「鼻血がまた出た…」「しかも、いつも同じ側の鼻からばかり出る」。このような経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか。子どもの鼻血はよくあることとして軽く捉えられがちですが、大人になってから片方だけの鼻血を繰り返す場合は、その原因をしっかり把握しておくことが大切です。多くの場合は心配のいらない原因によるものですが、なかには注意が必要な病気が隠れている可能性もあります。本記事では、大人が片方だけの鼻血を繰り返す原因や、正しい止血法、受診の目安について詳しく解説します。鼻血でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
目次
- 片方だけの鼻血を繰り返す大人が知っておくべきこと
- 鼻血の仕組みとキーゼルバッハ部位
- 片方だけ繰り返す鼻血の主な原因
- 注意が必要な鼻血の症状と隠れた病気
- 正しい鼻血の止め方
- 間違った鼻血の止め方とその危険性
- 耳鼻咽喉科を受診する目安
- 耳鼻咽喉科での検査と治療
- 鼻血を予防するための日常生活のポイント
- まとめ
- よくある質問
片方だけの鼻血を繰り返す大人が知っておくべきこと
鼻血は医学的には「鼻出血」と呼ばれ、鼻腔内の粘膜にある血管が何らかの原因で傷つき、出血することで起こります。鼻血自体は非常にありふれた症状であり、統計によると約60%の人が生涯のうちに一度は経験するといわれています。子どもの場合は日常的によくみられる症状ですが、大人で鼻血が繰り返し起こることはそれほど多くありません。
特に注目すべきなのは、「片方だけ」「繰り返す」という点です。両方の鼻から交互に出血するのではなく、いつも決まった側からのみ出血が続く場合は、その側の鼻腔に何らかの原因が存在している可能性が高いと考えられます。多くの場合は鼻の構造的な問題や慢性的な炎症などが原因ですが、まれに腫瘍などの重大な病気が隠れていることもあります。
大人の繰り返す鼻血は、子どもの鼻血とは異なる視点で捉える必要があります。子どもの鼻血の大半はアレルギー性鼻炎による鼻いじりが原因であり、成長とともに自然に改善することが多いです。一方、大人の場合は高血圧や動脈硬化、血液をサラサラにする薬の服用、さらには鼻腔や副鼻腔の腫瘍など、全身的な要因や深刻な病気が関係している可能性があります。
したがって、大人で片方だけの鼻血が繰り返し起こる場合は、「体質だから」と放置せず、一度耳鼻咽喉科を受診して原因を調べることをお勧めします。早期に原因を特定し、適切な対処をすることで、出血の頻度を減らしたり、重大な病気を早期発見したりすることが可能になります。
鼻血の仕組みとキーゼルバッハ部位
鼻血がどこから出ているのかを理解することは、適切な止血や予防において非常に重要です。鼻腔内には多くの血管が走っており、粘膜は薄くデリケートなため、わずかな刺激でも傷がつきやすい構造になっています。
キーゼルバッハ部位とは
鼻血の約80〜90%は「キーゼルバッハ部位」と呼ばれる場所から出血しています。キーゼルバッハ部位は、鼻の穴の入り口から約1〜1.5cmほど奥に入ったところにある、鼻中隔(鼻の穴を左右に分けている壁)の前方に位置しています。この部位は左右の鼻にそれぞれ存在します。
キーゼルバッハ部位には、複数の血管が網の目のように集まっており、しかも粘膜が非常に薄いため、鼻をほじったり、強く鼻をかんだり、鼻をぶつけたりといった軽い刺激でも容易に出血してしまいます。また、空気の乾燥によって粘膜が傷つきやすくなることもあります。
キーゼルバッハ部位からの出血は「前鼻出血」と呼ばれ、鼻血の大部分を占めます。この部位からの出血は、適切な圧迫止血を行えば比較的容易に止まることが多く、重症化することは稀です。
後鼻出血とその危険性
一方、鼻腔の奥の方から出血する「後鼻出血」は、前鼻出血に比べて出血量が多くなりやすく、止血も困難になる傾向があります。後鼻出血は、鼻腔の後方にある蝶口蓋動脈や前篩骨動脈などの比較的太い血管から出血することが多く、特に高血圧や動脈硬化のある中高年の方に起こりやすいとされています。
後鼻出血の場合、血液が喉の方へ流れ込みやすく、鼻の前から押さえても止血が難しいことがあります。出血量が多かったり、喉へ大量に血が流れてきたりする場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
