「人より汗をかきやすい気がする」「手汗がひどくて書類が濡れてしまう」「緊張すると脇汗が止まらない」このような悩みを抱えている方は、多汗症の可能性があります。多汗症は日本人の約5〜7%が罹患しているとされる比較的身近な疾患ですが、体質だと諦めて適切な治療を受けていない方も少なくありません。本記事では、多汗症かどうかを自分で確認できるセルフチェック方法から、症状の見分け方、重症度の判定基準、そして医療機関を受診すべきタイミングまで詳しく解説します。
目次
- 多汗症とは何か
- 多汗症のセルフチェック方法
- 部位別にみる多汗症の症状
- 多汗症の重症度を判定する方法
- 多汗症と似た症状を持つ他の疾患
- 医療機関を受診すべきタイミング
- 多汗症の主な治療法
- 日常生活でできる多汗症対策
- よくある質問
- まとめ
💧 多汗症とは何か
多汗症とは、体温調節に必要な量を超えて過剰に発汗する状態が続く疾患です。汗は本来、体温を調節するために必要な生理現象ですが、多汗症の場合は日常生活に支障をきたすほど大量の汗をかいてしまいます。
📋 多汗症の定義と特徴
医学的には、多汗症は「日常生活に支障をきたすほどの発汗が、明らかな原因がないまま6カ月以上続く状態」と定義されています。単に汗っかきという体質とは異なり、特定の条件下で過剰な発汗が起こり、本人の意思ではコントロールできないことが特徴です。
多汗症の発汗は、気温や運動量に関係なく起こることがあります。たとえば、涼しい室内にいるときや、特に体を動かしていないときでも、突然大量の汗をかくことがあります。また、緊張やストレスを感じたときに発汗が増加する傾向があり、これが社会生活に影響を与えることも少なくありません。
🔬 原発性多汗症と続発性多汗症の違い
多汗症は大きく分けて、原発性多汗症と続発性多汗症の2種類があります。
原発性多汗症は、特定の基礎疾患がなく発症する多汗症です。遺伝的な要因が関係していると考えられており、思春期前後から症状が現れることが多いです。手のひら、足の裏、脇の下、頭部、顔面など、体の特定の部位に限局して発汗が起こる「局所性多汗症」の形をとることがほとんどです。
続発性多汗症は、他の疾患や薬剤、生理的な変化などが原因で起こる多汗症です。以下のような原因があります:
- 甲状腺機能亢進症
- 糖尿病
- 更年期障害
- 感染症
- 悪性腫瘍
- 一部の薬剤の副作用
続発性多汗症は全身に発汗が見られることが多く、原因となる疾患の治療によって改善が期待できます。
📊 多汗症の発症頻度と好発年齢
日本における多汗症の有病率は約5〜7%とされており、決して珍しい疾患ではありません。特に原発性局所多汗症は、手掌多汗症が約5.3%、腋窩多汗症が約5.8%と報告されています。
発症年齢については、原発性多汗症の多くは25歳以下で発症し、特に思春期前後に症状が顕著になることが多いです。小児期から症状がある場合もあり、学校生活や社会生活に影響を与えることがあります。男女差については部位によって異なり、手掌多汗症は性差が少ないのに対し、腋窩多汗症はやや女性に多い傾向があります。
✅ 多汗症のセルフチェック方法
自分が多汗症かどうかを確認するためのセルフチェック方法を紹介します。以下の項目に当てはまるかどうかを確認してみてください。
📝 原発性局所多汗症の診断基準に基づくチェック
原発性局所多汗症の診断には、日本皮膚科学会のガイドラインで示されている診断基準が用いられます。まず、局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6カ月以上続いていることが前提条件となります。
その上で、以下の6項目のうち2項目以上に該当する場合、原発性局所多汗症と診断されます:
- 最初に症状が出たのが25歳以下
多くの原発性多汗症は思春期前後に発症するため、若年での発症は原発性を示唆する重要な所見です。 - 左右対称性に発汗がみられる
原発性多汗症では、両手、両足、両脇など、左右対称に症状が現れることが特徴的です。 - 睡眠中は発汗が止まる
原発性多汗症は交感神経の過活動が関係しているため、睡眠中は発汗が軽減または停止します。 - 週に1回以上の頻度で多汗のエピソードがある
たまに汗をかく程度ではなく、定期的に過剰な発汗が起こることが特徴です。 - 家族歴がある
原発性多汗症は遺伝的な要因が関与しており、家族に同様の症状を持つ人がいることが多いです。 - 日常生活に支障をきたしている
