はじめに
料理中に熱湯がかかった、アイロンに触れてしまった、日焼けをしすぎたなど、日常生活でやけどを負う機会は意外と多いものです。やけどを負った部分が「白くなる」「ヒリヒリする」という症状に悩まされている方も少なくありません。
やけどが白くなるということは、実は皮膚が深いダメージを受けているサインかもしれません。一方で、ヒリヒリとした痛みは神経が反応している証拠でもあります。この2つの症状が同時に現れた場合、どのように対処すべきなのでしょうか。
本記事では、やけどが白くなってヒリヒリする原因から、適切な応急処置、医療機関を受診すべきタイミング、そして治療法まで、アイシークリニック大宮院の医療知識に基づいて詳しく解説いたします。
やけど(熱傷)の基礎知識
やけどとは
やけどは医学用語で「熱傷(ねっしょう)」と呼ばれ、熱によって皮膚や粘膜が損傷を受けた状態を指します。日本熱傷学会によると、やけどは温度と接触時間の両方が関係しており、44℃では3時間、70℃ではわずか1秒でも組織損傷が起こるとされています。
やけどの原因は多岐にわたります。
- 熱湯や油による熱傷:料理中や入浴時に多い
- 火炎による熱傷:火災や調理中の事故
- 接触熱傷:ストーブ、アイロン、ヘアアイロンなどへの接触
- 化学熱傷:酸やアルカリなどの薬品
- 電気熱傷:電流による組織損傷
- 日光熱傷:いわゆる日焼け
皮膚の構造とやけどの関係
やけどの深さを理解するには、まず皮膚の構造を知ることが重要です。
皮膚は大きく分けて3つの層から構成されています。
表皮(ひょうひ) 最も外側にある層で、厚さは約0.1~0.3mmほどです。外部からの刺激や細菌の侵入を防ぐバリア機能を持っています。表皮には血管がないため、表皮だけの損傷では出血しません。
真皮(しんぴ) 表皮の下にあり、厚さは約1~3mmです。真皮には血管、神経、汗腺、皮脂腺などが存在し、皮膚の弾力性を保つコラーゲンやエラスチンといった成分が豊富に含まれています。
皮下組織 最も深い層で、主に脂肪組織から成ります。体温調節やクッションの役割を果たしています。
やけどの深さは、これらのどの層まで損傷が及んでいるかによって分類されます。
やけどの深さによる分類
日本熱傷学会の分類によると、やけどは損傷の深さによって大きく3つに分類されます。
Ⅰ度熱傷(表皮熱傷)
損傷の範囲:表皮のみ
主な症状
- 皮膚の赤み(発赤)
- ヒリヒリとした痛み
- 軽い腫れ
- 水ぶくれはできない
典型例:軽度の日焼け
Ⅰ度熱傷は最も軽度のやけどで、表皮のみが損傷を受けた状態です。痛みはありますが、通常は数日から1週間程度で自然に治癒し、跡も残りません。
Ⅱ度熱傷(真皮熱傷)
Ⅱ度熱傷はさらに「浅達性(Ⅱ度SDB:Superficial Dermal Burn)」と「深達性(Ⅱ度DDB:Deep Dermal Burn)」に分けられます。
浅達性Ⅱ度熱傷(SDB)
損傷の範囲:真皮の浅い部分まで
主な症状
- 強い赤み
- 水ぶくれ(水疱)の形成
- 強い痛み(ヒリヒリ、ジンジンとした痛み)
- 水ぶくれの下は赤くて湿っている
浅達性Ⅱ度熱傷では、真皮の浅い層までダメージが及びますが、毛根や汗腺などの皮膚付属器が残っているため、適切な治療を行えば2~3週間程度で治癒します。色素沈着が残ることはありますが、傷跡(瘢痕)はほとんど残りません。
深達性Ⅱ度熱傷(DDB)
損傷の範囲:真皮の深い部分まで
主な症状
- 白っぽい、またはまだらな赤白色
- 水ぶくれの下の皮膚が白っぽい
- 痛みはあるが、浅達性より鈍い場合も
- 治癒に時間がかかる(3~4週間以上)
深達性Ⅱ度熱傷では、真皮の深い層まで損傷が及び、皮膚付属器の多くが破壊されています。このため、自然治癒には長い時間がかかり、治癒後も肥厚性瘢痕(盛り上がった傷跡)や色素沈着、色素脱失などが残る可能性が高くなります。
Ⅲ度熱傷(皮下組織熱傷)
損傷の範囲:皮下組織まで、またはそれより深く
主な症状
- 白色、褐色、または黒色に変色
- 乾燥した皮膚
- 痛みを感じない(神経が破壊されているため)
- 硬く革のような質感
