投稿

味覚障害の治し方|原因別の治療法から自宅でできるセルフケアまで徹底解説

「最近、食べ物の味がわからなくなった」「何を食べても美味しく感じない」そんな症状に悩んでいませんか。味覚障害は、近年の高齢化やストレス社会を背景に増加傾向にあり、国内だけでも年間24万人以上が医療機関を受診しているといわれています。味覚の異常は食事の楽しみを奪うだけでなく、栄養バランスの乱れや生活の質の低下にもつながりかねません。しかし、味覚障害の多くは、原因を特定して適切な治療を行えば改善が期待できます。本記事では、味覚障害の原因から治療法、自宅でできるセルフケアまで、最新の医学的知見をもとにわかりやすく解説します。味覚の異変に対する不安を解消し、改善への第一歩を踏み出すためのヒントをお伝えします。


目次

  1. 味覚障害とは?症状の種類と特徴
  2. 味を感じる仕組みと味蕾の役割
  3. 味覚障害の主な原因
  4. 味覚障害の検査と診断方法
  5. 味覚障害の治療法
  6. 自宅でできるセルフケアと予防法
  7. 味覚障害を改善するための食事と生活習慣
  8. 味覚障害で受診すべき診療科と治療期間の目安
  9. よくある質問

味覚障害とは?症状の種類と特徴

味覚障害とは、食べ物の味を正しく感知できない状態を指します。単に味を感じにくくなるだけでなく、本来の味とは異なる味に感じたり、何を食べても同じ味に感じてしまったりするケースも含まれます。味覚障害の患者さんの男女比は2対3と女性の方が多い傾向にあり、特に中高年の女性に多いとされています。

味覚障害の主な症状分類

味覚障害の症状は、大きく「量的異常」と「質的異常」に分けられます。量的異常とは、味の感じ方の強さが変わるもので、味覚減退(味を薄く感じる)や味覚消失(まったく味がしない)が該当します。一方、質的異常は味の感じ方の質が変わるもので、異味症(本来の味と違う味がする)、自発性異常味覚(何も口に入れていないのに苦みや塩味を感じる)、味覚過敏(味を強く感じすぎる)、悪味症(食べ物に嫌悪感を感じる)などがあります。

具体的な症状としては、「食べ物の味が薄く感じる、感じられない」「同じものを食べたのに、いつも感じている味と違う」「特定の味(甘さ、辛さなど)だけ感じられない」「口の中がいつも苦い、塩辛い」「何を食べても砂を噛んでいるように感じる」などがあります。女性の場合、自分では味覚障害に気が付かなくても、人に料理を作った際に「前とは味付けが変わった」と指摘されて気付くケースもよく見られます。

味覚障害は、塩分や糖分の摂りすぎ、低栄養の原因となり、二次的な健康被害につながる恐れもあるため、気付いたら早めの対処が必要な病態です。長期にわたり味を感じにくい状態が続くと、味付けが濃くなり、塩分過多になって高血圧などの病気を引き起こす可能性もあります。また、食品の劣化や腐敗にも気付きにくくなるため、食の安全面でもリスクが生じます。

味を感じる仕組みと味蕾の役割

味を感じる仕組みを理解することは、味覚障害の原因や治療法を知る上で非常に重要です。私たちが食べ物の味を感じるのは、舌の表面にある「味蕾(みらい)」という器官の働きによるものです。

味蕾の構造と機能

味蕾は、舌の表面にあるブツブツとした赤い点の中に存在する微小な器官です。舌には茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭、糸状乳頭の4種類の舌乳頭があり、このうち茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭の3つに味蕾が存在しています。味蕾の中には味細胞があり、これが味覚受容体細胞として味物質を感知します。味蕾で感知した味は、味覚神経を通じて脳に伝達され、私たちは「味」として認識します。

人間が感じる基本的な味は、「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」の5つです。これらの基本5味が組み合わさることで、私たちは多彩な味覚を楽しむことができます。なお、イチゴ味やバナナ味、コーヒーや紅茶の味といった複雑な風味は、厳密には「味覚」ではなく「風味」と呼ばれ、嗅覚が大きく関与しています。そのため、風邪などで鼻が詰まると、食べ物の味がわかりにくくなることがあります。

