毎年冬になると訪れる大寒波は、私たちの体に大きな負担をかけます。急激な気温の低下は、血圧の変動や免疫力の低下を引き起こし、ヒートショックや低体温症、インフルエンザなどの感染症リスクを高めることが知られています。特に高齢者や持病のある方は、寒波による健康被害を受けやすいため、日頃からの体調管理が欠かせません。本記事では、大寒波の時期に気をつけたい健康リスクと、具体的な体調管理の方法について詳しく解説します。厳しい寒さを乗り越え、健康的な冬を過ごすためのポイントをぜひ参考にしてください。
❄️ 大寒波の体調管理|基本的な知識と体への影響
📚 大寒波とは何か
大寒波とは、シベリア高気圧から流れ込む非常に冷たい空気の塊が日本列島を覆い、広い範囲で気温が平年を大きく下回る現象を指します。一般的に、最低気温が氷点下となる日が続いたり、日中の最高気温も一桁台にとどまるような厳しい寒さが数日から一週間以上続く状態を大寒波と呼びます。
大寒波が発生すると、積雪や路面凍結による交通障害だけでなく、私たちの健康にも様々な影響を及ぼします。気象庁は寒波の到来を事前に予測し、低温注意報や大雪警報などを発表していますので、天気予報をこまめにチェックし、早めの備えを心がけることが大切です。
日本では例年12月から2月にかけて大寒波が訪れることが多く、特に1月下旬から2月上旬の「大寒」の時期は一年で最も寒さが厳しくなります。近年は気候変動の影響もあり、寒暖差が激しくなる傾向にあるため、体調管理にはより一層の注意が必要です。
🩸 体への基本的な影響
大寒波による急激な気温低下は、私たちの体に多方面から影響を与えます。人間の体は、外気温が変化しても体温を一定に保つ「恒常性(ホメオスタシス)」という機能を持っていますが、急激な温度変化にさらされると、この調整機能に大きな負担がかかります。
寒さにさらされると、体は熱を逃がさないように末梢血管を収縮させます。その結果、血圧が上昇しやすくなります。特に冬場は血圧が高くなりやすい傾向があり、脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが高まることが知られています。
🛡️ 免疫機能と自律神経への影響
体温が低下すると、免疫機能も低下することが分かっています。寒さにさらされて体の表面が冷えると、体はストレスを感じ、脳からステロイドホルモンや神経伝達物質が分泌されます。これによりリンパ球や免疫細胞の働きが一時的に低下し、感染症にかかりやすくなります。
人は体温を調整する際、自律神経を使って血管を収縮させたり、体を震わせて筋肉を動かしたりして熱を生み出します。寒暖差が大きい環境では、自律神経が頻繁に切り替わり続けるため、過剰に働いた結果、疲労が蓄積されやすくなります。
🔥 ヒートショック・低体温の危険性と予防対策
⚠️ ヒートショックの危険性
ヒートショックとは、急激な温度変化により血圧が大きく変動することで、失神や心筋梗塞、脳卒中などを引き起こす健康被害のことです。暖かい部屋から寒いトイレや浴室に移動したり、冷えきった浴室から熱い湯船に入ったりすると、体が急激な温度変化にさらされ、血圧が乱高下してヒートショックを起こしやすくなります。
厚生労働省の人口動態統計によると、入浴中の死亡者数は年間約19,000人にのぼるとされています。特に冬場の入浴中の事故が多く、11月から4月の冬季を中心に年間の約80%が発生しています。家庭の浴槽での溺死者数のうち、65歳以上の高齢者が約9割を占めており、高齢者は特に注意が必要です。
🛡️ ヒートショック予防法
消費者庁では、入浴時のヒートショックを防ぐための注意点として以下を挙げています。
1. 入浴前に脱衣所や浴室を暖房機器で暖めておく
暖房器具を置くか、高い位置に設置したシャワーから浴槽へお湯をはることで浴室全体を温めることができます。
2. 湯温は41℃以下にし、湯につかる時間は10分まで
熱いお湯に長時間入浴すると、高体温による意識障害が起こる恐れがあります。
3. 浴槽から急に立ち上がらない
お風呂から出た直後は血圧が急に下がることがあり、立ちくらみや転倒の原因になります。
🧊 低体温症の危険性と対策
低体温症とは、身体深部の体温(深部体温)が35℃以下に低下した状態を指します。体温が下がると体内の細胞が不活発になり、消化吸収から思考力に至るまで多くの臓器・身体機能が低下します。重症化すると意識障害を起こし、最悪の場合は死に至ることもある危険な状態です。
低体温症は雪山や極寒の屋外でのみ起こると思われがちですが、実は室内でも発生します。日本救急医学会の報告によると、低体温症で救急を受診した患者の平均年齢は70.4歳で、屋内発症と屋外発症の比率は約3:1と、屋内での発症が多数を占めています。
低体温症を予防するためには、室温を適切に保つこと(WHO推奨の18℃以上)、温度計で客観的に確認すること、適度な運動により熱を生み出す力を維持すること、温かい食事を積極的に摂ることが重要です。
🦠 感染症予防と免疫力向上対策
💉 インフルエンザ対策
