鼻の血管腫でお悩みではありませんか。「鏡を見るたびに鼻の赤みが気になる」「血管が透けて見えて化粧でも隠しきれない」「いつの間にかできた赤いできものが大きくなってきた」など、鼻周辺の血管に関するお悩みを抱えている方は少なくありません。
血管腫は良性の疾患ではありますが、顔の中心に位置する鼻に発生した場合、見た目の問題から日常生活に支障をきたすこともあります。また、一口に「血管腫」といっても、その種類や原因はさまざまで、治療法も異なります。
本記事では、大宮エリアで血管腫治療をお考えの方に向けて、鼻の血管腫に関する基礎知識から最新の治療法まで、皮膚科・形成外科の観点から詳しく解説いたします。正しい知識を身につけることで、ご自身に最適な治療法を選択する一助となれば幸いです。
目次
- 血管腫・血管奇形とは何か
- 鼻に発生する血管腫の種類と特徴
- 血管腫が発生する原因とメカニズム
- 血管腫の診断方法と検査
- 鼻の血管腫に対する治療法
- レーザー治療(Vビーム)について
- その他の治療法
- 治療の流れと費用について
- 治療後の経過とアフターケア
- よくあるご質問
- まとめ
1. 血管腫・血管奇形とは何か
血管腫の基本的な定義
血管腫とは、血管を形づくる血管内皮細胞が異常に増殖したり、血管成分が異常に集合したりすることで腫瘍や赤いあざのような病変ができる疾患の総称です。一般的には「赤あざ」と呼ばれることも多く、皮膚の表面や内部に赤みを帯びた病変として現れます。
従来、これらの血管性病変は総称して「血管腫」と呼ばれてきましたが、現在では国際血管腫・血管奇形学会(ISSVA:International Society for the Study of Vascular Anomalies)が提唱する分類に基づいて、「血管腫(脈管性腫瘍)」と「血管奇形」に大きく分けて考えるようになっています。
ISSVAによる分類と診療ガイドライン
ISSVAは1992年に専門家の学会として設立され、1996年に血管性病変の国際的な分類(ISSVA分類)を作成しました。この分類は病理学的・分子生物学的な研究の進歩に対応するため、2014年に大幅に改訂され、その後も継続的に更新されています。2025年には最新版のISSVA分類が公開されました。
日本においても、厚生労働科学研究費難治性疾患政策研究事業として「血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022」(第3版)が作成されており、ISSVA分類に準拠した診断・治療が推奨されています。
血管腫と血管奇形の違い
血管腫(脈管性腫瘍)と血管奇形は、根本的に異なる疾患です。
血管腫は、血管内皮細胞の増殖や過形成によって生じる腫瘍性病変です。細胞増殖によって大きくなり、その後縮小する経過をたどることが多いのが特徴です。代表的なものとして、乳児血管腫(いちご状血管腫)があります。
一方、血管奇形は血管の発生過程でのエラーによる病変で、血管内皮細胞の増殖による増大はありません。生まれたときから存在し、体の成長とともに大きくなりますが、自然に縮小することはありません。毛細血管奇形(単純性血管腫)、静脈奇形、動静脈奇形などが含まれます。
この区別は治療方針を決定する上で非常に重要であり、正確な診断が適切な治療につながります。従来「海綿状血管腫」と呼ばれていたものは、ISSVA分類では「静脈奇形」に該当し、腫瘍ではないとされています。
2. 鼻に発生する血管腫の種類と特徴
鼻および鼻周辺には、さまざまな種類の血管性病変が発生する可能性があります。ここでは、代表的な疾患について解説します。
毛細血管拡張症
毛細血管拡張症は、皮膚の真皮浅層(皮膚の表面に近い部分)の毛細血管が持続的に拡張し、皮膚表面から肉眼で確認できる状態です。紅斑と同様に皮膚の色が赤く変化しますが、炎症を伴わないのが特徴です。
鼻や頬に発生することが多く、いわゆる「小鼻の周りの赤み」や「赤ら顔」の原因となります。血管の太さや長さはさまざまで、赤色や青紫色を示す枝分かれのない血管の拡張として観察されます。
原因としては、遺伝的要因、加齢による皮膚の菲薄化、寒暖差、長期間のステロイド外用剤の使用、肝硬変や肝機能障害、女性ホルモンの影響などが挙げられます。自然治癒することはなく、レーザー治療が効果的です。