片方だけ出血する理由
鼻血が片方だけから出る理由はいくつか考えられます。最も多いのは、物理的な刺激が特定の側に集中していることです。例えば、利き手で鼻をいじる癖がある場合、無意識のうちに同じ側ばかりを触っていることがあります。
また、鼻中隔弯曲症のように鼻の構造に左右差がある場合も、片方だけの鼻血の原因となります。鼻中隔が曲がっている側は気流が乱れやすく、粘膜が乾燥したり傷つきやすくなったりするため、その側からの出血が繰り返し起こりやすくなります。
さらに、片方の鼻腔にのみ存在する病変(ポリープや腫瘍など)がある場合も、当然ながらその側だけから出血が起こります。このように、片方だけの鼻血が繰り返す場合は、その側の鼻腔に特有の原因が存在している可能性を考慮する必要があります。
片方だけ繰り返す鼻血の主な原因
大人が片方だけの鼻血を繰り返す場合、さまざまな原因が考えられます。ここでは代表的な原因について詳しく解説します。
鼻中隔弯曲症
鼻中隔弯曲症は、片方だけの鼻血を繰り返す原因として非常に多くみられる疾患です。鼻中隔とは、鼻の穴を左右に分けている壁のことで、軟骨と骨から構成されています。この鼻中隔が左右どちらかに大きく曲がっている状態を鼻中隔弯曲症といいます。
実は、鼻中隔がまったく真っ直ぐな人はほとんどいません。成人の約90%に何らかの弯曲があるといわれています。これは、成長過程において軟骨の発育速度が周囲の骨よりも速いため、限られたスペースの中で軟骨が曲がってしまうことが主な原因です。また、顔面への外傷や骨折によって弯曲が生じることもあります。
鼻中隔が大きく弯曲していると、曲がって突き出している部分の粘膜は引き延ばされて薄くなり、血管が傷つきやすい状態になります。また、弯曲部分には空気が当たりやすく、粘膜が乾燥しやすくなることも出血の原因となります。これらの理由から、鼻中隔弯曲症では片方だけの鼻血を繰り返すことが多いのです。
鼻中隔弯曲症の主な症状には、慢性的な鼻づまり(特に片側)、いびき、口呼吸、頭痛、嗅覚障害などがあります。症状が強い場合は、鼻中隔矯正術という手術によって根本的な治療が可能です。手術は通常17〜18歳以降に行われ、鼻の穴から器具を挿入して弯曲した部分を矯正するため、顔に傷が残ることはありません。
アレルギー性鼻炎・副鼻腔炎
アレルギー性鼻炎は、花粉やダニ、ハウスダストなどのアレルゲンによって鼻の粘膜に炎症が起こる疾患です。鼻水、くしゃみ、鼻づまり、かゆみなどの症状が現れ、これらの症状によって鼻血が出やすくなります。
アレルギー性鼻炎があると、鼻の粘膜が慢性的に炎症を起こして充血し、血管が拡張した状態になります。この状態で鼻をかんだり、かゆみのために鼻をこすったりすると、容易に出血してしまいます。特に子どもの繰り返す鼻血の原因の80〜90%はアレルギー性鼻炎といわれていますが、大人でもアレルギー性鼻炎が鼻血の原因となっていることは少なくありません。
副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)も鼻血の原因となります。副鼻腔炎では、副鼻腔に膿が溜まり、粘膜が腫れて炎症を起こします。この炎症によって粘膜が弱くなり、出血しやすくなります。また、粘り気のある鼻水を何度も強くかむことで、粘膜を傷つけてしまうこともあります。
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎が原因の場合は、原因疾患の治療が鼻血の予防につながります。抗アレルギー薬やステロイド点鼻薬、抗生物質などによる治療を適切に行うことで、鼻血の頻度を減らすことができます。
鼻粘膜の乾燥
鼻の粘膜は適度な湿度を保つことで正常な機能を維持しています。しかし、冬場の乾燥した空気やエアコンの効いた室内環境では、鼻粘膜が乾燥して傷つきやすくなります。
乾燥した粘膜は柔軟性が失われ、わずかな刺激でも血管が破れやすくなります。特に就寝中は口呼吸になりやすく、朝起きたときに鼻血が出ていたという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
また、鼻中隔弯曲症がある場合、弯曲している側は空気の流れが乱れやすく、より乾燥しやすい傾向があります。これが片方だけの鼻血を繰り返す原因の一つとなっています。
