はじめに:「赤ら顔」は治療できる皮膚疾患です
鏡を見るたびに気になる頬や鼻の赤み、人前に出ると余計に目立つように感じるほてり。「体質だから仕方がない」と諦めていませんか。実はその症状、「酒さ(しゅさ)」という治療可能な皮膚疾患かもしれません。
酒さは主に30代から50代の成人に好発する慢性炎症性の皮膚疾患で、国際的な有病率は一般成人で約5.46%とされています。女性に多い傾向があり、有病率は女性で5.41%、男性で3.90%という報告があります。顔面に症状が現れることから患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させることが知られており、日本皮膚科学会でも「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」として診療指針が策定されています。
本記事では、埼玉県大宮エリアで酒さ治療をお考えの方に向けて、酒さの原因・症状・最新の治療法について、日本皮膚科学会のガイドラインや医学的エビデンスに基づいて詳しく解説いたします。
酒さとは?基本的な病態を理解する
酒さの定義と特徴
酒さとは、主に顔面の中央部、すなわち鼻、頬、額、顎などに持続的な赤みやニキビに似た丘疹・膿疱が現れる慢性炎症性皮膚疾患です。「酒」という字が使われていますが、アルコールを飲むから発症するわけではありません。ただし、飲酒は症状を悪化させる要因のひとつとして知られています。
酒さの特徴的な症状として、以下のようなものが挙げられます。
顔の赤みが断続的または持続的に現れることが最も代表的な症状です。毛穴の周りに炎症が起こり、その上の皮膚に紅斑(赤み)がみられるようになります。この赤みは一時的な場合もあれば、数か月から数年と長期間続く場合もあります。
毛細血管の拡張も重要な特徴です。血管が拡張すると血流が増えるため、皮膚の表面から血管の赤みが透けて見えるようになります。これを毛細血管拡張症と呼び、細い赤い線がちりちりと目立つ状態となります。
さらに症状が進行すると、ニキビに似た丘疹や膿疱が出現します。ただし、ニキビ(尋常性痤瘡)とは異なり、面皰(毛穴の詰まり)を伴わないことが鑑別のポイントとなります。
ほてり感やヒリヒリ感、かゆみなどの自覚症状を伴うことも多く、これらの症状が患者さんの日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
酒さの4つの病型分類
酒さは進行度や症状の特徴によって、主に4つの病型(タイプ)に分類されます。これらの病型は明確に分かれているわけではなく、複数の病型が混在して現れることもあります。
第1度酒さ(紅斑毛細血管拡張型)は、酒さの初期段階に相当します。鼻、頬、眉間、顎に赤みが出現し、次第に持続的となって毛細血管の拡張と脂漏を伴うようになります。寒暖差や飲酒で症状が強くなり、かゆみやほてり感などの症状が出ることが特徴です。皮膚の刺激感、ヒリヒリ感なども伴います。
第2度酒さ(丘疹膿疱型)では、第1度の症状に加えて顔全体に症状が広がります。毛穴部にニキビのような赤い丘疹や膿をもったブツブツ(膿疱)が出現し、脂漏が強くなります。この段階の症状はニキビに似ていますが、面皰(コメド)がみられない点で区別されます。
第3度酒さ(鼻瘤型)は、丘疹が融合して腫瘤状(できもの様)になり、特に鼻が凸凹に盛り上がって(鼻瘤)赤紫色になってくるのが特徴です。このタイプは男性に多くみられる傾向があります。鼻が肥厚して「団子鼻」のような外観になることもあります。
第4度酒さ(眼型)は、眼やその周囲に症状が出現するタイプです。まぶたの腫れや結膜炎、角膜炎などを生じ、眼球の充血、異物感、乾燥感、かゆみなどの症状がみられます。皮膚症状がない段階で眼の症状が先行することもあり、酒さ患者の約2割には皮膚症状がないとの報告もあります。
酒さの原因とメカニズム
解明されつつある発症機序
酒さの正確な原因は現在も完全には解明されていませんが、近年の研究により病態メカニズムの理解が進んできています。遺伝的要因、免疫系の異常、血管の異常、環境要因など複数の因子が複合的に関与していると考えられています。
遺伝的要因については、酒さを持つ血縁者がいる確率が一般人口と比較して約4倍以上高いという報告があり、家族性の傾向が認められています。ただし、関与している遺伝子はまだ特定されていません。酒さは北欧系やケルト系の人々、色白の方に多いことが知られており、日本でも色白の方に発症しやすい傾向があります。