毛細血管奇形(単純性血管腫・ポートワイン母斑)
毛細血管奇形は、皮膚や粘膜の毛細血管が異常に拡張する疾患です。従来「単純性血管腫」や「ポートワイン母斑」と呼ばれていたものは、ISSVA分類では毛細血管奇形に分類されます。
出生時から存在することが多く、出生時は紅色であることが多いですが、成長とともに徐々に暗い赤色となり、皮膚表面の状態が変化してくることもあります。顔面正中部で眉間や上まぶた、鼻すじ、上くちびるなどにあるものは「サーモンパッチ」と呼ばれ、5歳頃までに自然に消退するものもあります。
治療としては、色素レーザーが第一選択として広く使用されています。治療開始年齢が低いほど有効率が高いとされていますが、部位によって治療効果に差があり、完全には消えない場合や治療後に再発する場合もあります。
乳児血管腫(いちご状血管腫)
乳児血管腫は、未熟な血管の細胞が増えることによる良性のできもので、乳児期において最も頻度の高いできものの一つです。女性に多く、発症率の男女差は1:3とされています。
一般的に生まれたときには病変がみられず、生後数日から2週間以内に現れます。そして、生後1〜3か月の間に急速に大きくなり、平均的には生後6か月(遅くとも1歳〜1歳半)までは病変が大きくなる時期(増殖期)となります。その後は5歳頃までは自然に退縮する傾向となり、5歳以降(平均的には7歳前後)に消失していきます。
ただし、消えた後も傷跡のような色やテクスチャーの変化が残ることが多く、整容上の問題になりやすいです。特に鼻など顔面に発生した場合は、早期の治療が推奨されています。現在では、プロプラノロール(商品名:ヘマンジオルシロップ)による内服治療が第一選択となっています。
鼻腔血管腫
鼻腔内に発生する血管腫は、良性腫瘍の一種です。症状としては鼻閉(鼻づまり)や鼻出血が主体となります。出血を起こすことも多く、難治性の鼻出血の原因になることがあります。
鼻腔内の良性腫瘍としては乳頭腫、腺腫、血管腫、軟骨腫などがあり、ほとんどが一側性(片側の鼻)に発生します。診断には内視鏡検査やCT・MRI検査が必要となり、治療は基本的に外科的摘出が第一選択です。
鼻咽腔血管線維腫
鼻咽腔血管線維腫は、思春期の男性に発生することが多い、鼻咽腔内の良性腫瘍です。男性ホルモンと関係しており、非常に血管に富んでいるのが特徴です。
症状は鼻閉塞と鼻出血で、鼻出血は大量に繰り返し起こるのが特徴です。大きくなると頭蓋内や眼窩内に進展することもあります。周りを骨や筋肉、神経などで囲まれているうえに非常に出血しやすいため、外科的手術が困難ですが、手術前に血管内塞栓術を行うことにより最小限の出血で安全に手術ができるようになります。
老人性血管腫(チェリーアンジオーマ)
老人性血管腫は、加齢に伴って発生する赤い小さな隆起で、「チェリーアンジオーマ」とも呼ばれます。鼻を含む顔面や体幹部に発生することがあり、30歳以降に出現することが多いです。
良性であり健康上の問題はありませんが、見た目が気になる場合はレーザー治療や電気焼灼などで除去することができます。
3. 血管腫が発生する原因とメカニズム
先天性の原因
血管腫の多くは生まれつきのもので、血管の発生に異常が起こることで生じると考えられています。なぜ血管の異常が起こるかについて、詳しい原因は分かっていませんが、何らかの遺伝子異常が関わっていると考えられています。
血管奇形は血管形成過程でのエラーによる病変で、胎児期に血管が作られる際に何らかの原因で異常が起こり、血管腫や血管奇形が形成されると推察されています。動静脈奇形も生まれつき血管形成に異常が生じた場合に発症しますが、原因ははっきりとわかっていません。
後天性の原因
一部の血管性病変は後天的な要因によって発生または悪化することがあります。
外傷や感染:血管奇形は妊娠や生理などのホルモンの影響や外傷、感染などの刺激で急に増大することもあります。
加齢:加齢によって皮膚が薄くなることで毛細血管が目立ってくることがあります。老人性血管腫は加齢に伴い発生頻度が増加します。
紫外線:長期間の紫外線暴露により、皮膚の毛細血管が拡張しやすくなることがあります。