乾燥対策としては、室内の加湿、マスクの着用、鼻粘膜の保湿(ワセリンや生理食塩水スプレーの使用)などが有効です。
高血圧
高血圧は、中高年の鼻血の重要な要因の一つです。血圧が高い状態が続くと、血管に常に強い圧力がかかるため、血管壁が傷みやすくなります。また、一度出血すると、高い血圧によって出血の勢いが強くなり、止まりにくくなる傾向があります。
ただし、「高血圧だから鼻血が出る」というのは必ずしも正確ではありません。高血圧そのものが直接の原因で鼻血が起きることは比較的少なく、むしろ高血圧によって血管がもろくなっているところに何らかの刺激が加わって出血するというケースが多いです。また、高血圧の方は動脈硬化を合併していることも多く、これも鼻血が出やすくなる要因となります。
高血圧が原因で起こる鼻血は、キーゼルバッハ部位からの前鼻出血だけでなく、鼻腔の奥にある動脈からの後鼻出血になることもあります。後鼻出血は出血量が多く、止血が困難なことがあるため、特に注意が必要です。
高血圧のある方が鼻血を繰り返す場合は、血圧のコントロールが重要です。降圧薬を適切に服用し、生活習慣の改善によって血圧を正常範囲に保つことが、鼻血の予防にもつながります。
抗凝固薬・抗血小板薬の服用
心筋梗塞や脳梗塞、不整脈(心房細動)などの治療や予防のために、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)を服用している方は多くいらっしゃいます。代表的な薬としては、ワーファリン(ワルファリン)、バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、DOAC(直接経口抗凝固薬)などがあります。
これらの薬は血液を固まりにくくする作用があるため、一度鼻血が出ると止まりにくくなります。通常であれば5〜10分程度で止まる鼻血が、これらの薬を服用している方では20〜30分以上かかることもあります。
抗凝固薬や抗血小板薬を服用中の方で鼻血が頻繁に起こる場合は、主治医に相談することが大切です。ただし、これらの薬は重要な疾患の治療や予防のために処方されているものですので、自己判断で服用を中止することは絶対に避けてください。
その他の原因
上記以外にも、以下のような原因で鼻血が繰り返し起こることがあります。
肝臓の病気では、血液を固めるために必要な凝固因子の産生が低下するため、鼻血が止まりにくくなります。肝硬変などの慢性肝疾患がある方は注意が必要です。
腎臓の病気(慢性腎臓病、腎不全など)でも、出血しやすくなることがあります。これは、腎臓の機能低下によって血小板の機能が障害されるためです。
血液の病気(白血病、血友病、血小板減少症など)では、血液を固める機能に問題があるため、鼻血だけでなく全身のあらゆる場所で出血しやすくなります。鼻血以外にも、歯茎からの出血、皮膚のあざができやすいなどの症状がある場合は、血液の病気の可能性を考慮する必要があります。
糖尿病では、高血糖状態が続くことで血管がもろくなります。また、動脈硬化を合併していることも多いため、鼻血が出やすくなることがあります。
注意が必要な鼻血の症状と隠れた病気
ほとんどの鼻血は心配のいらないものですが、なかには重大な病気のサインである可能性もあります。ここでは、特に注意が必要な症状と、鼻血の原因となりうる深刻な病気について解説します。
鼻腔・副鼻腔の腫瘍
大人で片方だけの鼻血が繰り返す場合、最も注意すべきなのは鼻腔や副鼻腔の腫瘍です。腫瘍には良性のものと悪性のものがあります。
良性腫瘍としては、出血性鼻茸(ポリープの一種)、血管腫、乳頭腫などがあります。これらは悪性ではありませんが、繰り返し出血の原因となることがあり、治療が必要な場合もあります。
悪性腫瘍(がん)としては、上顎洞がん、篩骨洞がん、鼻腔がんなどがあります。副鼻腔がんのなかで最も多いのは上顎洞がんで、日本では年間約700〜800人が新たに診断されています。発症要因としては、慢性副鼻腔炎、喫煙、粉塵への長期間の曝露などが挙げられます。
上顎洞がんは初期の段階では症状が出にくく、進行してから発見されることが多いのが特徴です。症状としては、片側だけの鼻づまり、血が混じった鼻水や鼻血、頬のしびれや痛み、頬の腫れ、眼球突出、複視(物が二重に見える)、歯のぐらつき、口が開けづらいなどがあります。