自然免疫の異常も重要な発症メカニズムとして注目されています。酒さの患者さんでは、皮膚のバリア機能が低下し、外界からの刺激に対して過敏に反応しやすい状態になっています。酒さの症状がある皮膚では、紫外線や毛包虫(ニキビダニ)に感受性の高い受容体(TLR2、TLR3)が高く発現していることがわかっています。
この受容体の活性化により、カテリシジンというタンパク質の産生が亢進します。カテリシジンは本来、皮膚を細菌から守る役割を持つ抗菌ペプチドですが、酒さ患者さんでは異常な形態のカテリシジンペプチドが過剰に産生され、これが血管の新生や炎症反応を引き起こすと考えられています。
毛包虫(ニキビダニ)の関与
毛包虫(デモデックス、ニキビダニ)も酒さの発症・悪化に深く関与していると考えられています。毛包虫は正常な人の毛穴(主に顔から首にかけての脂腺性毛包)に寄生している常在性のダニで、ほとんどの人では病気を引き起こさずに共生しています。
しかし、酒さの患者さんでは毛包虫が過剰に増殖していることが多く報告されています。毛包虫が増えすぎると、毛包の機械的閉塞によって、または自然免疫を過剰に活性化させることによって、炎症やアレルギー反応を引き起こし、酒さの発症・悪化に関与していると推定されています。
毛包虫の細胞膜成分は、前述のTLR2(トール様受容体2)を活性化させると考えられており、これがカテリシジンの産生亢進、そして皮膚の炎症へとつながる経路が示唆されています。特に丘疹膿疱型の酒さにおいて、毛包虫の関与が大きいと考えられています。
血管運動神経の異常
酒さでほとんどの方にみられる頬や鼻などの顔面の赤みは、毛細血管が増加し、かつそれぞれの血管が拡張していることが原因とされています。紫外線や自然免疫の機能異常などが影響して、血管を増やすシグナルが過剰となっていること、また毛細血管の拡張に関わる神経(血管運動神経)が異常となっていることなどが背景にあると考えられています。
自律神経の乱れによって顔の血管が拡張しやすくなり、赤みが持続するという機序も提唱されています。このため、精神的ストレスや寒暖差といった自律神経に影響を与える要因が、酒さの悪化因子となりやすいのです。
酒さの悪化因子:日常生活で気をつけるべきこと
酒さは慢性疾患であり、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すことが特徴です。治療効果を最大限に引き出し、症状をコントロールするためには、悪化因子を特定して避けることが非常に重要です。
紫外線
紫外線は酒さの悪化因子の筆頭に挙げられます。紫外線は自然免疫のカテリシジンを過剰に誘導し、それが引き金となってプロテアーゼと呼ばれる他のタンパク質の活動を刺激します。その結果として炎症や毛細血管の増殖による赤みがもたらされます。わずかな紫外線曝露であってもほてり感や赤みが引き起こされる場合があり、季節を問わず通年での紫外線対策が必要です。
寒暖差・温度変化
暑いお風呂に入る、クーラーの効いた室内から暑い屋外に出る、などの急激な温暖差は酒さを悪化させる代表的な要因です。高気温と低気温の気候では、体温の調整機能の働きにより血管が収縮・拡張することで血流量が増加し、酒さの症状を悪化させます。サウナや熱いお風呂、暖房の効きすぎた部屋なども避けるべき環境といえます。
アルコール・香辛料などの刺激物
アルコールを摂取すると血管が拡張し、酒さの症状を悪化させます。少量であれば血管の拡張は一時的ですが、飲みすぎは禁物です。香辛料や辛い食べ物、熱い飲み物、カフェインなども血行を促進して赤みを増強させる可能性があります。
また、シナマルデヒドを含む食べ物(トマト、柑橘類、チョコレート、シナモンなど)、ヒスタミンを多く含む食べ物(熟成チーズ、ワイン、加工肉など)も酒さを悪化させる可能性が指摘されています。
精神的ストレス
心理的なストレスも酒さの症状を悪化させる重要な因子です。米国酒さ協会による酒さ患者544人を対象とした調査では、62%の人が「少なくとも月に1回はストレスによる酒さの再発を経験している」と回答しています。酒さであること自体がストレスとなり、それがさらに症状を悪化させるという悪循環に陥ることもあります。
その他の悪化因子
激しい運動は体温を急上昇させるため、酒さの症状を悪化させることがあります。運動を行う場合は、軽い運動から始めて急激な体温上昇を避けることが推奨されます。
