はじめに
長引く咳や発熱に悩まされていませんか?「ただの風邪だろう」と思っていたら、実はマイコプラズマ肺炎かもしれません。マイコプラズマ肺炎は、子どもだけでなく大人にも発症する感染症で、近年では成人の発症例が増加傾向にあります。
特に働き盛りの20〜40代の方々にとって、長引く症状は日常生活や仕事に大きな支障をきたします。本記事では、大人のマイコプラズマ肺炎の症状や特徴、セルフチェック方法、そして適切な対処法について、アイシークリニック大宮院の医療知見に基づき詳しく解説していきます。
マイコプラズマ肺炎とは
マイコプラズマ肺炎の基本知識
マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)」という微生物によって引き起こされる呼吸器感染症です。この病原体は、一般的な細菌とウイルスの中間的な性質を持つ特殊な微生物で、細胞壁を持たないという特徴があります。
国立感染症研究所によると、マイコプラズマ肺炎は「非定型肺炎」の代表的な原因の一つとされており、通常の細菌性肺炎とは異なる症状パターンを示すことが知られています。
発症のメカニズム
マイコプラズマは飛沫感染により人から人へと感染します。感染すると、気道の粘膜に付着し、繊毛運動を障害することで炎症を引き起こします。潜伏期間は通常2〜3週間と比較的長く、この間に自覚症状がなくても周囲に感染を広げる可能性があります。
流行の特徴
マイコプラズマ肺炎は、かつて「オリンピック肺炎」とも呼ばれ、4年周期で大流行する傾向がありました。しかし近年では、この周期性は不明瞭になり、年間を通じて散発的に発生するようになっています。特に秋から冬にかけて患者数が増加する傾向にあります。
厚生労働省の統計によれば、小児だけでなく成人の感染者も増加しており、全年齢層で注意が必要な感染症となっています。
大人のマイコプラズマ肺炎の症状
初期症状の特徴
大人がマイコプラズマ肺炎に感染した場合、最初は一般的な風邪と区別がつきにくい症状から始まります。
主な初期症状:
- 全身のだるさ(倦怠感)
 - 軽度の発熱(37〜38℃程度)
 - 頭痛
 - 咽頭痛
 - 鼻水・鼻づまり
 
これらの症状は風邪と非常に似ているため、初期段階では見過ごされがちです。しかし、数日経過すると特徴的な症状が現れてきます。
特徴的な症状:しつこい咳
マイコプラズマ肺炎の最も特徴的な症状が「長引く咳」です。大人の場合、この咳には以下のような特徴があります。
咳の特徴:
- 乾いた咳(乾性咳嗽)が主体
- 初期は痰の絡まない、コンコンとした乾いた咳が続きます
 - 夜間や早朝に悪化する傾向があります
 - 咳き込みが激しく、睡眠が妨げられることも
 
 - 徐々に湿った咳へ移行
- 発症から1〜2週間経過すると、粘り気のある痰を伴う湿った咳(湿性咳嗽)に変化します
 - 痰は白色〜黄色がかったものが一般的です
 
 - 長期間継続する
- 咳は3〜4週間、場合によっては1〜2ヶ月続くこともあります
 - 他の症状が改善した後も咳だけが残存することが特徴的です
 
 
発熱パターン
大人のマイコプラズマ肺炎における発熱には、子どもとは異なる特徴があります。
発熱の特徴:
- 38〜39℃の発熱が一般的ですが、37℃台の微熱で経過することもあります
 - 高熱が出ても、比較的全身状態は保たれることが多い(これを「比較的徐脈」と呼びます)
 - 発熱は通常3〜5日程度で解熱しますが、咳は発熱が治まった後も長く続きます
 - 解熱剤に反応しにくい場合があります
 
呼吸器症状以外の症状
マイコプラズマ肺炎では、肺以外にも様々な症状が現れることがあります。
全身症状:
- 倦怠感・疲労感: 強い疲労感が続き、日常生活に支障をきたすことがあります
 - 筋肉痛・関節痛: インフルエンザのような全身の痛みを感じることがあります
 - 頭痛: 持続性の頭痛が見られることがあります
 - 食欲不振: 食事が進まず、体力の低下につながります
 