書類が濡れる、握手ができない、服に汗染みができるなど、社会生活や仕事に影響がある状態です。
📋 簡易セルフチェックリスト
より簡単に多汗症の可能性を確認するためのチェックリストを用意しました。以下の項目について、自分に当てはまるかどうかを確認してください:
- 手のひらや足の裏が常に湿っている感じがする
- 紙やスマートフォンを触ると湿ってしまう
- 握手をするときに相手の手を濡らしてしまう
- ペンを握ると滑ってしまうことがある
- 靴下や靴が湿って不快感がある
- 脇汗が多く、服に汗染みができやすい
- 緊張やストレスを感じると、急に大量の汗をかく
- 涼しい環境でも汗が止まらないことがある
- 汗のことが気になって、人前に出ることを避けてしまう
- これらの症状が思春期前後から続いている
上記の項目のうち、複数に該当する場合は多汗症の可能性があります。特に、日常生活に支障をきたしている場合や、精神的な負担を感じている場合は、医療機関への相談を検討してください。
🔍 発汗量の客観的な確認方法
自分の発汗量を客観的に確認する方法もあります。医療機関では、ヨード・デンプン反応を用いた発汗部位の可視化や、発汗量の定量測定が行われますが、自宅でも簡易的な確認が可能です。
手のひらの発汗確認方法:
乾いた紙やティッシュを手のひらに置いて、数分後に湿り具合を確認してみてください。通常の発汗量であれば紙がわずかに湿る程度ですが、多汗症の場合は明らかに濡れていたり、紙が波打ったりします。
脇の発汗確認方法:
白いTシャツを着て、汗染みの大きさや広がり方を観察します。汗染みが直径5cm以上に広がる場合や、衣服を貫通して外側にまで染み出る場合は、多汗症の可能性が高いと考えられます。
🎯 部位別にみる多汗症の症状
多汗症は発汗が起こる部位によって、症状や日常生活への影響が異なります。それぞれの部位における特徴的な症状を詳しく解説します。
🖐️ 手掌多汗症(手のひらの多汗症)
手掌多汗症は、手のひらに過剰な発汗が起こる状態で、原発性局所多汗症の中でも特に多い部位です。症状の程度は人によって異なり、軽度の場合は手のひらが湿っている程度ですが、重度の場合は汗が滴り落ちるほどの発汗が見られます。
日常生活で困る場面:
- 書類や紙が濡れて破れてしまう
- スマートフォンやタブレットの操作がしにくい
- 握手をためらってしまう
- ハンドルを握る手が滑る
- 楽器の演奏に支障が出る
特に仕事で書類を扱う方や、接客業で握手の機会が多い方にとっては、深刻な悩みとなることがあります。手掌多汗症は精神的な緊張やストレスで悪化することが多く、人前での発表や面接、初対面の人との会話など、緊張する場面で症状が強くなる傾向があります。
🦶 足蹠多汗症(足の裏の多汗症)
足蹠多汗症は、足の裏に過剰な発汗が起こる状態です。手掌多汗症と合併することが多く、両方の症状を持つ方も珍しくありません。
主な症状:
- 靴の中が常に湿っている
- 靴下がすぐに濡れてしまう
- 足が滑りやすくサンダルが履きにくい
- 足の臭いが気になる
また、足が常に湿った状態にあるため、水虫や皮膚のふやけなどの二次的な皮膚トラブルが起こりやすくなります。日本では室内で靴を脱ぐ習慣があるため、訪問先や飲食店などで靴を脱いだ際に、床に足跡がつく、湿った靴下が気になるといった悩みを抱える方が多くいます。
💪 腋窩多汗症(脇の多汗症)
腋窩多汗症は、脇の下に過剰な発汗が起こる状態です。脇は元々汗腺が多い部位であり、体温調節において重要な役割を果たしていますが、腋窩多汗症の場合は必要量をはるかに超えた発汗が起こります。
衣服への影響:
- シャツやブラウスに大きな汗染みができる
- 汗が衣服を貫通して外側にまで染み出る
- 汗染みが目立つ色の服が着られない
このため、常にジャケットを脱げない、腕を上げる動作を避けてしまうなど、行動が制限されることもあります。また、腋窩多汗症では臭いの問題も伴うことがあります。脇にはアポクリン汗腺が存在し、その汗が皮膚の常在菌によって分解されると特有の臭いが発生します。これがワキガ(腋臭症)ですが、多汗症とワキガは別の疾患であり、必ずしも合併するわけではありません。
👤 頭部・顔面多汗症
頭部・顔面多汗症は、頭皮や顔面に過剰な発汗が起こる状態です。他の部位の多汗症と比べて、症状が他人から見えやすいという特徴があり、精神的な負担が大きくなりやすい傾向があります。