味蕾の数と加齢による変化

味蕾の数は年齢とともに変化します。乳児の頃は約10,000個あった味蕾も、成人になると約半分の5,000個になり、高齢者では乳児に比べて半数から3分の1程度まで減少するといわれています。味覚障害の患者さんの半数以上が65歳以上の高齢者であるのは、この味蕾の減少が大きく関係しています。

味蕾の中にある味細胞は、約1か月に1回のサイクルで新陳代謝(ターンオーバー)を行い、常に新しい細胞に生まれ変わっています。この細胞の新陳代謝には「亜鉛」が必要不可欠であり、亜鉛が不足すると味細胞の再生が滞り、味覚障害を引き起こす原因となります。

味覚障害の主な原因

味覚障害の原因は多岐にわたります。厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルによると、味覚障害の原因別頻度では、薬物性味覚障害が最も多く(約21.7%)、ついで特発性(15.0%)、亜鉛欠乏性(14.5%)、心因性(10.7%)、さらに嗅覚障害、全身疾患性、口腔疾患、末梢神経障害、中枢性神経障害による味覚障害などが報告されています。以下に主な原因を詳しく解説します。

亜鉛欠乏による味覚障害

亜鉛不足は味覚障害の原因の多くを占めます。亜鉛は、筋肉や骨を中心に、皮膚、肝臓、膵臓、前立腺など体内の多くの臓器に存在し、さまざまな酵素を構成する役割をもつ必須ミネラルです。味蕾に含まれる味細胞の新陳代謝には亜鉛が必要であり、亜鉛が不足すると味細胞のターンオーバーが遅延し、味覚障害が発症します。

亜鉛欠乏が起こる原因としては、偏った食生活や過度なダイエット、加工食品の摂りすぎなどが挙げられます。加工食品には食品添加物としてポリリン酸やフィチン酸が含まれていることが多く、これらは亜鉛の吸収を妨げるキレート作用を持っています。また、アルコールの過剰摂取も亜鉛を体外に排出しやすくするため、飲酒習慣のある方は注意が必要です。

日本臨床栄養学会の診断基準では、血清亜鉛値が60μg/dL未満を「亜鉛欠乏症」、60~80μg/dLを「潜在性亜鉛欠乏症」と定義しています。日本は先進国の中でも亜鉛欠乏症の割合が高く、15~25%の方に認められると報告されています。

薬剤性味覚障害

薬剤性味覚障害は、味覚障害の原因として最も多いものです。味覚障害を引き起こす可能性のある薬剤は400種類以上あるとされています。主な発症機序は、薬剤の亜鉛に対するキレート作用(薬剤が亜鉛と結合して尿中に排泄される作用)による亜鉛吸収障害であり、結果として亜鉛欠乏状態を引き起こします。

味覚障害を起こしやすい薬剤としては、降圧薬、利尿薬、消化性潰瘍治療薬、抗うつ薬、抗菌薬、糖尿病治療薬、抗がん剤、精神疾患治療薬などが知られています。具体的には、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ロサルタンなど)、ニューキノロン系抗菌薬(レボフロキサシンなど)、プロトンポンプ阻害薬(ラベプラゾールなど)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(フルボキサミンなど)などが該当します。

薬剤性味覚障害は、服用を開始してから2~6週間程度で症状が現れることが多いとされています。複数の薬剤を服用している高齢者では、薬剤の相互作用によって味覚障害が生じやすくなることもあります。

全身疾患に伴う味覚障害

糖尿病、慢性腎不全、肝疾患、甲状腺疾患、鉄欠乏性貧血などの全身疾患によっても味覚障害が生じることがあります。糖尿病では神経や血管が障害されるため、糖尿病患者の約4分の1に味覚障害が生じるという報告があります。また、慢性腎臓病や肝疾患では、亜鉛の吸収障害や排泄亢進が起こり、二次的に亜鉛欠乏状態となって味覚障害を引き起こします。

