はじめに
「最近、爪が厚くなってきた気がする」「爪の色が変わってきた」——このような爪の変化に気づいたとき、それはもしかすると糖尿病の初期サインかもしれません。
糖尿病は「沈黙の病気」とも呼ばれ、初期段階では自覚症状がほとんどありません。しかし、体の末端にある爪には、糖尿病による影響が比較的早い段階から現れることがあります。特に足の爪は、全身の健康状態を反映する「健康のバロメーター」とも言える重要な部位なのです。
厚生労働省の調査によると、日本における糖尿病患者数は増加傾向にあり、令和元年の調査では糖尿病が強く疑われる人の割合は男性で19.7%、女性で10.8%に上ると報告されています。糖尿病は放置すると深刻な合併症を引き起こす可能性がある疾患ですが、爪の変化に早期に気づき、適切な対応をすることで、重症化を防ぐことができます。
この記事では、糖尿病と爪の関係、初期症状として現れる爪の変化、そして日常的にどのようなケアや観察が必要なのかについて、医学的根拠に基づいて詳しく解説していきます。
糖尿病とは何か
糖尿病の基本的な仕組み
糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きが不足したり、効果が低下したりすることで、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が慢性的に高くなってしまう病気です。
健康な人では、食事をすると一時的に血糖値が上昇しますが、インスリンの働きによってブドウ糖は速やかに細胞に取り込まれ、血糖値は正常な範囲に戻ります。しかし糖尿病では、このインスリンの分泌量が不足していたり、インスリンが正常に機能しなくなることで、血液中のブドウ糖が細胞に入ることができず、血糖値が高い状態が続いてしまいます。
糖尿病の種類
糖尿病には大きく分けて以下のタイプがあります。
1型糖尿病
自己免疫などによって膵臓のインスリン分泌細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなるタイプです。比較的若年で発症することが多く、生存にはインスリン注射による治療が必須となります。
2型糖尿病
日本の糖尿病患者の約95%を占めるタイプで、遺伝的素因に加えて、食べ過ぎ、運動不足、肥満、加齢などの生活習慣が影響して発症します。インスリンの分泌量が低下したり、インスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)ことが原因となります。
妊娠糖尿病
妊娠中に初めて発見される、または発症する糖代謝異常です。妊娠中はホルモンの影響でインスリンの働きが低下するため、血糖値が上がりやすくなります。
糖尿病の初期症状
糖尿病の初期段階では、多くの場合、自覚症状がほとんどありません。血糖値がかなり高くならないと明確な症状が現れないため、定期的な健康診断などで偶然に指摘されるまで気づかない人も少なくありません。
しかし、血糖値が慢性的に高い状態が続くと、体には次第に以下のような変化が現れます。
- 頻尿・多尿: 尿の回数や量が増える。特に夜間に何度もトイレに起きる
- 異常な喉の渇き: 水分を多く摂るようになる
- 急激な体重減少: 食事量は変わらないのに体重が減る
- 疲労感: 常に疲れやすく、だるさを感じる
- 視力低下・目のかすみ: ピントが合いにくい
- 手足のしびれ: 末梢神経が障害され始めると現れる
- 傷が治りにくい: ケガや傷口の治癒が遅れる
- 爪や皮膚の変化: 特に足の爪に異常が現れる
これらの症状のうち、本記事では特に「爪の変化」に焦点を当てて詳しく解説していきます。
なぜ糖尿病で爪に症状が出るのか
高血糖が引き起こす血管障害
糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、血管が傷つき、細くボロボロになっていきます。糖尿病患者の血管の老化スピードは、健常者の2倍以上とも言われています。
