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眠れないまま朝になった時の対処法|原因と改善策を医師が解説

「眠れないまま朝になってしまった…」そんな経験をしたことはありませんか。大切なプレゼンテーションや試験を控えた前夜、仕事や人間関係のストレスを抱えているとき、あるいは特に理由もなく眠れない夜が続くこともあるでしょう。目覚まし時計を見つめながら、眠れなかった疲労感と、これから始まる一日への不安が入り混じった気持ちになる方も多いはずです。実は、厚生労働省の調査によると、日本人の約4割が6時間未満の睡眠であり、5人に1人が「睡眠の質に満足できない」と感じています。睡眠の問題は決して珍しいものではなく、多くの方が同じ悩みを抱えているのです。本記事では、眠れないまま朝を迎えてしまったときの対処法から、その原因、根本的な改善策、そして医療機関への相談が必要なケースまで、睡眠の専門知識に基づいて詳しく解説します。一晩眠れなかった日でも、適切な対処法を知っていれば、その日一日を乗り切ることができます。ぜひ最後までお読みいただき、快適な睡眠を取り戻すためのヒントにしてください。


目次

  1. 眠れないまま朝になったときの緊急対処法
  2. 眠れない夜の原因を知る
  3. 睡眠のメカニズムと体内時計の仕組み
  4. 睡眠不足が心身に与える影響
  5. 不眠症の種類と特徴
  6. 自律神経と睡眠の深い関係
  7. 眠れない夜を防ぐための生活習慣
  8. 睡眠環境の整え方
  9. 医療機関を受診すべきタイミング
  10. よくある質問

眠れないまま朝になったときの緊急対処法

眠れないまま朝を迎えてしまったとき、まず大切なのは慌てないことです。一晩眠れなかったという事実は変えられませんが、その日一日をできるだけ快適に過ごすための対処法があります。以下に、眠れなかった朝に実践していただきたい具体的な方法をご紹介します。

朝日を浴びて体内時計をリセットする

眠れないまま朝を迎えたとき、最初に行っていただきたいのが朝日を浴びることです。朝の光には、脳にある体内時計をリセットする重要な役割があります。光が目に入ると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が抑制され、覚醒を促すセロトニンの分泌が促進されます。これにより、体が「朝である」ということを認識し、活動モードに切り替わります。理想的には起床後1時間以内に、15分から30分程度、屋外に出て日光を浴びることをお勧めします。窓越しでも一定の効果はありますが、直接屋外で光を浴びるほうがより効果的です。曇りの日であっても、室内の照明より十分に明るいため、体内時計のリセットには有効です。

軽い朝食で体を目覚めさせる

朝食を摂ることも体内時計のリセットに役立ちます。眠れなかった朝は食欲がないかもしれませんが、消化の良い炭水化物を中心とした軽めの食事を取ることで、体を覚醒させる効果があります。おにぎりやトースト、バナナなどが適しています。朝食には体温を上げ、代謝を活発にする効果があり、これが日中の活動を支える基盤となります。また、朝食を摂る習慣は体内時計の調整にも貢献します。ただし、胃に負担がかかる重い食事は避け、あくまでも軽めの食事にとどめてください。

冷水で洗顔し、軽い運動を取り入れる

冷水での洗顔は、交感神経を刺激して覚醒を促す効果があります。ぬるま湯ではなく、少し冷たいと感じる程度の水で顔を洗うことで、眠気を払拭することができます。また、軽いストレッチやラジオ体操、短時間の散歩など、息が軽くはずむ程度の運動を取り入れることも効果的です。運動によって血行が促進され、脳への酸素供給が増えることで、頭がすっきりしやすくなります。ただし、睡眠不足の状態で激しい運動を行うと、かえって疲労が増し、体調を崩す可能性があるため避けてください。無理のない範囲で体を動かすことを心がけましょう。

カフェインの適切な活用

コーヒーや緑茶に含まれるカフェインには、眠気を抑制する効果があります。眠れなかった日の午前中にカフェインを摂取することで、集中力を維持しやすくなります。ただし、カフェインの効果は個人差が大きく、また摂りすぎると動悸や胃もたれの原因になることがあります。コーヒーであれば1日3〜4杯程度を目安とし、午後の遅い時間帯は避けるようにしてください。午後にカフェインを摂取すると、その夜の睡眠に悪影響を及ぼし、眠れない夜が続く悪循環に陥る可能性があります。