シェーグレン症候群などの自己免疫疾患では、唾液分泌が低下して口腔内が乾燥し、味覚障害を来すことがあります。唾液は味物質を味蕾に運ぶ重要な役割を担っており、唾液分泌の低下は味覚に直接影響を与えます。

口腔疾患・嗅覚障害による味覚障害

舌炎、口内炎、口腔カンジダ症、ドライマウス(口腔乾燥症)などの口腔疾患によっても味覚障害が起こります。舌苔(舌の表面に付着する白い汚れ)が厚くなると、味蕾が覆われて味を感じにくくなることがあります。

嗅覚と味覚は密接に関係しています。風邪や鼻炎などで鼻が詰まり嗅覚が低下すると、においがわかりにくくなるため食べ物の味が正しくわからず、味覚障害の症状を生じることがあります。このような状態を「風味障害」と呼びます。味覚障害を訴える患者さんの中には、実際には嗅覚障害が主な原因である場合も少なくありません。

心因性・ストレスによる味覚障害

過度のストレスやうつ病が原因で、味覚が上手く機能しなくなることがあります。近年、ストレスなどが原因の心因性味覚障害の方が増加傾向にあります。心因性味覚障害は特に中高年の女性に多いとされています。

心因性味覚障害の特徴として、血液検査などで明らかな異常が見つからないにもかかわらず、味覚の異常を強く訴えることがあります。精神的なストレスが自律神経系に影響を与え、唾液分泌の低下や味覚神経の機能異常を引き起こすと考えられています。

新型コロナウイルス感染症に伴う味覚障害

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、発症早期に嗅覚・味覚障害が発生することが知られています。研究によると、回答者の約41%に味覚障害を認め、嗅覚障害・味覚障害ともに男性よりも女性に多く、年齢が若い人ほど症状が現れやすいという結果が報告されています。

新型コロナウイルス感染による味覚障害の多くは突然発症しますが、発症してから4週間以内に症状が改善する方がほとんどとされています。ただし、後遺症として長期間味覚障害が続くケースもあり、そのメカニズムについては現在も研究が進められています。

加齢による味覚障害

味覚機能は50歳頃から低下し始めます。これは味蕾の数が減少することに加え、唾液分泌量の減少、服用薬剤の増加など複数の要因が重なるためです。高齢者では新生児期の半分から3分の1程度にまで味蕾の数が減少するといわれています。

ただし、年を取ってこってりした濃い味が苦手になっても、あっさり薄味でおいしく感じるのであれば味覚障害ではありません。加齢に伴ってエネルギー代謝も衰え、汗をかきにくくなるので塩分の必要量が減少することも、味の好みの変化に影響しているとされています。

その他の原因

神経障害による味覚障害として、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、頭部外傷、顔面神経麻痺(ベル麻痺、ラムゼイ・ハント症候群など)に伴うものがあります。また、頭頸部のがんに対する放射線治療では、口の中やのどの粘膜に放射線がかかり、味細胞や神経の障害、唾液分泌障害により味覚障害が生じます。

中耳炎の手術で鼓索神経(味覚を伝える神経の一つ)に触れたり引き伸ばしたりすると味覚障害が生じることがあります。歯科治療での下顎孔の伝達麻酔による神経障害も原因となることがあります。

味覚障害の検査と診断方法

味覚障害の診断では、原因を特定するためにさまざまな検査が行われます。まず問診で症状の経過、服用している薬、既往歴、生活習慣などを確認し、続いて口腔内の診察や各種検査を実施します。

問診と視診

問診では、味覚障害の症状がいつから始まったか、どのような味がわかりにくいか、服用している薬はあるか、全身疾患の有無、食生活の状況、ストレスの有無などを詳しく確認します。口腔内の視診では、舌の状態(舌苔の付着、舌の乾燥、舌炎の有無)、口腔粘膜の状態、唾液の分泌状態、口腔カンジダ症の有無などをチェックします。義歯を使用している場合は、その適合状態も確認されます。

