「最近なんだか疲れが取れない」「めまいや動悸がするのに検査では異常がない」「イライラしたり、気分が落ち込んだりする」——このような症状に心当たりはありませんか?もしかすると、それは自律神経失調症のサインかもしれません。自律神経失調症は、ストレス社会と呼ばれる現代において多くの方が経験する可能性のある症状です。しかし、検査をしても明らかな異常が見つからないことが多いため、つらい症状を抱えながらも「気のせいかもしれない」と我慢してしまう方も少なくありません。本記事では、自律神経失調症のセルフチェック項目を中心に、症状や原因、治療法、日常生活でできるセルフケアまで詳しく解説します。ご自身の心身の状態を見つめ直すきっかけとして、ぜひ最後までお読みください。
目次
- 自律神経失調症とは
- 自律神経の仕組みと働き
- 自律神経失調症のセルフチェック項目
- 自律神経失調症の主な症状
- 自律神経失調症の原因
- 自律神経失調症になりやすい人の特徴
- 自律神経失調症の診断方法
- 自律神経失調症の治療法
- 自律神経を整えるセルフケア方法
- 医療機関を受診すべきタイミング
- よくある質問
- まとめ
自律神経失調症とは
自律神経失調症とは、自律神経のバランスが崩れることによって、心身にさまざまな不調が現れる状態を指します。実は、医学的に見ると「自律神経失調症」は正式な病名ではありません。日本心身医学会では、「多様な自律神経系の症状を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」と暫定的に定義されています。
つまり、自律神経失調症とは、頭痛やめまい、動悸、胃腸の不調、倦怠感など多彩な症状があるにもかかわらず、病院で検査をしても明確な原因が見つからない状態のことです。「検査に異常がないから大丈夫」と言われても、実際につらい症状を感じている方にとっては、なかなか納得できないこともあるでしょう。
自律神経失調症は、思春期から40歳代の方に多く見られ、男性よりも女性に多いとされています。これは、女性ホルモンの変動が自律神経に影響を与えやすいためと考えられています。また、症状は非常に多岐にわたり、人によって現れ方が異なることも大きな特徴です。複数の症状が同時に現れたり、時間帯や季節によって症状が変化したりすることも珍しくありません。
自律神経の仕組みと働き
自律神経失調症を理解するためには、まず自律神経の仕組みについて知っておく必要があります。自律神経とは、私たちの意思とは関係なく、無意識のうちに体の機能を調整している神経のことです。呼吸、心臓の拍動、血圧の調整、消化吸収、体温調節、発汗など、生命活動を維持するために必要不可欠な働きを担っています。
交感神経と副交感神経
自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」という2つの神経から構成されています。この2つの神経は、まるでシーソーのようにバランスを取り合いながら働いています。
交感神経は、体を活発に動かすときに優位になる神経です。いわば体の「アクセル」の役割を果たしており、日中の活動時や緊張状態、ストレスを感じているときなどに活発になります。交感神経が優位になると、心拍数が上昇し、血圧が上がり、瞳孔が広がり、気管支が拡張して呼吸が活発になります。一方で、消化機能は抑制されます。
副交感神経は、体を休めるときに優位になる神経です。いわば体の「ブレーキ」の役割を果たしており、夜間の睡眠時やリラックスしているとき、食後の消化活動中などに活発になります。副交感神経が優位になると、心拍数が低下し、血圧が下がり、瞳孔が収縮し、消化機能が促進されます。
自律神経のバランスが崩れるとどうなるか
健康な状態では、日中は交感神経が優位になって活動的に過ごし、夜間は副交感神経が優位になって体を休めるというリズムが自然に保たれています。しかし、過度なストレスや不規則な生活習慣、ホルモンバランスの乱れなどが続くと、この2つの神経のバランスが崩れてしまいます。
たとえば、ストレスが続くと交感神経が過剰に働き続け、夜になっても副交感神経への切り替えがうまくいかなくなります。すると、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりして、十分な休息が取れなくなってしまいます。逆に、副交感神経が過剰に働いている状態では、日中もだるさを感じたり、やる気が出なかったりすることがあります。
自律神経は全身のあらゆる臓器とつながっているため、そのバランスが崩れると、体のさまざまな場所に不調が現れるのです。これが自律神経失調症の症状が多岐にわたる理由です。