その他の症状:
- 胸痛: 咳き込むことによる筋肉痛や、胸膜炎を伴う場合の胸痛
 - 嗄声(声のかすれ): 咳のしすぎによる声帯への負担
 - 消化器症状: 下痢、腹痛、嘔吐などが見られることもあります(特に小児に多い)
 - 皮疹: 発疹が出現することがあります(頻度は低い)
 
年代別の症状の違い
大人のマイコプラズマ肺炎でも、年代によって症状の現れ方に違いがあります。
20〜30代:
- 比較的典型的な症状を示すことが多い
 - 咳が強く、長期化する傾向
 - 仕事や日常生活への影響が大きい
 
40〜50代:
- 症状が軽微で気づきにくい場合がある
 - 慢性的な咳として見過ごされることも
 - 基礎疾患がある場合、重症化リスクが高まる
 
60代以上:
- 典型的な症状が揃わないことがある
 - 急速に重症化する可能性がある
 - 誤嚥性肺炎との鑑別が重要
 
大人のためのマイコプラズマ肺炎セルフチェック
ここでは、マイコプラズマ肺炎の可能性を自己判断するためのチェックリストを提示します。該当する項目が多いほど、マイコプラズマ肺炎の可能性が高まります。
症状チェックリスト
以下の項目に当てはまるものをチェックしてみてください。
□ 咳に関するチェック項目:
- 乾いた咳が2週間以上続いている
 - 夜間や早朝に咳がひどくなる
 - 咳き込んで眠れない、または目が覚める
 - 咳がだんだん痰を伴うようになってきた
 - 咳止め薬を飲んでも咳が改善しない
 
□ 発熱に関するチェック項目:
- 37.5℃以上の発熱がある、または最近あった
 - 発熱が3日以上続いている
 - 解熱剤を飲んでも熱が下がりにくい
 - 微熱が続いている
 
□ 全身状態に関するチェック項目:
- 強い倦怠感・疲労感がある
 - 食欲が低下している
 - 筋肉痛や関節痛がある
 - 頭痛が続いている
 
□ 呼吸に関するチェック項目:
- 息苦しさを感じる
 - 深呼吸をすると胸が痛い
 - 運動時に呼吸が苦しくなる
 - 話すと咳き込んでしまう
 
□ 感染リスクに関するチェック項目:
- 家族や職場にマイコプラズマ肺炎の患者がいる、またはいた
 - 最近、集団生活の場にいた(寮、合宿など)
 - 周囲で同じような症状の人が複数いる
 
□ 経過に関するチェック項目:
- 最初は風邪だと思っていたが、症状が長引いている
 - 他の症状は改善したのに咳だけが残っている
 - 症状が出始めてから3週間以上経過している
 
判定の目安
10個以上該当する場合: マイコプラズマ肺炎の可能性が高いと考えられます。速やかに医療機関を受診することをお勧めします。
6〜9個該当する場合: マイコプラズマ肺炎の可能性があります。症状が改善しない場合や悪化する場合は、医療機関を受診してください。
5個以下の場合: マイコプラズマ肺炎の可能性は比較的低いですが、症状が長引く場合や気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
セルフチェックの注意点
このセルフチェックは、あくまでも目安であり、医学的な診断を代替するものではありません。以下の点にご注意ください。
- すぐに受診すべき症状:
- 高熱(39℃以上)が続く
 - 呼吸困難や息切れが強い
 - 意識がもうろうとする
 - 胸痛が強い
 - 痰に血が混じる
 
 - 自己判断の限界: セルフチェックで該当項目が少なくても、重症化している可能性はあります。特に高齢者や基礎疾患のある方は、早めの受診を心がけてください。
 - 他の疾患との鑑別: マイコプラズマ肺炎と似た症状を示す疾患は多数あります(インフルエンザ、COVID-19、他の細菌性肺炎など)。確定診断には医療機関での検査が必要です。
 
