「ワキガはうつるのでしょうか?」これは多くの方が抱く疑問の一つです。家族にワキガの人がいる、職場や学校で強いにおいが気になる人がいるといった状況で、自分にもうつってしまうのではないかと不安に感じる方は少なくありません。また、ワキガの方自身も、周囲の人にうつしてしまうのではないかと心配されることがあります。結論から申し上げると、ワキガは感染症ではないためうつることはありません。しかし、この問題には遺伝的要素や環境的要因など、様々な側面から理解する必要があります。本記事では、ワキガの正しいメカニズムを踏まえながら、なぜうつることがないのか、そして適切な対処法について詳しく解説いたします。
目次
- ワキガとは何か?基本的なメカニズム
- ワキガがうつらない理由
- ワキガと遺伝の関係
- 環境的要因とにおいの影響
- ワキガの診断と特徴
- 日常生活でのワキガ対策
- 医療機関での治療選択肢
- 心理的影響と社会的配慮
- よくある誤解と正しい知識
🔬 ワキガとは何か?基本的なメカニズム
ワキガ(腋臭症)は、脇の下から特徴的な強いにおいが発生する状態を指します。このにおいの原因を理解するためには、まず人間の汗腺の種類について知る必要があります。
人間の皮膚には主に2種類の汗腺があります。
- エクリン汗腺:全身に分布し、主に体温調節のために水分と少量の塩分を含む汗を分泌
- アポクリン汗腺:脇の下、陰部、乳輪周辺など特定の部位に存在し、思春期以降にホルモンの影響で活発化
エクリン汗腺から分泌される汗自体はほぼ無臭で、一般的な「汗のにおい」は細菌による分解が原因となります。
一方、アポクリン汗腺から分泌される汗には、たんぱく質、脂質、糖質、アンモニアなどの有機物が豊富に含まれています。これらの成分が皮膚表面の常在菌によって分解されることで、特徴的な強いにおいが発生します。
ワキガのにおいの強さは、以下の要因によって決まります:
- アポクリン汗腺の数
- アポクリン汗腺の大きさ
- アポクリン汗腺の活動性
- 皮膚表面の細菌の種類や数
重要な点は、ワキガは生まれつきの体質的な特徴であり、病気ではないということです。アポクリン汗腺の発達度合いは遺伝的に決定されており、生活習慣や環境によって突然発症するものではありません。このメカニズムを理解することで、なぜワキガがうつることがないのかが明確になります。
🚫 ワキガがうつらない理由
ワキガがうつらない最も重要な理由は、ワキガが感染症ではなく、生まれつきの体質的な特徴だからです。感染症とは、細菌、ウイルス、真菌などの病原微生物が体内に侵入し、増殖することで起こる疾患です。これらの病原微生物は他の人に伝播する可能性がありますが、ワキガの場合は全く異なります。
ワキガのにおいを作り出す細菌は、誰の皮膚にも存在する常在菌です。これらの細菌自体は健康な人の皮膚に普通に存在しており、特別な病原性を持つものではありません。ワキガの人とそうでない人の違いは、細菌の種類ではなく、アポクリン汗腺から分泌される汗の成分や量にあります。
仮に、ワキガの人が使用したタオルや衣類を他の人が使用したとしても、ワキガがうつることはありません。なぜなら、その人のアポクリン汗腺の発達度合いは変わらないからです。一時的に強いにおいが付着することはあっても、その人自身がワキガになることはありません。
また、ワキガのにおい成分は揮発性の化合物であり、空気中に放出されます。これらの化合物を吸い込んだからといって、体内に蓄積されてワキガを発症することもありません。
さらに、ワキガの発症には遺伝的要因が強く関与しています:
- 両親のどちらかがワキガの場合:子供がワキガになる確率は約50%
- 両親ともにワキガの場合:子供がワキガになる確率は約80%
これは遺伝による体質の継承であり、接触や近距離での生活による「感染」ではありません。
🧬 ワキガと遺伝の関係