味覚機能検査

味覚の機能を評価する検査には、主に電気味覚検査と濾紙ディスク法があります。電気味覚検査は、舌に微量の電気を流し、どの強さで味(スプーンをなめたときのような金属味)を感じるかを測定する方法です。21段階の電流強度で評価でき、短時間で定量的な測定が可能です。ただし、ペースメーカーを装着している方には実施できません。

濾紙ディスク法は、甘味、塩味、酸味、苦味の4つの基本味を5段階の濃度で評価する検査です。味溶液を浸した小さな濾紙を舌の上にのせて、何の味がするかを答えてもらいます。電気味覚検査に比べて評価の段階は少ないですが、味質別に定性検査ができる点が特徴です。

血液検査

血液検査では、亜鉛、鉄、銅などの微量元素やビタミンの値を評価します。血清亜鉛値は味覚障害の診断において重要な指標であり、基準値は80μg/dL以上とされています。60μg/dL未満が亜鉛欠乏症、60~80μg/dL未満が潜在性亜鉛欠乏症と判定されます。

なお、血清亜鉛値は午前中に比べ午後は約20%低下し、また食後にはさらに低下傾向を示すため、継時的に評価するには同じ時間帯、できれば早朝空腹時に測定することが望ましいとされています。血清アルカリホスファターゼ(ALP)の低値も亜鉛欠乏を疑う指標となります。

また、鉄欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏症などの有無を確認するための検査も行われます。全身疾患が疑われる場合は、糖尿病、腎機能、肝機能、甲状腺機能などの検査も実施されます。

嗅覚検査・その他の検査

味覚障害を訴える患者さんの中には、実際には嗅覚障害が主な原因である場合も少なくないため、嗅覚検査も重要です。味覚と嗅覚の両方を検査することで、どちらの障害が主たる原因かを判別できます。

口腔内の乾燥が疑われる場合は唾液量測定を行います。唾液は味物質を味蕾に運ぶ役割があるため、唾液量が十分にあるかをチェックすることは重要です。必要に応じて、頭部MRI検査や胃・腸の内視鏡検査なども実施されることがあります。

味覚障害の治療法

味覚障害の治療は、原因に応じて適切な方法を選択することが重要です。治療期間の目安は3~6か月とされており、即効性はありませんが、適切な治療を継続することで多くの患者さんで改善が期待できます。

亜鉛補充療法

味覚障害治療の基本は、不足している亜鉛を補充することです。亜鉛欠乏が確認された場合はもちろん、血清亜鉛値が正常範囲内であっても味覚障害がある場合には、亜鉛補充療法が有効なことがあります。これは、特発性味覚障害(原因不明の味覚障害)の多くが「食事性潜在性亜鉛欠乏症」であると考えられているためです。

亜鉛補充療法に使用される薬剤には、低亜鉛血症治療薬の酢酸亜鉛水和物(ノベルジン錠など)、亜鉛含有胃潰瘍治療薬のポラプレジンクなどがあります。投与量は成人で50~150mg/日(亜鉛換算)を目安とし、血清亜鉛値や症状の改善度を見ながら調整します。

亜鉛補充療法の治療効果は即効性がなく、血清亜鉛値の改善は4~8週ほどで認められます。自覚症状の改善には通常3~6か月の内服期間が必要であり、高齢者や発症後時間が経ってから治療を開始した場合では、より長期の治療期間が必要になります。研究報告によれば、亜鉛欠乏性味覚障害の自覚症状の改善率は約73~77%であり、その平均治癒期間は約22.7週とされています。

亜鉛補充療法の副作用としては、嘔気、腹痛、便秘などの消化器症状が挙げられます。また、亜鉛を長期間補充し続けると、亜鉛と拮抗関係にある銅や鉄の吸収が抑制され、銅欠乏や鉄欠乏を引き起こすことがあります。そのため、治療中は3か月に1度程度、血液検査で亜鉛値だけでなく銅値や鉄値もモニタリングすることが推奨されています。

原因薬剤の中止・変更

薬剤性味覚障害が疑われる場合は、原因となっている薬剤の中止または変更を検討します。薬物性味覚障害では、発症後できるだけ早期に原因となる薬物を中止または変更した方が、症状の改善が見られることが多いとされています。

