はじめに
お子さんが手足口病と診断されて、「自分も感染するのでは?」と不安を感じていませんか?手足口病は主に子どもがかかる感染症として知られていますが、実は大人にも感染するケースが少なくありません。特に、小さなお子さんを持つ保護者の方や保育関係者は、日常的に感染のリスクにさらされています。
本記事では、手足口病が大人にうつる確率や感染メカニズム、そして効果的な予防方法について、医学的根拠に基づいて詳しく解説します。アイシークリニック大宮院では、皮膚症状をはじめとする様々な疾患に対応しておりますので、気になる症状がある方はお気軽にご相談ください。
手足口病とは?基本を理解する
手足口病の定義
手足口病(Hand, Foot and Mouth Disease: HFMD)は、主にコクサッキーウイルスやエンテロウイルスによって引き起こされる急性ウイルス感染症です。その名の通り、手のひら、足の裏、口の中に特徴的な水疱性の発疹が現れることから、この名称がつけられました。
主な原因ウイルス
手足口病を引き起こすウイルスは、主に以下のものがあります:
エンテロウイルス属
- コクサッキーウイルスA16型(最も一般的)
 - コクサッキーウイルスA6型(近年増加傾向)
 - エンテロウイルス71型(重症化リスクが高い)
 - コクサッキーウイルスA10型
 
国立感染症研究所の報告によると、日本国内で流行する手足口病の原因ウイルスは年によって変動があり、複数のウイルスが同時に流行することもあります。特に注意すべきは、エンテロウイルス71型による感染で、これは中枢神経系合併症を起こすリスクが他のウイルスと比較して高いとされています。
流行の季節と疫学
手足口病は典型的な夏季の感染症として知られており、日本では毎年6月から8月にかけてピークを迎えます。しかし、近年では秋から冬にかけても散発的な流行が見られることがあります。
厚生労働省の感染症発生動向調査によると、手足口病の患者の約90%は5歳以下の乳幼児が占めていますが、残りの10%には学童期の子どもや大人も含まれています。特に保育施設や幼稚園などでは集団感染が発生しやすく、そこから家族内への二次感染が広がることが多く報告されています。
大人への感染メカニズム
なぜ大人も感染するのか
手足口病は「子どもの病気」というイメージが強いですが、実際には大人も感染します。その理由は以下の通りです:
免疫の特異性 手足口病を引き起こすウイルスには複数の型があり、あるウイルス型に対する免疫を獲得しても、別の型のウイルスには感染する可能性があります。例えば、子どものころにコクサッキーウイルスA16型に感染して免疫を得ていても、A6型やエンテロウイルス71型には感染しうるのです。
免疫力の低下 大人でも、疲労やストレス、睡眠不足などで免疫力が低下している時期には、ウイルスに対する抵抗力が弱まります。特に子育て中の保護者は、育児疲れから免疫力が低下していることが多く、感染リスクが高まります。
ウイルスへの暴露機会 小さな子どもを持つ保護者や、保育・教育関係者、医療従事者などは、日常的にウイルスに暴露される機会が多いため、感染する確率が高くなります。
感染経路の詳細
手足口病の主な感染経路は以下の3つです:
1. 飛沫感染 感染者の咳やくしゃみによって飛散したウイルスを含む飛沫を吸い込むことで感染します。特に発症初期の1週間程度は、咽頭からウイルスが排出されており、この時期の感染力が最も強いとされています。
2. 接触感染 感染者の水疱の内容物や、唾液、鼻水などに触れた手で、自分の口や鼻、目などの粘膜に触れることで感染します。これは家庭内感染や保育施設での感染の主な経路となっています。
おむつ交換の際に便に触れることでも感染が起こります。便中にはウイルスが大量に含まれており、症状が治まった後も2〜4週間程度はウイルスが排泄され続けることが知られています。
3. 経口感染 ウイルスに汚染された食品や飲料水、おもちゃなどを介して感染することがあります。特に子どもがよく口に入れるおもちゃや、共用のコップやタオルなどは感染源となりやすいです。
大人がうつる確率:具体的なデータ
家庭内二次感染率
手足口病の大人への感染確率について、最も重要なデータは家庭内での二次感染率です。国立感染症研究所や日本小児感染症学会の研究によると、以下のような知見が得られています:
子どもから大人への二次感染率:約5〜10%
これは、手足口病に感染した子どもと同居する大人のうち、5〜10人に1人が感染することを意味します。ただし、この数値は「診断された大人の症例」に基づいているため、実際には無症状や軽症で見過ごされているケースを含めると、実際の感染率はもう少し高い可能性があります。
特定の条件下での感染確率の上昇
以下の条件に当てはまる場合、感染確率はさらに高くなります:
- 濃厚な接触がある場合(20〜30%):子どものケア(食事の介助、入浴、おむつ交換など)を頻繁に行う保護者は、一般的な家族メンバーよりも感染リスクが2〜3倍高いとされています。
 - 複数の子どもが感染している場合(15〜25%):家庭内で複数の子どもが感染すると、ウイルスへの暴露量が増えるため、大人の感染確率も上昇します。
 - 免疫力が低下している場合(変動が大きい):疲労やストレス、基礎疾患などで免疫力が低下している場合、感染確率は個人差が大きいものの、明らかに上昇します。
 
