顔が赤くなりやすい、ほてりやヒリヒリ感が続く、ニキビのようなブツブツが治らない…。このような症状でお悩みの方の中には「自分は赤ら顔だから仕方ない」と諦めている方も多いのではないでしょうか。実は、こうした症状の背景には「酒さ(しゅさ)」という皮膚疾患が隠れているかもしれません。しかし、すべての赤ら顔が酒さというわけではありません。赤ら顔にはさまざまな原因があり、正確な診断と適切な治療が重要です。本記事では、皮膚科専門医の視点から、酒さの4つのタイプと赤ら顔の鑑別について詳しく解説します。
目次
- 「赤ら顔=酒さ」という誤解が生まれる理由
- 酒さとは?基本的な知識と特徴
- 皮膚科医が分類する酒さの4タイプ
- タイプ1:紅斑毛細血管拡張型の特徴と症状
- タイプ2:丘疹膿疱型の特徴と症状
- タイプ3:瘤腫型・鼻瘤の特徴と症状
- タイプ4:眼型の特徴と症状
- 赤ら顔を引き起こす酒さ以外の疾患
- 酒さの原因と発症メカニズム
- 酒さの診断方法と鑑別のポイント
- 酒さの治療法
- 日常生活でのケアと予防
- まとめ
- よくある質問
「赤ら顔=酒さ」という誤解が生まれる理由
「顔が赤い」という症状を見て、すぐに「酒さ」と結びつけてしまう方は少なくありません。実際に、インターネットで「赤ら顔」と検索すると、多くのサイトで酒さについての情報が表示されます。しかし、この「赤ら顔=酒さ」という認識は、必ずしも正確ではありません。
赤ら顔は医学的には「顔面紅斑」と呼ばれ、皮膚の浅い部分にある毛細血管が拡張し、透けて見えることで顔が赤くなっている状態を指します。この赤ら顔を引き起こす原因は酒さだけではなく、毛細血管拡張症、脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、酒さ様皮膚炎など、さまざまな疾患が考えられます。
誤解が生まれやすい理由の一つは、これらの疾患の症状が非常に似通っているためです。どの疾患でも顔に赤みが生じ、場合によってはほてりやかゆみを伴うことがあります。しかし、それぞれの疾患は発症メカニズムや治療法が異なるため、正確な診断なしに自己判断で対処することは症状を悪化させる原因になりかねません。
特に注意が必要なのは、他の皮膚疾患の治療に用いられるステロイド外用薬が酒さには逆効果となる場合があることです。湿疹やアトピー性皮膚炎と誤診され、長期間ステロイド外用薬を使用し続けた結果、酒さの症状が悪化したり、「酒さ様皮膚炎(ステロイド酒さ)」を発症してしまうケースも報告されています。
このような理由から、顔の赤みで悩んでいる方は、まず皮膚科専門医を受診し、正確な診断を受けることが非常に重要です。自己判断での対処は避け、専門家の意見を聞くことで、適切な治療につなげることができます。
酒さとは?基本的な知識と特徴
酒さ(しゅさ、英語名:rosacea ロザセア)は、顔面を主な発症部位とする慢性炎症性皮膚疾患です。主に鼻、頬、額、顎などの顔の中心部に赤みやニキビのような症状が現れ、ほてりやヒリヒリ感を伴うことが特徴です。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返す「寛解と再燃」を特徴とし、完治が難しい疾患とされています。
酒さは30代から50代の中高年に発症しやすく、特に女性に多く見られます。ただし、重症例は男性に多いという特徴もあります。かつては欧米で比較的よく見られる病気とされていましたが、近年は日本でも酒さとして治療を受ける患者さんが増加しています。その背景には、食生活の変化やストレス社会の影響、また医療従事者の間での認知度向上などが考えられています。
酒さの名前の由来は、顔が赤らんでお酒を飲んだ後のように見えることからきています。しかし、これは誤解を招きやすい名称でもあります。酒さは飲酒が直接的な原因で発症する病気ではありません。ただし、アルコールの摂取は血管を拡張させるため、酒さの症状を悪化させる因子の一つとして知られています。
酒さはニキビ(尋常性ざ瘡)と似た症状を呈することがあり、「大人のニキビ」と呼ばれることもあります。しかし、ニキビとは発症メカニズムが異なり、治療法も異なります。ニキビの特徴である面皰(白ニキビや黒ニキビと呼ばれる毛穴の詰まり)が酒さには見られないことが、鑑別のポイントの一つです。
