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発達障害と生きづらさ|大人になって気づく特性と向き合い方を専門家が解説

「周囲とうまくなじめない」「同じ失敗を何度も繰り返してしまう」「努力しているのに仕事がうまくいかない」——このような生きづらさを感じたことはありませんか。近年、大人になってから発達障害と診断される方が増えています。発達障害は先天的な脳機能の特性であり、適切な理解と支援があれば、特性を活かしながら自分らしく生きることが可能です。本記事では、発達障害と生きづらさの関係性について詳しく解説するとともに、生きづらさを軽減するための具体的な対処法や支援制度についてご紹介します。一人で抱え込まず、まずは発達障害について正しく理解することから始めてみましょう。


目次

  1. 発達障害とは?定義と種類について
  2. 発達障害がある人が「生きづらさ」を感じる理由
  3. 大人になってから気づく発達障害
  4. ADHD(注意欠如・多動症)の特徴と生きづらさ
  5. ASD(自閉スペクトラム症)の特徴と生きづらさ
  6. 発達障害グレーゾーンとは
  7. 発達障害の二次障害について
  8. 生きづらさを軽減するための対処法
  9. 発達障害の診断と治療について
  10. 支援機関と相談窓口
  11. 職場における合理的配慮
  12. 生きづらさを感じたときに大切にしてほしいこと
  13. よくある質問

発達障害とは?定義と種類について

発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達の偏りによって生じる特性から、社会生活において困りごとが持続的に起きている状態のことを指します。発達障害者支援法において、発達障害は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。

発達障害は大きく分けて、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害/限局性学習症)の3つに分類されます。これらの障害は単独で存在することもありますが、複数の特性を併せ持つことも珍しくありません。また、特性の現れ方や程度には個人差が大きく、同じ診断名であっても一人ひとり異なる困りごとを抱えています。

発達障害は先天的なものであり、親の育て方や本人の努力不足によるものではありません。脳の働き方の違いによって生じるものであり、適切な理解とサポートがあれば、その特性を強みとして活かしながら社会生活を送ることが可能です。発達障害のある方の中には、特定の分野において優れた能力を発揮する方も少なくありません。

発達障害がある人が「生きづらさ」を感じる理由

発達障害のある方が生きづらさを感じる背景には、特性と環境のミスマッチが大きく関係しています。発達障害の特性は環境との相互作用によって、困りごととして現れることもあれば、逆に強みとして発揮されることもあります。しかし、特性に合わない環境や、周囲の理解が得られない状況が続くと、慢性的なストレスを抱えることになり、生きづらさへとつながっていきます。

多くの発達障害のある方は、子どものころから「なぜ自分だけできないのか」「どうして周りと同じようにできないのか」という疑問を抱きながら成長してきています。本人は一生懸命努力しているにもかかわらず、周囲からは「怠けている」「やる気がない」「わがまま」といった誤解を受けやすく、そのことが自己肯定感の低下につながることも少なくありません。

また、発達障害は目に見える障害ではないため、周囲から理解されにくいという特徴があります。外見上は他の人と変わらないように見えるため、困りごとが「性格の問題」や「能力の問題」として片付けられてしまうことがあります。このような周囲との認識のギャップが、発達障害のある方の孤立感や疎外感を深め、生きづらさをより強く感じさせる要因となっています。

大人になってから気づく発達障害

発達障害は先天的なものですが、大人になってから初めて診断を受ける方が増えています。これは「大人の発達障害」とも呼ばれますが、成人してから突然発症するわけではありません。子どものころから特性は存在していたものの、軽度であったり、周囲のサポートがあったりして、これまでは何とか適応できていたケースがほとんどです。

大人になってから発達障害に気づくきっかけとして多いのは、就職や転職、結婚、出産、昇進といったライフイベントの変化です。これらの変化に伴って求められる役割や責任が増え、より複雑なコミュニケーションやマルチタスクが必要になると、それまで対処できていた困りごとが表面化しやすくなります。

特に職場においては、暗黙のルールを読み取ることや、臨機応変な対応、チームワークなど、発達障害の特性と相反するスキルが求められる場面が多くあります。学生時代には成績優秀だった方でも、社会人になってから人間関係や仕事の進め方で困難を感じ、初めて自分の特性に気づくというケースは珍しくありません。

また、うつ病や不安障害などの精神疾患を発症し、その治療過程で背景に発達障害があることが判明することもあります。発達障害の特性によるストレスが蓄積し、二次的に精神疾患を引き起こすケースは少なくなく、このような場合は二次障害への対応とともに、発達障害への適切な支援が必要となります。