ホルモンの影響:妊娠中は胎盤を作るために毛細血管が増えやすく、顔だけでなく胸や首など全身に毛細血管拡張が現れることがあります。女性ホルモン配合薬でも同様の症状が起きることがあります。
外用薬の影響:ステロイド外用薬の長期使用により、皮膚が菲薄化(薄くなる)し、毛細血管が目立つようになる「酒さ様皮膚炎」のリスクもあります。
寒暖差:気温に合わせて毛細血管は拡張・収縮を繰り返しますが、寒暖差が激しい環境にいると毛細血管が拡張したまま戻らなくなることがあります。
遺伝性疾患との関連
一部の血管性病変は遺伝性疾患の一症状として現れることがあります。
遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病)は、皮膚や粘膜の小血管の拡張を特徴とし、それによって鼻血や消化管出血を生じる常染色体顕性形式の遺伝性疾患です。診断基準として、繰り返す鼻血、多発性の毛細血管の拡張、臓器の動静脈奇形または動静脈ろう、一親等までの家族歴があり、このうち3つ以上があれば確定診断となります。
スタージ・ウェーバー症候群は、顔面に広範囲に広がる毛細血管奇形に加えて、眼病変や頭蓋内病変を伴う疾患です。
クリッペル・トレノネー症候群は、下肢に見られる混合型脈管奇形を特徴とする疾患です。
4. 血管腫の診断方法と検査
視診・触診による診察
血管腫・血管奇形の診断は、まず視診と触診による診察から始まります。医師は病変の色調、大きさ、形状、表面の性状、圧迫による退色の有無、拍動の有無などを確認します。
また、発症時期、経過(増大傾向があるか、縮小傾向があるか)、症状(痛み、出血、機能障害など)、家族歴なども重要な情報となります。これらの情報を総合して、血管腫なのか血管奇形なのか、さらにどの種類に該当するかを判断します。
超音波検査(エコー検査)
超音波検査は、被ばくの心配がなく、患者さんに安全に使用できる検査です。病変の内部構造、血流の有無、血流の状態(流速)などを評価することができます。
血管腫の診断だけでなく、病変の範囲や内部での出血の有無などの状態を知ったり、治療前後での大きさの評価にも有用です。特に静脈奇形やリンパ管奇形の評価に役立ちます。
CT検査
CT検査(コンピュータ断層撮影)は、病変の進展範囲や骨破壊の有無を評価するのに有用です。特に造影剤を用いたダイナミックCTでは、血管腫の造影パターン(造影剤が徐々に染まっていくパターン)を確認することができ、他の疾患との鑑別に役立ちます。
鼻副鼻腔の腫瘍性病変の場合、CTは腫瘍の進展範囲や栄養血管を確認するために重要な検査です。
MRI検査
MRI検査は、強力な磁石と電波を使って体の断面画像を作る検査で、血管腫の検出に優れています。T2強調画像で血管腫は非常に明るく描出されます。これは、血管腫内に水分が多く含まれているためです。
MRIは通常、血管腫と他の疾患との鑑別診断法としての位置づけが主となりますが、病変の部位や大きさ、深達度などの詳細な情報を得ることができます。造影剤を用いたダイナミックMRIでは、血管腫特有の造影パターン(辺縁部結節性濃染:peripheral nodular enhancement)を確認することができます。
血管造影検査
腫瘍への血流が多いと予想される場合や、カテーテル治療で腫瘍に栄養を送る血管への塞栓療法が予定される場合には、造影剤を用いた血管撮影が行われることがあります。特に鼻咽腔血管線維腫などの血流豊富な腫瘍では、手術前に栄養血管を塞栓するカテーテル治療が行われることがあります。
病理検査(生検)
腫瘍の種類を見極めるために、腫瘍組織の一部を採取して病理検査(生検)を行い、確定診断をすることがあります。ただし、血管腫は出血しやすいため、生検を行う際には十分な注意が必要です。
5. 鼻の血管腫に対する治療法
血管腫・血管奇形の治療法は、疾患の種類や部位、大きさ、症状などによって異なります。以下に主な治療法を解説します。
治療の基本方針
血管腫・血管奇形の治療には、侵襲的治療(体に負担を与える外科的な治療)と保存的療法(体を傷つけない内科的な治療)があります。
侵襲的治療としては、外科的治療(手術)、硬化療法、塞栓術、レーザー治療などがあります。保存的療法としては、弾性ストッキングなどによる圧迫療法、漢方、鎮痛薬などの薬物療法、カバーメイクなどがあります。最近では分子標的薬を使用した新たな薬物療法も注目されています。