頭部多汗症の症状:
- 頭皮から汗が流れ落ちる
- 髪がすぐに濡れてしまう
- 額から汗が垂れる
日常生活への影響:
- 化粧が崩れやすい
- メガネが滑る
- 汗が目に入って不快
- 人前で話すときに汗が気になる
特に仕事でプレゼンテーションを行う機会が多い方や、接客業に従事している方にとっては、大きな悩みとなることがあります。
🌐 全身性多汗症
全身性多汗症は、体の広い範囲にわたって過剰な発汗が起こる状態です。局所性多汗症とは異なり、特定の部位に限局せず、体幹や四肢など全身に発汗が見られます。
全身性多汗症の場合は、続発性多汗症である可能性を考慮する必要があります。以下のような疾患が原因となっていることがあります:
- 甲状腺機能亢進症
- 糖尿病
- 感染症
- 悪性腫瘍
- 更年期障害に伴うホットフラッシュ
- 薬剤の副作用
全身性多汗症が疑われる場合は、発汗以外の症状(体重変化、動悸、疲労感など)の有無も確認し、必要に応じて医療機関で検査を受けることが推奨されます。
📊 多汗症の重症度を判定する方法
多汗症の治療方針を決定するためには、重症度の評価が重要です。ここでは、医療機関でも使用されている重症度判定の方法を紹介します。
📈 HDSSによる重症度評価
HDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)は、多汗症の重症度を評価するために国際的に使用されている指標です。4段階のスケールで症状の程度を評価し、治療の必要性や治療効果の判定に用いられます。
グレード1:発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない状態
この段階では、多汗症とは診断されず、正常な発汗の範囲内と考えられます。
グレード2:発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある状態
汗をかくことは気になるものの、大きな問題にはなっていない段階です。この段階では、生活上の工夫や市販の制汗剤などで対応できることが多いです。
グレード3:発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある状態
汗のために仕事や学校生活、対人関係に影響が出ている段階であり、医療機関での治療を検討すべき状態です。
グレード4:発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある状態
汗のために通常の生活を送ることが困難になっており、積極的な治療が必要な段階です。
HDSSでグレード3または4に該当する場合は、原発性局所多汗症の診断基準における「日常生活に支障をきたしている」に該当すると判断されます。
🧪 発汗量による客観的評価
医療機関では、発汗量を客観的に測定する方法も用いられます。代表的なものに、換気カプセル法という方法があります。これは、測定部位をカプセルで覆い、一定時間内の発汗量を定量的に測定する方法です。
手掌多汗症の場合、安静時の発汗量が手のひら片方あたり20mg/分以上であれば、多汗症と診断される目安となります。ただし、この検査は専門的な機器が必要なため、すべての医療機関で実施できるわけではありません。
自宅での簡易確認方法:
手のひらや脇に吸水性の良い紙を当て、一定時間後の重量変化を測定する方法があります。ただし、これはあくまで目安であり、正確な診断には医療機関での評価が必要です。
🏥 QOLへの影響度評価
多汗症の重症度は、発汗量だけでなく、生活の質(QOL)への影響度でも評価されます。同じ程度の発汗量でも、職業や生活スタイルによってQOLへの影響は大きく異なります。
QOLへの影響評価項目:
- 仕事や学業への影響があるか
- 対人関係に支障が出ているか
- 趣味や余暇活動が制限されているか
- 衣服の選択が制限されているか
- 外出や社会参加を避けるようになっているか
- 精神的な苦痛やストレスを感じているか
これらの点で明らかな支障がある場合は、発汗量にかかわらず治療の対象となり得ます。特に、多汗症が原因で社会不安障害やうつ状態を引き起こしている場合は、早期の治療介入が重要です。
⚕️ 多汗症と似た症状を持つ他の疾患
多汗症のセルフチェックを行う際には、似た症状を呈する他の疾患との区別も重要です。以下に、多汗症と鑑別が必要な疾患を紹介します。