ADHD(注意欠如・多動症)の特徴と生きづらさ

ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする発達障害です。DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)では、これらの症状が12歳以前から存在し、2つ以上の場面で機能障害を引き起こしていることが診断基準となっています。ADHDの有病率は子どもで約5%、成人で約2.5%とされており、男性のほうが女性より多い傾向があります。

不注意の特徴

不注意の特徴としては、課題に集中し続けることが困難である、細かいことに注意を払えずケアレスミスが多い、話を聞いていないように見える、物事を順序立てて行うことが苦手、忘れ物や紛失物が多い、といった症状が挙げられます。大人の場合、約束を忘れる、締め切りを守れない、書類の整理ができない、会議中に集中力が続かないといった形で現れることが多いです。

多動性・衝動性の特徴

多動性の特徴としては、じっとしていられない、手足をもぞもぞ動かす、席を離れてしまうといった行動が見られます。子どもの頃は身体的な多動として現れやすいですが、大人になると落ち着きのなさやそわそわ感として現れることが多くなります。衝動性の特徴としては、順番を待てない、相手の話を遮ってしまう、結果を考えずに行動してしまうといった症状が挙げられます。

ADHDによる生きづらさ

ADHDのある方が職場で感じる生きづらさとして多いのは、ミスが多い、時間管理ができない、物事に優先順位をつけられない、作業を最後までやり遂げられないといった困りごとです。本人は努力しているにもかかわらず同じ失敗を繰り返してしまい、上司や同僚から叱責を受けることで自信を失っていくケースも少なくありません。また、感情のコントロールが難しく、ちょっとしたことでイライラしたり、衝動的な発言をしてしまったりして、対人関係でトラブルを抱えることもあります。

ASD(自閉スペクトラム症)の特徴と生きづらさ

ASD(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーションや対人関係における持続的な困難と、行動や興味の限定的・反復的なパターンを特徴とする発達障害です。以前は自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などと細かく分類されていましたが、2013年のDSM-5の改訂により、これらは「自閉スペクトラム症」として一つにまとめられました。ASDの有病率は約1〜2%とされ、男性に多い傾向があります。

社会的コミュニケーションの困難

ASDのある方は、言葉や表情、身振りなどから相手の気持ちを読み取ることが苦手であったり、自分の気持ちをうまく伝えることが難しかったりします。会話のキャッチボールがうまくできない、冗談や皮肉が通じない、言葉を文字通りに受け取ってしまう、場の空気を読むことが苦手といった特徴が見られます。また、相手との適切な距離感がつかめず、親密になりすぎたり、逆に疎遠になりすぎたりすることもあります。

限定的・反復的な行動パターン

ASDのある方は、特定のことに強いこだわりを持つ傾向があります。決まった手順やルーティンを好み、急な予定変更に対応することが困難です。また、特定の分野に対して深い興味と知識を持っていることも特徴の一つです。感覚過敏または感覚鈍麻を伴うこともあり、特定の音や光、触感などに対して過敏に反応したり、逆に鈍感だったりすることがあります。

ASDによる生きづらさ

ASDのある方が社会生活で感じる生きづらさとして多いのは、対人関係の構築・維持の困難さです。悪気がないのに相手を怒らせてしまう、なぜか周囲から浮いてしまう、友人ができにくいといった経験を重ねることで、孤立感や疎外感を深めていくことがあります。職場においては、曖昧な指示の理解が難しい、臨機応変な対応ができない、チームワークがうまくいかないといった困りごとが生じやすくなります。また、感覚過敏がある場合は、オフィスの騒音や照明、人混みなどが大きなストレス源となることもあります。

発達障害グレーゾーンとは

発達障害グレーゾーンとは、心療内科や精神科で検査を受けた結果、発達障害の確定診断には至らなかったものの、部分的にその傾向が認められる状態を指します。グレーゾーンだからといって困りごとが軽いわけではなく、中には日常生活や仕事に大きな支障をきたすほど重い特性に悩まされている方もいます。

グレーゾーンの方が抱える特有の困難として、社会的には「健常者」とみなされるため、確定診断がある方と同じような福祉サービスや支援を受けにくいという点があります。障害者手帳の取得が難しいケースも多く、就労支援などの制度を利用できないことがあります。また、困りごとを周囲に説明しても「甘え」や「怠け」と誤解されやすく、理解を得ることが難しいという側面もあります。