マイコプラズマ肺炎の診断方法
医療機関での診断プロセス
マイコプラズマ肺炎の診断は、複数の要素を総合的に判断して行われます。
1. 問診と身体診察
医師は以下のような情報を詳しく聞き取ります。
問診内容:
- 症状の詳細(咳の性質、発熱の経過など)
 - 症状の発症時期と経過
 - 周囲での流行状況
 - 基礎疾患の有無
 - 服用中の薬
 
身体診察:
- 聴診器による肺の音の確認
 - 喉の状態の確認
 - バイタルサイン(体温、血圧、脈拍、酸素飽和度)の測定
 
聴診では、「捻髪音(ねんぱつおん)」と呼ばれる特徴的な呼吸音が聞かれることがありますが、必ずしも全例で認められるわけではありません。
2. 胸部X線検査(レントゲン)
胸部X線検査は、肺炎の診断に欠かせない検査です。
マイコプラズマ肺炎のX線所見の特徴:
- 肺の下部に網状影や粒状影が見られる
 - 片側性の病変が多い(両側性のこともある)
 - 「すりガラス状陰影」と呼ばれる淡い影が特徴的
 - 胸水貯留は比較的少ない
 
ただし、X線所見だけでマイコプラズマ肺炎と確定診断することは困難で、他の検査と組み合わせて判断します。
3. 血液検査
血液検査では、以下の項目をチェックします。
一般的な血液検査:
- 白血球数:正常範囲または軽度上昇(細菌性肺炎ほど上昇しない)
 - CRP(炎症反応):上昇が見られる
 - LDH:上昇することが多い
 
特異的検査:
- マイコプラズマ抗体検査:IgM抗体、IgG抗体を測定します
- IgM抗体:感染初期から上昇(発症後1週間程度で陽性化)
 - IgG抗体:ペア血清で4倍以上の上昇があれば診断確定
 - 単回の抗体価測定では診断が難しい場合があります
 
 - LAMP法(遺伝子検査):近年普及してきた迅速診断法
- 咽頭ぬぐい液や痰からマイコプラズマのDNAを検出
 - 結果が早く出る(数時間以内)
 - 感度・特異度が高い
 
 
4. その他の検査
必要に応じて以下の検査が行われることもあります。
- 胸部CT検査:X線で不明瞭な病変を詳しく調べる
 - 喀痰検査:痰の細菌培養や性状を調べる
 - 血液ガス分析:重症例で酸素化の状態を評価
 - 心電図:合併症の確認
 
診断の難しさ
マイコプラズマ肺炎の診断には、いくつかの困難な点があります。
- 初期診断の困難性: 抗体検査は発症初期では陰性のことがあり、確定診断までに時間がかかります。
 - 他の疾患との鑑別: クラミジア肺炎、レジオネラ肺炎、ウイルス性肺炎など、似た症状を示す疾患が多数あります。
 - 無症候性キャリア: 症状がなくても検査で陽性になることがあり、真の感染を判断しにくい場合があります。
 
このため、日本呼吸器学会では、臨床症状、検査所見、画像所見を総合的に判断して診断することを推奨しています。
マイコプラズマ肺炎の治療法
抗菌薬治療
マイコプラズマ肺炎の治療の中心は、適切な抗菌薬の投与です。マイコプラズマは細胞壁を持たないため、細胞壁合成阻害薬(ペニシリン系、セフェム系)は効果がありません。
使用される抗菌薬の種類
1. マクロライド系抗菌薬
- クラリスロマイシン(クラリス®)
 - アジスロマイシン(ジスロマック®)
 - エリスロマイシン
 
成人の第一選択薬として最も一般的に使用されます。通常、服用開始から2〜3日で解熱し、症状が改善し始めます。
投与期間:
- クラリスロマイシン:7〜14日間
 - アジスロマイシン:3日間(効果は約1週間持続)
 