🦋 甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患で、代表的なものにバセドウ病があります。甲状腺ホルモンは代謝を亢進させる作用があるため、発汗が増加することがあります。
甲状腺機能亢進症の特徴的症状:
- 全身性の発汗
- 動悸
- 体重減少
- 手の震え
- 暑がり
- イライラ感
- 眼球突出
これらの症状が見られる場合は、血液検査で甲状腺機能を確認することが推奨されます。
🩺 糖尿病
糖尿病も多汗症の原因となることがあります。糖尿病性神経障害により自律神経が障害されると、発汗の異常が起こることがあります。特に、食事中や食後に顔面や頭部に発汗が起こる「味覚性発汗」は、糖尿病に特徴的な症状の一つです。
また、糖尿病の治療中にインスリンや経口血糖降下薬により低血糖が起こると、冷や汗をかくことがあります。糖尿病の既往がある方や、発汗以外に口渇、多尿、体重減少などの症状がある場合は、血糖値の確認が必要です。
🔥 更年期障害
更年期障害では、ホットフラッシュと呼ばれる症状が特徴的です。ホットフラッシュは、突然の発汗、顔面紅潮、熱感を伴う症状で、数分間続いた後に自然に治まります。これは女性ホルモンの変動により、体温調節中枢が不安定になることで起こると考えられています。
更年期障害の特徴:
- 40代後半から50代の女性に多い
- 月経周期の変化
- 不眠
- 気分の変動
これらの症状を伴うことが多く、原発性多汗症とは異なる経過をたどります。男性にも男性更年期障害があり、同様の症状が見られることがあります。
🦠 感染症
発熱を伴う感染症では、解熱時に発汗が増加することがあります。これは、体温を下げるための正常な生理反応です。また、結核やHIV感染症などの慢性感染症では、寝汗が特徴的な症状として現れることがあります。
感染症による発汗の特徴:
- 発熱
- 倦怠感
- 体重減少
これらの全身症状を伴うことが多く、原発性多汗症とは区別できます。原因不明の発汗と発熱が続く場合は、感染症の可能性を考慮して医療機関を受診することが重要です。
💊 薬剤性多汗症
一部の薬剤は、副作用として発汗を引き起こすことがあります。代表的なものとして、以下があります:
- 抗うつ薬
- 解熱鎮痛薬
- 降圧薬
- ホルモン製剤
新しい薬を服用し始めてから発汗が増加した場合は、薬剤性多汗症の可能性を考慮する必要があります。薬剤性多汗症が疑われる場合は、自己判断で薬を中止せず、処方医に相談してください。薬剤の変更や用量調整により、症状が改善することがあります。
🏥 医療機関を受診すべきタイミング
多汗症は、適切な治療により症状をコントロールできることが多い疾患です。以下のような場合は、医療機関への受診を検討してください。
⚠️ 受診を検討すべき症状
日常生活に支障をきたすほどの発汗がある場合は、医療機関への受診を検討してください。
受診を検討すべき状況:
- 仕事や学業に影響が出ている
- 対人関係に支障が出ている
- 汗のために外出や社会参加を避けるようになっている
- 汗のことで精神的な苦痛を感じている
- 市販の制汗剤では効果が不十分
早めの受診が推奨される症状:
以下のような症状がある場合は、続発性多汗症や他の疾患の可能性があるため、早めの受診が推奨されます。
- 急に発汗が増加した場合
- 全身に発汗がある場合
- 寝汗がひどい場合
- 発熱や体重減少を伴う場合
- 動悸や手の震えを伴う場合
- 片側だけに発汗がある場合
🏥 受診する診療科
多汗症の診療は、主に皮膚科で行われています。皮膚科では、以下の診療が行われます:
- 多汗症の診断
- 重症度評価
- 外用薬や内服薬による治療
- ボツリヌス毒素注射
手術療法を希望する場合や、重症例では、胸部外科や形成外科への紹介が必要になることがあります。また、続発性多汗症が疑われる場合は、内分泌内科や総合内科での原因検索が必要になることもあります。
どの診療科を受診すべきか迷う場合は、まずはかかりつけ医や近くの皮膚科に相談することをおすすめします。
📋 受診時に伝えるべき情報
医療機関を受診する際には、以下の情報を整理しておくと、診断や治療方針の決定に役立ちます:
- 発汗が気になり始めた時期
- 発汗が起こる部位
- 発汗が起こる状況や誘因
- 発汗の頻度と程度
- 日常生活への影響の具体的な内容
- これまでに試した対策とその効果
