赤ちゃんの肌にブツブツやカサカサが現れると、お父さん・お母さんは「何かの病気では?」と心配になるものです。生後間もない赤ちゃんに見られる肌トラブルの多くは「乳児湿疹」と呼ばれるもので、適切なケアを行えば自然に改善していくケースがほとんどです。しかし、なかにはアトピー性皮膚炎など、早めに治療を始めたほうがよい疾患が隠れていることもあります。本記事では、乳児湿疹の原因や症状、治療法、そして毎日のスキンケアのポイントまで、詳しく解説していきます。お子さまの健やかな肌を守るために、ぜひ参考にしてください。
目次
- 乳児湿疹とは
- 乳児湿疹の種類
- 乳児湿疹の原因
- 乳児湿疹の症状と見分け方
- 乳児湿疹とアトピー性皮膚炎の違い
- 乳児湿疹の治療法
- 正しいスキンケアの方法
- ステロイド外用薬の正しい理解
- 受診の目安と医療機関の選び方
- 乳児湿疹に関するよくある質問
- まとめ
- 参考文献
1. 乳児湿疹とは
乳児湿疹とは、生後2週間頃から1歳頃までの赤ちゃんの肌に現れる湿疹の総称です。厳密には特定の病名ではなく、乳児期に生じるさまざまな皮膚トラブルをまとめて「乳児湿疹」と呼んでいます。
赤ちゃんの肌は大人と比べて非常にデリケートです。皮膚の厚さは大人の約半分程度しかなく、外部からの刺激に対するバリア機能も未発達な状態にあります。また、生まれて間もない時期はお母さんから受け継いだホルモンの影響で皮脂の分泌が活発になり、毛穴に皮脂が詰まりやすくなります。一方、生後3~4ヶ月を過ぎると今度は皮脂の分泌量が急激に減少し、乾燥しやすい状態に変化します。
このように、赤ちゃんの肌は常に変化しており、その過程でさまざまな皮膚トラブルが起こりやすいのです。乳児湿疹の多くは成長とともに自然に改善していきますが、適切なスキンケアを行うことで症状を軽減し、悪化を防ぐことができます。
乳児湿疹が起こりやすい部位
乳児湿疹は、皮脂の分泌が多い部位や、汗がたまりやすい部位、外部からの刺激を受けやすい部位に発生しやすい傾向があります。具体的には以下のような場所に多く見られます。
顔面では、頬、おでこ、あご周り、口の周りに湿疹が出やすくなります。これは、よだれや食べ物、衣類の繊維などの刺激を受けやすいためです。頭皮は皮脂の分泌が特に活発な部位であり、黄色いかさぶたのようなものが付着することがあります。首周り、脇の下、股関節部分、肘や膝の内側など、皮膚が擦れやすく汗がたまりやすい部位も湿疹が発生しやすい場所です。
乳児湿疹はいつまで続くのか
乳児湿疹がいつまで続くかは、赤ちゃんの体質や湿疹の種類によって個人差があります。一般的には、生後2~3ヶ月頃までは皮脂の過剰分泌による湿疹が多く、その後は乾燥による湿疹が増えてきます。正しいスキンケアを続けていれば、多くの場合、生後8~12ヶ月頃には症状が落ち着いてきます。
ただし、湿疹が長期間続いたり、一度よくなっても繰り返し再発したりする場合は、アトピー性皮膚炎などの可能性も考えられますので、医療機関への相談をおすすめします。
2. 乳児湿疹の種類
乳児湿疹にはいくつかの種類があり、それぞれ原因や症状、好発時期が異なります。代表的なものを詳しく見ていきましょう。
新生児中毒性紅斑
生後数日間に、胸や背中などに赤い斑点やブツブツ、小さな水ぶくれなどができる新生児特有の皮膚トラブルです。名前に「中毒性」とありますが、実際には何かの中毒ではなく、胎内環境から胎外環境への急激な変化に適応する過程で起きる生理的な変化と考えられています。新生児の約半数に見られるとされ、2週間程度で自然に治るのが特徴です。基本的に治療の必要はありません。
新生児ざ瘡(新生児ニキビ)
赤ちゃんにできるニキビのような発疹で、特に男の子に多く見られます。新生児の約20%に現れるとされています。生後2週間頃から発症し、頬やおでこなど顔の毛穴に赤いブツブツができます。
この症状は、胎盤を通じてお母さんから受け継いだホルモンの影響により皮脂の分泌が盛んになることが原因です。また、皮膚の常在菌であるマラセチア(真菌の一種)が皮脂を栄養源として増殖し、炎症を引き起こすことも関係していると考えられています。多くの場合、生後数ヶ月以内に自然と目立たなくなります。