以下のような症状がある場合は、腫瘍の可能性を考慮して、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。
まず、今まで感じなかった鼻づまりがここ数ヶ月で急に起こるようになった場合です。次に、片側だけの鼻血が繰り返すようになった場合、特に少量でも血が混じった鼻水が続く場合は注意が必要です。さらに、頬のしびれや痛み、片側だけ涙が出るなどの症状がある場合も、早めの受診をお勧めします。
これらの症状が数週間にわたって片側だけに続く場合は、痛みがなくても軽視せず、耳鼻咽喉科で検査を受けることが大切です。
オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症)
オスラー病は、遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)とも呼ばれる遺伝性の疾患で、全身の血管に異常が生じ、出血しやすくなる病気です。日本では5,000〜8,000人に1人の割合でこの病気の遺伝子を持っているといわれ、指定難病に認定されています。
オスラー病の最も多い症状は繰り返す鼻血であり、患者さんの80〜90%にみられます。通常の鼻血と異なり、オスラー病の鼻血は頻繁に起こり、止まりにくいという特徴があります。また、年齢とともに症状が悪化する傾向があります。
オスラー病の診断基準には以下の4項目があり、3項目以上に該当すれば確定診断、2項目で疑い例とされます。第一に、繰り返す鼻出血(自然かつ反復性であること)があります。第二に、皮膚や粘膜の毛細血管拡張(口唇、口腔、手指、鼻などに赤い点状や線状の血管拡張がみられる)があります。第三に、内臓の血管病変(肺、脳、肝臓、脊髄などの動静脈奇形)があります。第四に、家族歴(一親等以内にオスラー病と診断された人がいる)があります。
オスラー病は、鼻血だけでなく、肺や脳、肝臓などにできた動静脈奇形が破裂すると重篤な合併症を引き起こすことがあります。特に肺の動静脈奇形は、脳梗塞や脳膿瘍といった重大な合併症のリスクとなります。
繰り返す鼻血に加えて、口唇や舌、指先などに特徴的な毛細血管拡張がみられる場合や、家族に同様の症状を持つ方がいる場合は、オスラー病の可能性を考慮して専門医を受診することをお勧めします。
危険な鼻血の見分け方
以下のような症状がみられる場合は、命に関わる可能性もある「危険な鼻血」として、直ちに医療機関を受診する必要があります。
出血の勢いが強く、鼻を押さえていても血があふれてくる場合は危険です。これは動脈からの出血の可能性があり、早急な処置が必要です。
下を向いて小鼻を押さえていても、喉の方に血が流れてきて、口から吐き出さなければならないような出血も危険なサインです。このような出血は、鼻腔の奥からの出血(後鼻出血)である可能性が高く、圧迫止血だけでは止まりにくいことがあります。
20分以上圧迫しても出血が止まらない場合も、医療機関での処置が必要です。
1週間に3回以上鼻血が出る場合は、何らかの基礎疾患がある可能性がありますので、耳鼻咽喉科を受診しましょう。
鼻血以外にも、歯茎からの出血、皮膚にあざができやすい、傷の出血が止まりにくいなどの症状がある場合は、血液の病気の可能性があります。
正しい鼻血の止め方
鼻血が出たときは、正しい方法で止血することが大切です。間違った方法で対処すると、かえって血が止まりにくくなったり、体調を悪化させたりすることがあります。
正しい止血の手順
まず、落ち着くことが大切です。慌てると血圧が上がり、出血量が増える可能性があります。深呼吸をして気持ちを落ち着かせましょう。
次に、椅子に座り、少しうつむいた姿勢をとります。頭を心臓より高い位置に保つことで、出血部位への血圧を下げる効果があります。横になることは避けてください。
そして、小鼻(鼻のふくらんだ柔らかい部分)を親指と人差し指でしっかりとつまみます。両側からつまんで鼻を閉じるようにし、5〜10分間そのまま圧迫し続けます。この間、指を離して出血が止まったか確認したくなりますが、せっかく固まりかけた血液が剥がれてしまう可能性があるため、我慢して圧迫を続けてください。
鼻血の大部分はキーゼルバッハ部位からの出血であり、この部位は小鼻の内側にあたります。したがって、小鼻をしっかり圧迫することで出血点を直接押さえることができ、効果的に止血することができます。