2. テトラサイクリン系抗菌薬
- ミノサイクリン(ミノマイシン®)
 - ドキシサイクリン
 
マクロライド耐性株や、マクロライド系でアレルギーがある場合に使用されます。
3. ニューキノロン系抗菌薬
- レボフロキサシン(クラビット®)
 - トスフロキサシン
 
重症例や他の抗菌薬が無効な場合に使用されます。
薬剤耐性の問題
近年、マクロライド系抗菌薬に対する耐性株の増加が問題となっています。国立感染症研究所の報告によると、日本では小児を中心にマクロライド耐性マイコプラズマの検出率が高まっています。
耐性株の場合:
- 治療開始後も発熱が続く(3日以上)
 - 咳などの症状が改善しない
 - このような場合は、抗菌薬の変更が必要となります
 
対症療法
抗菌薬治療と並行して、症状を和らげるための対症療法も重要です。
咳への対処
咳止め薬(鎮咳薬):
- デキストロメトルファン(メジコン®など)
 - コデインリン酸塩
 - チペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン®)
 
乾いた咳がひどい場合に使用します。ただし、痰が絡む場合は、咳を完全に止めてしまうと痰の排出が妨げられるため、注意が必要です。
去痰薬:
- カルボシステイン(ムコダイン®)
 - アンブロキソール(ムコソルバン®)
 - L-カルボシステイン
 
痰を柔らかくして排出しやすくします。
発熱への対処
解熱鎮痛薬:
- アセトアミノフェン(カロナール®など)
 - ロキソプロフェン(ロキソニン®)
 - イブプロフェン
 
38.5℃以上の高熱で辛い場合に使用します。ただし、むやみに解熱させると免疫反応を妨げる可能性があるため、医師の指示に従ってください。
入院治療が必要な場合
以下のような場合は、入院治療が検討されます。
入院治療の適応:
- 呼吸困難が強い、または酸素飽和度が低下している(SpO2 92%以下)
 - 脱水が強く、経口摂取ができない
 - 意識障害がある
 - 合併症を発症している
 - 高齢者や基礎疾患があり、重症化リスクが高い
 - 外来治療で改善が見られない
 
入院では、以下のような治療が行われます。
- 点滴による抗菌薬投与
 - 酸素投与
 - 輸液による脱水の補正
 - 24時間体制での全身管理
 
治療期間と経過
一般的な回復までの期間:
- 抗菌薬開始後2〜3日で解熱
 - 1週間程度で全身状態が改善
 - 咳は3〜4週間続くことが一般的
 - 完全に回復するまでに1〜2ヶ月かかることもある
 
治療中の注意点:
- 処方された抗菌薬は最後まで飲み切る 症状が改善しても、自己判断で中止すると再発や耐性菌を生む原因となります。
 - 安静と栄養 十分な休養と栄養バランスの良い食事が回復を促進します。
 - 定期的な受診 医師の指示に従い、経過観察のために受診してください。
 - 他人への感染に注意 症状が改善しても、2〜3週間は感染力が残る可能性があります。
 
マイコプラズマ肺炎の合併症
マイコプラズマ肺炎は、適切に治療されれば予後良好な疾患ですが、時に重篤な合併症を引き起こすことがあります。
呼吸器系の合併症
1. 重症肺炎・呼吸不全
稀ですが、マイコプラズマ肺炎が重症化し、呼吸不全に至ることがあります。特に以下のような方は注意が必要です。
- 高齢者
 - 喫煙者
 - 慢性呼吸器疾患(COPD、喘息など)のある方
 - 免疫不全状態の方
 
2. 胸水貯留
肺の周りに水が溜まる状態です。呼吸困難が増強することがあります。
3. 無気肺
肺の一部が虚脱する状態です。粘稠な痰による気道閉塞が原因となります。
肺外合併症
マイコプラズマ感染は、肺以外にも様々な臓器に影響を及ぼすことがあります。
1. 神経系の合併症
- 脳炎・脳症:意識障害、痙攣、麻痺などが出現
 - 無菌性髄膜炎:頭痛、発熱、嘔吐
 - ギラン・バレー症候群:手足の脱力、感覚障害
 - 横断性脊髄炎:運動麻痺、感覚障害
 