乳児脂漏性湿疹(乳児脂漏性皮膚炎)
生後2週間から3ヶ月頃に多く見られる湿疹で、乳児湿疹の中で最も多いタイプのひとつです。皮脂の分泌が活発な頭皮、額、眉毛の周り、耳の周辺、鼻の脇、首周りなどに発生します。
特徴的な症状として、赤い小さな湿疹が散在したり、魚のウロコのような黄色っぽいかさぶた(脂漏性痂皮)ができたりします。頭皮では黄色いフケのようなものが付着することもあります。
乳児脂漏性湿疹の原因は、新生児ざ瘡と同様に、お母さんから受け継いだホルモンの影響による皮脂の過剰分泌です。皮膚の常在菌であるマラセチアに対するアレルギー反応が悪化因子となることもあります。適切なスキンケアを行うことで、生後半年頃には自然に改善していくことがほとんどです。
皮脂欠乏症・皮脂欠乏性湿疹
生後3~4ヶ月を過ぎると、それまで活発だった皮脂の分泌が急激に減少します。赤ちゃんの肌は薄くてバリア機能が未熟なため、皮脂が減ると水分が逃げやすくなり、乾燥しやすい状態になります。これが皮脂欠乏症(乾燥肌)です。
乾燥がひどくなると、肌がカサカサしたり、白い粉をふいたような状態になったり、細かいひび割れが生じたりします。さらに乾燥が進むと炎症を起こして皮脂欠乏性湿疹となり、かゆみを伴うこともあります。特に秋から冬にかけての空気が乾燥する季節に悪化しやすくなります。
腕や脚、膝や太もも、頬など、外気に触れやすい部位に症状が出やすいのが特徴です。十分な保湿ケアが予防と改善に重要となります。
おむつ皮膚炎(おむつかぶれ)
おむつで覆われている部分に生じる皮膚炎で、「おむつかぶれ」とも呼ばれます。尿や便が長時間皮膚に触れ続けることや、おむつ内部の蒸れが原因で起こります。お尻や股間部、太ももの付け根などが赤く腫れ、次第にただれを生じることがあります。強いかゆみや痛みを伴うことも少なくありません。
おむつをこまめに交換し、お尻を清潔に保つことが予防と改善の基本です。お尻を拭く際には強くこすらず、やさしく押さえるようにして汚れを取り除きましょう。
なお、おむつかぶれに似た症状で、カンジダ皮膚炎というものがあります。これはカビの一種であるカンジダが原因で起こる皮膚炎で、しわとしわの間など、尿や便が直接触れない部分にまで炎症が広がっているのが特徴です。通常のおむつかぶれの治療では改善しないため、区別して治療する必要があります。
よだれかぶれ
口の周りやあごに生じる皮膚炎で、よだれによる刺激が原因です。よだれには消化酵素が含まれており、長時間皮膚に付着していると炎症を起こしやすくなります。離乳食が始まる頃や、歯が生え始める時期によだれの量が増え、症状が悪化することがあります。
よだれが出たらこまめに拭き取ることが大切ですが、ゴシゴシとこするのは禁物です。濡れた柔らかいタオルやコットンでやさしく押さえるようにして拭き取りましょう。口の周りにワセリンなどの保護剤を塗っておくと、よだれの刺激から肌を守ることができます。
汗疹(あせも)
汗をかいた後、汗が乾きにくい部位に生じる発疹です。赤ちゃんは大人と同じ数の汗腺を持っていますが、体の表面積が小さいため、同じ面積あたりの汗腺の数は大人の6~7倍にもなります。そのため大人の2~3倍の汗をかく大変な汗っかきなのです。
汗疹は、頭、首、脇の下、背中、肘や膝の内側など、汗がたまりやすく乾きにくい部位に多く発生します。赤や白の小さなブツブツが特徴で、かゆみを伴うこともあります。
涼しい環境を保ち、こまめに汗を拭いて肌を清潔にすることで予防できます。汗をかいたまま放置しないことが大切です。
3. 乳児湿疹の原因
乳児湿疹の原因はひとつではなく、いくつかの要因が複合的に関係していることが多いです。主な原因について詳しく見ていきましょう。
ホルモンの影響による皮脂の過剰分泌
生まれたばかりの赤ちゃんは、胎盤を通じてお母さんから受け継いだ女性ホルモンの影響を受けています。このホルモンの作用により、生後しばらくの間は皮脂の分泌が非常に活発になります。赤ちゃんの毛穴は小さいため、過剰に分泌された皮脂が毛穴に詰まりやすく、これが新生児ざ瘡や乳児脂漏性湿疹の原因となります。