治療方針は、疾患の種類、発生部位、大きさ、症状、患者さんの年齢や全身状態などを総合的に考慮して決定されます。同じ疾患名でも適応となる治療法が異なったり、複数の治療法を組み合わせて行う場合もあります。
経過観察
すべての血管腫・血管奇形が治療を必要とするわけではありません。特に乳児血管腫は、多くの場合5〜7歳までに自然に消退するため、小さく目立たない部位にあるものは経過観察で十分なこともあります。
経過観察が選択されるのは、症状がない場合、病変が小さく整容上の問題が少ない場合、治療によるリスクが効果を上回ると判断される場合などです。ただし、経過観察中も定期的な診察を受け、変化がないかを確認することが重要です。
レーザー治療
皮膚表面や比較的浅い層にある血管性病変に対しては、レーザー治療が有効です。特に色素レーザー(Vビーム)は、毛細血管拡張症、単純性血管腫(毛細血管奇形)、乳児血管腫などの治療に広く使用されています。
レーザー治療の詳細については、次章で詳しく解説します。
薬物療法
乳児血管腫に対しては、プロプラノロール(商品名:ヘマンジオルシロップ)による内服治療が第一選択となっています。プロプラノロールは元々高血圧や不整脈の治療薬として使用されていた薬剤ですが、乳児血管腫に対する有効性が偶然発見され、2016年に日本で乳児血管腫に対する保険適用が認められました。
作用機序は完全には解明されていませんが、血管収縮作用、細胞増殖抑制作用、血管新生抑制作用などが関与すると考えられています。臨床試験では、24週後に「治癒またはほぼ治癒」した割合が60〜78%と報告されており、高い有効性が示されています。
治療は生後5週以降で開始可能で、治療開始時期が早いほど効果が高いとされています。ただし、循環器系に作用する薬剤であるため、血圧低下、徐脈、低血糖などの副作用に注意が必要で、治療開始時には入院管理下で行われることが多いです。
硬化療法
硬化療法は、主に静脈奇形やリンパ管奇形に対して行われる治療法です。病変部に硬化剤(無水エタノール、ポリドカノール、オレイン酸モノエタノールアミンなど)を直接注入することで、病変部の組織を壊し、細胞のアポトーシス(細胞の自然死)を促します。
比較的低侵襲な治療とされていますが、通常は病変を完全に消失させることは難しく、複数回の治療を要することが多いです。病変部が袋状で硬化剤が留まりやすい場合にはよく効きますが、血流がある場合やびまん性の病変では効果が限定的なこともあります。
リンパ管奇形に対しては、OK-432(ピシバニール)という薬剤が硬化剤として保険適用となっています。
塞栓術
塞栓術は、カテーテルを用いて異常な血管を塞ぐ治療法です。主に動静脈奇形や血流豊富な腫瘍に対して行われます。
動静脈奇形に対しては、病変を形成する短絡路(動脈と静脈が直接つながっている部分)をなくすことが必要ですが、しばしば治療に難渋します。塞栓術単独での根治は難しく、手術と組み合わせて治療することが一般的です。
鼻咽腔血管線維腫のような血流豊富な腫瘍では、手術前に塞栓術を行うことで、手術中の出血を最小限に抑え、より安全に手術を行うことができます。
外科的治療(手術)
外科的切除は、限局性の血管腫・血管奇形に対して有効な治療法です。特に鼻腔内の良性腫瘍(血管腫を含む)に対しては、外科的摘出が第一選択となることが多いです。
近年では、経鼻内視鏡手術の発展により、多くの良性腫瘍は内視鏡下に切除できるようになりました。内視鏡手術は、鼻の外に傷がつかず、顔が腫れることもほとんどないという利点があります。
ただし、腫瘍の大きさや部位によっては、口腔切開や顔面皮膚切開からのアプローチが必要となる場合もあります。また、静脈奇形の手術では、部分切除は増大の可能性が高いため、全切除が推奨されています。
6. レーザー治療(Vビーム)について
鼻周辺の毛細血管拡張症や血管腫の治療において、レーザー治療は非常に重要な役割を果たしています。ここでは、代表的な治療機器であるVビームレーザーについて詳しく解説します。
Vビームレーザーとは