日中の過ごし方を工夫する

眠れなかった日は、集中力や判断力が低下していることを自覚し、一日の過ごし方を工夫することが大切です。重要な判断や会議は、比較的集中力が保たれている午前中に済ませるようにしましょう。昼休みには15分から20分程度の短い仮眠を取ることをお勧めします。この程度の仮眠であれば、夜の睡眠に悪影響を与えることなく、午後の眠気を軽減することができます。ただし、30分以上の仮眠は深い睡眠に入ってしまい、起きた後にかえって眠気が増したり、夜の睡眠を妨げたりする可能性があるため注意が必要です。また、車の運転や危険を伴う作業は可能な限り避けるようにしてください。研究によると、一晩徹夜をした場合の認知機能は、飲酒時と同程度まで低下することが分かっています。

仕事や学校を休むべきかの判断基準

眠れなかった日に仕事や学校を休むべきかどうかは、その日の予定と自分の体調を総合的に判断する必要があります。強い頭痛、めまい、吐き気などの症状がある場合や、集中力が著しく低下している場合は、無理をせず休養を取ることを検討してください。特に、車の運転や危険を伴う業務がある場合、重要な判断を下す必要がある場合は、安全面からも休むことを優先すべきです。一方で、軽度の眠気程度であれば、前述の対処法を実践しながら一日を乗り切ることも可能です。休むことは決して甘えではなく、自分の体調を管理し、より良いパフォーマンスを維持するために必要な判断です。

眠れない夜の原因を知る

眠れない夜が続く場合、その原因を理解することが改善への第一歩となります。不眠の原因は多岐にわたり、一つの要因だけでなく複数の要因が絡み合っていることも少なくありません。ここでは、眠れなくなる主な原因について詳しく解説します。

ストレスと心理的要因

不眠の最も一般的な原因の一つがストレスです。仕事や人間関係の悩み、将来への不安、家族の問題など、さまざまなストレスが睡眠に影響を与えます。ストレスを感じると、体は問題に対処するために交感神経を活性化させ、覚醒状態を維持しようとします。その結果、就寝時刻になっても心と体の緊張状態が続き、なかなか眠りにつくことができません。特に真面目な性格の方は、悩みや不安を感じやすく、眠れないこと自体がさらなるストレスになるという悪循環に陥りやすい傾向があります。また、翌日に重要な予定を控えているときに「早く眠らなければ」という焦りが、かえって眠りを妨げることもあります。

生活習慣の乱れ

不規則な生活習慣も不眠の大きな原因となります。就寝時刻や起床時刻が日によって大きく異なると、体内時計のリズムが乱れ、適切な時間に眠気が訪れなくなります。休日に遅くまで寝ていると、月曜日の朝が辛くなるのはこのためです。また、夜遅い時間の食事、就寝前のアルコール摂取、寝る直前までスマートフォンやパソコンを使用するなどの習慣も、睡眠の質を低下させる要因となります。特にスマートフォンやパソコンの画面から発せられるブルーライトは、メラトニンの分泌を抑制し、入眠を妨げることが分かっています。

睡眠環境の問題

寝室の環境も睡眠の質に大きな影響を与えます。室温が高すぎたり低すぎたり、騒音があったり、照明が明るすぎたりすると、深い睡眠が妨げられます。また、枕や布団が体に合っていない場合も、快適な睡眠を得ることが難しくなります。寝室の温度は夏場で25〜28℃、冬場で20℃前後、湿度は年間を通して50%前後を保つことが推奨されています。寝室はできるだけ暗くし、遮光カーテンを使用したり、豆電球も消したりするのが理想的です。

身体的要因と疾患

身体的な問題が不眠の原因になっていることもあります。痛みや痒み、頻尿、咳などの症状があると、睡眠が妨げられます。また、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群などの睡眠障害、甲状腺機能亢進症や糖尿病などの内科的疾患、うつ病や不安障害などの精神疾患も不眠の原因となることがあります。特に、睡眠時無呼吸症候群は、本人が気づかないうちに睡眠の質を著しく低下させ、日中の強い眠気や倦怠感の原因となります。いびきが大きい、睡眠中に呼吸が止まることがあると言われたことがある方は、専門医への相談をお勧めします。