お母さんから受け継いだホルモンの影響は生後2~3ヶ月頃から薄れていき、それに伴って皮脂の分泌量も減少していきます。
乾燥によるバリア機能の低下
生後3~4ヶ月を過ぎると、皮脂の分泌量が急激に減少します。赤ちゃんの肌は大人の半分程度の薄さしかなく、水分を保持する力も弱いため、皮脂が減ると肌は乾燥しやすくなります。
肌が乾燥すると、皮膚のバリア機能が低下します。バリア機能とは、外部からの刺激物質やアレルゲン、細菌などの侵入を防ぎ、体内の水分が蒸発するのを防ぐ働きのことです。このバリア機能が低下すると、わずかな刺激でも炎症を起こしやすくなり、湿疹の原因となります。
外部からの刺激
赤ちゃんの肌は外部からの刺激に非常に敏感です。以下のようなものが刺激となり、湿疹を引き起こすことがあります。
汗については、赤ちゃんは大量の汗をかきますが、汗をかいたまま放置すると、汗に含まれる塩分や老廃物が肌を刺激します。よだれや食べ物も刺激の原因となり、口の周りやあご周りに湿疹を起こしやすくします。衣類の繊維、特にウールやナイロンなど肌触りの硬い素材は、摩擦によって肌を刺激することがあります。洗剤や石けんの成分が残っていると、それが刺激となることもあります。おむつの中の尿や便も、長時間接触していると肌を刺激します。
常在菌の影響
皮膚には、健康な状態でもさまざまな細菌や真菌(カビ)が住み着いています。これらを常在菌と呼びます。通常は問題を起こしませんが、皮脂が多い環境では、マラセチアという真菌が増殖しやすくなります。このマラセチアに対するアレルギー反応が、乳児脂漏性湿疹の悪化因子のひとつと考えられています。
アレルギー素因
両親や兄弟にアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどのアレルギー疾患がある場合、赤ちゃんもアレルギー体質を受け継いでいる可能性があります。このような「アトピー素因」を持つ赤ちゃんは、湿疹を起こしやすく、また長引きやすい傾向があります。
4. 乳児湿疹の症状と見分け方
乳児湿疹の症状は、原因となっている皮膚トラブルの種類によってさまざまです。代表的な症状の特徴を知っておくと、早めに適切なケアを行うことができます。
赤いブツブツ
小さな赤い発疹が散らばって見られます。新生児ざ瘡や汗疹などでよく見られる症状です。かゆみを伴うこともあれば、伴わないこともあります。
黄色いかさぶた・フケ状の塊
乳児脂漏性湿疹で特徴的な症状です。頭皮や眉毛、額などに黄色っぽいかさぶたやフケのような塊が付着します。うろこ状に見えることもあります。見た目は気になりますが、痛みやかゆみはあまり伴わないことが多いです。
カサカサ・粉ふき
皮脂欠乏症(乾燥肌)の症状です。肌の水分が失われ、カサカサした状態になったり、白い粉をふいたように見えたりします。触るとザラザラした感触があることもあります。
ジュクジュク
湿疹がひどくなると、患部から浸出液が出てジュクジュクした状態になることがあります。これは皮膚の炎症が強いサインです。また、湿疹を掻き壊してしまった場合にも同様の状態になります。ジュクジュクした状態は細菌感染を起こしやすいため、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
かゆみ
乳児湿疹の種類によって、かゆみの程度は異なります。乳児脂漏性湿疹や新生児ざ瘡は、あまりかゆみを伴わないことが多いです。一方、皮脂欠乏性湿疹やアトピー性皮膚炎では、かゆみが強く出ることがあります。
赤ちゃんは自分で「かゆい」と言葉で伝えることができないため、以下のようなサインに注意しましょう。顔を衣類や寝具にこすりつける、手で顔や体を掻こうとする、機嫌が悪くなる、眠りが浅くなる、哺乳量が減るなどの様子が見られたら、かゆみのサインかもしれません。
5. 乳児湿疹とアトピー性皮膚炎の違い
乳児湿疹とアトピー性皮膚炎は症状が似ているため、初期の段階では見分けることが難しい場合があります。しかし、両者には重要な違いがあり、治療方針も異なってきます。