ただし、自己判断での服薬中止は危険です。必ず主治医や薬剤師と相談した上で、薬を減らしたり、同じ効果で味覚障害を起こしにくい薬に変更したりする対応を検討してください。原因薬剤の特定が難しい場合や中止できない薬剤の場合でも、亜鉛補充療法を併用することで症状が改善するケースもあります。

鉄剤・ビタミン剤による治療

血液検査で鉄欠乏が確認された場合は鉄剤を、ビタミンB12欠乏が確認された場合はビタミン剤を補充します。特に鉄欠乏性貧血による舌炎(ハンター舌炎など)が原因の味覚障害では、鉄剤やビタミンB12を補充することで速やかに改善することも多いです。鉄欠乏性味覚障害の治療から改善までの平均期間は約21週間と報告されています。

口腔乾燥に対する治療

口腔乾燥症(ドライマウス)が原因の場合は、唾液分泌を促進する治療を行います。唾液分泌促進薬(塩酸ピロカルピン、セビメリン塩酸塩など)の使用や、人工唾液による口腔内の湿潤化が有効です。シェーグレン症候群などの基礎疾患がある場合は、その治療も並行して行います。

口腔内の清掃とケアも重要です。舌苔が厚くなっている場合は、柔らかい歯ブラシなどで清掃し、保湿ジェルで潤すといったケアを行います。不適合な義歯がある場合は、修理または再製作を検討します。

漢方薬による治療

原因が特定されない味覚障害や、亜鉛補充療法などで改善しない場合には、漢方薬による治療が行われることがあります。味覚障害に対して用いられる漢方薬には、補中益気湯、十全大補湯、八味地黄丸、人参養栄湯、六君子湯、五苓散などがあります。

漢方薬は患者さんの体質や症状に合わせて選択され、慢性疲労や冷えなどを改善して体調を整える目的でも処方されます。ただし、漢方薬も亜鉛内服療法と同様に即効性はなく、長期的な内服が必要となります。治療期間は、味覚障害が生じている期間の半分ほど(味覚障害が約6か月間続いている場合は、少なくとも3か月は必要)かかるともいわれています。

心因性味覚障害の治療

心因性やストレスが原因と考えられる場合には、抗不安薬や抗うつ薬が有効なことがあります。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、おいしさを認知する過程にかかわっているといわれています。また、高齢者に対しては食欲増進効果のあるノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬などが有効な場合があります。

精神症状が強い患者さんに対しては、精神科や心療内科と連携して治療を進めることもあります。心因性味覚障害の治療から改善までの平均期間は約29.3週と報告されており、他の原因に比べてやや時間がかかる傾向があります。

全身疾患に対する治療

糖尿病、慢性腎臓病、肝疾患などの全身疾患が原因の場合は、基礎疾患のコントロールが重要です。これらの疾患の管理を適切に行うことで、味覚障害も改善することがあります。ただし、中止できない薬剤やコントロールが困難な全身疾患も多いため、亜鉛補充療法などを併用しながら対応します。

自宅でできるセルフケアと予防法

味覚障害の改善や予防には、日常生活でのセルフケアも重要です。医療機関での治療と併せて、以下のセルフケアを実践することで、より効果的な改善が期待できます。

口腔ケアの徹底

口腔内を清潔に保つことは、味覚障害の改善に重要です。毎食後の歯磨きに加え、舌のブラッシングも行いましょう。舌苔(舌の表面に付着する白い汚れ)が厚くなると味覚低下につながりやすいため、柔らかい歯ブラシや舌ブラシで優しく清掃し、保湿ジェル剤で潤すケアが有効です。

食前後のうがいも効果的です。レモン水や緑茶でうがいをすると、唾液の分泌を促し、口腔内もさっぱりします。入れ歯を使用している方は、毎食後に入れ歯を外して洗浄することも大切です。

唾液分泌を促す工夫

唾液は味物質を味蕾に運ぶ重要な役割を担っているため、唾液分泌を促すことは味覚の改善につながります。シュガーレスガムを噛んだり、シュガーレスキャンディをなめたりすることで唾液分泌が促進されます。ミントやレモン味のものは特に効果的です。