加齢による変化

年齢を重ねるとともに、睡眠のパターンは変化します。高齢になると、深い睡眠が減少し、夜中に目が覚めやすくなり、朝早く目覚めるようになる傾向があります。これは体内時計の調節機能が低下し、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌量が減少することが一因と考えられています。メラトニンの分泌量は10歳頃をピークに減少し、40代では20代の4分の1程度になることもあります。高齢者の場合、長時間床にいても眠れない時間が増えるだけで、かえって睡眠の質が低下することがあるため、自分に適した睡眠時間を見つけることが大切です。

睡眠のメカニズムと体内時計の仕組み

質の良い睡眠を得るためには、睡眠のメカニズムを理解することが役立ちます。私たちの睡眠は、複数のホルモンや神経システムによって精密に制御されています。

体内時計(概日リズム)とは

人間の体には約24.2時間の周期で動く体内時計が備わっており、これを概日リズム(サーカディアンリズム)と呼びます。体内時計は脳の視床下部にある視交叉上核という部分にあり、体温、ホルモン分泌、睡眠と覚醒のリズムなど、さまざまな生理機能を調整しています。地球の1日は24時間であるため、体内時計の周期と実際の時間との間には若干のずれが生じます。このずれを毎日調整しているのが、朝の光です。朝、光を浴びることで体内時計がリセットされ、約24時間のリズムに調整されます。このリセットがうまくいかないと、睡眠と覚醒のリズムが乱れ、夜に眠れなくなったり、日中に眠気を感じたりするようになります。

メラトニンの役割

メラトニンは「睡眠ホルモン」とも呼ばれ、体内時計に働きかけて覚醒と睡眠を切り替え、自然な眠りを誘う作用があります。メラトニンは脳の松果体で産生され、その分泌は光によって調節されています。朝、光を浴びると体内時計からの信号でメラトニンの分泌が止まり、体は覚醒モードに入ります。メラトニンは目覚めてから14〜16時間ほど経過すると再び分泌が始まり、徐々に分泌量が増えていきます。その作用で深部体温が低下し、休息に適した状態に導かれ、眠気を感じるようになります。夜間に強い光を浴びると、メラトニンの分泌が抑制され、睡眠のリズムが乱れる原因となります。これが、就寝前のスマートフォン使用が睡眠に悪影響を与える理由の一つです。

セロトニンとメラトニンの関係

セロトニンは脳内の神経伝達物質の一つで、気分を安定させたり、ストレス耐性を高めたりする働きがあることから「幸せホルモン」とも呼ばれています。このセロトニンが、実はメラトニンの原料となっています。日中に太陽の光を浴びるとセロトニンの合成が活発になり、夜になるとそのセロトニンを材料としてメラトニンが産生されます。つまり、昼間にしっかりとセロトニンを分泌させておくことが、夜のメラトニン分泌を増やし、質の良い睡眠につながるのです。セロトニンの原料となるトリプトファンは必須アミノ酸の一つで、肉、魚、大豆製品、乳製品、バナナなどに多く含まれています。バランスの良い食事でトリプトファンを摂取することも、良質な睡眠のために重要です。

睡眠圧のメカニズム

睡眠には、体内時計によるリズムに加えて、「睡眠圧」と呼ばれるもう一つの重要なメカニズムがあります。人間の体は14〜16時間起き続けると、睡眠を欲する力である睡眠圧がたまり、スムーズに入眠できるようになります。長時間起きていると眠くなるのは、この睡眠圧が高まっているためです。逆に、日中に長時間昼寝をしてしまうと睡眠圧が解消されてしまい、夜に眠りにくくなります。また、毎日の睡眠時間が不規則だと、睡眠圧が十分にたまらないまま夜を迎え、寝つきにくくなることがあります。規則正しい睡眠スケジュールを維持することで、適切な睡眠圧を保ち、スムーズな入眠につながります。

睡眠不足が心身に与える影響

睡眠不足が続くと、心身にさまざまな悪影響が生じます。一時的な睡眠不足であれば、翌日に十分な睡眠を取ることで回復できますが、慢性的な睡眠不足は深刻な健康問題につながる可能性があります。