化粧品も悪化因子となりえます。アルコール(エタノール)や香料を含む製品、過剰なスクラブやピーリングは肌のバリア機能を損ない、症状を悪化させる可能性があります。
ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏(プロトピック)を長期間顔に使用することで、「酒さ様皮膚炎」という酒さに似た症状を引き起こすことがあります。顔の赤みに対してステロイド外用薬を自己判断で使用することは避け、必ず皮膚科専門医の診断を受けることが重要です。
酒さの診断と鑑別疾患
酒さの診断方法
酒さの診断は、主に特徴的な外観(視診)および病歴に基づいて行われます。特異的な診断検査はありません。発症年齢(30代以降に多い)と面皰(毛穴の詰まり)がみられないことが、ニキビ(尋常性痤瘡)との鑑別に役立ちます。
診察では、症状がどのような状況で悪化するかを詳しく確認します。「冬になって暖房器具を使用するとほてりが気にならないか」「長時間外出した時に赤みが悪くならないか」「刺激物を食べると悪化しないか」など、日々の生活の中で悪化する要因がないかを具体的に確認することが診断の助けとなります。
必要に応じて、毛包虫(ニキビダニ)の検査を行うこともあります。酒さが重症化するほど毛包虫が多く寄生し、さらなる悪化を招いている場合があるためです。
酒さと鑑別すべき疾患
赤ら顔を呈する疾患は酒さだけではありません。適切な治療を行うためには、以下のような疾患との鑑別が重要です。
ニキビ(尋常性痤瘡)は酒さの丘疹・膿疱と似た症状を呈しますが、面皰(コメド)がみられること、思春期から若年成人に好発すること、Tゾーン(額・鼻・顎)にできやすいことなどが異なります。ただし、酒さとニキビが合併していることもあります。
脂漏性皮膚炎は、酒さと同様に皮膚が赤みを帯びる皮膚疾患です。発症にはマラセチアというカビの一種が関与していると考えられています。酒さは毛細血管の拡張やニキビのようなブツブツが生じますが、脂漏性皮膚炎ではそれらはみられず、皮膚の赤みやガサガサといった症状が中心です。また、脂漏性皮膚炎は眉や眉間、鼻の脇などに発症しやすいのに対し、酒さは顔の中央(頬、額、顎)に症状が現れる傾向があります。
酒さ様皮膚炎(ステロイド誘発性皮膚炎)は、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などを長期にわたり顔に使用したことが原因で、酒さのような赤みや丘疹、膿疱が生じる皮膚疾患です。原因となる外用薬の中止が治療の基本となります。
その他、接触皮膚炎(かぶれ)、花粉皮膚炎、膠原病(エリテマトーデスなど)、アトピー性皮膚炎なども赤ら顔の原因となりうるため、鑑別が必要です。
酒さの治療法:保険診療から自由診療まで
治療の基本方針
酒さの治療は、①悪化因子の除去、②スキンケア、③医学的治療の3本柱で構成されます。まずは悪化因子を特定して避けること、適切なスキンケアを行うことが治療の基盤となり、その上で外用薬・内服薬・レーザー治療などの医学的治療を組み合わせていきます。
酒さは慢性疾患であるため、治療のゴールは「完治」ではなく「症状のコントロール」となります。副作用の少ない治療を継続しながら、症状を最小限に抑えることを目指します。日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」(J-STAGEで公開)に基づいた標準的な治療が推奨されています。
外用薬による治療
メトロニダゾール外用薬(ロゼックスゲル)は、2022年5月に日本で酒さに対する保険適用が認められた外用薬です。世界80カ国以上で承認されており、欧米の治療ガイドラインでも推奨度の高い標準治療薬として位置づけられています。
ロゼックスゲルの有効成分であるメトロニダゾールは、酒さ病変部において増加している活性酸素種の生成を抑制することで抗炎症作用を示します。また、免疫細胞によるTNF-αの産生や貪食細胞の免疫能等を抑制することで免疫抑制作用を示し、慢性の皮膚炎症を抑えます。さらに、酒さの原因のひとつと考えられている毛包虫やニキビ菌の増殖を抑える抗菌作用も持っています。
国内第III相試験では、投与12週後に炎症性皮疹と紅斑がともに改善した患者の割合は、ロゼックス群で72.3%、プラセボ群で36.9%であり、有意な差が認められました。用法は1日2回、患部を洗浄後に適量を塗布します。使用期間は通常12週間までとされています。