Ⅲ度熱傷は最も重度のやけどで、皮膚の全層が破壊され、場合によっては筋肉や骨にまで損傷が及びます。皮膚の再生能力が失われているため、自然治癒は不可能で、多くの場合、植皮などの外科的治療が必要になります。
やけどが「白くなる」メカニズム
なぜやけどで皮膚が白くなるのか
やけどを負った部分が白くなる現象は、主に以下のメカニズムによって起こります。
1. タンパク質の熱変性
皮膚の主成分はタンパク質です。高温にさらされると、タンパク質の構造が変化する「熱変性」という現象が起こります。これは、生卵を茹でると白く固まるのと同じ原理です。
深いやけどでは、真皮のコラーゲンなどのタンパク質が熱変性を起こし、本来の透明感や柔軟性を失って白く見えるようになります。
2. 血流の途絶
やけどによって血管がダメージを受けると、その部分への血流が途絶えます。通常、皮膚がピンク色や赤みを帯びて見えるのは、血液が流れているためです。血流が失われると、皮膚は白っぽく見えるようになります。
深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷では、真皮内の微小血管が破壊され、組織への血液供給が途絶えるため、白色または蝋白色を呈します。
3. 組織の壊死
さらに深刻な場合、やけどによって組織が完全に死んでしまう「壊死」が起こります。壊死した組織は血液が全く流れない状態となり、白色から徐々に褐色や黒色へと変化していきます。
白くなるやけどの特徴
やけどが白くなっているということは、以下のような状態である可能性が高いといえます。
深達性Ⅱ度熱傷の可能性
- 真皮深層までの損傷
- 一部の皮膚付属器が破壊されている
- 治癒に3~4週間以上かかる
- 傷跡が残る可能性が高い
Ⅲ度熱傷の可能性
- 皮膚の全層が破壊されている
- 自然治癒が困難
- 外科的治療が必要な場合が多い
ただし、受傷直後は判断が難しいこともあります。時間の経過とともに、やけどの深さや範囲がより明確になることもあるため、自己判断せず医療機関での診察を受けることが重要です。
「ヒリヒリする」痛みのメカニズム
やけどの痛みが生じる理由
やけどでヒリヒリとした痛みを感じるのは、皮膚の神経が刺激されているためです。
神経の分布と痛みの関係
皮膚の神経は主に真皮に分布しています。表皮には神経がほとんどないため、表皮だけが損傷を受けるⅠ度熱傷でも、実際には真皮の神経終末が刺激されて痛みを感じています。
炎症反応による痛み
やけどを負うと、損傷した組織から炎症を引き起こす物質(炎症性メディエーター)が放出されます。これらの物質が神経を刺激することで、ヒリヒリ、ジンジン、ズキズキといった痛みが生じます。
主な炎症性メディエーターには以下のようなものがあります。
- プロスタグランジン
- ブラジキニン
- ヒスタミン
- セロトニン
これらの物質は痛みを引き起こすだけでなく、血管を拡張させて赤みや腫れを生じさせる働きもあります。
痛みの強さとやけどの深さの関係
興味深いことに、やけどの深さと痛みの強さは必ずしも比例しません。
Ⅰ度熱傷とⅡ度熱傷 表皮から真皮浅層のやけどでは、神経が保たれているため、強い痛みを感じます。特に浅達性Ⅱ度熱傷では、神経終末が炎症性メディエーターに直接さらされるため、最も激しい痛みを伴うことがあります。
深達性Ⅱ度熱傷 真皮深層まで損傷が及ぶと、一部の神経も破壊されるため、痛みは比較的軽減される傾向にあります。ただし、完全に痛みがなくなるわけではありません。
Ⅲ度熱傷 皮膚の全層が破壊され、神経も完全に損傷を受けると、その部分の痛みは感じなくなります。しかし、Ⅲ度熱傷の周囲にはⅡ度熱傷の領域が存在することが多く、そこからの痛みは依然として強く感じられます。
つまり、「痛みが強いから軽いやけど」「痛みがないから重症」というわけではなく、痛みの有無だけでやけどの深さを判断することはできません。
「白くてヒリヒリする」状態の解釈
やけどが白くなっていて、なおかつヒリヒリとした痛みを感じる場合、以下のような状態が考えられます。