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は、かゆみのある湿疹を主な症状とする慢性的な皮膚疾患です。良くなったり悪くなったりを繰り返しながら長期間続くのが特徴で、患者さんの多くは「アトピー素因」を持っています。アトピー素因とは、本人または家族にアレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎など)の既往がある、あるいはアレルギー反応に関わるIgE抗体が作られやすい体質のことを指します。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、アトピー性皮膚炎と診断するためには、かゆみのある湿疹が乳児では2ヶ月以上、乳児以外では6ヶ月以上続くことが条件のひとつとされています。
乳児湿疹とアトピー性皮膚炎の見分け方
初期の段階では、乳児湿疹とアトピー性皮膚炎を明確に区別することは難しいです。そのため、医師も「乳児湿疹ですね」と診断し、治療しながら経過を観察することになります。
ただし、以下のような特徴がある場合は、アトピー性皮膚炎の可能性が高いと考えられます。
湿疹が2ヶ月以上続いている場合は要注意です。一般的な乳児湿疹であれば、適切なスキンケアで比較的早く改善しますが、アトピー性皮膚炎は慢性的に続きます。良くなったり悪くなったりを繰り返す場合も注意が必要です。乳児脂漏性湿疹などは自然に治っていきますが、アトピー性皮膚炎は再発を繰り返します。
顔や頭以外にも湿疹が広がっている場合も、アトピー性皮膚炎を疑うサインです。乳児脂漏性湿疹は皮脂の多い顔や頭に限定されることが多いですが、アトピー性皮膚炎では体幹や四肢にも湿疹が見られます。強いかゆみがある場合や、家族にアレルギー疾患の既往がある場合も、アトピー性皮膚炎の可能性を考える必要があります。
早期発見・早期治療の重要性
近年の研究では、乳児期のアトピー性皮膚炎を早期に適切に治療することが、その後のアレルギー疾患の発症予防につながる可能性があることがわかってきました。
国立成育医療研究センターの研究によると、皮膚のバリア機能が低下した状態でアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)が皮膚から体内に侵入すると、アレルギー反応の原因となる「感作」が起こりやすくなることが示されています。これを「経皮感作」と呼びます。つまり、湿疹のある皮膚からアレルゲンが入り込むことで、食物アレルギーなどのアレルギー疾患が発症しやすくなる可能性があるのです。
同センターの別の研究では、アトピー性皮膚炎の赤ちゃんに対して早期から積極的な治療を行い、湿疹のない状態を維持することで、鶏卵アレルギーの発症を予防できることが世界で初めて実証されました。
このような研究結果から、乳児期の湿疹を「そのうち治るだろう」と放置せず、早めに医療機関を受診して適切な治療を受けることが重要だと言えます。
6. 乳児湿疹の治療法
乳児湿疹の多くは、適切なスキンケアを行うことで改善していきます。ただし、炎症が強い場合や、かゆみがひどい場合は、外用薬による治療が必要になることもあります。
基本はスキンケア
乳児湿疹の治療の基本は、「肌を清潔にすること」と「保湿をしっかり行うこと」の2つです。この基本的なスキンケアだけで改善するケースも少なくありません。詳しいスキンケアの方法については、次の章で詳しく説明します。
外用薬による治療
スキンケアだけでは改善しない場合や、炎症が強い場合は、医師の判断で外用薬が処方されることがあります。
保湿剤は、肌の乾燥を防ぎ、バリア機能を補うために使用します。ワセリン、ヘパリン類似物質、尿素製剤などさまざまな種類があり、赤ちゃんの肌の状態に合わせて選択されます。
ステロイド外用薬は、皮膚の炎症を抑える効果があります。赤ちゃんには皮膚が薄いため、通常は強さが弱いタイプ(ウィーク~ミディアム)のものが使用されます。後述しますが、医師の指示に従って適切に使用すれば、安全性の高い薬です。