保育施設従事者のリスク
保育士や幼稚園教諭などの保育関係者は、手足口病の流行期に特に高い感染リスクにさらされます。複数の研究報告によると:
- 保育施設従事者の手足口病罹患率は、一般成人の約3〜5倍
 - 流行期には施設内の職員の10〜20%が感染する可能性がある
 - 特に0〜2歳児クラスの担当者はリスクが最も高い
 
これは、乳幼児は衛生習慣が未確立であり、よだれや鼻水が多く、おむつ交換の必要性も高いことから、ウイルスへの暴露機会が格段に多いためです。
年齢別の感染しやすさ
大人の中でも、年齢層によって感染率に差があります:
20〜40代(子育て世代) この年齢層は最も感染リスクが高く、特に未就学児を持つ保護者が多く含まれます。日常的に子どもと密接に接触するため、前述の5〜10%という家庭内二次感染率が適用されます。
50代以上 この年齢層では、過去に複数の型の手足口病ウイルスに感染している可能性が高く、また孫との接触も20〜40代ほど密接ではないことが多いため、感染率はやや低下する傾向にあります。ただし、孫の世話を頻繁に行う祖父母は、やはり感染リスクが高まります。
不顕性感染の存在
重要な点として、大人が感染しても症状が現れない「不顕性感染」が少なくないことが指摘されています。研究によると、実際にウイルスに感染した大人のうち、約30〜50%は明確な症状を示さないという報告もあります。
これは、大人の免疫システムがより強固であり、ウイルスを抑制できる場合があるためです。しかし、症状がなくてもウイルスは体内に存在し、他者に感染させる可能性があるため、注意が必要です。
大人の手足口病の症状:子どもとの違い
典型的な症状の経過
大人が手足口病に感染した場合、子どもと比較して症状が重くなる傾向があります。典型的な経過は以下の通りです:
初期症状(1〜2日目)
- 発熱(38〜39℃の高熱が多い)
 - 全身倦怠感
 - 頭痛
 - 咽頭痛
 - 筋肉痛や関節痛
 
子どもの場合は微熱程度で済むことも多いですが、大人では高熱が出やすく、インフルエンザのような強い倦怠感を伴うことが特徴的です。
発疹期(2〜4日目)
- 口腔内の水疱・潰瘍形成(特に舌や口蓋に多い)
 - 手のひら、手の甲、指の間の発疹
 - 足の裏、足の甲、足指の発疹
 - 臀部や膝、肘にも発疹が出現することがある
 
大人の場合、口腔内の痛みが特に強く、食事や飲水が困難になることがあります。また、手足の発疹も子どもより広範囲に及び、痛みや痒みを伴うことが多いです。
ピーク期(3〜5日目) この時期が最も症状が強く現れます:
- 口内炎による強い痛み(食事や歯磨きが困難)
 - 手足の水疱が増大し、痛みや痒みが増強
 - 爪の変色や違和感(後述の爪脱落の前兆)
 - 歩行時の痛み(足裏の水疱による)
 