深達性Ⅱ度熱傷の可能性 白く変色した部分(真皮深層の損傷)と、その周辺の赤い部分(真皮浅層の損傷)が混在している状態。白い部分では神経が一部破壊されているものの、周辺の神経が痛みを伝えている可能性があります。
Ⅱ度熱傷からⅢ度熱傷への移行期 受傷直後は深達性Ⅱ度熱傷であっても、適切な処置を行わないと、循環障害や感染などによってⅢ度熱傷へと進行することがあります。白くなっているが痛みがある場合は、まだ神経が完全には破壊されていない段階の可能性があります。
いずれにしても、白くなったやけどは医療機関での診察が必要な状態であると考えるべきです。
やけどの応急処置
やけどを負ったときの初期対応は、その後の治癒過程に大きく影響します。適切な応急処置を知っておくことが重要です。
すぐに冷やす(冷却)
やけどの応急処置で最も重要なのは「すぐに冷やすこと」です。
冷却の目的
- 熱による組織損傷の進行を止める
- 痛みを和らげる
- 腫れを抑える
- 感染のリスクを減らす
冷却の方法
- 流水で冷やす:やけどした部位を清潔な流水(水道水)で15~30分程度冷やします。水温は15~20℃程度が適切です。冷たすぎる水や氷を直接当てるのは避けましょう。
- 衣服の上からでも:衣服の上からやけどした場合は、無理に脱がず、衣服の上から冷やし始めます。衣服を脱がそうとすると、水ぶくれが破れたり、皮膚が剥がれたりする恐れがあります。
- 広範囲の場合:やけどの範囲が広い場合は、体全体が冷えすぎないように注意が必要です。特に小児や高齢者は低体温症のリスクが高いため、長時間の冷却は避け、早めに医療機関を受診してください。
- 顔や頭部の場合:流水で冷やしにくい部位は、清潔なタオルを冷水で濡らして当てるか、ビニール袋に氷水を入れたものを当てます。
冷却の注意点
- 氷や保冷剤を直接肌に当てると、凍傷を起こす可能性があるため避けましょう
- アイスノンなどを使う場合は、タオルやガーゼで包んでから使用します
- 痛みが治まったからといってすぐに冷却を止めず、十分な時間冷やすことが大切です
水ぶくれの扱い
やけどによって水ぶくれ(水疱)ができることがあります。水ぶくれの中には体液が溜まっており、これは傷の保護や治癒を促進する役割を持っています。
やってはいけないこと
- 水ぶくれを自分で破る
- 水ぶくれの皮を剥がす
- 針などで穴を開ける
水ぶくれを破ると、細菌感染のリスクが高まり、治癒が遅れたり、傷跡が残りやすくなったりします。
もし水ぶくれが破れてしまったら
- 清潔なガーゼや布で優しく覆う
- 水道水で軽く洗い流す(強くこすらない)
- 早めに医療機関を受診する
覆う・保護する
冷却後は、やけどした部位を清潔に保ち、保護することが重要です。
適切な保護方法
- 清潔なガーゼや布で優しく覆う
- きつく巻きすぎない(血流を妨げないように)
- 傷口に直接くっつきにくい、非固着性のドレッシング材を使用するのが理想的
避けるべきこと
- 民間療法(アロエ、味噌、醤油など)の塗布
- 消毒薬の使用(組織を傷める可能性がある)
- 軟膏を自己判断で塗る
- バターや油を塗る
これらの処置は、感染のリスクを高めたり、医師の診察時に状態の判断を困難にしたりする可能性があります。
化学熱傷の場合
化学物質によるやけどの場合は、対応が異なります。
酸やアルカリによる熱傷
- すぐに大量の流水で洗い流す(最低15~20分)
- 衣服に付着している場合は脱がせて洗い流す
- 化学物質が目に入った場合は、眼球と瞼の裏を十分に洗浄する
- できるだけ早く医療機関を受診する
化学物質の種類によっては、特殊な処置が必要な場合もあるため、可能であれば物質名を確認しておくとよいでしょう。
医療機関を受診すべきタイミング
やけどの中には、家庭での処置だけで治るものもありますが、医療機関での専門的な治療が必要な場合も少なくありません。
すぐに受診すべきやけど
以下のような場合は、速やかに医療機関を受診してください。
1. 白くなっているやけど 本記事のテーマでもある「白くなったやけど」は、深達性Ⅱ度熱傷またはⅢ度熱傷の可能性が高く、専門的な治療が必要です。
2. 広範囲のやけど
- 成人:体表面積の10%以上