喉の方に血が流れてきた場合は、飲み込まずに口から吐き出しましょう。血液を飲み込むと、胃の中で酸化されて吐き気や嘔吐を引き起こすことがあります。
通常、5〜10分程度の圧迫で多くの鼻血は止まります。もし止まらない場合は、もう5分間圧迫を続けてください。それでも止まらない場合は、医療機関を受診しましょう。
止血後の注意点
鼻血が止まった後も、いくつかの注意点があります。
まず、しばらくの間は鼻を強くかんだり、ほじったりしないようにしましょう。出血部位にできたかさぶたが剥がれて、再び出血する可能性があります。
激しい運動、長時間の入浴、飲酒などは、体温や血圧を上昇させて再出血の原因となることがあります。鼻血が止まった当日は、これらを控えることをお勧めします。
また、熱いものや刺激物の摂取も、血管を拡張させて再出血のリスクを高める可能性があります。
間違った鼻血の止め方とその危険性
鼻血の止め方には、多くの誤解があります。以下のような方法は避けるべきです。
上を向く
鼻血が出たときに上を向くのは、最もよく行われる間違いの一つです。上を向くと、血液が喉の方へ流れ込んでしまいます。その結果、血液を飲み込んでしまい、胃の中で酸化されて吐き気や嘔吐を引き起こすことがあります。
また、横になって上を向いた状態で嘔吐すると、吐しゃ物が気道に入り、窒息の原因となる危険もあります。さらに、喉に流れた血液が固まって血栓となり、気道を塞ぐ可能性もあります。
鼻血が出たときは必ず少しうつむいた姿勢をとり、血液が喉に流れないようにしましょう。
鼻にティッシュを詰める
鼻血が出たときにティッシュや脱脂綿を鼻に詰めることも、実はあまり推奨されていません。詰め方が浅いと出血点を圧迫できず、止血効果が得られません。また、ティッシュの繊維で鼻の粘膜をさらに傷つけてしまう可能性があります。
さらに問題なのは、詰めたティッシュを抜くときです。血液がティッシュに染み込んで固まるため、抜く際にせっかくできたかさぶたを剥がしてしまい、再び出血してしまうことがよくあります。
基本的には何も詰めず、小鼻を外側から圧迫するだけで十分です。どうしても詰める必要がある場合は、清潔な綿球を出血部位に届くように奥まで詰め、抜くときはゆっくりと行ってください。
首の後ろを叩く・冷やす
首の後ろを叩いたり、首の後ろを冷やしたりする方法は、医学的な根拠がありません。出血点を直接圧迫することなく、このような方法を行っても止血効果は期待できません。
冷やすのであれば、鼻の付け根(目頭の間あたり)を冷やすことで、血管を収縮させる効果が多少期待できるかもしれませんが、基本的には小鼻の圧迫が最も効果的な止血法です。
鼻の骨の部分を押さえる
鼻血を止めようとして、鼻の骨のある硬い部分を押さえている方がいますが、これは間違いです。鼻血の出血点であるキーゼルバッハ部位は、小鼻の内側にあります。鼻の骨の部分をいくら強く押さえても、出血点を圧迫することはできません。
正しくは、小鼻の柔らかい部分をしっかりとつまんで圧迫することが大切です。
耳鼻咽喉科を受診する目安
一度だけの鼻血で、正しい方法で圧迫すればすぐに止まる程度であれば、通常は医療機関を受診する必要はありません。しかし、以下のような場合は耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。
すぐに受診すべき場合
出血が20分以上止まらない場合は、キーゼルバッハ部位以外からの出血の可能性があり、医療機関での処置が必要です。
出血量が非常に多い場合、特に血がドクドクと脈打つように出てくる場合は、動脈からの出血の可能性があります。
下を向いて圧迫しているのに喉の方に大量の血が流れてくる場合は、後鼻出血の可能性があります。
頭部を強く打った後に鼻血が出た場合は、頭蓋底骨折の可能性も考慮する必要があります。
これらの場合は、夜間であっても救急外来を受診してください。
近いうちに受診すべき場合
鼻血が頻繁に起こる場合(週に3回以上など)は、何らかの原因があると考えられます。
いつも同じ側からのみ出血する場合は、その側の鼻腔に問題がある可能性があります。
数週間にわたって片側だけの鼻づまりや少量の血が混じった鼻水が続く場合は、腫瘍の可能性も考慮する必要があります。
血液をサラサラにする薬を服用中で鼻血が頻繁に起こる場合は、耳鼻咽喉科だけでなく、処方医にも相談することをお勧めします。
鼻血以外にも、歯茎からの出血やあざができやすいなどの症状がある場合は、血液の病気の可能性があります。