回復期(5〜10日目)
- 発熱や全身症状は徐々に軽快
 - 口腔内の潰瘍は1〜2週間かけて治癒
 - 手足の発疹は茶色く変色し、徐々に消退
 
大人特有の症状
大人の手足口病では、以下のような子どもにはあまり見られない症状が出現することがあります:
強い咽頭痛 大人では喉の痛みが非常に強く、飲み込むことさえ困難になる場合があります。これは、口腔から咽頭にかけて広範囲に水疱や潰瘍が形成されるためです。
高熱の持続 子どもでは1〜2日で解熱することが多いですが、大人では3〜4日間、38℃以上の高熱が続くこともあります。
関節痛・筋肉痛 全身の関節や筋肉に強い痛みを感じることがあり、日常生活に支障をきたすことがあります。これはウイルスに対する免疫反応が強く起こるためと考えられています。
爪の変化 感染から1〜2ヶ月後に爪が剥がれる「爪脱落」が起こることがあります。これは特にコクサッキーウイルスA6型の感染で見られやすく、大人でも小児でも起こりうる合併症です。通常、爪は自然に再生しますので過度な心配は不要ですが、複数の指の爪が同時に脱落すると日常生活に不便を感じることがあります。
強い倦怠感の遷延 発疹が治まった後も、2〜3週間にわたって疲労感や倦怠感が続くことがあります。これは「ポストウイルス症候群」の一種と考えられています。
重症化のサイン
まれではありますが、大人でも以下のような重症化のサインが見られた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります:
- 頭痛が激しく、嘔吐を伴う(髄膜炎の疑い)
 - 意識がもうろうとする、けいれんが起こる(脳炎の疑い)
 - 呼吸困難や胸痛がある(心筋炎の疑い)
 - 発熱が5日以上続く
 - 水分摂取ができず、尿量が著しく減少する(脱水の進行)
 
特にエンテロウイルス71型による感染では、中枢神経系合併症(無菌性髄膜炎、脳炎など)や、まれに心筋炎を引き起こすことがあり、注意が必要です。
感染を予防するための具体的対策
基本的な感染予防策
手足口病の予防において最も重要なのは、ウイルスとの接触を避けることです。以下の基本的な予防策を徹底しましょう:
手洗いの徹底 手洗いは感染予防の基本中の基本です。特に以下のタイミングでは必ず手洗いを行いましょう:
- 外出から帰宅した時
 - 食事の前
 - 調理の前
 - トイレの後
 - おむつ交換の後
 - 子どもの鼻水や唾液を拭いた後
 - 感染者のケアをした後
 
手洗いは、流水と石鹸を使用し、最低20秒以上(「ハッピーバースデー」の歌を2回歌う程度の長さ)かけて、手のひら、手の甲、指の間、爪の間、手首まで丁寧に洗いましょう。アルコール消毒も有効ですが、エンテロウイルスにはアルコールが効きにくいため、流水での手洗いがより推奨されます。
タオルや食器の共用を避ける 家族内に感染者がいる場合は:
- タオルを個別に使用する
 - 食器やコップを共用しない
 - 歯ブラシの接触を避ける
 - 寝具やタオルケットを分ける
 
環境の清掃と消毒 手足口病のウイルスは、環境表面で数時間から数日間生存することができます。以下の方法で定期的に清掃・消毒を行いましょう:
- ドアノブ、電気のスイッチ、手すりなど、頻繁に触れる場所を1日1〜2回消毒する
 - おもちゃや子どもが触れる物品は定期的に洗浄・消毒する
 - 0.02%次亜塩素酸ナトリウム溶液(塩素系漂白剤を薄めたもの)が有効
 - 消毒後は水拭きして残留物を除去する
 
家庭内での二次感染予防
子どもが手足口病に感染した場合、家庭内での二次感染を防ぐために以下の対策を講じましょう:
ケア時の注意点
- おむつ交換時
- 使い捨て手袋を使用する(可能であれば)
 - おむつ交換後は必ず手洗いを徹底する
 - 使用済みおむつは密封してから捨てる
 - おむつ交換台やマットを毎回消毒する
 
 - 食事の介助時
- 食べこぼしをすぐに拭き取る
 - 子どもの唾液が付いた食器は速やかに洗浄する
 - 可能であれば使い捨ての食器を使用する
 
 - 入浴時
- 感染した子どもは最後に入浴させる
 - 浴槽のお湯は毎日交換する
 - タオルは個別に使用する
 - 水疱が破れている場合は、シャワーで済ませることも検討する
 