酒さは顔面に症状が現れるため、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。見た目への影響から、不安や抑うつを感じる患者さんも少なくありません。しかし、適切な治療と日常のケアにより症状をコントロールすることは十分に可能です。「もしかすると一生治らないのでは」と不安に思う方もいるかもしれませんが、正しい診断と治療を受けることで改善が期待できますので、まずは専門医に相談することをお勧めします。
皮膚科医が分類する酒さの4タイプ
日本皮膚科学会が2023年に発表した「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン」では、酒さは臨床症状によって4つのタイプに分類されています。これらのタイプはそれぞれ異なる症状を示しますが、必ずしも順番に進行するわけではなく、複数のタイプの症状が同時に現れることもあります。
酒さの4つのタイプは以下の通りです。
1つ目は「紅斑毛細血管拡張型(こうはんもうさいけっかんかくちょうがた)」で、第1度酒さとも呼ばれます。顔の赤みと毛細血管の拡張が主な特徴です。
2つ目は「丘疹膿疱型(きゅうしんのうほうがた)」で、第2度酒さとも呼ばれます。赤い盛り上がり(丘疹)や膿を持ったブツブツ(膿疱)が特徴です。
3つ目は「瘤腫型(りゅうしゅがた)・鼻瘤(びりゅう)」で、第3度酒さとも呼ばれます。鼻を中心に皮膚が厚くなり、こぶのような形状になることが特徴です。
4つ目は「眼型(がんがた)」で、目の症状を伴うタイプです。まぶたの腫れや目の充血、異物感などが現れます。
これらの4タイプを正確に理解することは、適切な治療を選択する上で非常に重要です。それぞれのタイプによって治療のアプローチが異なる場合があり、また複数のタイプが混在している場合は、それぞれの症状に対応した治療を組み合わせる必要があります。以下では、各タイプについて詳しく解説していきます。
タイプ1:紅斑毛細血管拡張型の特徴と症状
紅斑毛細血管拡張型は、酒さの中で最も多く見られるタイプです。このタイプの主な特徴は、顔の中心部(鼻、両頬、額、顎、眉間など)に持続的な赤み(紅斑)が現れ、皮膚表面に毛細血管の拡張が目立つことです。
初期症状としては、寒暖差、飲酒、運動、精神的緊張などの刺激を受けたときに一時的に顔が赤くなる「一過性紅斑」が現れます。通常であれば数時間で引くはずの赤みが、酒さの場合は長時間持続したり、繰り返し現れたりするようになります。やがて刺激がなくても赤みが常に見られる「持続性紅斑」へと進行していきます。
このタイプの患者さんの多くは、赤みに加えてほてりやヒリヒリ感、チクチクした刺激感などの自覚症状を訴えます。冷たい水で顔を洗うと痛みを感じる、お風呂に入ると顔がとても熱く感じるといった症状が特徴的です。また、皮膚が敏感になっており、普段使っている化粧品やスキンケア製品で刺激を感じることもあります。
毛細血管拡張は、皮膚表面の細い血管が開いた状態が続くことで、肉眼で確認できるようになった状態を指します。特に鼻や頬の周辺は毛細血管が密集しているため、赤みが目立ちやすい部位です。進行すると、網目状の細い血管(チリチリとした赤い線)が皮膚の上から透けて見えるようになります。
紅斑毛細血管拡張型の症状は、さまざまな因子によって悪化することが知られています。代表的な悪化因子としては、紫外線、寒暖差(特に冬の暖房と外気の温度差)、アルコールの摂取、香辛料などの刺激物、精神的ストレス、熱い飲み物、激しい運動、熱いお風呂やサウナなどが挙げられます。これらの因子は血管を拡張させる作用があり、症状を悪化させる原因となります。
治療においては、まずこれらの悪化因子を特定し、避けることが基本となります。赤みに対しては、レーザー治療やIPL(Intense Pulsed Light)などの光治療が有効とされています。これらの治療は拡張した毛細血管に作用し、赤みを軽減する効果があります。ただし、赤みの治療は外用薬や内服薬だけでは効果が限定的な場合が多く、継続的なケアが必要となります。
タイプ2:丘疹膿疱型の特徴と症状
丘疹膿疱型は、紅斑毛細血管拡張型の症状に加えて、ニキビに似た赤い盛り上がり(丘疹)や膿を持ったブツブツ(膿疱)が現れるタイプです。このタイプは「大人のニキビ」と混同されやすく、ニキビの治療を受けても改善しない場合に酒さであったと判明することもあります。