高血糖になると血液がドロドロになり、血管を破壊して動脈硬化を引き起こします。その結果、全身に栄養が行き届かなくなり、さまざまなトラブルが生じます。特に爪のような身体の末端にある部位は、この影響を受けやすいのです。
末梢血流障害のメカニズム
全身のなかでも足は体の末端に位置するため、もともと血流が滞りやすい部位です。糖尿病によって血管が細くなると、足先の血管がさらに狭くなりやすく、血液や酸素の流れが妨げられます。
血糖値のコントロール状態が悪化すると、爪に十分な栄養や酸素が行き届かなくなり、爪の成長や健康状態に異常が現れるようになります。このため、糖尿病による爪の異変は、一般的に手の爪よりも足の爪に現れることが多いのです。
神経障害の影響
糖尿病では、高血糖が慢性的に続くことで、末梢神経の代謝に支障をきたします。末梢神経障害が起こると、以下のような問題が生じます。
- 感覚神経の障害: 痛みや冷たさを感じにくくなる
- 運動神経の障害: 足の筋肉が萎縮し、足の変形が起こる
- 自律神経の障害: 皮膚や爪の角化に影響する
特に感覚神経の障害は深刻で、足の爪にトラブルが生じても痛みを感じにくいため、異常に気づかず放置してしまうことがあります。これが、糖尿病患者における足病変の重症化につながる大きな要因となっています。
免疫力の低下
糖尿病患者は血糖値が高い状態が続くため、白血球の働きが低下し、菌やウイルスに対する抵抗力が弱まります。そのため、爪白癬(水虫)をはじめとする感染症にかかりやすく、一度感染すると治りにくく、進行も早くなる傾向があります。
糖尿病で現れる爪の初期症状
1. 爪肥厚(爪が厚くなる)
症状の特徴
爪肥厚とは、爪が異常に厚くなった状態を指します。通常、2mm以上の厚みがあるときにこの状態と考えられます。糖尿病で爪肥厚になる主な原因は、末梢血流障害により爪に栄養が行きわたらず、爪が正しく伸びなくなってしまうためです。
起こりやすい問題
- 爪が割れやすくなる
- 爪が剥がれやすくなる
- そこから雑菌が入り、化膿することがある
- 爪切りが困難になる
爪肥厚は、長時間にわたる爪の圧迫や、白癬菌(水虫菌)の感染によっても起こります。爪が厚くなると日常的な爪切りが難しくなり、無理に切ろうとすると皮膚を傷つけてしまう恐れがあります。爪肥厚によって爪切りが難しい場合は、無理をせず医療機関を受診することが大切です。
2. 巻き爪・陥入爪
症状の特徴
巻き爪とは、爪が丸く内側に巻き込むような形状になってしまう状態です。陥入爪は、爪が皮膚に食い込み、炎症を引き起こす状態のことを指します。
発生のメカニズム
糖尿病による運動神経障害は、下肢や足の筋力を低下させます。歩行の異常やアーチ構造のバランスを崩し、さまざまな足の変形を引き起こします。その結果、爪に適切な力が加わらず、爪が巻いてしまう原因となります。
また、糖尿病では栄養不足により爪が正常に成長せず、巻き爪が発生しやすくなります。深爪を続けていると巻き爪の原因になりますし、長すぎる爪も先から巻き始めてしまいます。
危険性
感覚障害があると、巻き爪が皮膚に食い込んでも痛みを感じにくいため、そのまま放置してしまいがちです。皮膚が切れて出血していても気がつかず、そこから細菌感染を起こし、炎症が悪化するケースがあります。巻き爪が放置されると、陥入爪から潰瘍に発展し、重症化する可能性があります。
3. 爪白癬(爪水虫)
症状の特徴
爪白癬は、白癬菌というカビによって引き起こされる感染症で、一般的には水虫として知られています。爪白癬になると、以下のような変化が現れます。
- 爪が白色や黄色に変色する
- 爪がでこぼこする
- 爪が厚くなる
- 爪が変形する
- 爪がもろくなり、崩れやすくなる
糖尿病患者が特に注意すべき理由
糖尿病患者は、高血糖の影響で血流が悪いため傷の治りが悪く、さらに易感染状態でもあるため、健康な人に比べて水虫になりやすく、悪化しやすい特徴があります。
足白癬は、その他の細菌の侵入経路となるため、足潰瘍になるリスクが高まります。糖尿病患者が一度水虫になると、悪化しやすく、最悪の場合には壊疽を起こすこともあるため、早期発見・早期治療が極めて重要です。
4. 爪の色の変化
具体的な変化