 
看病する人を限定する 可能であれば、看病する家族を1〜2人に限定し、他の家族メンバー(特に高齢者や基礎疾患のある人)への感染リスクを減らすことが望ましいです。
適度な距離の保持 子どもが咳やくしゃみをする際は、顔を近づけすぎないよう注意しましょう。可能であれば1メートル以上の距離を保つことが推奨されます。
職場や保育施設での対策
保育施設従事者向けの予防策
- 勤務中はこまめに手洗いを行う(特におむつ交換後や食事介助後)
 - 子どもの唾液や鼻水が付着した衣類は速やかに着替える
 - 自身の免疫力を保つため、十分な睡眠と栄養を心がける
 - 流行期には特に意識的に予防対策を強化する
 
職場での配慮 感染した場合は、以下を考慮しましょう:
- 症状が強い期間(特に発症後5日間程度)は可能な限り休暇を取得する
 - 復帰後も手洗いを徹底し、タオルなどの共用を避ける
 - 同僚との接触を必要最小限にする配慮をする
 
免疫力を高める生活習慣
ウイルス感染を防ぐためには、日頃から免疫力を高めておくことが重要です:
十分な睡眠 睡眠不足は免疫機能を低下させます。成人は1日7〜8時間の睡眠を確保するよう心がけましょう。
バランスの取れた食事
- ビタミンC(柑橘類、ブロッコリー、ピーマンなど)
 - ビタミンD(魚類、きのこ類など)
 - 亜鉛(牡蠣、赤身肉、豆類など)
 - 発酵食品(ヨーグルト、納豆など)
 
これらの栄養素は免疫機能をサポートします。
適度な運動 定期的な運動は免疫力を高める効果があります。ウォーキングやジョギングなど、無理のない範囲で身体を動かす習慣を持ちましょう。
ストレス管理 慢性的なストレスは免疫機能を低下させます。リラックスできる時間を意識的に作り、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
診断と治療について
医療機関での診断
手足口病の診断は、主に臨床症状(特徴的な発疹の分布)に基づいて行われます:
診断のポイント
- 手のひら、足の裏、口腔内に特徴的な水疱性発疹がある
 - 発熱や咽頭痛などの全身症状を伴う
 - 流行期や周囲での発生状況
 
通常、血液検査や特別な検査は必要ありませんが、重症化が疑われる場合や、他の疾患との鑑別が必要な場合には、追加の検査が行われることがあります。
鑑別が必要な疾患
- ヘルパンギーナ(口腔内のみの水疱)
 - 水痘(全身性の水疱、発疹の性状が異なる)
 - 単純ヘルペスウイルス感染症
 - アフタ性口内炎
 - 薬疹
 
治療の基本方針
手足口病には特効薬がなく、治療は対症療法が中心となります:
発熱に対する対処
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)を使用
 - こまめな水分補給
 - 十分な休息
 
口内炎の痛みへの対処
- 刺激の少ない食事(柔らかく、冷たいものが推奨)
 - 口腔用の鎮痛薬やうがい薬
 - 水分摂取の工夫(ストローの使用など)
 
食事が困難な場合は:
- プリン、ゼリー、アイスクリーム
 - 冷たいスープやポタージュ
 - 栄養ドリンクやスポーツドリンク
 
酸味の強い食品や、熱い食べ物、硬い食べ物は痛みを増強させるため避けましょう。
皮膚症状への対処
- 痒みが強い場合は抗ヒスタミン薬の内服
 - 二次感染を防ぐため、水疱を潰さないよう注意
 - 清潔を保つ
 
脱水予防 口内炎の痛みで水分摂取が減少すると、脱水になりやすいです。以下に注意しましょう:
- 少量ずつ頻繁に水分を摂取
 - 経口補水液の使用
 - 尿量や尿の色をチェック(濃い色は脱水のサイン)
 
自宅療養のポイント
休息と栄養
- 症状が強い期間は無理をせず、十分な休息をとる
 - 栄養バランスの良い食事を心がける(食べられるものから)
 - 無理に食事を摂る必要はないが、水分は確実に摂取する
 
経過観察 以下の症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう:
- 高熱が3日以上続く
 - 頭痛や嘔吐が激しい
 - 意識がもうろうとする
 - 呼吸困難や胸痛
 - 水分が全く摂れない
 - 尿が半日以上出ない
 