Vビームは、厚生労働省が認可した色素レーザー(パルスダイレーザー)という種類の医療機器です。1992年に国内販売が開始されて以来、改良を重ね、現在はVビームⅡやVビームプリマ(最新機種)などが使用されています。
Vビームは、波長595nmのレーザー光を照射します。この波長は血液中のヘモグロビン(赤血球に含まれる赤い成分)に最も吸収されやすいという特徴があります。ヘモグロビンがレーザー光を吸収すると熱エネルギーに変換され、この熱が血管の壁に伝わって血管がダメージを受け、破壊または閉塞されます。
一方で、595nmの波長の光は血管以外の正常な組織にはほとんど吸収されないため、正常な皮膚へのダメージが少なく、安全性の高い治療です。
Vビームで治療できる疾患
Vビームレーザーは、以下のような疾患・症状に対して効果が期待できます。
保険適用となる疾患:
- 毛細血管拡張症
- 単純性血管腫(毛細血管奇形)
- 乳児血管腫(いちご状血管腫)
保険適用外(自費診療)となる症状:
- 酒さ(しゅさ)による赤み
- 赤ら顔(美容目的)
- ニキビ跡の赤み
- 老人性血管腫
- ケロイド・肥厚性瘢痕の赤み
- 小じわ・くすみ(肌の若返り目的)
鼻周辺では特に「小鼻の赤み」「毛細血管が透けて見える状態」「鼻の周りの赤ら顔」などに対して、Vビームレーザー治療が有効です。
治療の実際
治療の流れは以下のとおりです。
- 診察・診断:医師が病変を診察し、Vビームレーザー治療の適応があるかを判断します。
- 治療:レーザーを照射します。照射時間は範囲によって異なりますが、数分〜十数分程度です。Vビームにはレーザー照射直前に寒剤(-26℃)を吹きつける冷却システムが搭載されており、痛みと熱損傷を最小限に抑えます。痛みは輪ゴムでパチンと弾かれる程度とされています。
- アフターケア:必要に応じて抗炎症外用薬を塗布します。治療当日から入浴やメイクが可能な場合が多いです。
治療後は一時的に赤みや腫れ、紫斑(内出血のような跡)が生じることがありますが、通常は数日〜2週間程度で改善します。また、治療後は日焼け止めを塗るなど紫外線対策を行うことが重要です。
治療回数と間隔
Vビームレーザー治療は、1回の治療で劇的な効果を実感することは難しく、複数回の治療が必要となることが一般的です。
保険診療の場合:3か月以上の間隔を空けて治療を行います。通常5〜10回程度の治療で効果を実感できることが多いです。
自費診療の場合:2週間〜1か月程度の間隔で治療を行うことができ、より短期間で効果を得られる可能性があります。
治療回数は、病変の種類、大きさ、深さ、部位などによって異なります。医師と相談しながら、個々の状態に合わせた治療計画を立てることが重要です。
Vビームプリマの特徴
Vビームプリマは、VビームⅡの上位機種として2020年に登場した最新のレーザー機器です。従来のVビームシリーズと比較して、以下のような特徴があります。
- 照射範囲が広い:スポットサイズが直径3mm〜最大15mmと、従来機より3mm大きくなっています。
- 治療時間の短縮:照射範囲が広いため、同じ面積に照射する時間が短くなります。
- 肌への負担軽減:治療時間短縮により、肌への負担も軽減されます。
- 深部への到達:より深い部位の血管にもアプローチが可能です。
保険適用について
Vビームレーザーによる治療は、疾患によって保険適用になる場合とならない場合があります。
保険適用となるのは、単純性血管腫、乳児血管腫、毛細血管拡張症など、皮膚疾患の治療を目的とした場合です。保険診療の費用は、照射面積によって異なります。
保険診療の費用目安(3割負担の場合):
- 10㎠以下:約6,500〜8,200円
- 50㎠以下:約14,000円
- 100㎠以下:約21,600円
- 180㎠(上限):約32,000〜33,600円
一方、酒さによる赤ら顔、ニキビ跡の赤み、小じわ・くすみの改善など、美容目的の治療は保険適用外(自費診療)となります。
なお、各保険者の指導により、Vビームによる赤み治療に対する保険適用基準は厳しくなっている傾向があります。最終的な保険適用の可否は、症状に応じて医師が判断します。
7. その他の治療法
Vビームレーザー以外にも、鼻の血管腫・血管性病変に対してはさまざまな治療法があります。