糖尿病では、爪に以下のような色の変化が現れることがあります。
- 爪が白く濁る
- 白い縦線が入る
- 黄色く変色する
- 爪の一部が紫色に変色する(血流障害のサイン)
変色の原因
爪の色の変化は、末梢への栄養不足、爪白癬の感染、血流障害などが原因と考えられます。爪に白く濁った部分や白い線が現れることは、糖尿病の初期症状としてしばしばみられます。
ただし、糖尿病でなくても、加齢や爪の乾燥が原因で爪に白い線が入るケースもあるため、過度に心配する必要はありませんが、他の症状と合わせて現れた場合は医療機関での検査を検討しましょう。
5. 胼胝(タコ)・鶏眼(ウオノメ)
形成のメカニズム
胼胝(べんち)は、足への圧迫や摩擦が原因で皮膚が固くなる状態です。糖尿病による足の変形があると、特定の箇所に体重がかかり、タコやウオノメができやすくなります。
危険性
真皮を圧迫して神経を刺激するため、本来は強い痛みを感じるはずですが、糖尿病による神経障害がある人の場合は痛みを感じにくくなります。そのため、タコや魚の目に気づかず、皮膚の状態が悪化して傷口から感染してしまうケースがあります。
胼胝を放置し、さらに圧迫や摩擦をかけるような状況が続くと、潰瘍となってしまいます。糖尿病患者は、少しの傷でも治癒することが難しく、悪化しやすいため、胼胝ができてしまったときは主治医に相談し、医療機関で処置してもらうことが重要です。
糖尿病足病変の深刻さ
足病変とは
糖尿病患者に生じる足のトラブルをまとめて「糖尿病足病変」といいます。糖尿病足病変には、足に生じる水虫や細菌の感染、足の変形やタコ、さらにひどい状態になると足の組織が死んでしまう足壊疽などがあります。
統計データから見る深刻さ
国立国際医療研究センター 糖尿病情報センターによると、糖尿病患者は足の血管が狭く細くなっていることがあることに加え、足の感覚が低下するなどの神経障害を合併していることもあるため、痛みなどの症状が出現しにくく、重篤な状態になるまで気づかれないこともあります。
日本における外来糖尿病患者では、年間0.3%で足潰瘍が発生し、0.05%で下肢切断が発生していると報告されています。わが国の糖尿病患者数は約1,000万人と言われており、計算すると1年間で約3万人の方に足潰瘍が発症することになります。
下肢切断後の予後
さらに深刻なのは、下肢切断後の生命予後です。下肢切断後の死亡率は、術後1年で約30%、3年で約50%、5年で約70%と報告されており、極めて不良です。このことから、糖尿病足病変の予防がいかに重要かが分かります。
足病変が進行するメカニズム
糖尿病足病変は、以下のような段階を経て進行していきます。
- 初期段階: 靴擦れ、小さな傷、やけど、巻き爪などの軽微なトラブル
- 感染段階: 神経障害により痛みに気づかず、傷口から細菌が侵入
- 潰瘍形成: 血流障害により傷が治りにくく、潰瘍(かいよう)が形成される
- 壊疽段階: 血流が完全に途絶え、組織が死滅して壊疽(えそ)に至る
- 切断: 広範囲の壊疽により、足の切断が必要になる
この進行過程において、初期段階での爪の変化に気づき、適切な対応をすることが、重症化を防ぐ最も重要なポイントとなります。
爪の観察ポイントとセルフチェック
毎日の観察が重要な理由
糖尿病の合併症の一つである糖尿病網膜症により視力が低下してくると、傷などの足の変化に気づきにくくなります。視力が徐々に低下している場合、本人は視力低下の程度に気がつきにくいため、月1回などの頻度で足を観察すると、些細な変化や傷の存在に気づかない場合があります。
そのため、糖尿病と診断されたら、可能な限り毎日、足と爪の状態を観察する習慣をつけることが大切です。
具体的な観察項目
以下のポイントに重点を置いて観察しましょう。
爪の観察
- 爪の色に変化はないか(白く濁る、黄色くなる、紫色になる)
- 爪が厚くなっていないか
- 爪が巻いていないか
- 爪に縦線や横線が入っていないか
- 爪が剥がれかけていないか
- 爪の周囲に炎症はないか
足全体の観察
- 足全体の皮膚に変色はないか
- 爪先が冷たかったり、紫色に変色していないか