登園・出勤の目安
厚生労働省の保育所における感染症対策ガイドラインでは、手足口病は「出席停止の対象とはしない」とされています。しかし、以下の点を考慮して判断することが推奨されています:
登園・出勤再開の目安
- 発熱がなくなっている
 - 食事や水分が十分に摂取できる
 - 全身状態が良好である
 - 激しい咳や鼻水がない
 
発疹だけが残っている状態であれば、登園・出勤は可能です。ただし、口腔内の痛みが強く、食事が困難な間は自宅で療養することが本人のためにも、感染拡大防止のためにも望ましいでしょう。

よくある質問(FAQ)
A: いいえ、繰り返し感染する可能性があります。手足口病を引き起こすウイルスには複数の型があり、ある型に対する免疫を獲得しても、別の型のウイルスには感染しうるためです。ただし、同じ型のウイルスに対しては免疫が持続しますので、短期間に同じ型で再感染することは通常ありません。
A: 妊娠中の手足口病感染については、多くの場合、胎児への明確な影響は報告されていません。しかし、特にエンテロウイルス属のウイルスは、まれに胎盤を通過する可能性があることが知られています。妊娠中、特に妊娠初期や出産直前に感染した場合は、念のため担当の産科医に相談することをお勧めします。
Q3: ワクチンはないのですか?
A: 現在、日本で承認されている手足口病のワクチンはありません。中国ではエンテロウイルス71型に対するワクチンが開発され、使用されていますが、日本ではまだ導入されていません。予防はやはり、手洗いなどの基本的な感染対策が中心となります。
Q4: 子どもが感染したら、兄弟姉妹への感染は避けられませんか?
A: 完全に感染を防ぐことは難しいですが、適切な予防対策により感染リスクを減らすことは可能です。特に、おもちゃや食器の共用を避ける、タオルを分ける、手洗いを徹底するなどの対策が有効です。また、感染した子どもと他の兄弟姉妹の接触を必要最小限にすることも考慮しましょう。
Q5: アルコール消毒は効果がありますか?
A: 手足口病の原因ウイルスであるエンテロウイルスは、エンベロープ(外膜)を持たないウイルスのため、アルコールに対する抵抗性が比較的高いとされています。そのため、アルコール消毒よりも、流水と石鹸による手洗いの方が推奨されます。環境消毒には、0.02〜0.1%の次亜塩素酸ナトリウム溶液が有効です。
Q6: プールに入っても大丈夫ですか?
A: 症状が治まっていれば、プール利用自体は問題ありませんが、以下の点に注意が必要です。症状がある期間(特に発熱や口腔内の水疱がある時期)はプールの利用を控えましょう。また、回復後も便中にはウイルスが排泄されているため、プール後のシャワーと手洗いを徹底することが重要です。プール施設の規定に従い、周囲への配慮を忘れないようにしましょう。
Q7: 大人の方が症状が重いというのは本当ですか?
A: はい、一般的に大人の方が症状が重くなる傾向があります。高熱が長く続く、口腔内の痛みが強い、関節痛や筋肉痛が顕著、倦怠感が強いなどの特徴があります。これは、大人の免疫システムがウイルスに対してより強い反応を示すためと考えられています。
Q8: 感染力はどのくらいの期間続きますか?
A: ウイルスは発症の数日前から排出され始め、症状が最も強い時期(発症後1週間程度)に最も感染力が高くなります。しかし、症状が治まった後も、便中には2〜4週間程度ウイルスが排泄され続けるため、理論的にはこの期間も感染の可能性があります。特に小さな子どものおむつ交換時などは、回復後も手洗いの徹底が重要です。
特別な状況での注意点
基礎疾患がある方の注意点
以下のような基礎疾患をお持ちの方は、手足口病に感染した際に注意が必要です:
免疫抑制状態の方
- 悪性腫瘍の治療中
 - 臓器移植後の免疫抑制剤使用中
 - 自己免疫疾患でステロイドなどの免疫抑制薬を使用中
 - HIV感染症
 
これらの状態では、ウイルス感染が重症化しやすく、また治癒に時間がかかる可能性があります。感染が疑われる場合は、早めに主治医に相談しましょう。
アトピー性皮膚炎の方 皮膚のバリア機能が低下している場合、発疹がより広範囲に及んだり、二次感染を起こしやすい可能性があります。普段以上に皮膚の清潔を保ち、保湿ケアを継続することが重要です。
高齢者への感染
高齢者が手足口病に感染することは比較的まれですが、孫の世話などで感染する可能性があります。高齢者の場合:
- 免疫力の低下により感染しやすい
 - 合併症のリスクが高まる可能性がある
 - 脱水になりやすい
 - 回復に時間がかかることがある
 