非ステロイド性抗炎症外用薬として、近年はタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏、2歳以上で使用可能)や、JAK阻害薬であるデルゴシチニブ軟膏(コレクチム軟膏、生後6ヶ月以上で使用可能)、ジファミラスト軟膏(モイゼルト軟膏、生後3ヶ月以上で使用可能)など、ステロイド以外の選択肢も増えてきました。
抗真菌薬は、乳児脂漏性湿疹でマラセチアの関与が疑われる場合に使用されることがあります。また、おむつかぶれにカンジダ皮膚炎が合併している場合にも使用されます。
治療の進め方
アトピー性皮膚炎や長引く湿疹の治療は、一般的に以下のような流れで進められます。
まず寛解導入療法として、ステロイド外用薬などを使って炎症をしっかり抑え、湿疹のない状態(寛解)を目指します。見た目がきれいになっても、皮膚の内部にはまだ炎症が残っていることがあるため、自己判断で薬をやめないことが大切です。
次に寛解維持療法として、湿疹がなくなってきたら、徐々に薬の使用頻度を減らしていきます。保湿剤によるスキンケアを継続しながら、良い状態を維持することを目指します。再発を繰り返す場合は、週に数回ステロイド外用薬を塗る「プロアクティブ療法」が行われることもあります。
7. 正しいスキンケアの方法
毎日のスキンケアは、乳児湿疹の予防と改善に非常に重要です。ポイントは「清潔」と「保湿」の2つ。正しい方法で行いましょう。
洗い方のポイント
入浴は毎日行い、赤ちゃんの肌を清潔に保ちましょう。お湯の温度は38~40度のぬるめが適しています。熱いお湯は肌の皮脂を奪いすぎ、乾燥の原因になります。また、長湯も同様に乾燥を招くため、入浴時間は5~10分程度にとどめましょう。
石けんやボディソープは、赤ちゃん用の低刺激性のものを使用します。よく泡立てて、泡で包み込むように洗うのがコツです。スポンジやガーゼは肌を傷つけることがあるため、手のひらでやさしく洗うのがおすすめです。
洗う部位として、顔もしっかり洗いましょう。「赤ちゃんの顔は拭くだけでよい」と思っている方もいるかもしれませんが、顔は皮脂の分泌が多く汚れやすい部位です。泡立てた石けんで、こすらずにやさしく洗ってください。目に石けんが入らないよう注意しながら、おでこ、頬、鼻、あごと順番に洗っていきます。頭皮も同様に、指の腹を使ってやさしく洗いましょう。
首のしわ、脇の下、肘や膝の内側、股関節部分、手首や足首など、皮膚が重なっている部分は汚れがたまりやすいです。皮膚を少し広げながら、しっかり洗いましょう。
すすぎは十分に行います。石けんの成分が肌に残っていると、それが刺激となって湿疹の原因になることがあります。シャワーを使って、泡が残らないように丁寧にすすぎましょう。赤ちゃんは羊水の中にいたので、顔に水がかかっても大丈夫です。
乳児脂漏性湿疹で頭皮や眉毛に黄色いかさぶたが付着している場合は、無理にはがそうとしないでください。入浴前にベビーオイルやオリーブオイルでふやかしてから、泡立てた石けんでやさしく洗うと、きれいに落とすことができます。
拭き方のポイント
入浴後は、清潔なバスタオルで水分を拭き取ります。ゴシゴシとこすらず、ポンポンと軽く押さえるようにして拭くのがポイントです。しわの部分や皮膚が重なっている部分は水分が残りやすいので、特に丁寧に拭きましょう。
保湿のポイント
入浴後は、肌から水分が蒸発しやすい状態になっています。体を拭いたら、なるべく早く(できれば5分以内に)保湿剤を塗りましょう。
保湿剤の種類には、ローション、クリーム、ワセリン・オイルなどがあり、それぞれ特徴が異なります。ローションは水分が多くさらっとした使用感で、夏場や広い範囲に塗るのに適しています。クリームは水分と油分のバランスがよく、季節を問わず使いやすいです。ワセリンやオイルは油分が多く保湿力が高いため、乾燥がひどい部分や冬場に適しています。ただし、ワセリンやオイルには水分を与える効果はないため、先にローションで水分を補ってからワセリンで蓋をする、という使い方も効果的です。
保湿剤の量について、「たっぷり塗りましょう」とよく言われますが、具体的にはどのくらいの量が適切なのでしょうか。目安として、軟膏やクリームであれば、大人の人差し指の先端から第一関節までの長さ(約0.5g)で、大人の手のひら2枚分の面積に塗ることができます。ローションであれば、1円玉大で同様の面積をカバーできます。