こまめに水分を摂取し、口腔内の乾燥を防ぐことも大切です。レモン水や炭酸水でうがいをする、フレッシュジュースを頻回に口に含むなどの方法も有効です。ただし、口内炎がある場合は、酸味のあるものや飴をなめることは刺激になるので避けましょう。

ストレス管理と生活習慣の改善

ストレスは味覚障害の原因となるだけでなく、症状を悪化させる要因にもなります。十分な睡眠、適度な運動、リラクゼーションなど、ストレスを軽減する生活習慣を心がけましょう。

過度の飲酒は亜鉛を体外に排出しやすくするため、控えめにすることが望ましいです。喫煙も味覚に悪い影響を与えるため、禁煙を検討してください。

味覚障害を改善するための食事と生活習慣

味覚障害の改善と予防には、食事からの栄養摂取が重要な役割を果たします。特に亜鉛を中心とした栄養素を意識的に摂取することが大切です。

亜鉛を多く含む食品

亜鉛を多く含む食品を日頃から摂るようにしましょう。亜鉛含有量の多い食品としては、牡蠣(かき)、うなぎ、豚レバー、牛もも肉、牛肩ロース、煮干し、カシューナッツ、いりアーモンド、いりゴマ、納豆、精白米などがあります。

特に牡蠣は亜鉛含有量が非常に高く、60g(約5粒)で7.9mgの亜鉛を摂取できます。牛肩ロース70gで3.9mg、豚レバー70gで4.8mg、鶏レバー70gで2.3mg程度の亜鉛が含まれています。亜鉛の1日の推奨摂取量は、成人男性で10mg、成人女性で8mg、妊婦で10mg、授乳婦で11mgとされています。

亜鉛の吸収を促進する食べ方

亜鉛の吸収を促進するために、酢やレモンなどのクエン酸を含む食品や、乳製品、発酵食品と一緒に摂取すると効果的です。クエン酸には亜鉛の吸収を高める働きがあります。

一方、亜鉛の吸収を妨げる食品もあります。食物繊維やフィチン酸(穀類、豆類に多い)、食品添加物(特にポリリン酸)などは亜鉛の吸収を阻害するため、これらを多く含む加工食品やファストフードの摂りすぎには注意が必要です。

味覚障害がある時の調理の工夫

味覚障害があっても食事を楽しめるよう、調理方法を工夫することも大切です。味が薄く感じる場合は、香りやダシ、香辛料を活かした食事にすると、味を感じやすくなることがあります。甘味や酸味は比較的減退しにくいといわれているので、寿司酢やレモン汁、ケチャップなどを活用するのも一つの方法です。

塩味や醤油味が苦く感じる場合は、酢の酸味を活かした料理を試してみましょう。しその葉など薬味の風味を活かすのも効果的で、しそに含まれる成分は胃液の分泌を促し、食欲増進にもつながります。

食感に違和感がある場合や飲み込みにくい場合は、あんかけやソースにからめるなど、水分にとろみをつけると食べやすくなります。冷たい料理の方が味を感じやすいこともあるので、スムージーやそうめんなど冷たいメニューを取り入れてみてください。

味覚の変化があっても食事を作らなければならない場合は、計量カップやスプーンを使って調味料を量り、家族に味見をしてもらうなどの工夫をしましょう。市販の万能たれやレシピ通りの味付けを活用するのも一つの方法です。

味覚障害で受診すべき診療科と治療期間の目安

味覚障害を発症した場合、どの診療科を受診すればよいか迷う方も多いでしょう。また、治療期間についても事前に知っておくことで、安心して治療に取り組むことができます。

受診すべき診療科

味覚障害の場合、まず耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。一番の理由は、嗅覚性味覚障害(匂いが分からなくて味が分からない)ということが意外に多いからです。嗅覚障害を確認できるのは耳鼻咽喉科だけであり、味覚と嗅覚の両方を適切に評価できます。