グレーゾーンの方が生きづらさを軽減するためには、まず自分の得意・不得意を正確に把握することが重要です。確定診断がなくても、発達障害者支援センターなどで相談を受けることは可能ですので、一人で抱え込まずに専門家に相談することをお勧めします。自分の特性を理解した上で、苦手なことへの対処法を身につけたり、得意なことを活かせる環境を選んだりすることで、生活の質を向上させることができます。

発達障害の二次障害について

二次障害とは、発達障害の特性によるストレスや困難が積み重なることで、後天的に発症する精神的・行動的な問題のことを指します。発達障害そのものは先天的なものですが、二次障害は環境や対人関係によって引き起こされるものであり、適切な対応によって予防・改善することが可能です。

内在化障害

二次障害のうち、自分自身の内面に影響が現れるものを内在化障害と呼びます。代表的なものとして、うつ病、適応障害、不安障害、強迫性障害、心身症などが挙げられます。発達障害のある方は、社会生活における度重なる失敗体験や周囲からの否定的な評価によって自己肯定感が低下しやすく、これらの精神疾患を発症するリスクが高いとされています。実際に、うつ病や不安障害を主訴として精神科を受診した方の中から、背景に発達障害があることが判明するケースは少なくありません。

外在化障害

二次障害のうち、他者や社会に対して問題行動として現れるものを外在化障害と呼びます。暴力的な行動、反抗的な態度、非行、依存症などが含まれます。自分のことを理解してもらえない苦しみや、繰り返し否定される経験が、こうした行動につながることがあります。また、不登校やひきこもりといった社会からの回避行動も、二次障害の一形態として捉えられることがあります。

二次障害の予防

二次障害を予防するためには、発達障害の特性について本人と周囲が正しく理解し、適切な環境調整とサポートを行うことが重要です。失敗体験ばかりを重ねるのではなく、得意なことを活かして成功体験を積み重ねられるような環境づくりが大切です。また、困りごとを一人で抱え込まず、信頼できる人や専門機関に相談できる体制を整えておくことも、二次障害の予防につながります。すでに二次障害を発症している場合は、まずその症状に対する治療を優先し、症状が落ち着いてから発達障害への対応を進めていくことが一般的です。

生きづらさを軽減するための対処法

発達障害の特性そのものを完全になくすことは難しいですが、特性との付き合い方を工夫することで、生きづらさを軽減することは十分に可能です。ここでは、日常生活で実践できる具体的な対処法についてご紹介します。

自己理解を深める

まず大切なのは、自分自身の特性を正しく理解することです。どのような場面で困りごとが生じやすいのか、何が苦手で何が得意なのかを客観的に把握することで、適切な対処法を見つけやすくなります。発達障害の特性をすべて短所として捉えるのではなく、強みとして活かせる側面もあることを認識することが重要です。例えば、ADHDの方が持つ発想力や行動力、ASDの方が持つ専門分野への深い知識やこだわりは、適切な環境においては大きな強みとなり得ます。

環境調整の工夫

自分の特性に合わせて生活環境や仕事環境を調整することで、困りごとを軽減することができます。例えば、忘れ物が多い方はスマートフォンのリマインダー機能を活用する、集中力が続かない方は作業を小分けにして休憩を挟む、感覚過敏がある方はノイズキャンセリングイヤホンを使用するなど、自分に合った工夫を見つけていくことが大切です。また、整理整頓が苦手な方は物の置き場所を決めてラベルを貼る、時間管理が苦手な方はスケジュール管理アプリを活用するなど、外部ツールを上手に活用することも効果的です。

周囲への特性の伝え方

信頼できる家族や友人、職場の上司や同僚に自分の特性について伝えることで、理解やサポートを得やすくなります。ただし、発達障害という言葉だけでは誤解を招くこともあるため、具体的にどのような困りごとがあり、どのような配慮があると助かるのかを分かりやすく説明することが重要です。例えば「急な予定変更が苦手なので、変更がある場合は早めに教えていただけると助かります」「口頭だけの指示は忘れやすいので、メールでも送っていただけると確実です」といった形で、具体的な配慮の依頼を伝えるとよいでしょう。

生活習慣の見直し

発達障害のある方は、睡眠の問題を抱えていることが多いとされています。規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠を確保することは、心身の安定につながります。同じ時間に寝室に入る習慣をつける、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控える、朝は決まった時間に起きるなど、基本的な生活習慣を整えることから始めてみましょう。また、適度な運動やストレス発散の方法を持つことも、二次障害の予防に効果的です。

発達障害の診断と治療について

「もしかして自分は発達障害かもしれない」と感じたら、まずは専門医療機関を受診して正確な診断を受けることをお勧めします。発達障害の診断は、精神科や心療内科、発達障害専門外来などで受けることができます。