塗り方は、手のひらに保湿剤を取り、両手でなじませてから、赤ちゃんの肌にやさしく塗り広げます。すり込まずに、表面をなでるように塗るのがコツです。しわの部分は皮膚を少し広げながら塗りましょう。顔、首、体、腕、脚と全身にまんべんなく塗ってください。頭皮も乾燥しやすいので、髪をかき分けながら地肌に保湿剤を塗りましょう。
日常生活での注意点
入浴後以外にも、おむつ替えの後、よだれを拭いた後、外出前後など、こまめに保湿をするとより効果的です。赤ちゃんの爪は短く切っておきましょう。かゆみで無意識に皮膚を掻いてしまうと、湿疹が悪化したり、傷から細菌が入ったりする原因になります。
衣類は、肌に直接触れるものは綿100%など、肌触りの柔らかい素材を選びましょう。洗濯洗剤は、すすぎを十分に行い、洗剤成分が衣類に残らないようにします。室内の温度や湿度にも気を配りましょう。暖房のかけすぎは乾燥を招き、汗をかきすぎると汗疹の原因になります。適度な温度(冬は20~22度程度)と湿度(50~60%程度)を保つことが大切です。
8. ステロイド外用薬の正しい理解
「ステロイド」と聞くと、「怖い薬」「副作用が心配」というイメージを持つ方も少なくないかもしれません。しかし、ステロイド外用薬は正しく使えば非常に効果的で、安全性の高い薬です。ここでは、ステロイド外用薬について正しく理解していただくための情報をお伝えします。
ステロイド外用薬とは
ステロイドは、もともと私たちの体の中で作られているホルモン(副腎皮質ホルモン)の一種です。このホルモンには、アレルギーなどの免疫反応を抑えて炎症を鎮める働きがあります。この抗炎症作用を利用して塗り薬にしたものが、ステロイド外用薬です。
ステロイド外用薬は、湿疹や皮膚炎の治療に広く使用されており、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインでも「治療の基本となる薬剤」とされています。
ステロイド外用薬の強さのランク
ステロイド外用薬には、効果の強さによって5段階のランクがあります。強い順に、ストロンゲスト(最強)、ベリーストロング(非常に強い)、ストロング(強い)、ミディアム(中程度)、ウィーク(弱い)となっています。
赤ちゃんの皮膚は薄く、薬の吸収がよいため、通常はウィーク~ミディアムの弱めのランクの薬が使用されます。また、顔や陰部など皮膚が薄い部位には、より弱いランクの薬を使用します。医師は、湿疹の重症度、部位、年齢などを考慮して、適切なランクのステロイド外用薬を選択します。
よくある誤解と正しい知識
ステロイド外用薬に対しては、さまざまな誤解があります。正しい知識を持って、安心して治療に臨みましょう。
「ステロイドを塗ると皮膚が黒くなる」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。これは誤解です。湿疹を放置して掻き続けることで炎症が慢性化し、その結果として色素沈着(皮膚が黒ずむこと)が起こることがあります。つまり、ステロイドの副作用ではなく、湿疹そのものが原因なのです。むしろ、ステロイド外用薬で早めに炎症を抑えることで、色素沈着を予防することができます。
「一度使うとやめられなくなる」「体に蓄積する」という心配をされる方もいますが、ステロイドホルモンには依存性や体内に蓄積する性質は科学的に認められていません。ただし、湿疹が完全に治る前に薬をやめてしまうと再発することがあるため、医師の指示に従って徐々に減量していくことが大切です。
「骨が弱くなる」「糖尿病になる」といった全身性の副作用は、ステロイドの内服薬や注射を長期間使用した場合に起こりうるものです。皮膚に塗る外用薬では、用法・用量を守って使用する限り、このような全身性の副作用が問題になることはほとんどありません。
起こりうる副作用と対策
ステロイド外用薬を長期間、同じ場所に塗り続けた場合、局所的な副作用が起こることがあります。具体的には、皮膚が薄くなる、毛細血管が拡張して赤みが目立つ、産毛が濃くなる、にきびができやすくなるなどの症状です。