- タコやウオノメができていないか
- 傷や水ぶくれはないか
- 皮膚の乾燥やひび割れはないか
- 足の変形はないか
- 足の指の間に異常はないか
観察のコツ
- 明るい場所で観察する: 十分な明るさで、細かい変化も見逃さないようにします
- 鏡を使う: 足の裏など見えにくい部分は、鏡を使って確認します
- 家族に協力してもらう: 視力が低下している場合や、体が硬くて足を見るのが困難な場合は、家族に協力してもらいましょう
- 記録をつける: スマートフォンで写真を撮っておくと、変化を比較しやすくなります
リスクの高い人のチェックリスト
以下の項目に当てはまる方は、糖尿病足病変のリスクが高いため、特に注意が必要です。
□ 糖尿病の罹病期間が長い(10年以上)
□ 血糖コントロールが不良
□ 足にしびれや痛みがある
□ 足の感覚が鈍くなっている
□ 足が冷たい、または色が悪い
□ 以前に足潰瘍や足病変の既往がある
□ 足の変形がある
□ 視力が低下している
□ 腎臓の機能が低下している
□ 喫煙習慣がある
糖尿病患者のための爪のケア方法
基本的なフットケア
1. 毎日足を洗い、清潔に保つ
足が汚れていたり不潔だと、細菌が繁殖し、感染症を起こしやすくなります。入浴時には、以下のポイントに注意して足を洗いましょう。
- 刺激の少ない石鹸を使用する
- ぬるめのお湯(40度前後)で洗う
- 足の裏や指の間など見えにくい部分も丁寧に洗う
- 柔らかいスポンジで優しく洗う
- 洗った後は、タオルで水気をしっかり拭き取る
- 特に指の間の水気をよく拭く
2. 保湿ケアを行う
皮膚の乾燥は、ひび割れや傷の原因となります。足を洗った後は、保湿クリームを塗って皮膚を柔らかく保ちましょう。爪にはネイルオイルで保湿すると良いでしょう。
ただし、指の間は蒸れやすいため、保湿剤の塗布は避けるか、少量にとどめます。
正しい爪の切り方
爪の切り方を誤ると、巻き爪や陥入爪の原因となります。以下の点に注意して爪を切りましょう。
基本的な切り方
- 入浴後など爪が柔らかくなっているときに切る
- 明るい場所で、よく見ながら切る
- 爪は皮膚を傷つけずに直線的に切る
- 角を適切に整える「スクエアオフ」の形にする
- 深爪を避け、適切な長さに保つ(指先と同じくらいの長さ)
- やすりで角を丸く削り、引っかからないようにする
注意すべきポイント
- 深爪は絶対に避ける(巻き爪の原因になる)
- 爪の角を深く切り込まない
- 一度に大量に切らず、少しずつ切る
- 無理に厚い爪を切ろうとしない(医療機関で処置してもらう)
靴の選び方と履き方
足に合わない靴や狭い先の靴は、爪に過度な圧力をかけ、巻き爪や傷の原因となります。
靴選びのポイント
- 足のサイズに合った靴を選ぶ
- つま先に余裕のある靴を選ぶ(1cm程度のゆとり)
- 硬すぎず、柔軟性のある素材を選ぶ
- 通気性の良い靴を選ぶ
- クッション性の高いインソールを使用する
履き方の注意
- 靴を履く前に、靴の中に異物がないか確認する
- 靴下は必ず履く(素足で靴を履かない)
- 継ぎ目のない、肌触りの良い靴下を選ぶ
- 湿った靴下はすぐに履き替える
外傷予防
糖尿病患者は、ちょっとした傷から重大な足病変に進行する可能性があるため、外傷予防が重要です。
日常生活での注意点
- 裸足で歩かない(家の中でも必ず靴下やスリッパを履く)
- 海や砂浜、プールサイドでも裸足にならない
- ペットの爪で引っかかれないように注意する
- 足元に注意して歩く
- 段差や障害物に気をつける
温度管理 神経障害があると温度感覚が鈍くなるため、やけどのリスクが高まります。
- 入浴時は必ず手で湯温を確認する
- 湯たんぽ、電気あんか、ホットカーペットの使用に注意する
- 使い捨てカイロは皮膚に直接当てない
- 場合によってはこれらの器具の使用を避ける
感染症予防
爪白癬(水虫)の予防
- 足を清潔に保つ
- 足をよく乾かす
- 通気性の良い靴・靴下を履く
- 公共の浴場やプールでは共用のマットやスリッパを避ける
- 家族に水虫の人がいる場合は、タオルやバスマットを共用しない
医療機関を受診すべきタイミング