丘疹膿疱型の症状は、主に顔の中心部(頬、鼻、額、顎など)に出現します。赤い盛り上がり(丘疹)は毛穴に一致して現れることが多く、中には膿を持った状態(膿疱)になるものもあります。これらの症状はほてりやヒリヒリ感を伴うことが一般的です。
丘疹膿疱型とニキビ(尋常性ざ瘡)を見分けるポイントは、面皰(めんぽう)の有無です。ニキビの場合は、毛穴が詰まることで白ニキビ(閉鎖面皰)や黒ニキビ(開放面皰)と呼ばれる症状が見られます。一方、酒さの丘疹膿疱型では、このような面皰は見られないか、あっても非常に少ないのが特徴です。また、ニキビは思春期に発症することが多いのに対し、酒さは30代以降に発症することが多いという違いもあります。
丘疹膿疱型は、4つのタイプの中では比較的治療に良く反応するタイプとされています。治療には主に外用薬と内服薬が用いられます。2022年5月から保険適用となったメトロニダゾール外用薬(ロゼックスゲル)は、酒さの治療に広く使用されています。メトロニダゾールには抗菌作用、抗炎症作用があり、酒さの要因とされるニキビダニ(毛包虫)に対しても効果を発揮します。
内服薬としては、抗生物質(ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)が炎症を抑える目的で処方されることがあります。これらの抗生物質は細菌感染症の治療薬として知られていますが、酒さに対しては抗炎症作用によって効果を発揮すると考えられています。低用量を長期間継続して服用することで、丘疹や膿疱の改善が期待できます。
また、自費診療となりますが、アゼライン酸やイベルメクチンクリームも丘疹膿疱型の治療に効果があるとされています。アゼライン酸は皮脂分泌を抑制し、炎症を軽減する効果があります。イベルメクチンクリームはニキビダニに対する駆虫作用と抗炎症作用を持ち、メトロニダゾールと比較しても効果が高いという研究報告もあります。
タイプ3:瘤腫型・鼻瘤の特徴と症状
瘤腫型・鼻瘤は、酒さの中で最も進行したタイプと位置づけられることが多いです。このタイプでは、皮膚が厚くなり、こぶのような腫瘤(しゅりゅう)が形成されます。特に鼻に症状が現れることが多く、鼻の皮膚が赤紫色に変色し、でこぼことした形状になります。この状態を「鼻瘤(びりゅう)」または俗に「酒さ鼻」「団子鼻」と呼びます。
鼻瘤の特徴的な外観は、鼻の皮膚が厚くなって盛り上がり、毛穴が開いて目立つようになることです。皮膚の表面がざらざらとし、ミカンの皮のような凹凸が見られることもあります。また、皮脂分泌が活発になり、毛穴から皮脂が過剰に分泌される状態になります。
瘤腫型・鼻瘤は、他の3タイプと比較して男性に多く見られる傾向があります。これは男性ホルモンの影響で皮脂分泌が活発であることが関係していると考えられています。また、アルコールを多く摂取する方に多いとも言われますが、アルコールを飲まない方にも発症することがあります。
このタイプの治療は、他のタイプと比較してやや困難です。軽度の場合は外用薬や内服薬で対応することもありますが、進行した鼻瘤に対しては外科的な治療が必要になることがあります。具体的には、炭酸ガスレーザーによる焼却術(アブレーション)や、メスを使った外科的切除が行われます。これらの治療は、厚くなった皮膚組織を除去し、鼻の形状を整えることを目的としています。
瘤腫型・鼻瘤は一度形成されると自然に改善することは難しいため、早期発見・早期治療が重要です。紅斑毛細血管拡張型や丘疹膿疱型の段階で適切な治療を受けることで、瘤腫型への進行を予防できる可能性があります。鼻の皮膚の変化に気づいたら、早めに皮膚科専門医を受診することをお勧めします。
タイプ4:眼型の特徴と症状
眼型酒さは、酒さの4タイプの中で比較的まれなタイプですが、見逃されやすい症状でもあります。このタイプでは、目やまぶたに症状が現れ、眼科的な問題を引き起こします。多くの場合、顔面の酒さを伴いますが、約20%の患者さんでは皮膚症状に先行して眼症状が出現するという報告もあります。
眼型酒さの主な症状には、まぶたの炎症(眼瞼炎)、結膜炎、角膜炎、強膜炎、虹彩炎などがあります。患者さんは目の充血、異物感(目がゴロゴロする感じ)、かゆみ、乾燥、まぶしさ(羞明)、涙目などの症状を訴えます。また、まぶたの腫れや赤みが目立つこともあります。