2. 皮膚・粘膜の合併症
- 多形紅斑:標的状の発疹
 - Stevens-Johnson症候群:重症の皮膚粘膜障害(稀だが重篤)
 - 中毒性表皮壊死症:さらに重症の皮膚障害
 
3. 循環器系の合併症
- 心筋炎:胸痛、動悸、不整脈
 - 心膜炎:胸痛、呼吸困難
 
4. 血液系の合併症
- 溶血性貧血:冷式自己免疫性溶血性貧血(寒冷凝集素症)
 - 血小板減少:出血傾向
 
5. 関節炎
関節の痛みや腫れが出現することがあります。
合併症の早期発見
合併症を早期に発見するため、以下のような症状に注意してください。
すぐに医療機関を受診すべき症状:
- 意識がもうろうとする、反応が鈍い
 - けいれんを起こす
 - 激しい頭痛、嘔吐
 - 全身に発疹が広がる
 - 胸が激しく痛む
 - 動悸が激しい
 - 息苦しさが急に強くなる
 - 尿が少なくなる、赤褐色になる
 - 手足に力が入らない、しびれる
 
これらの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。場合によっては救急車の要請も検討してください。
マイコプラズマ肺炎の予防法
マイコプラズマ肺炎には、インフルエンザのようなワクチンがありません。そのため、日常生活での予防対策が重要となります。
基本的な予防対策
1. 手洗い・手指衛生
最も基本的で効果的な予防法です。
効果的な手洗い方法:
- 流水と石鹸で30秒以上かけて洗う
 - 指の間、爪の間、手首までしっかり洗う
 - タオルは清潔なものを使用する
 - アルコール手指消毒薬も有効
 
手洗いのタイミング:
- 外出から帰った後
 - 食事の前
 - トイレの後
 - 咳やくしゃみをした後
 - 電車やバスなど公共交通機関を利用した後
 
2. 咳エチケット
感染を広げないための重要なマナーです。
咳エチケットの実践:
- 咳やくしゃみが出るときは、ティッシュやハンカチで口と鼻を覆う
 - ティッシュがない場合は、上着の袖や肘の内側で覆う(手のひらではない)
 - 使用したティッシュはすぐにゴミ箱へ
 - マスクを着用する(正しい装着方法で)
 
3. マスクの着用
感染予防と感染拡大防止の両面で有効です。
マスクの正しい使い方:
- 鼻から顎まで覆う
 - 隙間ができないようフィットさせる
 - 表面には触れない
 - 使い捨てマスクは再使用しない
 - 外すときは紐を持つ
 
4. 換気
室内の空気を入れ替えることで、空気中の病原体の濃度を下げます。
効果的な換気方法:
- 1〜2時間ごとに5〜10分程度窓を開ける
 - 対角線上の窓を開けて空気の流れを作る
 - 冬場でも定期的な換気を心がける
 
生活習慣での予防
1. 十分な睡眠
睡眠不足は免疫力を低下させます。
- 成人は7〜8時間の睡眠を目標に
 - 規則正しい睡眠リズムを保つ
 - 質の良い睡眠を心がける
 
2. バランスの良い食事
栄養バランスが偏ると抵抗力が落ちます。
免疫力を高める栄養素:
- タンパク質:肉、魚、卵、大豆製品
 - ビタミンC:柑橘類、緑黄色野菜
 - ビタミンA:レバー、にんじん、かぼちゃ
 - ビタミンD:魚類、きのこ類
 - 亜鉛:牡蠣、肉類、ナッツ類
 
3. 適度な運動
適度な運動は免疫機能を高めます。
- ウォーキング、ジョギング、水泳など
 - 無理のない範囲で継続する
 - 激しすぎる運動は逆効果になることも
 