他の診療科(内科など)を受診しても診てもらえますが、嗅覚障害が関係している場合は結局耳鼻咽喉科を受診する必要が出てくるため、二度手間になることがあります。

なお、糖尿病や腎臓病などの基礎疾患がある場合は、それぞれの専門科(糖尿病内科、腎臓内科など)と連携しながら治療を進めることもあります。心因性の要因が強い場合は、精神科や心療内科との連携が必要になることもあります。

治療期間の目安

味覚障害の治療期間は、原因や進行度合いによって異なりますが、一般的には3~6か月程度が目安とされています。亜鉛補充療法の場合、血清亜鉛値の改善は4~8週ほどで認められますが、自覚症状の改善には通常3~6か月の継続治療が必要です。

原因別の治療から改善までの平均期間を見ると、鉄欠乏性が約21週、亜鉛欠乏性が約22.7週、心因性が約29.3週、特発性が約31.8週、薬剤性が約43.2週と報告されています。薬剤性味覚障害は他の原因に比べて改善に時間がかかる傾向があります。

早期治療の重要性

味覚障害は、自覚症状が現れてから6か月以内に治療を開始した場合は約70%以上が改善する一方で、1年以上経過してから治療を開始した場合には約50%まで改善率が低下するとされています。このため、味覚の異常を感じたら、早めに医療機関を受診することが重要です。

治療は長期にわたることが少なくありませんが、急激な改善は期待できなくても、少しずつ改善を目指していくことが大切です。治療当初から改善には時間がかかることを理解し、根気強く治療を継続することが成功の鍵となります。

よくある質問

味覚障害は自然に治りますか?

風邪や新型コロナウイルス感染後の味覚障害など、一時的なものは自然に改善することがあります。特に新型コロナウイルス感染による味覚障害の場合、発症してから4週間以内に症状が改善する方がほとんどとされています。しかし、亜鉛欠乏や薬剤性などが原因の場合は、原因を取り除くか適切な治療を行わないと改善しにくいため、2週間以上症状が続く場合は医療機関を受診することをおすすめします。

亜鉛のサプリメントは味覚障害に効果がありますか?

亜鉛のサプリメントは味覚障害の改善に役立つ可能性があります。ただし、サプリメントを使用する場合は、他の薬との飲み合わせの問題があるため、事前に医師、薬剤師に相談することが重要です。また、亜鉛の過剰摂取は銅欠乏症や鉄欠乏性貧血を引き起こすリスクがあるため、自己判断での長期摂取は避け、できれば医療機関で血清亜鉛値を測定した上で、適切な量を摂取することをおすすめします。

ストレスで味覚障害になることはありますか?

はい、ストレスが原因で味覚障害となることがあります。これを心因性味覚障害といい、特に中高年の女性に多いとされています。過度のストレスやうつ状態が自律神経系に影響を与え、唾液分泌の低下や味覚神経の機能異常を引き起こすと考えられています。心因性味覚障害の場合、血液検査などで明らかな異常が見つからないことが多く、治療には抗不安薬や抗うつ薬が有効な場合があります。

味覚障害の治療にはどのくらいの期間がかかりますか?

味覚障害の治療期間は原因によって異なりますが、一般的には3~6か月程度が目安です。亜鉛補充療法の場合、血清亜鉛値の改善は4~8週で認められますが、自覚症状の改善には通常3か月以上かかります。原因別では、鉄欠乏性が約21週、亜鉛欠乏性が約22.7週、心因性が約29.3週、薬剤性が約43.2週と報告されています。早期に治療を開始するほど改善率が高いため、症状に気づいたら早めに受診することが重要です。

味覚障害と嗅覚障害の違いは何ですか?

味覚障害は舌の味蕾で感じる甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つの基本味が正しく感知できない状態です。一方、嗅覚障害はにおいを感じる機能の異常です。両者は密接に関連しており、嗅覚が低下すると食べ物の風味がわかりにくくなり、味覚障害と似た症状を呈することがあります(これを風味障害といいます)。味覚障害を訴える患者さんの中には、実際には嗅覚障害が主な原因である場合も少なくないため、耳鼻咽喉科で両方の検査を受けることが重要です。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

関連記事

RETURN TOP
電話予約
0120-561-118
1分で入力完了
簡単Web予約