らすことができます。正しい爪の切り方、適切な靴選び、定期的な足のケアなどが重要です。再発を繰り返す場合は、根治的な手術を検討することもあります。
A: 妊娠中でも、基本的には治療を受けることができます。ただし、使用する麻酔薬や抗菌薬については、胎児への影響を考慮する必要があるため、必ず妊娠していることを医師に伝えてください。
A: 基本的な治療原則は同じですが、子どもの場合は痛みへの恐怖感が強いため、できるだけ痛みの少ない保存的治療から始めることが多いです。また、成長期の爪は再生能力が高いため、早期に治療を開始すれば改善しやすい傾向があります。
まとめ
陥入爪と巻き爪は、どちらも爪のトラブルでありながら、その病態、原因、治療法には明確な違いがあります。陥入爪は爪が皮膚に食い込んで炎症を起こす状態であり、巻き爪は爪自体が変形して巻き込む状態です。
重要なポイント
- 陥入爪は急性の痛みと炎症が特徴で、保存的治療から外科的治療まで段階的なアプローチが可能
 - 巻き爪は慢性の圧迫痛が特徴で、矯正治療により爪の形状を改善することが治療の中心
 - 両者とも、適切な予防ケア(正しい爪切り、適切な靴選び、歩行習慣の維持など)により発症リスクを減らせる
 - 症状が出たら早めに専門医に相談することが、重症化を防ぎ、治療期間を短縮する鍵
 - 特に糖尿病などの基礎疾患がある方は、足のトラブルに十分注意が必要
 
足の爪のトラブルは、生活の質(QOL)を大きく低下させる要因となります。歩くことが痛くて億劫になると、運動不足による健康問題にもつながりかねません。爪のことだからと軽視せず、気になる症状があれば早めに医療機関を受診し、適切な治療とケアを受けることが大切です。
参考文献
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A – 爪の病気」 https://www.dermatol.or.jp/
 - 公益社団法人 日本形成外科学会「陥入爪について」 https://www.jsprs.or.jp/
 - 日本フットケア・足病医学会「足のトラブル – 陥入爪・巻き爪」 https://www.jsfpm.com/
 - 厚生労働省「糖尿病性足病変について」 https://www.mhlw.go.jp/
 - 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
 - 皮膚科診療実践ガイド 第4版(文光堂)
 - 標準皮膚科学 第11版(医学書院)
 
※本記事は医学的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療を行うものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
 - 2009年 東京逓信病院勤務
 - 2012年 東京警察病院勤務
 - 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
 - 2019年 当院治療責任者就任
 
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
 - 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
 - 2012年 東京逓信病院勤務
 - 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
 - 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務