これらの副作用は、強いランクのステロイドを長期間使用した場合に起こりやすく、弱いランクの薬を短期間使用する場合はほとんど心配ありません。また、副作用が起きても、薬の使用を中止すれば改善することがほとんどです。
副作用を防ぐためには、医師の指示通りに使用すること、症状が改善したら徐々に使用頻度を減らすこと、自己判断で長期間使い続けないことが大切です。
ステロイド外用薬の正しい使い方
効果を最大限に発揮し、副作用を防ぐために、以下のポイントを守りましょう。
十分な量を塗ることが大切です。「副作用が心配だから」と薄く塗ったり、湿疹の部分だけにちょんちょんと塗ったりすると、十分な効果が得られません。結果として治療期間が長引き、かえってステロイドの総使用量が増えてしまうことがあります。湿疹の部分だけでなく、その周囲も含めて、しっかりと塗りましょう。
決められた回数を守りましょう。通常は1日1~2回の塗布が指示されます。塗る回数を増やしても効果は上がらず、副作用のリスクだけが高まります。
炎症が治まっても急にやめないでください。見た目がきれいになっても、皮膚の内部にはまだ炎症が残っていることがあります。医師の指示に従って、徐々に塗る回数を減らしていきましょう。例えば、1日2回から1日1回へ、1日1回から2日に1回へ、というように段階的に減量します。
保湿は継続しましょう。ステロイド外用薬には保湿効果はありません。湿疹が改善しても、毎日のスキンケアは継続することが大切です。
9. 受診の目安と医療機関の選び方
乳児湿疹の多くは自宅でのスキンケアで改善しますが、以下のような場合は医療機関を受診することをおすすめします。
受診すべきタイミング
湿疹がなかなか治らない、または悪化している場合は受診を検討してください。適切なスキンケアを1~2週間続けても改善が見られない場合は、何か別の原因があるかもしれません。
かゆみが強く、赤ちゃんが機嫌悪い、眠れない場合も受診の目安です。かゆみで不快な思いをしている赤ちゃんのためにも、早めに対処してあげましょう。
湿疹がジュクジュクしている、膿が出ている場合は、細菌感染を起こしている可能性があります。とびひ(伝染性膿痂疹)などの感染症に発展することもあるため、早めの受診が必要です。
湿疹が広範囲に広がっている場合や、良くなったり悪くなったりを繰り返している場合は、アトピー性皮膚炎の可能性も考えられます。
発熱など全身症状を伴う場合も、速やかに医療機関を受診してください。
市販薬を使っても改善しない場合も、医師に相談しましょう。赤ちゃんの肌は敏感なため、自己判断での市販薬の使用は避け、医療機関を受診することをおすすめします。
小児科と皮膚科、どちらを受診すべきか
乳児湿疹の場合、小児科と皮膚科のどちらを受診しても問題ありません。
小児科を受診するメリットとしては、赤ちゃん特有の疾患に詳しいこと、湿疹以外の症状も合わせて診てもらえること、予防接種や乳幼児健診と同時に相談できることなどがあります。
皮膚科を受診するメリットとしては、皮膚疾患に特化した専門的な診療を受けられること、さまざまな皮膚疾患との鑑別ができること、より詳しいスキンケア指導を受けられることなどがあります。
迷った場合は、まずはかかりつけの小児科に相談してみるのもよいでしょう。必要に応じて皮膚科を紹介してもらえます。

10. 乳児湿疹に関するよくある質問
乳児湿疹自体が遺伝するわけではありませんが、アレルギー体質(アトピー素因)は遺伝的な要素があります。両親や兄弟にアトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患がある場合、赤ちゃんもアレルギー体質を受け継いでいる可能性があります。ただし、アトピー素因があっても必ずしも発症するわけではなく、適切なスキンケアを行うことで予防できる可能性があります。
乳児湿疹の主な原因は、皮脂の過剰分泌や乾燥、外部からの刺激などであり、母乳やミルクが直接の原因となることは稀です。ただし、まれに食物アレルギーが関係している場合もあります。食物アレルギーが疑われる場合は、自己判断で母乳や離乳食の制限を行わず、医師に相談してください。
Q3. 保湿剤は何を選べばよいですか?