ワキガの発症において、遺伝的要因は非常に重要な役割を果たします。ワキガは優性遺伝の特徴を示し、家族内での発症パターンには明確な傾向が見られます。この遺伝的側面を理解することで、ワキガが「うつる」ものではなく、生まれつきの体質であることがより明確になります。
ワキガの遺伝に関与する主要な遺伝子として、ABCC11遺伝子が知られています。この遺伝子は、アポクリン汗腺の機能や耳垢のタイプに影響を与えます。ABCC11遺伝子のSNP(一塩基多型)により、ワキガになりやすい体質かどうかが決定されます。
興味深いことに、この遺伝子は耳垢のタイプとも関連しており、湿型の耳垢を持つ人はワキガになりやすいとされています。
人種による有病率の違いも遺伝的要因によるものです:
- 日本人:約10-15%
- 欧米人:約80%
この人種差は、長い進化の過程で各民族が獲得した体質的特徴の一つです。
📊 家族内での発症パターン
家族内でのワキガの発症パターンを見ると、親から子への遺伝の法則に従います:
- 片親がワキガの場合:子供がワキガになる確率は約50%
- 両親ともにワキガの場合:子供がワキガになる確率は約80%
ただし、遺伝的にワキガになりやすい体質を持っていても、必ずしも強いにおいが発生するわけではありません。ホルモンの影響、生活習慣、ストレスレベルなどの環境的要因も、ワキガのにおいの強さに影響を与えます。
🌍 環境的要因とにおいの影響
ワキガそのものはうつりませんが、環境的要因がにおいの強さや周囲への影響を左右することがあります。これらの要因を理解することで、ワキガの方もそうでない方も、より快適な環境を作ることができます。
🌡️ 気温と湿度の影響
気温と湿度は、ワキガのにおいの強さに大きく影響します。
- 気温が高くなると汗の分泌量が増加
- 湿度が高いとにおい成分が空気中に留まりやすくなる
- 夏場や梅雨の時期にはにおいがより強く感じられる
- 密閉された空間や風通しの悪い環境では、におい成分が蓄積しやすい
👕 衣類と繊維の影響
着用する衣類の素材や形状も、においの拡散に影響を与えます:
- 化学繊維:通気性が悪く、汗やにおい成分が蓄積しやすい
- 天然繊維:通気性が良く、においの軽減に効果的
- タイトフィッティング:皮膚との密着度が高く、におい成分の蓄積を促進
- ゆったりとした衣類:空気の循環を改善
🍽️ 食事と生活習慣の影響
食事内容や生活習慣も、体臭の質や強さに影響を与える可能性があります:
- 辛い食べ物、アルコール、カフェインは発汗を促進
- ストレスや睡眠不足は体のバランスを崩し、においの質を変化させる可能性
- ただし、これらは一時的な影響であり、ワキガの根本的な体質を変えるものではない
🔍 ワキガの診断と特徴
ワキガかどうかの判断は、専門的な診断が重要です。自己判断では正確な評価が困難な場合が多く、適切な治療や対策を行うためには医療機関での診断が推奨されます。
🩺 医療機関での診断方法
医療機関では、複数の方法を組み合わせてワキガの診断を行います:
- 視診と問診:脇の下の皮膚の状態、毛の量や質、汗の分泌状況を観察
- においの客観的評価:医師や看護師が実際ににおいを確認
- ガーゼテスト:脇の下にガーゼを挟んで一定時間経過後、においを評価
- 耳垢タイプの確認:湿型の耳垢を持つ人はワキガになりやすい傾向
📈 ワキガの重症度分類
ワキガには重症度による分類があり、治療法の選択にも関わってきます:
- 軽度:近距離でないとにおいを感じない程度
- 中等度:腕を上げた時や着替えの際などににおいが明らかに分かる程度
- 重度:常時強いにおいがあり、周囲の人にも明らかに分かる状態
🔬 他の疾患との鑑別
ワキガと似た症状を示す他の疾患もあるため、適切な鑑別診断が必要です:
- 多汗症:過剰な発汗を主症状とするが、においは伴わない
- 感染症による皮膚炎
- 薬剤による副作用としての体臭変化
- 自己臭恐怖症:実際にはにおいがないにもかかわらず強い不安を抱く状態
🛡️ 日常生活でのワキガ対策