副作用としては、接触皮膚炎、乾燥、かゆみ、皮膚のつっぱり感などが報告されています。また、妊娠3か月以内の女性には使用できないため注意が必要です。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、丘疹膿疱型酒さに対するメトロニダゾール外用は推奨度A(強く推奨される)とされています。
自費診療の外用薬
保険適用外となりますが、海外で広く使用されている外用薬として以下のものがあります。
アゼライン酸は、小麦やライ麦に含まれる天然由来の酸で、抗炎症作用、抗菌作用、皮脂分泌抑制作用を持っています。米国FDAでは酒さの治療薬として承認されており、丘疹膿疱型酒さに有効とされています。日本では化粧品成分として配合された製品(AZAクリアなど)が利用可能です。
イベルメクチンクリームは、毛包虫を減らす作用があり、丘疹膿疱型酒さに有効とされています。海外の報告では、メトロニダゾールと同程度またはそれ以上の効果があるとされており、刺激が少なく使いやすいクリームとして知られています。日本では保険適用外となりますが、自費診療で処方を行っているクリニックがあります。
ミノサイクリン外用薬は、抗菌薬であるミノサイクリンを含む塗り薬で、抗炎症作用により酒さやニキビを改善します。米国では2019年より酒さの塗り薬として使用されるようになりました。
内服薬による治療
抗菌薬の内服は、特に丘疹膿疱型酒さ(第2度酒さ)に対して用いられます。テトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)は、抗菌作用だけでなく抗炎症作用を持っており、酒さの炎症を抑える効果があります。
ドキシサイクリン(商品名:ビブラマイシン)は、酒さの内服治療において第一選択薬として広く使用されています。米国では、低用量(1日40mg)のドキシサイクリンが丘疹膿疱型酒さの治療薬として2006年にFDAにより承認されており、3〜6か月の期間にわたって投与することが標準的な治療となっています。日本でも100mg/日または50mg×2回/日の用量で使用されることが多いです。
ミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)も同様に使用されますが、皮膚や粘膜の色素沈着、めまい、重篤な副作用(薬疹、DRESS症候群など)のリスクがドキシサイクリンより高いため、ドキシサイクリンが第一選択となることが多いです。
日本皮膚科学会のガイドライン2023では、丘疹膿疱型酒さに対するテトラサイクリン系抗菌薬の内服療法は「本邦でのエビデンスが乏しいので、選択肢の一つとして推奨する」(推奨度C1)とされています。
イソトレチノインはビタミンA誘導体の内服薬で、皮脂腺を縮小して皮脂の分泌を減らす作用、抗炎症作用、細胞分裂を制御して皮膚のターンオーバーを正常化させる作用などを持っています。重症のニキビに対する治療薬として海外で広く使用されていますが、酒さに対しても有効性が報告されています。特に丘疹膿疱型酒さや鼻瘤に効果があるとされています。ただし、催奇形性があるため妊娠中・妊娠希望の方には禁忌であり、その他にも様々な副作用があるため、慎重な使用が必要です。日本では保険適用外の自費診療となります。
漢方薬による治療
漢方薬も酒さの補助的な治療として用いられることがあります。漢方医学では、酒さを「血(けつ)」が体内でうまく循環せず局所的に停滞するとともに、熱感・炎症を持つ状態と捉えています。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、「瘀血(おけつ)」を改善する駆瘀血剤として有名で、顔面部の血液循環を改善する目的で用いられることがあります。下腹部の血行障害と顔面部の充血とが関連している場合に適応となります。
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)は、体内にたまった熱を冷ます作用があり、肌のかゆみやほてりを抑える効果が期待されます。
十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)は、化膿しやすい皮膚症状に使用される漢方薬で、化膿を伴う丘疹膿疱型酒さに用いられることがあります。
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)は、体の熱を冷まし火照りをとる作用があり、ほてり感が強い場合に使用されることがあります。