眼型酒さが特に問題となるのは、角膜に炎症が及んだ場合です。角膜炎が進行すると視力に影響を与える可能性があり、適切な治療が行われないと深刻な合併症を引き起こすことがあります。そのため、目に関連する症状がある場合は、皮膚科だけでなく眼科も受診することが重要です。
眼型酒さの診断は、皮膚科医と眼科医の連携が必要になることがあります。顔の赤みや酒さの他のタイプの症状がある場合に眼症状を訴えれば、眼型酒さを疑うことができますが、眼症状のみの場合は診断が難しくなることがあります。
治療としては、まず酒さの基本的な治療を行いながら、眼科的な対症療法を併用します。人工涙液(点眼薬)による目の乾燥対策、抗菌点眼薬による感染予防、まぶたの清潔を保つためのケアなどが行われます。重症例では、抗生物質の内服が必要になることもあります。
眼型酒さの患者さんは、コンタクトレンズの使用が困難になることがあります。目の乾燥や炎症がある状態でコンタクトレンズを使用すると、症状が悪化する可能性があるためです。眼型酒さと診断された場合は、眼科医と相談しながらコンタクトレンズの使用について判断することが重要です。
赤ら顔を引き起こす酒さ以外の疾患
冒頭でも述べたように、赤ら顔の原因は酒さだけではありません。正確な診断と適切な治療のためには、酒さと似た症状を呈する他の疾患について理解しておくことが重要です。以下に、赤ら顔を引き起こす主な疾患を紹介します。
毛細血管拡張症
毛細血管拡張症は、皮膚表面の毛細血管が持続的に拡張し、赤みとして目に見えるようになった状態です。酒さと似た症状を呈しますが、毛細血管拡張症では炎症を伴わないことが多く、ほてりやヒリヒリ感といった自覚症状が少ないのが特徴です。体質的なものや、加齢、紫外線ダメージ、女性ホルモンの影響などが原因として考えられています。
酒さ様皮膚炎(ステロイド酒さ)
酒さ様皮膚炎は、顔面にステロイド外用薬やタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)などの免疫抑制剤を長期間使用することで発症する皮膚炎です。酒さと非常によく似た症状(赤み、丘疹、膿疱、毛細血管拡張など)を呈しますが、原因が明確である点で酒さとは区別されます。特に口の周りや顎に症状が出やすく、「口囲皮膚炎」と呼ばれることもあります。治療には原因薬剤の中止が必要ですが、急な中止は症状の一時的な悪化(リバウンド)を招くことがあるため、医師の指導のもとで慎重に行う必要があります。
脂漏性皮膚炎
脂漏性皮膚炎は、皮脂分泌が多い部位に発症する慢性の皮膚炎です。顔では眉、眉間、鼻の脇(鼻唇溝)などに好発し、赤みとともに黄色っぽいカサカサしたフケのような鱗屑(りんせつ)が見られます。酒さとの違いは、酒さでは毛細血管の拡張やボツボツした丘疹が見られるのに対し、脂漏性皮膚炎では毛細血管拡張はみられず、肌の状態がガサガサとしていることです。また、酒さが顔の中心に近い場所に症状が現れるのに対し、脂漏性皮膚炎は眉や鼻の脇などにも症状がよく現れます。脂漏性皮膚炎の原因としては、皮膚に常在するカビの一種であるマラセチア菌が関与していると考えられています。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が慢性的に続く皮膚疾患です。顔にも症状が現れることがあり、特に目の周りや頬に赤みが生じることがあります。アトピー性皮膚炎と酒さの違いは、アトピー性皮膚炎ではかゆみが強いこと、体の他の部位にも症状が現れることが多いこと、アトピー素因(家族歴やアレルギー疾患の既往)があることなどです。ただし、アトピー性皮膚炎と酒さが合併して発症しているケースもあり、診断が難しい場合があります。
接触皮膚炎
接触皮膚炎は、化粧品、洗顔料、マスク、花粉などが肌に触れることで起きる炎症です。酒さとの違いは、原因物質を避ければ比較的短期間で症状が治まることです。また、かゆみが主症状であることが多く、赤くなっている部分と正常な皮膚の境目がくっきりしている傾向があります。原因物質の特定にはパッチテストが有用です。
光線過敏症