高齢者が感染した、あるいは感染が疑われる場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
保育施設での集団発生時の対応
保育施設で手足口病の集団発生が起こった場合、施設としては以下の対応が推奨されます:
- 保護者への情報提供と注意喚起
 - 施設内の清掃・消毒の強化
 - 手洗い指導の徹底
 - 症状のある子どもの早期発見
 - 職員の健康管理
 
保護者としては:
- 子どもの健康観察を毎日行う
 - 症状がある場合は登園を控える
 - 家庭内での感染予防対策を強化する
 
最新の知見と今後の展望
ウイルスの変異と流行パターン
近年、手足口病の原因ウイルスに関する研究が進み、以下のような知見が得られています:
コクサッキーウイルスA6型の増加 従来、日本ではコクサッキーウイルスA16型が主流でしたが、2010年代以降、A6型による流行が増加しています。A6型は:
- より広範囲の発疹を引き起こす
 - 大人でも重症化しやすい
 - 爪の脱落を起こしやすい
 
といった特徴があります。
エンテロウイルス71型の動向 アジア地域では、エンテロウイルス71型による重症例の報告があり、日本でも監視が続けられています。このウイルス型は中枢神経系合併症を起こしやすいため、特に注意が必要です。
ワクチン開発の現状
前述のとおり、中国ではエンテロウイルス71型に対するワクチンが使用されていますが、手足口病は複数のウイルスによって引き起こされるため、包括的な予防ワクチンの開発は困難な状況です。しかし、重症化を予防するワクチンの研究は世界各国で続けられています。
診断技術の進歩
迅速診断キットの開発や、PCR法による正確なウイルス型の同定など、診断技術も進歩しています。これにより、より正確な疫学調査や、重症化リスクの早期評価が可能になりつつあります。
まとめ:大人も油断は禁物
手足口病は主に子どもの疾患として知られていますが、本記事で詳しく解説してきたように、大人も決して感染しないわけではありません。特に以下のポイントを押さえておきましょう:
感染確率について
- 家庭内での子どもから大人への二次感染率は約5〜10%
 - 濃厚接触がある場合は20〜30%まで上昇
 - 保育関係者など職業的暴露が多い場合はさらにリスクが高まる
 
大人の症状の特徴
- 子どもより症状が重くなる傾向がある
 - 高熱、強い咽頭痛、関節痛などが顕著
 - 口内炎による食事困難が起こりやすい
 - 回復後も倦怠感が続くことがある
 
効果的な予防策
- 流水と石鹸による手洗いの徹底
 - タオルや食器の共用を避ける
 - 環境の清掃と消毒(次亜塩素酸ナトリウム溶液が有効)
 - 免疫力を保つ生活習慣
 
受診の目安
- 高熱が3日以上続く
 - 頭痛や嘔吐が激しい
 - 水分摂取ができない
 - 呼吸困難や胸痛がある
 
手足口病は、適切な知識と予防対策により、感染リスクを減らすことができます。しかし、完全に防ぐことは難しいため、もし感染してしまった場合も、慌てずに適切な対処を行うことが大切です。
予防と早期発見・早期対処で、手足口病から自分自身と家族の健康を守りましょう。
参考文献
- 国立感染症研究所「手足口病とは」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.html
 - 厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/
 - 日本小児科学会「手足口病」予防接種・感染症対策委員会 https://www.jpeds.or.jp/
 - 東京都感染症情報センター「手足口病の流行状況」 http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/
 - 日本皮膚科学会「ウイルス性発疹症」 https://www.dermatol.or.jp/
 - 日本感染症学会「エンテロウイルス感染症」 http://www.kansensho.or.jp/
 
※本記事の情報は2025年11月時点のものです。最新の情報については、各公式サイトや医療機関にご確認ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
 - 2009年 東京逓信病院勤務
 - 2012年 東京警察病院勤務
 - 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
 - 2019年 当院治療責任者就任
 
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
 - 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
 - 2012年 東京逓信病院勤務
 - 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
 - 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務