加味逍遙散(かみしょうようさん)は、ストレスを緩和する作用があり、精神的ストレスが酒さの悪化因子となっている場合に併用されることがあります。
ただし、日本皮膚科学会のガイドラインでは、漢方薬については「推奨できるエビデンスはない」(推奨度C2)とされており、補助的な位置づけとなります。
レーザー・光治療
毛細血管拡張による赤みに対しては、外用薬や内服薬だけでは十分な改善が得られないことがあり、レーザー治療や光治療(IPL)が有効な選択肢となります。
Vビーム(色素レーザー/PDL)は、血管中のヘモグロビンに選択的に反応するレーザーで、毛細血管拡張症や酒さによる赤みの治療に最も効果が高いとされています。レーザー光がヘモグロビンに吸収されると熱が発生し、血管壁が損傷を受けて血管が閉塞・消退します。
Vビームは毛細血管拡張症に対して保険適用が認められており、3か月に1回の頻度で治療を受けることができます。酒さに対しては自費診療となる場合もありますが、毛細血管拡張が主体の場合は保険適用となることがあります。効果を実感するためには、4週間に1回の間隔で5〜10回程度の治療が目安とされています。
IPL(Intense Pulsed Light)は、幅広い波長の光を照射して、シミや赤み、小じわなどを同時に改善する治療法です。酒さの赤みに対しても有効とされており、Vビームと比較して副作用(紫斑や内出血)が少ないのが特徴です。複数の研究でVビームと同程度の効果があることが報告されていますが、毛細血管拡張に対してはVビームの方がより選択性が高いという報告もあります。
ロングパルスNd:YAGレーザーは、より深い部位の血管に対して効果があり、血管径が1mm以上の太い血管に対してはIPLよりも効果的とされています。Vビームで改善しなかった赤みに対しても試みられることがあります。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、紅斑毛細血管拡張型酒さに対するレーザー・光治療は推奨度B(行うよう勧められる)とされています。
酒さのスキンケア:適切な方法と注意点
スキンケアの基本原則
酒さ患者さんの肌は外からの刺激に非常に敏感で、ヒリヒリ感やかゆみを感じやすい状態です。どの病型の酒さに対しても、適切なスキンケアは治療の重要な柱となります。基本原則は、低刺激性の製品を選び、強くこすらない優しいケアを心がけることです。
肌に刺激の少ないスキンケア製品を選びましょう。「敏感肌用」「低刺激」「ノンケミカル」などと書かれている製品は選択の参考になりますが、メーカーによって基準が異なるため、実際に使用して刺激がないかを確認することが重要です。初めて使う製品は、顔に使う前に首など顔の近くの皮膚で試して刺激の有無を確認しましょう。
洗顔の方法
酒さの方が絶対にしてはいけないのが「肌に刺激を与える洗顔」です。ゴシゴシと肌をこすることはもちろん、長時間洗顔料を肌にのせることも避けるべきです。スクラブやピーリング成分が配合されている刺激的な洗顔料の使用も控えてください。
洗顔料はたっぷりの泡で優しく手のひらで洗い、すすぎには十分な量のぬるま湯(30℃前後)を使用します。熱いお湯や冷たい水での洗顔は避けましょう。フェイスラインのすすぎ残しにも注意が必要です。弱酸性の低刺激性洗顔料を選ぶことをおすすめします。
クレンジングについても注意が必要です。特にオイルクレンジングは界面活性剤を多く含むため、肌への負担が大きくなることがあります。石鹸などで容易に落とせる程度のメイクにとどめ、ダブル洗顔は極力避けることが推奨されます。
保湿のポイント
酒さの方は肌のバリア機能が低下しているため、水分を保ちにくく乾燥しやすい状態になっています。乾燥で症状が悪化しやすいので、適度な保湿が必要です。
ただし、過度な保湿には注意が必要です。油分が多くテクスチャーの重いクリームやワセリンを過剰に使用すると、酒さの丘疹や膿疱を増やしてしまう場合があります。できるだけ油分を多く含まない化粧水や乳液、保湿ジェルなどを使用する方が安全です。
セラミドは酒さで低下している肌のバリア機能を支える成分として、積極的に使いたい成分です。ヒアルロン酸やナイアシンアミドなども保湿効果を高める成分として有用です。
ヘパリン類似物質含有のクリームは保湿剤としてよく使用されますが、血管を拡張させる作用があるため、酒さの患者さんでは赤みが増強する可能性があります。一般的に酒さの方には推奨されていません。
紫外線対策