自律神経失調症のセルフチェック項目
以下のチェック項目は、自律神経失調症でよく見られる症状や生活習慣に関連するものです。このチェックリストは医学的な診断に代わるものではありませんが、ご自身の状態を客観的に見つめ直すためのツールとしてご活用ください。過去1〜3か月の状態を振り返りながら、当てはまる項目をチェックしてみましょう。
身体症状に関するチェック項目
1. 頭痛やめまい、立ちくらみがよく起こる
2. 動悸や胸の苦しさ、息切れを感じることがある
3. 手足の冷えやしびれを感じる
4. 肩こりや首のこりが慢性的にある
5. 耳鳴りがすることがある
6. 口が渇きやすい、または喉に何かつかえた感じがある
7. 胃もたれや吐き気、食欲不振がある
8. 便秘や下痢を繰り返す、またはお腹が張る
9. 急に汗をかいたり、のぼせたりすることがある
10. 微熱が続くことがある
11. 疲れやすく、倦怠感がなかなか取れない
12. 階段を上るとすぐに息が上がる
精神症状に関するチェック項目
13. イライラしやすい、怒りっぽくなった
14. 不安感や焦燥感を感じることが多い
15. 気分が落ち込みやすい、憂うつになる
16. 集中力や記憶力が低下したと感じる
17. やる気が起きない、意欲が湧かない
18. 些細なことが気になって仕方がない
睡眠・生活習慣に関するチェック項目
19. 寝つきが悪い、または夜中に何度も目が覚める
20. 朝起きても疲れが取れていない
21. 生活リズムが不規則である
22. 朝食を抜くことが多い
23. 運動をほとんどしていない
24. 仕事や人間関係で強いストレスを感じている
チェック結果の目安
上記の項目のうち、3〜5個に当てはまる場合は、自律神経が乱れ始めている可能性があります。生活習慣の見直しやストレス解消を意識してみましょう。6〜10個に当てはまる場合は、自律神経失調症の傾向があると考えられます。日常生活でのセルフケアに加えて、医療機関への相談を検討してください。11個以上に当てはまる場合は、自律神経失調症の可能性が高いと考えられます。できるだけ早めに医療機関を受診し、専門家の診断を受けることをお勧めします。
ただし、これらの症状は自律神経失調症以外の疾患でも現れることがあります。自己判断せず、気になる症状がある場合は医療機関を受診して、他の疾患の可能性を除外することが大切です。
自律神経失調症の主な症状
自律神経失調症の症状は、大きく身体的な症状と精神的な症状に分けられます。自律神経は全身のあらゆる臓器や器官を調整しているため、その症状は非常に多岐にわたります。また、症状の現れ方や程度には個人差が大きく、日によって症状が変化することも特徴的です。
身体的な症状
身体的な症状としては、頭痛やめまい、立ちくらみ、耳鳴りなどの頭部に関する症状がよく見られます。動悸や胸の締めつけ感、息苦しさといった循環器系の症状も代表的です。「急に胸がドキドキする」「このまま死んでしまうのではないかと思うほど息苦しくなる」といった訴えもあります。
消化器系の症状も頻繁に見られます。胃もたれや吐き気、食欲不振、便秘や下痢、腹痛などがこれに該当します。過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアなど、消化器系の機能性疾患と自律神経失調症は深い関連があるとされています。
そのほか、慢性的な肩こりや首のこり、手足の冷えやしびれ、発汗異常(汗をかきすぎる、または汗をかけない)、のぼせやほてり、微熱、口の渇き、喉のつかえ感(梅核気)、全身の倦怠感や疲労感なども自律神経失調症でよく見られる症状です。
精神的な症状
精神的な症状としては、イライラしやすい、怒りっぽくなる、不安感や焦燥感が強い、気分が落ち込む、憂うつな気持ちになる、意欲が湧かない、集中力や記憶力の低下、些細なことが気になるなどが挙げられます。これらの精神症状は、身体症状と組み合わさって現れることが多く、心身両面での不調を感じることになります。
不眠も自律神経失調症の代表的な症状の一つです。寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、早朝に目が覚めてしまう、眠りが浅いなどの睡眠障害が現れ、その結果、日中の疲労感や集中力の低下につながるという悪循環に陥ることもあります。
症状の特徴
自律神経失調症の症状にはいくつかの特徴があります。まず、複数の症状が同時に現れることが多いという点です。頭痛と動悸と胃の不調が同時にあるなど、一見関連がないように思える症状が併存します。