ワキガの根本的な治療には医療的介入が必要ですが、日常生活での適切なケアにより、においを軽減し、快適な生活を送ることが可能です。これらの対策は、ワキガの方だけでなく、一般的な体臭予防としても有効です。
🚿 適切な清潔管理
日常的な清潔管理は、ワキガ対策の基本です:
- 朝のシャワーや入浴で皮膚表面の汗や細菌、におい成分を洗い流す
- 脇の下は丁寧に洗浄し、石鹸やボディソープで十分に泡立てて優しく洗う
- 洗浄後は完全に乾燥させる(湿った環境は細菌の繁殖を促進)
- 日中も汗をかいた場合はこまめに拭き取る
🧴 制汗剤・デオドラントの活用
制汗剤やデオドラント製品は、ワキガ対策において非常に有効な手段です:
- 制汗剤:汗の分泌を抑制(アルミニウム塩を主成分)
- デオドラント:におい成分の発生を抑制、においをマスキング
- 清潔で乾燥した皮膚に塗布することが重要
- 夜間使用で翌日の効果を高める製品もあり
👔 衣類選択と管理
適切な衣類の選択と管理も重要です:
- 素材選択:通気性の良い天然繊維(綿、麻、絹など)を選ぶ
- フィッティング:ゆったりとした衣類で空気の循環を改善
- 洗濯:適切な洗剤の使用と十分な洗浄
- 消臭対策:酸素系漂白剤や重曹を活用
✂️ 脇毛の処理
脇毛は汗やにおい成分を保持しやすく、細菌の繁殖場所にもなります:
- 適切な脇毛の処理によりにおいの軽減効果が期待できる
- 剃毛、脱毛クリーム、レーザー脱毛など様々な方法がある
- 処理後は保湿やアフターケアを行い、皮膚の健康を維持
🏥 医療機関での治療選択肢
日常生活での対策だけでは十分な効果が得られない場合や、より根本的な治療を希望する場合は、医療機関での専門的な治療が選択肢となります。現在、様々な治療法が開発されており、個人の症状や希望に応じて最適な方法を選択することができます。
💊 外用療法
医療機関で処方される外用薬は、市販品よりも高い効果が期待できます:
- 塩化アルミニウム液:強力な制汗効果、重度の多汗症やワキガに使用
- 抗菌作用のある外用薬:皮膚表面の細菌叢を調整
- 医師の指示に従った使用が重要
- 皮膚刺激や耐性菌の出現に注意が必要
💉 注射治療
ボツリヌス毒素注射は、近年ワキガ治療において注目されている方法です:
- 神経末端からの刺激伝達を阻害し、汗腺の活動を抑制
- 手術に比べて侵襲性が低く、ダウンタイムが短い
- 治療時間:15-20分程度
- 効果持続期間:通常3-6ヶ月
- 必要に応じて再治療が可能
⚡ レーザー治療・高周波治療
レーザーや高周波を用いた治療法も開発されています:
- 皮下のアポクリン汗腺に熱エネルギーを加えて機能を低下
- 手術に比べて傷跡が小さく、回復期間も短い
- 効果には個人差があり、複数回の治療が必要な場合もある
- 長期的な効果について検討が必要
🔪 外科手術
重度のワキガで他の治療法では十分な効果が得られない場合、外科手術が検討されます:
- 皮弁法(剪除法):脇の下の皮膚を切開し、アポクリン汗腺を直視下で除去
- メリット:最も確実な効果が期待できる
- デメリット:全身麻酔が必要、回復期間が長い、傷跡、合併症のリスク
アイシークリニック大宮院では、患者様一人ひとりの症状や希望に応じて、最適な治療法をご提案しています。カウンセリングにおいて詳しく症状を伺い、適切な診断と治療計画を立てることで、患者様にとって最良の結果を目指しています。
💭 心理的影響と社会的配慮
ワキガは単なる身体的な問題ではなく、心理的・社会的な影響も大きな問題となります。においに対する不安や恥ずかしさは、日常生活の質を大きく低下させる可能性があります。
😰 心理的影響
ワキガに悩む方の多くが経験する心理的影響:
- 社交的な活動を避けるようになる
- 人との距離を保とうとする
- 公共交通機関や密閉された空間を避ける
- 社会的な孤立を招き、うつ状態や不安障害につながる可能性
- 特に思春期の学生にとって深刻な問題となることがある