診断の流れ

診断では、まず詳しい問診が行われます。現在の困りごとだけでなく、幼少期からの発達の経過や、学校・職場での様子についても聞かれます。発達障害は12歳以前に症状が現れていることが診断基準となっているため、子どものころの様子を振り返ることが重要です。可能であれば、学校の通知表や母子手帳、幼少期を知る家族の同席などがあると、より正確な診断につながります。問診に加えて、知能検査や心理検査が実施されることもあります。これらの検査によって、得意・不得意の偏りや、認知特性を客観的に把握することができます。

治療・対処のアプローチ

発達障害は「病気」というよりも「脳の特性」であるため、特性そのものを根本的に治すことは難しいとされています。しかし、特性による困りごとを軽減し、生活の質を向上させるためのさまざまなアプローチがあります。治療・対処の基本は、まず環境調整や心理社会的治療から始め、それでも改善が不十分な場合に薬物療法を検討するという流れになります。

心理社会的治療としては、ソーシャルスキルトレーニング(SST)や認知行動療法(CBT)などがあります。SSTは、日常生活で遭遇するさまざまな場面での適切な対応方法を、ロールプレイなどを通じて学ぶ訓練です。CBTは、考え方のクセや思考パターンに気づき、より適応的な考え方や行動を身につけるための治療法です。

薬物療法については、ADHDに対しては集中力や注意力を改善する薬(コンサータ、ストラテラ、インチュニブなど)が使用されることがあります。これらの薬は7〜8割の方で効果があるとされていますが、効果には個人差があり、副作用への注意も必要です。ASDの特性そのものに対して承認されている薬は現在のところありませんが、イライラや不安、うつ症状などの二次的な症状に対しては、薬物療法が有効な場合があります。薬物療法を検討する際は、必ず専門医と相談し、メリット・デメリットを十分に理解した上で判断することが大切です。

支援機関と相談窓口

発達障害に関する悩みは一人で抱え込まず、専門の相談窓口や支援機関を活用することが大切です。ここでは、発達障害のある方が利用できる主な支援機関についてご紹介します。

発達障害者支援センター

発達障害者支援センターは、発達障害のある方への支援を総合的に行う専門機関です。各都道府県・指定都市に設置されており、発達障害のある方やそのご家族からの相談に応じています。相談支援、発達支援、就労支援、情報提供など幅広いサービスを提供しており、医療機関や福祉機関、教育機関などとの連携も行っています。未診断の段階でも相談することができますので、「もしかして発達障害かも」と思ったら、まず相談してみることをお勧めします。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、障害のある方の就労と日常生活の両面をサポートする機関です。全国に337か所設置されており、ハローワークや地域障害者職業センターなどと連携しながら、就職に向けた準備から職場定着までの支援を行っています。仕事に関する相談だけでなく、健康管理やお金の管理、住まいのことなど、生活全般についての相談にも応じています。

精神保健福祉センター

精神保健福祉センターは、精神保健福祉法に基づいて都道府県・指定都市に設置されている機関です。こころの健康に関する相談を受け付けており、発達障害に関する相談にも応じています。必要に応じて医療機関の紹介も行っており、精神科のデイケアを実施しているセンターもあります。

ハローワーク(公共職業安定所)

ハローワークでは、発達障害のある方に対する専門的な就職支援も行っています。「精神・発達障害者雇用サポーター」が配置されており、障害特性を踏まえた職業相談や職業紹介、職場定着支援などを受けることができます。また、障害者雇用の求人情報の提供や、雇用に関する各種助成金制度の案内なども行っています。

就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は、障害のある方が一般企業への就職を目指すための訓練や支援を提供する施設です。ビジネスマナーやパソコンスキルの習得、コミュニケーション能力の向上など、就労に必要なスキルを身につけることができます。発達障害に特化した支援を行っている事業所もあり、自分の特性を理解した上で、それを活かせる職場選びや働き方についてのアドバイスを受けることができます。

職場における合理的配慮

2016年に施行された障害者差別解消法により、事業者には障害のある方に対する合理的配慮の提供が求められるようになりました。合理的配慮とは、障害のある方が他の方と平等に社会参加するために必要な、過重な負担にならない範囲での配慮のことです。発達障害のある方が職場で力を発揮するためには、特性に応じた合理的配慮が重要になります。

ADHDへの合理的配慮の例

ADHDのある方への配慮としては、以下のようなものが考えられます。口頭での指示だけでなくメールや文書でも伝える、作業を細分化してチェックリストを作成する、集中しやすい環境(静かな場所、パーテーションの設置など)を用意する、こまめに進捗確認を行う、急な予定変更はできるだけ早めに伝えるといった配慮が有効です。