また、症状が時間帯や季節によって変化することも特徴的です。朝起きるのがつらく、夕方になると楽になるという方もいれば、天気が悪いと症状が悪化するという方もいます。季節の変わり目に症状が出やすいという方も少なくありません。
さらに、病院で検査を受けても明らかな異常が見つからないことが多いという点も重要な特徴です。これが「気のせいなのでは」「怠けているだけなのでは」と周囲に理解されにくい原因にもなっています。しかし、症状を感じている本人にとっては確かにつらい状態であり、決して「気のせい」ではありません。
自律神経失調症の原因
自律神経失調症の原因は一つではなく、さまざまな要因が複合的に関係していると考えられています。主な原因として、以下のようなものが挙げられます。
ストレス
自律神経失調症の最も大きな原因とされているのがストレスです。人間関係の悩み、仕事のプレッシャー、家庭の問題、経済的な不安など、精神的なストレスが長期間続くと、交感神経が過剰に働き続け、自律神経のバランスが乱れてしまいます。
また、ストレスには精神的なものだけでなく、身体的なストレスもあります。過度な疲労、睡眠不足、運動不足、騒音や気温の変化、病気やケガによる身体的負担なども自律神経に影響を与えます。現代社会では、仕事に追われる生活や夜型の生活習慣など、身体的ストレスを受けやすい環境にあることも自律神経失調症が増加している一因と考えられています。
生活習慣の乱れ
不規則な生活習慣も自律神経失調症の大きな原因です。私たちの体には約24時間周期の体内時計(サーカディアンリズム)が備わっており、これに従って自律神経も1日のリズムを刻んでいます。しかし、夜更かしや昼夜逆転の生活、不規則な食事時間、朝食を抜く習慣などが続くと、体内時計が狂い、自律神経のリズムも乱れてしまいます。
過度な飲酒や喫煙も自律神経に悪影響を与えます。アルコールは一時的にリラックス効果をもたらしますが、過度に摂取すると交感神経を過剰に刺激し、睡眠の質を低下させる原因にもなります。
ホルモンバランスの変化
自律神経とホルモンには密接な関係があります。特に女性は、月経周期、妊娠・出産、更年期などでホルモンバランスが大きく変動するため、自律神経失調症になりやすいとされています。更年期障害は、女性ホルモンの急激な減少によって自律神経が乱れ、さまざまな不調が現れる典型的な例です。
また、甲状腺ホルモンの異常も自律神経に影響を与えます。甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では交感神経が過剰に刺激され、動悸や発汗、体重減少などの症状が現れます。甲状腺機能低下症では、倦怠感や冷え、便秘などの症状が見られます。
環境の変化
引っ越しや転職、進学、結婚、出産など、生活環境の大きな変化もストレスとなり、自律神経のバランスを崩す原因になります。また、季節の変わり目における気温や気圧の急激な変化も自律神経に負担をかけます。春先や秋口に体調を崩しやすい方は、こうした環境変化の影響を受けている可能性があります。
自律神経失調症になりやすい人の特徴
自律神経失調症は誰でもなる可能性がありますが、特に以下のような特徴を持つ方はなりやすいとされています。
性格的な傾向
責任感が強く真面目な方、完璧主義の方、几帳面な方は、自分を追い込んでしまいやすく、ストレスを溜め込みがちです。「人に頼れない」「弱音を吐けない」という傾向がある方も、心身の負担を一人で抱え込んでしまい、自律神経のバランスを崩しやすくなります。
また、心配性の方や不安を感じやすい方、体の些細な症状にとらわれてしまう神経質な方も、自律神経失調症になりやすい傾向があります。反対に、感情を上手に表現できない方や、自分の気持ちに気づきにくい方も、ストレスを適切に発散できずに溜め込んでしまうことがあります。
体質的な傾向
自律神経失調症の方には、冷え性、低血圧、虚弱体質の方、痩せ型の方が比較的多いとされています。これらの体質自体がストレスになっていたり、体調に対する不安がストレスを増大させていたりすることも考えられます。
また、もともとストレスに対する耐性が低い方や、自律神経の調整機能が弱い方も、自律神経失調症になりやすいと言われています。幼少期から体が弱かった方や、思春期に自律神経の不調を経験したことがある方は、成人後も注意が必要です。
女性に多い理由
自律神経失調症は女性に多いとされていますが、これには複数の理由があります。まず、前述のとおり、女性ホルモンの変動が自律神経に影響を与えやすいことが挙げられます。月経前症候群(PMS)、妊娠・出産に伴う変化、更年期障害など、女性特有のホルモン変動が自律神経のバランスを崩すきっかけになることがあります。