冬は風邪やインフルエンザ、ノロウイルスなどの感染症が流行しやすい季節です。気温の低下と湿度の低下により、ウイルスが空気中で長時間生存しやすくなること、また屋内で過ごす時間が長くなり人同士の接触機会が増加することが、感染症が広がりやすい原因として挙げられます。
インフルエンザを予防するには、予防接種(10月中旬から12月上旬が理想的)、こまめな手洗い、アルコール消毒液による手指消毒、人混みでのマスク着用、咳エチケットの実践が重要です。
🛡️ 免疫力向上のための生活習慣
免疫力を高めるためには、以下の要素が重要です。
- 十分な休養
- バランスのとれた栄養摂取
- 質の良い睡眠
- 適度な運動
- 適切な湿度管理(50%〜60%)
空気が乾燥すると、のどの粘膜の防御機能が低下します。乾燥しやすい室内では加湿器などを使って、適切な湿度を保つことも効果的です。
🤢 ノロウイルス等の感染性胃腸炎対策
冬には、ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒も多発します。ノロウイルスは感染力がとても強く、感染すると強い吐き気や嘔吐、下痢、腹痛、微熱などの症状が現れます。
予防には、食品の十分な加熱、調理器具の消毒、手洗いの徹底(特にトイレの後、調理前)、石けんでのしっかりとした手洗いが重要です。
🍽️ 食事・睡眠・生活習慣による体調管理
🔥 体を温める食材と栄養素
大寒波の時期を健康に乗り切るためには、食事による体調管理も重要です。体を温める食材を積極的に摂り、免疫力を高める栄養素をバランスよく摂取しましょう。
体を温める食材としては、大根、にんじん、ごぼう、れんこんなどの根菜類、生姜、ねぎ、にんにく、唐辛子などの香味野菜があります。これらの食材は体の深部体温を上げる効果があり、冬の寒さ対策に適しています。
免疫力を高めるためには、タンパク質(肉、魚、卵、大豆製品)、ビタミンC(柑橘類、緑黄色野菜)、ビタミンA(緑黄色野菜)、ビタミンD(魚類、きのこ類、卵黄)などの栄養素が重要です。
😴 質の良い睡眠と休養
十分な睡眠と休養は、免疫力を維持し、自律神経のバランスを整えるために欠かせません。睡眠中には成長ホルモンが分泌され、体の修復が行われます。理想的な睡眠時間は7〜8時間程度が推奨されています。
質の良い睡眠をとるためには、毎日同じ時間に起床・就寝すること、適切な寝室環境(室温18〜20℃、湿度50〜60%)を整えること、就寝1時間前からスマートフォン・パソコンの使用を控えることが重要です。
🌀 自律神経の乱れと「冬バテ」対策
冬になると、だるさや疲れやすさ、気分の落ち込みなどを感じる方が増えます。これは「冬バテ」と呼ばれる状態で、主に寒暖差による自律神経の乱れと、日照時間の減少によるセロトニン分泌の低下が原因と考えられています。
冬バテを予防・改善するためには、朝日光を浴びる、規則正しい生活リズム、適度な運動、ぬるめの入浴(38〜40℃のお湯に15〜20分)などの対策が有効です。
🏠 室内環境と入浴時の安全対策
🌡️ 室内環境の整え方
大寒波の時期を健康に過ごすためには、室内環境を適切に整えることが重要です。厚生労働省の「e-健康づくりネット」によると、18℃以下の低い室温は血圧や睡眠の質など、健康に悪影響を及ぼす可能性があることが複数の研究で報告されています。
室温は20℃前後、湿度は50〜60%を目安に保ちましょう。特に寝室や高齢者が過ごす部屋は、18℃以上を維持することが推奨されています。リビングと脱衣所、トイレ、廊下など、部屋間の温度差が大きいとヒートショックのリスクが高まるため、できるだけ温度差を小さくしましょう。
🛁 入浴時の注意点と水分管理
入浴は体を温め、血行を促進し、リラックス効果をもたらす大切な習慣ですが、大寒波の時期は特に注意が必要です。入浴中は汗をかいて体内の水分が失われ、血液中の水分が減ると血液がドロドロになり、血栓ができやすくなって心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まります。
人の体温が最も安定するのは16〜19時頃と言われており、この時間帯に入浴するのが理想的です。いきなり浴槽に入らず、まず手や足など心臓から遠い部位からかけ湯をして、体をお湯の温度に慣らしましょう。
特に心臓病や高血圧の方は、みぞおちの下までを湯につける半身浴がおすすめです。ただし、半身浴でも長湯は血圧上昇の原因になるため、10分程度を目安にしましょう。
👴 高齢者・持病のある方の注意点と緊急時対処法
🩺 高齢者・持病別の注意点
高齢者や持病のある方は、大寒波による健康被害を受けやすいため、より一層の注意が必要です。
高齢者は体温調節機能が低下しており、「寒くないから大丈夫」と思っていても、実際には体が冷えていることがあります。室温計で客観的に確認し、家族や近所の方と連絡を取り合い、定期的に安否確認をしてもらう体制を整えることが重要です。