- 家族に同様の症状がある人がいるか
- 現在服用している薬
- 他に気になる症状があるか
これらの情報をメモにまとめておくと、診察時にスムーズに伝えることができます。
💉 多汗症の主な治療法
多汗症には、さまざまな治療法があります。症状の部位や重症度、患者さんの希望に応じて、適切な治療法が選択されます。
🧴 外用薬による治療
多汗症の治療において、最初に試されることが多いのが外用薬です。代表的なものとして、塩化アルミニウム製剤があります。塩化アルミニウムは汗腺の開口部を閉塞させることで発汗を抑制する効果があり、濃度10〜30%程度の溶液やクリームとして使用されます。
塩化アルミニウム製剤の使用方法:
- 夜寝る前に患部に塗布
- 翌朝洗い流す
- 効果が現れるまでに数日から1週間程度
- 継続的な使用が必要
副作用として、皮膚の刺激感や炎症が起こることがあります。また、2020年には原発性腋窩多汗症に対して、抗コリン薬の外用薬(ソフピロニウム臭化物)が保険適用となりました。
💊 内服薬による治療
外用薬で効果が不十分な場合や、広範囲に発汗がある場合には、内服薬が検討されることがあります。多汗症に使用される内服薬としては、抗コリン薬が代表的です。
抗コリン薬の効果と副作用:
- 汗腺を支配する神経の働きを抑制
- 全身の発汗を減少させる
- 副作用:口渇、便秘、眼の調節障害、排尿困難
- 緑内障や前立腺肥大症のある方には使用不可
漢方薬も多汗症の治療に用いられることがあります。防已黄耆湯や桂枝加黄耆湯などが使用されますが、効果には個人差があります。
💉 ボツリヌス毒素注射
ボツリヌス毒素注射は、特に腋窩多汗症に対して高い効果を示す治療法です。ボツリヌス毒素を汗腺の周囲に注射することで、汗腺を支配する神経の働きを一時的に抑制し、発汗を減少させます。
効果と持続期間:
- 注射後数日から1週間程度で効果が現れる
- 効果は4〜9カ月程度持続
- 効果が減弱してきたら再度注射が必要
副作用として、注射部位の痛みや内出血、一時的な筋力低下などが起こることがあります。原発性腋窩多汗症に対するボツリヌス毒素注射は、2012年から保険適用となっています。
⚡ イオントフォレーシス
イオントフォレーシスは、水を張った容器に手や足を浸し、微弱な電流を流すことで発汗を抑制する治療法です。電流により汗腺の機能が一時的に抑制されると考えられています。
治療の特徴:
- 効果が現れるまでに数回から十数回の治療が必要
- 効果を維持するためには継続的な治療が必要
- 副作用は比較的少ない(皮膚の刺激感やピリピリ感程度)
- 医療機関だけでなく、家庭用機器も販売
🏥 手術療法
他の治療法で効果が不十分な重症例や、確実な効果を希望する場合には、手術療法が検討されることがあります。
手掌多汗症に対する手術:
胸腔鏡下交感神経遮断術(ETS)が行われることがあります。これは、胸部の交感神経節を切断または焼灼することで、手のひらへの発汗命令を遮断する手術です。効果は高いですが、代償性発汗(手術後に他の部位の発汗が増加する現象)が高頻度に起こるという欠点があります。
腋窩多汗症に対する手術:
汗腺を直接除去する手術や、皮下組織を削り取る手術が行われることがあります。これらの手術は、腋窩に限局した効果があり、代償性発汗のリスクは低いです。
💡 日常生活でできる多汗症対策
医療機関での治療と併せて、日常生活での対策を行うことで、多汗症の症状をより効果的にコントロールすることができます。
👕 衣服の選び方
衣服の選び方を工夫することで、汗による不快感を軽減することができます。
おすすめの素材:
- 通気性の良い天然繊維(綿、麻)
- 吸汗速乾性に優れた機能性素材
腋窩多汗症の方への対策:
- 脇汗パッドやインナーの活用
- 汗染みが目立ちにくい色やパターンの選択
- 白や黒は比較的汗染みが目立ちにくい
足蹠多汗症の方への対策:
- 通気性の良い靴を選択
- 吸汗性の良い素材の靴下を使用
- 複数の靴をローテーションで履く
🧴 制汗剤の活用
市販の制汗剤も、軽度から中等度の多汗症には有効なことがあります。
制汗剤の種類:
- スプレータイプ
- ロールオンタイプ
- スティックタイプ
- クリームタイプ
より効果の高い制汗剤を求める場合は、塩化アルミニウムを含む製品が市販されています。ただし、濃度が高いものは皮膚への刺激が強いことがあるため、使用前にパッチテストを行うことをおすすめします。