光線過敏症は、通常では皮膚炎を起こさない程度の紫外線でも皮膚炎を起こしてしまう疾患の総称です。紫外線を浴びた後に顔だけでなく露出部が赤くなり、水疱や蕁麻疹、湿疹ができることがあります。薬剤(一部の降圧薬など)を摂取することで日光アレルギーを引き起こす「薬剤性光線過敏症」もあります。
全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病
全身性エリテマトーデスでは、両頬から鼻にかけて蝶の形をした赤み(蝶形紅斑)が特徴的に現れます。皮膚筋炎でも顔面に紅斑が見られることがあります。これらの膠原病は全身の症状を伴うことが多く、血液検査などで診断されます。顔の赤みが他の全身症状を伴う場合は、膠原病の可能性も考慮する必要があります。
このように、赤ら顔の原因は多岐にわたります。それぞれの疾患で治療法が異なるため、自己判断せずに皮膚科専門医を受診し、正確な診断を受けることが最も重要です。
酒さの原因と発症メカニズム
酒さの正確な原因は、現在の医学でも完全には解明されていません。しかし、さまざまな研究から、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。ここでは、現在考えられている酒さの原因と発症メカニズムについて解説します。
自然免疫の異常
酒さの発症には、皮膚の自然免疫システムの異常が関与していると考えられています。皮膚には外部からの病原体や刺激に対して防御する免疫システムがありますが、酒さの患者さんではこの免疫システムが過剰に反応し、炎症を引き起こしやすい状態になっていると考えられています。特に、TLR(Toll様受容体)という免疫のセンサーや、カテリシジンという抗菌ペプチドの異常が報告されています。
血管調節の異常
酒さの特徴的な症状である顔の赤みやほてりは、血管の拡張と関連しています。血管を開いたり閉じたりする神経や血管自体の構造に問題があり、血管が拡張しやすく、収縮しにくい状態になっていると考えられています。また、TRP(温度受容体)チャネルの過剰活性化も報告されており、温度変化に対して過敏に反応してしまうことが赤みやほてりの原因となっている可能性があります。
ニキビダニ(毛包虫・デモデックス)の関与
ニキビダニ(学名:Demodex、毛包虫とも呼ばれる)は、人間の皮膚の毛穴や皮脂腺に常在する小さなダニです。通常は皮脂や老廃物を分解し、皮膚環境を整える役割を果たしていますが、酒さの患者さんではこのニキビダニが過剰に増殖していることが報告されています。ニキビダニの過剰増殖は、皮膚のバリア機能を低下させ、炎症や刺激を引き起こす原因になると考えられています。酒さと診断された方の約1割程度はニキビダニが原因の毛包虫症であるという報告もあります。
遺伝的要因
酒さには遺伝的な要因も関与していると考えられています。家族に酒さの患者さんがいる場合、発症リスクが高くなるという報告があります。特に北欧系やアイルランド系など、肌の色が白い人種に多く見られることから、遺伝的な素因が関係していると考えられています。
皮膚バリア機能の低下
酒さの患者さんでは、皮膚のバリア機能が低下していることが報告されています。皮膚の保護機能が低下することで、外部からの刺激に対して過敏に反応しやすくなり、炎症が起こりやすい状態になります。これが「敏感肌」の症状として現れることもあります。
悪化因子(トリガー)
酒さの発症や悪化には、さまざまな環境因子や生活習慣が関与しています。主な悪化因子としては、紫外線、寒暖差(特に冬の暖房と外気の温度差)、アルコールの摂取、香辛料などの刺激物、精神的ストレス、熱い飲み物や食べ物、激しい運動、熱いお風呂やサウナ、一部の化粧品やスキンケア製品、長時間のマスク着用などが挙げられます。これらの因子はすべて血管を拡張させる作用があり、酒さの症状を悪化させる原因となります。
酒さは単一の原因で発症するのではなく、これらの複数の要因が重なり合って発症すると考えられています。そのため、治療においても多角的なアプローチが必要となります。
酒さの診断方法と鑑別のポイント
酒さの診断は、主に医師による問診と視診によって行われます。特別な検査法はなく、皮膚の状態や症状の経過、発症年齢などから総合的に判断されます。しかし、前述のように酒さと似た症状を呈する疾患が多いため、正確な診断には経験豊富な皮膚科専門医の判断が重要です。