また、女性は仕事、家事、育児、介護など多くの役割を担っていることが多く、ストレスを感じやすい環境にあることも一因と考えられています。
自律神経失調症の診断方法
自律神経失調症には、明確に確立された診断基準や特定の検査方法があるわけではありません。診断は、問診を中心に、さまざまな検査で他の疾患を除外しながら進められます。
問診
まず、医師による詳細な問診が行われます。現在の症状、いつから症状が始まったか、症状が悪化する状況や時間帯、生活習慣、ストレスの状況、既往歴、服用中の薬などについて聞かれます。症状が多岐にわたる自律神経失調症では、この問診が非常に重要な役割を果たします。
除外診断
自律神経失調症と似た症状を引き起こす他の疾患を除外するために、さまざまな検査が行われます。血液検査では、甲状腺機能や貧血、糖尿病、肝機能、腎機能などをチェックします。心電図検査では、不整脈などの心臓の異常がないかを確認します。画像検査として、頭痛やめまいがある場合は頭部CTやMRIが行われることもあります。
これらの検査で明らかな異常が見つからず、かつ精神疾患(うつ病や不安障害など)でもないと判断された場合に、自律神経失調症と診断されることになります。
自律神経機能検査
一部の医療機関では、自律神経の働きを直接調べる検査が行われることもあります。体を動かしたとき(起立時など)の血圧や心拍数の変動を調べる起立試験、心拍変動解析、発汗機能検査などがこれにあたります。ただし、これらの検査は補助的なものであり、検査結果だけで自律神経失調症と診断することはできません。
心理テスト
ストレスの状態やストレス耐性を調べるために、心理テストが実施されることもあります。これにより、自律神経失調症の背景にある心理的要因を把握し、治療方針の決定に役立てます。
自律神経失調症の治療法
自律神経失調症の治療は、症状や原因に応じて多面的に行われます。基本となるのは生活習慣の改善とストレス管理ですが、必要に応じて薬物療法や心理療法が併用されることもあります。
生活習慣の改善
自律神経失調症の治療において、最も基本となるのが生活習慣の改善です。規則正しい睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動といった基本的な生活習慣を整えることで、自律神経のリズムを取り戻すことを目指します。これは薬物療法と並行して行われることも多く、長期的な改善のためには欠かせない要素です。具体的なセルフケア方法については、次のセクションで詳しく解説します。
薬物療法
症状に応じて、さまざまな薬が処方されることがあります。不安が強い場合には抗不安薬、気分の落ち込みがある場合には抗うつ薬、不眠がある場合には睡眠薬などが用いられます。また、動悸や頭痛などの身体症状に対しては、それぞれの症状を緩和する薬が処方されることもあります。
自律神経調整薬として、グランダキシンなどが使われることもあります。最近の抗うつ薬は安全性も高く、適切に使用すれば身体への負担も大きくありません。症状が落ち着いてくれば、徐々に薬を減らしながら中止していくことができます。
漢方薬
自律神経失調症の治療には、漢方薬も広く用いられています。漢方医学では、自律神経失調症を「気・血・水」のバランスの乱れとして捉え、個人の体質や症状に合わせた処方を行います。
自律神経失調症によく用いられる漢方薬としては、半夏厚朴湯(喉のつかえ感や不安が強いタイプに)、加味逍遙散(イライラや月経関連の症状があるタイプに)、抑肝散(神経の高ぶりやイライラが目立つタイプに)、柴胡加竜骨牡蛎湯(不眠や動悸が強いタイプに)、加味帰脾湯(不安や不眠、貧血傾向があるタイプに)などがあります。
漢方薬は体質によって相性があり、「自律神経失調症にはこの漢方薬」と決まっているわけではありません。医師や薬剤師に相談しながら、自分に合った処方を選ぶことが大切です。漢方薬は医療機関で保険適用で処方を受けることも可能です。
心理療法
ストレスや心理的な要因が大きい場合には、カウンセリングや認知行動療法などの心理療法が行われることがあります。自分のストレスの原因を整理したり、ストレスへの対処法を身につけたりすることで、症状の改善を図ります。
また、自律訓練法という心身をリラックスさせるための技法も、自律神経失調症の治療に用いられることがあります。自律訓練法では、決まった言葉を心の中で繰り返しながら、手足の重さや温かさを感じ取る練習を行います。これにより、副交感神経の働きが高まり、心身がリラックスした状態に導かれます。
自律神経を整えるセルフケア方法
自律神経失調症の改善には、日常生活でのセルフケアが非常に重要です。医療機関での治療と並行して、あるいは症状が軽いうちから予防的に、以下のセルフケアを実践してみてください。