4. ストレス管理
過度なストレスは免疫力を低下させます。
- 十分な休息を取る
 - 趣味や楽しみの時間を持つ
 - リラクゼーション法を実践する
 
5. 禁煙
喫煙は呼吸器の防御機能を低下させます。
- 喫煙者は禁煙を検討する
 - 受動喫煙も避ける
 
集団生活での予防
学校、職場、寮など集団生活の場では、感染が広がりやすくなります。
集団生活での注意点:
- 体調不良時は無理せず休む
 - 周囲に感染者が出たら、より注意深く予防対策を実施
 - タオルや食器の共用を避ける
 - 共用スペース(ドアノブ、手すりなど)の定期的な消毒
 - 部屋の湿度を50〜60%に保つ(乾燥を防ぐ)
 
二次感染の予防
家族や身近な人がマイコプラズマ肺炎になった場合の対策:
家庭内での注意点:
- 患者との距離を保つ(可能であれば別室で過ごす)
 - 患者が使用した食器や衣類は別に洗う
 - 患者の部屋をこまめに換気する
 - 患者が触れた場所(ドアノブ、スイッチなど)を消毒する
 - 患者と接触した後は必ず手洗いをする
 - マスクを着用する(患者本人も、看病する人も)
 
マイコプラズマは感染力がそれほど強くないため、適切な予防対策を実施すれば、家庭内での二次感染は防げることが多いです。

マイコプラズマ肺炎に関するよくある質問
A: はい、うつります。マイコプラズマ肺炎は飛沫感染により人から人へ感染します。咳やくしゃみによって飛散した飛沫を吸い込んだり、患者が触れた物を介して感染することがあります。ただし、インフルエンザほど感染力は強くありません。潜伏期間が2〜3週間と長いため、知らないうちに感染を広げてしまうことがあります。
Q2. 会社や学校はいつから行けますか?
A: 明確な出席停止期間の基準はありませんが、一般的には以下の目安があります。
- 解熱後24〜48時間以上経過している
 - 全身状態が良好である
 - 激しい咳が治まっている
 
ただし、症状が改善しても2〜3週間は感染力が残る可能性があるため、職場や学校に復帰する際は医師に相談し、マスクの着用など周囲への配慮が必要です。
Q3. 再発することはありますか?
A: マイコプラズマ肺炎が完全に治った後、同じシーズンに再発することは稀ですが、以下のような場合があります。
- 再感染: 免疫が十分につかず、再び感染することがあります。マイコプラズマに対する免疫は終生免疫ではないため、数年後に再感染する可能性もあります。
 - 治療不十分: 抗菌薬を途中でやめてしまった場合など、治療が不十分だと再燃することがあります。
 - 耐性株: 薬剤耐性マイコプラズマの場合、治療が長引くことがあります。
 
Q4. 自然治癒しますか?
A: マイコプラズマ肺炎は、軽症であれば自然治癒することもあります。しかし、以下の理由から医療機関での診断と治療をお勧めします。
- 適切な抗菌薬治療により、症状が早く改善し、重症化を防げる
 - 合併症のリスクを減らせる
 - 他人への感染期間を短縮できる
 - 他の重篤な疾患との鑑別が必要
 
自己判断せず、長引く咳や発熱がある場合は医療機関を受診してください。
Q5. 子どもから大人にうつりますか?
A: はい、うつります。マイコプラズマ肺炎は年齢を問わず感染します。むしろ、小児が感染源となって家族内で広がることは珍しくありません。お子さんがマイコプラズマ肺炎と診断された場合は、家族全員が予防対策を徹底し、体調の変化に注意してください。
Q6. 市販の風邪薬で治りますか?
A: いいえ、市販の風邪薬ではマイコプラズマ肺炎の原因菌を退治することはできません。市販薬は症状を和らげるだけで、根本的な治療にはなりません。マイコプラズマ肺炎の治療には、特定の抗菌薬(処方薬)が必要です。長引く咳や発熱がある場合は、市販薬に頼らず医療機関を受診してください。
Q7. インフルエンザとの違いは?
A: 両者は異なる病原体による感染症で、以下のような違いがあります。
| 項目 | マイコプラズマ肺炎 | インフルエンザ | 
|---|---|---|
| 病原体 | 細菌(マイコプラズマ) | ウイルス | 
| 主な症状 | 長引く咳 | 高熱、全身症状 | 
| 発症 | 徐々に | 急激に | 
| 発熱 | 37〜39℃ | 38℃以上の高熱 | 
| 治療 | 抗菌薬 | 抗ウイルス薬 | 
| ワクチン | なし | あり | 
症状だけでの判断は困難なため、医療機関での診断が必要です。
Q8. 妊娠中に感染した場合は?
A: 妊娠中にマイコプラズマ肺炎に感染すると、以下のリスクがあります。
- 母体の呼吸機能への影響
 - 重症化のリスク
 - 胎児への影響(早産、低出生体重など)
 