診断の基準となる症状
酒さの診断には、以下のような症状が参考にされます。
まず、顔面の中央部(頬、鼻、額など)を主な発症部位とする持続的な赤みがあることが重要です。この赤みは一時的なものではなく、数か月以上にわたって継続していることが特徴です。
次に、毛細血管拡張が見られることも診断の参考になります。皮膚表面に細い血管が透けて見える状態で、特に鼻や頬に多く認められます。
丘疹や膿疱がある場合は、丘疹膿疱型の酒さが疑われます。ただし、ニキビとの鑑別が重要で、白ニキビや黒ニキビ(面皰)がほとんど見られないことが酒さの特徴です。
ほてり、ヒリヒリ感、かゆみなどの自覚症状があることも診断の参考になります。特に、温度変化や特定の刺激で症状が悪化することが確認できれば、酒さの可能性が高くなります。
鑑別診断のためのポイント
酒さと他の疾患を鑑別するためのポイントとして、まずステロイド外用薬やタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)の使用歴を確認します。これらの薬剤を長期間顔に使用していた場合は、酒さ様皮膚炎(ステロイド酒さ)の可能性があります。
また、発症年齢も重要な鑑別点です。酒さは30代以降に発症することが多いのに対し、ニキビは思春期に発症することが多いです。
症状の分布も参考になります。酒さは顔の中心部(鼻、頬、額、顎)に症状が集中しますが、目の周りは比較的症状が少ないことが特徴です。一方、脂漏性皮膚炎は眉や鼻の脇に、アトピー性皮膚炎は目の周りにも症状が現れやすいという違いがあります。
必要に応じて、皮膚の鏡検(顕微鏡検査)が行われることがあります。皮膚をこすって採取した皮脂を顕微鏡で観察し、ニキビダニ(毛包虫)の有無を確認します。ニキビダニが多数確認された場合は、毛包虫症として治療を行うことがあります。
血液検査やパッチテストが行われることもあります。膠原病などの全身性疾患を除外するための血液検査や、接触皮膚炎の原因を特定するためのパッチテストは、鑑別診断に有用です。また、金属アレルギー(歯科金属など)が酒さの原因になっている場合もあり、パッチテストで確認されることがあります。
酒さの治療法
酒さの治療は、完全な治癒というよりも、症状の寛解や緩和を目指して長期的に症状をコントロールしていくことが目標となります。日本皮膚科学会の治療ガイドライン2023では、酒さの各タイプや症状に応じた治療法が推奨されています。
悪化因子の回避
酒さの治療の基本は、まず悪化因子を特定し、それを避けることです。患者さんごとに悪化因子は異なるため、日常生活の中で何が症状を悪化させているかを把握することが重要です。代表的な悪化因子としては、紫外線、寒暖差、アルコール、香辛料、ストレス、熱い飲み物や食べ物、激しい運動、熱いお風呂やサウナなどがあります。これらの因子を避けることで、症状の悪化を防ぐことができます。
外用薬による治療
酒さの外用薬治療では、メトロニダゾールゲル(商品名:ロゼックスゲル)が日本で保険適用となっています(2022年5月から)。メトロニダゾールには抗菌作用、抗炎症作用があり、酒さの要因とされるニキビダニに対しても効果を発揮します。1日2回、患部に塗布することで、丘疹や膿疱の改善が期待できます。副作用が比較的少なく、維持治療にも有効とされています。
自費診療となりますが、アゼライン酸やイベルメクチンクリームも酒さの治療に使用されることがあります。アゼライン酸は皮脂分泌を抑制し、炎症を軽減する効果があります。天然由来の成分で、妊娠中の方でも使用可能な安全性の高い薬剤です。イベルメクチンクリームはニキビダニに対する駆虫作用と抗炎症作用を持ち、メトロニダゾールよりも効果が高いという研究報告もあります。
なお、イオウカンフルローションやプロトピック軟膏(タクロリムス軟膏)も過去には酒さに使用されることがありましたが、最新のガイドラインでは推奨されていません。特にステロイド外用薬は酒さを悪化させる可能性があるため、使用は避けるべきです。
内服薬による治療
丘疹膿疱型の酒さには、抗生物質の内服が有効とされています。ドキシサイクリン(ビブラマイシン)やミノサイクリン(ミノマイシン)などのテトラサイクリン系抗生物質が主に使用されます。これらの抗生物質は、細菌感染症の治療薬として知られていますが、酒さに対しては抗炎症作用によって効果を発揮すると考えられています。低用量を長期間(2〜3か月程度)継続して服用することで、丘疹や膿疱の改善が期待できます。