ロングパルスヤグレーザー
ロングパルスYAGレーザー(Nd:YAGレーザー)も、血管性病変の治療に使用されるレーザー機器です。波長1064nmのレーザー光を照射し、Vビームと同様にヘモグロビンに反応します。
Vビームと比較して、より深部の血管にアプローチできるという特徴がありますが、痛みがやや強いというデメリットもあります。また、毛細血管拡張症に対しては保険適用外(自費診療)となります。
代表的な機種としては、ジェントルマックスプロ(GentleMAX Pro)などがあります。紫斑(内出血)がほとんど生じないため、ダウンタイムを避けたい方に選ばれることがあります。
IPL(光治療)
IPL(Intense Pulsed Light)は、フォトフェイシャルとも呼ばれる光治療です。広い波長帯の光を照射し、メラニンやヘモグロビンに反応することで、シミ・くすみ・赤ら顔などの複合的な肌悩みにアプローチします。
レーザーと比較すると効果は穏やかですが、赤ら顔だけでなく肌全体のトーンアップにも効果があり、ダウンタイムも少ないという特徴があります。美容目的の治療となるため、自費診療です。
電気凝固・高周波治療
電気凝固や高周波治療は、電気エネルギーを用いて異常な血管を焼灼・凝固させる治療法です。小さな老人性血管腫などに対して用いられることがあります。
外用薬治療
毛細血管拡張症を伴う酒さに対しては、外用薬による治療も行われます。メトロニダゾール外用(商品名:ロゼックスゲル)は、酒さに対して保険適用のある外用薬です。炎症を抑える効果があり、赤みの改善に寄与します。
イベルメクチンクリームは、ロゼックスゲルで効果が不十分な場合に使用される外用薬です(自費診療)。
ただし、毛細血管拡張症自体に対して国内で承認された外用薬はなく、拡張した毛細血管を薬で縮小させることは困難です。そのため、毛細血管拡張症の治療にはレーザー治療が推奨されています。
内服薬治療
酒さに対しては、ドキシサイクリンなどの抗生物質の内服が行われることがあります。また、ほてりの改善を目的として各種漢方薬が処方されることもあります。
乳児血管腫に対するプロプラノロール内服治療については、前述のとおりです。
カバーメイク
治療を受けない場合や治療中の期間に、カバーメイク(コンシーラーやファンデーション)で赤みを隠すことも一つの方法です。最近では、血管腫・血管奇形専用のカバーメイク製品も販売されています。
医療機関によっては、カバーメイクの指導を行っているところもあります。
8. 治療の流れと費用について
初診から治療までの流れ
血管腫・血管奇形の治療は、以下のような流れで進められることが一般的です。
- 初診・診察:まずは皮膚科または形成外科を受診し、医師の診察を受けます。視診・触診により病変の状態を評価し、必要に応じて超音波検査などの画像検査を行います。
- 診断・治療方針の説明:病変の種類を診断し、治療の必要性、治療法の選択肢、期待される効果、リスク・副作用などについて説明を受けます。
- 治療計画の立案:治療を希望される場合は、具体的な治療計画を立てます。治療回数、間隔、費用などについて確認します。
- 治療の実施:Vビームレーザー治療の場合、小範囲であれば初診当日に治療が可能な場合もあります。広範囲の場合は予約を取って後日治療を行います。
- 経過観察:治療後は定期的に診察を受け、効果の確認と経過観察を行います。必要に応じて追加治療を行います。
保険診療の場合の費用
保険適用となる疾患(単純性血管腫、乳児血管腫、毛細血管拡張症)に対するVビームレーザー治療の費用は、以下のとおりです(3割負担の場合)。
- 10㎠以下:約6,500〜8,200円
- 50㎠以下:約14,000円
- 100㎠以下:約21,600円
- 150㎠以下:約29,100円
- 180㎠(上限):約32,000〜33,600円
これに加えて、初診料・再診料、処方箋料、薬局での薬代などが別途かかります。
なお、高校生以下のお子様の場合は、居住地によっては公費負担(医療費助成制度)により自己負担が軽減されることがあります。
自費診療の場合の費用
保険適用外の治療(美容目的の赤ら顔治療、酒さ、ニキビ跡の赤みなど)の場合は、自費診療となります。費用はクリニックによって異なりますが、一般的には1回あたり数千円〜数万円程度です。