耳鼻咽喉科での検査と治療
耳鼻咽喉科を受診すると、まず問診で鼻血の状況(頻度、量、左右どちらから出るか、いつから始まったかなど)や既往歴、服用中の薬などについて確認されます。その後、鼻腔内の診察や必要に応じて各種検査が行われます。
検査
視診では、鼻鏡という器具で鼻の入り口付近を観察し、出血点や異常がないかを確認します。より詳しく観察する必要がある場合は、内視鏡(ファイバースコープ)を使って鼻腔の奥まで観察します。
腫瘍や副鼻腔炎、鼻中隔弯曲症などが疑われる場合は、CTやMRIなどの画像検査が行われることがあります。
血液の病気が疑われる場合は、血液検査で血小板数や凝固機能などを調べます。
治療
治療は原因に応じて行われます。
出血している状態で受診した場合は、まず止血処置が行われます。出血点が確認できれば、止血剤を塗布したり、電気メスやレーザーで焼灼(焼いて止血する処置)したりします。出血点がはっきりしない場合や出血が多い場合は、鼻腔内にガーゼを詰めて圧迫止血を行うことがあります。
繰り返す鼻血の原因がアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の場合は、抗アレルギー薬や抗生物質などによる原因疾患の治療が行われます。
鼻中隔弯曲症が原因で鼻血を繰り返している場合は、症状が強ければ鼻中隔矯正術という手術が検討されることがあります。
鼻粘膜焼灼術は、出血を繰り返す血管を電気メスやレーザーで焼いて出血しにくくする治療法です。局所麻酔下で行われ、外来で実施できることが多いです。ただし、一度の治療で完全に止まるとは限らず、複数回の治療が必要になることもあります。
腫瘍が見つかった場合は、良性か悪性かを確認するために組織の一部を採取して病理検査を行い、その結果に応じて手術や放射線治療、化学療法などが検討されます。
鼻血を予防するための日常生活のポイント
鼻血を予防するためには、日常生活でいくつかのポイントに気をつけることが大切です。
鼻粘膜の保湿
鼻粘膜の乾燥は鼻血の大きな原因の一つです。室内の湿度を適度に保つために加湿器を使用したり、マスクを着用して鼻の中の湿度を保ったりすることが有効です。また、鼻の入り口付近にワセリンを塗布したり、生理食塩水スプレーを使用したりすることで、粘膜を保湿することができます。
鼻をいじらない
鼻をほじる癖がある方は、意識的にやめるようにしましょう。特に、鼻血が止まった後はかさぶたが気になるかもしれませんが、触らないことが大切です。かさぶたを剥がすと再出血の原因となります。
鼻を強くかまない
鼻を強くかむと、粘膜を傷つけて出血の原因となります。鼻水が出るときは、片方ずつ優しくかむようにしましょう。
アレルギー性鼻炎の治療
アレルギー性鼻炎がある方は、適切な治療を受けることが鼻血の予防につながります。抗アレルギー薬やステロイド点鼻薬を使用して症状をコントロールすることで、鼻をいじったり強くかんだりする必要がなくなり、鼻血のリスクを減らすことができます。
血圧の管理
高血圧がある方は、降圧薬を適切に服用し、減塩や適度な運動などの生活習慣の改善によって血圧を正常範囲に保つことが大切です。
飲酒・喫煙を控える
飲酒は血圧を上昇させ、血管を拡張させるため、鼻血が出やすくなります。喫煙は鼻粘膜を傷つけ、また上顎洞がんのリスク因子ともなります。鼻血を繰り返す方は、飲酒と喫煙を控えることをお勧めします。
定期的な健康診断
高血圧、糖尿病、肝臓病、腎臓病などの生活習慣病は、鼻血が出やすくなる原因となります。定期的に健康診断を受けて、これらの疾患の早期発見・早期治療に努めることが大切です。
まとめ
大人で片方だけの鼻血を繰り返す場合、その原因はさまざまです。最も多いのは鼻中隔弯曲症やアレルギー性鼻炎、鼻粘膜の乾燥などによるキーゼルバッハ部位からの出血であり、これらは適切な対処や治療によって改善が期待できます。
一方で、高血圧や血液をサラサラにする薬の服用、血液の病気、さらには鼻腔や副鼻腔の腫瘍など、より深刻な原因が隠れている可能性もあります。特に、今まで感じなかった鼻づまりが急に起こるようになった、血が混じった鼻水が続く、頬のしびれや痛みがあるなどの症状がある場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診することが大切です。