- 小児:体表面積の5%以上
- 手のひらサイズを体表面積の約1%として目安にします
広範囲のやけどは、脱水や感染症、ショック状態など、全身に影響を及ぼす可能性があります。
3. 特定の部位のやけど 以下の部位のやけどは、たとえ範囲が小さくても、機能障害や重篤な合併症のリスクがあるため、必ず医療機関を受診してください。
- 顔(特に目や口の周囲)
- 首
- 手、手指
- 足、足指
- 関節部分
- 陰部
4. Ⅱ度熱傷以上の深さ
- 水ぶくれができている
- 強い痛みがある
- 皮膚が白っぽい、または焦げ茶色・黒色
5. 特殊な原因によるやけど
- 電気によるやけど:見た目以上に深部組織が損傷している可能性
- 化学物質によるやけど:特殊な処置が必要な場合がある
- 高圧蒸気や爆発によるやけど:気道熱傷の可能性
6. 小児や高齢者、基礎疾患がある場合
- 乳幼児や高齢者は重症化しやすい
- 糖尿病などの基礎疾患がある場合は治癒が遅れやすい
救急車を呼ぶべき状況
以下のような場合は、直ちに119番通報し、救急車を要請してください。
- 意識がない、または朦朧としている
- 呼吸困難がある(気道熱傷の可能性)
- 広範囲のやけど(体表面積の20%以上、または小児の10%以上)
- 顔面や気道のやけど
- 感電による複数部位のやけど
- やけどに伴うショック症状(冷や汗、顔面蒼白、脈拍微弱など)
経過観察中に受診すべき症状
軽度のやけどで経過観察していても、以下のような症状が現れた場合は医療機関を受診してください。
- 発熱(38℃以上)
- やけどの周囲が赤く腫れてきた
- 膿が出てきた
- 悪臭がする
- 痛みが増強してきた
- 治癒が遅い(2週間以上経っても改善しない)
これらは感染症の兆候である可能性があります。
医療機関での治療
診察と評価
医療機関では、まずやけどの状態を詳しく評価します。
評価項目
- 深さの判定:Ⅰ度、Ⅱ度(浅達性/深達性)、Ⅲ度の分類
- 範囲の測定:体表面積に対する割合(9の法則や5の法則を使用)
- 部位の確認:機能障害や合併症のリスクが高い部位か
- 受傷原因と時間:熱源、受傷からの経過時間
- 全身状態:バイタルサイン、意識レベル、基礎疾患の有無
治療方法
やけどの深さや範囲、部位によって治療方法は異なります。
保存的治療(外用療法)
Ⅰ度熱傷や浅達性Ⅱ度熱傷では、主に保存的治療が行われます。
- 創部の洗浄と消毒 清潔な環境下で、やけどの部位を生理食塩水などで洗浄します。過度の消毒は組織を傷めるため、最近では消毒を最小限にする「消毒しない創傷治療」が主流になっています。
- 外用薬の塗布
- ワセリン基剤の軟膏
- 抗菌薬含有軟膏(感染予防)
- 亜鉛華軟膏
- プロスタグランジン製剤
- ドレッシング材の使用 近年、やけどの治療には「湿潤療法(モイストヒーリング)」が広く用いられています。これは、傷を適度な湿潤環境に保つことで、自然治癒力を最大限に引き出す方法です。
使用される主なドレッシング材:
- ハイドロコロイドドレッシング
- ポリウレタンフィルム
- ハイドロゲルシート
- アルギン酸ドレッシング
- 痛みのコントロール
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
- アセトアミノフェン
- 必要に応じてオピオイド系鎮痛薬
外科的治療
深達性Ⅱ度熱傷やⅢ度熱傷では、外科的治療が必要になることがあります。
- デブリードマン(壊死組織除去) 壊死した組織や汚染された組織を取り除く処置です。感染予防と治癒促進のために重要です。
- 植皮術 自分の正常な皮膚を採取して、やけどの部位に移植する手術です。
- 分層植皮:表皮と真皮の一部を採取して移植
- 全層植皮:表皮と真皮の全層を採取して移植
植皮術は、早期の創閉鎖による感染予防、機能の回復、整容面の改善などの目的で行われます。
- 皮弁形成術 血流を保ったまま皮膚と皮下組織を移植する方法で、より複雑な再建が必要な場合に行われます。
全身管理
広範囲のやけどや重症例では、全身管理が必要です。