医療費控除について
血管腫の治療費は、医療費控除の対象となる場合があります。年間の医療費が一定額を超えた場合、確定申告により所得税の還付を受けられる可能性があります。詳しくは税務署または税理士にご相談ください。
9. 治療後の経過とアフターケア
レーザー治療後の経過
Vビームレーザー治療後は、以下のような経過をたどることが一般的です。
直後:照射部位に赤みや腫れが生じます。設定によっては紫斑(内出血のような跡)が現れることもあります。
数日〜1週間:赤みや腫れは徐々に軽減します。紫斑がある場合は、1〜2週間程度で消退します。
数週間〜数か月:レーザーによって破壊された血管が吸収され、徐々に赤みが薄くなっていきます。効果が現れるまでには時間がかかることがあります。
アフターケアの注意点
治療後は以下の点に注意してください。
紫外線対策:治療後の肌は紫外線に敏感になっています。日焼け止めを塗る、帽子や日傘を使用するなど、紫外線対策を徹底してください。過度な日焼けは色素沈着の原因となります。
刺激を避ける:治療部位を強くこすったり、刺激の強い化粧品を使用したりしないでください。洗顔は泡でやさしく行いましょう。
保湿:肌が乾燥しないよう、適度な保湿を心がけてください。
入浴・メイク:通常、治療当日から入浴やメイクは可能ですが、炎症が強い場合はメイクを控えることが推奨されます。医師の指示に従ってください。
異常を感じたら受診:強い痛み、発熱、膿が出る、症状が悪化するなどの異常を感じた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
治療効果の持続と再発について
Vビームレーザー治療の効果は、一般的に長期間持続します。破壊された血管は再生しにくいためです。
ただし、毛細血管拡張症の場合、新たな毛細血管拡張が生じる可能性はあります。特に、紫外線暴露、寒暖差、ホルモン変動などの要因により、再発することがあります。生活習慣の改善や紫外線対策を継続することで、再発リスクを低減できます。
乳児血管腫の場合、プロプラノロール内服やレーザー治療により縮小した後も、完全に消失しない場合があります。残存した病変に対しては、追加のレーザー治療や外科的切除が検討されることがあります。

10. よくあるご質問
A. 鼻の赤みの原因はさまざまです。毛細血管拡張症、酒さ(しゅさ)、脂漏性皮膚炎、アレルギー性皮膚炎など、多くの疾患が鼻の赤みを引き起こします。
いわゆる「小鼻の周りの赤み」は毛細血管拡張である場合が多いですが、正確な診断のためには皮膚科専門医の診察を受けることをお勧めします。
Q2. 血管腫は放置しても大丈夫ですか?
A. 血管腫の多くは良性であり、健康上の大きな問題を引き起こすことは少ないです。ただし、以下のような場合は治療が推奨されます。
- 見た目の問題から日常生活に支障をきたしている場合
- 出血を繰り返す場合
- 痛みがある場合
- 急速に大きくなっている場合
- 機能障害(視野の妨げ、呼吸困難など)がある場合
乳児血管腫の場合、目や口、鼻の周りなど重要な部位にあるものや、大きくなる傾向が強いものは、早期治療が推奨されます。
Q3. Vビームレーザー治療は痛いですか?
A. Vビームレーザーには冷却システムが搭載されており、照射直前に冷却ガスを吹きつけることで痛みを軽減しています。痛みは「輪ゴムでパチンと弾かれる程度」と表現されることが多く、多くの方が麻酔なしで治療を受けられています。
ただし、痛みの感じ方には個人差があります。広範囲の治療や痛みに敏感な方の場合は、麻酔テープやクリームを事前に使用することで痛みを軽減できます。
Q4. 治療は何回必要ですか?
A. 治療回数は、病変の種類、大きさ、深さなどによって異なります。一般的には5〜10回程度の治療で効果を実感できることが多いですが、完全に消失するまでにさらに回数を要する場合もあります。
保険診療の場合は3か月以上の間隔を空ける必要があるため、治療期間は1年3か月〜2年5か月程度が目安となります。自費診療の場合は間隔を短くできるため、より短期間での治療が可能です。
Q5. 治療後すぐにメイクはできますか?