鼻血が出たときは、落ち着いて少しうつむいた姿勢をとり、小鼻をしっかりと圧迫することで、多くの場合5〜10分程度で止血できます。上を向いたり、鼻にティッシュを詰めたりする方法は、かえって悪化させる可能性があるため避けましょう。
鼻血を予防するためには、鼻粘膜の保湿、鼻をいじらないこと、アレルギー性鼻炎の治療、血圧の管理などが有効です。繰り返す鼻血でお悩みの方は、一度耳鼻咽喉科を受診して原因を調べ、適切な治療を受けることをお勧めします。

よくある質問
片方だけ鼻血が繰り返す原因としては、鼻中隔弯曲症(鼻の真ん中の壁が曲がっている状態)、片側の鼻粘膜の乾燥、特定の側を触る癖、片側の鼻腔にある病変(ポリープや腫瘍など)が考えられます。鼻中隔が曲がっている側は粘膜が引き延ばされて薄くなり、空気の流れも乱れやすいため、出血しやすくなります。繰り返す場合は耳鼻咽喉科で原因を調べることをお勧めします。
子どもの鼻血の多くはアレルギー性鼻炎による鼻いじりが原因で、成長とともに改善することが多いです。一方、大人の鼻血は高血圧や動脈硬化、血液をサラサラにする薬の服用、まれに腫瘍など、全身的な要因や深刻な病気が関係している可能性があります。大人で繰り返す鼻血は、子どもよりも注意が必要であり、一度は耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。
上を向くと血液が喉の方へ流れ込んでしまいます。血液を飲み込むと胃の中で酸化されて吐き気や嘔吐を引き起こすことがあります。また、横になって上を向いた状態で嘔吐すると、吐しゃ物が気道に入り窒息の原因となる危険もあります。鼻血が出たときは少しうつむいた姿勢で、小鼻を圧迫するのが正しい止め方です。
正しい方法(少しうつむいた姿勢で小鼻を圧迫)で20分以上止血を試みても鼻血が止まらない場合は、キーゼルバッハ部位以外からの出血や、動脈からの出血の可能性があります。この場合は自宅での対処が困難なため、耳鼻咽喉科または救急外来を受診してください。特に血液をサラサラにする薬を服用中の方は止血に時間がかかりやすいので、早めの受診をお勧めします。
高血圧そのものが直接の原因で鼻血が起きることは比較的少ないですが、血圧が高い状態が続くと血管に負担がかかり、血管壁がもろくなります。また、一度出血すると高い血圧によって出血の勢いが強くなり、止まりにくくなる傾向があります。高血圧の方が鼻血を繰り返す場合は、血圧のコントロールが重要です。
片方だけの鼻血が繰り返す場合、まれに鼻腔や副鼻腔の腫瘍が原因であることがあります。特に、今まで感じなかった鼻づまりが急に起こるようになった、血が混じった鼻水が続く、頬のしびれや痛みがあるなどの症状が伴う場合は注意が必要です。これらの症状が数週間にわたって片側だけに続く場合は、痛みがなくても早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
参考文献
- 鼻出血-意外と知らない|一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 侮れない、大人に起こる危険な鼻血|サワイ健康推進課
- 鼻中隔弯曲症|一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 鼻血(鼻出血)はなぜ起こる?原因と受診の目安|特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
- 鼻出血(鼻血)|東京逓信病院
- オスラー病(指定難病227)|難病情報センター
- オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症)|KOMPAS 慶應義塾大学病院
- 初期症状が出にくい点に要注意 鼻腔がん・副鼻腔がんの特徴を知ろう|一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
- 上顎洞がん|国立がん研究センター 東病院
- 鼻副鼻腔腫瘍|KOMPAS 慶應義塾大学病院
- 「その鼻血、どう止める?」~救急医が鼻出血の正しい初期対応を教えます~|東京ベイ・浦安市川医療センター
- 鼻中隔弯曲症|MSDマニュアル家庭版
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務