- 輸液療法:脱水や循環不全の予防・治療
- 栄養管理:高カロリー・高タンパク質の栄養補給
- 感染症の予防と治療:抗菌薬の投与
- 呼吸管理:気道熱傷がある場合
入院が必要なケース
以下のような場合は入院治療が必要になることがあります。
- 深達性Ⅱ度熱傷またはⅢ度熱傷
- 広範囲のやけど
- 顔面、頸部、手足、関節部、陰部のやけど
- 気道熱傷の疑い
- 小児や高齢者
- 基礎疾患があり、治癒が遅延するリスクが高い場合
やけど跡のケアと管理
やけどが治癒した後も、適切なケアを続けることで、傷跡を目立たなくすることができます。
傷跡が残る理由
やけどの傷跡(瘢痕)は、損傷を受けた組織を修復する過程で形成されます。
正常な創傷治癒過程
- 炎症期(受傷後~3日)
- 増殖期(3日~数週間)
- 成熟期(数週間~1年以上)
しかし、深いやけどでは、この過程が乱れ、コラーゲンの過剰産生や異常な配列により、以下のような傷跡が形成されることがあります。
肥厚性瘢痕 盛り上がった赤い傷跡で、やけどの範囲内にとどまります。時間とともに自然に改善することもありますが、数ヶ月から数年かかります。
ケロイド 元のやけどの範囲を超えて増殖する赤く盛り上がった傷跡です。体質的要因が強く、治療が難しいことがあります。
色素沈着・色素脱失 茶色く色素が沈着したり、逆に白く色が抜けたりすることがあります。
拘縮(こうしゅく) 傷跡が収縮し、関節の動きが制限されたり、皮膚が引きつれたりする状態です。
傷跡を目立たなくするケア
1. 紫外線対策 やけどの跡は、紫外線によって色素沈着が濃くなりやすいため、徹底した紫外線対策が必要です。
- 日焼け止め(SPF30以上、PA+++以上)をこまめに塗る
- 衣類や帽子で物理的に遮光する
- なるべく日陰を選んで行動する
少なくとも6ヶ月から1年は厳重な紫外線対策を続けることが推奨されます。
2. 保湿ケア 十分な保湿は、傷跡の成熟を促し、肥厚性瘢痕の予防に効果的です。
- ヘパリン類似物質含有クリーム
- ワセリンベースの保湿剤
- ビタミンE配合クリーム
1日2~3回、やさしくマッサージするように塗り込みます。
3. 圧迫療法 肥厚性瘢痕の予防や治療には、圧迫療法が有効です。
- 弾性包帯
- 圧迫用シリコンシート
- 弾性ストッキング
- 圧迫用衣類(顔面用マスク、体幹用スーツなど)
1日12時間以上、できれば23時間程度の装着が推奨されますが、医師の指示に従ってください。
4. シリコンゲルシート 医療用のシリコンゲルシートは、適度な圧迫と保湿効果により、傷跡を平坦にし、色を薄くする効果があります。
使用方法:
- 清潔で乾いた傷跡に貼付
- 1日12時間以上、数ヶ月間継続使用
- 皮膚に刺激が出た場合は一時中断
5. 医療機関での治療 傷跡が気になる場合は、医療機関で以下のような治療を受けることができます。
- ステロイド注射:肥厚性瘢痕やケロイドに対して
- レーザー治療:色素沈着や赤みに対して
- 手術による修正:拘縮の解除や傷跡の修正
リハビリテーション
関節部分のやけどでは、拘縮を予防するためのリハビリテーションが重要です。
早期からの関節運動
- 痛みのない範囲で関節を動かす
- 1日数回、規則的に行う
- 理学療法士の指導を受ける
装具の使用 夜間や安静時に、関節を伸展位に保つための装具(スプリント)を装着することがあります。
やけどの予防
やけどは適切な注意で多くが予防可能です。
家庭内での予防策
キッチン
- 鍋の柄を内側に向ける
- 熱い飲食物は子どもの手の届かない場所に置く
- 揚げ物の際は周囲に注意する
- IHクッキングヒーターでも高温になることを意識する
浴室
- お風呂の温度設定は38~40℃程度に
- 給湯器の温度を45℃以下に設定
- 入浴前にお湯の温度を確認
- 高齢者や乳幼児は特に注意
暖房器具
- ストーブやヒーターの周りに柵を設置
- 電気カーペットやこたつの長時間使用を避ける
- 湯たんぽは直接肌に触れないようにカバーを使用
- 使い捨てカイロの低温やけどに注意
低温やけどの予防