🤝 社会的配慮の重要性
ワキガは個人の努力だけでは解決できない体質的な問題であることを、社会全体が理解することが重要です:
- 不適切な指摘や偏見は当事者の心理的負担を増大
- 学校や職場での正しい知識の普及が必要
- 当事者が相談しやすい環境の整備
- 家族や友人の理解とサポート
🗣️ カウンセリングの役割
ワキガの治療において、医学的な治療と並行して心理的なサポートも重要です:
- 専門的なカウンセリングによりにおいに対する過度な不安を和らげる
- 認知行動療法で不安や回避行動の改善
- ストレス管理法でストレスによる症状の悪化を防ぐ
❓ よくある誤解と正しい知識
ワキガについては、多くの誤解や間違った情報が存在します。これらの誤解は、不適切な対処や偏見につながる可能性があります。正しい知識を身につけることで、より適切な対応が可能になります。
🚫 よくある誤解
代表的な誤解とその訂正:
- ❌「ワキガはうつる」
✅ ワキガは遺伝的な体質であり、感染症ではないためうつることはない - ❌「ワキガは不潔だから発症する」
✅ 清潔さとは関係なく、アポクリン汗腺の発達度合いによる体質的特徴 - ❌「ワキガは治らない」
✅ 適切な治療により症状の大幅な改善が可能
📚 正しい知識の重要性
ワキガに関する正しい知識を持つことの重要性:
- 医学的に正確な情報に基づいた適切な対応が可能
- ワキガは恥ずかしいことではなく、医学的サポートで改善可能な状態
- 早期の相談と適切な治療により生活の質を大幅に改善
- 信頼できる医療機関や専門家の情報を参考にすることが重要

❓ よくある質問
ワキガはうつりません。ワキガは感染症ではなく、アポクリン汗腺の発達度合いによる遺伝的な体質的特徴です。ワキガの人と接触したり、同じ衣類を使用したりしてもワキガになることはありません。においの原因となる細菌は誰の皮膚にも存在する常在菌であり、特別な病原性はありません。
ワキガには遺伝的要因が関与しますが、必ずしも遺伝するわけではありません。片親がワキガの場合、子供がワキガになる確率は約50%、両親ともにワキガの場合は約80%とされています。遺伝的にワキガになりやすい体質を持っていても、必ずしも強いにおいが発生するとは限らず、環境的要因も影響します。
自己判断は困難な場合が多く、正確な診断には医療機関での受診が推奨されます。参考となる特徴として、耳垢が湿っている、白い下着に黄色いシミがつく、家族にワキガの人がいる、思春期頃からにおいが気になり始めた等がありますが、これらがあっても必ずワキガとは限りません。専門医による診断を受けることで適切な対処法を知ることができます。
ワキガの治療には、外用療法、注射治療、レーザー・高周波治療、外科手術など様々な選択肢があります。軽度から中等度の場合は制汗剤や医療用外用薬、ボツリヌス毒素注射などが効果的です。重度の場合はレーザー治療や外科手術が検討されます。治療法は症状の程度、患者様の希望、ライフスタイルなどを総合的に考慮して選択されます。
日常生活でできる対策として、適切な清潔管理、制汗剤・デオドラントの使用、通気性の良い衣類の選択、脇毛の処理などがあります。朝のシャワーで脇を丁寧に洗浄し、完全に乾燥させることが重要です。天然繊維の衣類を選び、こまめな着替えや洗濯を心がけます。ただし、これらは症状の軽減には効果的ですが、根本的な治療には医療機関での専門的な治療が必要です。
参考文献
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
医師・当院治療責任者
ワキガについて「うつる」という心配をされる患者さんは非常に多いですが、これは医学的に根拠のない心配です。ワキガは遺伝的に決まる体質であり、接触や空気感染で伝播することは絶対にありません。むしろ、このような誤解が偏見や差別につながることの方が問題です。正しい知識を持ち、適切な治療を受けることで症状の改善は十分に可能です。