🍽️ 生活習慣の見直し
生活習慣の見直しも、多汗症の症状軽減に役立つことがあります。
避けるべき食品:
- 辛い食べ物
- カフェイン
- アルコール
ストレス管理:
ストレスや緊張は発汗を悪化させる要因となります。以下の方法でストレスを管理することが有効です:
- リラクゼーション法
- 呼吸法
- 適度な運動
- 十分な睡眠
体重管理も多汗症対策の一つです。肥満は発汗を増加させる要因となるため、適正体重を維持することが推奨されます。
🧠 精神面でのケア
多汗症は身体的な症状だけでなく、精神面にも影響を与えることがあります。汗をかくことへの不安が、さらに発汗を促進するという悪循環に陥ることも少なくありません。
心構え:
- 多汗症は治療可能な疾患であることを理解
- 必要以上に悲観的にならない
- 症状に対処するための具体的な方法を準備
症状が精神的な負担となっている場合は、心療内科やカウンセリングの利用も検討してください。認知行動療法などの心理療法が、多汗症に伴う不安の軽減に効果を示すことがあります。

❓ よくある質問
原発性多汗症には遺伝的な要因が関係していると考えられています。研究によると、多汗症患者の約30〜65%に家族歴があるとされています。ただし、遺伝形式は複雑であり、親が多汗症であっても子供に必ず遺伝するわけではありません。また、環境要因も発症に関与していると考えられています。
原発性多汗症が自然に治癒することは稀です。ただし、加齢とともに症状が軽減する方もいます。これは、加齢に伴い汗腺の機能が低下することが関係していると考えられています。一方、続発性多汗症の場合は、原因となる疾患が治療されれば、発汗も改善することがあります。
多汗症の治療の一部は保険適用されています。原発性腋窩多汗症に対するボツリヌス毒素注射は2012年から保険適用となっています。また、2020年には原発性腋窩多汗症に対する外用抗コリン薬(ソフピロニウム臭化物)も保険適用となりました。塩化アルミニウム製剤は保険適用外ですが、比較的安価で入手可能です。手術療法も一定の条件を満たせば保険適用となる場合があります。
子供でも多汗症を発症することがあります。原発性多汗症は思春期前後に症状が顕著になることが多いですが、小児期から症状がある場合もあります。子供の場合、手掌多汗症により筆記具が滑る、テスト用紙が濡れるなど、学校生活に影響が出ることがあります。子供の多汗症も適切な治療により症状をコントロールできることが多いため、症状がある場合は小児科や皮膚科に相談してください。
多汗症とワキガ(腋臭症)は異なる疾患です。多汗症はエクリン汗腺からの発汗が過剰になる状態であり、ワキガはアポクリン汗腺から分泌された汗が皮膚の常在菌により分解されて特有の臭いを発する状態です。両者が合併することはありますが、必ずしも同時に起こるわけではありません。多汗症があってもワキガがない方、ワキガがあっても多汗症がない方も多くいます。
📝 まとめ
多汗症は、日常生活に支障をきたすほどの過剰な発汗が続く疾患です。日本人の約5〜7%が罹患しているとされる比較的身近な疾患ですが、体質だと諦めて適切な治療を受けていない方も少なくありません。
本記事で紹介したセルフチェック方法を参考に、ご自身の症状を確認してみてください。原発性局所多汗症の診断基準に基づくチェックで複数の項目に該当する場合や、HDSSでグレード3以上に該当する場合は、多汗症の可能性があります。
多汗症には、以下のような治療法があります:
- 外用薬
- 内服薬
- ボツリヌス毒素注射
- イオントフォレーシス
- 手術療法
症状の部位や重症度、患者さんの希望に応じて、適切な治療法を選択することができます。
日常生活に支障をきたす発汗がある場合や、汗のことで精神的な苦痛を感じている場合は、我慢せずに医療機関を受診してください。アイシークリニック大宮院では、多汗症に関するご相談を承っております。お気軽にご相談ください。
参考文献
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
医師・当院治療責任者
多汗症は適切な診断と治療により症状をコントロールできることが多い疾患です。「体質だから仕方ない」と諦めずに、まずはセルフチェックで症状を客観的に評価してみてください。日常生活に支障をきたしている場合は、遠慮なく医療機関にご相談いただければと思います。