認知機能への影響

睡眠不足は、集中力、判断力、記憶力、反応速度などの認知機能を著しく低下させます。研究によると、健康な成人でも起床後15時間以上が経過すると、酒気帯び運転と同程度まで作業能率が低下することが分かっています。また、睡眠中は脳が情報を整理し、記憶を定着させる作業を行っているため、睡眠不足が続くと学習効率も低下します。仕事や学業でのミスが増えたり、大切なことを忘れやすくなったりする場合は、睡眠不足が原因かもしれません。

生活習慣病のリスク増加

慢性的な睡眠不足は、生活習慣病のリスクを大きく高めます。睡眠不足が数日続くだけで、食欲を抑えるホルモンであるレプチンの分泌が減少し、食欲を高めるホルモンであるグレリンの分泌が増加することが分かっています。その結果、食欲が増大し、肥満につながりやすくなります。また、睡眠不足時には膵臓から分泌されるインスリンの作用が現れにくくなり(インスリン抵抗性)、同じ食事をしても血糖値が高くなります。さらに、睡眠不足時には本来であれば夜間に低下する血圧が高止まりするなど、循環器系にも悪影響を及ぼします。実際に、慢性的な睡眠不足状態にある人は、糖尿病や高血圧などの生活習慣病になるリスクが高く、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの深刻な冠動脈疾患にも罹りやすいことが明らかになっています。

メンタルヘルスへの影響

睡眠不足は、こころの健康にも大きな影響を与えます。睡眠が不足すると、イライラしやすくなったり、気分が落ち込みやすくなったり、感情のコントロールが難しくなったりします。不眠はうつ病の前触れとして現れることもあり、逆にうつ病の一症状として不眠が生じていることもあります。日本の12〜18歳の学生を対象にした調査では、睡眠時間が5時間程度の中学生は、8時間前後眠っている生徒と比べて、その後のうつ発症リスクが3倍以上になることが報告されています。睡眠の問題が続く場合は、こころの健康にも注意を払う必要があります。

免疫機能の低下

睡眠中は免疫機能の維持・増強が行われており、十分な睡眠を取ることで病気にかかりにくくなります。逆に、睡眠不足が続くと免疫力が低下し、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。また、睡眠中には細胞の修復や新陳代謝が活発に行われるため、睡眠不足は肌荒れや老化の進行にもつながります。健康を維持するためには、質と量の両面で十分な睡眠を確保することが重要です。

不眠症の種類と特徴

不眠症は、その症状のパターンによっていくつかの種類に分類されます。自分がどのタイプの不眠に悩んでいるかを知ることで、より適切な対策を講じることができます。

入眠困難(寝つきが悪い)

入眠困難は、床についてもなかなか眠りにつけない状態を指します。30分以上眠れない状態が続く場合、入眠困難と考えられます。ストレスや不安、心配事があるとき、寝室の環境が適切でないとき、就寝前にカフェインを摂取したときなどに起こりやすくなります。入眠困難に悩む方は、「眠らなければ」という焦りがかえって覚醒を促してしまうという悪循環に陥りやすい傾向があります。

中途覚醒(眠りが浅く途中で目が覚める)

中途覚醒は、いったん眠りについても夜中に何度も目が覚めてしまう状態です。目が覚めた後、なかなか再び眠りにつけないこともあります。加齢とともに増える傾向があり、高齢者に多く見られます。また、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群、頻尿などの身体的な問題が原因となっていることもあります。アルコールを飲んで寝た場合も、深い睡眠が減少し、中途覚醒が増えることが知られています。

早朝覚醒(朝早く目が覚める)

早朝覚醒は、本人が望む時刻よりも1〜2時間以上早く目が覚めてしまい、その後二度寝ができない状態です。高齢者に多く見られますが、うつ病の症状として現れることもあります。早朝覚醒が続き、日中に倦怠感や意欲の低下を感じる場合は、こころの健康状態についても注意を払う必要があります。

熟眠障害(眠っても疲れが取れない)

熟眠障害は、十分な時間眠っているはずなのに、朝起きたときに休まった感じがしない、眠った気がしないという状態です。睡眠の質が低下しており、深い睡眠が得られていない可能性があります。睡眠時無呼吸症候群など、睡眠中に呼吸が妨げられる疾患が原因となっていることもあります。日中に強い眠気を感じる、集中力が続かないなどの症状がある場合は、専門医への相談をお勧めします。