妊娠中でも使用できる抗菌薬がありますので、速やかに産婦人科医または内科医に相談してください。自己判断で薬を服用することは避けてください。
Q9. 運動はいつから再開できますか?
A: 運動再開の目安は以下の通りです。
軽い運動(散歩など):
- 解熱後1週間程度、全身状態が良好であれば可能
 - 無理のない範囲で徐々に
 
通常の運動・スポーツ:
- 症状が完全に消失してから
 - 咳が治まってから(咳が残る場合は避ける)
 - 医師に相談して許可を得てから
 
激しい運動は呼吸器に負担がかかるため、焦らず段階的に復帰することが大切です。
Q10. 予防接種はありますか?
A: 残念ながら、現時点ではマイコプラズマ肺炎に対する予防接種(ワクチン)はありません。そのため、日常生活での予防対策が非常に重要です。手洗い、マスク着用、咳エチケット、十分な睡眠、バランスの良い食事など、基本的な感染予防策を徹底してください。
まとめ
マイコプラズマ肺炎は、大人でも発症する感染症で、長引く咳が特徴的な疾患です。本記事の重要なポイントをまとめます。
大人のマイコプラズマ肺炎の特徴
- 乾いた咳が2〜4週間、長い場合は1〜2ヶ月続く
 - 37〜39℃の発熱が見られる
 - 全身の倦怠感が強い
 - 初期は風邪と見分けがつきにくい
 - 秋から冬にかけて増加する傾向がある
 
早期受診が大切
以下のような症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
- 2週間以上続く咳
 - 夜間に咳き込んで眠れない
 - 38℃以上の発熱が続く
 - 呼吸困難や胸痛がある
 - 周囲にマイコプラズマ肺炎の患者がいる
 
適切な治療で回復
- マクロライド系などの適切な抗菌薬による治療が必要
 - 処方された薬は最後まで飲み切ることが重要
 - 十分な休養と栄養が回復を促進
 - 通常は1〜2週間で改善傾向に
 
予防対策の徹底
- ワクチンがないため、日常的な予防が重要
 - 手洗い、マスク着用、咳エチケットの実践
 - 十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動
 - 体調不良時は無理をせず休む
 
合併症に注意
- 稀に重篤な合併症を起こすことがある
 - 意識障害、けいれん、激しい胸痛などは緊急受診を
 - 高齢者や基礎疾患のある方は特に注意が必要
 
参考文献
- 国立感染症研究所「マイコプラズマ肺炎とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/498-mycoplasma-pneumonia.html - 厚生労働省「マイコプラズマ肺炎に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14.html - 国立感染症研究所「マイコプラズマ肺炎の薬剤耐性」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2433-iasr/related-articles/related-articles-462/8447-462r02.html - 日本呼吸器学会 公式サイト
https://www.jrs.or.jp/ - 日本感染症学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」
 
※本記事は医学的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療を代替するものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
 - 2009年 東京逓信病院勤務
 - 2012年 東京警察病院勤務
 - 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
 - 2019年 当院治療責任者就任
 
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
 - 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
 - 2012年 東京逓信病院勤務
 - 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
 - 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務