以下のような症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
緊急度の高い症状
- 足に傷や潰瘍ができている
- 傷から出血や膿が出ている
- 足が腫れている
- 足に激しい痛みがある
- 足の色が紫色や黒色に変色している
- 足が冷たく、脈が触れにくい
- 発熱がある
早めの受診が必要な症状
- 爪が大きく変形してきた
- 爪が剥がれかけている
- 爪の周囲が赤く腫れている
- 巻き爪で痛みがある
- 爪が白く濁ってきた(水虫の疑い)
- タコやウオノメができている
- 足の感覚が著しく低下している
- 傷の治りが明らかに遅い
フットケア外来の活用
フットケア外来とは
糖尿病足病変の予防を目的として、多くの医療機関でフットケア外来が開設されています。フットケア外来では、糖尿病フットケアを専門とする看護師(糖尿病療養指導士、糖尿病認定看護師など)が、それぞれの患者さんに適した日々のお手入れ方法を一緒に考え、セルフケアできるようにサポートします。
フットケア外来で受けられるサービス
- 足の感覚や反射の検査
- 血流の評価
- 足と爪の観察
- 爪切りやタコ・ウオノメの処置
- 足の洗浄
- 保湿ケア
- 正しい爪の切り方の指導
- 適切な靴の選び方のアドバイス
- フットケアの方法の指導
受診の頻度
糖尿病足病変のリスクが高い方は、定期的(1~3ヶ月に1回程度)にフットケア外来を受診することが推奨されます。リスクの程度に応じて、医師や看護師が適切な受診間隔を提案してくれます。
糖尿病の予防と血糖コントロール
2型糖尿病の予防
2型糖尿病の予防には、生活習慣の改善が非常に重要です。厚生労働省のe-ヘルスネットでも、以下の方法を実践することで、糖尿病のリスクを低下させることができるとしています。
1. バランスの取れた食事
- 野菜、果物、全粒穀物、魚、豆類などを中心とした食事
- 糖分や脂肪分の多い食品を控えめに
- 1日3食規則正しく食べる
- 腹八分目を心がける
- よく噛んで食べる
2. 適度な運動
- 週に150分以上の有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)
- 少なくとも週3日、できれば毎日行う
- 筋トレも取り入れる
- 階段を使う、歩く距離を増やすなど、日常生活で身体を動かす機会を増やす
3. 体重管理
- 健康的な体重を維持する
- 特に腹部肥満を避ける
- BMI(体格指数)を適正範囲に保つ
4. 禁煙 喫煙はインスリン抵抗性を高め、糖尿病リスクを増加させるため、禁煙が推奨されます。
糖尿病と診断された後の血糖コントロール
糖尿病と診断された場合は、良好な血糖コントロールを維持して合併症の発症・進展を予防することが重要です。
治療の基本
- 食事療法: バランスの取れた食事を心がけ、カロリーや糖分の摂取量をコントロール
- 運動療法: 個々の生活スタイルに合わせた運動プランの実施
- 薬物療法: 必要に応じて経口血糖降下薬やインスリン注射による治療
定期的に医療機関を受診し、血糖値(HbA1c)のコントロール状態を確認することが大切です。目標値は個々の状況によって異なるため、主治医とよく相談しながら治療を進めていきましょう。

よくある質問(Q&A)
A. いいえ、爪の変化があるからといって必ずしも糖尿病とは限りません。爪の変化は、加齢、乾燥、外傷、真菌感染、栄養不足など、さまざまな原因で起こります。ただし、爪の変化に加えて、喉の渇き、頻尿、疲労感、体重減少などの他の症状がある場合は、糖尿病の可能性を考慮し、医療機関で検査を受けることをお勧めします。
A. いいえ、すべての糖尿病患者に足の爪の症状が現れるわけではありません。血糖コントロールが良好な場合や、糖尿病の罹病期間が短い場合は、爪に明らかな変化が現れないこともあります。しかし、糖尿病の罹病期間が長くなるにつれて、また血糖コントロールが不良な場合には、爪を含む足病変のリスクが高まります。
Q3. 爪水虫(爪白癬)と糖尿病による爪の変化の違いは何ですか?