高血圧の方は、寒さによる血圧上昇の影響を受けやすいため、家庭血圧測定で自分の血圧パターンを把握し、急に寒い屋外に出るのを避け、マフラーや帽子、手袋などで体を保温することが大切です。
糖尿病の方は血流障害や神経障害により体温調節機能が低下し、手足の感覚が鈍くなることで低温やけどや低体温症のリスクがあります。心臓病の方は、寒さによる血管収縮と血圧上昇が心臓に大きな負担をかけるため、急激な温度変化を避け、十分な保温を心がけましょう。
🏥 体調不良時の対処と緊急時の判断
大寒波の時期に体調不良を感じたら、早めの対処が大切です。風邪症状が出たら温かくして安静にし、水分と栄養を十分に補給してください。インフルエンザが疑われる場合は、発症から48時間以内に抗インフルエンザ薬を服用すると効果が高いので、早めに医療機関を受診しましょう。
脳卒中の前兆(顔の片側がゆがむ、片側の手足に力が入らない、ろれつが回らない)や心筋梗塞の前兆(胸の締めつけられるような痛み、左腕や肩への放散痛、冷や汗)が現れたら、一刻も早く救急車を呼びましょう。
低体温症の初期症状(寒気、震え、手足の冷え)が現れたら、温かい場所に移動し、濡れた衣服を脱がせ、毛布などで体を包んで保温してください。症状が重い場合はすぐに救急車を呼びましょう。
大寒波の時期に特に注意すべき健康リスクは、ヒートショック、低体温症、インフルエンザなどの感染症、そして脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患です。急激な気温変化による血圧の変動や、免疫力の低下が主な原因となります。高齢者や持病のある方は特に注意が必要です。
WHO(世界保健機関)は、室内の最低温度として18℃以上を推奨しています。特に高齢者や持病のある方がいる場合は、20℃以上を目安に保つことが望ましいです。室温が低すぎると、血圧上昇や低体温症のリスクが高まります。温度計を設置して、客観的に室温を確認する習慣をつけましょう。
ヒートショックを予防するには、入浴前に脱衣所と浴室を暖めておくこと、湯温を41℃以下にすること、入浴時間を10分程度に抑えること、食後や飲酒後の入浴を避けること、入浴前に家族に声をかけておくことが重要です。また、浴槽から急に立ち上がらず、入浴前後に水分補給をすることも効果的です。
冬に免疫力を高めるために摂るべき栄養素は、タンパク質、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンDなどです。タンパク質は免疫細胞の材料となり、肉、魚、卵、大豆製品に多く含まれています。ビタミンDは日照時間が短い冬に不足しがちで、魚類やきのこ類から摂取できます。バランスの良い食事を心がけることが大切です。
冬バテの主な症状は、倦怠感、疲れやすさ、肩こり、頭痛、手足の冷え、睡眠トラブル、気分の落ち込みなどです。対策としては、朝起きたら日光を浴びること、規則正しい生活リズムを保つこと、適度な運動をすること、ぬるめのお湯での入浴、バランスの良い食事などが効果的です。自律神経を整える生活習慣を取り入れましょう。
📝 まとめ
大寒波の時期は、私たちの体に様々な負担がかかります。ヒートショックや低体温症、感染症、心血管疾患など、冬特有の健康リスクを正しく理解し、適切な対策を講じることが大切です。
体調管理のポイントをまとめると以下の通りです。
- 室温管理:18℃以上を保ち、部屋間の温度差を減らす
- 入浴対策:ヒートショックに注意し、湯温は41℃以下、入浴時間は10分程度
- 免疫力維持:バランスの良い食事と十分な睡眠
- 感染症予防:こまめな手洗いと適切な湿度管理
- 自律神経調整:規則正しい生活と適度な運動
特に高齢者や持病のある方は、より一層の注意が必要です。家族や周囲の方と連携し、異変があれば早めに気づける体制を整えておきましょう。体調に不安を感じたら、無理をせず早めに医療機関を受診することをおすすめします。
📚 参考文献
- 厚生労働省「令和6年度インフルエンザQ&A」
- 政府広報オンライン「インフルエンザの感染を防ぐポイント」
- 厚生労働省 e-健康づくりネット「室温と高血圧、睡眠の関係」
- 健康長寿ネット「高齢者の入浴事故 ヒートショック対策と予防」
- 済生会「高齢者が気を付けたい冬の健康管理」
- 済生会「免疫力低下のリスクも?低体温にご注意!」
- 済生会「漢方医学で冬バテ対策」
- 国立循環器病研究センター「冬場は心筋梗塞による心停止が増加」
- 厚生労働省「令和5年度 今シーズンのインフルエンザ総合対策について」
- オムロン ヘルスケア「冬の脳卒中…前ぶれを知って予防を」
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
大寒波の時期は、ヒートショックによる事故が急増します。特に高齢者の方は、寒さを感じにくくなっているため、知らず知らずのうちに体が冷えてしまい、入浴時の温度変化がより大きくなってしまいます。浴室暖房や脱衣所の暖房器具の使用は、命を守る重要な対策ですので、節約を考えずにしっかりと活用していただきたいと思います。