睡眠を整える
質の良い睡眠は、自律神経を整えるための最も基本的な要素です。毎日同じ時間に起床し、同じ時間に就寝する習慣をつけましょう。週末だけ遅くまで寝ているという生活は、体内時計を狂わせる原因になります。
朝起きたらカーテンを開けて朝日を浴びることも大切です。朝の光を浴びることで体内時計がリセットされ、約14〜16時間後に自然と眠気が訪れるようになります。また、朝日を浴びることでセロトニン(幸せホルモンとも呼ばれる神経伝達物質)の分泌が促進され、自律神経のバランスが整いやすくなります。
就寝前のスマートフォンやパソコンの使用は控えましょう。ブルーライトは脳を覚醒させ、寝つきを悪くする原因になります。就寝1〜2時間前からは画面を見ないようにし、リラックスした時間を過ごすことを心がけてください。
規則正しい食生活を心がける
1日3食、できるだけ決まった時間に食事を取ることが大切です。特に朝食は重要で、朝食を食べることで体内時計がリセットされ、自律神経のリズムが整います。胃に食べ物が入ることで腸が動き出し(胃結腸反射)、排便リズムも整いやすくなります。
栄養バランスも意識しましょう。自律神経を整えるためには、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、カルシウム、マグネシウムなどの栄養素が重要です。また、腸は「第二の脳」と呼ばれるほど自律神経と密接に関係しているため、腸内環境を整えることも大切です。発酵食品や食物繊維を意識して摂取し、腸内環境を良好に保ちましょう。
過度な飲酒やカフェインの摂りすぎは自律神経のバランスを乱すため、控えめにすることをお勧めします。
適度な運動を取り入れる
適度な運動は、自律神経のバランスを整えるのに効果的です。激しい運動よりも、ウォーキングやストレッチ、ヨガなど、ゆっくり深い呼吸ができる程度の運動がおすすめです。1回30分程度のウォーキングを習慣にするとよいでしょう。
運動には血流を促進する効果があり、これが自律神経のバランス改善につながります。また、適度な疲労感は睡眠の質を高め、運動後の爽快感はストレス解消にもなります。
日常生活の中でも、エスカレーターではなく階段を使う、一駅分歩く、座りっぱなしの時間を減らすなど、こまめに体を動かす工夫を取り入れてみてください。
入浴でリラックスする
入浴は副交感神経を活性化させ、リラックス効果をもたらします。38〜40度程度のぬるめのお湯に15〜20分程度ゆっくり浸かることで、体が温まり、血行が良くなり、心身がリラックスします。熱すぎるお湯は逆に交感神経を刺激してしまうので注意しましょう。
就寝の1〜2時間前に入浴するのがおすすめです。入浴で一時的に上がった体温が下がっていく過程で眠気が訪れるため、スムーズな入眠につながります。
呼吸法を活用する
呼吸は、私たちが意識的にコントロールできる数少ない自律神経調節方法の一つです。ゆっくり深い呼吸を行うことで、副交感神経の働きが高まり、心身がリラックスした状態に導かれます。
おすすめは腹式呼吸です。鼻から息を吸いながらお腹を膨らませ、口からゆっくりと息を吐きながらお腹をへこませます。吐く息を長くすることがポイントで、吸う時間の倍程度の時間をかけて息を吐くとよいでしょう。緊張を感じたときや、寝る前などに数分間行うだけでも効果があります。
ストレスと上手に付き合う
ストレスを完全になくすことは難しいですが、ストレスと上手に付き合う方法を見つけることは可能です。自分なりのストレス解消法を持っておくことが大切です。趣味の時間を持つ、友人と話す、音楽を聴く、自然の中で過ごす、アロマテラピーを楽しむなど、自分がリラックスできる方法を見つけましょう。
また、すべてを完璧にこなそうとせず、「まあいいか」と思える柔軟さを持つことも大切です。困ったときには一人で抱え込まず、周囲に相談することを心がけてください。
首を温める・ほぐす
首のまわりには自律神経に関係する神経が多く通っています。首がこっていると自律神経の乱れにつながることもあるため、首を温めてほぐすことが効果的です。ネックウォーマーやホットタオルで首を温めたり、首や肩のストレッチを行ったりして、血流を促進しましょう。
医療機関を受診すべきタイミング
以下のような場合には、自己判断で様子を見るのではなく、医療機関を受診することをお勧めします。
まず、症状が長期間続いている場合です。複数の症状が3か月以上続いている場合には、自律神経失調症の可能性があります。また、症状が日常生活に支障をきたしている場合も受診のタイミングです。めまいや頭痛で毎朝仕事に行けない、家事ができない、外出できないなど、生活に支障が出ている場合は専門家の助けが必要です。