漢方薬も酒さの治療に用いられることがあります。体質改善を目指し、症状の緩和を促す目的で処方されます。桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、加味逍遥散、白虎加人参湯、十味敗毒湯などが酒さに使用されることがあります。特に十味敗毒湯は酒さの紅斑に効果があるという報告があります。
難治例には、イソトレチノイン(ビタミンA誘導体)の内服が効果的な場合があります。イソトレチノインは米国のガイドラインでは重症ニキビに対しての第一選択薬として知られており、酒さのボツボツの改善にも効果が期待できます。ただし、副作用が多く、日本では保険適用外(自費診療)となっています。
レーザー・光治療
紅斑毛細血管拡張型の酒さに対しては、レーザー治療やIPL(Intense Pulsed Light)などの光治療が有効とされています。日本皮膚科学会のガイドラインでも、毛細血管拡張を伴う酒さに対してレーザー・光治療が推奨されています。
パルス色素レーザー(Vビームなど)は、毛細血管拡張症や酒さの赤みに対して保険適用があります(毛細血管拡張症の場合)。レーザーが血管内のヘモグロビンに反応し、熱が発生することで拡張した毛細血管を破壊・収縮させ、赤みを軽減します。
IPL(光治療)も酒さの赤みに効果があるとされています。複数の波長の光を肌に照射し、メラニンやヘモグロビンに作用して赤みを改善します。レーザー治療と比較してダウンタイム(治療後の回復期間)が短いことが特徴です。
ただし、これらのレーザー・光治療は保険適用外(自費診療)となる場合もあり、また複数回の施術が必要なことが多いです。治療効果や費用については、医師と十分に相談することをお勧めします。
外科的治療
瘤腫型・鼻瘤に対しては、外用薬や内服薬では効果が限定的な場合があり、外科的な治療が必要になることがあります。炭酸ガスレーザーによる焼却術(アブレーション)や、メスを使った外科的切除が行われます。これらの治療は、厚くなった皮膚組織を除去し、鼻の形状を整えることを目的としています。
日常生活でのケアと予防
酒さの治療は医療機関での治療だけでなく、日常生活でのケアも非常に重要です。適切なスキンケアと生活習慣の改善により、症状の悪化を防ぎ、治療効果を高めることができます。
紫外線対策
紫外線は酒さの最も重要な悪化因子の一つです。一年を通して日焼け止めを使用することが推奨されています。日焼け止めを選ぶ際は、SPF30以上で低刺激性のものを選びましょう。散歩や買い物などの日常的な外出であればSPF20〜30程度、炎天下でのレジャーやスキー場などではSPF40〜50+を選ぶとよいでしょう。また、日傘や帽子の着用も効果的です。なお、紫外線と波長の異なる可視光線や赤外線も赤ら顔を悪化させる場合があり、これらに対しては日焼け止めクリームでは効果がないため、物理的な遮光対策が重要です。
適切なスキンケア
酒さの患者さんは皮膚が敏感になっていることが多いため、スキンケアには注意が必要です。洗顔は低刺激性の洗顔料を使い、ゴシゴシこすらずに泡で優しく洗うようにしましょう。熱いお湯ではなく、ぬるま湯または冷たい水で洗顔することが推奨されています。
保湿剤は低刺激性のものを選び、過度な使用は避けましょう。最新のガイドラインでは、何種類も保湿剤を重ねることで酒さを悪化させるケースがあるため、低刺激の保湿を最小限にとどめることが推奨されています。
化粧品も低刺激性やノンコメドジェニック(毛穴を詰まらせにくい)と表示されたものを選びましょう。新しい化粧品を使用する際は、目立たない部位でパッチテストを行ってから使用することをお勧めします。
食事と生活習慣
アルコール、香辛料、熱い飲み物や食べ物は血管を拡張させ、酒さの症状を悪化させる可能性があります。これらの摂取を控えめにすることが推奨されています。また、カフェインも悪化因子となることがあります。
ストレスも酒さの悪化因子の一つです。十分な睡眠を取り、リラックスできる時間を確保することが大切です。また、激しい運動や熱いお風呂、サウナなどは血管を拡張させるため、症状が強い時期は控えめにすることが望ましいでしょう。