自律神経と睡眠の深い関係

自律神経は、私たちの意志とは無関係に、心臓、血管、消化器官などの働きを自動的に調整している神経です。自律神経には、活動を促す交感神経と、休息を促す副交感神経があり、この二つがバランスよく働くことで、健康が維持されています。睡眠と自律神経は密接に関連しており、自律神経のバランスが乱れると睡眠にも悪影響が出ます。

交感神経と副交感神経の働き

交感神経は、日中の活動時や緊張しているときに優位になる神経です。交感神経が活性化すると、心拍数が上がり、血圧が上昇し、体が活動モードに入ります。一方、副交感神経は、休息時やリラックスしているときに優位になる神経です。副交感神経が活性化すると、心拍数が下がり、血圧が安定し、体がリラックスモードに入ります。通常、日中は交感神経が優位になり、夜間は副交感神経が優位になるというリズムで切り替わっています。この切り替えがスムーズに行われることで、夜にはリラックスして眠りにつくことができます。

ストレスによる自律神経の乱れ

強いストレスや過重労働などがきっかけとなって自律神経が乱れると、夜間になっても交感神経の活動が高い状態が続きます。その結果、就寝時刻になっても心と体の緊張状態が続き、眠れない問題が出現します。ストレスを感じると、体は問題に対処するために覚醒を維持しようとするため、眠りを促す副交感神経が働きにくくなるのです。現代社会では、仕事、人間関係、スマートフォンやパソコンの使用など、さまざまなストレス要因があり、交感神経が優位になりやすい環境にあります。このような状態が続くと、自律神経のバランスが崩れ、不眠症状が慢性化することがあります。

自律神経を整えるためのポイント

自律神経のバランスを整え、質の良い睡眠を得るためには、夕方から夜にかけて副交感神経を優位にするような工夫が大切です。ぬるめのお風呂にゆっくりつかる、好きな音楽を聴く、読書をするなど、リラックスする時間を設けましょう。深呼吸やストレッチ、ヨガなども副交感神経を活性化させる効果があります。また、規則正しい生活習慣を心がけ、毎日同じ時間に起床・就寝することで、自律神経のリズムが整いやすくなります。ストレスを感じているときほど、意識的にリラックスする時間を作ることが重要です。

眠れない夜を防ぐための生活習慣

良質な睡眠を得るためには、日中の過ごし方や生活習慣が重要です。厚生労働省が2024年に公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、睡眠環境や生活習慣の見直しが推奨されています。ここでは、眠れない夜を防ぐための具体的な生活習慣についてご紹介します。

規則正しい睡眠スケジュール

毎日同じ時間に起床し、同じ時間に就寝することが、質の良い睡眠の基本です。休日に遅くまで寝ていると体内時計のリズムが乱れ、週明けの朝が辛くなります。平日と休日の起床時間の差は、できれば2時間以内に抑えることが望ましいとされています。難しい場合は、まず起床時間を一定にすることから始めてみてください。早寝早起きというよりも、「早起きが早寝に通じる」と考え、朝の起床時間を固定することで、夜に自然と眠気が訪れるようになります。

朝の光を浴びる習慣

朝起きたら、できるだけ早く日光を浴びるようにしましょう。カーテンを開けて部屋に光を取り込むだけでも効果があります。可能であれば屋外に出て、15〜30分程度日光を浴びることをお勧めします。朝の光は体内時計をリセットし、夜のメラトニン分泌を促進する効果があります。曇りの日でも屋外の照度は室内より十分に明るいため、体内時計のリセットには有効です。

適度な運動習慣

日中に適度な運動を行うことで、夜の睡眠の質が向上します。ウォーキング、ジョギング、水泳など、軽く汗ばむ程度の有酸素運動が効果的です。運動は、セロトニンの分泌を促進し、適度な疲労感を生み出して夜の入眠をスムーズにします。ただし、就寝直前の激しい運動は交感神経を興奮させ、かえって眠りにくくなるため避けてください。運動は就寝の3時間以上前に終えることをお勧めします。夕方以降は、ストレッチやヨガなど、リラックス効果のある軽い運動が適しています。