低温やけどは、体温より少し高い温度(44~50℃)のものに長時間接触することで起こります。
低温やけどを起こしやすい状況
- 湯たんぽや電気アンカの長時間使用
- 電気毛布をつけたまま就寝
- ホットカーペットで長時間うたた寝
- 使い捨てカイロを直接肌に貼る
- ノートパソコンを膝の上で長時間使用
低温やけどは気づきにくく、実は深いやけどになっていることが多いため、特に注意が必要です。
化学薬品の取り扱い
家庭内の化学物質
- 洗剤、漂白剤、カビ取り剤などは子どもの手の届かない場所に保管
- 使用時は換気を十分に行う
- 酸性とアルカリ性の洗剤を混ぜない
- 使用後は手をよく洗う
職場での化学物質
- 適切な保護具(手袋、ゴーグル、エプロンなど)を着用
- 安全データシート(SDS)を確認
- 万一の時の対処法を事前に確認
日焼け(紫外線)の予防
過度の日焼けも皮膚のやけどです。
紫外線対策
- 日焼け止めをこまめに塗る
- 帽子やサングラス、長袖の衣類で防御
- 日差しの強い時間帯(10時~14時)の外出を避ける
- 日陰を利用する
- 海や雪山では特に注意(反射により紫外線量が増える)

よくある質問
A. 氷や保冷剤を直接肌に当てることは避けてください。凍傷を起こす可能性があります。冷却する場合は、流水か、氷をタオルで包んだものを使用しましょう。
A. 民間療法としてアロエが用いられることがありますが、医学的な効果は証明されていません。また、感染のリスクや、医師の診察時に状態の判断を困難にする可能性があるため、推奨されません。
A. いいえ、水ぶくれは自然に破れるまでそのままにしておくのが原則です。水ぶくれの中の液体は傷の保護や治癒を促進する働きがあります。無理に破ると感染のリスクが高まります。
Q4. やけどの跡を消す方法はありますか?
A. 完全に消すことは難しいですが、適切なケア(保湿、紫外線対策、圧迫療法など)により目立たなくすることは可能です。また、医療機関でレーザー治療やステロイド注射などの治療を受けることもできます。
Q5. やけどが治った後、いつまで紫外線対策が必要ですか?
A. 少なくとも6ヶ月から1年間は徹底した紫外線対策を続けることが推奨されます。傷跡の状態によっては、それ以上の期間続ける必要がある場合もあります。
Q6. 低温やけどはなぜ深いやけどになりやすいのですか?
A. 低温やけどは、比較的低い温度(44~50℃)でも長時間接触することで、徐々に深部まで熱が伝わっていくため、見た目以上に深いやけどになりやすいのです。また、痛みを感じにくいため、気づいた時には深いやけどになっていることが多いです。
まとめ
やけどが白くなってヒリヒリする場合、それは深達性Ⅱ度熱傷またはⅢ度熱傷の可能性があり、専門的な治療が必要なサインです。
重要なポイント
- すぐに冷やす:流水で15~30分冷却することが最優先
- 自己判断しない:白くなったやけどは必ず医療機関を受診
- 水ぶくれは破らない:感染リスクを高めるため触らない
- 民間療法は避ける:アロエや味噌などは使用しない
- 早期の適切な治療:傷跡を最小限にするために重要
やけどの深さと痛みの強さは必ずしも比例しません。白く変色している場合は、見た目以上に深刻な状態の可能性があります。
また、治癒後も適切なケア(保湿、紫外線対策、圧迫療法など)を続けることで、傷跡を目立たなくすることができます。
やけどは予防可能なケガの一つです。日常生活での注意と、万一やけどを負った場合の正しい対処法を知っておくことが大切です。
参考文献
- 日本熱傷学会 – https://www.jsbi-burn.org/
- 日本皮膚科学会 – https://www.dermatol.or.jp/
- 厚生労働省「熱傷の救急処置と受診の目安」- https://www.mhlw.go.jp/
- 日本創傷・オストミー・失禁管理学会 – https://www.jwocm.org/
- 日本形成外科学会 – http://www.jsprs.or.jp/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務