赤ちゃん用の低刺激性の保湿剤を選びましょう。香料や着色料、アルコールなどが含まれていない製品がおすすめです。季節や肌の状態に合わせて、ローション、クリーム、ワセリンなどを使い分けるとよいでしょう。どれを選べばよいかわからない場合は、医師や薬剤師に相談してください。
Q4. 湿疹があるときに予防接種は受けられますか?
軽度の乳児湿疹であれば、予防接種を受けることができます。ただし、湿疹がひどい場合や、発熱などの全身症状がある場合は、接種を延期することがあります。予防接種の前に医師に相談し、判断を仰ぎましょう。
Q5. 石けんを使わないほうがよいですか?
皮脂や汚れは、ぬるま湯だけでは十分に落とすことができません。特に皮脂の分泌が多い顔や頭皮は、石けんを使ってしっかり洗うことが大切です。ただし、乾燥がひどい部分や、湿疹で肌がデリケートになっている部分は、石けんの使用を控えめにしたり、洗う頻度を減らしたりすることもあります。赤ちゃんの肌の状態を見ながら、適切に調整しましょう。
Q6. 入浴は毎日必要ですか?
基本的には毎日の入浴をおすすめします。赤ちゃんは新陳代謝が活発で、汗もたくさんかきます。肌を清潔に保つことが、乳児湿疹の予防と改善につながります。ただし、冬場で乾燥がひどい場合などは、石けんの使用を1日おきにするなどの調整をしてもよいでしょう。
11. まとめ
乳児湿疹は、赤ちゃんの成長過程でよく見られる皮膚トラブルです。多くの場合、適切なスキンケアを行うことで改善していきます。ポイントをまとめると、以下のようになります。
乳児湿疹は、新生児ざ瘡、乳児脂漏性湿疹、皮脂欠乏性湿疹、おむつかぶれなど、さまざまな皮膚トラブルの総称です。原因は皮脂の過剰分泌や乾燥、外部からの刺激など、複合的な要因が関係しています。
スキンケアの基本は「清潔」と「保湿」です。毎日の入浴で肌を清潔に保ち、入浴後はすぐに保湿剤を塗りましょう。赤ちゃんの肌は非常にデリケートなので、やさしくケアすることが大切です。
スキンケアで改善しない場合は、医療機関を受診しましょう。ステロイド外用薬は、正しく使えば安全で効果的な薬です。医師の指示に従って適切に使用してください。
乳児湿疹とアトピー性皮膚炎は初期症状が似ていますが、早期発見・早期治療が重要です。湿疹が長引いたり繰り返したりする場合は、早めに医療機関に相談しましょう。
乳児期の適切なスキンケアと早期治療は、将来のアレルギー疾患の予防にもつながる可能性があります。赤ちゃんの健やかな肌と健康を守るために、毎日のケアを大切にしていきましょう。
参考文献
- アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(日本皮膚科学会・日本アレルギー学会)
- 一般公開ガイドライン(日本皮膚科学会)
- 日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎の定義・診断基準」(日本アトピー協会)
- アレルギーについて(国立成育医療研究センター)
- アトピー性皮膚炎(国立成育医療研究センター)
- 世界初・アレルギー疾患の発症予防法を発見(国立成育医療研究センター プレスリリース)
- 乳児期のアトピー性皮膚炎への早期治療介入が鶏卵アレルギーの発症予防につながる(国立成育医療研究センター プレスリリース)
- 乳幼児スキンケア(独立行政法人 環境再生保全機構)
- 赤ちゃんの皮膚の特徴と保湿について(田辺三菱製薬 ヒフノコトサイト)
- 乳児湿疹とは?原因・症状・治療法(田辺三菱製薬 ヒフノコトサイト)
- ステロイド外用剤の強さの分類と選び方(田辺三菱製薬 ヒフノコトサイト)
- 赤ちゃん・子どものお肌に起こりがちな皮膚トラブルとセルフケア(第一三共ヘルスケア くすりと健康の情報局)
- 山梨大学医学部附属病院 アレルギーセンター 乳児湿疹
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務