カフェインとアルコールの摂取に注意

カフェインには覚醒作用があり、摂取後数時間にわたって効果が持続します。コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンク、チョコレートなどに含まれるカフェインは、夕方以降の摂取を控えるようにしましょう。1日のカフェイン摂取量の目安は、コーヒーカップで4杯程度までとされています。また、アルコールは一見すると眠りを誘うように感じますが、実際には睡眠の質を著しく低下させます。飲酒後は深い睡眠が減少し、中途覚醒や早朝覚醒が増えることが分かっています。寝酒は不眠対策としては逆効果ですので、避けるようにしてください。

就寝前のルーティンを作る

就寝の1〜2時間前からは、体と心を睡眠に向けて準備する時間にしましょう。ぬるめのお風呂にゆっくりつかることで、副交感神経が優位になり、リラックスした状態で眠りにつくことができます。入浴によって一度上がった深部体温が下がっていく過程で眠気が訪れるため、入浴は就寝の1〜2時間前が理想的です。また、就寝前にスマートフォンやパソコン、テレビの使用を控えることも重要です。これらの画面から発せられるブルーライトはメラトニンの分泌を抑制し、入眠を妨げます。代わりに、読書や音楽鑑賞、軽いストレッチなど、リラックスできる活動を取り入れてみてください。

食事のタイミングと内容

夜遅い時間の食事は消化のために体が活動モードになり、睡眠の質を低下させます。夕食は就寝の3時間以上前に済ませることが望ましいとされています。また、就寝直前の重い食事や刺激の強い食べ物は避けましょう。逆に、空腹で眠れない場合は、温かい牛乳やハーブティーなど、胃に負担をかけない程度の軽いものを摂ることで、リラックスして眠りにつきやすくなります。朝食をしっかり摂ることも体内時計の調整に役立ちます。朝食でトリプトファンを含む食品(大豆製品、乳製品、バナナなど)を摂取すると、日中のセロトニン分泌が促進され、夜のメラトニン分泌にもつながります。

睡眠環境の整え方

質の良い睡眠には、快適な睡眠環境が不可欠です。寝室の環境を整えることで、入眠がスムーズになり、夜中に目が覚めにくくなります。

温度と湿度の調整

寝室の温度は、夏場で25〜28℃、冬場で20℃前後が理想的とされています。暑すぎても寒すぎても深い睡眠が妨げられるため、エアコンや暖房を活用して適切な室温を保ちましょう。また、湿度は年間を通して50%前後を維持することが推奨されています。乾燥しすぎると喉や肌が乾燥し、湿度が高すぎると不快感を感じます。季節に応じて加湿器や除湿器を活用してください。

光環境の管理

寝室はできるだけ暗くすることが大切です。光はメラトニンの分泌を抑制するため、明るい環境では質の良い睡眠が得られにくくなります。遮光カーテンを使用し、豆電球やスタンバイ表示のLEDなども消すことが理想的です。ただし、朝に自然に目覚めるためには、起床時刻に合わせて徐々に光を取り入れることも有効です。遮光カーテンの隙間から朝日が入るようにしたり、タイマー付きの照明を活用したりする方法があります。

音環境への配慮

騒音は睡眠を妨げる大きな要因です。交通量の多い道路に面した寝室や、隣室からの音が気になる環境では、防音カーテンや耳栓の使用を検討してみてください。ただし、完全な無音が良いとは限りません。人によっては、川のせせらぎや雨音などの自然音や、ホワイトノイズが睡眠を助けることもあります。自分にとって心地よい音環境を見つけることが大切です。

寝具の選び方

枕、マットレス、布団などの寝具は、体に合ったものを選ぶことが重要です。枕は高すぎても低すぎても首に負担がかかり、睡眠の質が低下します。横向きに寝たときに頭から首、背骨が一直線になる高さが理想的です。マットレスは、硬すぎると体の凹凸にフィットせず、柔らかすぎると体が沈み込んで寝返りがしにくくなります。実際に試してみて、自分の体に合ったものを選びましょう。また、季節に応じて適切な保温性の布団を使用することも、快適な睡眠のために大切です。