紫外線は酒さの最大の悪化因子のひとつです。日焼け止め製剤を一年を通して使用することが重要です。短い時間での移動や曇りの日、冬の時期でも紫外線の影響はあるため、季節を問わず対策が必要です。
日焼け止めは、SPF30以上、PA+++以上のものを選び、「敏感肌用」「低刺激」「ノンケミカル(紫外線吸収剤不使用)」などと書かれている製品を参考にしましょう。紫外線吸収剤は刺激となる可能性があるため、紫外線散乱剤(酸化亜鉛、酸化チタン)のみを使用した製品が推奨されます。
日焼け止めは塗る量が重要で、少なすぎると本来の効果が発揮できません。顔全体に適量をムラなく塗り、石鹸などで容易に落とせるものを選ぶと、クレンジングによる肌への負担を減らせます。日傘や帽子、サングラスなども併用するとより効果的です。
屋内でも窓から紫外線は入ってくるため、紫外線カットカーテンや窓に紫外線カットフィルムを貼る方法も有効です。
メイクの注意点
メイクをする前に、肌に合ったスキンケア製品で洗顔と保湿を行いましょう。メイク製品も刺激の少ないものを選び、シンプルなメイクを心がけます。
肌に塗る成分や回数が多いほど、毛穴を詰めたり摩擦で刺激を与えたりして症状を悪化させる可能性が高くなります。添加物が少ない製品や、日焼け止め効果もある下地などを使い、使用品目を少なくして塗布回数を減らすことで肌への負担を軽減できます。
赤みが気になる場合は、緑や黄色など赤みを落ち着かせる色付きのカバーメイクを活用しましょう。
大宮で酒さ治療を受けるには
専門医への相談の重要性
酒さは診断が難しいことがあり、湿疹やニキビ、脂漏性皮膚炎などと誤って診断・治療されていることも少なくありません。特にステロイド外用薬の長期使用は酒さを悪化させる原因となるため、顔の赤みが気になる場合は自己判断での治療は避け、専門医の診察を受けることが重要です。
酒さの治療には、保険診療の範囲内で行える治療と自費診療の治療があります。症状の重症度や病型、患者さんの希望に応じて、最適な治療法を組み合わせていきます。
治療の流れ
一般的な治療の流れとしては、まず問診と視診により酒さの診断を行い、病型と重症度を評価します。次に悪化因子を特定し、それを避けるための生活指導を行います。スキンケアの方法についてもアドバイスを受けましょう。
外用薬としては、まずメトロニダゾール外用薬(ロゼックスゲル)が処方されることが多いです。丘疹膿疱が目立つ場合は、テトラサイクリン系抗菌薬の内服が併用されることがあります。症状に応じて漢方薬が補助的に処方されることもあります。
外用薬・内服薬で十分な改善が得られない場合や、毛細血管拡張による赤みが主体の場合は、レーザー・光治療が検討されます。
治療期間の目安
酒さは慢性疾患であり、治療には時間がかかります。赤い丘疹や膿疱は比較的早く(数週間〜数か月)で改善が認められることが多いですが、赤みはゆるやかに改善し、症状が落ち着くまで時間がかかります。
抗菌薬内服で治療を行う場合は3か月程度、レーザー治療を行う場合は5回〜10回程度(6か月〜1年程度)が目安です。治療を開始してから症状が一時的に悪化することもありますが、多くの場合は一時的なものです。自己判断で治療を中断せず、医師の指示を守って根気よく治療を続けることが大切です。
アイシークリニック大宮院のご案内
アイシークリニック大宮院では、専門医による酒さの診断・治療を行っております。日本皮膚科学会のガイドラインに準拠した保険診療を基本としながら、必要に応じて自費診療の選択肢もご提案いたします。
酒さの症状でお悩みの方、「もしかして酒さかも?」と気になっている方は、お気軽にご相談ください。一人ひとりの症状や生活環境に合わせた治療プランをご提案し、症状のコントロールと生活の質の向上をサポートいたします。

よくあるご質問(Q&A)
A:酒さは慢性疾患であり、現時点で「完治」させる治療法は確立されていません。しかし、適切な治療とスキンケア、悪化因子の回避により、症状をコントロールし、良い状態を維持することは可能です。治療を継続することで、悪化の頻度や程度を抑えることが期待できます。
A:酒さとニキビは丘疹や膿疱など似た症状を示しますが、いくつかの違いがあります。ニキビでは面皰(毛穴の詰まり、コメド)がみられますが、酒さではみられません。ニキビは思春期から若年成人に好発しますが、酒さは30代以降に多いです。ニキビは皮脂の分泌が盛んなTゾーン(額・鼻・顎)にできやすいのに対し、酒さは頬や鼻全体に広がる傾向があります。
Q:市販薬で酒さは治療できますか?