A. 通常、Vビームレーザー治療後はその日からメイクが可能です。ただし、炎症が強い場合や紫斑が生じている場合は、刺激の少ない製品を使用するか、メイクを控えることが推奨される場合もあります。医師の指示に従ってください。
Q6. 赤ら顔の治療は保険が使えますか?
A. 医師が「毛細血管拡張症」と診断した場合、Vビームによるレーザー治療は保険適用となります。
ただし、「酒さ」による赤ら顔や美容目的の赤み治療は、保険適用外(自費診療)となることが多いです。最終的な保険適用の可否は、症状に応じて医師が判断します。
Q7. 子どもの血管腫は治療すべきですか?
A. 乳児血管腫の場合、多くは自然に消退するため、すべてが治療対象となるわけではありません。ただし、以下のような場合は早期治療が推奨されます。
- 目、鼻、口、耳など重要な部位にあり、機能障害や将来の後遺症が懸念される場合
- 顔面の露出部にあり、整容上の問題が予想される場合
- 急速に増大している場合
- 潰瘍(ただれ)を形成している場合
- 広範囲に及ぶ場合
先天性の赤あざ(毛細血管奇形)については、乳幼児期から治療を開始することが推奨されています。乳幼児は皮膚が薄く、レーザーの深達度が良いこと、照射後の治りが早いこと、色素沈着が少ないことなどの理由からです。
Q8. 治療できない場合はありますか?
A. 以下の場合は、Vビームレーザー治療を受けられないことがあります。
- 日焼けをしている方
- 妊娠中の方、妊娠の可能性がある方
- 治療部位に強い炎症や湿疹がある方
- 光線過敏症の方
- てんかん発作の既往歴のある方
- 血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を服用中の方
事前に医師に既往歴や服用中の薬についてお伝えください。
11. まとめ
鼻の血管腫・血管性病変は、見た目の問題から患者さんのQOL(生活の質)に大きく影響することがあります。しかし、現在ではさまざまな治療法が確立されており、適切な診断と治療により改善が期待できます。
本記事のポイントを整理すると、以下のとおりです。
まず、血管腫と血管奇形は異なる疾患であり、正確な診断が適切な治療につながります。国際的なISSVA分類に基づいた診断が推奨されています。
鼻周辺に発生する血管性病変には、毛細血管拡張症、毛細血管奇形(単純性血管腫)、乳児血管腫、鼻腔血管腫などさまざまな種類があります。
治療法は疾患の種類によって異なりますが、皮膚表面の毛細血管拡張や血管腫に対しては、Vビームレーザー治療が有効です。毛細血管拡張症、単純性血管腫、乳児血管腫は保険適用で治療が可能です。
乳児血管腫に対しては、プロプラノロール内服治療が第一選択となっており、高い有効性が示されています。
治療効果を得るためには、複数回の治療が必要となることが一般的です。治療後は紫外線対策などのアフターケアも重要です。
鼻の赤みや血管腫でお悩みの方は、まずは皮膚科または形成外科専門医にご相談ください。適切な診断を受け、ご自身に最適な治療法を選択することが、改善への第一歩となります。
参考文献・情報源
- 難治性血管腫・血管奇形薬物療法研究班 情報サイト https://cure-vas.jp/
- NPO法人 日本血管腫・血管奇形患者支援の会 https://www.pava-net.com/
- 血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022(第3版) 令和2-4年度厚生労働科学研究費難治性疾患政策研究事業
- メディカルノート 血管腫 https://medicalnote.jp/diseases/血管腫
- メディカルノート 鼻咽腔血管線維腫 https://medicalnote.jp/diseases/鼻咽腔血管線維腫
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS 血管腫・血管奇形センター https://kompas.hosp.keio.ac.jp/
- 日本IVR学会 血管腫・血管奇形診療ガイドライン https://www.jsir.or.jp/about/vascular/
- マルホ株式会社 乳児血管腫情報サイト(医療関係者向け) https://www.maruho.co.jp/medical/
この記事は、一般的な医学情報を提供することを目的としており、個別の診断や治療を行うものではありません。症状が気になる方は、必ず医療機関を受診し、専門医の診察を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務