寒暖差への対策
寒暖差は酒さの重要な悪化因子です。特に冬場は外気と室内の暖房の温度差が大きくなるため、症状が悪化しやすくなります。暖房の設定温度を控えめにする、外出時にはマフラーなどで顔を保護するなどの対策が有効です。
メイクの工夫
酒さによる赤みをメイクでカバーすることは、QOL(生活の質)の向上につながります。グリーン系のコントロールカラーやコンシーラーを使用することで、赤みを目立たなくすることができます。ただし、化粧品は低刺激性のものを選び、厚塗りは避けるようにしましょう。また、クレンジングは石鹸で落とせるタイプの化粧品を選ぶと、肌への負担を減らすことができます。
まとめ
本記事では、「赤ら顔=酒さ」という誤解について解説し、皮膚科医が分類する酒さの4タイプ(紅斑毛細血管拡張型、丘疹膿疱型、瘤腫型・鼻瘤、眼型)について詳しく説明しました。
赤ら顔の原因は酒さだけではなく、毛細血管拡張症、脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、酒さ様皮膚炎など、さまざまな疾患が考えられます。それぞれの疾患で治療法が異なるため、自己判断での対処は避け、皮膚科専門医による正確な診断を受けることが重要です。
酒さは完治が難しい慢性疾患ですが、適切な治療と日常のケアにより症状をコントロールすることは十分に可能です。2022年からメトロニダゾールゲル(ロゼックスゲル)が保険適用となり、日本でも酒さの治療選択肢が広がっています。
顔の赤みやほてり、ニキビに似た症状でお悩みの方は、ぜひ一度専門医にご相談ください。正しい診断と適切な治療を受けることで、症状の改善と生活の質の向上が期待できます。

よくある質問
酒さは完全に治癒することが難しい慢性疾患ですが、適切な治療と日常のケアにより症状をコントロールし、寛解状態を維持することは十分に可能です。外用薬や内服薬、レーザー治療などを組み合わせ、悪化因子を避けることで、多くの患者さんで症状の改善が見られます。継続的な治療とケアが重要です。
酒さとニキビは似た症状を呈することがありますが、いくつかの違いがあります。最も重要な違いは、ニキビでは面皰(白ニキビや黒ニキビ)が見られるのに対し、酒さでは面皰がほとんど見られないことです。また、酒さは30代以降に発症することが多く、ニキビは思春期に多いという違いもあります。酒さではほてりやヒリヒリ感、毛細血管拡張が見られることも特徴です。
酒さにステロイド外用薬を使用することは一般的に推奨されません。ステロイドは一時的に炎症を抑える効果がありますが、長期間使用すると酒さの症状を悪化させたり、酒さ様皮膚炎(ステロイド酒さ)を引き起こす可能性があります。酒さが疑われる場合は、自己判断でステロイドを使用せず、皮膚科専門医に相談することが重要です。
酒さを悪化させる可能性がある食べ物・飲み物としては、アルコール、香辛料(唐辛子、カレーなど)、熱い飲み物や食べ物、カフェインなどが挙げられます。これらは血管を拡張させる作用があり、顔の赤みやほてりを増強させる可能性があります。ただし、悪化因子は個人差があるため、自分の症状を悪化させるものを把握することが大切です。
酒さの治療の一部は保険適用されます。2022年5月からメトロニダゾールゲル(ロゼックスゲル)が酒さに対して保険適用となりました。また、抗生物質の内服薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)も保険適用で処方されることがあります。一方、アゼライン酸やイベルメクチンクリームなどは自費診療となります。レーザー治療も基本的に自費となることが多いですが、毛細血管拡張症と診断された場合は保険適用となる場合があります。
参考文献
- 日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
- マルホ株式会社「酒さナビ」
- 持田ヘルスケア株式会社「酒さ(しゅさ)とは?赤ら顔の症状や原因、治療方法について」
- MSDマニュアル家庭版「酒さ」
- Mindsガイドラインライブラリ「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務