セルフチェックで多くの項目に当てはまった場合も、受診を検討してください。特に精神的な症状(気分の落ち込み、不安感、意欲の低下など)が強い場合は、うつ病や不安障害など他の疾患の可能性もあるため、早めの受診が重要です。
受診する診療科としては、まずは内科やかかりつけ医を受診し、他の疾患がないかを確認してもらうとよいでしょう。検査で異常が見つからず、自律神経失調症が疑われる場合には、心療内科や精神科を紹介されることがあります。心療内科は心と体の両方からアプローチする診療科であり、自律神経失調症の治療を得意としています。

よくある質問
自律神経失調症は適切な治療とセルフケアによって改善が期待できます。症状の程度や原因によって改善までの期間は異なりますが、生活習慣の見直しやストレス管理を続けることで、多くの方が症状の軽減を実感されています。完全に症状がなくなるまでには時間がかかることもありますが、焦らずに取り組むことが大切です。
自律神経失調症は自律神経のバランスの乱れによる状態を指す広い概念であり、医学的には正式な病名ではありません。一方、うつ病は気分の落ち込みや意欲低下が持続する精神疾患であり、明確な診断基準があります。両者の症状には重なる部分もあり、自律神経失調症の症状がうつ病の一部として現れることもあれば、自律神経失調症が長引いてうつ病を発症することもあります。正確な区別は医師による診断が必要です。
まずは内科やかかりつけ医を受診して、症状の原因となる他の疾患がないか確認してもらうことをお勧めします。検査で異常が見つからない場合には、心療内科や精神科を受診するとよいでしょう。心療内科は心と体の両方から症状にアプローチする診療科であり、自律神経失調症の治療を専門的に行っています。
改善までの期間は個人差が大きく、症状の程度や原因、治療への取り組み方によって異なります。軽度の場合は生活習慣の改善だけで数週間から数か月で改善することもありますが、慢性化している場合は半年から1年以上かかることもあります。焦らず、セルフケアを継続しながら治療に取り組むことが大切です。
自律神経を整えるためには、バランスの良い食事を心がけることが基本です。特にビタミンB群(豚肉、玄米、大豆製品など)、ビタミンC(野菜、果物)、カルシウム(乳製品、小魚)、マグネシウム(ナッツ類、海藻)などの栄養素を意識して摂取するとよいでしょう。また、腸内環境を整える発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌など)や食物繊維も大切です。カフェインやアルコールの過剰摂取は自律神経のバランスを乱すため控えめにしましょう。
まとめ
自律神経失調症は、ストレスや生活習慣の乱れなどによって自律神経のバランスが崩れ、心身にさまざまな不調が現れる状態です。頭痛、めまい、動悸、胃腸の不調、倦怠感、イライラ、不安感など、症状は非常に多岐にわたり、検査をしても明らかな異常が見つからないことが多いのが特徴です。
本記事でご紹介したセルフチェック項目を活用して、まずはご自身の状態を確認してみてください。複数の項目に当てはまる場合は、生活習慣の見直しやセルフケアを始めるとともに、症状が続く場合は医療機関への相談を検討しましょう。
自律神経を整えるためには、規則正しい睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理が基本となります。これらは一朝一夕で効果が出るものではありませんが、日々の積み重ねが心身のバランスを取り戻すことにつながります。
つらい症状を「気のせい」と我慢せず、早めに適切な対処を行うことが大切です。自律神経失調症は適切な治療とセルフケアによって改善が期待できます。一人で抱え込まず、医師や専門家の力を借りながら、焦らずに取り組んでいきましょう。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「自律神経失調症」
- 厚生労働省 こころの耳「自律神経失調症」
- 日本医師会「知って得する病気の知識 自律神経失調症」
- 一般社団法人日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ19 自律神経失調症」
- ツムラ 漢方ビュー「自律神経失調症」
- 大正製薬 大正健康ナビ「自律神経失調症 症状チェック」
- 第一三共ヘルスケア くすりと健康の情報局「自律神経を整えるには?」
- アリナミン製薬 健康サイト「自律神経の乱れ」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務