ASDへの合理的配慮の例

ASDのある方への配慮としては、曖昧な表現を避けて具体的・明確に指示を出す、予定や手順をあらかじめ視覚的に示す、急な変更がある場合は早めに伝えて見通しを持てるようにする、暗黙のルールを明文化するといった配慮が有効です。また、感覚過敏がある場合は、騒音や照明への配慮、休憩スペースの確保なども重要になります。

合理的配慮を受けるためには、まず自分の特性とそれによって生じる困りごとを整理し、どのような配慮があれば業務を遂行しやすくなるかを具体的に伝えることが大切です。職場の上司や人事担当者、産業医などと相談しながら、お互いにとって実現可能な配慮の形を探っていくことが重要です。

生きづらさを感じたときに大切にしてほしいこと

発達障害の特性によって生きづらさを感じている方にお伝えしたいことがあります。それは、特性があること自体は決して悪いことではなく、特性を持ちながらも自分らしく生きていく道は必ずあるということです。

発達障害は「できない」ことばかりに注目されがちですが、同時に独自の強みや可能性を持っています。強いこだわりは特定の分野における深い専門性につながることがあり、独自の視点は創造性やイノベーションの源泉となることがあります。大切なのは、自分の特性を正しく理解し、苦手なことには適切な対処法を身につけながら、得意なことを活かせる環境を選んでいくことです。

また、一人で抱え込まないことも重要です。発達障害のある方の多くは、「自分が頑張れば何とかなる」「人に迷惑をかけてはいけない」という思いから、困りごとを一人で抱え込んでしまいがちです。しかし、周囲に助けを求めることは決して弱さではありません。適切なサポートを受けることで、これまで感じていた生きづらさが軽減されることも多くあります。

生きづらさを感じたときは、まずは専門の相談窓口に相談してみてください。発達障害者支援センターや精神保健福祉センターなど、無料で相談できる窓口があります。また、同じ特性を持つ当事者同士が交流する自助グループやピアサポートに参加することで、共感や情報を得られることもあります。

発達障害の特性を持っていても、早めに自身の特性に気づき、ちょっとした工夫を行ったり、周囲の理解やサポートを得たりすることで、自分らしく社会生活を送ることは十分に可能です。生きづらさを感じたら、それは助けを求めるサインかもしれません。一人で悩まず、まずは誰かに相談することから始めてみてください。

よくある質問

発達障害は大人になってから発症することがありますか?

発達障害は先天的な脳機能の特性であり、大人になってから突然発症するものではありません。ただし、子どものころは周囲のサポートや環境によって目立たなかった特性が、大人になって社会的な要求が増えることで顕在化し、初めて診断に至るケースは少なくありません。これが「大人の発達障害」と呼ばれる状態です。

発達障害の診断はどこで受けられますか?

発達障害の診断は、精神科や心療内科、発達障害専門外来などで受けることができます。まずはかかりつけ医や発達障害者支援センターに相談し、専門医療機関を紹介してもらうとよいでしょう。診断には問診や心理検査が行われ、幼少期からの発達の経過を確認することが重要となります。

発達障害は治りますか?

発達障害は先天的な脳機能の特性であるため、完全に「治る」ということはありません。しかし、特性を正しく理解し、環境調整や適切な対処法を身につけることで、困りごとを軽減し、生活の質を向上させることは十分に可能です。また、ADHDに対しては症状を改善する薬物療法もあります。二次障害として発症した精神疾患は、適切な治療によって改善することが期待できます。

ADHDとASDは併存することがありますか?

はい、ADHDとASDが併存することは珍しくありません。以前の診断基準(DSM-IV)ではASDの診断がある場合ADHDの診断はつけられませんでしたが、2013年のDSM-5の改訂により、両方の診断を同時につけることが可能になりました。発達障害は複数の特性を併せ持つことが多く、それぞれの特性に応じた対処が必要です。

発達障害があると障害者手帳は取得できますか?

発達障害がある方は、精神障害者保健福祉手帳の取得対象となります。ただし、手帳の取得には医師の診断書が必要であり、発達障害によって日常生活や社会生活に制限があることが求められます。グレーゾーンの方や軽度の方は取得が難しい場合もあります。手帳の取得により、税制上の優遇や各種割引、障害者雇用枠での就職などのメリットがあります。詳しくはお住まいの市区町村の窓口や発達障害者支援センターにご相談ください。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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