医療機関を受診すべきタイミング

生活習慣の改善や睡眠環境の調整を行っても不眠が改善しない場合、また不眠が日常生活に支障をきたしている場合は、医療機関への相談を検討してください。

受診の目安

以下のような状況に当てはまる場合は、専門医への相談をお勧めします。眠れない状態が週に3回以上あり、それが1か月以上続いている場合は、慢性不眠症の可能性があります。日中に強い眠気があり、仕事や学業に支障が出ている場合も受診の目安となります。また、いびきがひどい、睡眠中に呼吸が止まると指摘されたことがある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があり、適切な検査と治療が必要です。その他、気分の落ち込みや不安が強い、足がむずむずして眠れないなどの症状がある場合も、背景に治療が必要な疾患が隠れている可能性があります。

どの診療科を受診すべきか

不眠の相談は、まずはかかりつけの内科医に相談することができます。その上で、専門的な検査や治療が必要な場合は、睡眠外来、睡眠専門クリニック、精神科、心療内科などを紹介されることがあります。睡眠外来では、睡眠ポリグラフ検査(PSG)などの専門的な検査を行い、睡眠障害の正確な診断と適切な治療を受けることができます。不眠の原因がストレスや心の問題と関連している場合は、精神科や心療内科での治療が効果的なこともあります。

睡眠薬について

睡眠薬に対して「依存してしまうのではないか」「副作用が心配」という不安を持つ方も多いかもしれません。確かに、以前の睡眠薬にはそうした問題がありましたが、現在使用されている睡眠薬は適切に使用すれば安全性が高く、依存性や認知機能への影響が少ないものも開発されています。メラトニン受容体作動薬など、体内時計のリズムを整える作用を持つ薬もあります。ただし、睡眠薬はあくまでも補助的な治療であり、生活習慣の改善と併せて行うことが重要です。また、睡眠薬を長期にわたって漫然と使い続けることは推奨されていません。医師の指導のもと、適切に使用することが大切です。

よくある質問

眠れないまま朝になった場合、仕事や学校を休むべきでしょうか?

仕事や学校を休むべきかどうかは、その日の予定と体調によって判断してください。強い頭痛やめまい、吐き気などの症状がある場合、車の運転や危険を伴う業務がある場合、重要な判断を下す必要がある場合は、安全面からも休むことを優先すべきです。一方、軽度の眠気程度であれば、朝日を浴びる、軽い運動をする、カフェインを適度に摂取するなどの対処法を実践しながら一日を乗り切ることも可能です。休むことは甘えではなく、体調管理のための適切な判断です。

眠れないときに睡眠薬を飲んでもいいのでしょうか?

市販の睡眠導入剤は一時的な不眠には有効ですが、慢性的な不眠に対しては根本的な解決にはなりません。睡眠薬の使用は、生活習慣の改善を試みても効果がない場合に、医師の処方のもとで行うことをお勧めします。現在の睡眠薬は適切に使用すれば安全性が高いものの、自己判断での長期使用は避けるべきです。不眠が続く場合は、まず医療機関を受診し、原因を特定した上で適切な治療を受けることが大切です。

何時間眠れば十分なのでしょうか?

必要な睡眠時間には個人差がありますが、厚生労働省の睡眠ガイド2023では、成人は6時間以上を目安とすることが推奨されています。ただし、睡眠時間だけでなく、眠りの質も重要です。十分な時間眠っていても日中に強い眠気を感じる場合は、睡眠の質に問題がある可能性があります。朝起きたときにすっきりと目覚め、日中に眠気で困らない程度の睡眠が確保できていれば、その睡眠時間があなたに適していると考えられます。

布団に入っても眠れないとき、そのまま横になっていた方がいいのでしょうか?

30分以上眠れない場合は、いったん布団から出ることをお勧めします。眠れないのに無理に布団にいると、「布団=眠れない場所」という条件付けができてしまい、かえって不眠が悪化することがあります。布団から出て、リラックスできることをしながら眠気が訪れるのを待ちましょう。部屋の照明を暗めにして、単調な本を読むなどの活動が適しています。眠気を感じたら再び布団に戻ってください。

休日に寝だめをしても睡眠不足は解消されますか?

休日の寝だめは、一時的には作業効率の改善に効果がありますが、睡眠不足を完全に解消することはできません。研究によると、6〜7日間睡眠不足が続くと、その後3日間十分に眠っても日中の作業能率は完全には回復しないことが分かっています。また、休日に遅くまで寝ていると体内時計のリズムが乱れ、週明けの朝が辛くなります。平日と休日の起床時間の差は2時間以内に抑え、日頃から規則正しい睡眠スケジュールを維持することが大切です。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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