A. 爪水虫(爪白癬)は白癬菌という真菌の感染によって起こり、爪が白濁したり、黄色くなったり、厚くなったりします。糖尿病による爪の変化も似た症状を呈することがありますが、糖尿病の場合は血流障害や栄養不足が主な原因です。ただし、糖尿病患者は爪白癬にかかりやすく、両方が重なって現れることもあります。正確な診断のためには、医療機関で検査を受けることが必要です。
Q4. 巻き爪の矯正治療は糖尿病患者でも受けられますか?
A. はい、糖尿病患者でも巻き爪の矯正治療を受けることができます。ただし、糖尿病患者の場合は、感染のリスクが高いため、治療方法の選択には慎重な判断が必要です。医師と相談し、適切な治療法を選択しましょう。重症の巻き爪や陥入爪の場合は、形成外科や皮膚科などの専門医による治療が必要になることもあります。
Q5. フットケア外来は保険適用されますか?
A. フットケア外来の内容によって保険適用の有無が異なります。医師の指示に基づく医療行為として行われるフットケアの多くは保険適用となりますが、予防的なケアの一部は自費診療となる場合があります。受診する医療機関に事前に確認することをお勧めします。
Q6. 爪が厚くて自分で切れない場合はどうすればよいですか?
A. 無理に自分で切ろうとすると、皮膚を傷つけてしまう恐れがあります。爪が厚くて切りにくい場合は、医療機関(内科、皮膚科、フットケア外来など)を受診し、専門家に処置してもらいましょう。特に糖尿病患者の場合、小さな傷でも重大な問題につながる可能性があるため、無理は禁物です。
まとめ
糖尿病と爪の関係について、重要なポイントをまとめます。
- 糖尿病は足の爪に症状が現れやすい: 血流障害、神経障害、免疫力低下などが原因
- 主な爪の変化: 爪肥厚、巻き爪、爪白癬、色の変化など
- 早期発見の重要性: 爪の変化を見逃さないことが、重症化予防につながる
- 毎日の観察が必須: 入浴時などに足と爪を毎日チェックする習慣をつける
- 適切なフットケア: 清潔保持、保湿、正しい爪切り、適切な靴選びが重要
- 医療機関との連携: 異常を発見したら速やかに受診する
- 血糖コントロール: 良好な血糖管理が最も重要な予防策
糖尿病は「沈黙の病気」と言われますが、爪という目に見える部分に初期のサインが現れることがあります。日々の観察と適切なケアによって、深刻な足病変を予防することができます。
爪の小さな変化も見逃さず、気になることがあれば早めに医療機関を受診しましょう。定期的な健康診断で血糖値をチェックすることも、糖尿病の早期発見につながります。
自分の足と爪を大切にすることは、全身の健康を守ることにつながります。今日から、足と爪の健康管理を始めてみませんか。
参考文献
- 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「糖尿病足病変」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病」
- 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン 糖尿病に関する留意事項」
- 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター「フットケア」
- 日本糖尿病学会編著『糖尿病診療ガイドライン2024』
- 高山かおる「糖尿病患者への爪治療と爪ケア」日本糖尿病教育・看護学会誌 Vol.26 No.1, 2022
- 日本皮膚科学会「皮膚真菌症診療ガイドライン」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務