A:酒さの症状に市販薬だけで対応することは困難です。特に、赤みを湿疹と勘違いしてステロイド外用薬を使用すると、かえって症状が悪化する可能性があります。顔の赤みが気になる場合は、必ず皮膚科を受診して適切な診断を受けてください。
Q:レーザー治療は痛いですか?
A:Vビームなどのレーザー治療では、輪ゴムでパチンと弾かれたような痛みを感じることがあります。最新のVビームにはレーザー照射前に冷却ガスで患部を冷やすクーリングシステムが搭載されており、痛みの軽減が図られています。痛みの感じ方には個人差がありますが、多くの方は耐えられる程度の痛みと報告されています。
Q:酒さの治療中に飲酒はできますか?
A:アルコールは血管を拡張させ、酒さの症状を悪化させる可能性があります。完全に禁酒する必要はありませんが、頻度や量を控えめにすることをおすすめします。特に症状が強い時期やレーザー治療後は、飲酒を避けた方がよいでしょう。
Q:酒さは遺伝しますか?
A:酒さには遺伝的な要因があると考えられています。酒さ患者さんの血縁者に同じく酒さの方がいる確率は、一般人口と比較して約4倍以上高いとの報告があります。ただし、関与している遺伝子は特定されておらず、環境要因も大きく影響するため、親が酒さでも必ず発症するわけではありません。
まとめ
酒さは顔の赤みや丘疹・膿疱を主症状とする慢性炎症性皮膚疾患で、適切な治療により症状をコントロールすることが可能です。原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因、免疫異常、毛包虫、血管運動神経の異常などが複合的に関与していると考えられています。
治療の基本は、悪化因子(紫外線、寒暖差、アルコール、香辛料、ストレスなど)の除去、適切なスキンケア、そして外用薬・内服薬・レーザー治療などの医学的治療の組み合わせです。2022年にメトロニダゾール外用薬(ロゼックスゲル)が酒さに対して保険適用となり、日本でも標準的な治療が受けられるようになりました。
酒さは見た目に大きな影響を与え、精神的な苦痛や社会生活への支障を引き起こすこともあります。しかし、早期に専門医を受診し、適切な治療とスキンケアを行うことで、症状のコントロールは十分に可能です。「顔の赤みが気になる」「市販薬が効かない」と感じたら、無理に我慢せず、専門医にご相談ください。
参考文献
- 日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」日本皮膚科学会雑誌, 133(3), 407-450, 2023 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/133/3/133_407/_article/-char/ja
- Mindsガイドラインライブラリ「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」 https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00827/
- 持田ヘルスケア株式会社「酒さ(しゅさ)とは?赤ら顔の症状や原因、治療方法について」 https://hc.mochida.co.jp/skincare/atopic/atopic23.html
- マルホ株式会社「酒さナビ」 https://www.maruho.co.jp/kanja/shusa/
- MSDマニュアル家庭版「酒さ」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/17-皮膚の病気/にきびと関連疾患/酒さ
- ツムラ漢方ビュー「意外と知らない”赤ら顔”「酒さ」という病気とは?」 https://www.tsumura.co.jp/kampo-view/column/kvnews/6228.html
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務